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ヨーク大学
SPRU

18カ国における障害者雇用政策
:レビュー No.9

パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント

ヨーク大学社会政策研究所

Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York

ILO                                  HELIOS


スウェーデン

政策と制度的情況

障害者対策と法律

 1976年、スウェーデン政府は、「全ての人に開かれた社会を作る、障害者に対して可能な限り健常者と同じように生活できるような社会参加の機会を提供する」という障害者に関する政策目標を作成した(Swedish Handicapped Institute,1984)。1960年代から1970年代にかけて障害や障害者に対する見方は変わり始めた。障害者のための、また障害者自身による組織が設立されて組織的なネットワークが形成された。この間、障害者を含む労働環境を改善するための法令が制定された。

スウェーデンは、障害者の権利を擁護することを目的とした特別な法律を持たないでやってきた。一般の法律の条項の中に特記事項として記述することにより、インテグレーションが確保されている。スウェーデンは、最近になって障害者オンブズマン(Disability Ombudsman)を導入したが、これはいわば差別禁止対策の導入といえよう。

スウェーデンの障害者対策の目標は、全ての国民の完全参加と平等である。機能障害を持つ人びとが、健常者と同じように社会参加の機会を持てるようにしなければならない。この責務は社会全体で担うものであるが、最終的には国、地方自治体、そして県議会が担うものである(Swedish Institute,1995)。障害者雇用対策は、労働市場や社会政策と幅広く結びついている。

雇用対策

 スウェーデンの雇用対策は、雇用と雇用以外のプログラム…とりわけ社会保障との連携の下に行われている。労働力全体との関連で、雇用対策や雇用戦略は、消極的な手当の支給よりも重要だと考えられている。例えばこれは、長期疾病手当や障害年金の受給者が削減された最近の試みに現れている。早期の職場復帰を促進することが、経済理論に裏付けされた重要な政策目標となっている(Westerhall,1996)。

スウェーデンの労働市場政策は、万人が共有する労働権という基本原則に基づいている。雇用されることによって生計が維持されなければならない。また、雇用によって、人は市民として認められ、自尊心が得られるだけでなく大きな自信を持つことができる。全ての国民が雇用される権利又は雇用された時に同じ権利を持つということは、平等性を確保するために当然のこととして、「活動原則(activity principle)」と称されている(Lindbom,1995)。

障害者雇用対策は、一般の労働市場政策の一部と考えられている。例えば、職業的サービスは、社会政策ではなく労働市場政策の領域に含まれている。「全ての人に仕事を(Work for All)」は、長い間スウェーデンの雇用対策の目標であったが、失業者の増大と共に雇用機会が減少した(Swedish Institute,1995)。そして、伝統的なスウェーデンの雇用対策モデルは、全く新しい条件の下でテストされている(National Labour Market Administration,1994/5)。この対策は、労働市場政策の中で、特別対策や既存の対策の条件を変更することによって、長期にわたる失業者だけでなく、若年者、少数民族、そして障害者に重点を置いたものであった。この対策の目標は、メインストリーム事業(mainstream programmes)の利用を促進すべく、労働市場庁(the National Labour Board)と連携をとりながら、議会と政府で決定されている。すなわち、労働市場において就職準備ができた全ての求職者の中での、長期求職者、若年者、非北欧人及び障害者の割合を大きくしなければならないのである。また、不利な立場にある一定グループについて、保護対策内での枠を広げようとする試みもある。

スウェーデン政府は、最近失業者を半減させる対策を公表した。1996年4月、政府の労働市場対策調査委員会(Labour Market Policy Research Committee)は、長期失業者を減らすため、労働市場関係機関の効果的運営と雇用対策の効率化を図る提案を行った(Swedish Council for Work Life Research,1996)。

障害者雇用対策の発展

 スウェーデンは、市民権方式(civil rights approach)の雇用制度を持ったことはなく、また、ヨーロッパのいくつかの国で行われている割当雇用方式(quota approach)の雇用制度も避けてきた。これは、特定の部門やプログラムについて目標や割当を設けることを怠っているのではない。障害者を労働市場に統合することを目的とした特別法を持たないだけである。障害を持つ雇用労働者のニーズに合わせて労働環境を整備することが、法で求められている。さらに、職場がバリアフリーであること、いかなる建築的障壁も除去されることも、法で義務づけられている。

