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30年のあゆみ

日本障害者リハビリテーション協会30年、戸山サンライズ10年

NO.6


3 国際障害者年までの活動(1964年~1980年)


(6) 障害者リハビリテーションに関する啓発・普及事業の実施

国際シンボルマークの普及

 国際シンボルマーク(International Symbol of Access)は、障害をもつ人々にも住みやすい生活環境を推進するために、1969(昭和44)年にアイルランドのダブリンで開催された第11回リハビリテーション世界会議において採択された。以来、シンボルマークとその正しい便用法を普及させるため、RIを中心とした国際的な取り組みが続けられてきた。
 日本においては、リハビリテーションに関係のない特定の個人が無断で行った意匠「表示具」登録第3984433号の登録が無効であるとの審決が下されたことに伴い、1979(昭和54)年に日本障害者リハビリテーション協会がこの国際シンボルマークを商標として出願し、このマークをシール印刷したもの及びアクリル樹脂板を作成し、頒布を開始した。
 特に1981年の国際障害者年を契機に障害者問題についての関心が高まり、このマークも広く使用されるようになったが、反面、シンボルマークの主旨が誤解され、誤った使われ方が増えてきたため、日本障害者リハビリテーション協会では1989(平成元)年に「国際シンボルマーク検討委員会」を設置し、1990(平成2)年に国内におけるシンボルマークの使用状況の調査を実施し、1991(平成3)年にシンボルマーク使用のための「ガイドライン」の作成・配布を行った。
 また、1993(平成5)年には、最小限の使用指針を示すものであった「ガイドライン」の内容をさらに充実させ、国際シンボルマークの主旨と使用方法についてより詳しく説明した小冊子「国際シンボルマーク使用指針」を発刊した。この小冊子「国際シンボルマーク使用指針」によって、シンボルマークに対する一般の理解が深められ、このマークがすべての人々に住みやすい社会の実現に役立つよう願っている。


 国際シンボルマークステッカーの頒布状況,

平成5年度

種類

販売枚数

ステッカ(大)

851

ステッカ(中)

3,162

ステッカ(小)

896

マグネット式(大)

97

マグネット式(中)

354

マグネット式(小)

63

アクリル板(大)

17

アクリル板(中)

17

合計

5,457


国際シンボルマーク
絵  国際シンボルマーク(普通 車イスマークと呼ばれているもの)

「リハビリテーションの10年」の普及

 国際障害者リハビリテーション協会は、アイルランドのダブリンにおいて開催されていた第11回リハビリテーション世界会議期間中の1969(昭和44)年9月11日に開かれた評議員会において、「リハビリテーションの10年」に関する決議を満場一致で採択した。
 専門家の調査によると、「世界人口の65%に当たる20億の人々には、リハビリテーションサービスがほとんど実施されておらず、リハビリテーションを必要とする人々に対して何のサービスもなされない地域に住んでいる。6億の人々は、ある程度リハビリテーションサービスが整っているが、質量ともに必要数を満たしていない地域に住んでいる。そして残りの17%の人々だけが、適切なリハビリテーションサービスが行われている地域で生活している。」
 この調査結果に基づき、1970年代の10年間に、世界人口は少なくとも20%は増加すると予測され、これらの人口増加は障害者に対する援助が十分でない地域に集中することを想定し、1970(昭和45)年~1980(昭和55)年を「リハビリテーションの10年」と定め、この10年間に国際障害者リハビリテーション協会は障害者のための国際的援助活動を開始し、促進・援助するための活動を進めるために最大の努力を行うことを誓ったものである。
 「リハビリテーションの10年」宣言書は以下のとおりである。

「リハビリテーション10年」宣言


 世界人権宣言は次のように主張している:
 「すべての人間は生まれながらにして自由であり、人として尊ばれ、諸権利を与えられ、平等である。」
 すべての人々は社会保障を受ける権利、働く権利、休養をとり余暇を楽しむ権利、適切な生活を営む権利、教育を受ける権利などの諸権利及び自由を保障されている。身体及び精神の障害をもつ人々にも同じ権利が与えられているが、しかし、これらの権利を実現するには、その人自身、家族、地域社会において特別の努力が必要とされている。
 この目的を達成するために適切なサービスを完全に実施していると言える国は1か国もない。多くの国々は、これらの目的を達成するに必要な技術を習い始め、諸施設を造り始めたばかりである。すべての国々は、この問題の解決を優先的に行わなければならない。
 障害者に役立つ援助を行うには、医学、教育、職業、社会的サービスを実施する良い施設が必要であるが、このような諸施設は現在の障害者人口に対して圧倒的に不足している状態である。予想される人口増加、人間の長寿化、自動車及びその他の機械類の使用の増加などにより、より複雑な問題をかかえる障害者は年々増加している。現在はすべての障害者のもつ権利を保障できていないが、また将来、すべての家族、地域社会、国家が直面すると予想される危機に対処する用意もできていない。
 この危機に対処するための世界的キャンペーンを促進するために、国際障害者リハビリテーション協会は、1970年代を「リハビリテーションの10年」と定めた。この10年間及びその後も引き続いて、すべての国々で障害者の権利が守られ、すべての人々が自分の熱望を実現できる公正な機会をもてるようにすることが、我々の望みであり願いである。これらの目標を達成するために、国際障害者リハビリテーション協会は次の項目を主張する。
・障害に伴う諸問題、及びそれを解決することによってもたらされる経済的・社会的利益をより多くの人々に理解させること。
・各国政府は、その国の障害者を援助するに必要なすべてのサービスを拡張するために、緊急に対策を取ること。
・各国がリハビリテーションサービスを発展させるために必要な指導を行うこと。
・リハビリテーションプログラムに従事する職員及び補助職員の養成に力を入れ、これらの重要な仕事を献身的に行える有能な人材を確保するために、十分な報酬を与えられるよう財政を改善すること。
・障害者の立場に立ったサービスを行えるよう、より簡潔、より経済的、より効果的な方法を探究すること。

 1970年9月24日、イランのテヘランで開催された国際障害者リハビリテーション協会理事会は、上記の課題を達成することを宣言し、また、すべての国々の政府及び首脳陣が世界的キャンペーンに参加し、障害者にも尊厳と諸権利を保障できるよう呼びかけた。
 この「リハビリテーションの10年」の目標を達成するための実質的財源は各国において賄わなければならないが、国際協会は各国の個人、企業、団体に対してスポンサーを募り、1970年代の10年間に7,000ドルの寄付をお願いした。この基金により、開発途上国の専門職員の研修が実施されたり、新たな事業が開始されたのである。
 また、「リハビリテーションの10年」宣言書が、ローマ法王パウロ六世、クルト・ワルトハイム国連事務総長、ベルギーのファビオラ女王、ドミニカ共和国ホアキン・バラゲール大統領、ドイツ民主主義共和国ウィリ・ストフ首相、マレー・マクルホーズ卿香港総督、イランのファラ皇后、レバノンのサエブ・サラム首相、ジェイムズ・キャラハン英国首相、そして、1971年に日本で開催された汎太平洋リハビリテーション会議の際に佐藤栄作総理大臣にと、世界の指導者たちに手渡されたのである。

