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愛知県心身障害者コロニー

発達障害研究所年報 No.3

第25号

6.形態学部

研究の概況

佐賀信介

 当部門では形態学的アプローチを軸に、分子生物学、生化学、細胞生物学、電気生理学など多様な研究手法を駆使して、発達障害の原因解明のための研究を進めている。また、コロニー中央病院などの症例について病理診断や病理解剖を担当し、臨床病理学的研究を合わせ行っている。
 第一研究室の成瀬、慶野らは、遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)胎仔においてGli3が責任遺伝子であることを解明し、GLI3を責任遺伝子とするヒトGCPSとPdn/Pdnマウスが相同疾患と考え、Pdn/Pdnマウスの発症メカニズムをヒトGCPS患者の発症メカニズムに外挿することを試みてきた。また、GCPSを疑われた患者のサザンブロット解析、RT-PCR解析をひきつづき行った。谷口らは、新たな遺伝子疾患動物を作ることを目的として、神経回路形成に重要な役割を持つgrowth cone伸展を抑制するcollapsinのマウス遺伝子のクローニングを行った。この遺伝子をジーンターゲティング法を用いて破壊し、この遺伝子欠損マウスを作製し、その異常の解析をひきつづき行っている。
 第二研究室の佐野、北島は、ニューロトロフィンファミリー(NGF,BDNF,NT-3)の作用に関する研究を継続し行った。ニューロトロフィンによる幼鶏後根神経節の培養神経細胞からの神経突起の再形成について調べ、この過程にタンパク質合成が必須ではないことを明らかにした。またこの神経細胞にはそれぞれのニューロトロフィンに対する受容体の存在が知られているが、複数のニューロトロフィンに反応して神経突起が伸展する可能性を認めた。NGFによるPC12細胞からの神経突起誘導においては、MAPキナーゼシグナル伝達系が主要な役割を果たすことが報告されているが、当研究室で樹立したPC12CD細胞では、このシグナル伝達を特異的阻害剤PD98059により遮断しても、NGFによる神経突起誘導は阻害されず、その前半にはMAPキナーゼ系、RNA、タンパク質の合成が必要だが、後半の過程ではこれらを要しないことが想定された。さらに、NGFシグナル伝達に介在するrasタンパク質の不活性型、および活性型遺伝子をPC12CD細胞へ導入することに成功し、NGFの効果を抑制あるいは模倣することが出来た。これらの細胞株は、今後の研究に有用なシステムを提供できるものと思われる。大島らは、ヒトの てんかんにみられる年齢依存性の発作形成のモデルとして、遺伝性てんかんモデル動物スナネズミの発作好発系統を確立、発作形成機構について検討を続けてきたが、今年度は大脳皮質から、発作形成初期に誘発される挙動に関わる部位までの経路について解析を進めた。また、東京都精神研、村島博士から発作抵抗系統のスナネズミの恵与をうけ、比較検討している。スナネズミ脳に存在する発作誘発因子P70に類似したタンパク質の解析も進めている。
 第三研究室の長浜、共同研究科の続木は昨年度に引き続き、生理学研究所との共同研究で、ヒトHirschsprung病の疾患モデル動物である先天性aganglionosisラットの壁外性神経の標的と考えられた細胞の形態学的特徴を電顕的に解析した。粘膜固有層で神経終末がclose contactする腸上皮下fibroblast様細胞は基底膜を欠き、粗面小胞体・ミトコンドリアに富み、同細胞間にgap junctionの形成を認めること、筋層内で神経終末かclose contactするfibroblast様細胞も基底膜を欠き、粗面小胞体・ミトコンドリアに富むが、長い突起を認めること、さらに、長く延びたfibroblast様細胞の突起と周囲の平滑筋細胞との間にpeg and socket構造やadherens type junctionなどの平滑筋と関連する構造が認められることや、直接に神経終末がclose contactする平滑筋細胞ではこの神経終末の対面にsubsurface cisternが認められたことなどを明らかにした。従って先天性aganglionosisラット結腸の壁外性神経終末は平滑筋細胞自身もしくは平滑筋細胞に強い連関構造を持つ筋層内のfibroblast様細胞にclose contactして平滑筋に対して作用を及ぼすと考えられた。又、壁外性神経終末は、そのお互い同士がgap junctionで結ばれた上皮下fibroblast様細胞に対しても作用を及ぼし、上皮下fibroblast様細胞のネットワークに拡がるものと考えられた。佐賀、佐藤、柏井、慶野、共同研究科の河村は細胞内における蛋白質の高次構造形成に重要な働きをしている分子シャペロンや蛋白質のS-S結合形成を促進する酵素であるPDI family proteins(PDI,ERp72,ERp61)について研究を進めて来た。PDI family proteinsの各酵素の基質に対する作用の違いを調べるため、ラット肝よりそれぞれの大量精製を行い、市販品より活性の高い標品を得ることが出来た。今後、得られた標品を用いてPD1 family間の機能比較を行うことを予定している。また、ERp72とERp61の機能、特にペプチド結合能に関与するdomainを解析するため、各々のcDNAやdeletion mutants cDNAを発現ベクターに組込みE.coliで発現させる系を作成してきた。発生期におけるPDI family proteinsの発現を胎生10日から16日のマウス胎仔について、免疫組織学的に調べた結果、既に10日には各酵素とも広範な組織に発現していたが、発生とともにそれぞれの酵素の発現が特定の組織に強くなり、既に報告した成体における各酵素の分布に類似してくることを認めた。佐藤、佐賀は京都大学胸部疾患研究所との共同研究で、コラーゲンに特異的な分子シャペロンであるHSP47の機能解析を進めた。この他に、佐賀、柏井は愛知がんセンターとの共同研究で、I型コラーゲンに特異的に結合するSerpin superfamily蛋白質caspin(collagen associated serpin)の性質と機能の解明を進め、培養ヒト繊維芽細胞の無血清培地よりヒトcaspinを精製し、単クロン抗体の作成を試みた。マウスcaspinの精製条件と同様な条件で、分子量約46kDaの蛋白質が精製され、この蛋白質がI型collagenに特異的に結合することも示された。精製蛋白をマウスに免疫したが、現在のところ十分な抗体価が得られていない。
 平成8年4月1日付で佐藤が第三研究室研究員として採用された。また、第一研究室室長の成瀬は9月末で京都大学医学部標本管理センター助教授へ転任した。さらに、部長の佐賀は平成9年3月末で愛知医科大学病理学第二講座教授へ転任した。

遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)とヒトGreig cephalopolysyndactyly syndromeは相同疾患

成瀬一郎、慶野裕美、山田裕一1、石切山敏2

 ある先天異常の責任遺伝子が見つかったとしても、その責任遺伝子によってどうしてそのような表現型が表されるのかは調べることができない。そこで、相同疾患動物を用いてその発症メカニズムを調べ、これを人の疾患の発症メカニズムに外挿するのが、これからの先天異常学のストラテジーと考えている。
 遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)胎仔ではGli3遺伝子発現が極端に抑制されていたことから、その責任遺伝子がGli3であることが判明してきた。PdnはXtのアレルと考えられるので、Gli3はヒト7番染色体の短腕と相同な部域といわれているマウス染色体13A2-3上にあると考えられる。ヒト染色体7p13上にはGCPS(Greig cephalopolysyndactyly syndrome)がマップされており、その責任遺伝子はGLI3である。GCPSとPdn/Pdnの表現型には特異的な顔貌、多合肢症、水頭症等多くの相似点を持つ。Gli3およびGLI3遺伝子は、DNAレベルで69%、アミノ酸レベルで82%のホモロジーを持つ。責任遺伝子のホモロジー、責任遺伝子の染色体上の位置の一致、表現型の相似の3点からPdn/PdnはGCPSのマウス相同疾患と考えられるのでPdn/Pdnの発症メカニズムをヒトのGCPS患者の発症メカニズムに外挿できるのではないかと考えている。
 一方、千葉県こども病院でみつかったGCPSと思われる患者のgenomic DNAをサザンブロット解析したが、コントロールと差がみられなかった。また上流域およびzinc finger motifを含む領域を挟むようにプライマーを作りRT-PCRを行ったがこれらの領域に大きなdeletionやinsertionがないことがわかった。以上のことから、この患者がGCPSであるかどうかの遺伝的証拠はまだ得られていない。

 1遺伝学部、2千葉県こども病院

神経回路形成過程におけるcollapsin-1の役割

谷口雅彦、成瀬一郎、佐賀信介、八木 健1

 複雑な脳神経系において機能的な神経回路を形成するためには、神経軸索の正確な標的への投射が必須である。この正確な軸索投射においては、軸索先端の成長円錐が重要な役割をしている。ニワトリDRGにおける成長円錐伸展抑制分子としてcollapsin-1が同定された。現在までにcollapsin-1は神経培養系の実験により、成長円錐の抑制性ガイド因子であることが示唆されている。しかし、生体内でcollapsin-1がどの神経回路形成過程に関わり、その神経回路がどの様な脳機能に関連しているのかについてはわかっていない。そこで我々は、collapsin-1欠損マウスを作製することにより、生体内でのcollapsin-1の神経回路形成過程での役割を明らかにし、その神経回路形成異常の脳機能への役割についての検討を試みた。
 collapsin-1欠損マウスは遺伝的背景がICRとC57BL/6である2種類を得た。ICR系の欠損マウスについては、多くは生後すぐに死亡した。このマウスの死亡原因について検討したところ心内膜床欠損症が認められた。一方、C57BL/6系のcollapsin-1欠損マウスは大部分が成長し、心臓の異常は認められなかった。このように、遺伝的背景により、生存率と心臓の異常に差が認められた。しかし、ICR系欠損マウスの成体でも心内膜床欠損症は認められるので、心内膜床欠損症は死亡原因の一つかも知れないが、それだけが原因ではないと考えられる。生き残るcollapsin-1欠損マウスは交配可能である。また、collapsin-1は軸索のガイド因子と考えられているので、collapsin-1欠損マウス胚をニューロフィラメント抗体で染色してみた。その結果、いくつかの神経回路形成の異常が明らかとなった。

 1岡崎生理研・高次神経

神経成長因子(NGF)による神経突起伸展誘導および細胞生存維持作用を支持するシグナル伝達とMAPキナーゼカスケード

佐野 護、北島哲子

 NGFの作用メカニズムについて、そのシグナル伝達の幹線は、Ras Raf MAPキナーゼのながれである事が指摘され、NGFによる神経突起伸展誘導作用はその活性化にもとづくと多くの研究者が確信する状態となっている。しかし、我々は、NGFによる神経突起の誘導のMAPキナーゼ活性化説に異を唱えてきた。最近MAPキナーゼの活性化を起こす酵素MEKの阻害剤PD98059が報告された。この薬剤は、PC12細胞のNGFによる神経突起誘導を阻害する事実が発表されている。ところが、我々が樹立したPC12D細胞では、PD98059により、MAPキナーゼを阻害した条件のもとで、NGFによる神経突起誘導は変わりなく起こすことができたのである。NGFによるMAPキナーゼの活性化は、50μMで、90%阻害された。阻害剤で処理した時、MAPキナーゼの活性化が起こらない事実を、ウエスターンブロットによる、リン酸化型MAPキナーゼの検出、およびMAPキナーゼのチロシンリン酸化の程度により同定できた。またPC12D細胞をNGF処理すると4、5分のうちに細胞周囲にラッフルの形成が見られるが、この形態変化の誘導についても、MEK阻害剤は、全く影響がなかった。最近、Klinzら(1996)は、ニワトリ交感神経のNGFによる突起 伸展誘導が、PD98059によって阻害されない研究結果を報告している。PC12細胞とPC12D細胞および交感神経などの神経突起誘導メカニズムの違いを次のように解釈した。PC12細胞では、NGFによって進行する細胞分化の第一の過程と、神経突起誘導の第二過程が連続的に起こる。MAPキナーゼシグナル伝達系と遺伝子制御は、第一過程に必要とされ、PC12D細胞や培養交感神経細胞では、第一過程が既に終了していると考えられる。NGFは神経細胞生存作用があり、無血清培地でPC12D細胞が死ぬことを抑制する作用があるが、MAPキナーゼの活性化をPD98059によって阻害しても、この生存維持作用は観察できた。NGFの神経細胞生存維持効果についても、MAPキナーゼシグナル伝達系は、主要な役目を負っていないと考えられる。

ニワトリ胚せき髄後根神経節初代培養神経細胞からの神経栄養因子(NT)依存性神経突起誘導

北島哲子、佐野 護

 ニワトリ胚後根神経節から神経成長因子(NGF)によって誘導される神経突起の再生は、RNA合成阻害剤の影響は受けないが、タンパク合成阻害剤により阻害されることが認められている。副腎髄質褐色細胞腫由来株細胞PC12細胞のNGFによる突起伸展誘導は、RNA合成が要求されるが、NGFで前処理されたPC12細胞の場合は、RNA合成は必要ではないが、やはりタンパク合成が要求されると報告されている。今回後根神経節培養神経細胞からの神経突起誘導について、NGF、脳由来神経栄養因子(BDNF)、NT3の効果とそのタンパク合成依存性の有無について検討した。
 ニワトリ4~8日胚後根神経節のトリプシン処理で得た培養神経細胞は、NGF,BDNF,NT3のいずれのシグナル刺激を受けても対照に比べて長い神経突起の伸展が誘導された。この誘導はタンパク合成阻害剤シクロヘキシミド存在の状態で短時間でも起こり、同条件で[35S]アミノ酸の取り込みが99%阻害されていることより、NTによる神経突起の誘導過程には、新たなタンパクの合成が必要でないことを示した。3種類のNTのいずれかを添加して長い神経突起を伸ばした細胞の各割合の総和が1以上であることと、NTと24時間培養後、異なったNTと置き換えても神経突起の維持と伸展が確認されたことから、1つの細胞が複数のNTに反応している可能性が推察された。後根神経節神経細胞には、それぞれ固有のNT受容体TrkA、TrkB、TrkCを有する細胞が存在するとの報告があるが、一方、発生に伴い変化する可能性も指摘されている。求心性線維と遠心性線維の存在、投射する組織による特異性、発生時期による変化などまだ複雑な要因が関わっていると想像される。