障害者雇用対策が大きく変化している兆しがある。既に述べたように、スウェーデンは最近、障害者オンブズマンという革新的対策を導入した。また、スウェーデンは、労働市場における障害者差別を禁止する独自の法律を検討すべく、英国の障害者差別禁止法(Disability discrimination Act)の状況に注目している。

政策の立案と実施

政策の調整
スウェーデンにおいて、障害者に対する職業的サービスの提供に関する主要な責務は、労働市場当局が担っている。労働市場庁(the National Labour Market Board)は、政府及び議会によって決定されたガイドラインに従って、労働市場対策の調整と開発を行っている。

全国レベルの対策を調整するに当たっては、労働市場庁、労働安全・衛生庁(Board of Occupational Safety and Health)、社会保険庁(National Social Insurance Board)及び保健福祉庁(National Board of Health and Welfare)の総局長が、1989年から定期的に会議を行っている。

労働市場庁の下で、以下のことが行われる。

  • 23ある県労働委員会(County Labour Boards)が、県レベルでの労働市場対策を担当。
  • 360ある雇用サービス事務所(Employment Services Offices)が、求職者及び事業主に対する顧客サービスを担当。事業主及び社会保険事務所(Social Insurance Offices)は、(有給で)雇用されている障害者の職業リハビリテーションを担当。
  • 全国に100ある雇用センター(Employability Institutes(Ami)以下「アミ」という)とその支所のうちの50所では、メインストリーム事業(mainstream services)の提供に加えて、職業的障害者に対する専門的カウンセリングと職業準備を担当している(MISEP,1995)。アミは、多くの障害者に対して、対象者が関係機関の各種のプログラムに進む前の職業指導、職業志向のリハビリテーション及び職業準備を行っている。アミは、障害者に関する専門機関である。

雇用サービス事務所とアミの組織及びそれら相互の連携は、県によって異っている。

職業生活サービス(Working Life Services)は、社会保険事務所と事業主が、失業者に対してリハビリテーションサービスを提供するための相談プログラムである。

障害者のパートナーと組織
スウェーデンは、障害者の関係団体がきわめて「組織化」された国である。このような社会的パートナーは、労働市場に大きな影響力を持っていると考えられる。例えばスウェーデン障害者運動(the Swedish disability movement)は、47万の会員を有し、障害者自身が運営する40の全国組織と2,000の地方組織から構成されている。労働市場庁と県労働委員会(County Labour Boards)には、職業リハビリテーション分野を代表する社会的パートナーである、障害者団体、社会保険機関、職業訓練機関及びサムハル(SAMHALL)等の代表者が入っており、彼らは、労働市場に関する問題や障害者対策について討議する。

サムハルは、スウェーデンにおける準保護雇用(semi-sheltered employment)を管理する有限会社であり、国レベルでまた地域レベルで労働市場関係機関と協議する。例えば全国レベルでは、サムハルの雇用機会の地域への配分について議論をし、中央レベルでサムハルは、障害者団体の代表との意見交換を行っている。地域のサムハルは、スウェーデンTUC、スウェーデン中央労働者組合(the Swedish Central Organisation of Salaried Employees)、スウェーデン事業主連合(Swedish Employers Confederation)、スウェーデン地方自治体協会(Swedish Association of Local Authorities)、社会保険庁、県労働市場委員会、県議会(the County Council)の地方組織の代表から構成される諮問委員会を設置している。

障害の定義

 スウェーデンにおける障害やハンディキャップの概念は、いくつかの政府の計画や法律の中で定義されている。障害は、けがや病気によって生じた個人の特性ではなく、個人と環境との1つの関係と考えられている。この定義は、障害を個人から環境へとシフトしているWHOのハンディキャップの定義と類似している。

職業的障害の概念は、労働市場対策との関連で用いられている。職業的障害を持つ求職者は、身体的、精神的、知的又は社会的側面の障害があるために、職に就いたり、職業を維持したりすることが困難な人、又はそれが困難と考えられる人である。職業的障害者は、特別な支援対策の対象であり、このような障害者を雇用する事業主に対しては、助成金が支給される。この場合、個人の障害が、ある作業環境との関連において支障になると考えられる場合にのみ、職業的障害とされている。