「80年代憲章」の普及

 「世界中には3億5千万人以上の障害のある人々が、生活を十分に享受するために必要な援助を受けられない状態に置かれている。障害のある人々は、世界中のすべての国々において、様々な場所で生活している。しかし、圧倒的大多数の障害者は、経済的・社会的発展がまだごく初期の段階にある国及び地域で生活している。これらの国々及び地域においては、機能障害に加えて貧困があり、それが児童、おとな、そしてその家族全員の希望をつぶし、生活を厳しいものにしている。」
 これは、国際障害者リハビリテーション協会が、1980(昭和55)年~1990(平成2)年の10年間における国際的優先行動に関する総意の表明として起草した「80年代憲章」の一部である。
 憲章は、障害者の「完全参加と平等」の目標を全世界において推進するために作成されたものである。すなわち、すべての障害者が、その生活を営む地域社会において、通常の社会生活に参加し、かつ社会経済発展の結果もたらされた生活水準の向上の恩恵を等しく受けることを含め、他の市民と同等の生活条件を享受する権利を持っているということである。
 本憲章は、障害予防及びリハビリテーションの分野にかつてない規模の広範な国際的協議を基にして作成されたものである。憲章に盛り込むべき事項について、1978(昭和53)年から1980(昭和55)年の3年間をかけて、各国国内、地域、国際の各レベルの会合及び会議において検討がなされた。
 80年代憲章は、最終的に、英国の初代障害者担当大臣アルフレッド・モリス(Alfred Morris)閣下を委員長とする国際障害者リハビリテーション協会世界計画グループが起草し、国際障害者リハビリテーション協会総会において採択されたのである。
 80年代憲章は、宣言、基本概念、目的、80年代における行動目標、から構成される貴重な資料であり、この「80年代憲章」が、「国連・障害者の10年」世界行動計画の基礎資料となった意味において非常に重要であったと言えよう。日本障害者リハビリテーション協会では、「リハビリテーションの10年」と「80年代憲章」について、「国際リハビリテーションニュース」や「リハビリテーション研究」をとおして、これらの内容の周知徹底に努めたのである。


80年代憲章   Charter for the 80s

宣言

 今日、世界には5億人を超える障害のある人々がいる。それぞれの国においても、少なくとも10人に1人は身体上、精神上もしくは感覚上の機能欠損をもっている。障害のある人々は、すべての人権、すなわち成長し学習する権利、労働し創造する権利、愛し愛される権利を共有しているのである。しかしながら、障害のある人々の住む社会は、いまだ障害のある市民の人権を十分に保護していない。障害のある人々に当然与えられるべき機会と責任は、無視されることがあまりに多いのである。
 3億5千万人以上の障害のある人々が生活を十分に享受するために必要な援助が得られない状態に置かれている。障害のある人々はすべての国に世界中あらゆるところに住んでいる。しかしその圧倒的多数は経済的社会的発展が初期段階にある地域に住んでいる。この地域では、機能欠損に加え、貧困が児童、成人及びその家族の希望をいためつけ、生活を狭めている、
 障害のために能力の十分な発揮が妨げられている人々は、あらゆる地域社会において住民の25%と推定されている。これには障害のある人々の他家族及び障害のある人々を助け支えている人々も含まれる。この問題に有効な回答を出し得ない社会は膨大な人的資源の損失を被るのみならず、人間の可能性を残酷にもむだにすることになるのである。
 歴史を通して人類は身体的または精神的差異により異質とみなされる人々を、地域社会への完全参加から締め出す物理的社会的障壁をつくりあげてきたのである。建物及び交通機関は、多くの障害のある人々にとって使用不能のものがほとんどである。情報及び美は、視覚、聴覚あるいは理解力に機能欠損のある人々には手が届かない。人間の交りの暖かみは、身体あるいは精神能力が一般の人と違っている児童もしくは成人には与えられていない。教育、生産的雇用、公的サービス、レクリエーション及びその他の人間活動は、多くの障害のある人々を拒絶している。あるいは隔離された状態においてのみ可能としている。最重度の障害のある人々は自立生活ができる見込みはないとみなされ、全面的に無視されている。あるいは人格の発達の援助や生活の質の向上への努力が十分と言えないながらなされている。
 今日、障害のある人々を地域社会の生活から隔てている障壁を除去する知識・技術はあり、いかなる国にも適用が可能である。いかなる国においてもすべての施設や制度をすべての国民に開放することは可能である。政治に往々にして欠けているものはこれらを実現するために必要な政策を示し実行に移す政治的意志である。この挑戦に応じ得ない国は、その真の価値を実現することはできないのである。
 貧困と戦争は障害を生じる原因となるばかりでなく、障害の予防とリハビリテーションに必要な資源の確保にも影響を与える。したがって、この憲章の目的実現のためには、世界資源のより公平な分配、及び理性と協力に基づく国家関係が必要である。
 この新しい10年にあたり、障害の発生を減らし、障害のある人々の権利が尊重され障害のある人々の完全参加が歓迎される社会づくりを、すべての国の目標としなければならない。1980年代憲章はこの目的で発表されるものである。障害に対する社会の態度及び社会的不利をもつ人々の問題に対する社会の対応の根本的改革が、憲章の目標達成には不可欠である。次にかかげる目的は、すべて等しく重要であり、優先順位は同等である。
 各国において可能な限り多様な機能欠損を予防するプログラムを開始し、必要な予防施策をすべての家庭、すべての人に確実に行きわたらせる。
 障害のあるすべての人及び障害のある家族を抱えるすべての家庭に、能力不全のもたらす社会的不利を減らし、各人が社会の中で精一杯生き、建設的役割を果たすことを可能にするために必要なすべてのリハビリテーション・サービス、支持及び援助が確実に行き届くようにする。
 地域社会生活のあらゆる側面に障害のある人々を最大限に統合し、平等な参加を確保するために必要なあらゆる方策を講ずる。
 障害のある人々について、彼らのもつ能力と障害及び障害の予防・治療等について、一般市民の理解と認識を深め、これらの問題がいかに重要であるかについての情報を提供する。
 各国はこの憲章に明らかにされた原則に基づき各国の情況に鑑み、これらの目標達成のための総合的国内計画をたてるよう勧告する。国内計画には国民生活のすべての分野を含むべきであり、またあらゆる国内開発計画に優先的に組みこむべきである。そして各国はこのような計画における障害のある人々の完全参加を実施すべきである。
 各国は政府首脳もしくは政府に対し直接責任をもつ適切な事務局または高官を政府内におき、国内計画の作成及び実行の調整の指揮にあたらせるべきである。この担当者を補佐する機関として、すべての政府関係省庁、障害のある人々の組織団体、民間団体及び専門職団体の代表から成る国内諮問機関が必要である。
 80年代憲章は人類が障害のある人と呼ばれるか否かにかかわらずあらゆる人の権利と責任を守り育てていくことを可能にする方策についてコンセンサスを明らかにしたものである。
 この憲章は1980年6月26日、カナダ・マニトバ州ウィニペッグで開催された第14回世界会議での討論を経て、国際障害者リハビリテーション協会総会で承認を得、国際障害者年に向けて世界に発表するものである。

