ヨーク大学
SPRU
18カ国における障害者雇用政策
:レビュー No.5
パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント
ヨーク大学社会政策研究所
Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York
ILO HELIOS
ドイツ
政策と制度的情況
障害者政策と法律
ドイツにおける障害者雇用への法的アプローチは、年金よりもリハビリテーションに主眼を置いた社会保険制度との関連が深い。法的アプローチの支柱となっているのが、指針である一連の原則である。本章はドイツ労働社会省1995年発表の「ドイツ連邦共和国での障害者の統合」(The Integration of Disabled Persons in the Federal Republic of Germany)による(BMA, 1995)。
社会保険とリハビリテーション
当初の法律では影響を受けた個々の人びとと彼らの抱える具体的な問題に力点が置かれ、社会保険制度と深い係わり合いがあった。1884年の損害保険法(Accident Insurance Act)制定に続いて、仕事上の事故の影響を抑えることと年金支払い額の軽減という2つの目的で、保険基金により医療サービスが提供されるようになった。1889年には既に、疾病・事故により職務遂行能力が脅かされ、年金支払いが必要な場合、基金が医療ケアのコストを負担することが法的に認められた。「年金支給の前にリハビリテーション」という、現在の指針となっている原則はここから生まれている。
1919年成立の戦争犠牲者福祉に関する帝国統一規則も、当初は戦争犠牲者を有給職に復帰させることが目的で、最初の段階として雇用主に戦争・事故犠牲者の雇用を義務づける条項が付け加えられていた。戦争・事故により障害者となった者以外の障害者については、1924年に「福祉の原則」(Principles of Welfare)の一環として統一帝国規則が導入された。1927年制定の雇用・斡旋・失業保険法の規定により、障害者への助言と支援(advice and assistance)の指針原則が打ち立てられた。その後数十年にわたり、障害者、障害者となる可能性のある者の職業生活、ひいては社会全体への統合が図られ、可能な限り早い段階で介入(intervention)する原則が次第に適用され、個々の社会支援の領域で用いられたアプローチが他の領域へと広がっていった。
1974年成立の重度障害者開発促進法(Further Development of Severely Disabled Persons Act)により、保護を受ける対象が性質や原因の如何にかかわらず全ての重度障害者を含むようになった。1974年成立のリハビリテーション給付の調和(Harmonization of Benefits for Rehabilitation)に関する法律で、リハビリテーションの期間中支給される医療・職業リハビリテーション助成金と給与補償を標準化し、社会支援の各部門・基金についての一連の原則を打ち立てることが試みられた。とはいえ、後者の法律にある各種助成金に影響する条項相互の調整が適切でなく、社会支援に関する法律条項と一致していないこと、重度障害者法(Severely Disabled Persons Act)による裁定がリハビリテーションに関するそれと調和がとれていないことが認識されている。
ドイツ連邦議会は、障害者のリハビリテーションに関する法規定を統合し、社会法典(Social Code)に組み込んで一定の形式にするよう繰り返し要求した。この要求は労働・社会関係閣僚会議(Conference of Ministers for Labor and Social Affairs)が提出しており、民間福祉団体連邦作業グループ(Federal Working Group of Private Welfare Organizations)や障害者団体等、他の多くの団体も要求を繰り返して来た。連邦政府は、障害者の処遇とリハビリテーションの進展状況を数回報告書にまとめ、その中でこれらの要求に応えていく意向を表明した。リハビリテーションのコストと質については、医療・職業・社会リハビリテーションの各制度間の調和が重要であることが共通認識とされた。1993年に改革案が提出され、障害者の社会への統合を規定した旧来の法律と、リハビリテーションに関する一般法を関係づける試みがなされた(BMA,1995)。
ドイツ統一後、旧西ドイツで築き上げられた社会保障制度は、旧東ドイツ5州と旧東ベルリンに適用された。1990年10月3日に効力を生じた統一条約により、障害者支援について統一の法的根拠が作られた。1991年1月から、戦争犠牲者に支給される給付金の対象が旧東ドイツに拡大され、医療・職業・社会リハビリテーションの各分野への給付金が旧西ドイツでの資金源から拠出されるようになった。
指針となる原則
障害者の社会への統合に関する社会権については、社会法典(Social Code)の一般の部にうたわれている。1975年第1回制定の第1巻第10章によると、身体、精神に障害を持つ者、またそのおそれのある者は、障害の原因にかかわらず、以下の目的のために必要な支援を受ける「社会権」を有するとしている。
障害の回避・除去・軽減
障害の悪化防止又はその影響の軽減
本人の意向と能力に応じた、社会、特に職業の場での地位の確保
この「社会権」はリハビリテーション政策を裏付ける指針となる原則であり、社会法(social legislation)の解釈と適用の際、法的基盤となる。政策提案の場では4つの原則が強調されている。
第1の原則では、障害者の社会への統合の目的を、できる限り普通に自立した生活をし、できる限り社会手当に依存しないこととしている。さらに、障害者のための特別な施設や規則を回避することも含まれている。第2に、最終性(finality)の原則では、支援提供の利用要件が異なるいくつかの別個の組織や機関が支援の責任を負っている場合でも、障害者と障害を持つおそれのある者には、その障害の原因如何にかかわらず、必要な支援は提供されなければならない。
第3の原則は、障害の程度とそれによる影響を最小限に抑え、避けがたい影響をできる限りカバーするために、可能な限り初期の段階で介入するというものである。第4の原則は、障害者あるいは障害を持つおそれのある者1人ひとりのニーズや状況に合わせ個別の支援を作りあげるというものである。したがって、対象者が受ける支援は障害の程度により変わるものではない。
障害者の社会への統合のための給付を規定した法律でも、同様の原則がうたわれている。連邦社会扶助法(Federal Social Assistance Act)においても、健康保険と社会扶助の目的がケアの必要性を除去し、あるいは軽減することにあると明記されている。
非差別法
1994年10月27日の法律は、憲法第3条第3項2段を修正したものであり、障害による差別を禁止している。これは統一後に起った憲法改正の動きの中で障害者の権利を主張する団体からの圧力により実現された(Frehe, 1995)。憲法修正自体は象徴的な意味を有するにすぎないが、リハビリテーションの目的達成には助力となる。とはいえ、憲法修正で障害者の雇用環境にどれだけの影響があるかは不明である。
障害者雇用立法の進展
上述のように、ドイツではリハビリテーションのコンセプトに焦点が当てられてきた。この中心課題は職業訓練と再訓練である。
障害者雇用政策のもう1つの大きな要素は雇用の義務化であり、その歴史は長い。1919年には戦争と事故の犠牲者の雇用を雇用主に義務づけた法規定が成立し、1924年には特定の他の障害者に法の対象が広げられた。1923年に採用された割当雇用制度が第2次世界大戦以降も存続し、障害の原因により2%から10%の雇用率が連合国占領下でも適用された(Jung,1987)。1953年に新しい法律が成立し、従業員7名以上の雇用主に、公務員と銀行・保険業界では10%、その他の民間企業では6%という雇用率が打ち立てられた。この法律の恩恵にあずかったのは主に戦争と産業事故の犠牲者であった。1961年の法改正は、雇用の場に比して有資格障害者の数が少なかったためと見られている(Jung,1987)(1960年時点で32万の職位があったのに対し、有資格の失業者で登録していたのは6,000人であった)。法改正の結果雇用率は一律6%となり、従業員9名以上の公共部門、15名以上の民間部門に適用され、対象者が最低50%の職業能力を喪失していることと規定した。しかし状況は改善されなかった。
1974年制定の重度障害者法(Severely Disabled Persons Act)にはこうした背景がある。この法律は、前述したニーズに合わせ支援を提供するという原則への例外である。この法律の恩恵にあずかるためには、障害程度が最低50%あるという証拠を提出すれば十分であり、障害により職業上影響があるか否かを証明する必要はない。障害程度30%から50%の障害者が、障害が理由で就労できないことが証明できれば対象者となり得るような例外規定を設けている。Rindt(1991)によれば、原則からはずれた理由は主に偏見が原因で、職場での実績が落ちていなくても、健常の他の従業員と比較して重度障害者が不利な状況に置かれていることが経験から分かったためである。
1986年と1990年に改訂されたこの重度障害者法は、現在でも義務雇用の基礎を成している。要約すれば、1974年の法律が、職業関連の障害度30%から50%の障害者を雇用率に含め、従業員16人以上の雇用主全てに適用するようになった。雇用率自体は6%で据え置かれたが、4%から10%の範囲内で設定できるよう別規定が設けられた。雇用事務所(employment office)の裁量で、特に雇用が困難と思われる者、企業内において訓練を受けている者等を、1名最高3名にまでカウントすることができる。その他、改訂後の法律には、雇用率を達成していない雇用主が支払うべき課徴金、雇用主が空いているポスト全てを重度障害者の就労可能性の見地から検討する義務、職場での障害者の特別な保護と代表(representation)等が規定されている。
この法律は、障害の原因を認める補償原則から、原因ではなく障害の性質や程度、影響に依拠する、統合への絶対的権利へ移行したという点できわめて画期的なものである。結果として、法律により保護される者の数が飛躍的に増加した。1974年の法律は、人びとが雇用での特別保護や財政的支援の恩恵にあずかる障害者の数を過大評価したために、国民の間に議論(あるいは憤慨)を引き起こしたことは明らかである(WHO,1990)。
この法律は1986年に改定された。「収入を獲得する能力の減少」という表現は「障害の程度」に変えられた。雇用喪失に対する保護は、(一般の解雇保護法(Protection against Dismissal Act)に合わせ)6ヶ月後に適用されるようになった。義務的雇用の空席の計算に訓練の空席を入れなくなった。重度障害者を代表する者の法的立場が強化され、採用過程での協力者としての彼らの機能に重点が置かれるようになった。
1990年のドイツ統一条約により、労働法規、職場安全、さらに社会保障についての均一の要件や条件が作られた。ドイツ連邦共和国の法体系に従い、障害者の社会統合に関する法律が旧東ドイツ地域でも採択された。こうした法律の中には、職業リハビリテーションのためにあらゆる恩恵を与えている雇用促進法、重度障害者が解雇されることからの保護の強化、企業や公共団体における重度障害者代表の選出、さらに最低職位数等を含む重度障害者法(Severely Disabled Persons Act)が含まれる。旧東ドイツ地域では、従業員の10%は障害者を雇用するよう雇用主に法的義務を課したが、制裁措置は含まれなかった。
法定の雇用率未達成の場合に課せられる税金(課徴金 compensatory levy)も旧東ドイツ地域に適用された。重度障害者法の定める法定雇用率未達成の雇用者に課せられる課徴金が1月あたり西ドイツでは150マルク、東ドイツでは250マルクであったので、中間点で200マルクに統一された。
政策立案と実施
連邦政府レベルでは、労働社会省(Ministry of Labor and Social Affairs, BMA)が戦争犠牲者への援助金支払い、障害者に関する法律、障害者の職業参加を担当している。連邦雇用サービス局(Federal Employment Service)には11の地方雇用事務所、184の地域雇用事務所、640の支局があり、労働社会省の監督下に置かれている。