サムハルの場合、職業的障害は、個人の身体的、精神的、知的又は社会・医学的障害(例えばアルコールや薬物中毒)と広義の作業環境との関係と説明されている。

統計

 スウェーデンの人口は、約880万人である(MISEP,1995)。1995年の全労働力人口は、426万6,000人、失業者が33万9,900人であり、そのうち1995年4月の登録失業者は31万6,700人であった。

スウェーデンの労働市場は、伝統的に労働参加率が高くて失業率が低く、労働市場政策は活発であった。しかし、1990年から失業者が急増し、求職者は22万人(1990年4月)から90万人(1995年12月)に増加した。

失業中の職業的障害者も急増している。1991年度の月平均失業者は、2万200人であったが、1995年末には5万4,200人になった(労働市場プログラム参加者を除く)。この5万4,200人のうち、4万8.300人は失業中であったが、直ちに就職可能な者はわずか1万3,400人で、残る者は何らかの就職準備対策を必要とする者であった。

1991年の統計によると、登録された職業的障害者の70%は、心臓、血管及び肺機能障害を含む身体障害者であった。社会・医学的障害者は18.5%、精神的、知的障害者は各々10%と3%であった。

雇用支援サービス

 スウェーデンの雇用創出対策の多くは、労働市場庁が実施している。評価、指導及び訓練に関することでは、労働市場庁は、職業テスト、職業訓練及び職業指導を担当している。これは、2つに分けて考えられる。評価と指導は、アミというセンターで実施されており、訓練は、AMU(以下「アム」という)で実施されている。これらについては後に述べるとおりである。

メインストリーム事業(Mainstream provision)

 労働市場対策における職業的障害者の参加割合が、一般求職者のシェアよりも大きくなるよう、政府は求めている。1995年度の第4四半期では、全体の対策(賃金補助及び保護雇用を除く)の中で職業的障害者対策の占める割合が11.2%であったのに対して、失業者全体に占める職業的障害者の割合は10.3%であった。

職業的障害者によって活用されるメインストリーム事業には、職場適応訓練プログラム(Workplace Introduction)、作業体験プログラム(Work Experience)、一時雇用プログラム(temporary employment schemes)が含まれている。これらの雇用創出事業については、追って財政措置の項で述べる。

職業評価と指導

 アミは、1980年以来、職業リハビリテーション評価と指導を行っている。職業リハビリテーションサービスの地方分権という考えを反映して、約100所のアミと多くの支所がある(MISEP,1995)。アミへの紹介は、主として雇用サービス事務所からのものである。一部のアミは、求職者と接触するよりも、雇用サービス事務所にアドバイスするなど、支援的な業務を行っている。その他のアミは、雇用サービス事務所にとってかわって全ての業務を行っている。

歴史的に2つの型のアミが、相談と職業リハビリテーションサービスを行っている。第1の型は、一般のアミ(mainstream Ami)で、さまざまな種類の障害者だけでなく、その職業選択と職業発達に関する相談と指導を必要とする全ての人びとを対象としている。第2は、これらに加えて、アミ-S(Ami-S)(以下「アミ-S」という)として知られるものが7カ所あり、そこには、特定の種類の障害者のための資源がある。アミ-S型の施設は、「視覚障害者、聴覚障害者、肢体障害者、知的・精神的・社会医学的障害者のニーズに応えること」をめざしている(National Labour Market Board,1987,p.2)。アミの職員は、職業カウンセラー、心理士、看護職、理学療法士及びソーシアルワーカーから構成されている。

表Sw.1のとおり、1994年度のアミの求職者の70%は、職業的障害者であった。

アミ-Sの目的は、一般のアミ同様に障害者を労働市場に統合することである。すなわち、

  • 主として一般労働市場の中で、求職者が雇用の機会を見つけ、獲得し、維持できるようにすること、
  • 可能な限り問題の再発を防止し、また新たに生じる問題に対する準備性を高めること。
表 Sw.1 アミにおいて訓練手当を受給した求職者
状況 1992年度 1993年度 1994年度
訓練手当受給中の者(月平均) 8,121 6,541 7,986
- うち職業的障害者 4,627 4,610 5,786
構成比(%) 57 70 72
修了した訓練手当受給者(月平均) 2,439 2,297 2,779


