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アメリカ・ミネソタ州の障害者福祉 –知的障害領域を中心に

小澤温

書誌情報
項目 内容
所属先 大阪市立大学生活科学部
備考 平成14年度厚生科学研究障害保健福祉総合研究推進事業 報告書

1.入所施設縮小への歩み

1)ミネソタ州の特徴

 アメリカの西海岸(太平洋側)と東海岸(大西洋側)のほぼ真ん中、カナダと国境を接する北部にミネソタ州はあります。人口は450万人ほどで、このうち100万人近くが、ミネアポリス市、セントポール市とその周辺(といってもかなり広範囲です)に住んでいます。森と無数の湖のある州として有名ですが、産業は農業とハイテク産業が中心で、住民の所得も州の財政も、全米の中では豊かな州のひとつです。歴史的には、ドイツ、北欧系の移民がこの地域を開拓した歴史がありますが、海外からの移民や難民の受け入れに寛容な州で、現在では、メキシコ系住民、アフリカ系住民、アメリカ先住民など、都市部では、多様な住民が生活しています。

 ミネソタ州の知的障害者福祉の特徴を簡単にまとめることは大変むずかしいことですが、あえてまとめると、入所施設から地域生活支援へ徐々に時間をかけて進めていったこと、親の会と当事者(障害者自身)の会とが非常によいパートナーシップを作っていること、地域生活支援の中で行政(州や地方)の果たしている役割が大きいこと、の3点になると思います。

2)ミネソタ州の知的障害者福祉の歴史-入所施設縮小への道

 ミネソタ州の知的障害者福祉の歴史をいつから書くかはむずかしいことですが、ここでは、知的障害者の親の会が結成された1951年以降に焦点をあてます。親の会は1973年に「知的障害のある市民のための会」(ARC)と改称し、親だけでなく障害者もそのメンバーとして参加できるようになりました。

 1960年のミネソタ州の状況は、7,115人の州立施設の入所者と数多くの入所施設待機者がいました。これに対して地域サービスは213人が非営利団体によるデイスクールとデイケアセンターに通所していました。1964年にはケネディ教書(入所施設から地域生活支援に重点を移す考え方)によって連邦の法律と考え方が変わりました。この年、州知事が、地域福祉と施設福祉を統合した形で組織的なサービス改革を行うことを表明しました。1965年には州立施設の職員を増員し、施設内処遇の質を上げようとしました。

この当時の状況について、前ミネソタ州ARCの会長であったジェリー・ウオルシュさんは、なぜ、大規模施設ではひとつの寝室に15から100人も一緒でないといけないのか、なぜ、われわれは貧しい環境を認めているのか、だれが入所者のよりよいケアに責任をもつのか、といった疑問が次から次へとわいてきたと語っています。そこで、ウオルシュさんは理想的な小規模施設(当時は350人以上の施設を大規模施設と考えていました)を作ろうと考え、1976年に70人の障害者と家族、きょうだいの居住者を含めて250人が生活する施設を、キリスト教会の支援をもとに設立しました。その後、この施設を拠点としてたくさんの地域居住施設を作っていきました。1978年にウオルシュさんをはじめ州のARC会員がスウェーデンを訪問し、ベンクト・ニーリエさんに会いました。この時のことを、当時のスウェーデンの施設ケアよりもわたしたちが作った施設は質が高いと思うが、よりノーマルなライフを、という理念に大きな衝撃を受けたと語っています。

 州立施設に関する大きな転換は、1981年の連邦の政策によってもたらされます。それは、これまでの知的障害者の入所施設補助のほとんどを占めていたメデケイド予算を地域サービスに転用してもかまわないというものでした。ただし、どのくらいの予算を地域サービスに転用するかは州の判断に任されます。日本に置き換えると、入所施設の措置費を地域サービスに転用してかまわない、ただし、その割合は都道府県の判断による、ということになるでしょうか。ミネソタ州はこの制度を積極的に活用し、地域生活支援に重点を移します。1985年には州制度としてケアマネジメントを導入します。

3)ミネソタ州の歩みから学ぶこと

 これまで、1964年のケネディ教書から脱施設化が急に進んだと理解されていますが、現実には州によって多くの試行錯誤がなされてきました。ミネソタ州の仕組みは行政責任を重視する福祉国家の考え方に近く、北欧のノーマライゼーションの影響も強く受けています。ウオルシュさんによれば、入所施設を縮小するためには、施設待機者の解消の方が先決であって、このために家族支援を充実させないといけないとのことでした。ミネソタ州では待機者解消の地道な取り組みを30年にわたって行ってきたことがわかりました。