1986年に改訂された重度障害者法により、障害者の社会参加のための方策を提言すると共に、法律の実施で雇用事務所を支援するため、中央・地方両レベルで連邦雇用事務所に所属する諮問委員会が設置された。委員会のメンバーは11人で、うち5人は障害者団体の代表である。
1986年の法律により、連邦労働社会省所属の障害者リハビリテーション委員会(Council for the Rehabilitation of the Disabled)が設置され、従業員、雇用主、障害者団体、連邦各州、保険業者、福祉サービス、リハビリテーション機関を代表する38名が構成員となっている。この委員会は雇用促進関連の提言を大臣に行い、特にリハビリテーション機関と課徴金基金に関連して調整役を勤めている。
社会参加のための給付金やその他の支援の責任を単体で持つ社会給付基金はなく、該当する多数の基金が担うさまざまな役割に組み込まれている。雇用促進の給付金は連邦雇用事務所(Federal Employment Office)、年金や損害保険基金、その他健康にダメージを受けた場合の社会保障を担う基金から出される。リハビリテーションを担う各種基金は、社会統合が迅速かつ継続的に行われるためにも、相互に密に協力しなければならない。複数の施策が求められる場合、あるいは複数の基金や機関が関係している場合、リハビリテーションの「総合計画」立案が必要とされる(リハビリテーション統一法(Rehabilitation Harmonization Act)第5部)。
重度障害者法に基づき、連邦雇用事務所は雇用、キャリアに関する助言、職業に就かせること、職業訓練の空席に関連したキャリア助言と紹介を担当している。障害者・重度障害者の雇用と職業支援のために、失業給付事務所(unemployment benefits offices)内に特別キャリア助言・紹介センターが設置された。
連邦各州の福祉機関は、障害者を職業生活に統合するためのサービスを提供している。一定数の障害者を雇用する義務を達成していない雇用主が支払う課徴金の55%は、この各州福祉機関が受取る。これが資金となり、サービスや給付金が追加されている。各州福祉機関は職業カウンセリングと企業訪問を行っている。したがって、重度障害者法は、各州福祉機関と連邦雇用事務所が「密接に連携しながら」実施されている。
社会パートナー(social partners)
社会パートナーは、上述の2種類の顧問機関に代表を送っている。
連邦経営者連盟(Federal Union of Associations of Employers)は連邦雇用事務所と各州福祉局との会合を設け、特に中小企業に重度障害者の潜在能力と現在ある支援についての理解を広げ、重度障害者の雇用状況を改善するべく議論をした。
職業訓練機関は、セミナー開催等を通じ、 雇用主を巻き込むべく積極策をとりはじめており、例としては、障害者統合に携わる社会パートナーを含む各種機関による定期的な「円卓会議」がある(HELIOS, team of experts,1996)。
労働組合が雇用義務の強化を求め、議論の中で障害者の利益を積極的に推進してきたようである。会社レベルで障害を持つ従業員の利益代弁者が係わり合いを増すよう行動してきた。
障害者団体
前述の2種類の顧問機関には、障害者団体の代表も加わっている。
割当雇用に恒常的に違反している場合、障害者機関は訴訟を起こす権利がある。障害者の権利を求める運動の中で、雇用義務政策の強化と、差別に対し雇用と補償を求め訴訟を起こす集団権の導入が訴えられてきた(現行の法律ではこの権利が個人には認められている)。障害者運動体は、障害を理由とする差別を禁止した憲法改正を歓迎しているが、政策への影響は小さい(Frehe,1995)。
障害者のうちで比較的小数、おおよそ30%程しか組織されておらず、障害者団体も、圧力団体というよりコンセンサスと妥協を戦略としてきた(Hammerschmidt,1992)。
障害の定義
「障害者」とは、標準に反した身体・知的・心理の影響により社会参加の能力が制約された人で、この参加能力の制約が一時的なものではない場合をいう。WHOの提案に基づくこの定義は、重度障害者法第3部と、具体的な規定の適用に見られる。
障害の状況を決定する責任は特別の独立した福祉機関に課せられている。どの個人が重度障害者に該当するか明示する目的で、連邦労働社会省は1983年11月、「社会補償法(Social Compensation Act)及び重度障害者法に基づく医療専門家による検査ガイドライン」を発表した。これは、本質的に医療手続であるが、機能障害の程度の測定を試みている。機能制約の重さは、20から100まで10刻みの「障害の程度」という形で表される。
重度障害者法の認める特別の支援や権利を甘受するためには、障害が正式に認知され、登録を行う必要がある。登録は任意である。重度障害者は、申請をすると、障害の程度を証明するIDカードを受領する。重度障害者法によると、「重度障害者」とは障害の程度が50%以上の者をいう。
1986年の重度障害者法改正で、職業適性の減少を意味することを避けるため、「低減した稼働能力」が「障害の程度」に書き換えられた(Rindt,1991)。しかしながら、障害の程度が30%から50%で、障害が職業上影響を及ぼす場合には、特別な規則が適用される。障害故に、本人に適した職業を得たり、保持したりすることが不可能な場合には、申告に基づいて雇用事務所(employment office)により重度障害者と同等の地位が与えられる。後者は、政府の資料では、「重度障害者と同じ立場にある者」とされる。
統計
1992年の旧西ドイツの労働力人口は3,160万人、旧東ドイツでは810万人だった。労働市場への参加率はそれぞれ71.1%と77.7%だった。1993年の年間平均失業率はそれぞれ8.2%と15.8%だった(MISEP,1994)。1995年の失業率はそれぞれ8.3%と14%で、失業者総数362万1,542人、全体の失業率は9.4%だった。
登録重度障害者
公式な統計は、重度障害者法下で登録した障害者、即ち障害の程度が50%以上の者と「同様の立場にある」者の人数に基づいている。障害者登録が任意なため、主に女性を中心に、人数が十分反映していない障害者グループがいくつかあると思われる(Niehaus,1993)。したがって、この統計は対人口で障害者の実状を正確に表しているとは言い難い。
登録をすると、有給休暇の5日追加、交通費補助(travel concessions)、電話料金やテレビ・ラジオ受信料割引、税額控除等のメリットがある。
1993年に旧西ドイツでは、約560万人が重度障害者として認められていた。旧東ドイツでは81万4,000人であった。全人口8,132万人に占める重度障害者の割合はおよそ8%である。表G.1は年齢による割合を示している。
登録障害者の障害のデータでは、ドイツの重度障害者の約3分の1は、内臓機能に制約があることが示されている(ZENTRAS, 1996)。Winkler(1996)は、これについて「目に見えない」障害の広がりとコメントしている。Stork(1996)は、心理的障害を持つ者は障害程度50%に達する場合は希であり、若年層では精神障害の方が多いとコメントしている。
年齢 | パーセンテージ |
---|---|
15未満 | 0.86 |
15-24 | 1.36 |
25-34 | 1.96 |
35-44 | 3.06 |
45-54 | 7.00 |
55-64 | 16.25 |
65以上 | 25.72 |
出典:BMA,1995
障害者の労働市場への参加
障害者の労働市場への参加率は健常者の約半分である。1989年、旧西ドイツでは、男性障害者の労働市場参加率は32.9%であったのに対し、健常の男性の参加率は63.8%であった。同時期同地域で女性の場合、それぞれ18.3%、38.8%であった(George,1995)。
Niehaus(1994)は、公式統計と1989年の小規模人口調査から、障害と年齢が女性の労働市場への参加に及ぼすインパクトと、男女の参加の構造的な違いを示す結論を引き出している。女性障害者の雇用率は、健常の女性、男性障害者に比較して遥かに低い。男女障害者は健常者より貧しい状況にある。障害、失業、所得の減少、性別の関係は人口データの分析で明らかである。
障害を持つ従業員
1993年10月の時点で割当雇用制度下で雇用されている重度障害者は、旧西ドイツで77万5,665人、旧東ドイツでは8万2,863人であった。1994年10月時点では東西合計で86万1,912人であった。割当雇用制度の議論の中で過去の数値を示してある。1993年時点で、旧西ドイツで割当雇用制度外の雇用主の下で雇用されていた重度障害者数は11万2,600人と推定される。
失業中の障害者
連邦雇用局が毎年発表している求職中の障害者数を、旧西ドイツを表G.2に、全ドイツを表G.3に示してある。
これらの表によると、障害者の登録を済ませ、正式に失業している絶対数が減少している。旧西ドイツのデータだけを見ると、失業者全体に比して重度障害者が労働市場で置かれている立場が着実に悪化している。1986年の失業率が9%であったのに対し、障害者の失業率は11.9%であった。1992年以降、失業率の格差は5.5%を上回り、1994年の失業率が9.4%であったのに対し、障害者の失業率は15.8%だった。
年 | 男 | 女 | 合計 |
---|---|---|---|
1981 | 58,099 | 28,455 | 86,554 |
1982 | 75,850 | 36,114 | 111,964 |
1983 | 89,852 | 41,308 | 131,160 |
1984 | 96,455 | 41,861 | 138,316 |
1985 | 94,989 | 41,019 | 136,008 |
1986 | 85,872 | 40,713 | 126,585 |
1987 | 85,310 | 41,492 | 126,802 |
1988 | 87,332 | 43,234 | 130,567 |
1989 | 81,966 | 42,311 | 124,297 |
1990 | - | - | 121,010 |
1991 | - | - | 116,750 |
1992 | - | - | 124,825 |
1993 | - | - | 144,410 |
1994 | - | - | 155,525 |
出典:Grammenos,1991,table27;Stork,1996,p17
年 | 合計 |
---|---|
1990 | 132,409* |
1991 | 136,689 |
1992 | 155,082 |
1993 | 172,849 |
1994 | 178,317 |
1995 | 176,123 |
*東は10-12月分のみ
出典:BMA
1994年に失業中だった重度障害者の45%は55歳以上であり、19%は50歳から54歳であった。失業中の重度障害者の約3分の2は正式な資格(formal qualifications)を有していなかった。
長期失業者の中で重度障害者の割合は過剰に高い。旧西ドイツで1995年時点で33%の人が1年以上失業していたのに対し、重度障害者についての割合は約50%である。これは主に失業の長期化と(失業から)抜け出すものの比率が低いことによる。報告によると、高齢障害者は失業の期間が長く(通常の平均7.7ヶ月に対し15.5ヶ月)、正式の資格を有しない障害者はさらに長期にわたり失業している(平均18.4ヶ月)(George,1995)。さらに、1993年に失業者全体の41.6%が再就職したのに対し、障害者ではこの数値は20.6%である。実際は、1993年に76.2%の障害者が失業状態から(早期)退職者となり、早々にして制度から除外され、労働市場から撤退したり病気になったりした(George,1995)。
これらのデータは障害者登録数に基づいており、労働市場での能力に影響を及ぼすような疾病や社会的障害を有しながら登録をしていない者を含まない(Niehaus,1997)。
雇用支援サービス
ドイツでは職業リハビリテーションが重要な役割を担っている。適切な職業訓練を受けることが、職業生活に永続的に統合される最良の資格であり、職業を失わないための最良の防衛策でもある。これは障害者にも健常者にも言えることであるが、障害者には特に当てはまる(Rindt,1991)。
第1に、障害者や障害を持つおそれのある者は、他の市民が受けられる支援や給付を求めることができる。例えば、他の職業に就くために再訓練を受ける場合、雇用促進法(Employment Promotion Act)によると、健常者と同じ給付を受ける権利がある。しかし、障害故に職業再訓練が必要な場合、特別で、より有利な資格規定が適用され、給付の範囲も異なる。