表 Sw.2 アミ修了1年後の雇用状況
雇用状況 障害者% 非障害者%
'92年度 '93年度 '92年度 '93年度
補助金なしの雇用 7.6 7.5 19.3 20.0
賃金補助 12.8 16.7 0.8 1.0
公共機関での保護就労 0.8 0.9 0.2 0.2
サムハル 5.1 7.3 0.5 0.8
被雇用者小計 26.4 32.4 20.7 21.9
職業訓練・教育 11.2 10.5 17.7 17.7
労働市場対策 7.3 5.8 10.5 9.4
失業 35.3 33.9 38.3 39.1
データなし 19.8 17.4 12.9 11.8
総計% 100 100 100 100
総数 18,535 21,590 14,450 9,818

 アミ-Sの対象者は、「労働市場での…短期的・長期的…需要に応える上で、障害があるために、雇用機会を見つけ、獲得し、維持する際に、特別の援助を必要とする求職者である」(National Labour Market board,1987,p.5)。一般のアミのサービスでは不十分であり、かつ個人が雇用機会を確保するに当たって特別な援助が必要と認められる場合に限ってアミ-Sに紹介され、職業的・教育的情報提供、作業体験プログラム、訓練、職場改善プログラム(workplace modifications)を含む多様なサービスが提供されている。

大半のアミは、社会医学的又は心理学的問題を持つ者に対する専門的サービスを取り込んできたが、身体的又は知的問題を持つ者に対する専門チームを持つものもいくつかある。

1991年度は、月平均で1,600人の職業的障害者が就職のためにアミを修了したのに対して、1993年度は、2,100人であった。

表Sw.2は、アミ修了1年後の雇用状況である。

職業訓練対策

 アム(労働市場訓練センター)は、職業訓練の大部分を担当しており、アミから別れて独立したものである。さまざまな機関から提供される職業訓練サービスが、労働市場当局によって購入されているが、職業訓練の大半は、アムが提供し、職業訓練センター(Employment Training Centres)で実施されている。

1986年以前は、職業訓練は、スウェーデン教育庁(Swedish National Board of education)と労働市場庁が協力して実施していたが、1980年代に行政改革が行われ、政府は、財政的責任を明確にするため、職業訓練の独立機関を作った。その結果アムは、23の地方機関と本部で構成される独立採算のアムグループとなっている。アムは、7,000人の職員を持ち100カ所の訓練センターにおいて、9つの主要職業群について、訓練、相談事業、組織分析(organisational analysis)、評価、技能分析及び教材サービスを行っている。

職業訓練は、さまざまな機関から提供されるものを県労働委員会が特に購入するか、あるいは一般の教育機関の枠内で提供される。購入される職業訓練の大半は、アムが引き受け、職業訓練センターで実施されている。1986年からアムは、助成金をもらう団体から、地域の労働市場委員会にサービスを売る利益指向の機関に変化した。地域の労働市場委員会は、大学、中等学校、企業、私立の教育機関等の競合者から、自由に職業訓練サービスを購入することができる。このねらいは、消費者のニーズに適した柔軟なサービスを提供することである。公共機関である労働市場委員会は、従来はアムのサービスの主顧客であったが、1990年代のはじめには、アム以外の機関から訓練サービスを購入することが多くなってきている。

労働市場庁令(Labour Market Ordinance(SFS1996:368,Section15-26))に基づいて、職業教育、再訓練、相談等職業リハビリテーションサービスを必要とする障害者に対しては、その訓練・教育期間中について手当が支給されている。
1995年に、雇用サービス事務所からの手当が支給されて通常の教育機関で訓練又は教育を受けた者のうち、27%以上が職業的障害者であった。

多くの成人の機能障害者は、基礎教育面で、いまだに一般とのギャップがあるが、地方自治体、学習機関及び民間の高校によって実施される成人教育に参加する機会がある(Swedish Institute,1995)。

表 Sw.3 労働市場訓練における障害を持つ求職者数及び構成比(1990-1995)
人数 参加者全体に占める構成比%
1990 9,500 25.1
1991 10,900 18.5
1992 12,800 14.8
1993 8,700 16.3
1994 8,000 13.5
1995 7,400 13.5

資料出所:労働市場庁

職業生活サービス(Working Life Services)

「職業生活サービス」のねらいは、障害者を速やかに社会復帰させることである。この団体は、税金収入を財源として相談グループ形態で運営されており、325人の職員で構成されている。大半の職員は、雇用サービス事務所かアミに勤務した経験を持っている。1993年度の場合クライエントの内訳は、社会保険事務所68%、県等地方自治体12%、個人7%、製造業者5%であった。

