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認知・知的障害者にとっての分かりやすい情報

ブロール・トロンバッケ
読みやすい図書センター、スウェーデン

項目 内容
発表年月 2001年10月5日

読みやすい図書、及びその概念、またスウェーデンの読みやすい図書、及びデジタル出版について報告

読みやすい出版の目的は、簡単で、わかりやすく書くということである。同時に大人向けに多様な形でそれを行うということである。これを達成するには内容、言語、挿絵、そしてプレゼンテーション、つまり、グラフィックなレイアウトを考慮しなくてはならない。読みやすさとわかりやすさを、質の高いプロの仕事として実現することが必要である。

何故、読みやすい図書が必要なのだろうか。第一に、だれでも文化、文学、情報に理解できる形でアクセスできるという民主主義的権利がある。権利を行使し、自らの生活をコントロールするには、情報に精通している必要がある。

またこれはクオリティ・オブ・ライフの問題でもある。読めるということは、人々に大いなる自信を与え、世界観を広げ、社会参加を可能にする。読むことを通して、考え、思想、経験を共有し、人間として成長することができる。

読みやすい図書は、国連基準規則の強い支援を受けて規則やガイドラインを設けている。国連の規則の第5項と10項は次のように述べている。

  • 政府は様々な障害を持つ人々のために情報や文書類を提供するように対策をたてるべきである。
  • 政府はテレビやラジオ、新聞などメディアがサービスを提供できるように働きかけ、奨励していくべきである。
  • 障害者は健常者と同じように、文化活動に参加できるようにするべきである。
  • 政府は文学、映画、劇場などに障害者がアクセスできる方法を開発するべきである。

ユネスコによる公共図書館声明書も読みやすい図書を奨励しており、以下のように述べている。

“なんらかの理由で、サービスを享受できない利用者、例えば言語マイノリティ、障害者、病院の入院患者、もしくは服役中の方々などには、特定のサービスや図書を提供することが必要である”

国際図書館連盟(IFLA)は、読みやすい図書のためのガイドラインを作成している。このガイドラインは読みやすい図書の必要性、主要な対象グループ、読みやすい出版物の一般的なガイドラインを示している。

読みやすい図書を必要としている2つ主要なグループとしては、障害者のグループ、及び、語学力、読書能力が不十分な人々である。一部の読み手にとっては、こうした読みやすい図書に対する恒久的なニーズがあり、また他の読み手には、これは一時的に有効であると考えられる。例えば読書訓練、または読書のためのきっかけとなる場合もある。対象グループの中には次のような人たちが含まれる。知的障害者、もしくは精神障害者、印刷字を読めない障害、もしくは識字障害をもっている方、DAMP/ADHD(注意欠陥多動障害)の人々、これは注意や認知の欠陥、運動神経能力に問題のある方で、しばしば読み書きや学習障害に繋がる。それ以外にも、自閉症者、先天性聴覚障害者、視聴覚障害者、失語症者、そして一部、高齢者の方々も対象となる。これらの方々全てを含めると、およそ人口の少なくとも7、8%ぐらいは占める。また語学力、読書能力が限られている人々も含む。例えば、新移住者や移民の方々、文盲、すなわち文字の読めない機能障害者、そして教育を受けられない、または受けていない人々、そしてある意味では学童もこの中に含まれる。成人識字率の国際調査の結果、スウェーデン及び、一部その他の国では、人口の75%から80%くらいの人がかなりの読書力を持っているということがわかった。しかしながら同時にこれは、およそ人口の20%から25%くらいの人があまり読めないということを示している。すなわちそれらの方々は普通の一般新聞を読んで、うまく理解することができないということである。こうした読書力は、実際に現代社会で機能していくためには、必要とされるレベルである。これは9年間の学校教育レベルの読書力に値する。こうした方々は、ただの散文よりも簡単で、わかりやすく書かれたものが必要であり、読みやすいツールをなんらかの形で必要としていることになる。私どもの憶測では、人口のおよそ12%から15%の方々が、なんらかの読みやすいツール、もしくは読みやすい図書から恩恵を受けることができ、こうした対象者のニーズを一くくりの読みやすい図書モデルというものにまとめることはできない。共通の障害を持っている場合もあるが、個々には違いがあるからである。