1996年までは、全ての障害者が職業リハビリテーションの給付を受ける法的権利があった。こうした給付の中には、仕事に就き、維持するための支援(雇用促進のための雇用主への給付や統合のための給付(integration allowances)を含む)、延長訓練、基本的訓練、再訓練等が含まれる。職業リハビリテーションサービスを受けるために重度障害者法の下での正式な障害者認定は必要ではなかった。実際、リハビリテーション参加者で重度障害者は10%程にすぎなかった。
しかし、1997年1月に成長・雇用法(Growth and Employment Act)が導入され、職業訓練施策へ長年にわたり認められていた法的権利が廃止となった。重度障害者として既に登録されている者のみ法的権利を有することとなった。新法成立以降、他の障害者のケースは裁量ベースで取り扱われる。リハビリテーションは保険基金から資金が拠出されており、この基金は障害の原因等の事由に左右されることから、今後の資金拠出は基金の財政状態によるであろう。
職業リハビリテーションで最も重要な官庁は連邦雇用サービス(Federal Employment Service)であり、ここが約80%の資金源となっている(MISEP,1994)。法定年金や損害保険の、職業リハビリテーションの施策・給付金双方への寄与は比較的小規模である。しかし、連邦雇用サービスがほとんどあらゆるケースの最初の統合を担当しながら、年金や損害保険基金から再統合ケースの60~70%の資金が出ている。
職業リハビリテーションの過程において、通常は担当の基金が現金給付を拠出している。初期段階の訓練のための拠出金、特に再訓練のケースでの生計維持のための一時的給付金、さらに社会保障の資金も拠出している。1997年1月の成長・雇用法成立により、給付の規定が放棄され、雇用事務所による支給額まで下げられた。一時給付金は以前の純所得の70%相当から68%相当に減額された。子どもや配偶者等の扶養親族がいる者への支給額は、以前の準所得の85%相当から75%に減額された(これに加え、授業料、受験料、学習支援器具、作業着と作業器具、通勤費、リハビリテーションに参加しているために子どもの面倒が見られない場合の支援等も財政支援される)。
職業ガイダンス
ドイツにおける障害児教育は、障害の種類により異なる特殊学校で行われているのが主である。1993年時点では、37万1,318人の障害児が障害児用の学校で学び、そのうち9万0,790人は旧東ドイツ地域内である。57%は教育的に通常以下の人びと(educationally subnormal)用の学校に就学している。特に、知的障害児を対象とする職業訓練はこれらの学校で提供されている。彼らにとっての次のステップは、通常はシェルタード・ワークショップへの移行である。
学校から訓練の場や仕事の場への移行準備は、普通学校、特殊学校共に最終学年で行われており、職業生活の基本的知識習得をめざした専門科目(雇用学習(employment studies)、技術/工場、経済など)が含まれている。連邦雇用局は、学校やその他の機関と協力してキャリアに関する助言を行うよう義務づけられている。
専門キャリアカウンセリングは、雇用促進法の下で連邦雇用局の担当となっている。障害者のための専門キャリアカウンセリングセンターが各地の雇用事務所に設置され、転職を含めてキャリア選択の疑問に関する助言や情報を提供し、職業訓練に関し個人的に助言し、職業訓練の場を調達し、職業上の統合に関し障害者が受けられる財政的支援についての情報提供を行っている。訓練を受けた障害者のためのキャリアカウンセラーは、助言を求めてきた若者の適性や傾向を評価し、将来の職業支援要件について助言する際に、その示唆を得るために雇用事務所の専門医療・心理サービスの助言を求めることができる。
キャリアカウンセリングセンターに助言を求めて訪れる障害者の数は、1989年までの10年間でおよそ40%増加した。同じ時期に、職業訓練の場を求める障害者の数はほぼ倍増した。1988年から1989年にかけて13万3,200人の障害者がキャリアカウンセリングセンターに助言を求めて訪れたが、これは助言を求めに来た人の約10%に相当する。このうち2万8,500人が職業訓練の場を求めていた。1993年から1994年にかけては、助言を求める人の数は15万5,500人に増加し、全体の11.3%となったが、職業訓練を求める人数は2万4,500人に減少した(旧西ドイツ)。同時期に旧東ドイツでは、5万1,400人がキャリアカウンセリングセンターを訪れたが、対前年比1万1,300人増加しており、全体の11.1%を占めている。1万1,489人が職業訓練の場を求めていた。
職業訓練と職業リハビリテーション(Occupational Rehabilitation)
職業訓練政策は職業リハビリテーションの核をなす。一般的な目的は、障害者が恒常的な雇用を求め健常者と競争する時に、平等な機会を障害者に与えることである。広義の解釈では、職業訓練法(Vocational Training Act)や手工業規制法(Handicrafts Regulation Act)下で公に認められている訓練生向け職業(trainee occupation)での訓練を通して、障害者が就職に必要な条件、主に正式の資格を取得することができるようにするのが目的である。こうした訓練の場は、健常者もいる公共・民間セクターが望まれるが、職業訓練校(vocational training college)に出席して補うことも可能である(二重訓練、dual training)。雇用主に訓練補助を支給することで、OJTも可能となる。
追加的支援や訓練規定が免除される可能性があるにもかかわらず、障害の性質や程度の故に正式に認められた訓練生向け職業で訓練を受けられない若者については、地域の基金が公認の訓練生向け職業以外の訓練についての規定を作り得る。この特別訓練コースの目的は、公認の訓練生向け職業へのアクセスを保証する最終的な資格に結びつけることを意図している。1995年現在、134以上の職業で629の規定があった。1993年12月にこの訓練を受けていた者は1万5,785人(うち7,209人は旧東ドイツ)で、1993年当初の9,000人から大幅に増加した。今やこの特別訓練が、雇用事務所の支援を受けるあらゆる訓練協定の5分の1ではなく、3分の1を占めるにまで至っている。大半は金属加工業、家政業、建設及び関連業である。
障害の結果、職種転換をする成人の継続訓練、再訓練にも同様の原則が当てはまるが、成人は公認の訓練生向け職業以外でも再訓練を受けることが可能である。規則上、障害者の再訓練は2年に限定されている。適切な条件がある場合には、健常者と一緒にOJTを行うことが、永続的な職業統合によい機会を与えると考えられる。というのは、仕事の条件や要求に訓練生が慣れることができ、就職に直結しやすいからである。企業側と職業訓練センターが訓練を提供し、障害を正しく考慮する意志と能力があれば、こうした訓練が障害者のために促進されることになる。
連邦雇用局の支援を受け企業内で訓練を受けている障害者の数は近年減少している。1989年は2万5,000人だったが1994年には1万7,543人であった。1993年12月時点で、連邦雇用局のリハビリテーションを受けている12万1,987人のうち2万5,374人(約20%)が企業の支援プログラム(assistance opportunities)に参加した。1989年に同割合は30%であった。
専門センター(Specialist centers)
ドイツのリハビリテーション制度は、なお、主に施設ベースである。異なった施設がリハビリテーションプロセスの諸段階に携わっており、したがって、対象とするグループも異なる。
職業訓練センターは障害を持つ新卒者に初級訓練を提供している。特に若年の知的障害者に力を入れており、センターにはそのための施設が設けられている。職業訓練センターは旧西ドイツに38ヶ所、旧東ドイツに8ヶ所存在し、1993年時点でそれぞれ1万500人、2,300人分の訓練の場が用意されている。
職業リハビリテーションセンターは28ヶ所(うち21ヶ所は旧西ドイツ)あり、1万5,000人分のリハビリテーションの場が提供されているが、事故・負傷・障害等が原因で職業再教育を必要としている職業経験を有する成人が対象である。リハビリテーションセンターは、連邦政府や手工業協会、保険機関、慈善団体、教会等さまざまな組織が資金源となり運営も行っている。受講生は骨格・運動神経・内臓疾患等の身体障害を持っている(Seyfried, 1992)。センターでは専門家のサービス(医療・心理・教育社会学等)が受けられる。リハビリテーションのコースは6ヶ月から18ヶ月に及び、70程の職種の訓練が行われている。
職業支援や職業リハビリテーションセンター以外に、医療・職業リハビリテーションセンターが17ヶ所あり(1993年時点で2,800人分)、一定の(神経科)疾病の場合、(キャリア選択や作業経験、職場復帰や再訓練に向けた準備といった)職業支援の最初のステップが医学的リハビリテーションの過程で導入されている。
職業リハビリテーションの参加者
1993年12月末時点で、連邦雇用局には職業支援訓練対策の参加者12万1,987人がリストされていた。表G.4では、1989年の数値との比較がなされているが、旧東ドイツ地域への拡大は括弧書きで表されている。
1984年から1992年の間で女性のプログラムへの参加率は31%から34%程度である(BMA,1995)。1992年では、参加者の45%が骨格に障害を持ち、15%は知的障害者であった。1984年以降、前者の割合は(1984年の32%から)上昇しており、反対に知的障害者の割合は(22%から)減少した(BMA,1995)。
表G.5は、旧西ドイツ地域で連邦雇用局の財政支援を受けたケースの統計である。
- | 1989 | 1993 | (拡大者数) |
---|---|---|---|
会社内(汎業種向け部門を含む) | 31,658 | 25,374 | (2,252) |
職業訓練センター | 11,166 | 12,998 | (2,740) |
職業リハビリテーションセンター | 12,362 | 15,463 | (1,516) |
医療・職業リハビリテーションセンター | 152 | 285 | (9) |
障害者のシェルタードワークショップ | 13,592 | 14,823 | (2,057) |
その他のリビリテーションセンター | 5,210 | 5,386 | (5,586) |
その他の汎業種 リハビリテーションセンター | 31,620 | 40,505 | (9,181) |
類似コース | 234 | 152 | (16) |
合計 | 105,994 | 121,987 | (23,057) |
出典:BMA
職業リハビリテーションの効果
専門職業訓練・リハビリテーションセンターの課程を修了した障害者の就職率は高い(BMA,1995)。訓練終了後1年の障害者の調査では、長年にわたり平均80%は肯定的な結果を(さまざまな職域で)残している。しかし、一般的には、再訓練終了後1年を経過しても就職していない者の比率は上昇している。
訓練参加者に電算機、コンピューター制御の製図システム、情報処理機器やMEを導入することで、就職の成功率は高くなるといわれる。こうした現代技術の導入で、今後も期待されるような産業へ就職する機会が増大する。集中的なリハビリテーションによる「温室効果」もよい結果を生むものと見られている。Seyfried(1992)は、就職率は、リハビリテーション施設が訓練の場や実践を提供する際に、企業との協力にどの程度努力するかによるとしている。とはいえ、今後の就職状況は楽観視できない(BMA)。
問題は、成功率の高さが当初の選択手続きにリンクされるかどうかである。OECDに提出したドイツの報告書では、成人の障害者向け職業リハビリテーション施設の総合的ネットワークは、必ずしも身体障害以外の人びとを訓練するように整備されているわけではないという事実が指摘されている(OECD,1992)。一般的に、リハビリテーションの制度は身体障害者のニーズが前提とされている。1989年に発表された「障害者の現状とリハビリテーションの発展に関する第2回連邦政府報告書」によると、職業訓練センターを卒業する全盲若年層の就職率はその他の障害を持つ若年層よりはるかに低く、資格を活かしきれない就職に甘んじざるを得ないことが多い。特に、重度の障害を持つ人びと―訓練終了後も就職が困難とされる者―がリハビリテーション対策に占める割合は少ない。軽度の障害者のみを対象とすることで、よい結果を出しているのかも知れない。したがって、労働市場での成功をリハビリテーションに起因せしめることには無理がある(Walger, 1993)。