2.親の会活動について

1)ミネソタ州ARC(Association for Retarded Citizensの略称)の歩み

ミネソタ州の親の会が結成されたのは1951年のことです。当時は、入所施設しかなかったので、入所施設に入れないで自宅で障害児・者を抱える親は情報もなく、地域の中で孤立をしていました。この孤立した親のネットワークと情報提供のために、親の会は始まりました。1961年には、在宅の障害児・者に対する日中活動の場の運営補助金を得て、デイ(アクテビティ)センターを開始しました。1964年には、障害児・者のキャンプ活動を開始しました。このように親の会活動は、当初、施設に入れない障害児・者とその親に対するさまざまな活動として始まりました。しかし、1964年のケネディ教書によって連邦の法律と考え方が、入所施設から地域生活支援に重点を移す方向に変わりました。この政策がミネソタ州に影響を与え、親の会活動に対しても大きな影響を与えたことは前回の報告に書きました。

1973年には、名称をARCに変更し、親、当事者を含めた組織になりました。その後の活動は、コミュニティ(地域)での生活を進めること、と、親・障害児(者)の権利擁護活動を進めること、の2つの柱を中心にして、現在に至っています。特に、親・障害児(者)の権利擁護活動を進めることを柱としていることは、ミネソタ州ARCの大きな特徴になっています。アメリカでも、社会資源の乏しい州のARCはサービス提供事業者としての側面が強く、権利擁護活動に重点を置くことを困難にしています。

2)ミネソタ州ARCの組織と活動内容

 ミネソタ州ARCは現在9770人の会員と82支部から構成されています。各支部はひとつの郡(カウンティ)の場合もありますが、人口の少ないところでは複数の郡を含んだ広域的なところもあります。

ミネソタ州ARCの活動は、

  1. 親と当事者に対する教育プログラム、ワークショップの企画、出版活動、ニュースレターの配布
  2. 資料、図書、ビデオの貸し出し
  3. 支部の支援、ワークショップの後援、助成金を得る支援
  4. 政策の開発と参加
  5. 障害者の住宅購入支援

などがあります。重要な点は、施設の運営や在宅福祉サービス提供には直接関わっていない点です。むしろ、教育活動や政策開発といった側面に重点を置いて(自分たちで)権利擁護のできる人材を育てることを重視している点です。

3)支部レベルのARC活動の内容

 わたしが訪問した支部は2つありますが、ここでは、ミネソタ州でももっとも権利擁護活動の盛んなヘネピン・カウバー支部(ミネアポリス市を含むエリア)の活動を紹介します。この支部では、ポリティカルパワーづくり(ここでの意味は、制度改善・政策提案活動の意味です)と会員への情報提供が大きな仕事になっています。

この支部も最初は、親の会の活動として始まりましたが、徐々に、当事者の活動が盛んになってきました。現在では、何の情報も持っていない親や当事者が、ここに来て、たくさんの情報を得ながら、力をつけていく(エンパワーされる)ことが起きています。最近では、当事者自身が専門的技術と知識を身につけていくことに力を入れ、当事者によるプログラム責任者を育てていく試みを重視しています。

具体的な活動としては、グループ討議(フォーカスグループの話し合い)があります。現在、この支部では、乳幼児の親、就学前児童の親、学童の親、学齢期から成人期の親、成人期から高齢期の親と当事者、の5つのグループがあります。わたしが訪問したときは、成人期から高齢期の親と当事者の参加するグループの話し合いで、テーマは結婚でした。進め方は、2、3の事例(このときは自閉症の成人事例)をもとに意見を交換するもので、ケースカンファレンスに近いものでした。参加者構成は、全体のコーディネーター(ARC職員)、親、当事者(知的障害だけでなく、身体障害、精神障害のメンバーも参加)、アドバイザー(退職した教員や公務員、専門的な経験のある市民など)、など15人が参加していました。このような中で当事者の意見は反映され、当事者もまた他のメンバーの考えを知ることができます。