職業生活サービスでは、職業指導とキャリア・プラニング、個人評価とテスト、労働市場、教育及び訓練に関する情報、作業評価、機能評価、職場適応、個人の発達とリハビリテーション問題上の指導・教育といったサービスを提供する。

訓練と移行(transition)

 1980年代の後半から、労働市場サービス(Labour Market Services)によって措置される若年障害者の人数を、増やす努力がなされてきている(Abrahamsson and Alm,1995)。これらには、障害年金受給者、サムハル、賃金補助及び導入訓練制度を利用している若年者への配慮が含まれる。中学や高校の在学生に対してはこれらを含むさまざまな対策が、さらなる対策としては、生徒のためのものや18歳から24歳の若年者に対する職場実習(work practice)が含まれる。

1990年からは、学校と職業紹介機関の協力が活発になったことによって、障害者は、学校から職場へ移行するための情報や指導を得やすくなった。若年障害者は、たとえ義務教育期間であっても通常の場合8年生から、雇用サービス事務所とアミが提供する情報やサービスの全てを利用することが認められている(Lindbom,1995)。これは、25歳未満の若年者を対象として、本人が好む職業領域で6カ月間職場実習を行うという試行プロジェクト(1991年)の成果として始められた。学校では、障害者が作業体験プログラムに参加する際には、生徒は、作業用自助具を利用したり介助を受ける権利が与えられている。Lindbom(1995)が言及しているように、障害を持つ若年者とそれ以外の者に平等に活動原則(activity principle)が適用される。最近の労働省(Ministry of Labour)の統計によると、30歳までの若年障害者が指導、評価、職業訓練、教育及び作業体験プログラムの対象となるが、1995年の7月から12月までに1,410人の若年障害者がこれに参加しており、このうち843人が就職、実習、訓練又は教育、782人が作業体験プログラム、105人が「指導週間(guidance weeks)」に参加している。

全ての総合大学と多くの単科大学は、障害を持つ学生の勉学を支援するために、「障害者と高等教育(Disabilities and higher education)」というプログラムを活用している。また、25歳から29歳の学位を持つ者については、大学研修員制度(academic trainee scheme)により、職務試行(work trials)の機会が与えられたり、追加手当を受給することができる。

援助付き雇用

援助付き雇用は、1993年に職務試行ベース(job trial basis(SIUS))で設けられた。この雇用形態には、最高100%まで賃金が補助される「ジョブコーチ」という援助者の採用が伴う。現在9県で実施されている。労働市場庁の1995年末のフォローアップ報告によると、50の異なった地域のSIUSプロジェクトに100人のジョブコーチと約500人の求職障害者がいるということである。対象障害者は、重度の機能障害者であった。このうち3分の1の参加者は、(賃金補助付きで)既に雇用されたか、又は雇用について交渉中であった。

銀河プログラム(GALAXY)

 銀河プログラムは、大手の建設会社数社と建設業の事業主団体によって作られたものである。目的は、職業的障害を持つ建設労働者のニーズに応じて作業を調整することを通して、彼らに職業リハビリテーションサービスを提供することである。この場合、障害者のための賃金補助を行うという労働市場当局との協定がある。利用者数は、1987年に328人であったのが、1995年には1,180人に増加している。1986年から1995年の間に銀河プログラムを修了した1,981人のうちの25%が、同じ建設関係の業務で賃金補助なしの職務に移行している。

一般雇用:法的義務と権利

 障害者差別をなくすることを目的とする総合的な法律による対策は、今のところない。スウェーデンには、割当雇用方式の制度は存在しない。しかしながら、障害者を一般雇用の中に統合しようという目的を持つ多くの法律による対策がある。

障害者オンブズマン

 最近の発展は、1994年の中頃に、障害者の権利と利益を擁護する障害者オンブズマン事務所(Disability Ombudsman Office)が設立されたことである。この事務所の権限と責任は、障害者オンブズマン法(SFS,1994:749)で定められている。オンブズマンは、障害者の権利と利益に関する問題をモニターするとともに、法律の限界と欠陥について政府に陳情して改善を働きかけることである。オンブズマンは、国会に対して毎年報告を行っている。初年度にこの事務所は、1,000件を上回るケースを取り扱っており、電話による調査件数の10.6%は雇用問題であった。オンブズマン事務所は、一層厳しい法律とともに、職場で障害者差別があった場合に法廷で争う力をオンブズマンに与えるよう要求している。