基本概念

 1.憲章本文に用いた「機能欠損」「能力不全」及び「社会的不利」の各語は、世界保健機関発行の「機能欠損、能力不全及び社会的不利の国際分類」の下記の定義に依っている。
 機能欠損(impairment)-「心理学的、生理学的もしくは解剖学的構造上もしくは機能上の欠損または異常」
 能力不全(disability)一「人間として正常とみなされるやり方もしくは範囲の活動を行う能力の(機能欠損の結果もたらされる)制限もしくは欠損」
 社会的不利(handicap)-「機能欠損もしくは能力不全の結果もたらされる、その特定の個人にとって(年齢、性別及び社会的文化的要因に応じて)正常な役割の遂行を制限もしくは防げる個人的不利」

 2.機能欠損の原因は、出現頻度の差はあるものの全世界共通である。しかしながら、その結果もたらされる能力不全及ぴ社会的不利は、各地域の社会経済環境及び各社会がその全構成員に対し供給する施策の性質によって非常に異なる。

 3.いかなる国においても、機能欠損を予防し、能力不全を軽減し、また能力不全を社会的不利とたらしめないような手を打つことが可能である。これら相互関連性のある目的を達成するためには予防施策、リハビリテーション、援助及び介助のシステム、そして社会と機能欠損及び能力不全をもつ人々との関係の変革を実施していくことが必要である。80年代憲章に表された目的はこれらの要請に応えるものである。

 4.障害問題への取組みの失敗は社会全体の損失となる。障害は直接には個人の身辺自立及び独立行動を行う能力を変える。障害は親子関係を変え、家族の時間、エネルギー及び経済力を多大に必要とするため家族の機能を破壊する。そして家族全体に貧困をもたらし、あるいは社会的経済的地位をさんざんなものにする。このように地域社会の一部構成員の力を弱めるのみならず、次のような結果をももたらす。
 ○労働者の移動と新規採用者の再訓練に伴う産業界の重い経済的負担
 ○障害のある人々の近親者もしくは介助にあたる人員のために労働力が割かれることによる2次的影響
 ○社会保険及び給付制度を維持する拠出金の負担者である現役労働者数の減少
これらすべての影響を考慮に入れると、いかなる地域においても少なくとも人口の25%が障害のマイナスの影響を受けているのである。

 5.リハビリテーション・サービスを十分に供給することにより、社会全体に意義のある社会経済的利益をもたらす。障害の原因を抑制する施策及び能力不全の社会的影響を少なくする施策と組み合せることにより、リハビリテーションは障害のもたらす損失を最小限に抑える方策となる。リハビリテーション・サービス供給による経済的効果は、医療その他の社会的サービス費用の節減、公的扶助にかかる費用の節減及び障害をもつ労働者の生産する製品及びサービスが社会にもたらす利益にすでに明らかなところである。この過程で税金を使っていた人が税金を納める人にと変化する。さらに重要な利益は、障害をもつ人々が創造的寄与をもって社会に復帰し、またその家族の生産能力を解放することである。国家が障害のもたらす損失に対する認識を高め、十分な障害予防とリハビリテーション施策及び社会の態度と行動を変える活動を通じて障害を減らす努力を増せば増すほど、社会全体の社会経済的利益は多大なものとなる。

 6.機能欠損と能力不全は、世界の工業化の進んだ地域よりも経済社会発展の初期段階にある地域に多い。正確なデータに欠けるが、貧困と予防及びリハビリテーション・サービスの欠如が重なった場合、機能欠損の数が増し、機能欠損が能力不全へと拡大する可能性も高くなることが観察されている。このような地域の経済社会開発計画に不全予防とリハビリテーションの導入をはかる施策が含まれることはまずない。こうした状況を改善することは、発展途上地域で責任ある地位にある人々及びその立案実施の援助にあたる人々として団体の重要な任務である。

 7.世界中において障害のある人々は、社会の平均的構成員に比べ、悪い不利な生活条件にあることが多い。工業国においても発展途上国においても、障害のある人々は必要な保健資源が得られなかったり、その社会の社会的経済的発展に完全参加を果たす機会を奪われていたりすることが、しばしばある。ゆえに、完全参加と平等の要求は発展途上国においても先進国においても等しく主張されなければならないのである。

 8.国内及び国際的将来計画を立てる場合は、全地域的発展を考慮し、さらに現在世界の各地に現われている動向を考慮すべきである。
 ○世界の人口は2000年までに60億となり、広範な予防施策が始められない限り、障害のある人々はさらに1億増えるであろう。○2000年には世界人口の約3分の1が15歳以下となり、後進地域の児童青少年の数は先進地域の児童成人を含めた全人口を上回るであろう。
 ○栄養不良は開発途上世界の風土病とも言えるものである。
 ○慢性失業が環境及びその他の経済成長を圧迫する要因と共に存在する。
 ○家族の弱体化があり、老齢者を社会文化的に排除する傾向が増しつつある。
 ○生医学等の技術の進歩は寿命を延ばすと共に命を奪うことにもつながる。
 9.この憲章に述べられている原則はすべての国に等しく適用されるものである。原則の実行における詳細や時期は、開発の段階及び入手可能な資源の状況を含めた地域の実情により必然的に異なる。

目的

目的:各国において、可能な限り多様な機能欠損を予防するプログラムを開始し、必要な予防施策をすべての家庭すべての人に確実に行きわたらせる。

 10.機能欠損及び能力不全を予防する活動は、世界の大多数の人々にとって十分ではない。

 11.第1段階の予防、すなわち機能欠損の根本原因の予防は、障害のある人々の数を減らす可能性が最大の方策である。根本原因には次のようなものがある。
 ○伝染病、たとえば脊髄性小児マヒ、脳膜炎、風疹、結核、ハンセン氏病、トラコーマなど
 ○特に妊娠期及び成長期の栄養不良の結果及び
合併症
 ○家庭内、労働上及び交通の事故
 ○出産時の危険

 12.第1段階の障害予防は国の保健、教育及び環境プログラムのすべてにおいて重視すべきであり、特にプライマリー・ヘルス・ケア、栄養、妊娠中、出産時及び出産前後のケア、家族計画と家族カウンセリング、伝染病予防、環境衛生と汚染防止、基礎教育そして安全の各プログラムにおいて重要視すべきものである。労働者及び道路通行者の保護施策は積極的に促進すべきである。危険なスポーツによるレジャー関連傷害及び休暇中の事故の増加に大いに注目すべきである。地域社会における精神衛生を促進する活動は大いに強調し、支援する必要がある。