4)ミネソタ州ARCの活動から学ぶこと

親の活動と当事者の活動といった区分を越えたフォーカスグループの活動は、わたしたちの国では、ほとんどありませんでしたので、十分検討する必要があると思います。特に、日本では、当事者活動が親睦会活動の域を出ていないことが多いのですが、このARCの取り組みでは、当事者の意識を大きく変え、当事者でさまざまな政策的な発言のできるリーダーが生まれやすくしています。また、親や関係するアドバイザーの考え方も、当事者の考え方を深く知ることによって、その質を高めることができます。

3.ケアマネジメントについて

1)ミネソタ州における障害者福祉制度とケアマネジメントシステム

ミネソタ州は、入所施設から地域生活支援へ着実に進めていった州として注目されることが多いのですが、障害者の地域生活支援の中で、行政(州、郡、市)の果たしている役割がかなり大きいことは知られていません。アメリカの障害者福祉は民間中心で、行政の果たしている役割は小さいという認識がありますが、少なくともミネソタ州では全く正しくありません。ここでは、行政の果たしている役割に注目しながら、ミネソタ州の障害者福祉制度の概要について説明します。

(その1)に書いたように、1981年に連邦は入所施設の補助予算であったメディケイド予算を地域生活支援サービス(これをMR/RCと呼びます)と小規模中間施設(入所施設・病院とグループホームなどの地域居住との中間形態、これをICF/MRと呼びます)に転用することを決めました。ただし、どのくらいの予算を地域生活支援サービスと中間施設に転用するかは州の判断に任されます。そこで、必要なサービスの決定と選択に関する判断方法として、ミネソタ州では1985年にケアマネジメント制度を導入しました。

サービス申請から受給に至るまでの一連の流れは、図に示しました。この図で理解できることは、現行の日本の措置制度による障害者福祉制度にケアマネジメントによるサービス利用を加えると非常に近いものになります。重要なポイントは、ケアマネジャーが州・郡・市の公務員であることです。

ケアマネジャーの条件は、州・郡・市の公務員であり、社会福祉学の修士号取得者、さらに州によるケアマネジメント研修受講者、の3つの条件が課されます。1人のケアマネジャーが40人から60人を担当します。

MR/RCによるサービスは22種類存在し、デイケア、デイサービス、介助具支給、ホームヘルプサービス、ケアギバー(主に親)訓練、レスパイト、個人介助人派遣、専門医療サービス、援助付き雇用、移動サービスなど、福祉だけでなく、医療、労働にわたるまで多様です。これらのサービスは親と同居している障害者だけでなく、グループホームなどの居住者にも適用されます。これらのサービス利用にはケアマネジメントに基づいたサービスプランが必要です。

2)ケアマネジメントの方法について

1985年に州制度として始まったケアマネジメントは大きな変化を遂げて現在に至っています。簡単にまとめると、心身機能の判定に基づいたサービス利用審査とサービス計画作成から当事者・親の希望・要望を重視したサービス利用審査とサービス計画作成に変わっていったことです。ただし、当事者・親の希望・要望を重視することは、方法としてかなりむずかしいことですので、現在でもさまざまな方法を検討しています。しかし、考え方として、当事者・親の希望・要望を重視することはかなり定着してきました。

わたしは、ミネソタ州障害福祉課主催の個人中心計画策定の研修(ケアマネジャー向け、8時間コース)に参加しましたので、そこで使用されている方法について簡単にふれます。研修自体は、日本のケアマネジメント研修と同様に、基礎理論の説明の後、事例演習を行います。事例は知的障害、精神障害の事例が多く扱われました。方法は、基礎情報(アセスメント表や面接記録など)を踏まえて、Aさんが重視している事項、Aさんにとって重要な事項(ケアマネジャーの判断)、この両者の複合的な判断(グループ討議)、の3点から進めます。その結果、Aさん自身の責任範囲(Aさんの自由な活動、行動)、ケアマネジャーが結びつけたいと考えるサービスやプログラム(Aさんの自己決定の上で)、Aさんの責任ではなく、行政・ケアマネジャーの果たさなければならない責任の範囲、の3つを決めていきます。ほとんどグループ討論中心で、本格的に行うとかなり時間がかかります。

