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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

メンタルヘルス委員会

項目 内容
発表年月 1998年12月
翻訳 赤十字語学奉仕団

概要

本文書で扱う情報について、その準備にはさまざまな注意が払われているが、メンタルヘルス委員会はいかなる誤りや脱漏に対する法的責任を負うことはできない。
本文書について、部数追加のご希望、およびご意見は下記のところまでご連絡願いたい。 メンタルヘルス委員会
PO Box 12 479
Wellington
電話 04 474 8900、ファックス 04 474 8901
email: fryan@mhc.govt.nz

ワイタンギ条約の含意

ニュージーランドの基本的文書として、ワイタンギ条約(Te Tiriti o Waitangi)を確認し、ニュージーランドの人々向け、とりわけタンガタ・フェヌア (Tangata whenua:この地の人々)向けのヘルスサービスの提供には、全ての局面でワイタンギ条約の原則が盛り込まなければならない。

第1条

第一条は、国家に対し、国家は、タンガタ・フェヌア (Tangata whenua:この地の人々)としてのイウィ(iwi:部族)、ハプ(hapu: 準部族)、およびマオリの人々と協議して共同作業を行わなければならないという義務を課しており、この目的は「優良政府」の機能と業務に関して、態度を決めたり、予想を固めたりすることができるようになることである。

公的資金とメンタルヘルスサービスに関して、マオリの人々と有意義な協議をすること、およびマオリの人々がメンタルヘルスサービスの計画作成に参加することを求めるものである。

国家の代行者として、メンタルヘルス委員会は、マオリの人々と協議した後、このように計画の改訂を行った。マオリの人々のコミュニティと組織に影響を及ぼす可能性のあることについては特に細心の注意を払った。

第2条

第2条は、マオリの人々に所有権を保証するものであり、この所有権には、テ・レオ・マオリ(Te reo Maori :マオリ語)、マオリの人々の健康、ティカンガ・マオリ(マオリの人々の知識と慣習)などの無形財も含まれる。また、タンガタ・フェヌア (Tangata whenua:この地の人々)としてのイウィ(iwi:部族)、ハプ(hapu: 準部族)、およびマオリの人々が、かれら自身の所有物、資産、資源に対して権限を有すことを確かに認めるものである。第2条は、マオリの人々自身の所有物、資産、資源を管轄するなど、「ティノ・ ランガティラタンガ(Tino rangatiratanga:民族自決)」、すなわちマオリの人々のコミュニティと組織におけるかれら自身の決定権と裁量権の原則を確立した。本条によって、国家の代行者は、マオリの人々に影響を及ぼす方針に関して、イウィ(iwi:部族)、ハプ(hapu: 準部族)、およびファナウ(whanau:拡大家族)などのマオリの人々の社会構造に従って、直接マオリの人々と交渉することが求められる。

本計画は、カウパパ・マオリ・サービスの向上のための仕様、手順、ガイドラインを通してティノ・ ランガティラタンガ(Tino rangatiratanga:民族自決)を認めるものであり、こうした仕様などによって、マオリの人々はさらに多くの機会を得ることが可能になり、マオリの人々のメンタルヘルスにおけるサービスと治療効果の向上のために、マオリの人々自身で戦略とサービスを作り上げ、実行していくことができるようになるであろう。

第3条

第3条は、マオリの人々に英国民と同様に市民権と特権を保証するものであり、これらの権利には、メンタルヘルスサービスを受ける平等の権利、および健康上同等の成果が得られる平等の権利が含まれる。また、主流のメンタルヘルスサービスのうち、マオリの人々のニーズを満たすサービスにアクセスできる平等の権利が含まれる。

本計画は、参加、アクセス、成果における平等の必要性を認め、さらに、現時点ではこれらの目的の達成には程遠いことを認めるものである。

序文

1997年12月に作業文書計画を作成し、広く配布した。

本文書は、初版の計画を基に作成しているが、多くの人々や組織からのフィードバックに応えて変更を加えたものになっている。

本文書では、サービスのレベルの書き換えを行い、また、政府の全国メンタルヘルス戦略(National Mental Health Strategy)の全面的な実施に必要な変更について述べている。