職業生活上の障害者への差別に対処するため、現在新しい法案が検討されている。この法案のねらいは、障害者の救済を包括的かつ迅速に行うための手順を確立することである。一案としては、このような対策が、障害者オンブズマン事務所の指揮監督下で実施されるようにすることであろう。

改善要求

 作業環境法(The Work Environment Act(SFS1977:1160,改正SFS1991:677)に基づき、事業主は、作業環境を障害者の身体的・精神的状況に合わせて改善することが義務づけられている。法律は、事業主団体と労働者団体の合意に基づいた、いわゆる「フレーム法(frame law)」として制定されている。

この法によると、「作業環境は、人のさまざまな身体的・精神的適性に適合させることとする(第2章、第1条)」。また「身体的・精神的過労のために従業員が病気になったり事故に遭うことがないように、科学技術、作業の編成、職務内容をデザインすることとする。これとの関連で、報酬の形態及び労働時間の配分についても、考慮することとする(第3条)」と定められている。

「さらに、この法律及び国民保険法(1962:381)に基づき、従業員にかかってくる責務を免除するために、従業員の活動範囲を含めた職場の作業改善やリハビリテーションが適切かつ組織的に計画されるよう、事業主は努めることとする(第3章、第2条a)」

第2の主な法的義務は、建築的障壁の除去である。職場へのアクセシビリティは、労働力のインテグレーションを達成するために不可欠な要素である。建物規則(building by-laws)には、障害を持つ人のための建物のアクセシビリティと利用に関することが定められている。1966年に制定された法令(Statute)42aによると、住居、公共の場所及び勤務場所は、移動や見当感の障害を持つ者が利用できるように計画すること、と定められている。建物の構造上の手直しについても、建物規則で定められており、合理的な手直しの必要性が述べられている。アクセシビリティに関する詳細な規定は、スウェーデン建物基準(the Swedish Building Standards)に定められている(Swedish Handicapped Institute,1984)。

設計及び建築法(Planning and Building Legislation)(SFS 1987:10 第3章,第7条)は、住居、職場及び公共的に利用される可能性のある建物は、移動及び見当感の障害を持つ者が利用できるように計画しなければならない、と規定している。

雇用の保護

 1974年雇用安定法(Security of Employment Act)(改正SFS 1984:1008)は、全ての勤労者の雇用の確保を目的としており、障害者については、特別の保護資格を与えている。同法は、客観的理由がなければ障害者に対して解雇通知をしてはならない、そして解雇の客観的理由がない場合、事業主は、その障害者を事業所内で配置換えするよう規定している。疾病や職業能力の減退は、通常の場合、解雇の客観的理由とは考えられていない。この法律では、解雇通知やレイオフを行う場合の優先順位を定めている。この法律は保護雇用には適用されない。それは、保護雇用内にいる者は、提案があった時には一般の労働市場で職に就くことを期待されているからである。仮に、従業員個人の状況を理由に解雇する場合、事業主は、解雇通知を行う1ヵ月以上も前からその状況を承知していたはずなので、それは正当な理由とは認められない。法律の第23条には、「第22条の規定にかかわらず、それに反する特別の理由がない限り、特別な雇用機会が与えられてきた障害者を優先的に継続雇用しなければならない」という、レイオフ終了通知における優先順位を定めている。

雇用の維持及び復職対策
リハビリテーションは、大きく変化してきている。WsdensjoとPalmer(1996)が指摘しているように、「近年のリハビリテーションの傾向は、従来よりも多くの社会資源を活用できるようになってきたことと共に、障害者を復職させることで給付金を削減するという目標が設定されたことである」。早期の復職を促進することが主要な政策目標になっている(Westerhall,1996)。1980年代には欠勤者が激増した。また、1980年から1990年の間に障害年金又は療養手当を受給した人が、31万1,000人から43万6,000人に増えた。これに対して、1990年代前半にとられた対策は、給付金や手当の削減を図ることと、早期に復職するための事業主と障害者の責任を重くすることとであった。1992年までは、法律上、社会保険担当官が、リハビリテーション業務について医療・職業分野の専門家と調整することを求められてはいなかった。かなりの資源(職員2,000人)が、リハビリテーションサービス及びその運営のために振り替えられた。