3)日本の支援費制度とケアマネジメントシステムの課題

ミネソタ州の障害者福祉制度は、サービス利用資格の判断とサービス計画が一連の流れとして、行政機関によってなされます。もちろん、サービス計画策定には、当事者・親が参加し、意見を反映するように努力はします。重要な点は、ケアマネジャーがサービス提供機関から独立しており、権利擁護とサービスへの苦情対応をしやすくします。逆に、行政による費用抑制が働くのではないかという批判があります。この批判に関しては、ケアマネジャーが担当ケース全体の予算をみながら、優先順位をつけて配分するので、サービスの無駄が少なくなるという利点を強調する考えもあります。

日本の支援費制度とケアマネジメントでは、サービス利用資格の判断は行政機関が、サービス計画は民間事業者が実施する点で非常に混乱しています。また、権利擁護機能は、サービス提供者がケアマネジャーになることによって、中立性がなくなり、著しく低下します。ケアマネジャーの要件や訓練プログラムもミネソタ州と比べるとかなり安易な感じがします。これらの課題は、新しい取り組みの中で、改善していく必要があると思います。

図 サービス申請から受給までの一連の流れ

親・当事者→社会サービス事務所(郡)→ケアマネジャー(郡、市、公務員)
                    ・サービス受給資格審査(心身機能面・収入)
                    ・サービスプランの作成(親・当事者参加)
                        ↓
                   ・地域生活支援サービスの利用(実施事業者)
                   ・(小規模)中間施設への入所利用
                        ↓
                   ・サービスプランの見直し(1年程度)

4.補遺:アメリカにおける脱施設化の評価研究の動向

1)はじめに

 2002年3月,5月~8月にかけて、アメリカ・ミネソタ大学・地域生活研究・訓練センターに、厚生労働科学研究の在外派遣研究により滞在し、脱施設化後の障害者地域支援プログラムの資料収集と分析を行った。

ミネソタ大学・地域生活研究・訓練センターは、UAP(University Affiliated Program)の一環として設立された。UAPは、発達障害者支援・権利宣言法(Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act)の規定に基づいて設置され、全米すべての州に協力機関(その多くは大学)がある。UAPの内容は、学生、大学院生、専門職、現場職員に対する訓練プログラムの提供、地域生活支援のための機器および支援方法の開発、調査研究、専門職、現場職員、関係者への情報提供などがある。ただし、これらの内容は州の機関によって若干異なり、ミネソタ大学では障害者自身がリサーチスタッフとして参加し、重要な役割を担っている点が特徴的である。

アメリカの障害者政策の歴史は、1960年代以前の大規模施設設立政策の時期と1960年代以降のケネディ教書に端を発する脱施設化政策推進に基盤を置いた障害者福祉施策の改革の時期とが明確に区分できる点が特徴的である。1960年代当時、アメリカではノーマライゼーション思想の展開のもとで脱施設を中心とした制度改革に取り組むことが知的障害者の問題から生じ、数々の大規模施設の縮小・解体と地域生活の推進のための基盤(中間的ケア施設およびグループホームなどの小規模住居)整備が行われた。この動きは精神障害者問題にも波及して精神医療における長期入院解消のための退院促進の取り組みが始まったが、精神障害者の退院促進の取り組みは、逆に、大都市のホームレス者の増加といった大きな社会問題を生みだした。

このような現実の中で、1970年代になると障害者が地域で生活をするためには、医療的な支援、福祉サービスの提供、生活の場の確保、所得保障などの様々な地域サービスを提供しなければならないことが明らかになった。そのために拠点となる機関を地域に設置して、様々な地域サービス提供の必要性の判断を集中して行うようにした。このような取り組みは地域における多様な社会資源を組み合わせて対象者に提供する方法を生み出し、ケアマネジメントの先駆けとなった。

わが国では、1990年の福祉関係8法改正時の身体障害者福祉法と知的障害者福祉法の改正により、これまでの施設福祉サービスに比べて比重の低かった在宅福祉サービス整備方針を明確にし、市町村に各種の福祉サービスの措置権限を、身体障害者福祉、知的障害者福祉などの分野別に段階的に移行する方向が示された。1993年の障害者基本法では精神障害者を障害者として位置づけ、精神障害者への福祉サービスの論拠を示した点で重要であるが、このことに加えて、都道府県や市町村の障害者基本計画策定の必要性(努力義務)を示したことも重要である。この障害者基本法の障害者基本計画策定の規定を受けて、1995年には障害者プラン(ノーマライゼーション7カ年戦略)が発表された。