PC12D細胞への変異型ras遺伝子導入による神経成長因子(NGF)依存性神経突起誘導への影響

北島哲子、武藤宣博1、佐野 護

 PC12細胞を用いた研究から、神経成長因子(NGF)が神経細胞分化を誘導する過程は、NGF受容体のチロシンリン酸化を介して、Rasタンパクが活性型に変換し、これがキナーゼRafを活性型にする。活性型RafはMEKをリン酸化し活性化する。活性型MEKは、MAPキナーゼ(ERK)をリン酸化し活性型にする。活性型ERKは核内に移行して遺伝子の発現調節を行い、細胞を分化へと導くと考えられている。我々の樹立したPC12D細胞は、NGF処理により、数時間で長い神経突起が誘導される。この突起伸展には、MAPキナーゼの活性化も、タンパク合成も必要とされないことを確認した。
 今回、抑制型変異Rasをコードするプラスミド(ハーバード大、クーパー教授より)と亢進型変異Rasをコードするプラスミド(東工大、上代教授より)をリン酸カルシウム法と、エレクトロポレーション法を用いて、PC12D細胞に遺伝子導入を7回行い、ネオマイシン耐性になったクローン142株を得た。抑制型ras導入細胞のうちプロモーター誘導によって最も顕著に発現のスイッチが働く2株(A14、C2-43)を選び出した。細胞内のRasタンパクはウエスタンブロット法によりプロモーター処理の時間に依存した増加が確認された。この株は、NGF刺激で数時間後から突起を伸展するが、あらかじめデキサメサゾンによる抑制型Rasの発現誘導を行なうと24時間後にNGF刺激を与えても突起誘導が起こらない。抑制型変異RasがRas結合タンパクの機能を阻害し、NGFシグナルの伝達が阻害され、突起誘導が進行しないと考えられる。一方、亢進型ras導入株は、プロモーターのカドミウム処理で、NGF非存在的に突起が誘導された。これらのことからNGFシグナルによる神経突起の伸展にはRasタンパクの活性化を経なければならないことが示された。PC12D細胞のNGFによる神経突起誘導がMAPキナーゼ活性化を必要と しない事実と考え合わせると、Rasから突起誘導への新たなシグナル機構を考えなくてはならない。今後これらの遺伝子導入株を用いて突起形成のシグナル伝達のメカニズムを明らかにしたい。

 1遺伝学

スナネズミの発作形成過程に関する仮説の検討

大島章子、河村則子1、青井隆行1、伊藤宗之2

 スナネズミは、てんかんの遺伝性モデル動物のひとつで、発作時には大脳皮質に発作波がみられる。当研究所で確立した発作好発系統の個体は生後約2ケ月弱から床がえの刺激で軽いミオクローヌス様発作を示し、やがて同様の刺激で全身発作をひきおこすようになる。この発作形成には、遺伝素因の存在下に外部刺激が繰り返し加えられる過程があるという仮説をたて、外部刺激である床がえ時の前庭刺激に対する大脳皮質の反応と反応部位の位置、更にその反応部位と、発作形成初期に誘発される耳介の動きに関わると考えられる大脳皮質部位との位置的関係について検討してきた。今年度は、大脳皮質の出力からその耳介の動きまでの経路を調べる目的で、はじめに耳介の動きに関わると考えられる後部耳介筋に分布する神経を解剖学的に調べた。スナネズミをネンブタール麻酔後、灌流固定、その頭部をぎ酸で脱灰し、作成した連続パラフィン切片をKB法で染色した。後部耳介筋を支配する顔面神経は、脳幹から出て前庭神経に隣接して伸びた後、後方へ進み、耳介の後で下に折れ曲がりさらに下方に進むが、その途中で後部耳介筋に向かう枝をだしていた。この分枝の部位は、前に述べた大脳皮質部 位を電気刺激すると電気的に反応した。また、HRPを注入すると顔面神経核に反応陽性細胞が認められた。
 この耳介の動きの、発作形成への関与を検討する目的で、東京都精神研の村島博士よりスナネズミの発作抵抗系統の恵与をうけた。この系統の個体は、当研究所で用いた発作誘発条件でも、発作抵抗系統の確立に用いられた条件でも、発作好発系統でみられる一連の発作行動からなる発作は誘発されなかった。さらに発作好発系統でみられる刺激後の耳介の動きもみられなかった。その差の原因解明のため、発作抵抗系統のスナネズミの頭部の構造と電気生理学的性質を調べ、発作好発系統のそれらと、比較検討する予定である。

 1共同研究科、2生理学

スナネズミ大脳皮質のP70様タンパク質

大島章子、加藤美幸1、大石正道2、一ノ瀬幸代3、大森 彬3、吉田浩二4、前田忠計2、唐沢延幸5、永津郁子5、小野塚実6

 ラットの大脳皮質にコバルト粉末をおくことにより形成されるてんかん様発作の焦点には、発作出現に先行して分子量約7万のタンパク質(P70)が出現する。このP70は、イオンチャンネルを修飾する発作誘発因子のひとつと考えられている(小野塚ら、1990)。
 われわれはP70に対する抗体を用い、前記スナネズミ脳に同様のタンパク質が存在するかどうかを検索し、見出された抗体反応陽性物質について検討を続けている。今年度は運動野、体性感覚野を含む大脳皮質を材料とし、二次元のゲル電気泳動を行ない、得られた抗P70抗体反応陽性スポットをGP70と命名した(大石、一ノ瀬、大森、前田、加藤)。
 GP70がアルブミンに類似したタンパク質と考えられたため、先にスナネズミ肝臓のアルブミンのアミノ酸配列を、RT-PCRを用いた分子生物学的手法により求めた(吉田)。現在、脳での解析を行なっている。
 このタンパク質の大脳皮質での局在を免疫電顕法で調べると、幼若時には神経細胞の核内およびゴルジ装置に存在していた(唐沢、永津)。一方、成獣の運動野、体性感覚野の錐体細胞では、免疫反応陽性物質が細胞質中に塊状に存在するようになる。共焦点レーザー顕微鏡で詞べるとその一部は細胞の周縁部に存在した。共焦点レーザー顕微鏡に関しては、愛知学院大、前田先生およびカールツアイス株式会社の好意をうけた。

 上記二つの研究は文部省科学研究費(No.07640917)の援助を得た。
 1共同研究科、2北里大、3三菱化学生命研、4近畿大、5篠田保衛大、6岐阜大

先天性aganglionosisラット結腸における壁外性神経終末の標的細胞

長浜眞人、続木雅子1、尾崎 毅2

 筏井らによって発見された先天性aganglionosisラットは、下部消化管の神経節細胞の欠如により蠕動運動失調をきたすヒトHirschsprung病(先天性巨大結腸症)の疾患モデル動物である。このミュータント腸管の下部消化管では、神経節細胞および筋層間・粘膜下神経叢が欠如し、その肛門側に多数の壁外性のものと考えられる神経線維が筋層・粘膜下・粘膜固有層に認められた。以前に壁外性神経の筋層および粘膜下組織内での標的細胞ないし器官の特定を行い、これらの神経終末の標的とする細胞・組織は一定の限られたものであると以前に報告した。さらに標的と考えられた細胞の形態学的特徴を電顕的に解析し、これらの壁外性神経線維の機能を明らかにするため、ミュータント下部腸管の筋層・粘膜下層・粘膜筋板・粘膜固有層の各層を検索した。粘膜固有層で神経終末がclose contactする腸上皮下fibroblast様細胞は基底膜を欠き、粗面小胞体・ミトコンドリアに富み、細胞表面にはcaveoleが多く存在し、時に線毛が認められた。さらに腸上皮下fibroblast様細胞どうしの間にgap junctionの形成が認められた。筋層内で神経終末がclose contactするfibroblast様細胞も基底膜を欠き、粗面小胞体・ミトコンドリアに富み、長い突起を認めた。長く延びたfibroblast様細胞の突起と周囲の平滑筋細胞との間にpeg and socket構造やadherens type junctionなどの平滑筋と連関する構造を認めた。直接に神経終末がclose contactする平滑筋細胞では、この神経終末の対面にsubsurface cisternが認められた。従って先天性aganglionosisラット結腸の壁外性神経終末は平滑筋細胞自身もしくは平滑筋細胞に強い連関構造を持つ筋層内のfibroblast様細胞にclose contactして平滑筋に対して作用を及ぼすと考えられた。また、壁外性神経終末はお互い同士がgap junctionで結ばれた上皮下fibroblast様細胞に対しても作用を及ぼし、上皮下fibroblast様細胞のネットワークに拡がるものと考えられた。

 1共同研究科、2岡崎生理研

ヒト線維芽細胞からのcaspinの精製

佐賀信介、柏井明子、小崎健一1

 Serpin superfamily(serine protease inhibitor superfamily)に属するcaspin(collagen associated serpin)は、マウス結腸癌細胞colon26の培養上清から見いだされたもので、I型コラーゲン分子に対して強い結合性を示す分子量45kDaの蛋白質である。caspinはcolon26の高転移亜株に比べて低転移亜株で優位に分泌されており、その発現や機能と転移と関連が強く示唆されている。一方、caspinのcDNAクローニングから得られた予想アミノ酸配列は神経分化因子として報告されているヒトpigment epithelium-derived factor(PEDF)と高いホモロジーを示している。今回、ヒト由来の各種培養細胞株におけるcaspin蛋白質の発現をみる目的で、ヒト線維芽細胞、ヒト大腸癌細胞株HT29、ヒト肺癌細胞株Calu-1、ヒト骨肉腫細胞株MG63、ヒト胃癌細胞株MKN45、ヒト線維芽肉腫細胞株HT1080,Hela細胞、ヒト前骨髄性白血病株HL60、ヒト単球性白血病株U937の無血清培養上清中のcaspinの有無について、0.05%Brij35存在下で、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型コラーゲン、Ⅰ型ゼラチンを固相化したSepharose4Bへの結合能を検討した。その結果、壁付着性のある細胞株の培養上清には量に過多はあるがⅠ型コラーゲンSepharose4Bへの結合する分子量約46kDaの蛋白質の存在が確認された。浮遊細胞型のHL60、U937ではこの分子量の蛋白質のⅠ型コラーゲンヘの結合は認めなかった。ヒト線維維芽細胞の無血清培地中にcaspinが最も多く含まれていたので、この細胞の3日間の無血清培養上清1,500mlより、マウスcaspinの精製条件と全く同じ条件(DEAEcellulose、MonoQ、Zinc-chelating Sepharose、Superdex200HR)で精製を試みたところ、分子量約46kDaの蛋白質がSDS-PAGEで単一バンドとして精製された。精製された蛋白質がⅠ型collagenに特異的に結合し、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型コラーゲンヘは殆ど結合しないことやⅠ型ゼラチンヘの結合は減弱することが確認され、マウスcaspinの持つ性質と全く同じ性質を有することが示された。この蛋白質のN末端アミノ酸配列の決定を試みたが、これまでに確定には至っていない。また、単クローン抗体作成のために精製蛋白をマウスに免疫したが、十分な抗体価が得られていない。

 1愛知がんセンター

PDI family proteinsのペプチド結合能の解析

慶野裕美、佐藤 衛、柏井明子、河村則子1、佐賀信介

 細胞内における蛋白質の高次構造形成には分子シャペロンと共に、共有結合の形成に関わる酵素が重要である。小胞体内で蛋白質のS-S結合形成に働くprotein disulfide isomeraseのfamily proteins(PDI,ERp72,ERp61など)について研究を進めて来た。これらの酵素の膵臓ランゲルハンス島β細胞における発現量には著しい相違が見られ、膵外分泌線細胞における発現に比べてβ細胞におけるPDIの発現量は極めて低いが、ERp61の発現は逆にβ細胞において強いことを以前に報告している。ラット肝より精製した各酵素について還元状態でインスリンのA、B鎖間のS-S結合の乖離促進を触媒しうるかどうかを解析した結果、ERp72やERp61も約1/5の活性ではあるがPDIと同様これらの触媒活性を有することが示された。この際、乖離したペプチドにPDIとERp72は結合するがERp61は結合しないことが明らかとなった。PDIがペプチド結合能を有し、C末側の約20アミノ酸(TVIDYNGERTLDGFKKFLE)に結合部位が存在していることが既に報告されているが、ERp72の結合部位を同定するために、マウスERp72のcDNAやdeletion mutants cDNAをpQE16ベクターのBamH I-BglⅡ siteヘクローニングして、6個のhistidines tagを有する蛋白質としてE.coliで発現させ、Ni-chelating affinity chromatographyで精製する系の開発を進めている。PDIとのhomology解析からERp72ペプチド結合部位もC末側に位置していることを予測している。