年次 | リハビリテーションサービス利用者 | 職業促進対策でのリハビリテーションを受けている者(年度末) | その年中に修了したリハビリテーションケース(年度内平均) |
---|---|---|---|
1981 | 227,900 | 71,400 | 109,500 |
1982 | 250,900 | 72,900 | 139,000 |
1983 | 272,900 | 77,700 | 147,300 |
1984 | 277,100 | 78,700 | 163,200 |
1985 | 289,600 | 83,500 | 172,400 |
1986 | 308,000 | 89,500 | 182,100 |
1987 | 338,000 | 89,500 | 182,100 |
1988 | 342,400 | 100,100 | 202,600 |
1989 | 341,300 | 106,000 | 200,000 |
1990 | 351,300 | 108,400 | 207,300 |
1991 | 363,300 | 112,400 | 216,800 |
1992 | 438,800 | 143,600 | 231,000 |
出典:MISEP,1994
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職業リハビリテーションセンターでは特に女性の割合が低いが、その原因の一端は、託児施設の欠如にある(Niehaus,1996)。女性が受給する職業リハビリテーション一時給付金が低額なのは、以前の所得をベースに計算されているからであり、リハビリテーションの制度も男性中心にできている現れである(Niehaus,1996)。
職業リハビリテーション用の特別施設は、費用について批判されてきた(Stork, 1996)。1日1人当たりのコストは約100マルクである。
就職
欠員に関する情報を提供する義務は雇用主にない。欠員を雇用事務所に登録する場合、それが障害者への適性があるかどうかチェックされる。企業の人事部は障害者の代弁者と協力する必要がある。公共部門においてのみ、同じ資格を有していれば障害を持つ求職者が優先される。裁判所は強くこれらの措置を行うよう命令しているが、無視されることもしばしばのようである(Floyd & North(eds),1991)。
各地の雇用事務所には1名又はそれ以上の重度障害の求職者のみを取り扱う専門家がおり、彼らは中間管理職レベルでリハビリテーション部門を担当している。彼らはリハビリテーションを提供し、特別な補助具を推薦し、財源を確保する一方、具体的な障害や、これらの人びとをどこに就職させるかなど、専門家としての知識に欠けることがある。理論上は医療・心理面の専門サービスにアクセスができるが、Floyd & North(編)(1991)のワークショップの報告によれば、これらは過剰負担となっている。
Oyen(1989)がレビューした研究では、連邦雇用局の限界が就職に影響していることが示唆されている。それらの担う責任は総合的という性質があるため、有望な雇用主を訪問し、コンタクトを維持することを困難にしている。テクニカル・アドバイザーは最も緊急なケースを扱う時間しかない。前述の研究レビューによれば、財政的インセンティブや公的サービスが一般的には十分に利用されていない。
各州福祉局の、企業、特に中小企業とのコンタクトも限られている。Winkler(1996)により引用されたSadowskiとその同僚の研究では、企業の半数は全くコンタクトを受けたことがなく、頻繁にコンタクトを受けるのはわずか6%という。過去5年間に各州福祉局の代表が情報や協議のために訪問した企業は16%にすぎなかった。この研究から、雇用局の方が頻繁に企業とコンタクトしていることがが分かった。つまり、44%の企業は接触を受けたが、障害を持つ求職者を1人でも就職させようとした試みを報告したのは35%にすぎない。Stork(1996)は、雇用局と福祉局間のよりよい調整と協力を呼びかけている。
Winkler(1996)は、成功した就職例の少なさに言及している。失業者中の障害者の比率は6%であるのに対し、雇用局の仲介で成功したものが就職例に占める障害者の割合は1%である。Winklerによれば、求人と求職者のマッチングの質の低さが、比較的短い期間後に打ち切られた雇用契約数で示されている。彼は、雇用局によって送られる求職者を多くの企業は考慮しないということから、雇用局が持つネガティブな印象が主な障害となっていると報告している。
地方の雇用局による就職斡旋努力は、今後さらに留意すべきこととして繰り返し政策文書の中で指摘されている。例えば、1984年の資料に基づく1990年のWHO報告書では、障害者の失業を減らす施策として、特に中小企業の工場訪問の際に重度障害者の就職を獲得するためのキャンペーン、及び、雇用率を達成していない雇用主への直接的アプローチが挙げられている。昨今の政策上の関心は、就職が困難な重度障害者の就職を促進するために、雇用事務所と各州福祉局による雇用主への専門支援を向上させることに焦点が当てられている。職業紹介機関の業務の改善が、大学の解説書により勧告されている(例.Frick and Sadowski,1996)。
就職の新しいモデル
ここ数年にわたり、障害者の就職状況を改善すべく、特別プログラムが地方レベルで試みられてきた。例えばハンブルク州とヘッセン州では、障害者を公共部門の定職に就かせる試みが展開されてきた(Seyfried,1992)。
援助付き雇用
ここ数年、これまでの就職への試みの欠点を指摘するような新しいモデルが導入されてきた。Winkler(1996)は、シェルタードワークショップや失業状態から労働市場への移行を容易にする集中的な就職サービスを提供する専門統合サービスを記述している。1対1の支援で求職活動を改善する、協力や情報提供で雇用主が障害者を雇用する意欲を高める、雇用の場にジョブコーチを導入する等が主な内容である。
地域レベルでは、各州福祉局がこのプロジェクトを受け持つ。例えばウェストファーレン・リッペでは、さまざまな職業上のハンディと取り組むプロジェクトが34はある。主な内容は以下の通り(Schneider,1996)。
- 既知の空席の(障害者にとっての)適切性を発見したり評価するか、或いは、ある個人を念頭に置いて可能性を調整するために雇用主との積極的な作業を通じて行う、職業開発
- 求職者と仕事のプロフィール作成によるマッチング
- 個人のニーズに合わせ、職場でジョブコーチにより提供され、次第に(援助を)減らしていくような訓練
- 支援サービスの調整
- 必要に応じた継続的支援
STARTプロジェクト
これとは別に、1990年代中頃に新たに注目されるようになったのが、1970年代後期にオランダで設立された一時就労機関(temporary work agency)からヒントを得たSTARTモデルである。START及びその他のドイツの一時就労機関は、公的補助により奨励されてきた。それらは、失業者、特に長期失業者、50歳以上の失業者、及び、障害を持つ失業者といった特別の対象グループを志向している。目的は、究極的には通常の無制限な雇用契約を獲得することである。このモデルは作業能力の低減がない障害者には特に有用であろう(Winkler,1996)。全般的な経験では、グループ全体の移行率は40%以上であったが、1つのモデルでは契約終了ケース全体の移行率は71%と報告されている。1996年始めまでに、約80ヶ所のこの種の慈善団体による一時就労機関のほとんどは財政支援を受けていた。ただ、この財政支援は1997年以降は継続されていない。
ドイツ式モデルとオランダ式モデルの違いは、規則により、当機関と従業員が無期限の契約を交わし、その雇用関係の実際の期間が企業で過ごした時間より長期にわたらなければならない点である。ただ、個々の状況に応じてこの原則を逸脱することを認めるべく規制緩和の準備が進められている。
Winkler(1996)は、STARTプログラムのいくつかの利点を挙げている。障害者雇用に伴うリスクは雇用主ではなく当機関が責任を負うので、採用決定に伴う不安が少なくなる。雇用の経験を積み、汚辱的な失業の身分を終わらせることで、当機関の労働者にもメリットがある。雇用事務所のネガティブなイメージとは異なり、雇用主と密なコンタクトをとりポジティブな印象を育てることができる。
障害者の就職機会は「社会企業」(social enterprise)や「自助企業」(self-help firm)にもある。
一般雇用:法的義務と権利
障害者の雇用政策は、ドイツでは比較的発展していない女性やエスニックマイノリティの雇用機会を改善する目的で行われる機会均等アプローチの影響を受けてこなかった(Floyd,1991)。一般の雇用に関する法的権利や義務は、重度障害者法の割当雇用義務の枠組内で実施されているので、「重度障害者」あるいは「同等の立場にある者」にのみ適用される(「定義」の項参照)。したがって、重度障害者の登録が就労に関係した制約ではなく、測定された機能上の制約に基づいているので、職業上のハンディを負っていない者もハンディを負っている者と同じ権利と労働市場におけるサポートを享受し得る。
重度障害者法では、雇用主に障害者の雇用を促進し、雇用の場を提供することを義務づけ、課徴金付きの割当スキームを規定している。この法律により、障害を持つ従業員は職場での特別代表、解雇に反対する権利、追加的な有給休暇の特権が持てる。
雇用の促進
重度障害者法により、全雇用主は全ての求人について、それが重度障害者、特に地方の雇用事務所に登録済みの障害者に適しているかを吟味する義務を負う。
公務や司法関係のポストに重度障害者が従事したり、雇用されることが促され、それぞれに重度障害者が適切な割合でいるようにすべく、特別な規定や原則が作られなければならない。
同法により、全ての雇用主は、重度障害者が自らの能力と知識が最大限活かせるような雇用を行い、組織内での職業訓練プログラムの企画に当たっては重度障害者が(地位を)向上し得る機会の促進に特に配慮しなければならない。雇用主は、彼らのために行動する代表者を任命しなければならず、その代表者は、雇用主の義務が適切に履行されるようにしなければならない。重度障害者の統合を推し進めること、特に、特別のカテゴリーの人びとを雇用したり、雇用を促進するという雇用主の義務が確実に履行されるようにすることは、工場、スタッフ、州検事、判事、及び、中央の判事協議会の義務である。
障害労働者の環境整備
同法では、全ての雇用主は、できる限り多数の重度障害者が定職に就くことができるよう、作業室やプラント、機械器具を整備・維持すると共に、作業をアレンジしなければならない。雇用主はパートの仕事の提供を奨励されている。ただし、(法律の)遵守が「不当な要求や不相応な経費」を伴う場合には、これらの義務は適用されない。
割当雇用制度
従業員が16名以上の雇用主は、従業員の6%以上重度障害者を雇用しなければならない。この割当義務は民間・公共部門のどちらにも適用される。産業により、また地理的条件により割当率は規定により異なる。業種と企業の規模が障害者の職業選択で主な決定要素であるという意見があるが、この異なる割当の規定はこれまで実際に適用されてはいない。
6%の従業員を重度障害者にするという割当義務は公共部門全てに適用される。警察や税関、外務省など、雇用率を達成することがどうしても不可能な部門がある。この困難を克服するため、雇用率の計算を目的として、より大きな単位とするため、いくつかがグループにまとめられる(Cramer,1991)。
同法では、ある種の特別な障害者の雇用について触れ、第6条第1項で、雇用主が「適宜」雇用するよう指導している。
- 障害の性質や程度により就労生活に特に影響を受けている人、特に、
- 職業に就くために、恒常的に特別の支援を必要とする場合、
- 障害故に、雇用主が恒常的に例外的な支出を余儀なくされる場合、
- 障害故に、従業員が恒常的に際立って低い生産性しか挙げられない場合、
- 精神・心理の領域で障害程度が50%以上の場合、
- 障害の性質や程度が原因で職業訓練を修了していない場合
- 50歳以上の重度障害者
雇用義務の人数計算に当たっては、労働環境への統合が特に困難な重度障害者については、雇用事務所は1人以上、最高3人分までカウントすることもある。例えば、視覚障害者は2人分と数えられる。2000年まで、障害のある実習生は(雇用率の計算上)2人分にカウントされるが、雇用義務人数の計算に当たっては訓練ポストは考慮されない。障害故に労働時間短縮を余儀なくされる場合は、週19時間以下の労働であっても1人分として数えられる。