1997年には「今後の障害者保健福祉施策のあり方について」(中間報告)が公表され、施設の多機能化、利用者選択の原則、ケアマネジメントシステムの導入などの点で、高齢者福祉と同様、障害者福祉分野においてもこれまでの福祉サービス供給の考え方に大幅な変更が提案された。この報告書やその後の報告書および意見などをもとに、2000年に社会福祉事業法が改正され、社会福祉法となった。最近の施策の動向をみると、わが国の障害者福祉政策においても障害者の地域生活を推進し、有効な在宅サービスの提供を重視していることが理解できる。また、2002年中に公表が予定されている国の新障害者プランにおいても、入所施設推進政策の転換の可能性が議論されており、アメリカの政策の歩みは、わが国の今後を考える上で大いに参考になると思われる。

しかしながら、アメリカでの脱施設化政策の評価に関する研究は、わが国ではまだあまり紹介されていないので、この論文では、ミネソタ大学・地域生活研究・訓練センターで収集した資料のうちわが国の政策を考える上で重要と思われる資料を整理し紹介した。

2)脱施設化政策の評価に関する研究動向

脱施設化政策の評価に関する研究は大きく、施設から地域に移行した障害者のアウトカム(成果)に関するもの、地域生活者と施設入所者のQOLに関するもの、州別の比較政策研究、の3つに大別することができる。研究論文のうち参考になると思われるものを抽出して簡単な内容を示した。なお、これらの研究論文の中には、アメリカ以外の脱施設化政策を推進した国(オーストラリア、カナダ、英国)における研究も含まれている。

1.入所施設から地域に移行した障害者のアウトカム(成果)に関するもの

縮小化されていく施設に残っている人への脱施設化プログラムの時系列的な効果を検討する論文1)では、調査されたアウトカムは、コミュニテイへのアクセス、社会的活動、コミュニティ・インクルージョン(地域社会への統合および参加)、家族関係と人間関係の選択、適応行動である。施設の縮小化はコミュニテイ・インクルージョンと最も関連し、その他のアウトカムにおいてはあまり変化がなかった。また、多くの者は入所施設の中でも、居住プログラムやデイプログラムを経験していた。適応行動における変化は入所施設から地域に移動しても有意な変化はみられなかった。

知的障害者の脱施設化と地域生活に関するオーストラリアの研究を量的にレビューした論文2)では、8つの異なったプロジェクトから13の研究がレビューされた。これらの研究は、入所施設から地域にある住居に移行する努力、入所施設と地域サービスとの比較、入所施設にかつて住んでいた人の地域への適応、に焦点が当てられている。地域生活では、適応行動の増加、地域への参加拡大、家族や友人との接触の増加に関連していた。問題行動、健康、死亡率では、入所施設と地域生活とでほとんど変化がみられなかった。

英国における脱施設化の効果に関する研究文献のうち、1980年から1994年、に出版されたものをレビューした論文3)では、71研究のうち46研究で、小規模な、地域に基づいた居住サービスは以下の点で有効だった。(1)利用者の活動の増加、(2)ケアスタッフの接触の増加、(3)地域施設利用の増加、(4)適応行動の増加、(5)明らかな行動障害の減少、(6)選択機会の増加、(7)家族、友人との接触の増加、(8)生活水準の向上、(9)地域の受け入れの増加、ただし、行動障害については、違いのないことを指摘している研究もいくつか報告されている。

知的障害者の50人を収容する病院において、1年後にそこから地域に移動する2つのタイプ(病院の敷地内のものと町中にあるグループホーム)の比較を行った論文4)では、適応行動と問題行動に焦点をあてた。適応行動と問題行動いずれも、町中にあるグループホームの生活者の方が、適応行動は増加し、問題行動は減少していた。

少なくとも3年以上、カナダ・オンタリオ州の施設で過ごした108人の発達障害者の地域適応に関する論文5)では、対象者は平均して3.5年地域に住んでおり、平均年齢40歳、平均IQ41、身体障害の重複者である。地域生活によって、日常生活技能は地域生活に入る前に比べて変化がなかった。ほとんどの地域生活者は現状に満足していて、施設に戻りたいものはいなかった。しかし、そのほとんどの地域生活者では援助者(ケアギバー)以外、障害のない人との意味のある関わりはみられなかった。地域生活者にも、行動的な問題、精神医学的な問題に関して、現行の地域支援サービスに追加的なサービスニードのあることを示した。