 13.機能欠損の早期発見には組織的方法が欠かせない。身体的もしくは精神的機能欠損の結果もたらされる機能制限を予防または柔らげる処置は、問題が発見され次第すぐに開始すべきである。障害者となる危険性の高い職種など特定の人々には特別な配慮が必要である。例を挙げると、鉱山、化学及び原子力産業の特定場面等の危険な職業に働く人、難産の経験のある女性、過去に近親結婚がある家族や特定の血液型や遺伝学的異常をもつ家族、関節炎、てんかんなどの特定の種類の慢性病をもつ人などである。
目的:障害のあるすべての人々及び障害のある家族を抱えるすべての家庭に、能力不全のもたらす社会的不利を減らし、各人が社会の中で精一杯生き、建設的役割を果たすことを可能にするために必要なすべてのリハビリテーション・サービス、支持及び援助が確実に行き届くようにする。

 14.機能欠損及び能力不全のある人が社会的不利をも得ることを防ぐには、社会の態度と行動を変える行動と、障害のある人が受容できる社会の中での役割を果たす機会を個人に提供するサービスが必要である。

 15.機能欠損のある児童成人の早期発見と能力不全となる過程における早期介入が、小さな問題が複雑かつ多様な社会的不利に発展することを防ぐ。地域社会の中で住民の中に見られる障害の性質と広がりに注意を払うことにより、計画を改善し、実際のニーズにより密着したサービスを展開し、また問題の範囲が一度明らかになれば、対処に必要な十分な予算の割当を確保することもできる。

 16.機能欠損もしくは能力不全のある児童成人の早期発見の促進のために、登録制度またはそれに代わるシステムの確立もできる。しかしこのような制度は、秘密保持、自由意志による参加及び必要性に基づいた利用の原則を守ることが必要である。この場合も含めすべての活動において、差別を生じ、そしてその結果社会の本流から障害のある人々を分離する根拠となるような障害のある人々のラベル貼りになることは避けねばならない。

 17.リハビリテーション(ハビリテーション)は、医学、社会、教育及び職業的方法を組合せ調整して用い、障害のある人々の機能を最大限に高めること、及び社会の中での統合を援助する過程である。
 機能の改善と生活の質の向上を目ざすリハビリテーションの手段には次のものが含まれる。
 ○医学的ケアと治療
 ○理学療法士、作業療法士、言語療法士、心理専門家等の用いる治療的方法
 ○聴覚障害者、視覚障害者、精神薄弱者の必要とする特殊設備を伴う移動、コミュニケーション、日常生活技術が含まれる身辺自立訓練
 ○補助具その他補助的機器、義肢装具の支給
 ○教育
 ○職業評価、訓練、斡旋
 ○社会内力ウセリング及び援助

 18.リハビリテーションは様々な活動が総合的かつ調整された形で供給されるものでなければならない。障害の影響は多岐にわたることが多いた.め、影響を軽減または除去するためには、完全かつ調整された過程を必要とする。政府及び民間の提供するリハビリテーション・サービスは両者とも可能な限り社会に現在ある保健、教育、労働及び社会の各構造の枠に統合されるべきであり、その中にはあらゆるレベルの収容施設、初等、中等、高等教育、通常の職業訓練、職業斡旋プログラム、すべての社会保険及びソーシャル・サービス施策が含まれる。その結果、永久的機能欠損があり継統的リハビリテーション・サービスを必要とする人も、隔離されることなく地域社会の中で必要な援助を受けることが可能となろう。

 19.リハビリテーション努力の焦点は常に地域社会の中でケアを供給することに置くべきである。この中には、障害のある人々の地域社会への統合をはぐくむあらゆる方策を強化することも含まれる。また、障害のある人々のそれぞれの地域社会の生活への適応を援助するために最も適切なサービス供給の形態を評価し、それに基づく地域レベルのリハビリテーション・サービスを都市及び農村において拡大することも含まれる。

 20.リハビリテーション・サービス供給の主たる目標は、家族と一緒に暮らせるようにすることとすべきである。提供するサービスは、障害のある個人とその家族の実際のニーズ、その家族がもっている資源を基礎としたもので、必要な手続きはその家族の経済的社会的状況と文化的背景に適応したものでなければならない。障害のある個人及びその家族がリハビリテーション・プログラムの計画、実施及び評価に積極的に参加できるようにすべきである。家族に対して、障害の初期からリハビリテーション過程の中で家族の果たすべきダイナミックな役割の認識を深めるよう援助すべきである。可能な限り自宅で、そして地域社会の中で障害問題に対処できるよう家族に対して必要なすべての形態の援助を提供すべきである。この援助の中には、経済、法律、心理、性に関するガイダンスと共に余暇活動、文化活動への援助も含まれる。障害のある人とその家族に影響をもたらすすべてのサービスの調整をとることが重要である。

 21.リハビリテーション活動を実施する機関は、障害のある人々及びその家族が自ら必要と考えるサービスの立案及び組織化に協力できる態勢を開発すべきである。一般的援助システムだけでなく病院、医療センター、訓練施設、集合住宅計画、教育プログラム、保護雇用施設においても障害のある人々が意志決定に参加することを方針とすべきである。

 22.リハビリテーション・サービスは必要とするすべての人々に供給されるべきであり、年齢、性別、経済力、人種的背景及び機能欠損の種類、原因、程度、診断または状態が一過性か慢性がによって差別をしてはならない。障害のために必要な特別サービスや援助にかかる余分の出費に対する経済援助は、通常の社会保障及び保険制度の中で、あるいはそれぞれの国で普及している他の制度の中で十分に保障されるべきである。

 23.現行の社会保障及び社会保険の制度を調査し、障害のある人々及びその家族を除外あるいは差別をしていないことを確認すべきである。すでに上記の諸制度が発達している場合、リハビリテーションを強化し、障害のある人々の自立生活の可能性を高める方策が含まれていることを確認すべきである。障害のためにかかる余分の費刷こ対する経済的補償及び経済的に生活できるレベルの生活的労働が不可能な場合の所得補償によって、障害のある人々およびその家族の経済的自立を高める方策を制度化している国もある。

 24.リハビリテーション・サービスの供給にかかわりをもつ人員の数及び質の向上が必要である。すでに地域社会において関連分野に従事し、サービス供給にかかわっている人々の知識、能力及び責任を拡大することが重要である。この人々は障害のある人々の発見、援助、及び必要な場合の適当な施設及びサービスヘの照会に協力が可能である。障害の本質及び総合的行為としてのリハビリテーション概念についての基礎的教育は、地域で働く人々のすべての一般教育訓練プログラムに含まれるべきである。この中には教師、ソーシャルワーカー、保健医療専門職と補助職、行政担当者、政府の政策立案者、一般事務職及び家族カウンセラーを含む。

 25.リハビリテーションを専門分野としてその過程に直接携わる専門職に対しては、教育課程の中で総合的知識を与え、大学院教育の機会も与えるべきである。学際的アプローチ及びリハビリテーション過程において欠くことのできない障害のある人々とのパートナーシップに重点を置くべきである。なぜ障害のある人々の参加がすべてのリハビリテーション行為において不可欠な要素なのか。そしてそれはどうすれば得られるかをすべての職員が理解するよう教育すべきである。

 26.国際協力や経験の交流を通じて専門職の養成・研修の強化を図る場合は、養成・研修は訓練生が働くことになる国の生活様式及び条件と関連づけて行われるべきである。養成・研修はその国内もしくは、同じ地理的地域内で実施されることが望ましい。