 1共同研究科

rat liverからのPDI familyタンパク質の精製

佐藤 衛、柏井明子、佐賀信介

 細胞内におけるタンパク質の高次構造形成には分子シャペロンとともに、folding enzymeが重要な働きを担っている。小胞体のfolding enzymeには、タンパク質のジスルフィド結合形成を促進するprotein disulfide isomerase(PDI)が存在している。近年、PDI以外にも酸化還元反応の活性基(CGHC配列)を含むチオレドキシン様ドメインを持つ蛋白質(ERp72,ERp61)の存在が明らかにされ、これらはPDI familyとして扱われている。その分子構造の類似性からいずれも小胞体内で分泌および膜タンパク質のS-S結合の形成をおこなっていると推測されているが、それぞれの酵素がどのような細胞においてどのようなタンパク質を基質としているかについては未だ明らかにされていない。これらの酵素の基質に対する作用の違いがみられるかを調べるため、PDI familyの各蛋白質の大量精製を行った。ラット肝臓からミクロソームを単離し、イオンクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース、および金属キレーティングセファロースにより、精製を行った。各蛋白質の精製度をSDS-PAGEで解析した結果、クーマシー染色により単一バンドとして同定することができた。精製した各酵素について還元条件下でS-S結合の解離促進を触媒するかについて、インスリンA,B鎖解離による凝集反応で解析したところ、PDIについては市販品よりも高い活性を持つものを得ることができた。以前に報告しているように、ERp72とERp61についても解離反応を促進する活性が認められた。今後、得られた標品を用いてPDI family間の機能比較を行うことを予定している。

ストレス蛋白質HSP47減少株における過剰プロコラーゲン発現の影響

佐藤 衛、細川暢子1、佐賀信介、永田和宏1

 熱ショック蛋白質47(heat shock protein 47,HSP47)は、コラーゲン結合能を有し、小胞体に局在する分子量47,000のストレス蛋白質である。調べた限りにおいて、HSP47はコラーゲン産生細胞にのみその発現がみられ、その発現量も、コラーゲン発現量とよく相関していることが解っている。HSP47は細胞内で一過性にプロコラーゲンに結合し、高次構造形成異常を起こしたプロコラーゲンとは持続的に結合することから、コラーゲン特異的シャペロンであると考えられている。プロコラーゲンは、蛋白質に翻訳されてから、三重ラセン構造の形成、プロリン・リジン残基の水酸化、糖鎖の付加などを経て、細胞外へと分泌される。我々はHSP47が、プロコラーゲンの成熟化のどの過程に関わっているのかを解析する目的で、細胞内のHSP47を減少させたときの影響を解析した。方法としては、アンチセンスRNAによる発現の阻害を利用した。まずアンチセンスRNA発現プラスミドを構築し、マウスBalb/c3T3細胞にトランスフェクト後、同プラスミドに存在するネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとし、安定発現株を作製した。得られた安定発現株ではアンチセンスRNA量に応じてHSP47の減少がみられた。興味 深いことにこれらのHSP47減少株では、HSP47の減少量に応じてプロコラーゲン合成の減少が、タンパクレベルおよびmRNAレベルで観察された。mRNAの安定性を調べたところ、コントロール細胞との違いはみられず、転写レベルで減少していると思われる。プロコラーゲンの分泌速度をコントロール細胞とHSP47減少株で調べたところ、HSP47減少株ではプロコラーゲンの分泌速度の低下がみられ、プロコラーゲンの合成過程に何らかの関与をしていることが示唆された。コラーゲン合成量が減少していたことから、さらにHSP47が減少した影響を調べやすくするため、HSP47減少株でのプロコラーゲン量を増加させることを試みた。HSP47減少株にプロコラーゲン発現プラスミドをトランスフェクトし、トランスフェクト後72時間に細胞を回収した。トランスフェクトの結果、HSP47減少株ではコントロール細胞に相当するプロコラーゲンを発現させることができた。正常細胞では細胞内プロコラーゲンは、NP-40可溶性画分に回収されたが、HSP47減少株では過剰に発現させたプロコラーゲンの大部分がNP-40不溶性画分に回収された。このことより、HSP47は細胞内でのプロコラーゲン可溶性を保つ役割を持つことが示唆 される。

 1京都大・胸部疾患研

研究業績

著書・総説

成瀬一郎、慶野裕美:形態形成とプログラム細胞死『アポトーシスの分子機構と病態』内海耕造ら(編)メディカルトリビューンブックス アクセル・シュプリンガー出版 pp.36-42, 1996.

成瀬一郎:アポトーシス -形態形成における役割-『組織細胞化学 1996』日本組織細胞化学会編 199-202, 1996.

三宝 誠1、谷口雅彦、八木 健11岡崎生理研):CreloxPを用いた新しい遺伝子変換マウス作製法.特集「発生生殖工学の最近の進歩」 組織培養 22:506-511, 1996.

Naruse, I., Keino, H., Taniguchi, M.: Fetal laser surgery exo utero in mice. Cong. Anom. 36: 107-113. 1996.

成瀬一郎:実験発生学における胎内治療.小児耳鼻咽喉科研究会誌 17:2, 14-17, 1996.

成瀬一郎,慶野裕美:遺伝子疾患はどうして起きるか.総合工学 9: 115-152, 1997.

Naruse, I., Keino, H., Taniguchi, M.: Surgical manipulation of mammalian embryos in vitro. Int. J.Dev. Biol. 41:195-198. 1997.

Tsutsui, Y.1, Kosugi, I.1, Shinmura, Y.1, Nagahama, M. (1Hamamatsu Univ. Sch. Med.): Congenital infection and disorders of brain development: with special reference to congenital cytomegalovirus infection. Cong. Anom. 37: 1-14, 1997.

原著論文

Sugisaki, N.1, Hirata, T.1, Naruse, I., Kawakami, A.1, Kitsukawa, T.1, Fujisawa, H.1 (1Nagoya Univ.): Positional cues that are strictly localized in the telencephalon induce preferential growth of mitral cell axons. J. Neurobiology 29:127-137, 1996.

Ueda, S.1, Aikawa, M,1, Kawata, M.2, Naruse, I., Whitaker-Azmitia, P.M.3, Azmitia, E.C.4 (1Dokkyo Univ., 2Kyoto Pref. Univ. Med., 3State Univ. New York at Stony Brook, 4New York Univ.): Neuro-glial neurotrophic interaction in the S-100 β retarded mutant mouse (Polydactyly Nagoya). Ⅲ. Transplantation study. Brain Res. 738:15-23, 1996.

Sano, M., Iwanaga, M.: Re-examination of the local control by nerve growth factor of the outgrowth of neurites in PC12D cells. Brain Res. 730:212-222, 1996.

Sano, M., Kitajima, S.: Inhibition of the nerve growth factor-induced outgrowth of neurites by trichostatin A requires protein synthesis de novo in PC12D cells. Brain Res. 742:195-202, 1996.

Kageyama, T.1, Moriyama, A.2, Kato, T.2, Sano, M., Yonezawa, S. (1Kyoto Univ., 2Nagoya City Univ.): Determination of cathepsins D and E in various tissues and cells of rat, monkey, and man by assay with B-endorphin and substance P as substrates. Zool. Sci. 13:639-698, 1996.

Takeuchi, I.K., Takeuchi, Y.K.1, Murashima,Y.2, Seto-Ohshima, A.(1Gifu Coll. Med. Technol., 2Tokyo lnst. Psyciat.) : Altered axon terminals containing concentric lamellar bodies of cerebellar Purkinje cells in Mongolian gerbil. Experientia 52:531-534, 1996.

Takeuchi, Y.K.1, Takeuchi, I.K., Murashima, Y.2, Seto-Ohshima, A.(1Gifu Coll. Med. Technol., 2Tokyo lnst. Psyciat.) : Age-related appearance of dystrophic axon terminals in cerebellar and vestibular nuclei of Mongolian gerbils. Exp. Animals 46:59-65, 1997.

Kawamura, N., Seto-Ohshima, A., Ito, M.: Computer-assisted three-dimensional reconstruction of the vestibular end-organs of the gerbil using the serial paraffin sections. Acta Histochem. Cytochem. 30:55-58, 1997.

Furuya, S.1, Nagata, R.1, Ozaki, Y.1, Furuya, K.1, Nakayama, T.2, Nagahama, M. (1Natl. Inst. Physiol. Sci, 2Yokohama City Univ. Sch. Med.): A monoclonal antibody to astrocytes, subepithelial fibroblasts of small intestinal villi and interstitial cells of the myenteric plexus layer. Anat. Embryol. 195:113-126, 1997.

Kato, K., Ito H., Okamoto, K., Saga, S. : Synthesis and accumulation of αB crystallin in C6 glioma cells is induced by agents that promote the disassembly of microtubules. J. Biol. Chem. 271:26989-26994, 1996.

Iida, K.1, Miyaishi, O.1, Iwata, Y.1, Kozaki, K,1, Matsuyama, M.1, Saga, S. (1Nagoya Univ.): Distinct distribution of protein disulfide isomerase family proteins in rat tissues. J. Histochem. Cytochem. 44:751-759, 1996.

Torii, K.1, Iida, K.1, Miyazaki, Y.1, Saga, S., Kondoh, Y.1, Taniguchi, H.1, Taki, F.1, Takagi, K.1, Matsuyama, M.1, Suzuki, R.1 (1Nagoya Univ.): High cencentrations of matrix metalloproteinases inbronchoalveolar lavage fluid of patients with adult respiratory distress syndrome. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 155:43-46, 1997.

Morishita, R., Saga, S., Kawamura, N., Hashizume, Y.1, Inagaki, T.2, Kato, K., Asano, T. (1Aichi Med. Univ.,2Nagoya-shi Kosein) : Differential localization of the γ3 and γ12 subunits of G proteins in the mammalian brain. J. Neurochem. 68:820-827, 1997.

Satoh, M., Hirayoshi, K.1, Yokota, S.1, Hosokawa, N.1, Nagata, K.1 (1Kyoto Univ.) : Intracellular interaction of collagen-specific stress protein HSP47 with newly synthesized procollagen. J. Cell Biol. 133:469-483, 1996.

学会発表

竹内郁夫、青木英子、大島章子、竹内よし子11岐阜医技短大):プルキンエ細胞にみられる二種類の肥大軸索終末と酸性フォスファターゼ活性.日本解剖学会(福岡)1996.4.3.

宮石 理1、小嶋俊久2、小崎健一3、佐賀信介、橋詰良夫41長寿研、2名古屋大、3愛知ガンセンター、4愛知医大):Human osteosarcoma cell line (MG63) の1,25-dihydroxyvitamin D3への反応.日本病理学会(東京)1996.4.24.

佐賀信介、柏井明子、河村則子、飯田健一1、岩田洋介1、小崎健一2、宮石 理31名古屋大、2愛知ガンセンター、3長寿研):PDI family proteinsの膵β細胞における発現とインスリンペプチドヘの結合能.日本病理学会(東京)1996.4.24.

Saga, S., Iida, K.1, Iwata, Y.1, Kashiwai, A., Kawamura, N., Kozaki, K.2, Miyaishi, O.3 (1Nagoya Univ., 2Aichi Cancer Ctr. Res., 3Natl. Inst. Longevity Sci.): The expression of PDI family proteins inimmunoglobulin-Producing cells. Cold Spring Harbor Laboratory Meeting on Molecular Chaperones and Heat Shock Response. (Cold Spring Harbor) 1996.5.5.

成瀬一郎、慶野裕美、谷口雅彦、山田裕一、Hui,C.-c.1 (1Hosp. Sick Children,Toronto): Gli3遺伝子発現レベルの差によるミュータントマウスの脳と四肢における表現型の差.日本発生生物学会(京都)1996.5.25.

北島哲子、佐野 護:神経成長因子(NGF)による神経突起の伸展誘導には、新たなタンパク質の合成は必要ではない.日本神経科学学会(神戸)1996.7.12.

慶野裕美、山田裕一、谷口雅彦、成瀬一郎:Gli3遺伝子発現量に差のあるミュータントマウス(Pdn/Pdn,XtJ/XtJ)における表現型の比較.日本先天異常学会(札幌)1996.7.25.

成瀬一郎、慶野裕美、谷口雅彦:胎仔外科法を用いたマウス発生異常の検索.日本先天異常学会シンポジウム『胎仔外科の基礎と臨床』(札幌)1996.7.26.

玉川 実1、森田二郎2、成瀬一郎(1大塚製薬、2鳥取大学):遺伝性多指症マウスの四肢形成に及ぼすレチノイン酸の影響.日本毒科学会学術年会.田辺賞受賞講演(福岡)1996.7.26.

Seto-Ohshima, A., Kawamura, N., Ito, M.: Vestibular end organs of the gerbil. International Congress of Histochemistry and Cytochemistry (Kyoto) 1996.8.20.

Naruse, I., Keino, H., Yamada, Y. Taniguchi, M., Hui, C.-c.1, Sato, A.G.2, Yasuda, M.2 (1Hosp. Sick Children, Toronto, 2Hiroshima Univ.): Genetic polydactyly/arhinencephaly mouse as the homologue of Greigcephalopolysyndactyly syndrome (GCPS). Symposium of 1st Asian Pacific International Congress of Anatomists,“Genes and Morphogenesis”. (Seoul,Korea) 1996.8.23.

佐野 護、北島哲子:トリコスタチンAによるPC12D細胞の神経突起伸展阻害作用.日本生化学会(札幌)1996.8.26.

福井成行1、佐野 護(1京都産業大):PC12細胞の神経突起形成に伴い変動するポリラクトサミン鎖含有糖タンパク質.日本生化学会(札幌)1996.8.26.

吉田幸代1、大森 彬1、大石正道2、前田忠計2、加藤美幸、大島章子(1三菱化学生命研、2北里大):タンパクの迅速分析法を応用したてんかん由来タンパクの分析.日本生化学会(札幌)1996.8.26.

佐藤 衛、細川暢子1、佐賀信介、永田和宏11京都大):ストレス蛋白質HSP47減少株では過剰プロα1(I)鎖はNP40不溶画分に移行する.日本生化学会(札幌)1997.8.26.

谷口雅彦、成瀬一郎、三宝 誠1、三品昌美1、八木 健11岡崎生理研・高次神経):神経回路形成過程におけるcollapsinの役割.日本分子生物学会(札幌)1996.8.27.