脱施設化後の4年間、18人の経験を事例的に調査した研究論文6)では、脱施設化は時間をかけたプロセスとして考える必要があること、急激な環境変化ではなくて、代案として、4,5人のグループホームを追求する必要があること、地域生活への定着化のための新しい地域に根ざした支援サービスを開発する必要があることなどの点を明らかにした。

脱施設化に伴う32人の知的障害のある高齢者の適応機能の変化をアセスメントした論文7)では、適応行動のスケールは、1.5年の期間をおいて、開かれた州立施設からICF(中間型ケア施設)に移行した人に対して、2度行われた。全体的な傾向として、地域生活の中で適応行動を増加させた群と非適応行動を持続した群の2群に分かれた。

オーストラリア・ニューサウスウェルス州、リッチモンドプログラムの脱施設化研究の一部として、病院からGHに移行した発達障害者の適応行動と非適応行動の変化を、ビンランド適応行動尺度によって検討した論文8)では、57人の対象者で、26人が地域居住、31人が施設に残っており、事前評価と1年後の事後評価を行った。この結果、適応機能は、移行した群で有意に増加し、病院群では変化がなかった。最も大きな適応行動の増加は、日常生活技能項目である。

費用と職員配置とアウトカムについて、ミネソタ州の州立施設から地域生活に移行した116人の重度、重複知的障害者に対して調査を行った論文9)では、比較群71人は、依然として入所施設にいる者である。アウトカムの変数は、コミュニテイ・アクセス、社会的活動、コミュニテイ・インクルージョン、家族関係、選択、である。属性に関しては、この2群は違いがない。地域居住者群では、住居のサイズ(規模)、住居の公的運営住居か、私的運営住居かの違いがある。地域居住は、入所施設よりも低い費用で、職員やその他の人間関係形成の点でより効果的であった。

適応行動と非適応行動の変化を、重度、重複知的障害者において評価した論文10)では、大規模施設から地域に根ざした居住に移行した10人を、8年間にわたって追跡した。結果は、適応行動ではあまり変化がみられなかったが、非適応行動では地域生活で増加がみられた。これらの所見は、オーストラリア・ニューサウスウェルス州における施設、大規模居住から地域への移行に議論をもたらした。

14人のケア職員のいる住居における51人の知的障害者に対して、適応行動尺度(ABS)を用い、2年間のはじめと終わりの測定評価をした論文11)では、ABS得点は、施設サービスから地域生活移行した時期に比べて引き続いて不適応行動の得点の拡大を明らかにした。総じて、この研究では、個人の能力の開発を、知的障害者の地域居住サービスにおいて引き続いて行うことの困難さを示している。

2.地域生活者と施設入所者のQOLに関するもの

入所施設から地域居住施設へ、あるいは、自立した地域生活の場に住んだ知的障害の若い成人に、どのくらい満足しているかについて面接をした研究論文12)では、住居、レジャー、仕事、個人的な関係、経済的な立場、訓練と技能、についての満足度をとった。自尊心とローカス・オブ・コントロールもとった。(地域居住施設生活者と自立した地域生活者の)2つのグループの違いは、地域居住施設生活者では、社会生活への満足度が高く、自立した地域生活者では、自立生活に満足度が高かった。

知的障害者の脱施設化政策が、サービス利用者へ与える効果を文献レビューによって検討した論文13)では、適応行動、活動レベル、社会的相互作用、コミュニティ・インテグレーション(地域社会生活への統合化)、問題行動、QOLを主要な変化指標としたものが多いことを示している。

71人の施設入所者と84人のグループホーム移行者のIHP(個別ハビリテーションプラン)の目標の比較を行った論文14)では、グループホーム移行者の目標は、施設入所者に比べて、有意に幅広い目標を設定していた。QOLは5領域に生活を分け、このうちの23指標によって評価をした。施設入所者は技能的適応で得点が高く、グループホーム移行者はコミュニテイに視点の置いた項目で得点が高かった。

QOLの側面を、小規模ICF(中間型ケア施設)と他の地域居住形態との比較を行った論文15)では、35のQOLの指標を含んでいる。分析は1988年から1992年のデータを用いた。結論は、より生活の規制の少ない、柔軟な居住支援形態が、同等か低い費用でよりよいアウトカム(成果)を得ることができることを指摘している。