 27.補助機器は、多くの障害のある人々にあるレベルの身体的自立を可能にする。これは社会統合の過程で不可欠であり、他の方法では決して達成できないものである。公的機関及び民間企業に対し、良い補助機器の増産につながるリハビりテーション工学プログラムヘの経済的援助、支援を奨励すべきである。各国は障害のある人々がリハビリテーションの効果を挙げ、社会に統合していくために必要な福祉機器が購入できあるいは入手できるような方策を講ずべきである。

 28.リハビリテーション技術は可能な限り単純かつ経済的でなければならない。高価な、あるいは輸入の機器、原材料及び技術に依存しないリハビリテーション・サービスを開発する大いなる努力が必要である。国境を越えた技術の移行は、その地域において機能的、効果的であるという判断に基づいて行われるべきであり、またより単純でより安価な技術や装置の開発に最大限に努めるべきである。

 29.障害がもたらした結果のために、障害のある人々が自ら、もしくは障害のある人々のために使用する機器、装置、補助具及びその他の材料の関税の免除及び輸入許可と外貨割当について特別の配慮が払われるべきである。この点に関連して、「障害者が必要とする物品の輸入税の免税」を定めた「教育的科学的文化的材料輸入」に関するユネスコ「フローレンス条約」とその議定書の採択にむけて各国が努力すべきである。

 30.補助具及び機器の国際取引における協力の強化は、低価格で入手できるようにするための一手段となろう。

目的:地域社会生活のあらゆる側面に障害のある人々を最大限に統合し、平等な参加を確保するために必要なあらゆる方策を講ずる。

 31.障害のある人々は、同じ社会の他のすべての人々と等しい権利を保有し、その中には、経済、社会及び政治生活のすべての側面に参加し、寄与する権利も含まれている(*国連総会決議3447「障害者の権利宣言」、1975年12月9日採択)。一部の構成員を閉め出している社会は、貧しい社会である。社会構造はすべての側面において障害のある人々に完全参加の機会を与えるよう立案され、組織されるべきである。

 32.リハビリテーション施策は、当目的達成のために必要な行動のほんの一部分にすぎない。社会のすべての組織は障害者に開放されていなければならない。現在の社会には、いまだ障害者の完全参加を阻む障壁があまりに多い。これらの障壁を除去するためには我々の社会の構造の変革を必要とする。

 33.社会は物理的環境、住宅と交通、社会及び保健サービス、教育及ぴ労働の機会、文化及び社会生活をスポーツ及びレクリエーション施設も含め、障害のある人々にとって完全に利用できるものにする義務を有する。障害者がそれぞれの個人的見解に従って政党及び労働組合に参加することに対する何らかの障害があってはならない。社会の中の上記及びその他のグループは、経営者協会・団体を含め、障害のある人々の生活と彼らの権利の実現に関連する問題に対して責任を引受けるべきである。

 34.障害のある人々の自己の生活にかかわる事柄の決定に参加する権利は、最も重要な権利である。障害のある人々は、社会のすべてのレベルに対して影響力を及ぼすことができるよう保証されるべきである。すなわち。
 ○自己のリハビリテーション計画作成への参加
 ○この分野に影響力をもつ政府機関及びその他の組織のリハビリテーション施策の決定への参加
 ○および地域社会全般にかかわる通常の政策決定過程への参加、である。

 35.障害のある人々の参加は、リハビリテーション活動の重要な一部分として認識し受けいれるべきである。このためには次のことが必要である。
 a.障害のある人々に、自己の権利とリハビリテーションの意味を知らせる。その結果、自分及び家族に最も適したリハビリテーションとサービスの形態の決定に参加が可能となる。
 b.障害のある人々が、リハビリテーション政策や活動の作成に積極的な団体、グループに直接または代理人をたてて参加する。政策決定にあたる地位または機関において障害のある人々を代表する人々は、障害のある人々あるいはその家族に対する責任を有する。
 c.リハビリテーション政策及び実施に関する意志決定への障害のある人々の参加は、法律または規則、その他適当な方法によって保証されるべきである。障害のある人々の参加はより適切で効果的な法律や規則を作るための一つの方法と考えるべきである。
 d.障害のある人々の団体を奨励し作る。

 36.多くの国において、障害のある人々による生活条件の改善や権利獲得のための活動は、障害のある人々の団体を通じて行われている。このような団体を通じて、障害のある人々は、自らの考え方やニーズを生活のあらゆる分野に知らせ、問題解決のモデルを提示してきた。これがリハビリテーション活動の発展のために決定的に重要な役割を果たしてきた。

 37.障害のある人々の団体はすべての国において可能な限り全国的及び地域的条件や開発と関係づけながらつくるべきである。効率的に機能が果たせるよう団体には経済的援助をすべきであり、団体のもつ知識や経験が実社会の中で確実に生かされるようにするシステムを考案すべきである。障害のある人々の団体は、障害のある人々が生活している社会の生々しい過程の中に参加し介入していくことを促進し刺激する最も重要な役割をもっている。

生活環境における統合と参加

 38.地域社会は、その構成員すべてに開かれ、すべての人々が利用・参加できるものでなければならない。障害のある人々は、一般市民を対象に作られたすべての施設・サービスを利用する権利をもっている。他の人々と同様に障害のある人々は、地域社会において利用可能な交通機関を必要としている。建築基準を制定したり、都市計画を立てる際には、都市ばかりでなく農村においても、障害のある人々が住める住宅、教育の場、労働の場、レクリエーションの場、及び交通機関を利用できる条件を入れなければならない。新たに建築するすべての建物は、建築上の障壁があってはならないと制定し、既存の建物や公共交通機関の改造を促進するための財政援助措置も取るべきである。生活環境上の障壁をすべて排除しなければならない重要な理由は、障害のある人々を不必要に隔離したり、社会の中で積極的な役割を果たせなくさせることを防ぐためである。

 39.建物、住むに適した生活環境、利用可能な交通機関は、通常の設計を複雑に変えたり多額の経費をかけなくても、障害のある人々が利用できるように設計できる。計画の段階から考慮に入れれば、ほんの少しの余分な経費がまたは全く余分な経費をかけなくても、障害のある人々が利用しやすくなる。
(*国連:障害者生活環境専門家会議報告書(Report of the Expert Group Meeting on Barrier Free Design),1974年6月3日~8日、ニューヨーク、国際障害者リハビリテーション協会、1975。)

 40.建築関係者はすべて、障害のある人々が利用できる設計について知っていなければならない。障害のある人々を考慮した設計に関する資料は、各国において集中的に管理・配布できるようにしなければならない。各国の建築基準協会は、既存の基準や規則の中に、障害のある人々を考慮に入れた基本的原則を取り入れなければならない。建築学及びデザイン関係の学生は、その教育・養成課程の中で、障害のある人々を考慮した基本的事項についての情報を与えられなければならない。公共建築物の建設に責任ある人々及び設計基準・規則の施行に責任ある人々-すなわち、中央政府、地方自治体における設計者及び建設業者など-も、情報を与えられていなければならない。設計の際には、運動機能障害や感覚機能障害を含めて、身体的障害、精神的障害等、あらゆる種類の障害をもつ人々のニーズを満たさなければならない。