Nagahama, M., Tsuzuki, M., Kuwahara, A.1, Mochizuki, T.2 (1Natl. Inst. Physiol. Sci, 2Univ. Shizuoka) :Light and electron microscopical studies of PACAP (pituitary adenylate cyclase activating peptide) immunoreactive neurons in the myenteric plexus of rat intestine. 11th International Symposium on REGULATORY PEPTIDES (formerly Gastrointestinal Hormones) (Copenhagen, Denmark)1996.9.4.

加藤兼房、伊東秀記、岡本慶子、佐賀信介:C6グリオーマ細胞におけるαBクリスタリンの蓄積.日本神経化学会(横浜)1996.10.2.

佐野 護、北島哲子:PC12D細胞からのNGF依存性神経突起誘導に対するトリコスタチンAの特異的阻害作用.日本神経化学会(横浜)1996.10.3.

北島哲子、佐野 護:培養幼鶏後根神経節神経細胞からのニューロトロフィン依存性神経突起誘導.日本神経化学会(横浜)1996.10.3.

森下理香、佐賀信介、稲垣俊明1、加藤兼房、浅野富子(1名古屋市厚生院):脳におけるG蛋白質γサブユニットγ3とγ12の局在と加齢による濃度変化.日本神経化学会(横浜)1996.10.3.

小崎健一1、小祝 修1、宮石 理2、佐賀信介、西川陽子1、安井善宏1、清水 暁11愛知県ガンセンター、2長寿研):コラーゲン結合性セルピンCaspinのcDNAクローニングとその発現の転移性との相関.日本癌学会(横浜)1996.10.11.

佐賀信介、柏井明子、河村則子、小崎健一1、清水 暁1、宮石 理21愛知県ガンセンター、2長寿研):Surface plasmon resonance analysis によるcaspinのコラーゲン結合能の解析.日本細胞生物学会(京都)1996.10.24.

佐藤 衛、細川暢子1、佐賀信介、永田和宏11京都大):熱ショック蛋白質47(HSP47)減少株では過剰プロコラーゲンα鎖はNP-40不溶画分に回収される.日本細胞生物学会(京都)1997.10.24.

細川暢子1、佐藤 衛、Kuhn,K.2, 永田和宏11京都大・胸部疾患研、2Max-Plank-Inst.):HSP47はプロコラーゲンの分泌速度を調節する.日本細胞生物学会(京都)1997.10.24.

上田 浩、佐賀信介、篠原春夫1、森下理香、加藤兼房、浅野富子(1三重大):三量体G蛋白質γサブユニットγ12のアクチンフィラメントとの結合について.日本細胞生物学会(京都)1996.10.25.

大石正道1、大森 彬2、一ノ瀬幸代2、青谷由美子3、好田真由美3、大島章子、加藤美幸、前田忠計11北里大、2三菱化学生命研、3協和発酵・東京研):蛋白質の微量迅速探索と構造解析.日本生物物理学会(つくば)1996.11.8.

大島章子、河村則子、伊藤宗之:てんかんのモデル動物スナネズミの発作形成過程に関する仮説の検討.日本疾患モデル学会(東京)1996.11.22.

長浜眞人、続木雅子、尾崎 毅11岡崎生理研):先天性aganglionosisラット遠位結腸における壁外性神経線維終末の分布.日本解剖学会(長久手)1996.3.28.

講演など

成瀬一郎:ヒトGreig cephalopolysyndactyly syndrome(GCPS)の相同疾患マウスにおける発生異常のメカニズム.こばと学園講演会.(春日井)1996.6.20.

成瀬一郎、慶野裕美:遺伝子疾患はどうして起きるか.中部大学総合工学研究所公開講演会(春日井)1996.6.29.

成瀬一郎:実験発生学における胎内治療 日本小児耳鼻咽喉科研究会.教育講演(大阪)1996.7.6.

成瀬一郎:アポトーシスの進歩・発展 -形態形成における役割- 日本組織細胞化学会講習会(名古屋)1996.7.17.

Nagahama, M.: Immunohistochemichal application for intestinal enteric nervous system. International Workshop, Monbusho International Scientific Research Programme 1994-1996, Guanylin: Structure, Cytophysiology and Clinical Application. (Toba) 1996.10.8.

佐野 護:神経成長因子(NGF)によるPC12D細胞からの神経突起誘導とMAPキナーゼカスケード.京都産業大.生物工学科セミナー(京都)1997.3.12.

教育活動

長浜眞人:解剖学(愛知県立春日井看護専門学校)1996.4.1.~10.3.

佐賀信介:病理学(名古屋大学医学部)1996.6.26.~28.

佐賀信介:病理学(愛知県立春日井看護専門学校)1996.9.3.~10.1.

7.治療学部

研究の概況

三田勝己

 リハビリテーションの科学的な取り組みはすでに70年余を積み上げ、当研究所が開所した25年前と比べ、リハビリテーションの概念は大きく変遷した。すなわち、リハビリテーションの主題は、機能・形態障害の改善をはかる医療を中心とした古典的な考えから、障害者が健康で自立した日常生活や速やかな社会参加を積極的にめざすトータルリハビリテーションヘと大きく変遷し、それが根付き始めた。さらに一歩進んで、障害者、高齢者、健常者といった区別をすることなく、全ての人たちにとってバリアーのない快適な生活環境をめざすユニバーサルデザインという考えが提案され、その実現をはかる運動が米国を中心として展開されている。
 治療学部では、こうした理念に基づき、障害者の抱える問題の所在や障害のメカニズムを解明し、心身両面にわたる新しいリハビリテーションの理論と実践に関する基礎的研究を進めるている。研究の主題は当部門の性格上、機能・形態障害および能力障害が中心となる。しかし、リハビリテーションの最終ゴールは社会的不利の克服であり、この課題への取り組みも念頭におきたい。以下に各研究室における本年度の研究の概要を述べる。
 第一研究室(人間工学)は、運動機能障害の測定・評価と治療方法の開発を目的として、ヒトの運動制御機構の基礎的研究を進めている。さらに、運動生理学と人間工学に基づく基礎研究をもとにして、重度心身障害児・者のパソコン使用支援システムの開発を行っている。今年度の研究は、随意動作の開始に先だつ神経制御機構を解明する一環として、経頭蓋的大脳皮質磁気刺激による運動誘発電位と発揮される筋力との関係を検討し、随意動作に伴う大脳皮質運動野-運動ニューロン経路の活動水準を推定する研究を進めた。その結果、運動誘発電位は、筋力の時間変化率(dF/dt)と非線形性の関係を示すことを明らかとした。また、昨年度開発した単一ユニット活動電位分離プログラムを用いて、運動単位間の発射の同期性に対する動作前筋放電休止期の影響を分析した。重度身体障害児・者のパソコン使用支援システムの開発に関しては、今年度は新しいスタッフが加わり、これまで以上に研究が進んだ。具体的には、衣食住に関する自己決定支援ソフトウェアを開発し、重度身体障害児・者のQOLの拡充をはかった。また、一つのスイッチ操作でマウス入力のできる聴覚マウスを開発し、ウィンドー ズ等のグラフィックユーザーインターフェイスを利用する環境をととのえた。
 第二研究室(臨床運動学)は、運動生理学における体力の概念を運動機能障害に適用できる形に修正し、その流れに沿って機能・形態障害や能力障害のメカニズムや背景の解明に取り組んでいる。また、そこで得られた知識をべースとして効果的な運動療法を考案し、障害の軽減と健康維持をめざしたプログラムの開発を試みている。本年度は体力を構成する要素のうち、調節・適応、柔軟性、筋力・筋パワーに関する研究を進めた。調節・適応に関しては、心拍数変動を手がかりに循環調節に関わる自律神経機能を推定する研究を継続た。特に本年度は障害者の高齢化や健常者の超高齢化を考え、加齢にともなう自律神経機能の変化を課題とした。自律神経機能は他の身体諸器官と同様に加齢に伴った機能低下を示し、それも30歳代から始まり、副交感神経系により進行することが示唆された。柔軟性については、我々が開発した非線形幾何学モデルに基づく関節可動域測定法を用いて、健常児と脳性麻痺児を対象に下肢関節の可動域の横断的測定を実施した。さらに、関節可動障害が立位や歩行に及ぼす影響を実験およびモデル・シミュレーションによって分析した(プロジェクト研究で記載)。筋力・筋 パワーの課題では、筋の機械的活動を反映する筋音図なる信号の計測・処理に関する基礎的研究を行なった。特に筋音図の計測に関わる再現性の問題、センサーの問題について詳細な分析を行なった。その結果、筋音図の再現性については概ね筋電図と同等であること、センサーについてはその構造によって導出される信号の波形が変化することが解明された。動的筋力・筋パワーの評価では等粘性収縮の力学的特性に関する研究を継続し、等張性収縮、等速性収縮にない優れた特徴をもつ運動様式であることが明らかにされた。
 第三研究室(精神病理)では、自閉症やダウン症などの発達障害児に治療的な働きかけを行い、その認知発達や言語障害の特徴を臨床的に分析する研究を本年も継続して進めてきた。自閉症児については、幼児症例の言語の獲得過程の分析、年長症例のコミュニケーション能力の変容、また認知機能の神経心理学的分析を行った。併せて、コンピュータを用いた認知言語教育について実践的な研究、サイン言語によるコミュニケーション技能の形成の試みを行った。ダウン症児については、書字機能の形成、構音障害の縦断的分析、動作サインの理解と表現の訓練などの課題の習得を臨床的に観察した。また物の名称の理解と産出の過程を縦断的に観察し、ダウン症児における言語機能の発達を調べた。障害児の発達が家族の支援に支えられていることは周知の事実であるが、障害児のいることが家族機能を変容させ、兄弟たちの精神保健に影響を及ぼしているものと考え、兄弟の実態について調査を進めている。
 人事面では、渡壁誠が研究員(4月1日付)、久野裕子が研究助手(7月1日付)に採用された。

加齢に伴う自律神経機能の変化-心拍数変動による分析-

三田勝己、赤滝久美、渡壁 誠、伊藤晋彦、高橋由美1、久野弘明2、伊藤正美3

 加齢に伴う諸器官の機能低下は循環調節を司る自律神経機能についても推察される。自律神経活動の無侵襲的な尺度として心拍ごとの変動いわゆる心拍数変動(HRV)が利用されている。HRVに含まれる高周波数成分は呼吸周期と関連をもち、副交感神経の活動を反映する。一方、低周波数成分は圧反射の活動と関連し、交感、副交感の両神経が介在する。本研究ではHRVを手がかりに加齢に伴う自律神経機能の変化を分析した。被検者は年齢20から79歳までの健常者126名であった。実験では臥位と立位時の心電図を記録した。各被験者は水平仰臥位をとった後、受動的な70度立位姿勢をとった。HRVは心電図記録から求め、パワースペクトル解析を手がかりに全パワー(Pt)、交感神経指標(Isn)、副交感神経指標(Ipn)を算出した。HRVのPtは若年層の方が大きく、加齢に伴って指数的に減少した。それは20歳代と比較すると他の全ての年代で有意な変化であった。立位へ変換した際のPtは臥位時とほとんど変わらなかった。臥位時のIsnは年齢が進行するに従って増大する傾向がみられ、60、70歳代では20歳代に対して約1.5倍であっ た。立位への姿勢変換に伴う変化をみると、全ての年代で増大したが、その変化量は加齢に伴って指数的に減少した。Ipnは概ねIsnと拮抗的な変化を示した。すなわち、臥位時のIpnは加齢とともに減少し、20歳代と70歳代の間では20%の変化を認めた。立位時のIpnは20歳代が25%まで有意な減少を示した。また、30歳代以降のIpnも減少を示したが、統計的には有意にならなかった。これらの結果は自律神経の機能低下が30歳代から始まり、加齢と共に進行すること、副交感神経系により顕著であることを示唆した。

 1名古屋大、2中部大、3理科学研

運動誘発電位の随意動作依存性の検討-その3-筋放電量とdF/dtの影響

青木 久、塚原玲子、久野裕子

 今年度は、筋放電量と筋力の時間変化(dF/dt)とが、磁気刺激による運動誘発電位に与える影響を検討した。実験では、4名の健常な被験者に、等尺性筋力による正弦波信号追跡課題を実施した。その結果、図に示したように、運動誘発電位の振幅は、運動誘発電位の直前の筋放電量とdF/dtとの両者と正の相関関係を示すことが明らかとなった。また、dF/dtの大きい動作では、筋放電量から推定される値より統計的に有意に大きい運動誘発電位が得られた。これらの結果は、磁気刺激に対する運動誘発電位の感受性がdF/dtにより高められることを示すものであり、dF/dtは、筋放電量とともに、運動誘発電位に影響を与える独立した因子の一つであることが示唆された。

等尺性筋力による正弦波信号追跡課題を実施した結果のグラフ

運動単位間の発射の同期性に対する動作前筋放電休止期の影響

塚原玲子、青木 久、矢部京之助1

 これまで、われわれは、動作前休止期(PMSP)には運動単位の持続的な活動が一時休止し筋電図相動性放電の直前の発射の先行時問が長くなること、先行時間が長いときには相動性放電開始時に短い潜時で発射しうることを報告してきた。このことから、PMSPにより相動性放電開始時に複数の運動単位間の発射の同期性が高められることが予想される。そこで、本研究では、2~3個の運動単位の発射活動を微小電極を用いて同時記録し、相動性放電開始時の発射の同期性とPMSPおよび先行時間との関連について検討した。被検者は、健常成人3名で、等尺性の足関節底屈を行わせ、下腿三頭筋から運動単位活動電位と表面筋電図を記録した。単一運動単位の活動電位の分離には、昨年度開発したtemplate-matching法によるプログラムを用いた。表面筋電図の相動性放電中の各運動単位の最初の発射時点を測定し、同時記録した6組の運動単位間の時間差を求めた。運動単位間の時間差の平均は、PMSPが出現した動作では9.8~13.9ms、出現しなかった動作では12.4~34.2msであった。また、相動性放電開始時の発射の運動単位間の時間差は、それぞれの運動単位の相動性放電直前の発射の先行時間と相関を示 した。PMSPは、持続的な筋収縮中に活動していた運動単位の発射を、急速な筋収縮の直前に一時的に休止することにより、相動性放電開始時の運動単位の発射の集中性を高めることが示唆された。