異なったタイプの居住形態で提供されるケアの質に焦点をあてた論文16)では、効果的なアウトカム(成果)に関連した居住形態の特徴を同定する点の重要性を指摘している。この研究では、職員と入居者との接触、友情関係、問題行動が重要であることを示した。

ホステルから2つのグループホームへ移行した重度、重複知的障害者11人のQOLを2年間にわたって評価した論文17)では、ライフスタイルで有意な変化がみられた。全体的に、適応行動が増加し、非適応行動が減少した。小規模なグループホームの役割について考察した。

病院、ホステルから小規模グループホームに移行した知的障害者17人の適応行動とQOLについて、1年間の評価を行った論文18)では、職員の対処によって、適応行動は増加し、家事スキルの達成には偏りがみられた。対象者は、地域との関わりで低いレベルであり、ほとんど意味のある関係がみられなかった。

3.州別の比較政策研究

1996年に実施した調査報告書を概説した論文19)では、この調査では、全米で87,000人のグループホームおよび在宅サービス待機者がいることが明らかになった。これは、州立入所施設からグループホームおよび在宅サービスへ移行の待機者とナーシングホームからグループホームおよび在宅サービスへの移行待機者は含まない。純粋に、家庭で、地域サービスの待機をしている者である。地域サービスの必要性は高まっているが、必要性に対して27%しか対応できないことが指摘されている。1987年から1996年に至るまで、地域サービスの量は27%増加したが、サービスの必要者は38%増加した。この論文はさらに、代表的な州の取り組みについて考察している。ニューハンプシャー州での新しい制度はグループホームおよび在宅サービス待機者を州知事と州行政に報告し、施策全体の中で、費用だけでなく、総合的な点を考慮してサービス優先順位をつける点で特徴的である。ミネソタ州では、マネジド長期ケア(在宅サービスを対象者の状況を勘案しながらマネジメントする取り組み)への移行過程でのプロジェクトが始まったばかりである。地域の障害者本人への助言者グループが、公正に関わり、十分なサービスを受けていない障害者に、必要な資源利用を倹約しながら、妥協しながら理解し、グループホームおよび在宅サービスを使用してもらう点で特徴的である。

3)まとめ

 アメリカでは、入所施設から地域生活への政策転換を始めて、30年以上経過したが、この政策の総合的な評価に関する研究が数多くみられるようになったのは、脱施設化政策がすべての州で定着した、ここ10年ぐらいである。その点では、アメリカでも研究蓄積の多い分野ではない。しかし、現時点でもかなり明らかになってきたことも多い。

入所施設から地域に移行した障害者のアウトカムに関する研究では、人間関係や社会関係、地域における障害者の受け入れ状況(コミュニティ・インテグレーションあるいはコミュニティ・インクルージョン)、などの点では、地域生活の方が入所施設生活よりも評価できることを支持する研究が多い。これに対して、知的障害分野で長年重視されてきた適応行動に関しては、地域生活によって、適応行動が増加する場合と増加しない場合もあり、一概に、地域生活を入所施設に比べて評価することはできないことが明らかになった。従って、入所施設から地域生活への移行は、段階的に、徐々にプログラムを進めていく必要の重要性が理解できる。このことは、わが国の入所施設政策の見直しを検討する上で重要な示唆を与えている。

地域生活者と施設入所者のQOLに関する研究では、ほとんどの研究で、地域生活者の方が施設入所者に比べて、QOLでは評価できることを示している。QOLの観点からは地域生活を基盤にした地域福祉施策を速やかに進めることが支持されているが、その進め方に関しては、先に述べたように、計画的、段階的に進めていく必要性がある。

州別の比較研究は、アメリカにおける州自治の特徴を反映しており、州政策の比較分析を通して、よりよい政策のアイデアを検討することを意図している。わが国の障害者福祉制度では、都道府県、市町村などの地方自治体の自治権限が従来弱かったために、都道府県、市町村の比較研究が少なかった点で大きな違いがある。しかし、2000年から具体化された社会福祉基礎構造改革では、市町村権限の強化がこれまで以上に強く主張され、支援費制度を始め重要な障害者福祉制度では市町村実施主体になった。今後、都道府県や市町村による施策展開が異なることも十分考えられるので、アメリカ同様、自治体の比較研究が、わが国でも重要になると思われる。

文献

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