今回の版では、サービスの提供における回復アプローチの必要性が強調されている。マオリの人々のニーズを満たすことに関し、詳説する項を設け、太平洋地域の人々のニーズを取り上げた特別の項もある。精神疾患患者を抱える家族のニーズにも十分に注意を払った。

本計画は、精神疾患からの回復において、権利の尊重と平等の認識とが重要であることを強調している。

優良で、対応性のあるメンタルヘルスサービスだけが精神疾患患者の回復に役立つ必須条件ではない。等しく重要なものとして、患者の家族、友人、仕事、家庭など患者の生活に関わるその他のあらゆる面から考える必要がある。

精神疾患患者の大多数にとって、メンタルヘルスサービスとの関わりは生活のごく一部にしか及ばないものである。差別をなくし、精神疾患患者が十分に参加できる環境を創り上げることが回復にとって必須の要素となる。

メンタルヘルス委員会が歩む道のりの中間地点に達した現在、我々はこの国のメンタルサービスを向上させるには何が必要なのかを気付いた。たとえ、セクター間に最善の実施方法で差異があっても、前進に向けて基本的に何が必要であるかについては意見が一致している。

現在、我々は実施段階に来ている。ニュージーランドには、質の高い、十分に統合されたメンタルヘルスサービスを提供できる能力が備わっており、このようなサービスが実現されれば、患者は、回復のための援助を受け、尊敬され、尊厳が保たれるような扱われ方をされるのである。計画を実施するにあたり、最も必要なことは、必要な財政支援、労働力を強化するためのアプローチの体系化と調整、およびサービスのための資金供給計画に対する明確な約束である。実現させるという意志を我々全員が持つならば、変わらなければならないことが実際に変化していくであろう。

Barbara Disley
議長

エグゼクティブ・サマリー(要旨)

ニュージーランドにおけるメンタルヘルスサービスのための本修正案は、Blueprint Working Document(1997)を基にしている。本案は、政府による全国メンタルヘルス計画(Government's National Mental Health Strategy)を実行するのに必要なメンタルヘルスサービスの開発を記載するものとして、メンタルヘルス委員会(Mental Health Commission)により作成された。

  • 本案はサービス提供における回復アプローチに重点を置く。このアプローチは、サービスは消費者の能力を高め、その権利を保障し、最善の結果を得、消費者自身によるメンタルヘルスおよび福利の管理を増強し、また消費者が社会に十分に参加することを可能にするものでなければならないと述べた計画の基本方針に一致するものである。このように回復に重点を置くことは、部門全体において考え方が転換しつつあることを反映している。
  • この回復アプローチは、メンタルヘルスサービスが、サービス内やより広いコミュニティに見られる精神疾患を持つ人々への差別の是正を目的として機能することを求めるものである。
  • 本案は、要求されるサービスの質、不可欠なサービスの要素および資源のガイドラインを記述するための出発点として、精神疾患に罹患した人々のニーズを考慮した。
  • 計画は、いかなる任意の一時点においても、非常に重症の精神疾患に罹患した、人口の3%の人々に対しメンタルヘルスサービスが提供されることを求めている。このパーセンテージの決定は本来全国および地域の計画立案のためになされたものであり、地域レベルの要求にこの数字をあてはめる場合は、地域の人口とそのニーズを必ず考慮しなければならない。
  • 本案では計画に記されたパーセンテージ目標を達成するための詳細な資源ガイドラインを示す。それらは目下の最善の概算であり、より多くの情報が得られるにしたがって修正される予定である。
  • あらゆるタイプの提供者に適応するメンタルヘルスのインフラストラクチャーあるいはシステムをデザインすることは困難な作業である。メンタルヘルスサービスにとって、それを利用する人々のニーズに可能な限り最善の方法で応えるためには、革新的なサービスの提供が極めて重要である。メンタルヘルス部門で働く人々が、新しくより良いサービスの提供方法に常に注目するよう促す環境作りを進めるべきである。
  • 身体衛生かメンタルヘルスか、また他部門が提供するサービスかに拘らず、サービスのユーザーがあるサービスから他のサービスへ容易に移行できることが必要である。
  • マオリ族の人々にとって精神疾患が現在第一の健康問題であるため、本案はマオリ族のメンタルヘルスニーズへの対応を特に強調している。マオリ族のための効果的なサービスの開発が優先されなければならない。本案ではマオリ族向けのサービスのために新セクションを設けている。
  • 本案では太平洋地域の人々のためのメンタルヘルスサービスにも特に考慮している。委員会は、太平洋地域の消費者の生活の質の改善を達成する最善の方法として、太平洋地域の人々のためのサービスの享受資格と提供を拡大することを支持している。
  • 継続的ケアプログラムの一環として家族のための援助を提供した場合、有意によい結果が得られる。疾病を持つ人に最も近い人々の知識と経験を活用すれば、サービスはより効果的になると思われる。
  • メンタルヘルスセクターにおけるサービス提供には改善が見られるが、さらに解決すべきニーズが存在する。適切に機能する部門をめざす本案は、今後進むべき方向についての委員会の意向である。