 名古屋大・保体センター

パソコン用マウスに代わる重度身体障害児・者用ポインティングデバイスの開発

青木 久、塚原玲子、久野裕子

 グラフィックユーザーインターフェイス(GUI)を快適に使用するには、マウス入力は必要不可欠といえる、しかし、運動障害の重度の人がマウスを使用するのは困難であった。今年度、開発した重度身体障害児・者用ポインティングデバイスは、一つのスイッチの簡単な操作で、マウス入力を可能にする機器である。この機器では、マウスの移動方向やクリック操作をそれぞれ異なった音階に割当てて、オートスキャン方式で順番に発音させた。選択したい音を聞いた時に接点スイッチを入れると、マウス入力と同等の操作が実行される。聴覚を使用したオートスキャン方式を採用したので、画面から視線を外さないでマウス操作ができるようになり、GUIを使用するウインドウズ等のパソコンを重度身体障害児・者が利用できるようになった。

パソコン用マウスに代わる重度身体障害児・者用ポインティングデバイスの写真

重度身体障害者のための自己決定支援ソフトウェア
(1)服装の選択-「けいこのワードローブ」

塚原玲子、久野裕子、青木 久

 われわれはこばと学園でパソコン相談室を行っているが、その場において、服装の選択、買い物の計画などを自分で行いたいという要望があることがわかった。そこで、随意動作のきわめて限られた人が、パーソナルコンピュータを使用して、自ら意思決定し他人に伝えることを支援する目的で、ソフトウェアを開発することにした。
 服装の選択のためのソフトウェア「けいこ(ユーザー名)のワードローブ」はその一つである。このソフトは、VB32で開発し、ただ一つのスイッチのon/offで選択できるようにオートスキャン方式を採用した。具体的には、図のように、四角い枠が衣類の間を自動的に移動し、ユーザーは、スイッチをonにすることでちょうど枠のある衣類を選択することができる。また、ユーザーの手持ちの衣類の写真を表示するので、自分で衣類を広げて見ることができなくても、リアルなコーディネートが可能である。服装の選択後はプリントアウトすることができる。
 今後、主にこばと学園入所者を対象として、衣食住の様々な場面において重度身体障害者が自ら選択し意思表示することを支援するソフトウェアを開発し、生活の質(QOL)の向上をはかる予定である。

重度身体障害者のための自己決定支援ソフトウェア、服装の選択の画面

脳性麻痺児・者のためのパソコン用スイッチの再評価

久野裕子、青木 久、塚原玲子

 われわれは、重度心身障害児・者のためのパソコン使用支援システムの開発を行ってきた。今年度は新しいパソコン支援機器の開発と併せて、こばと学園に入所する脳性麻痺者について、現在使用中のパソコン用スイッチの再評価を行った。評価にはわれわれが制作したスイッチ操作テスト(NIKOテスト)を使用、その正答率と反応時間により各使用者のスイッチ適応性について評価した。
 テストは10名中8名において施行が可能であった。その結果、8名中3名においては正答率が高く反応時間は100ms以下に安定しており、スイッチの適応性は非常に高いと判断された。4名についてはターゲットの移動速度が速いと正答率は低かった。反応時間も前述の3名と比較すると遅く、ばらつきが大きかった。しかし、移動速度が遅ければ正答率は高く、日常のパソコン使用には大きな問題はないと考えられた。残りの1名については一貫して正答率が低く、反応時間にばらつきがみられ、スイッチの適応性は低いと判断された。そこでこのスイッチを、熱可塑性樹脂を使用したスプリントタイプのスイッチに変更したところ、約5ヶ月の使用で高い正答率と安定した反応時間を示し、適応性は高いものになった。
 10名中2名はテストの施行ができなかったが、その理由は1名は身体機能低下のため、もう1名はディスプレイの注視が困難であるためであった。前者においてはスイッチの使用が全く不可能になっていたが、後者は操作姿勢の介助を行えばテストの施行は可能であった。テストを施行した結果、正答率は高く反応時間も90ms以下に安定しており、スイッチ自体の適応性は高いと判断された。この2名には、入力動作の再検討や姿勢の安定性、ディスプレイの位置など、使用環境を含めた定期的な指導を行いパソコン使用の可能性を検討中である。

筋音導出のためのセンサー特性の検討

渡壁 誠、三田勝己、赤滝久美、伊東保志1

 筋音とは筋線維が収縮する際に発生する振動を筋表面で検出したものをさす。従来、筋音はマイクロフォンや加速度計などによって導出され、この信号を手がかりに筋の収縮特性やその機能の分析がなされている。これらのセンサーは皮膚表面に伝えられた筋線維の振動をそれぞれ異なった動作原理に従って電気信号に変換するものであり、導出された信号の特性はセンサーの特性によって異なっていると考えられる。しかしながら、これまでにセンサーの力学的特性と筋音の特性の関連に関しての詳細な比較検討はなされていない。そこで本研究は我々が従来より用いている加速度計と文献的に最も使用されている接触型のマイクロフォンの力学的特性、およびこれらのセンサーによって導出された筋音信号について検討を加えることとした。実験では、加振器によってセンサーに既知の振幅、加速度、周波数の振動を加え、これに対するセンサーの出力特性を計測した。その結果、加速度計は自身の共振周波数(約345Hz)に至るまで加速度に比例した電圧を出力することが明らかとなった。一方、接触型のマイクロフォンは加振器との接続方法によって加速度に比例した電圧を出力したり、変位に比例し た電圧を出力しうることが明らかとなった。次に、等尺性随意収縮において、これら二つのセンサーによる筋音信号の比較を試みた。計測は被検者の大腿直筋上にセンサーを貼りつけ、10%MVCでの随意収縮を維持させて行った。この時二つのセンサーは同時に大腿直筋から放射される筋音を導出する。そして、これらの信号をパーソナルコンピュータに取り込み周波数分析を行った。その結果、同一周波数fに対する接触型のマイクロフォンの出力は加速度計の出力に対して1/(2πf)4の関係にあることが明らかとなった。これは接触型マイクロフォンが皮膚表面の変位に比例した信号を出力していることを意味し、このセンサーによって導出された信号は筋音の高周波領域における変化を過小評価する可能性があることを示唆している。

 1鈴鹿医療科学技術大

等尺性随意筋収縮時に計測されたMechanomyogramの再現性の検討

赤滝久美、渡壁 誠、伊藤晋彦、三田勝己、伊東保志1

 Mechanomyogram(MMG)とは筋線維が収縮する際にその径が側方にむけて拡大変形する結果発生する一種の圧力波である。体表面上で得られるMMGは、収縮に関与する運動単位のタイプや活動様式(リクルートメント、発火頻度)を反映する有用な信号として注目されている。しかしながら、本信号の再現性を定量的に分析した報告はみあたらない。そこで本研究は、日を変えて計測したMMG信号の時間領域と周波数領域における再現性の定量的分析を目的とした。分析に際しては、信号の再現性が明らかにされている表面筋電図(EMG)と比較することとした。実験では健常成人男性13名による上腕二頭筋の等尺性筋収縮を行った。力発揮は各被検者の最大随意収縮力の10~90%内で9種類とした。MMGとEMGはそれぞれ小型加速度計と表面電極を用いて上腕二頭筋筋腹上より同時に計測した。実験は日を変えて8回行った。導出した信号より、root mean square(rms)値、平均周波数(MF)、中央周波数(MD)を求め、8日間の変動率(CV)を各被験者毎に算出し再現性を検討した。両信号とも収縮レベルに依存したCV値の有意な変化はみられなかった。そこで、全ての収縮レベルのCV値を統合して2信号間の比較を行なうこととした。その結果、rms値のCV値はMMGが22%、EMGが24%となり統計的な有意差は認められなかった。一方、周波数領域では、MF値、MD値共にMMGが約10%であるのに対しEMGは約5%と低く、統計的有意差が見られた。しかしながら、周波数領域でのCV値は時間領域と比較して小さく、日を変えた計測においても十分な再現性を有することが示された。

 1鈴鹿医療技術科学大

等張性、等速性収縮と粘性負荷に対する筋運動(等粘性収縮)との力学的特性の比較

伊藤晋彦、三田勝已、赤滝久美、添田敏視1、野中壽子2、加藤厚生3

 筋運動の負荷として粘性負荷が有用であることに着目して研究をすすめ、昨年度までに粘性負荷が発生できる負荷装置の開発をおこなった。本年度は新しい動的な筋運動様式(等粘性収縮)における力と速度変化を従来法である等張性収縮および等速性収縮との比較検討した。比較実験として8名の健常成人男子による最大努力下で膝関節伸展動作をおこない、動的な関節角度とトルクを測定した。実験に用いた負荷装置はダイレクトドライブモーターを使用し、トルクを調節し、これを制御することで3種類の収縮様式を実現させた。負荷強度は等張性収縮で10~80%MVC、等速性収縮0.5~9.5rad/s、等粘性収縮で3~240N・m・s/radの範囲とした。その結果、従来法である等張性収縮や等速性収縮は運動中あるいはその前後に急激な力変化や速度変化を引き起こすことが確認された。等速性収縮では設定速度に到達するまで無負荷で加速され、その後、設定速度となる時点で急激な逆トルクが加わり一定速度を維持した。これらの急激な変化は筋や腱を急速に伸張したり、関節に大きな負担を加えることになり、傷害を発生する危険性が内在している。一方、等粘性収縮は粘性抵抗により筋力に比例した運動 速度が得られた。運動前後および運動中に急激な力変化のない滑らかな運動が可能であった。また、いずれの負荷強度においても広い範囲で規定した運動が実施できた。つまり、粘性抵抗は力を滑らかに減衰させる特徴を持つことから、高齢者、障害者、疾患患者などの低体力者のトレーニングやリハビリにおいて安全な運動負荷となり得ると考える。

 1セノー株式会社、2名古屋市大、3愛知工業大

話しことばをもたない自閉症児への動作サインと文字を用いた言語治療

西村辨作、綿巻 徹、原 幸一

 ふつうの形で他者とかかわりを持てないことが人間の成長に多大の影響をおよぼすものと捉え、子どもの自閉症をひとつの行動症候群として取り上げたのは最初の報告者カナーの慧眼である。現在われわれは、自閉症児の乳幼児期から成人に至るまでの発達過程をある程度の予後の見通しをもって診ることができる。今あらためてこの子どもたちのコミュニケーションと言語の能力の育成の目標を考え直してみると、社会適応能力としての自己の表現と他者の理解の技能、およびその背景としての認知の問題が浮かび上がってくる。
 本研究では、話しことばの獲得の予後を不良と判定した10名の自閉症児に、5~8歳からサインド・スピーチと文字を用いた言語治療を5年以上行った。14歳の時点で、10名中4名が話しことばによる理解と表出の技能を獲得し、4名が話しことばの獲得に至らなかったが文字の言語記号関係および動作サインよる理解と表現の技能を習得できた。残りの2名が動作サインでも文字でも言語記号関係を獲得できなかった。話しことばを獲得できた者においては、サインド・スピーチによって基本的なやり取りの技能を獲得したこと、文字によって内的な言語操作能力が可能になったことが、伝達行動を改善する推進力になったものと考えられた。
 自閉症児にコミュニケーションと言語操作の能力を培うためには、早期から日常生活での伝え合いの経験を積み重ねることが不可欠である。しかしその障害の克服は、この子どもたちが最も苦手とする他者との伝え合いのなかで行われるという逆説的関係にある。そこに言語治療上の工夫、非音声の補い言語刺激を活用した指導が必要になる。

自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如:事例研究

綿巻 徹

 語用は、ことばの話せる自閉症児が困難を示す言語の下位領域である。それは、言語の様々な意味表現機能のうち、特に、話し手と聞き手の間の対人関係的意味を表現する機能をになっている。語用がになうこの種の表現機能は、対象や事象を記述する機能、あるいは、依頼や請求の機能とは質的に異なるものである。日本語では、対人関係的意味を表現する機能は、文法機能語によって分担されている。これは、他言語にはない特徴である。
 本研究は、終助詞「ね」に注目して、自閉症児の語用の特徴を検討した。「ね」は、話題を聞き手と共感的に共有していること表わす言語マーカーとして機能する。それは、健常児では、18ヵ月から24ヵ月にかけて(文法発達の前期Ⅰ段階に)発現するとともに、30ヵ月までに発達する助詞の中で最も使用頻度が高い助詞である。
 比較的言語発達が良好な、文法発達のⅡ段階の初期段階にある6歳の自閉症男児と5歳精神遅滞男児の1時間の発話標本を比較した。自閉症事例は「ね」を使わず、精神遅滞事例は「ね」を頻繁に使っていることが確認された。また、依頼、請求の機能をになう終助詞や認知的意味を表現する格助詞に関しては事例間に目立った差異がなかったが、自閉症事例は、「ね」を含めた、聞き手への社会情動的な感情的を表現する終助詞のレパートリーが精神遅滞事例にくらべ、非常に小さかった。このほか、「ほら、見て!」のような共同注意を請求するための発話が自閉症事例には観察されなかった。以上のように、本自閉症児事例は、相手から共感を得るのに役立つ助詞の「ね」を含めて、他者との対人関係の形成や維持に貢献する言語要素の使用が選択的に欠如していること示していた。今後、助詞使用の検討は、対人関係スキルや語用スキルの発達とその障害に接近するための有力な方法となるだろう。

障害児のきょうだいの心理的適応に関する質問紙調査

原 幸一、西村辨作

 障害児の健常きょうだいの心理的適応に焦点を当て、対照群を設けて質問紙調査を行った。対象者は障害児きょうだい180名、対照群180名とした。要因として性、学年(小学校1年~中学校3年)、きょうだい内位置(姉、兄、弟、妹)を設定した。質問紙は母親と本人が評定した。母親は子どもについて精神適応、タイプA行動に関する質問紙2つを評定。子どもは自分自身について、コンピテンス(認知、社会、身体、自尊の4因子)、抑うつ(CDI:対人的不適応、抑うつ中核、自己嫌悪の3因子)、不安、孤独感、社会的望ましさに関する質問紙5つを評定した。
 その結果、障害児きょうだいの母親は対照群と比較して子どもたちに対して行動面での問題を捉えていた。きょうだい本人の質問紙の結果からは、コンピテンス尺度の認知因子については対照群よりも低く自己を評価した。また、コンピテンス尺度の自尊因子では対照群は学年が高いほど得点が低くかったが、きょうだい本人は学年間で得点差がなく、中学生では対照群以上に自己を高く評価した。さらに、抑うつ尺度の自己嫌悪因子、抑うつ中核因子では中学生で対照群と比較して得点が少く、抑うつが低いと言う結果が得られた。
 障害児きょうだいの母親は子どもの問題を意識しており、きょうだい本人の心理的適応は学年が高いほど良好であると解釈された。

研究業績

著書・総説

三田勝己:肢体に障害をもつ子供の運動とその実践-リハビリテーションの運動生理学-.医療体育,15:80-88, 1996.