連邦雇用事務所がこの義務の履行をモニターしている。義務を果たさない場合、行政法上の犯罪として最高5,000マルクの罰金に処せられる。Burgerと Schroeder(1995)は Schimanko(1990)を引用し、1986年と1987年に義務を果たさなかった8万7,500社の雇用主のうち、罰金を支払ったのはわずか1社で、それぞれの年に500マルク、3,500マルク支払ったと言及している。法律では理論上、割当以上を雇用した場合報奨金が支給されることになっている。コメンテーターはこの条項の実施を支持してきた。
雇用主は雇用している全ての重度障害者の記録を作り、更新する義務がある。労働者や職員代表者がこの記録にアクセスできるようにされなければならない。雇用主は(障害を持つ従業員に関する)情報を年1回報告することを要請されている。欠陥に世論の注目を集め、責任ある人びとに行動を起こさせるのに、連邦政府や一部州政府が議会に提出している年次報告が有効といわれる。(Cramer, 1991)
1982年には実雇用率は5.9%であったが、1994年には4.0%に減少している。
表G.6は、1994年時点での、割当雇用制度下でのさまざまな種類の障害を持つ従業員と雇用義務総数を示している。表G.7は以前の抜粋年のデータである。
義務適用職位数 | 1,279,911 |
雇用されている重度障害者 | 760,895 |
雇用上(重度障害者と)同等の地位にある者 | 53,419 |
考慮されるその他の被用者 | 10,446 |
重複任命により追加的に充足された職位 | 37,152 |
充足された職位の合計 | 861,912 |
未充足の職位の合計 | 505,091 |
実雇用率 | 4.0% |
- | 西ドイツ | ドイツ全土 | |||
---|---|---|---|---|---|
1984 | 1987 | 1988 | 1991 | 1992 | |
義務職位数 | 1,014,097 | 986,469 | 1,004,000 | 1,339,952 | 1,301,583 |
雇用重度障害者 | 823,839 | 752,630 | 746,500 | 890,701 | 838,088 |
雇用同等 | 26,417 | 25,763 | 26,100 | 34,776 | 38,719 |
考慮されるその他の被用者 | 17,688 | 13,072 | 13,600 | 12,019 | 11,639 |
重複任命により追加的に充足された職位 | 25,743 | 29,641 | 30,800 | 37,361 | 38,032 |
充足職位合計 | 893,687 | 821,106 | 817,000 | 974,857 | 926,478 |
未充足の職位 | 264,958 | 287,154 | 305,100 | 475,285 | 478,110 |
実雇用率 | 5.3% | 5.0% | 4.9% | 4.4% | 4.3% |
年 | 合計 |
---|---|
1982 | 951,703 |
1983 | 896,808 |
1984 | 850,256 |
1985 | 811,725 |
1986 | 792,993 |
1987 | 778,393 |
1988 | 772,594 |
1990(東西) | 932,462 |
1991(東西) | 925,477 |
1992(東西) | 876,807 |
1993(東西) | 847,004 |
1994(東西) | 819,314 |
出典:Grammenos,1991,table25;BMA(1994)
表でも分かるように、「(重度障害者と)同等の地位にある」個人の就労率は上昇しているが、重度障害者の実雇用率は減少している。表G.8のように、割当雇用制度下で雇用される重度障害者の数も大幅に減少している。
雇用主の義務履行
1994年時点で、旧西ドイツ地域で14万8,791、旧東ドイツ地域に3万5,461の雇用主が雇用義務規定の対象であったが、同年10月時点で雇用率を達成した雇用主は2万5,192であった(約14%、全求人の20%)。しかしながら、76%の雇用主は雇用率未達成であり、37%は障害者を1人も雇用していなかった。
規定対象の雇用主で雇用率を達成した比率は年々低下しているが、1人も雇用していない雇用主の比率も、1988年と1989年の44%から1990年と1994年の37%に低下している。
企業の規模と雇用率達成には相関関係が認められる。従業員1万人以上の企業では6%の雇用率が達成されているが、従業員16人から30人の中小企業では平均2.7%の雇用である(Floyd& North,1986)。1988年の資料では、従業員1,000人以上の企業では従業員30人以下の企業の倍の割合で雇用している(Seyfried,1992)。
1994年の統計では、従業員16人から30人の企業では実雇用率は2.7%であったのに対し、従業員5万人以上の企業では平均5.2%であった(ZENTRAS,1996)。
6%の雇用率を達成していない雇用主は、農林業・建設業・運輸通信・小売業・卸売業・金融保険業に多い。エネルギー・鉱業では法定雇用率を達成している場合が多い(Frick & Sadowski,1996b)。
公共部門での実雇用率の方が民間部門より高い。1996年時点で、前者が5.2%(旧西ドイツ地域5.7%、旧東ドイツ地域3.4%)であるのに対し、後者は3.6%(旧西ドイツ地域3.8%、旧東ドイツ地域2.4%)であった。表G.9にあるように、公共部門の達成率が常に民間部門を上回っている。連邦政府機関の1994年の達成率は6.4%であり、したがって、連邦政府は課徴金の支払を免れた。各州自治体の状況は2.9%(チューリンゲン州)から7.2%(ザールラント州)までとさまざまで、1993年の平均は4.5%であった。公共部門で重度障害者を雇用しようとする連邦政府の努力の一環で、民間部門への手本として公共機関は6%の法定雇用率を達成することとされている(Burger& Schroeder,1995)。
雇用率未達成のポストの数より障害を持つ求職者の方が少ないので、完全な達成は不可能である。
割当雇用制度の下では新規採用より既存の従業員の維持が有利である。重度障害の従業員の4分の3は、すでに雇用されている段階で雇用主に勧められて重度障害者登録を行っている(Brandt,1984)。重度障害を持つ従業員は、その大半が外部から新たに雇用されたのではなく、内部で重度障害者となった者、即ち、就労している期間に障害者となった従業員である(Oyen,1989)。同様に、82%の重度障害を持つ労働者は「内部調達」されている(Sadowski& Frick,1992)。さらに言えば、重度障害者の方が一般の従業員より長期間同じ雇用主の下で就労している(現在の雇用主の下で20年以上就労している者は、重度障害者では37%、従業員全体では18%である)。
実雇用率は1982年の平均5.9%から減少してきている。
年 | 西ドイツ | 全国 | 民間 | 公的部門 |
---|---|---|---|---|
1983 | 5.7 | - | 5.4 | 6.5 |
1984 | 5.3 | - | 5.0 | 6.2 |
1985 | 5.0 | - | 4.7 | 5.9 |
1986 | 5.2 | - | 4.8 | 6.1 |
1987 | 5.0 | - | 4.7 | 5.9 |
1988 | 4.9 | - | 4.6 | 5.8 |
1989 | 4.8 | - | 4.3 | 6.0 |
1990 | 4.5 | - | 4.1 | 5.7 |
1991 | 4.4 | 4.4 | 4.0 | 5.3 |
1992 | 4.4 | 4.3 | 3.9 | 5.2 |
1993 | 4.3 | 4.2 | 3.8 | 5.2 |
1994 | 4.3 | 4.0 | 3.6 | 5.2 |
労働市場から重度障害者を新規採用しない雇用主の割合は高い。1978年から1982年の間に3分の2以上の雇用主が外部から障害者を1人も雇用しなかった(Brandt,1994)。1989年に892の雇用主を対象に行われた調査では、新規採用された従業員のうち障害者は0.8%であった(Burger& Schroeder,1995)。中小企業にとっては、重度障害者に適した職場と業務を創り出すのは困難を伴う。
課徴金
課徴金の目的は2つあり、インセンティブとしての利用と、「均等化」(或いは再分配)の目的に利用することである。即ち、障害者を雇用するに当たり必要となるコストを企業間で平等に分配することである。
1990年10月以来、雇用割当を達成していない雇用主は、未達成1人当たりに付き200マルク支払うことになっている。1996年8月までは、シェルタードワークショップや盲人作業所と契約を結ぶ雇用主は、支払義務のある金額の請求書から30%控除することができた。現在この控除額は労働コストの50%である。
課徴金収入は1992年で9億7,600万マルクであったが、主に重度障害者の雇用に拠出されている。つまり、大半は雇用主に還付される結果となる。割当雇用制度の対象となる従業員数だけ雇用していなくとも、重度障害者を雇用している雇用主にも課徴金から給付金が支払われる。55%は地方の福祉基金に割り振られ、そこで重度障害者の就労と訓練の場の拡大、労働環境整備のための支援、その他重度障害者の統合目的に利用される。残りの45%は、重度障害者の雇用・職業・社会への統合を目的として全国レベルでの施策推進のために連邦労働・社会省が設立した基金(Compensation Fund)に拠出される。この基金からは連邦雇用事務所に、重度障害者の雇用促進に必要な資材を供給することになる。さらに、全国レベルでモデルプロジェクトの推進にも関与している。
雇用主は割当を達成するより課徴金の支払を指向する場合が多かった。現状では、特に経済不安も相まって、罰則金を支払う方が経済効率がよい。課徴金を200マルクから引きあげる可能性と有効性が議論されてきた。ある調査では、70%の雇用主は課徴金を支払う方が容易だと回答し、課徴金を倍増(当時では100マルクを200マルクに引き上げ)して効果が上がると答えたのは25社に1社であった(Oyen,1989)。1986年に課徴金が150マルクに引き上げられても雇用率は低下した。障害者団体の包括的組織(連邦労働組合障害者支援協会;Bundesarbeitsgemeinshaft Hilfe fuer Behinderte)は、大幅な引き上げを繰り返し訴えてきた。従業員の給与水準や年金保険掛け金と雇用率をリンクさせるさまざまな方法が考察されてきた(Frehe,1995)。課徴金を400マルクに引き上げ、雇用率を5%に引き下げる提案も出されている(Niehaus,1997)。
解雇からの保護
雇用されている重度障害者は、不当に解雇されない特別な保護を受けている。これは雇用開始後6ヶ月で始まる。雇用主は解雇通知を行う前に各州福祉局の許可を得なければならない。その意図は、他に選択肢がないかチェックし、継続雇用を確保するためのあらゆる支援方法を吟味し、双方の利害を比較考慮することである。個々のケースを検討し、対象となる重度障害者の雇用を続けることが不合理であると判断される場合、解雇は認められる。申請に許可が下りるまでに、地域の支援評議会、工場評議会、障害者本人、組織内での障害者の代表と協議しなければならない。
各州福祉局の許可は必要とはされないが、重度障害の公務員又は判事が早期退職あるいは解雇されるまでに、同局も係わらなければならない。
従業員10名以上(先ごろ5名から10名に改訂された)の雇用主では、就労6ヶ月以上であれば解雇保護法(Protection against Dismissal Act)の保護を受ける。さらに、もし職場に労働評議会があれば、雇用主は解雇通知をする前に職場労働関係法(Workplace Labor Relations Act)に基づき評議会の意見を聞かなければならない。
1989年の解雇申請は4万件に上った(Frick& Sadowski,1996b)。1986年には2万1,000件、1989年には1万4,000件に減少したが、1993年には再び3万2,000件に上った(ZENTRAS,1996)。解雇通知数の上昇は不況の時期に当たる。1993年には障害者の同意如何にかかわらず51%の申請が許可された。29%の解雇は、プラントの閉鎖や縮小のためやむを得ないものだった(ZENTRAS,1996)。プラント閉鎖など、各州福祉局もほとんど何もできない不況の時期には、解雇されない特別保護規定はその効力も限られている。Winkler(1996)は、障害者が全労働力の3%であるのに対し、失業者に占める割合が3.7%であるのは、障害者の雇用安定がやや損なわれていることを示すと言及している。とはいえ、法律に示されている手続でどれだけの解雇が防げたか推測するのは困難である。