 41.また重度障害のある人々も考慮に入れなければならない。重度障害のある人々は、地域社会の中で生活できるように配慮された住居、介助ケアや支持サービスが提供される生活環境、特別に配慮された交通機関等を必要とする。重度障害のある人々のためのこれらの施設・設備は、適切かつ十分に用意されなければならない。

 42.適切な対策がなければ永久的に自宅に閉じこもりがちな重度障害のある人々が定期的に外出したり、地域社会の活動に参加できるよう、あらゆる努力がなされなければならない。障害のために在宅生活をしている者も、自宅で生産的な活動に従事したり、自分の生活の質を改善し向上させるための活動を行えるよう援助されなければならない。

 43.障害のある人々も普通の人々と同様に、社交関係やレクリエーションの機会をもつニーズをもっている。障害のある人々のほとんどは、スポーツ、創造的な活動またはその他の娯楽などの、地域社会におけるレクリエーション施設を利用できる。この種の施設は、障害のある人々を一般市民から隔離するのではなくて、共に活動できる方向で整備されなければならない。

 44.障害のある人々も普通の人々と同様に、男女間の親密な交際、性的関係をもつニーズがあり、このような性的関係をもてる社会的・物理的環境の中で生活するニーズがある。障害のある人々同士や、サービスを提供する側の人々と、個人的な問題や性的問題を話し合える風潮を作っていかなければならない。

教育環境における統合と参加

 45.すべての国の教育政策は、障害のある児童及び成人の教育を提供しなければならない。障害のある児童及び成人を差別する措置をなくすために、現行の教育政策を再検討しなければならない。

 46.障害のある児童も、その国及び地域社会の他の児童と同じように、教育を受ける権利を享受しなければならない。適切かつ可能な場合には、障害のある児童の教育は、普通教育制度の中で行われるべきである。児童によっては、普通教育プログラムを相当変更したり、必要な支持サービスを用意しなければならないであろう。

 47.各国は普通の児童に対して提供しているのと同様に、障害のある児童に対しても完全に教育を保障する義務を有する。保育園、幼稚園、及び他の学齢前教育施設がある場合には、障害のある児童もこれらの発達体験に参加できるようにしなければならない。障害のある児童も社会に貢献できるようになるために、できるだけ制約のない教育環境を地域社会が用意しなければならない。児童の能力のために、普通教育の中で学ぶことができない場合は、その児童の特殊なニーズに対応できるよう意図された教育施設を利用できるようにする。完全な統合教育が不可能な場合には、地区内の学校、教育機関、及び地域社会の施設との交流をできるだけ密接に行う。学校にまだ通学していない児童は、その子の最大限の教育レベルに到達するために、訪問教師の援助を受けられるようにしなければならない。

 48.障害のある成人は、その国の教育として可能な範囲内で、最大限のレベルまで教育されなければならない。それぞれの個人に適した教育プログラムを学校、大学、専門教育機関で受けられるよう、あらゆる努力がなされなければならない。障害のために通常以上の経費がかかった場合には、その経費を公的に負担しなければならない。

労働環境における統合と参加

 49.職能評価、職業指導、職業訓練、職業紹介等の職業リハビリテーション・サービスは、それらによって生産的な活動に従事できる見込みがある場合には、障害の原因、種類、年齢、性別にかかわらず、障害のあるすべての人々に提供されなければならない。

 50.職業指導サービスは、障害のある個々の人の能力、適性、身体的能力、志向性、経験を鑑み、雇用の機会、求人条件、将来の見通し等に関する最新の情報を提供しなければならない。職業指導サービスは、一般市民を対象とするサービス体系の中で特別な課を設けて運営することもできるし、単独のサービスとして設置することもできる。職業指導サービスは、能力・適性検査、作業場面への適応、適切な作業状況における能力の開発などを行えるよう組織する。

 51.障害のある人々の職業訓練は、できるだけ一般市民を対象とした職業訓練サービス体系の中で実施されるべきである。障害の種類及び程度のために、通常の職業訓練サービスの中で訓練を受けられない者には、特別サービスを設けなければならない。雇用主は障害のある人々に対して職業訓練の機会を提供するよう、奨励されなければならない。

 52.障害のある人々が就職し、その仕事を継統してゆけるために、職業紹介サービスを提供しなければならない。職業紹介プロセスにおいては、次のようなニーズを考慮に入れなければならない。
 ○個々の人の能力を、求人条件に照らし合わせる。
 ○障害のある人々の雇用を促進するために、器具、道具、機械、作業場面を改造し、必要とされる作業用自助具を提供する。就職したばかりの時期に必要とされる特殊な援助を提供する。
 ○その人の定着性を強めるために、フォローアップサービスを提供する。

 53.可能な場合には、障害のある人を一般企業に就職させなければならない。一般企業に就職することが不可能な者のためには、シェルタード・ワークショップ、在宅雇用制度、通常企業の中でのグルーブ保護雇用、農業、園芸、林業などの場で、保護雇用または準保護雇用形態が用意されなければならない。

 54.都市においても農村においても、障害のある人々の雇用の機会をつくり、広げるために、特別対策を取るべきである。特別対策としては、雇用を促進するための義務雇用率制度、優先指定雇用、自営業融資・助成措置、ワークショップや障害者協同組合への独占契約または優先受注権の許可、優遇税措置、及びその他の財政援助などがある。

 55.障害のある人は、他の人と同じ仕事ができる場合には、障害があるゆえに、賃金及び他の雇用条件において差別されてはならない。経済不況時や雇用の機会が制約されている時期には、他の失業労働者対策と同様に、障害のある人々の雇用を保障する対策を取ることが重要である。

 56.障害のある人々も、他の労働者と同じ方法及び同じ条件で、就職先を変更したり、中途退職または退職する選択権をもつべきである。また知識や技能を向上させ、それに伴って昇進する機会がなければならない。

 57.労働組合及び雇用者団体の代表は、リハビリテーション関係当局と協力し、次のような方法により、直接、労働者を援助すべきである。
 ○職業リハビリテーション・サービスが、労働条件や資格要件を考慮に入れて計画されるよう、諮問委員会や政策決定機関に働きかける。
 ○障害のある人々が直面している諸問題、及び障害のある人々も活動的な労働生活に再統合できる可能性があることを、労働組合や雇用者団体の人々に知らせ、啓発する。
 ○労働者が労働中に病気になったり、傷害を受けた場合の援助をするための、被雇用者回復プログラムを設置するよう奨励する。
 ○労働中に病気になったり、傷害を受けたためにそれまでの職務を遂行できなくなった者は、同じ事業所の中での配置転換をする。
 ○障害のある労働者が働きやすいように、道具、機械、作業場の改造について助言する。
 ○障害のある労働者が訓練及び雇用の機会を平等にもてる政策を採択する。
 ○労働者協議会の中に障害のある人々の代表も入れる。
 ○団体協約の中に、障害のある労働者のための特別措置を入れる。
 ○大企業の中に、リハビリテーション施設またはシェルタード・ワークショップを設置するよう奨励する。