三田勝己:航空宇宙医学における廃用症侯群-連載開始にあたって-.総合リハビリテーション,24:49-50, 1997.

西村辨作,原幸一:(訳)よみがえれ思考力 (Jean Healy, Your Child's Growing Mind). 大修館書店,1996.

西村辨作,原幸一:障害児のきょうだい達(1).発達障害研究 18:56-67, 1996.

西村辨作,原幸一:障害児のきょうだい達(2).発達障害研究 18:150-157, 1996.

西村辨作:子どもの言語障害とその治療.月刊言語 25巻,12月号 20-27, 1996.

綿巻 徹:ことばとコミュニケーションの発達.河合優年・松井惟子(編)看護実践のための心理学.メディカ出版,pp. 181-192, 1996.

原著論文

Suzuki, N.1, Mishima, R.2, Watakabe, M., Mita, K., Akataki, K.(1Izu Iryo Fukushi Center, 2Asahikawa Children's Rehabilitation Center): Oxygen uptake in spastic cerebral palsy during normal gait and hydrotherapy gait. J. Orthop.Surn. 3:53-55, 1995.

三田勝己,赤滝久美,伊藤晋彦,鈴木伸治1,渡壁 誠,久野弘明2,高橋由美3,中村博志41伊豆医療福祉センター,2中部大,3名古屋大,4日本女子大):心拍数変動からみた重症心身障害児の循環調節機能.リハビリテーション医学 33: 554-561, 1996.

Akataki,K., Mita,K., Itoh,K., Suzuki,N.1, Watakabe, M.2 (1Izu Rehab. Welfare Centr., 2Asahikawa Med. Coll.): Acoustic and electrical activities during voluntary isometric contraction of biceps brachii muscles in patients with spastic cerebral palsy. Muscle Nerve 19:1252-1257, 1996.

渡壁 誠1,三田勝己,鈴木伸治2,熱田裕司1,朝倉利光3,竹光義治11旭川医科大,2伊豆医療福祉センター,3北海道大):関節可動制限に起因する歩行障害のシミュレーション.日本機械学会論文集(C) 62:1920-1927, 1996.

綿巻 徹・西村辨作・佐藤真由美・新美明夫:ダウン症児における対象物名の理解と産出の分離的発達.発達心理学研究 7:107-118, 1996.

原 幸一、西村辨作、綿巻徹、小泉善茂1、山中 勗21療育部、2中央病院):ダウン症乳幼児の類型化の試み-乳幼児精神発達質問紙(津守式)を用いて-.特殊教育学研究 34(4):63-68, 1997.

その他の印刷物

三田勝己,赤滝久美,高橋由美1,久野弘明2,中村博志31名古屋大,2中部大,3日本女子大):重症心身障害児の自律神経機能の評価と改善.厚生省精神・神経疾患研究依託費「重症心身障害児の病態・長期予後と機能改善に関する研究」平成7年度報告書,171-178, 1996.

中村博志1,樋口和郎2,三田勝己,松田浩平31日本女子大,2国療三重病院,3東海大学):超重症児の実態究明に関する研究.厚生省精神・神経疾患研究依託費「重症心身障害児の病態・長期予後と機能改善に関する研究」平成7年度報告書,241-248, 1996.

三田勝己:医用材料懇話会.遙かなる道-村地俊二学長退官記念誌,123, 1996.

西村辨作:障害児のきょうだい達の心の健康 2.療育援助 260, 1-7, 1996.

西村辨作:ことばのおうむ返し.月刊言語 25巻,12月号 44-45, 1996.

学会発表

高橋由美1,押田芳治1,佐藤祐造1,三田勝己(1名古屋大):心拍数変動のパワースペクトル解析法を用いた糖尿病患者の自律神経機能評価に関する研究.日本糖尿病学会(名古屋)1996.5.15.

赤滝久美,三田勝己,渡壁 誠,鈴木伸治1,久野弘明2,村地俊二31伊豆医療福祉センター,2中部大,3愛知県立看護短大):重症心身障害児の自律神経機能の分析.日本リハビリテーション医学会(横浜)1996.5.30.

鈴木伸治1,赤滝久美,三田勝己,渡壁 誠(1伊豆医療福祉センター):非線形幾何学モデルを用いた下肢関節可動域の定量評価.日本リハビリテーション医学会(横浜)1996.5.30.

伊東保志1,赤滝久美,三田勝己,安藤幸司2,伊藤正美21鈴鹿医療科技大,2中部大):筋音図に含まれるBulk Movementの影響とその分離.計測自動制御学会(鳥取)1996.7.24.

塚原玲子,青木 久,矢部京之助11名古屋大):運動単位間の発射の同期性に対する動作前筋放電休止期の影響.日本運動生理学会(名古屋)1996.7.30.

赤滝久美,三田勝己,渡壁 誠,伊藤晋彦,伊東保志1,鈴木伸治2,村地俊二31鈴鹿医療科技大,2伊豆医療福祉センター,3愛知県立看護短大):筋電図と筋音を手がかりとした脳性麻痺患者の筋機能の分析.日本体力医学会(広島)1996.9.18.

野中壽子1,赤滝久美,渡壁 誠,伊藤晋彦,三田勝己,鈴木伸治2,村地俊二31名古屋市立大,2伊豆医療福祉センター,3愛知県立看護短大):膝関節伸展運動における等粘性収縮(isoviscous contraction)特性.日本体力医学会(広島)1996.9.18.

中西 恵1,原 幸一(1津島児童相談所):知的障害者のバウムテスト-樹冠と幹の発達的視点から-.日本心理臨床学会(東京).1996.9.21.

渡壁 誠,三田勝己,久野弘明1,伊東正美11中部大学大学院):関節機能障害を持つ歩行モデル.日本ME学会(熊本)1996.10.24.

塚原玲子,間野忠明11名古屋大):筋交感神経単一節後遠心線維の発射パターン.日本自律神経学会(甲府)1996.10.25.

青木 久,塚原玲子,久野裕子:重度身体障害者のパソコン利用支援システム-キーボード入力に代わる入力機器の開発と評価.バイオメカニズム学会(富山)1996.10.27.

青木 久,塚原玲子,矢部京之助11名古屋大):動的な筋力発揮がMEPs振幅に与える影響.日本脳波・筋電図学会(新潟)1996.11.1.

伊藤晋彦,三田勝己,赤滝久美,渡壁 誠,添田敏視1,野中壽子2,加藤厚生31セノー株式会社、2名古屋市大、3愛知工大):粘性負荷に対する筋収縮(等粘性収縮)の力学的特性-等張性および等速性収縮との比較-,第11回生体・生理工学シンポジウム(大阪)1996.11.28.

綿巻 徹:大会準備委員会企画シンポジウム「ことばの発達支援に語用研究の果たした役割」日本教育心理学会38回大会(つくば)1996.11.3.

安藤幸司1,赤滝久美,三田勝己,伊東保志2,伊藤正美31中部大,2鈴鹿医療科技大,3理科学研)Mechanomyogram(MMG)におけるBulk Movementの除去.日本体力医学会東海地方会(名古屋)1997.2.15.

西野知子1,綿巻 徹(1能力開発部):一女児の発話の成長曲線.日本発達心理学会8回大会(吹田)1997.3.28.

綿巻 徹:発達障害研究の立場から見た表象機能の成立とその条件.ミニシンポジウム「表象機能の成立とその機制」.日本発達心理学会8回大会(吹田)1997.3.29.

綿巻 徹:自閉症児の遊びをとおして見た遊びの謎.ミニシンポジウム「発達という謎」.日本発達心理学会8回大会(吹田)1997.3.29.

講演など

西村辨作:障害児をどう理解するか 市立豊明小学校(豊明)1996.5.27.

三田勝己,渡壁 誠:関節可動障害による異常歩行-Neural Rhythm Generatorをもつモデルとシミュレーション-.理研BMCフォーラム(名古屋)1996.6.3.

三田勝己:リハビリテーションとサポートテクノロジー.コンピュータアシスティッドサージェリを志向したメディカルロボット開発研究会(名古屋)1996.6.4.

西村辨作:自閉症児の教育 愛知県教育委員会講習会(半田)1996.6.7.

西村辨作:障害児の言語治療 岐阜県土岐市ウェルフェアセンター(土岐)1996.6.21.

綿巻 徹:ダウン症言語発達研究の動向と展望.九州大学(福岡)1996.7.13.

綿巻 徹:パソコンで学ぶことばとかず.現代社会と子どもの発達研究会第7回研究会(京都)1996.8.10.

綿巻 徹:発達障害児の言語発達と指導法. 平成8年度東京学芸大学公開講座「特殊教育における教育診断と治療教育の統合(4)」.東京学芸大学(小金井)1996.8.21.

赤滝久美:筋音(MMG)で筋線維萎縮を評価する可能性.第11回タテシナハビリス(茅野市)1996.8.25.

渡壁 誠:脳性麻痺者における立位・歩行障害に関する生体力学的研究. 第11回タテシナハビリス(茅野市)1996.8.30.

伊藤晋彦:新しい筋力・筋パワートレーニングのための基礎的検討,第11回タテシナハビリス夏期セミナー(茅野市)1996.8.30.

西村辨作:障害児の母親の心の在りよう 県立小牧養護学校(小牧)1996.9.4.

綿巻 徹:自閉症児のことばの発達.春日井市障害児保育自主研修会(春日井)1996.9.18.

三田勝己:加齢と障害を測るサイエンス.名古屋市立大学市民公開講座(名古屋)1996.9.28.

西村辨作:ことばとコミュニケーション 岡崎市障害児親の会ひまわり会(岡崎)1996.10.4.

西村辨作:コミュニケーション コロニー中堅職員研修Ⅱ (愛知県コロニー)1996.10.17.

西村辨作:障害児のことばの発達 常滑市立千代田学園(常滑)1996.10.21.

西村辨作:障害児の教育と教師の心の健康 愛知県教職員組合教育研究集会(名古屋)1996.11.2.

西村辨作:コミュニケーション 共和病院セミナー(名古屋)1996.11.19.

綿巻 徹:精神遅滞児のことばの発達.春日井市障害児保育自主研修会(春日井)1996.11.20.

西村辨作:子どものことばの発達 あさみどり会館(名古屋)1996.11.26.

三田勝己,赤滝久美,鈴木伸治1,中村博志21伊豆医療福祉センター,2日本女子大学):重症心身障害児の柔軟性の経年的変容とその対策.厚生省精神・神経疾患研究委託費「重症心身障害児における病態の年齢依存性変容とその対策に関する研究」平成8年度班会議(東京)1996.11.27.

西村辨作:子どものことばの発達 安城市立サルビア学園(安城)1996.11.29.

綿巻 徹:ダウン症児の言語発達における共通性と個人差.九州大学(福岡)1996.12.18.

西村辨作:母と子のコミュニケーション 岡崎市精神薄弱児療育センター若葉学園(岡崎)1997.1.19.

西村辨作:障害児のコミュニケーション 豊田市立養護学校 1997.2.1.

三田勝己,赤滝久美,渡壁 誠:寝たきり状態がもたらす弊害-廃用症候群-.北海道療育園職員研修会(旭川)1997.2.24.

西村辨作:障害児のきょうだい達 岡崎市障害児親の会ひまわり会(岡崎)1997.3.7.

その他の研究活動

学術集会主催

三田勝己:計測自動制御学会生体生理工学シンポジウム(大阪)1996.11.27.~11.29.

地域活動

三田勝己,赤滝久美,渡壁 誠,伊藤晋彦:精神発達障害児の水泳訓練(中央病院プール)1996.4.~1997.3.

青木 久,塚原玲子,久野裕子:重症身体障害児のパソコン相談室(こばと学園)1996.4.~1997.12.

久野裕子:障害者・高齢者のパソコン利用支援グループ「Skip」(名古屋市)1996.12.~1997.3.

教育活動

三田勝己:生活環境論(名古屋大学医療短期大学部)1996.4.1.~1996.9.30.

青木 久:運動学実習(名古屋大学医療技術短期大学部)1996.4.1.~1996.9.30.

西村辨作:情緒障害児教育特論(愛知教育大学)1996.4.1.~9.30.

綿巻 徹:人間発達学(名古屋大学医療技術短期大学部)1996.4.1.~1996.9.30.