目次

1.はじめに
1.1 本計画の目的
1.2 回復へのアプローチ
1.3 メンタルヘルス委員会の役割
1.4 政府のメンタルヘルスに関する戦略
1.5 本計画の領域と役割
1.6 モニタリング

2.ニーズと対象者
2.1 ニーズが合うと良い結果が生まれる
2.2 精神疾患にかかる経済的コスト
2.3 精神疾患の有病率と健康問題

2.4 重篤な精神疾患罹患者におけるニーズグループ
2.4.1 成人
2.4.2 家族
2.4.3 子どもと青少年
2.4.4 高齢者
2.4.5 マオリの人々
2.4.6 太平洋地域の人々
2.4.7 司法精神医学的サービスを利用している人々
2.4.8 異文化および社会グループ

2.5 地域社会全体のニーズ

3.ニーズをどのように満たすか
3.1 メンタルヘルスサービスの理念と価値
3.2 指針

3.3 回復の実現のために
3.3.1 回復とは?
3.3.2 メンタルヘルスサービスと回復

3.4 差別
3.4.1 差別は回復の障壁
3.4.2 メンタルヘルスサービスと差別

3.5 全国メンタルヘルス基準

3.6 サービスの質の改善のためのサービス提供者の責務

4.誰がニーズに応えるのか
4.1 責任は全ての人、全てのセクターが担う
4.2 公衆衛生サービスの担う責務
4.3 一次医療サービスの担う責務
4.4 メンタルヘルスサービスの担う責務

5.基本的なサービス・コンポーネント
5.1 サービスへのアクセスの目標値
5.1.1 保健省のアクセス基準
5.1.2 メンタルヘルス委員会のサービス・コンポーネントとリソース・ガイドライン
5.1.3 年齢層別のサービスに対するニーズ
5.1.4 地域ごとの革新的なソリューション
5.1.5 本計画におけるサービス・コンポーネントとリソース・ガイドライン

5.2 成人へのサービス
5.2.1 急性発症または危機的状態の人々のためのサービス
5.2.2 症状が重度または再発している、および短期的だが重大なメンタルヘルスの問 題を抱えている人々へのサービス
5.2.3 重度の持続的メンタルヘルス問題を抱え、障害支援ニーズのある人々へのサービス
5.2.4 アルコールおよびドラッグ中毒者へのサービス
5.2.5 リソース・ガイドライン