調査によると、重度障害者法に関する意見の中では、解雇されない保護の規定が最も重要視されている(Oyen,1989)。障害者自身は、この規定があるため立場がより安全になっていると考えている。雇用主の多くが、健常者より障害者に新たな雇用を探す努力をしていると発言しており、障害者自身の考えを裏打ちしている。他方、この規定が故に障害者を解雇できないので、障害者の新規採用には障壁となっていると言う雇用主もいる。解雇が不可能であるから、不況時には特に重度障害者の新規採用を躊躇する動きがある。70%以上の雇用主が、解雇されない保護規定があるから障害者を雇用する意欲が減退したと答えた調査もある(Brandt,1984)。しかし、法律手続が終了すれば7人中6人(特別契約の下では3分の2)が仕事を離れているのであるから、障害者を解雇できないという考えには矛盾している。
Sadowskiと Frick(1992)は、「解雇の危険にさらされている障害者の雇用にプラスの効果があるのは、具体的な保護規定の存在より、むしろ、法令上の解雇手続の機関代表者がどういう態度をとるかにあるということもある」と示唆している。彼らは、従業員又は人事委員会の見解声明(position statements)や、若干影響力は異なるが障害者代表の態度が、解雇手続の最終結果に「決定的な影響力」を持つということを発見した。とはいえ、手続の80%程度は、障害者が職を失う結果となる。
障害者の代表
重度障害者の特別の利益は、公的及び民間各部門の工場・職員評議会(works and staff councils)が守っている(判事や州検事にも同様のアレンジが適用される)。常勤職員の5人以上が重度障害者の場合、障害者の代表が選出され、名誉職の立場で障害者の代弁者となる。代表の主な責務は、障害者の利益になるよう法規定に準拠しているか監視し、助言や支援を通じ障害を持つ従業員を支援することである。代表は連邦雇用局及び各州福祉局と綿密に連絡をとり、これらの機関と協力しなければならない。代表は最低年1回重度障害者の会合を開催することができる。
雇用主は、もし空席や訓練のポストがある時、それが重度障害者、特に失業給付事務所(unemployment benefit office)に失業者あるいは求職者として登録している障害者に適しているか判断する際、この代表に諮問しなければならない。代表には全て情報が提供され、意見が求められることになっている。彼らとの係わりなしに行動がとられた場合、要求されているように彼らが協議にあずかるまでは、その行動は停止されなければならない。重度障害者代表は、月例労使協議に(メンバーとして)含まれなければならない。協議の内容が障害者にも影響を及ぼす可能性があるからである。そのための費用は雇用主の負担となる。
Oyen(1989)は、企業内の支援スタッフ(company support staff)の欠陥を報告している。会社の中には、雇用主サイドの代表者を指名しなかったり、障害者の代表選出をさせないところもある。雇用主サイドの代表は通常人事部から選ばれるのがほとんどであるが、職員や障害者代表は、彼らの活動は障害者のためには価値がないと考えている。
最も重要な支援スタッフは、選出された代表である。企業内での障害者の統合を支援し、企業や地域で代弁者となり、助言も与える。しかし、Burgerと Schroeder(1995)が引用した情報源によれば、割当雇用制度でカバーされている組織のうち障害者の代表を設けているのは32%、工場評議会(works council)を設置しているのは38%である。それらは通常、障害を持つ従業員が満足するように機能するが、新規採用にはめったに積極的でなく、―法律で求められているように―障害を持つ求職者についての情報を与えることは往々にしてしない。法改正でこの状況への対応策が強化されたが、その有効性は疑問である。Sadowskiと Frick(1992)は、従業員代表に対する情報と参加について雇用主は十分その義務を履行していない、また、主たる援助や雇用機関も職員評議会や障害者代表を無視しがちであると報告している。Stork(1995)は、障害者代表や工場評議会の影響力は、部分的には採用決定に当たっての経済原理優先の故に、また、他方では、障害者の側がこれらの制度をあまり信頼しなくなった故に、低下してきたと示唆している。
追加有給休暇の権利
重度障害者(「同等の立場にある者」を除く)は通常に加え、さらに5日の有給休暇を取得することができる。障害者に有利な条件のための規定であるが、これによる余分な経費で、雇用主が障害者を雇用する意欲を減退させてしまうという悪影響も懸念される(Winkler,1996)。
一般雇用:財政的施策
いくつかのタイプの賃金コスト補助が、失業障害者の職業紹介を専門とする別の部門を持つ連邦雇用事務所により雇用主に支給され、運営されている。障害者は就職困難なグループとして、雇用事務所経由で財政支援される雇用創出スキームを通じ補助金が出る。
さらに、各州福祉局管轄で、割当雇用制度の課徴金を利用し、障害を持つ従業員と雇用主に補助金が出るスキームがあり、それには新たに作られた職場やその改善への投資補助、及び、作業性の低下や余分の支出などが含まれる。
雇用主への支援
一時的賃金コスト補助
雇用主が重度障害者(前掲の法律による)や長期にわたり失業登録をしていた者を雇用したり、アルバイト・職業訓練目的の雇用を行う場合、連邦雇用事務所から重度障害者の給与の80%、あるいは訓練目的雇用の支給額全額を受け取る権利がある。重度障害者の雇用に際し雇用主に補助を出す目的は、5日間の追加的有給休暇等、余分にかかるコストをカバーすることであった。
補助金はスライド式で最長3年まで支給される。標準は、1年目は賃金総額の80%、2年目は70%、雇用の3年目は50%の補助である。補助金支給期間が終了した後も雇用を継続していなければ、補助金は返還されなければならない(Seyfried,1995)。
この制度が導入された1986年7月から1988年までの間に、900人の訓練生を含む1万350人の重度障害者が職業生活に参加することができた(連邦政府第2次報告書、1989)。1986年7月1日から1993年までの職業参加に成功した障害者数累計は4万7,331人で、うち2,444人は費用が支給されている訓練生である(MISEP,1994)。
地方レベルでは、法律によりさらに補助金が支給される場合がある。ヘッセン州北部では、雇用主は重度障害者の給与支払いが3年間免除されるが、免除期間終了後は通常のポストに配属しなければならない(Floyd & North(eds),1991)。
作業能力低下への補償
賃金コスト補助とは異なり、支給は課徴金基金(Compensatory Levy Fund)からで、作業能力低下に対し、最高月額800マルクまで補償されるべく、雇用主に対してなされる。対象となるのは、新規雇用の障害者ではなく既にその企業に勤めるもので、それは3年の補助期間を超えて支給される。原則として支給期間に制約はないが、実際には遅くとも2年経過後に実際の作業能力と生産性で見直され、必要に応じて支給額が調整される(Seyfried,1995)。
雇用創出賃金補助(job creation wage subsidy)
連邦雇用サービスでは、就職が困難な人びとのために仕事を創出するプログラムを進めている。対象となる人達は、50歳以上の労働者、25歳以下で職業訓練を終了していない失業者、長期にわたり失業している者、そして重度障害者である。プログラムは地域社会に有益でなければならず、そのプログラムがなければ発生しなかったという意味で、「追加的」でなければならない。賃金の50%から75%が補助されるが、1994年の雇用促進法(Employment Promotion Act)成立以降、比較可能な補助金の支給されていない仕事(comparable unsubsidised work)の賃金の90%しか考慮されていない。就職が困難な人びとには例外的に90%から100%が補助の対象となる。規則では補助(aid)が1年間提供されるが、2年とすることも可能であり、定職が提供されればさらに延長も可能である(MISEP,1994)。
雇用創出目的のこの手法は、旧東ドイツ地域で増加している。1991年時点では、補助支給を受けて職業に就く者は旧西ドイツ地域で8万2,960人、旧東ドイツ地域では18万3,324人であった(MISEP,1992)。1994年と1995年では、旧西ドイツ地域では5万7,400人と7万100人であったのに対し、旧東ドイツ地域では28万200人と31万2,000人であった。1995年時点での旧東ドイツ地域でのプロジェクト参加者のうち、10万6,500人は「生産的賃金コスト補助」(productive wage cost subsidy)という新しい形態のプロジェクトに参加している。環境保護や社会サービスのプロジェクトに最高2年まで補助が支給され、報酬は失業手当に連動する。将来的には、連邦雇用事務所の予算が制約されていることもあり、旧東ドイツ地域のプロジェクトの数も旧西ドイツ地域並に減少するであろう。
1997年成立見込みの労働促進改革法案(labor Promotion Reform Bill)により、補助支給額(30%から75%で例外可)算出に考慮される賃金は、「通常の賃金」の80%に減額されるであろう。将来的には、雇用創出スキーム参加者の少なくとも95%は(例外は認められるが)1年以上失業しているという条件に当てはまる者となるであろう。
賃金補助プログラムの有効性
一般的に賃金補助プログラムは、雇用主が臨時収入程度にしか考えないので、その効果は限界がある(Frick,1992)。補助金の大半は限られた数の(大規模)企業に回っている(Burger and Schroeder,1995)。(Burger と Schroeder,1995が引用した)Frickによる1976年から1986年にかけて行われた特別プログラムの分析では、補助金がなくとも75%から85%は就職ができていたということが示されている。
職場改善と創出
1980年以来、課徴金基金から雇用主に拠出される、職場改善や創出に対する補助金は急速に増加した。
1990年には、約1万件の職場の改善や創出が各州福祉局の財政支援で行われた(Frick and Sadowski,1996b)。
しかし、雇用主にはその対策を効果あらしめるために必要な知識が欠如しており、カウンセリングや技術支援がさらに必要といわれる(Stork,1995)。最初の新たな試みは、経営者団体と各州福祉局が共同で作成した、障害者のための職場創出に向けた努力を1995年1月から実施するための、雇用主が利用でき、受けられる支援に焦点を置いた宣言である(Stork,1995)。
従業員への支援
就労と社会保険給付の結合体
障害給付請求者は、一定期間に徐々に就労時間を増やす「段階的リハビリテーション」(step-wise rehabilitation)に参加することができる。雇用主と従業員の間で締結する契約には就業時間、リハビリテーションの開始日と終了日、給与が規定されている。給与は給付金から控除される。リハビリテーションの期間中も給付を受ける資格はあるので、給付の請求は引き続き行うことができ、リハビリテーションが成功しなかった場合には、給付金はリハビリテーション参加以前の水準に戻る。従業員は職場復帰する際、自信のレベルが大いに高まったと報告している(Dean,1990)。
従業員への補足支援(supplementary assistance)
就職を促進するために障害者が利用できる支援形態には、応募や転居に関連した費用への補助、通勤援助(最高2年まで)、移行手当(transitional allowance)、職場での福祉機器、職場環境整備費用の引き受け(acceptance of accomodation expenses)が含まれる。同経費には、車を購入するための最高全額までの助成金も含まれる。
労働及び専門的環境での補足支援は、中央福祉基金(central welfare fund)によって、又は、その基金に代わって、連邦雇用事務所と密接に連携した各州福祉局によって実施される。
1993年、追加支援の枠内で、課徴金基金からの拠出で次のような支援(雇用されている者への給付を含む)が行われた(括弧内は1989年の数字)。
福祉機器に1,290万マルク(450万マルク)
職場への通勤支援に590万マルク(610万マルク)
経済的自立支援に280万マルク(250万マルク)
障害者のニーズに合わせた自宅整備に2,490万マルク(1,340万マルク)
雇用維持に20万マルク(10万マルク)