綿巻 徹:教育学(愛知県立春日井看護専門学校)1996.5.1.~1996.9.30.

塚原玲子:運動学実習(名古屋大学医療技術短期大学)1996.6.1.~1996.9.30.

西村辨作:言語障害特論(金沢大学)1996.12.19.~12.22.

綿巻 徹:教育学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.2.1.~1997.3.30.

8.能力開発部

研究の概況

小野 宏

他者に時間をあたえようとすること、
他者にコミュニケーションのための言葉を与えようとすること、
他者にその未来への「開け」を与えようとすること、
つまり、他者に希望を与えようとすること、
-そのような気遣いこそがモラルなのだと思います.
         (小林康夫『知のモラルを問うために』)

 障害を持つ個人に対する広義の職業的な作業(ヒューマン・サービス)は、教授・援助・援護という3つの機能に分類することができる。「教授」とは、既存の環境への適応のために個人の行動を変化させる作業、「援助」とは個々人の行動の成立を容易にするための新たな物理的・社会的手段を環境に設定する作業、「援護」とはそのような新たな援助を恒久的に環境に維持するために社会に請求する作業を指す。かつては、心理学・教育学の方法論を背景にして“能力開発”という概念のもとに行われた作業と言えば、障害を持つ個人に対して、絶えず“待ったなし”の切迫した社会的要請の下で行われた既存環境への適応のための「教授」の作業であった。
 しかし「障害を持つ個人をそのあるがままに社会に受け入れる」というノーマリゼーションの基本的理念にも示されるように、現在の障害領域におけるサービスの中では、生物的属性としての障害の矯正や一方的な環境への適応をはかる「教授」よりも、環境設定の新設や変更によって、他の障害を持たぬ人間に比して遅滞なく行動の成立をはかろうとする「援助」作業が第一義的なものと位置づけられるようになった。ところが「教授」(教育・訓練)に較べて、「援助」のための実証的・科学的な方法論は“最適援助”といった目標設定の評価を含めて未開発な部分が多い。
 本年度の能力開発部の研究の主眼は、この「援助」とその活動に付随する「援護」という要請作業に必要な方法を実証的・科学的に開発すること、さらにその上で最も本人に見合った“新たな環境(援助手段)”のもとでの行動を改めて「教授」していく技術の開発を行うことである。
 「援助」すべき行動の中でも、今もっとも重要視されているのは、“障害を持つ本人が自分たちの生活環境をどう作り変えたいか”、あるいは“それぞれの個人が何を望んでいるか”を表明しそれを実現していく「自己決定」に関するものである。本年度も昨年にひき続き、場面は地域から居住施設まで、障害も重度・重複から軽・中度に至るまで、ひとりひとりの個人がそれぞれの自己決定に基づいた、より質の高い生活を送ることを実現するための、理論から方法・技術そして評価に至るまでの研究が行われた。
 昨年からスタートした、小野を代表とする科学研究費による「学校教育を終了した知的障害をもつ人の生活実態に関する調査」では、本年度は『愛知県手をつなぐ親の会』の協力も得て、学校教育終了後に就労の場や家庭など地域生活の場において、どのような社会サービスや資源が求められているかについて、「問題行動」などの出現などを絡めて郵送による調査が行われた。現在、回収と集計が進行中であるが、加えて、より自由に意見を収拾するためにインターネットを用いた実験的な調査方法が検討されている。
 重複障害を持つ個人の食べ物や活動に関する「選択決定」(choice-making)に関する研究もひきつづき行われた。プロジェクト研究(PⅢ-B)の報告にも詳しいが、「選択」のパターンを統制する外的刺激の効果が検討された。特に昨年検討された「否定選択肢を含むメニュー」と同様に、自己決定的な反応パターンを生み出す刺激としての「貨幣」の効果が確認された。また、授産所の園芸班の寮生・職員の協力を得て行われた「集会」に関する研究においても、回を重ねるごとに、知的障害を持つ個人においても、非常に固有で生産的な環境設定の変更に対する提言を自発させ得る事が確認された。またそうした作業環境への関与に伴って、全体の売り上げにも変化が生じることが実証的に示された。残された問題は、本人たちによって示された極めて誠実で生産的な提言に対してそれを必ずしも実現できない環境条件の分析とそれを推進する援護システムの開発である。
 一連の「自己決定」の研究などを通して、能力開発部がこれまで行ってきたこと、そして今後も目指すべきことは、本来的な意味で「他者にコミュニケーションのための言葉を与えること」と表現できよう。ここで言う「コミュニケーション」とは、旧い発達概念に伴う能力変化や単なる言語媒介の習得で言及される狭義のそれではない。個人個人が社会的に人を動かしそれによって生きる環境を変化させていくという意味でのよりダイナミックな社会関係を示すものである。
 新しい研究パラダイム下では、「援助」、(新しい環境下での)「教授」、そしてそれらの継続を要請する「援護」とは三位一体のものとして進行する必要がある。そこでは、「報告」「発表」という行為は、終了した研究の公開ではなくむしろ未完の研究における不可欠な過程である。この新しいパラダイムには、それにふさわしい発表の場やメディアの開発も必要である。1996年6月に研究所の協賛を得て当能力開発部が主催組織として行った第14回日本行動分析学会は、そのような場のひとつとして準備され、県内外の障害福祉・教育の多くの関係者と研究者、そして一般市民が意見の交換を行うことができた。さらに年度末に行われた公開シンポジウムの中でも、当部門が中心となって企画された「知的障害を持つ人の『自己決定』-理念から技術へ」のセクションのもとでは愛知県にとどまらず全国から研究者や福祉・教育関係者が集い交流することができた。福祉や教育の現場への情報伝達あるいは意見交換の場に利用されてきたBBSネットワーク“MARUMONET”もインターネットの普及に応じて新たなあり方や機能が検討されているが、公開セミナーとして開かれた「能力開発部セミナー」におい ても、将来のコミュニケーション・システムとしてのインターネットの機能や問題点が討議された。

重度知的障害者の学校卒業後の粗暴化・無力化の実態と治療方法に関する臨床的研究(1)

小野宏、望月昭、渡部匡隆、野崎和子、西野知子

 養護学校の義務制が施行され15年が経過し、重度精神遅滞、自閉症、ダウン症など発達に重篤な障害をもつ多くの知的障害者が高等部を卒業し就労や社会参加の段階を迎えている。そして、重度の知的障害者の社会的自立への取り組みが徐々に行われるなかで、最近になって深刻な問題として指摘されつつあるのが、青年期・成人期以降に顕在化する粗暴化・無力化といった神経症・精神病様症状である。それらの症状や問題は、彼らの社会的自立に対して新たな障害を派生することになる。パニックや暴力などの急激な情動的興奮とその一方で活動性が著しく低下するような相反する症状は、親や担当職員の援助を極めて困難にさせるだけでなく、施設や作業所からの退所を余儀なくされるなど社会参加を進めるにあたって厳しい状況を生み出すことになる。そこで、思春期・青年期以降、特に学校卒業以後に顕在化する粗暴化・無力化の実態を明らかにし、それらの問題の改善と社会参加を促進するためのアプローチを開発することをねらいとして本研究が計画された。
 本年度は、学校を卒業した重度知的障害をもつ人々の粗暴化・無力化の実態を明らかにするための調査研究を進めた。先行研究のレビューをもとに7回の会議を経て調査質問紙を作成した。そして、「愛知県手をつなぐ親の会」をはじめとした関係諸機関との連絡・調整に続いて、平成9年1月から郵送法による調査を開始した。現在、質問紙が返送されてきており、今後、回収された質問紙の分析と事例をもとにした実証的研究を進めていく予定である。

 本研究は、文部省科学研究費補助金(基盤研究B No.07451039)の助成を受けた。

高次条件性弁別課題による時制文脈の学習(4)
-学習プログラムの妥当性-

望月 昭、野崎和子

 高次条件性弁別課題による「まだ」と「おわり」という時制文脈の学習プログラムと手続きについて、健常の成人6名による妥当性の測定を行った。これまで聴覚障害と知的障害を併せ持つ個人に対して行われた場合の「まだ」と「おわり」に対応する単語をそれぞれ無意味な文字綴かサインに置き換え、①コンピュータによる高次条件性弁別課題5セットのプレとポストのテスト、②基本条件性弁別課題(コンピュータ課題のうちの1セット)の訓練(正誤のフィードバック付き)、③絵カードの並べ替えとプロダクションのテストが実施された。最後に、無意味の文字綴あるいはサインで示された単語が、日本語で何に該当するかを尋ね、獲得された無意味単語が「時制(まだ・おわり)」の概念と一致しているかどうかを確認した。なお、6名のうち文字モードを用いたプログラムに3名が、サインモードを用いたプログラムに3名が参加した。その結果、コンピュータによる高次条件性弁別の基本の訓練課題については6名とも1~2セッションで90%以上の成績に達し、またフィードバックを受けなかった残りの課題4セットについてもすべて転移が見られた。絵カードのプロダクションについては 、サインモードを用いた3名の参加者では獲得したサインを使った2語のプロダクション転移が見られたが、文字モードを用いた参加者においては3名とも“2語では表現できない”という記述がなされた。また、無意味綴り(サイン)に該当する日本語は、「前と後」(サイン1名、文字1名)、「始めと終わり」(サイン1名)、「その1個前とその1個後」(文字1名)という回答がなされた。残りの2名のうち、サインモードの参加者は、「まだ」は不明で、「おわり」がOK、文字モードの参加者は「日本語には置き換えられない」という回答であった。これらの結果から、特に文字を用いた条件性弁別課題の構造(文脈・見本の刺激モードなど)に問題があることが示唆された。

「集会」における自己決定と作業環境の改善の援助(2)

渡部匡隆

 コロニー授産所の園芸科において、知的障害をもつ本人の「自己決定」の実現のための援助技術の問題について検討してきた。そして、その具体的な方法として、「集会」という場面を設定し、そこで知的障害をもつ本人が自らの環境を改善していくための要求や意見を表明することができるか検討してきた。ところが、自己決定が保障されるためには、障害をもつ本人と周囲の人々とが対等に交渉や交換できる設定が保障されていることが求められる。園芸科を例にすると、「集会」という設定が、個々の入所者と一緒に作業している同僚や職員との間で対等な立場での交渉行動を成立させることになりえたか明らかにする必要がある。そこで、本研究では、自己決定の実現のための方法として開発した「集会」という設定が、フェアーな交換の場であったかどうかを具体的に検証した。
 本研究の結果、①日常場面において要求発言はほとんど生起しないか、あるいは取り上げられることが少ない、②「集会」を設定することによって要求発言が生起し、職員もそれらの要求発言に対する要求充足行動が生起した。③本人の要求発言及び職員の要求充足行動によって、本人の作業への参加・関与が高まるとともに来客数の増加という面での生産性の向上がもたらされた。以上から、「集会」という場面は、本人の自己決定を保障していくための機能的な文脈刺激になり得たことが示唆された。今後の課題として、本人の自己決定が拡大し続けるために、本人の要求表明の機会をさまざまな生活場面に設定したり、職員の要求充足行動が生起していくための環境設定など、入所者の要求発言を実現していくための援護方法について検討していく必要がある。

知的障害者による販売作業への簡易会計システムの導入の試み

渡部匡隆

 コロニー授産所の園芸科において、「集会」をもとにしたQOLの向上のための実証的研究を進めてきた。そして、「集会」における要求発言をもとにした作業環境の改善を進めていくことによって、本人の作業への参加・関与が高まることやそれにともなって生産性そのものも向上することが示されてきた。しかしながら、「集会」において入所者の要求発言が行われてもさまざまな理由により対応が保留されている内容があった。その一つが販売における会計作業であった。会計作業への参加希望が表明されても、計算技能が未習得であることや電卓などの操作が十分でないなどの理由により、会計作業への参加が遅延されるか、対応が困難なままであった。しかしながら、販売作業の意義として、自分たちの作った品物を金銭と交換するということを通して、障害をもつ本人と一般の人々とが対等な立場として交渉することがあげられる。重度の障害があっても、対等な立場として交換が成立するために援助や設定を整えていく必要がある。
 そこで、入力操作や商品と金額との対応を大幅に簡易化した『簡易会計システム』を考案した。今回開発した『簡易会計システム』を導入していくことによって、それまでレジ作業への参加が困難とされてきた入所者において、会計作業への参加が促進され一般の人々との交換という行動が成立するかどうかを検証していくことを目的として本研究が開始された。平成8年度は、システムの設定及び開発を中心に行ってきた。平成9年度から、システムの評価及び効果の検証を行う予定である。

高次条件性弁別課題による時制文脈の学習(5)
-日常場面への般化の測定-

野崎和子、望月 昭、杉本高子1

 「まだ」と「おわり」という時制に関する学習の最終的な目標は、日常場面での能動的な使用にある。学習中の聴覚障害と知的障害を合わせ持つ対象者2名について、今年度当初より、まず日常場面での出来事に対する「時」の記述への般化測定を開始した。測定の方法は、A5大の用紙に対象者の名前と出来事(例えば、おふろ)を記入し、それに対して「まだ」か「おわり」かを対象者にマルを付けて答えてもらうというものである。約1年間を通して2名の対象者で、それぞれ202件(A)と392件(B)のデータが回収されている。対象者Aについては、学習場面のコンピュータ課題では出来事の内容を超えて学習の転移や般化が見られているにもかかわらず、正答率は51%であった。回答のパターンとしては、各出来事に対して「まだ」か「おわり」のどちらかを固定させて回答している傾向が見られた。対象者Bについては、正答率は63%であるが、正答率の非常に高い出来事がいくつか見られた。しかし、そういった正答率の高い出来事と、類似のコンピュータ課題での成績が必ずしも一致しなかった。そこで、施設の生活場面でのいくつかの出来事を「まだ」「出来事の進行中」「おわり」という3段 階の写真に撮ってカードを作成し、並べ替えや表出のテスト(tabletop task)を試みた。一方、コンピュータ課題で用いられている線画に似せた場面を作って写真に撮り、同様のテストを試みた。その結果、対象者Aではどの写真についても高成績を示し、対象者Bでは、前者よりも後者の写真課題の方が高成績であった。さらに、写真を直接コンピュータの画面上に呈示して高次条件性弁別課題を行い、対象者の転移や般化の構造を確認する必要があるが、現プログラム(MATCH90N)の刺激呈示は単色画像のため、鮮明な写真の弁別には対応できない。このような問題を解決すべく、現在、プログラムの修理(ウィンドウズ95版への移植)を行っている。