5.3 青少年へのサービス
5.3.1 サービス・コンポーネント
5.3.2 子どもへのリソース・ガイドライン
5.3.3 青少年へのリソース・ガイドライン

5.4 高齢者へのサービス
5.4.1 サービス・コンポーネント
5.4.2 リソース・ガイドライン

5.5 司法精神医学的サービス
5.5.1 サービス・コンポーネント
5.5.2 リソース・ガイドライン

5.6 精神疾患に対する予防
5.6.1 サービス・コンポーネント
5.6.2 リソース・ガイドライン

5.7 全ての年齢層へのリソース・ガイドラインの概要
5.8 マオリの人々へのサービス
5.9 太平洋地域の人々へのサービス

5.10 サービスを安全に提供するために
5.10.1 危害の危険性
5.10.2 安全なサービス管理
5.10.3 危害の危険性を減らすための医療の責務
5.10.4 人々の保護と個人情報の共有

6.マオリの人々へのサービス
6.1 はじめに

6.2 重要課題
6.2.1 メンタルヘルスに関するサービスの不足と増え続ける不安
6.2.2 アクセス
6.2.3 マオリ文化に効果的なサービス
6.2.4 財政支援および契約上の制約
6.2.5 労働力の開発
6.2.6 不適切なパフォーマンス評価
6.2.7 差別と回復

6.3 基本的なサービス・コンポーネント
6.3.1 マオリの人々のニーズを満たす
6.3.2 主流のサービス
6.3.3 カウパパ・マオリ・サービス
6.3.4 マオリ・アドボカシーとサポートサービス
6.3.5 早期の介入
6.3.6 公衆衛生サービス
6.3.7 精神疾患、アルコール問題および薬物問題をかかえるマオリの人々へのサービス
6.3.8 司法精神医学的サービス
6.3.9 子どもと青少年
6.3.10 マオリの人々のメンタル・ヘルス・サービス分野での労働力

6.4 原則を行動に移す

7.太平洋地域の人々へのサービス
7.1 理念
7.2 太平洋地域の人々に対する最優先事項
7.2.1 労働力の開発
7.2.2 太平洋地域の人々にとって有効なサービス・デリバリー・モデル
7.2.3 文化的に適切な監査方法
7.2.4 調査
7.2.5 差別と回復
7.2.6 サービスの提供
7.2.7 評価とモニタリング

8.包括的かつ連続的なサービスの提供
8.1 サービスへの適切でタイムリーな道筋
8.2 地方でのサービスの提供
8.3 地方の人々へのサービスプランニング

9.インフラの整備
9.1 調整の必要性
9.2 個人に対する調整
9.3 サービス提供機関同士の調整
9.4 セクター間の調整

9.5 メンタルヘルス分野での労働力
9.5.1 メンタルヘルス分野での労働力の開発
9.5.2 メンタル・ヘルスにおける認定制度(支援業務)
9.5.3 資金提供者の役割
9.5.4 健康に関するサービス提供者
9.5.5 加速するマオリの人々の労働力の開発
9.5.6 太平洋地域の人々の労働力
9.5.7 精神疾患を経験した人たちの労働力
9.5.8 労働力、回復、差別

9.6 サービスの効果に対する評価、モニタリング

9.7 メンタルヘルスに関する情報

付録ⅰ
精神疾患罹患者が平等と尊敬と権利を得るために

付録ⅱ
マオリの人々のメンタルヘルスの原則を行動に移すためのマトリックス

付録ⅲ
全国メンタルヘルス基準の実行

付録ⅳ
年齢層別のリソース・ガイドラインの概要

付録ⅴ
インプット・リソース・ガイドラインの開発

付録ⅵ
用語集

付録ⅶ
寄稿者

奥付

発行者 メンタルヘルス委員会
Willington、1998年
ISBN: 0-478-11357-9

表紙絵
Remana Hobman, Pablos Art Studios, Wellington
表紙デザイン
Jamie Boynton, Putahi Associates Ltd, Wellington