毎年約5億クローナが、傷病手当基金からリハビリテーション対策費に充当される。これに基づいて、社会保険事務所は様々なリハビリテーションサービスの提供者からサービスを購入することができる。それにより、患者名簿に掲載される期間を短くして病人や障害者がより早い時期に復職できるよう援助している。リハビリテーションのスピードアップ、及び守りから攻めへの対策の変更は、これまで議論されたより広いスウェーデンの哲学を反映したものである。

政府の提案「作業環境とリハビリテーション」(1990/1991:140)は、1992年1月に施行された国民保険法(the National Insurance Act)第22章における、リハビリテーションの新しいルールのベースとなっている。それに基づき、リハビリテーションニーズを確認・決定して、各種の対策を講じると共に必要な予算を確保することが、事業主の主たる責任とされている。これには、作業環境の改善、職務の変更、配置換え、勤務時間の変更、職務のテストと訓練、教育等、さまざまなことが含まれている。しかしながら、経済的責任については、企業活動の枠内で、あるいはそれに照らして実施できる対策に限定されている。改正された作業環境法は、事業主に対して、適切な職務の変更やリハビリテーション活動が職場内で確実に実施されるよう求めている。

このような職業を指向するリハビリテーションに参加した場合は、参加していることによる無収入の状態、また、参加することによって生じる支出を補助するためのリハビリテーション支給金の形で、リハビリテーション補償を受ける権利が与えられる。リハビリテーション給付は、リハビリテーションが開始される前に受給していた疾病、失業、あるいは障害給付のいずれかと同額のものが支給される。リハビリテーションを必要とする疾病手当受給資格者は、職業評価、職業訓練、職業教育のような積極的リハビリテーションに参加する場合には、リハビリテーション手当を受給する。16歳から64歳までの障害者は、職業能力の減退した程度に応じて、100%、75%、50%又は25%の障害年金を受け取っている。さらに障害手当によって、余分にかかったコストをまかなっている。

Westerhall(1996)によると、リハビリテーション政策の変化は、正しい方向への動きである。社会保険事務所は、長期患者名簿にリストアップされている人とより頻繁に、また迅速に接触を始めている。しかし、法を遵守させるためには罰則だけでなく、法律の中で、事業主の責任をより具体化させるべきである、とWesterhallは考えている。現在は、事業主がリハビリテーションニーズを調査するのに4週間かかっており、社会保険事務所に紹介するまでに8週間かかっているのである。Hetzler(1994)は、職業リハビリテーションが、個人だけではなく職場の変化をいかに必要としているか、また、リハビリテーション過程で特に女性が、いかに周辺に追いやられているかを強く主張している。
1990年から社会保険事務所は、官民の提供者から職業リハビリテーションサービスを購入することができるようになった。1995年に社会保険事務所は、アムグループから6,000万クローナの職業訓練及びリハビリテーションサービスを購入している。

雇用促進

 雇用促進対策は、雇用促進対策に関する法律(the 1974 Act Concerning Certain Employment Promoting Measures)(改正SFS 1985:222)で規定されている。この法律では、高齢者及び障害者に対する、雇用の確保と職業の安定を図るための機会の増大について定められている。

これによると、「高齢又は障害を持つ従業員の雇用促進対策」について、「必要に応じて県雇用委員会は、事業主に対して、次のことに関する報告を命ずることができる。

  1. 従業員の規模、年齢構成、国籍、職務
  2. 障害を持つ従業員数
  3. 新たな雇用機会が生ずる退職通知、レイオフ、異動、欠員といった労働力の変化

 この命令に従わない場合は、罰金を科すことができる」。

また、事業主は、「事業主に対して、高年齢者又は障害を持つ従業員のために、よりよい雇用機会を提供するよう指示をしたり、従業員の中に占める高年齢者又は障害者の比率を高めるように命令する」権限を持つ(第9条)県の雇用委員会と協議しなければならないことになっている(第8節)。最終的にはこの問題は、罰金を科したり、雇用サービス事務所から従業員の募集を禁ずる措置を行うことができる労働市場庁に付託される(第11~12条)。

職業生活基金(the Working Life Fund)