 1養和荘

うつ伏せ寝による乳児期の下肢の変形について

中村 みほ、鈴木 榮1

 近年うつ伏せ寝をめぐりSIDSをはじめとして様々な問題が提起されている。乳児期早期のうつ伏せ寝により下肢の変形が起こるとする「うつ伏せ寝寝癖症候群」もそのひとつである。この症候群の提唱者らは(うつ伏せ寝のように)一定の肢位で常時寝かせられていると生後一ヶ月頃から関節の拘縮が次第に発生してくるとしている。
 我々は発達の正常な満期産児において、うつ伏せ寝に起因すると考えられる下肢の変形がどの程度あるか、また、あるとすればどのくらいの期間のうつ伏せ寝が下肢の変形に影響を与え得るかを明らかにするため、乳児健診を受診した児を対象に検討した。
 うつ伏せ寝で寝ている発達の正常な満期産児(3ヵ月児22名、11ヵ月児77名)を、一日あたりのうつ伏せ寝による睡眠時間の長さにより3群に分類し、それぞれについてうつ伏せ寝時の肢位(一定の肢位をとっているかどうか)及びうつ伏せ寝を経験した期間を明らかにした上で、足部の変形の視診とThigh foot angleの測定を行った。対照としてうつ伏せ寝を一度も経験していない3ヶ月児37名11ヶ月児40名をおいた。
 その結果、いずれの群も、うつ伏せ寝の期間、および一日あたりのうつ伏せ寝時間の長短に関わらず、下肢の変形、Thigh foot angle の異常はみとめられず、うつ伏せ寝が下肢の変形に影響している証拠は得られなかった。
 文献的には早期産児では下肢の変形とうつ伏せ寝の関連を指摘するものが散見される。今回の検討例には早期新生児期からうつ伏せ寝を開始した例が比較的少なかったことなどからうつ伏せ寝の時期の影響、ならびにうつ伏せ寝の効果を増強する他の要因などについてはさらに検討する必要があると考えられた。

 1名古屋大学医学部小児科 名誉教授

一女児の発話長の成長曲線

西野知子、綿巻 徹

 本研究は、日本の子どもの文法発達を表わす指標として、平均発話長を利用可能にするために行なった。平均発話長は、一発話当りの文構成素数を表わしたものであり、英語圏では1973年に、形態素を単位にした平均発話長(MLU)が言語発達測度として確立され、現在では、健常児や障害児の言語発達段階を確認するための必須の道具として広く利用されている。わが国ではまだ、平均発話長の計算法は確立されていないが、最近、いくつかの計算法が提案、検討され始めた。日本語では、統語中心の英語とは違って、語形規則が文法の大きな比重を占めている。そのため、統語知識の発達と語形知識の発達を総合的に、かつ、分離的にとらえることのできる日本語のための測度を開発する必要がある。しかし、これまでに提案された計算法は、必ずしもこの条件を満たしていない。
 本研究は、この条件を満たすための工夫として、2種の平均発話長と、一単語当りの助詞助動詞付加数の測度を使った。つまり、自立語だけを数えたMLUw(統語発達のみを映し出す平均発話長)と、自立語の数に助詞と助動詞の数を加えたMLU(英語の形態素単位の平均発話長に近似し、統語発達と語形発達の両方をこみにして映し出す平均発話長)、また、計算式「MLU÷MLUw-1」で算出した一単語当りの助詞助動詞付加数(語形の発達のみを映し出す指標)を使って、一健常女児の20か月から33か月までの統語と語形の成長過程を検討した。家庭で録音した各月1時間の発話を、発話解析プログラムJUPITA(綿巻、1993)を使ってパソコン処理した。統語の発現は、語彙の爆発および多様な助詞助動詞が一挙に出現する時期と重なっていた。その後、助詞助動詞は堅調に伸び続けたが、29ヵ月以降は停滞することがわかった。一方、統語の発達は、最初緩慢だったが、26ヵ月から堅調に進んでいた。

研究業績

著書・総説

望月 昭:発達障害指導事典,「オペラント条件づけ法」pp. 58-60,「強化」pp. 133-135,「応用行動分析」pp. 54-55,「機能的言語行動の指導」pp. 113-114, 小出進(編集代表)学研,1996.

渡部匡隆:発達障害指導事典,「過剰修正法」pp. 75-76,「寡動」p. 93,「収集癖」p. 281,「重度障害」pp. 283-284,「衝動性」p. 323,「転導性」pp. 482-483,「般化」pp. 542-544,「分化強化法」pp. 573-575. 小出進(編集代表),学研,1996.

野崎和子:発達障害指導事典,「行動福祉」p.183, 小出進(編集代表), 学研,1996.

その他の印刷物

小野 宏:ケースカンファレンス研究会だより.コロニーだより.1996.4.1.~1997.3.31.

小野 宏:親身になること.ようらくだより.22.1996.

望月 昭・渡部匡隆・野崎和子:日本行動分析学会第14回大会発表論文集.1996.

学会発表

望月 昭:知的障害を持つ個人の「自己決定」を援助するとは?-その目標設定と技術-.(企画と司会).日本行動分析学会(名古屋)1996.6.8.

望月 昭:行動主義的であること=環境設計的であること:いま何をシミュレート(環境設計)すべきか.自主シンポジウム「自閉性障害への行動論的教育福祉援助(2)-21世紀に向けての理念的・環境設計的検討-」.日本特殊教育学会(東京)1996.9.14.

Mochizuki, A.: The ideal choice-making paradigm for persons with mental retardation: Are they demanders, consumers, or exchangers? Symposium: What is best in behavior analytic research and practice for persons with mental retardation?: The role and functions of behaviorism in the era of the inclusion. (Plannning and presentation in) 3rd International Congress on Behaviorism and the Sciences of Behavior (Yokohama) 1996.10.18.

渡部匡隆:知的障害を持つ個人の「自己決定」を援助するとは?-その目標設定と技術-.ワークショップ話題提供者.日本行動分析学会(名古屋)1996.6.8.

渡部匡隆:重度障害を持つ個人の社会参加・地域生活の確立-「共生」のための支援を探る-.自主シンポジウム企画及び話題提供者.日本特殊教育学会(東京)1996.9.16.

西野知子,綿巻 徹:一女児の発話長の成長曲線(中間報告).日本発達心理学会(吹田市)1997.3.28.(論文集241p)

講演など

小野 宏:ケースの見方.師勝町共同作業所研修会(師勝)1996.4.12.

小野 宏:情緒の問題への対応.むつみ福祉会(名古屋)1996.4.30.

小野 宏:子どもの接し方.警察官研修会(名古屋)1996.6.19.

小野 宏:自閉症と精神遅滞について.コロニー看護婦研修会(愛知県コロニー)1996.6.19.

小野 宏:困難事例について.東三河授産所協議会研修会(西尾)1996.7.6.

小野 宏:自分流の子育てを見つめる.ハビリ棟親の勉強会(愛知県コロニー)1996.7.17.

小野 宏:コロニーから見た地域とコロニー.第17回コロニーセミナー(愛知県コロニー)1996.7.20.

小野 宏:子育てを考える.岡崎芽生えの家親の研修会(岡崎) 1996.7.29.

小野 宏:障害を持った人が大人になると.豊橋あすかの家保護者会(豊橋)1996.8.17.

小野 宏:施設の指導について.愛護協会研修会(名古屋)1996.8.20.

小野 宏:人を見るということ.愛知カウンセリング協議会研修会(名古屋)1996.8.30.

小野 宏:討議法.コロニー職員研修会(愛知県コロニー)1996.9.4.

小野 宏:インシデント・プロセス法とは.名古屋市立大学児童部研修会(名古屋)1996.9.10.

小野 宏:支えるということ.島根県隠岐郡地域職員研修会(島根)1996.9.14.

小野 宏:進路について.東海北陸手をつなぐ親の会研修会(名古屋)1996.9.29.

小野 宏:青年の障害者と付き合う.コロニー授産所親の会(愛知県コロニー)1996.9.29.

小野 宏:コミュニケーションについてコロニー看護婦研修(愛知県コロニー)1996.10.17.

小野 宏:インシデント・プロセス法の紹介.ハビリ棟研修会(愛知県コロニー)1996.10.23.

小野 宏:子の文化・親の文化.べにしだ講演(名古屋)1996.11.1.

小野 宏:効果的な援助.東海北陸養護学校教頭会(名古屋)1996.11.1.

小野 宏:子どもの将来.瀬戸のぞみ園25周年記念講演(瀬戸)1996.11.8.

小野 宏:インシデント・プロセス法研修会.ハビリ棟研修会(愛知県コロニー)1996.11.13.

小野 宏:現場からのメッセージ.常滑市保母研修会(常滑)1996.12.3.

小野 宏:児童精神医学とは.病棟職員向け講義(愛知県コロニー)1996.12.18.

望月 昭:「表出援助法を研究する」ということについて.国立特殊教育総合研究所特別研究「心身障害児の書字・描画における表出援助法に関する研究」第1回研究協議会.国立特殊教育総合研究所(横須賀)1996.6.27.

望月 昭:最重度の知的障害を持つ個人の“好み”を知る.創造科学研究会(名古屋)1996.7.22.

望月 昭:Exchanger-Marker(なんじゃそりゃ).国立特殊教育総合研究所特別研究「心身障害児の書宇・描画における表出援助法に関する研究」第2回研究協議会.国立特殊教育総合研究所(横須賀)1996.10.25.

望月 昭:いじめと応用行動分析学(司会).日本行動分析学会平成8年度公開講座(東京)1996.10.26.

望月 昭:問題行動の理解とそこからの展開-生徒にも教師にもポジティブな展開を-.一宮養護学校職員研修会(一宮)1996.12.6.

望月 昭:重い障害を持つ人の自己決定.こばと学園療育研究発表会(愛知県コロニー)1996.12.12.

望月 昭:日本のFCと欧米のそれとは同じものか?国立特殊教育総合研究所特別研究「心身障害児の書字・描画における表出援助法に関する研究」第3回研究協議会.国立特殊教育総合研究所(横須賀)1997.1.17.

望月 昭:一人一人のニーズに応じた指導の在り方.名古屋市教育センター研究研修会(名古屋)1997.1.21.

望月 昭:「ケース研究」ということについて.平成8年度職員研修(研修Ⅱ).こばと学園(コロニー)1997.1.23.

望月 昭:重い障害を持つ人の「自己決定」-障害を持つ人の authorship-.名古屋市歯科医療センター研修会(名古屋)1997.2.8.

望月 昭:重い障害を持つ子供の「自己決定」-具体的援助の方法-.南養護学校職員研修(名古屋)1997.2.13.

望月 昭:行動障害への対応-重度・重複障害児への指導の実際(Ⅱ)-.平成8年度第3回国立特殊教育研究所短期研修(横須賀)1997.3.3.

渡部匡隆:障害の重い子どものコミュニケーションを高める指導について.愛知県教育センター養護・訓練研修講座(東郷町)1997.7.25.

渡部匡隆:自閉症生徒における社会参加スキルの形成とその成立について.障害者職業総合センター「自閉症者の職業上の諸問題に関する研究会」第1回研究協議会.障害者職業総合センター(幕張)1996.8.2.

西野知子:心身障害児(者)療育基礎研修会(名古屋市)1996.5.23.

西野知子:障害児保育研究会(犬山市)1996.9.25.

その他の研究活動

学術集会主催

望月 昭,渡部匡隆,野崎和子:日本行動分析学会第14回大会開催.名古屋国際会議場(名古屋市)1996.6.8.~6.9.

地域活動

小野 宏:ケースカンファレンス研究会.愛知県コロニー1996.4.1.~1997.3.31.

望月 昭:障害児者福祉教育情報ネットワーク“MARUMONET”運営(愛知県コロニー研究所)1996.4.1.~1997.3.31.

望月 昭:障害児教育事例研究会主宰(名古屋)1996.4.1.~1997.3.31.

中村みほ:言語発達外来(愛知県総合保健センター聴力音声言語診断部)1996.10.1.~1997.3.31.

西野知子:春日井市障害児保育自主研修会講師(春日井市)1996.6.1.~1997.2.28.

教育活動

小野 宏:精神遅滞,児童精神医学(名古屋市立大学医学部)1996.4.1.~1997.3.31.

小野 宏:障害児の保健(愛知教育大学)1996.4.1.~1997.3.31.

望月 昭:障害児教育特論(愛知教育大学)1996.4.1.~1997.3.31.

望月 昭:発達療法治療学特論(名古屋大学医療技術短期大学部)1996.4.1.~1997.3.31.

望月 昭:心理学(愛知県立春日井看護専門学校)1996.9.1.~1997.3.31.

渡部匡隆:心理学(愛知県立春日井看護専門学校)1996.9.1.~1997.3.31.

西野知子:社会福祉学(愛知県立総合看護専門学校)1996.4.1.~1996.9.30.


主題:
発達障害研究所年報 第25号 No.3
50頁~72頁

発行者:
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所

発行年月:
1997年09月

文献に関する問い合わせ先:
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
〒480-03 愛知県春日井市神屋町713-8
TEL.0568-88-0811 FAX0568-88-0829