障害により特別に必要とされるものの支援に180万マルク(180万マルク)
雇用と訓練の場の創出及び障害者のニーズに合わせた職場整備のための雇用主への給付 金として1億3,520万マルク(5,990万マルク)
説明・教育・訓練施策実施のための給付に5,000万マルク(230万マルク)
Cramer(1991)は、重度障害者に朗読・支援・介助をする専門スタッフにかかる費用を支援するうえでの、課徴金の重要性に言及している。
中央福祉基金からの財政的支援に加え、重度障害者に対しては、主に職場でのカウンセリングと企業訪問がある。中央福祉基金は職場環境での追加支援として、心理・社会ケアに個別に支給を行うことができ、対象となるのは精神障害者のみならず重度障害者や同等の立場にある者も含む。心理・社会支援は以前は各州福祉局のみの管轄であったが、個々の機関に委託が可能となった(Stork, 1995)。
賃金補助を補うための施策との関連でOECDが引用した報告では、「事業主は適切な準備とフォローアップ支援に特に関心を持っていることを明らかにすると共に、障害者が企業内訓練を受けられるようにするための支持的支援の重要性を強調」している(OECD,1992,p.28)。
在宅勤務
障害者が活動に従事するよう奨励するインセンティブとして、在宅活動の実施に対して統合支援条例(Integration Assistance Ordinance)によって行われる助成金がある。その他の全ての点については、障害者が在宅で行う作業は、在宅就労法(Home Work Act)の一般規定に従わなければならない(Council of Europe,1990)。
自営(self-employment)
EC(1988)は、自立生活を可能にする職業活動を行うのに、重度障害者は社会扶助当局(social assistance authorities)から貸付を受けられる場合があると報告している。
保護雇用
重度障害者法では、1960年代から教会や障害者の父母団体が設立したシェルタードワークショップについての規定がある。ワークショップは、設立母体が公的機関であっても運営は独立した機関によって行われている。大抵は比較的大きなしっかりした障害者団体(Spastics Society,Help for the Mentally Disabled等)が運営している(Frehe,1995)。旧東ドイツでは企業内の「保護(作業)」部門で障害者を雇用する方法が保護就労の1形態であった。統一後、一部の企業ではこの形態が一時的に維持されたが、企業が消滅したり縮小した場合、障害を持つ労働者はシェルタード・ワークショップに吸収されていった。
ドイツの保護就労部門は1980年代、1990年代を通じて拡大していった。1996年初期に労働社会省は、暫定的に認可されたものものも含め621のワークショップで15万人程の障害者を受け入れていると報告している。旧東ドイツ地域ではさらに拡大させる計画があるが、その目標定員は全体で3万人分である。
法的地位、保護を受ける権利の欠如、少ない報酬、ワークショップの従業員が経営上の決定にあまり参加できないことが従来の問題であったが、社会扶助(Social Assistance)の改革でかなり好転した。制度改革は1996年8月に実施された。
目的と対象グループ
シェルタード・ワークショップは、障害の性質や程度の故に(今のところ)労働市場に入っていったり復帰することができない人達に、雇用の場や適切な活動の機会を提供する(重度障害者法第54条第1項)。ワークショップでは障害者が自らの働く能力を開発・向上・回復させることができ、能力に応じた報酬を支給できなければならない。通常、仕事や訓練の場はできる限り選択の幅があり、支援サービスが行き届いていることになる(同法第54条第2項)。
ワークショップは、経済的に有用な作業を行える者なら、障害の性質や程度にかかわりなく誰でも参加できる(同法第54条第3項)。「重度障害者」としての立場は必要条件ではない。地元の連邦雇用事務所特別セクションが障害者をワークショップへ紹介するが、ワークショップの技術委員会(technical committee)の承諾が必要である。かなりの支援や特殊な設備、個人的な支援を必要とする者には、シェルタード・ワークショップ内外のデイセンターや特別治療グループが紹介される。
1996年の改正で、定員に余裕があり一定の個別の前提条件を満たしていれば、法的権利としてワークショップでの雇用を要求することができるようになった。それぞれのワークショップには3つの部門がある。評価部門では、訓練の必要性やどの作業が最も適しているかといった決定が行われる。職業訓練部門では、最高2年間にわたり生産力、社会的なスキルが磨かれ、訓練を受けた者が経済的に有用な最低限の作業を行えるようにする。リハビリテーション給付が、主に連邦雇用事務所により、この2段階の期間中、合計で最高2年間支給される。生産部門では、さまざまな作業の場が提供され、社会・職業リハビリテーションも継続される(Samoy, 1992)。
Samoy(1992)が引用した情報源によれば、80%以上のワークショップは生産部門に属しているようである。
Samoy(1992)は、スポンサーの関心の違いを反映して、ワークショップの目的の置き方には対立があることを示唆している。つまり、連邦雇用事務所はワークショップを生産と業務志向で見ているのに対し、社会扶助法(Social Assistance Act)の下で運営されているものは、ケア・ガイダンス・社会統合志向である。ワークショップの製品は市場の中で新たな競争にさらされてはいるが、生産性目的に力を入れ過ぎているとの批判がある。Eckert(1996)は、統合ではなく隔離ではないかという非難を報告している。
規定と資金源
1980年8月の施行命令(Order for Implementation)は、最低120名の定員、スタッフの割合、スタッフの資格、採用手続きなどを含め、ワークショップについてかなり詳細な規定を行っている。ワークショップは連邦雇用庁(Federal Employment Department)の認可を受け、社会扶助当局(social assistance authorities)の同意が必要である。ワークショップは独立した形態でも、住宅や企業の一部を利用してもかまわない。
1994年、旧西ドイツ地域に470ヶ所、旧東ドイツ地域に170ヶ所のワークショップがあり、それぞれ約12万人、1万8,000人が就労している。旧東ドイツのワークショップは、最低120名定員を達成するためには合併が必要であろう(Samoy,1992)。1980年代を通じ旧西ドイツではワークショップで作業を行う人数が着実に増加した。1982年では300のワークショップで6万7,000人が作業をしていた(Eckert,1996)。1986年では9万4,800人、1989年では11万4,000人であった(Grammenos,1991)。1991年では12万5,000人である(Samoy,1992)。
シェルタード・ワークショップの財源は自らの経済活動、連邦雇用事務所・地元の社会扶助当局・課徴金基金からの補助金、そして寄付である(Lheureux,1991)。
1996年8月導入の社会扶助の制度改革で、収入の7割を給与目的に使用し、残りの3割をシェルタードワークショップの運営目的に使うこととされた。
労働条件
社会扶助の制度改革で、ワークショップで作業する障害者は、労働時間や有給休暇、病欠の際も賃金が支給されること等、新しく従業員としての地位が与えられた。以前は、ワークショップで働く障害者は標準的な雇用契約を結んでおらず、したがって、法律上は従業員ではなかった。
生産部門で作業する障害者の賃金は、社会法(social legislation)に基づき社会扶助当局が支払っていた。1991年時点で、個人の実績によるが、月給平均246マルクであった。大半のシェルタード・ワークショップで支給される給与は最低生活水準以下で、社会扶助当局が月給の246マルクのうち60マルクを留保(keep back)している。
従業員
BAGのワークショップ(作業所協会加盟)について行った調査では、約400ヶ所のワークショップと作業ポストの約86%、13万人の障害者を対象とし、従業員の特徴が多少明らかになった(Anders,1996)。1994年12月現在、約69%が20歳から40歳、28%が40歳以上であった(50歳以上は11%)。1987年末にBAG/WfBが行った同様の調査では、旧西ドイツの377ヶ所のワークショップで作業する8万7,244人の障害者を対象としたが、ここでは年齢層が若干低い。約半数が20歳から30歳まで、約4分の1が30歳から40歳まで。40歳以上は20%にすぎなかった。
1994年の調査では、従業員の58%が男性(1987年では57%)で、障害者と健常者の労働人口における割合より少ない。
大多数の80%は知的障害、12%は精神疾患、7%は身体障害、極めて重度の障害や重複障害を持つ者は8%であった。
活動
REHADATデータバンク(連邦政府と共同で制作)で、ワークショップでの活動や製品についての概観が分かる。下請け作業が中心で、収益に占める割合は約70%である。製品としては、包装と配達(94%のワークショップ)、金属加工・電気関係製品(92%)、木工(72%)、園芸・景観保全(landscape conservation)(67%)等が挙げられる。REHADATによれば、多くのワークショップではコンピューター数量制御、デスクトップ印刷等の最新技術や生産技法が用いられている。
「自家製品」は主に手工芸品である。下請けに比して自家製品生産の割合が低いのは、マーケティングの経験不足によると見られている。
移行
ワークショップの利用者はワークショップ内で長期の雇用とケアが受けられるが、「業績のよい」従業員は一般の労働市場での就職を目的に特別の訓練とリハビリテーションが受けられる。とはいえ、一般の労働市場への移行が成功するのは1%程にすぎない。その原因は、重要な労働者を確保しようとするワークショップの意向、諸就職サービスの財政難、雇用主の雇用意欲の欠如等である(Winkler,1996)。
近年、ワークショップの障害者を一般の労働市場で就職させる目的で、専門統合サービス(specialist integration service)(「就職」の項参照)が試され、有用であると認められてきた。こうしたサービスには、個人に合わせて計画された求職支援、職場での支援、また必要な場合には、危機時の介入(crisis intervention)等が含まれる。職探しに積極的な取り組みをすると共に、雇用主や同僚にアドバイスを行う。
その他の雇用形態
社会企業(social enterprises)
これは自助企業(self-help firm)とも呼ばれ、ドイツでは1980年代初頭以降発達してきた(Seyfried,1995:コンセプトと活動について)。
社会企業は、健常者が働く企業で、障害者に対して集団契約に基づく定期的な契約と給与を伴う通常の仕事を提供する目的で設立された。通常の労働市場で要求される条件を満たすことができず、シェルタードワークショップにも適さない障害者が対象である。社会企業は、種々の非政府組織により運営されており、それが一緒になって1985年に全国レベルの傘下組織(umbrella organization)FAFが組織された。経済活動を営む企業として活動しており、全ての企業が利用できる課徴金から補助金の支給を受けている。労働環境は個々人のニーズに合わせており、OJTベースでのリハビリテーションを提供するようになってきている。
Seyfried(1995)によれば、1994年初めの時点では、115の社会企業が2,333人を雇用していた。このうち1,248人はフルタイムで通常の契約下で就労する障害者で、422人は以前は社会扶助や年金に頼っていた障害者である。その他の従業員は健常者である。
社会企業の大半は、シェルタードワークショップや一般の企業からしばしば排除されているような、精神障害を持つ人のために生み出された。
Seyfriedは、社会企業の大半は小規模で、40%程が従業員10人以下、多くは従業員10人から20人であると報告している。工業分野では比較的大規模の企業が活動しているが、平均従業員数は30人以下である。全体では工業分野が社会企業で就労する障害者の約半数を雇用している。20%は小売業に従事し、残りは熟練の手仕事やケータリングに携わっている。
社会企業は長期の雇用機会を提供してはいるが、次のステップへの準備段階ともなり得る。社会企業で就労した障害者のうち、約半数は5年以内に職を離れている(Seyfried)。そのうち40%は通常の労働市場で就職している。約20%はドロップアウトしている。