目的:障害のある人々について、彼らのもつ能力と障害、及び障害の予防・治療等について、一般市民の理解と認識を深め、これらの問題がいかに重要であるかについての情報を提供する。

 58.障害のある人々を社会の中に統合化するために一般市民の差別的態度・偏見を取り除かなければならない。過去数世紀間にわたり、障害のある人々は、無知と誤った情報のために、神秘化され、恐ろしいものと見なされてきた。

 59.障害の原因、障害の及ぼす影響、障害の予防、障害のある人々のリハビリテーションヘの可能性、及び地域社会において利用できるサービスなどについて、地区レベル、各国レベル及び国際レベルで、大量の広報活動を行う必要性がある。すべての市民、障害のある人々、その家族、地域社会の人々、保健・教育・社会・職業サービスなどの提供者側にいる人々、立法者、企画者は、このような最も基本的な情報を必要としている。

 60.広報活動を実施する際には、信条、習慣、価値観は世界中では各種様々であることを考慮に入れなければならない。各種の障害を様々な側面から扱わなければならない。障害のある人々はおしなべて同質グループではないという事実を、知らせるような広報プログラムでなければならない。障害は各種様々な原因によって起こり、その障害によってもたらされる影響及びその解決方法も様様である。聴覚言語障害、視覚障害、精神薄弱、精神病、運動機能障害、心臓・呼吸器疾患及びその他の慢性疾患のある人々、またはこれらの障害のいくつかを合わせもった人々等がおり、彼らのニーズはそれぞれ異なり、地域社会の中で必要とされるサービスも異なる。

 61.教科書、教材、おもちゃ、本など、幼児の目にふれる物の中に、障害のある人はみな同じであると思わせるようなものが載っていたり、偏見的な態度が表れていたりしないよう、特に注意をしなければならない。特に学童は、学校の教科書などを通じて、障害及びその障害によってもたらされる影響に関する情報を与えられなければならない。障害のある人々も、すべての他の人々と同じような技能、才能、感情をもち、そして限界もあることを、児童が理解できるよう援助されなければならない。

 62.「一般市民への啓蒙キャンペーン」は、社会的環境を変えるのに役立つであろう。啓蒙キャンペーンによって、障害のない一般市民は、自分たちが障害のある人々に対してどのような態度を取っているかを評価でき、また、障害のある人々が直面する最大の障害物は、実は、一般市民の拒否的な態度や偏見であることが多い、ということを認識できるようにしなければならない。このような啓蒙キャンペーンによる教育的効果によって、障害のある人々も社会の経済的、政治的、社会的生活に貢献できる能力をもっていることを地域社会の人々が認識できるようにならなけれぱならない。啓蒙キャンペーンは適切なコミュニケーション技術を活用し、継続的に行い、子供ができるだけ小さいうちから始めなければならない。障害の諸問題及びその解決方法について地域社会を教育する方法には、直接教育方法と間接教育方法があり、それらを十分に工夫し活用しなければならない。
(*国連:「障害者を地域社会生活に統合化するにあたっての社会的障壁(Social Barriers to the Integration of Disabled Persons into Community Life)」、専門家委員会報告、ジュネーブ、1976年6月28日一2月5日、No.ST/ESA/62。ニューヨーク、国連、1977。)

 63.障害のある人々のために実施された従来の募金キャンペーンやチャリティー活動においては、障害者をステレオタイプにとらえたり、障害者に対して消極的な態度を取らせる内容のものが多かったが、広報プログラムはそうであってはならない。障害のある人々自身が、教育・啓蒙プログラムに教師や指導者として参加すべきである。

 64.障害のある人々が社会において諸権利を履行することについてや、彼らが利用できるサービスについての情報や教育は、障害のある人々とその家族を対象とし、彼らのためになされなければならない。ろう者、聴覚障害者、言語障害者、視覚障害者、精神薄弱者、精神病者、及び学習障害者など、コミュニケーションに障害のある人々にもこれらの惰報が伝達されるよう特別の対策が必要であろう。

80年代憲章の目的と原則を実現化するために、各国は行動を取るべきである。

 65.各国は国民のすべての層にかかわりのある障害予防及びリハビリテーションに関して、総合的な全国的計画を立てるべきである。

 66.各国において全国的計画を立て、その実施にあたっての緊密かつ継統的な調整を図る中枢機関を設けなければならない。例えば、障害大臣などのように、政府の最高レベルに直接責任のある者または事務局が、全国的計画の企画・調整にあたる主要責任を与えられなければならない。この事務当局または個人は、関係するすべての省庁、民間団体、専門職団体及び障害者当事者団体によって構成される諮問委員会の援助を受けられるものとする。また、障害予防、リハビリテーションの促進、及び障害のある人々が社会の中に完全かつ平等に参加できるようにするための条件整備が、着実に進められているかどうかをモニターしなければならない。

 67.障害予防及びリハビリテーションは、各国の社会・経済政策及び開発計画の主要かつ優先的謀題としなければならない。この分野における活動は、開発援助プログラムの正式な事業として認められるべきである。

 68.障害のある人々が自分の能力を最大限にまで伸ばし、生活の質を向上し、社会へ参加・貢献する可能性を大きくするために、既存の教育・医療・社会・職業サービス体系の中に、リハビリテーション対策を設けなければならない。各国は、その財源を十分に確保しなければならない。

 69.すべての法律を再検討し、障害のある人々を差別する条文を削除しなければならない。また、すべての法体系の中に、以下のような条項を入れなければならない。
 ○障害予防及びリハビリテーションに関する公的サービスと民間サービスの調整を図る。
 ○建築上の障壁を禁止する。
 ○すべてのコミュニティ・サービスを、障害のある人々にも利用できるものとする。
 ○障害のある人々及びその家族が、自分たちの生活や自分たちに提供されるサービスに影響する決定過程に、完全に参加できるようにする。

 70.各国は障害予防及びリハビリテーションの企画・適用・評価のために必要とされる調査研究のための資金を出さなければならない。(その国にとって特に重要性が強かったり、その国特有の状況に関連の深い調査研究は、特に力を入れなければならない)

国際協力を強化しなければならない。

 71.障害予防及びリハビリテーションの諸分野における情報、技術、調査研究、新しい試みの国際交流を促進しなければならない。この国際協力のためにどうしても必要とされる一つの条件は、言語上のコミュニケーション障壁を克服できる分類・情報システムの開発である。

 72.障害予防及びリハビリテーションの分野における国連傘下の政府間機関の活動を促進しなければならないが、特に地域レベルでの活動が重要である。これらは、国際非政府機関や政府の活動と連絡調整をして実施しなければならない。

80年代における行動目標

 この80年代憲章に発表された基本原則に基づき、また、障害予防とリハビリテーションのために各国が取れる行動は、その国が設定する優先順位と確保できる財源によって千差万別であることを認識し、国際障害者リハビリテーション協会は、1980年代の行動のための指針及び奨励として、すべての国に対して以下のような目標を提言するものである。