文章を読みやすくするには、どうしたらいいのだろうか。大まかな指針としてはまず、具体的に書くということ、抽象的表現や、比喩などは避ける。また、動きに論理的な一貫性を持たせる。アクション、動きは直接的、かつシンプルにする。長い前置きはなくし、登場人物も多すぎないようにする。そして、象徴的な言葉遣いや、隠喩を避ける。読者を誤解させることにもなるからである。そして簡潔に書く、これは一つの文章の中で、たくさんのアクションを入れないということ、また1行内に同じ成句を使うということである。また、難しい言葉はなるべく使わない、しかしながら同時にきちんとした大人の言葉を使う。馴染みの薄い言葉に関しては、文脈でわかるようにする。また、複雑な関係も、出来事が時系列的に基づいてさえいれば、具体的で論理的に説明できることが多い。あるノーベル賞受賞者が、「ものは読みやすくなくてはいけない」と述べている。これは読みやすい図書の基本である。

読みやすい図書は、書かれた文章だけに限らない。あらゆるプレゼンテーションにおいて必要である。すなわち、レイアウトや、デザイン、書体、そして文字の大きさも関わる。まずレイアウトは、明確で魅力的でなくてはならない。余白や行間を広くすると読みやすくなる。また、文章は短いブロックに分け、1ページあたりの行数を制限する。また、書体ははっきり、かなり大きめのものを使う。そしてこの文字の大きさは、実際に続いた文章を示したい場合は12から14ポイントが適切である。そして文字と紙の背景や、色とのコントラストは十分にはっきりしたものにする。読みやすい図書の中で、挿絵、イラストは、一般的な出版物よりも重要な意味を持っている。いわゆる動画というものも同じように重要な役割を果たす。文章を具体的に挿絵で示すと、伝えたいメッセージがよりわかりやすくなる。しかしながら、非現実的な絵を使うと、雰囲気を壊してしまったり、反対に感情を高めたりもする。そして絵と文は必ず合致していなくてはならない。絵が間違った方向に読者を導くようだと混乱をきたす。また読みやすい図書レベルはひとつではない。同じような読書力の問題を抱える人々の間でも、その能力には差があり、こうした図書は、様々なレベルのものが必要である。例えば絵がベースになった物語程度のものから、ある程度の読書力を要しながらも、同時に一般的な本や新聞よりもやさしいようなものまで様々なものを用意することが必要になる。

読みやすい図書の形で提供すべきものは、あらゆるメディア、インターネット上の電子、デジタル出版なども含む。将来を見据えると、デジタル出版の分野は、読みやすいフォーマットで提供することがより重要になる。文学(フィクション、ノンフィクション)、書き下ろし、古典文学、小説、短編、詩集、サスペンスなどあらゆるジャンルのもの。そして新聞及び雑誌、これは特別に読みやすく書かれた新聞、もしくは一般新聞の一部に読みやすいページを入れることが考えられる。そして社会に関しての情報提供も重要で、例えば選挙や税金情報、もしくは保険会社や銀行などからの情報、また、ゆっくりしたペースのわかりやすいテレビやラジオ番組が提供されなくてはならない。それ以外にも例えば、録音図書や文書などの音声図書が、わかりやすい、読みやすい、聞きやすい形で、それも、できればデイジー規格に沿ったものが好ましいと考える。

次に情報技術、及び、デジタル出版の分野で、デジタル技術、例えばコンピュータのソフトウエアプログラムや、マルチメディアのツール、例えばCD―ROM、DVDやウェブサイトなどが障害を持った人々、そして精神障害の方々に非常に有効であると考えられている。アクセス性の問題については、デジタル形式のものであれば、利用者のスキルに合わせて利用することができるので、大いに効果的である。そうした障害者が必要とするソフトを作ることが重要である。つまり機能的なインターフェイスを開発する必要がある。そういった意味でデイジーやSMILは非常に有効であると考えている。