準保護雇用(semi-sheltered employment)
社会企業とは別に、障害者が企業内で別の部署に就労している例がある。1980年代、Seyfried と Lambert(1989)は、就労している重度障害者を守る法律により、結果的には多くの会社、特に労働条件の厳しい会社では、障害者を雇用する別途の部署を作るようになったことを発見した。ほとんどの場合、高年齢の「肉体的にぼろぼろになった」従業員を、会社に再統合するというより、彼らをこうした部署で雇用している。しかし、進歩的な企業では、企業内のワークショップで訓練や資格取得の機会を提供するようになってきている。Stork(1995)によれば、保護就労部門は存続するが、彼の見解ではその拡大はあまり見込まれないということである。
ハーフウェイ雇用(half-way employment)
連邦政府は、高齢者や長期失業者、低い資格しかない者など、一般雇用も保護雇用も不可能あるいは不適切な重度障害者の特別なニーズを認識している。こうした重度障害者に対しては、仕事、資格、及び支援が得られる「ハーフウェイ」が全国的パイロット・プロジェクトとして構想されている。同プロジェクトは課徴金で賄われる。
要約
ドイツにおいて障害者雇用への法的アプローチは、社会保険基金が掲げるリハビリテーションの歴史的目的に今も影響されている。
1975年の社会法典(social code)は、身体的・知的・心理的障害を持つ者、あるいはそのおそれのある者全てに統合への「社会権」を保障している。政策の場では4つの原則が繰り返し強調されてきた。即ち、通常の自立した生活をできる限り給付金に頼らずに営めるようにする、障害の原因の如何にかかわらず支援を提供する、できる限り早期に介入する、そして個人の状況やニーズに応じた支援を行うことである。個人のニーズに応じた支援の原則の唯一例外は重度障害者法で、たとえ職務遂行能力が低下していなくとも、障害の程度が50%以上であれば全ての人に適用される。これは、同法によると、障害者が雇用の際に直面する不利益をカバーするためである。また、障害の程度が30%から50%でも、就職に影響があると認められ、同法で言う「同等の立場にある」者も対象に含まれている。
リハビリテーションの概念、職業訓練と再訓練の重要性もうたわれている。政策の2つ目の要素は、第1次世界大戦以来の障害者関連法規の特徴である雇用の義務である。雇用割当義務の法律は、それまでの割当方法や登録制度で必要な雇用が満たされなかったため、1974年の重度障害者法成立で改正された。同法では全ての重度障害者が対象となり、雇用率未達成の雇用主に対し課徴金が課せられるようになった。世論を受けて1986年に同法は修正され、課徴金を障害者の統合のために利用する方法も改訂された。東西ドイツ統一後、旧西ドイツの法律が旧東ドイツ地域に適用された。課徴金は1990年10月に、未達成の障害従業員1人1月当たり200マルクに落ち着いた。
1994年の憲法改正で、障害による差別が禁止された。この憲法改正は、象徴的な意味にすぎないとはいえ、リハビリテーションの目的にかなっている。
連邦レベルでは、労働社会省が職業への統合と障害者関連法規の監督官庁である。労働社会省の監督下にある連邦雇用事務所は、雇用、キャリアに関する助言、就職、訓練に関する助言と機会提供を担当している。重度障害者担当の特別部門が地方の事務所内に設けられている。各州福祉局も職業ガイダンス、就職、企業訪問等を行っている。課徴金からの補助金や各種サービスへの拠出もこうした各州福祉局が携わっている。社会保険基金がリハビリテーションのサービスや財政面で責任を保持しているため、状況は複雑である。最後に、障害者が受けられる税制上の優遇については大蔵省が重要な役割を担っている。
原則として障害者は、障害のために特別な施策が必要でない限り、通常の給付やサービスを受けることができる。最近まで障害者は全員リハビリテーションの給付を受けることができていたが、1997年以降は障害者登録を済ませた者に限られることになる。職業リハビリテーションを受けている10人に1人しか重度障害者として登録されていない。
ドイツの障害児教育は通常、障害別に特別に作られた教育機関で行われている。職業ガイダンスは学校でまず受けることになる。連邦雇用事務所は学校やその他キャリアについての助言を提供する機関と協力することが法的に求められている。雇用事務所の地方事務所には、専門キャリアカウンセリングセンターが設置されている。1993年から1994年の間に助言を求めに来た11.3%は障害者であった。若い障害者にとっての目的は、訓練校に通いながら、健常者と共に、正式に認可されている訓練用職業の訓練を受けることである。正式に認可された訓練用の職業以外でも、資格取得に結びつくような訓練の場を設ける規定もある。障害を持つ成人は、正式に認可された職業以外で訓練や再訓練を受けることができる。1993年末時点で、2万5,300人の障害者がOJTでリハビリテーションを受けていたが、これは連邦雇用事務所を通じたリハビリテーションを受けている障害者の20%である。1989年では30%であった。
職業リハビリテーション特別センターは、連邦政府、手工業協会、保険機関、慈善団体、教会等の組織が運営し、資金を提供しており、2種類に分けられる。1993年には、若年障害者の訓練の場として、旧西ドイツ地域には38の職業訓練ワークショップがあり1万500人程の障害者が訓練を受けている。旧東ドイツ地域では8ヶ所で2,300人が訓練を受けている。これらのうち19ヶ所は知的障害者のための設備がある。旧西ドイツ地域にある合計1万2,000人収容の21の再訓練センターと、旧東ドイツ地域にある収容合計2,000人の7施設は、身体障害者を中心に、それまでの職業継続が困難な成人の障害者が対象である。就職率や定着率は高いが、訓練課程を修了しても就職できない障害者の割合は増大している。訓練生には統合給付が支給される。
地方の雇用事務所の専門家により、雇用主との就職がアレンジされる。雇用主が空席を雇用事務所に登録する際には、障害者の代表と協力し、障害者への適性がチェックされる。就職は常に重要課題として指摘されている。州の中には公共部門で障害者に定職を与えるプログラムに取り組んでいる例がある。新しい雇用モデルの1つが「専門統合サービス(specialist integration service)」で、シェルタードワークショップや失業状態からの移行、また失業者にとっては一時就労機関(temporary work agencies)からの移行を容易にすることが目的である。
法的義務と権利は重度障害者法の枠組内で規定されており、したがって、重度障害者として登録している者、又は「同等の立場にある」者のみに適用される。雇用主はあらゆる空席について重度障害者への適性を検討する義務がある。重度障害者が能力を最大限に発揮し、開発できるような形で雇用しなければならない。同法はまた、不当な要求や不相応な経費が求められない限り、プラントや職場を重度障害者が最大数就労できるような形に維持しなければならない。職員評議会(staff councils)は障害を持つ従業員の統合を促進し、雇用主が義務を果たしているか確認しなければならない。同法ではまた、特別な支援や支出を要する障害者、職務遂行能力が大きく減少した者、精神や心理の要因で障害を持つ者、職業訓練を受けていない者、50歳以上の者等、特別の範疇に属する人びとの統合を進める責務を規定している。
従業員が16名以上の雇用主は、従業員の最低6%は障害者を雇用しなければならない。雇用事務所には、統合が特に困難と思われる障害者を雇用した場合、障害者1人を最高3人分とカウントできる裁量権がある。例えば全盲の従業員や訓練生を雇用したら2名採用と数えられる。雇用率の達成状況を計算する目的で、公共部門はより大きな単位にまとめることができる。1994年には18万4,000の雇用主が割当義務の対象であったが、約14%の雇用主が雇用率を達成しており、これは(割当雇用制度対象)被用者全体の約20%に及ぶ。76%は雇用義務未達成であり、37%は障害者を1人も雇用していない。同年の平均実雇用率は4.9%で1982年の5.9%からは後退している。実雇用率は民間部門より公共部門の方が一般的に高い。また、大企業の方が零細企業よりも実雇用率が高い。
課徴金は雇用促進のインセンティブと、「均等化」の道具としての役割がある。シェルタード・ワークショップや盲人作業所と契約を結ぶ雇用主は、労務費から50%の課徴金を控除できる。課徴金からの収入は1992年で9億7,500万マルクであったが、これは主に重度障害者の雇用に充当される。法律でカバーされないような零細企業は、課徴金から回される給付の恩恵にあずかることができる。
重度障害者法は障害を持つ従業員の権利についても規定している。重度障害者(「同等の立場にある者」は含まない)は、5日間の有給休暇を通常にプラスして取得することができる。解雇に対する特別の保護として、雇用主は解雇通知を出す前に、内外の機関と相談し、関係当局の了解を得なければならないことになっている。1993年には3万2,000件の解雇通知が取り扱われたが、51%は了承され、29%はプラント閉鎖や縮小でやむを得ないケースであった。重度障害者の従業員が5人以上いる職場では、重度障害者の利益を代表する代表の選出が義務づけられている。代表は障害者の側に立って法規定に準拠しているか監視し、障害を持つ従業員に助言や支援を提供し、外部機関との連絡をとる。雇用主は、空席や訓練について代表と相談し、月例労使会議に代表者を出席させなければならない。
最高80%の賃金補助と訓練手当の100%が最長3年間支給される。支給後は最低1年間雇用を継続しなければならない。1986年7月から1991年末にかけて、4万7,400人がこの制度で給付を受けた。既に就労している者で作業能力が低下した者に対する補償スキームも別途用意されている。重度障害者は賃金補助プログラムで扱う「就職困難」の範疇に属する。技術支援や通勤、職場での特別支援目的で従業員、雇用主に支給される給付もある。障害者給付を徐々に減額し、仕事に徐々に参加することができる。
一般的にドイツの政策は、重度障害者や、既に就職している人が障害を持った場合に職業を維持させるのに有効と見られている。重度障害を持つ従業員は大半、長年にわたり勤めた後に障害者となった従業員である。ドイツの制度は新規採用には比較的効力を発揮していない。障害を持つ失業者は健常の失業者と比べ高齢で失業期間も長い。解雇に対する保護の規定から障害者が職場に残ることができるという制度が、新規採用の足かせとなっている面もある。障害者の代表も新規採用にはあまり活発に取り組んでおらず、新規採用については雇用主も雇用事務所も十分に義務を果たしていない。
1974年に法律で規定されたシェルタード・ワークショップは、通常の労働市場に参加、あるいは復帰できない障害者に雇用の機会や適切な活動に参加する機会を提供している。経済的に有用な作業ができる者なら障害の性質や程度の如何にかかわらず誰でも参加できる。各ワークショップには評価・訓練・生産の部門があり、(障害)従業員は各区部門を順次経験することになる。最も重い障害を持つ者にはデイケア部門(day unit)がある。活動の70%は下請けである。労働社会省の調べでは、1996年初頭時点で統一ドイツには621のワークショップがあり、およそ15万人分の雇用の場を提供している。旧東ドイツでは雇用の場を1万8,000から3万へ拡大させる計画がある。そのワークショップで働く約80%は知的障害者である。従業員のおよそ70%は20歳から40歳である。
1996年に発効した社会扶助(Social Assistance)の改正で、従業員としての法的地位の欠如、職場での保護を受ける権利の欠如、シェルタード・ワークショップでの賃金の低さなどの懸案事項に対処すべく改善が行われた。一般労働市場への移行率の低さ(約1%)も、専門統合サービスの力を借りて取り組まれている。その他の雇用形態として、「自助企業」や「社会企業」が精神医学上の障害を持つ障害者向けに成長してきている。
1993年に旧西ドイツ地域では、88万8,000人の重度障害者が就労しており、そのうち11万2,600人は割当雇用制度外で雇用されており、14万6,000人が失業登録をし、12万人がシェルタード・ワークショップで働いている。
主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.5
発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997
発行年月:
1997
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