地域社会レベルにおける目標

 リハピリテーション・サービスの焦点を地域社会レベルに移すこと。これは都市部及び農村の両方において、地域社会レベルのリハビリテーション・サービスを拡張し、既存のコミュニティ・サービスの中に取り入れるようにすることも意味している。
 障害のある人々が公共施設や公共サービスをすべて利用できるようにするなどのように、障害のある人々の地域社会への統合化を促進するためのすべての対策を強化する。
 各地域社会において、障害のある児童及び成人の早期発見システムを設ける。
 障害のある人及びその家族の経済的、社会的状況及び文化的背景を考慮に入れて、リハピリテーション・サービスを提供する。
 障害のある人々及びその家族が、自分たちの生活についてや、受けるリハビリテーション援助についての決定過程に参加できるようにする。
 障害のある人々及びその家族が、社会の中で彼らの権利を実現することについてや、自分たちが利用できるサービスに関する情報を入手できるよう、情報の普及の向上を図る。
 リハビリテーション・サービスは、年齢、性別、経済力、宗教・信条、障害の種類・原因にかかわりなく、それを必要とするすべての人に対して提供する。
 障害のある人々を発見し、彼ら及びその家族を援助し、必要な場合には、適切なサービスプログラムを照会することのできる人材を地域社会レベルで養成する。教師、ソーシャルワーカー、保健サービス職員、行政官、牧師、家族カウンセラー、都市計画者などを含めた、コミュニティ・ワーカーの一般的養成プログラムには、障害の特質やリハビリテーションのプロセスについての基本的訓練を取り入れるべきである。
 障害のある市民の雇用を促進するために、労働組合及び雇用主が対策を取る。大企業や特に政府機関は、率先して障害のある人々を雇用すべきである。
 労働災害を予防し、労働者の負傷を減少するために、労働組合及び雇用主は対策を取る。

各国レベルにおける目標

 栄養不良及び低栄養を減少する。特に幼児や出産年齢にある女性の栄養を重視する。
 ポリオ、結核、ジフテリア、百日ぜき、破傷風、はしかの6大伝染病の免疫対策を拡張する。
 保健、教育、環境コントロールのすべての全国的プログラムの中に、障害予防対策を含める。
 教師、看護婦、医師、ソーシャルワーカー、政策立案者など、障害予防とリハビリテーションに関係するすべての専門職種の養成プログラムの中に、障害予防及びリハビリテーションに関する総合的な情報を取り入れて、養成プログラムをより充実したものとする。あらゆる種類・程度の障害のある児童及び成人、特に重度障害者のニーズにできるだけ対応するために、すべての教育政策に統合教育プログラム及び施設を用意する。
 障害のある児童及び成人を差別する措置を排除するために、現行の教育政策を再検討する。
 自立生活のために福祉機器類を入手しやすくし、関税の免除や、輸入免許や海外流通割当の措置を設ける。
 ユネスコの教育、科学、文化教材に関する「フローレンス協定」を各国が採択し、障害のある人々が必要とする物品を輸入する際に免税扱いをできるようにする。
 リハビリテーション・サービスを供給する方法として、従来よりもより簡素で経費のかからない方法を開発する。
 障害のある人々とその家族を排除したり差別していないかどうかを確認するために、現行の社会保障・社会保険システムを検討する。
 一般の労働者と同等の仕事に従事している障害者が、賃金及びその他の雇用条件について障害ゆえに差別されていないかどうかを確認するために、現在の雇用条件を検討する。
 働く能力のある他の労働者と同様に、障害のある者の雇用の場を保障する対策をとる。
 障害の原因、その影響、予防、障害のある人のリハビリテーションの可能性、及びその国において利用できるサービスについて、一般市民を教育する。このような教育により、障害のある人々も国家の経済、政治、社会生活に貢献する能力をもっていることを、地域社会の人々が認識するようにしなければならない。
 すべての公共施設、住宅、交通機関、社会・保健サービス、教育や労働の機会、文化・社会生活、スポーツ・レクリエーション施設など、社会のすべてのシステムを、障害のある人々が参加でき貢献できるようにする。
 あらゆる種類の障害をもつ人々を対象にした、建築上の障壁のない設計に関する情報の中心機関を設置する。
 住宅、職場、交通機関における障壁を除去するためと同様に、建築上の障壁のない設計の諸要素・必要条件を考慮に入れて、各国の設計・建築基準を改正する。
 障害のある人々にとって障壁のない建物・施設であることを示す国際シンボルマークの活用を促進する。
 障害のある人々による当事者団体の結成を促進する。
 障害のある人々とその家族の権利を差別する条文を削除するために、すべての法律を検討する。
 現行の法律の中に、障害予防とリハビリテーションサービスの連絡調整に関する条項、新築するすべての建物には建築上の障壁があってはならないと禁止する条項、すべてのコミュニティ・サービスを障害のある人々にも利用できるものとする条項、障害のある人々の生活に影響を及ぼす決議過程に当事者の参加を保障する条項を取り入れる。
 国家のすべての社会・経済開発計画の中に、障害予防、リハビリテーション・サービス対策を取り入れ、このようなプログラムは開発援助事業の合法的事業と考える。
 国家の元首に対し直接責任をもち、障害予防・リハビリテーションに関する総合的計画を企画・実施する主要責任者となる者を任命するか、その事務局を設置し、その企画・実施を援助する全国諮問委員会を創設する。
 80年代憲章に打ち出された目的と行動目標を実現するにあたり、この10年間にどれだけのことが実際に実現されているのか進行状況をモニターするシステムを設ける。

世界レベルにおける目標

 栄養不良及び低栄養を減少させる国際的努力を展開する。乳児、幼児及び出産年齢にある女性に重点を置く。
 すべての地域社会にプライマリー・ヘルスケアを実施するための努力を広げる。
 6大伝染病の免疫対策の拡大を促進する。特に1990年までにポリオを根絶することを目標とする。
 家庭内、職場及び路上の事故予防のための国際的基準及び対策を強化する。
 障害の根本的原因、障害の市民に及ぼす影響、障害の予防、リハビリテーションの可能性及び社会的不利をもたらさないために重要となる社会的要因について大がかりな広報活動を推進する。
 障害予防及びリハビリテーション分野における技術経験、新技術及び情報の交換について国際協力を強化する。
 リハビリテーションにたずさわる人材の育成について国際協力を強化する。
 福祉機器類の流通面における国際協力を推進し、低価格で入手できるようにする。
 障害予防及びリハビリテーションにおいて国連組織諸機関の活動を、特に地域レベルにおいて拡大する。
 新しい国際経済秩序の確立を基礎として世界資源のより公平な分配を通じ、本憲章の目標を達成しうる条件を生み出す。
 80年代憲章の普及を最大限にはかり各国のあらゆるレベルの関心、また国の最高指導者から各地域社会で直接たずさわっている人々にいたるまでの広い関心を換起する。



主題・副題:

30年のあゆみ
日本障害者リハビリテーション協会30年 戸山サンライズ10年

発行者:
財団法人日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
TEL 03-5273-0601 FAX 03-5273-1523

頁数:69頁~86頁

発行年月:平成6年11月30日