スウェーデンにおいては、読みやすい図書及び、スウェーデン読みやすい図書基金がある。

読みやすい図書基金というのは、出版社の役割を果たしており、読みやすい図書及び機能を情報能力センターとして提供している。この基金は国会で承認され、1987年に設立された。そして政府が憲章を作成し、理事長や役員を任命している。運営は、物品販売による収入、及び国の補助金が大体半半の割合で成り立っている。またこの基金では、「8ページ」という名の読みやすい新聞を発行している。情報やマーケティング、また読書指導員、そして委託製作やコース、それ以外にも、開発も始めたいと考えている。これは実験的な開発で、特に新たなデジタルの技術に対して開発に関わっていきたいと考えている。「8ページ」の新聞は国内外のスポーツ、文化など様々なニュースをカバーし、通常の一般新聞と同じようなものである。これは週間新聞で、テーマの補足資料なども発行していて、記事の背景などを説明している。この新聞の記事のデータベースは、ウェブ上で提供され、合成音声装置を使って提供している。大体10万人の読者がある。また基金では、読みやすい図書、読みやすい本を、基金内の出版部を通して発行している。一般の図書よりも読みやすくわかりやすいものではあるが、難易度は様々なものを用意している。読みやすい図書は、フィクション、ノンフィクションを含め、様々なジャンルに分かれている。あらかじめ読みやすいように書かれたものもあり、古典を読みやすくしたものもある。こうした図書は毎年30冊ぐらいのペースで発行されており、今まで累積で、500冊以上出版している。

またデイジー録音図書は、障害者にとって、特に読書力に問題のある方々にとって、非常に有効であると考える。当基金は、デジタル出版について非常に関心を高めており、これまでのところ、発行した殆ど全ての本は、録音図書、その多くがデジタルのフォーマットに基づいた形で提供されている。またそれ以外にも、マルチメディアに対応し、CD―ROMやウェブ上で提供している。例えば、インタラクティブなドラマというものを特に知的障害者向けに提供している。またウェブ上で、録音新聞を、合成音声で提供している。デジタルフォーマットにおける実験的な試みとして、インターネット上でデイジーを使って様々な実験をしたいと考えている。これは、スウェーデン障害者団体の協力のもとで行う予定である。その中ではニュースやゲームやチャットなどを、インタラクティブなドラマなどと一緒に提供したいと考えており、それ以外にも、DVDによる図書や、電子本なども、実験的な試みを既に開始している。

製作活動は読みやすい図書という分野における仕事の半分にすぎず、いくら良い製品であっても、マーケティングが必要である。そしてこうしたマーケティング活動を通して、読みやすい製品は特別な需要を生み出す。いわゆる文化的に不利な立場の方や、読書に慣れていない、または図書館や書店に殆ど行かないという人々に、どうやってマーケティングすれば良いのかが重要である。従来のマーケティング手法では十分ではない。そしてマーケティングだけの問題でもない。こういった場合、少しずつ、仲介者、例えば教師や障害者の親戚の方々などを通して対象グループに近づく。またそうした方々に影響を与えることも必要で、それにより読書への関心を呼び覚ます。読書指導員のシステムは、読むことに重度の障害を持つ方々に、読むことに対する関心を高めてもらい、態度にも影響を与えると、いうものである。例えば知的障害者や老人性痴呆症の方々、そしてそうした方々の家族や介助者の方に働きかけている。スウェーデンにおける指導員活動は、読みやすい図書基金と、スウェーデン全国知的障害者協会との協力の基に発足した。読書指導員は主に、グループハウスやデイケアセンターのスタッフの中から任命される。彼らの仕事は、読書への関心を高め、刺激するということ、そして読書の手助けをすることで、読書時間や図書館訪問などをアレンジする。またこの活動は、郡、もしくは地域社会によって、規模を広めてきた。現在スウェーデン国内には4000人の指導員が存在している。

我が基金では報告書や出版物、その他公的期間や企業、組織などの様々な文書類を、その読みやすい版として委託製作を行っている。またその他、読みやすい図書の書き方、レイアウトやウェブ情報などを学べる短期間のコースも実施・提供している。

また、各国が読みやすい図書に関してお互いに協力できることがあると考えている。分野としては文学、古典、詩集、絵をベースにした本、そしてニュース記事などがある。これは国際的なニュース記事などを国同士でニュース通信機関や新聞社間で交換することが可能だと考えられる。そして、例えば国連の基準規格や、その他の規格など社会に関しての国際的な情報の提供することができる。またITに関しては、ソフトや技術の開発は、精神障害者の方々を含めて障害を持った方々に特に有益である。そのような意味では、プログラムやソフト、そして技術的な機器の調整、例えばコンピュータのCDプレイヤーなどへの適用及び開発が必要である。それにより、特に知的障害者、また読書力に問題を持った方々にとってわかりやすいものにできる。また、実際に障害者が求めている情報やサポートにアクセスできるように、国際的な標準、例えばデイジーやSMILなどを適用していくことが必要である。これらを、より活用していくことは、ユニバーサルデザイン及び、世界中の障害を持った方々に非常に役に立つと考えている。