1989年の9月から1990年の12月までの間、事業主は、全従業員の賃金の1.5%を義務として職業生活基金に支払う、という法律が国会で成立した(1989:484)。この基金は、

  • 長期療養をしている従業員のリハビリテーション対策
  • 疾病による欠勤の削減対策
  • 法令によって事業主に義務づけられていない作業環境の改善対策

に使用された。

事業の大半は、職務の単調さの除去、従業員の自己管理能力の向上、物理的作業環境の改善、長期欠勤者のリハビリテーションであった。職業生活基金は、早期の復職という理念に基づいたものであった。

職業生活基金は、5年間に、約2万5,000の職場で、110億クローナ利用された。この基金を活用した5つのプロジェクトの成果について、Hogas(1994)は、400万クローナの経費で、179人のうち106人が新しい職場に復帰できた。事業主は1,400万クローナ、社会保険制度は1,800万クローナが節約できた、としている。

この組織は徐々に縮小され(資金が使い果たされたため)、1995年7月1日に廃止された。政府は、国立職業生活研究所(the National Institute for Working Life)に対して、フォローアップと職業生活基金の評価を依頼している。

啓発政策

 事業主主導のキャンペーンが実施されている。1994年のキャンペーンは、「成長に向けて(Going for Growth)」(Swedish Employers Federation,1995a)をスローガンに、競争、収益性、技能は障害者の雇用を排除するものではないことが強調された。「職業的障害を持つ人びとは、ビジネスや産業界で意義ある職業に就くとともに、その技能を向上させる十分な機会を持っている」という、出版物も作成された。企業の障害者雇用に関連して、このキャンペーンは、機能障害が相対的な概念であることに注目し、考え方を変えることの重要性を強調している。事業主を経済的に補償することと、政府が法律で雇用機会を規制すべきでないことも強調されている。事業主は、彼らが必要とする技能と経験に基づいて従業員を採用すべきであると信じている。また近年、事業主に対してより大きな責任を担わせることを含む、いくつかの改革を実施してきたことについて事業主団体はコメントしている。

また関連する出版物、「障害があっても可能(Disabled but Able)」(Swedish Employers Federation,1995b)は、障害者の雇用機会の創出について企業の理解を深めると共に、障害が相対的概念であることを示すことを目的としたものである。また、科学技術がいかに雇用機会の創出に寄与するかという事例、国から得られる支援の概要も掲載している。これらに示されている勧告からは、社会的責務と収益性が密接な関係にあることが示唆されている。

一般雇用:財政的施策

 スウェーデンには、職業的障害者のための特別な補助金制度と障害者が参加できるメインストリーム事業がある。

特別補助金制度

賃金補助
賃金補助は、法令(SFS 1984:519)に基づき、それ以外の職業紹介対策を利用できない職業的障害者に感して支給される。これは、1980年から官民を問わず実施されている制度である。賃金補助は、事業主に対して支給されるもので、対象となる障害者は、労働協約に従って雇用され、賃金や手当をもらっている者である。賃金補助を受けた平均件数は、表Sw.4のとおり、1987年から1994年まではあまり変化が見られないが、1995年には増加している。

表 Sw.4 年度別平均賃金補助件数
件数
1987 42,800
1988 44,400
1989 43,900
1990 45,000
1991 44,500
1992 42,600
1993 42,600
1994 46,400
1995 49,600
1996 46,200

資料出所:労働市場庁統計

1980年代、賃金補助の割合は、国100%、ボランティア団体90%、地方自治体及び民間75%~25%と、事業所の種類によって決められていた。1991年度から、当初の4年間賃金が補助されるという、弾力的な補助制度が導入された。この新しい制度では、補助率は、事業主の種類に関係なく、障害を持つ従業員の能力によって決められることとなった。賃金補助は、障害のために減退した作業能力を補償するものである。このねらいは、作業能力の向上に応じて補助を段階的になくすことである。1994年度の平均補助比率は、72.5%であった。表Sw.5は、事業主分類別平均補助状況である。

1994年から1995には、賃金補助を受けた者のうち20%以上が、一般労働市場で補助を受けない職についている。1995年の7月から、賃金補助は1万3,700クローナを限度とする月額給与の80%となっている。ただし、重度障害者については、100%である。なお、月額最低賃金は、1万3,700クローナである。1995年は、約5万人の障害者が賃金補助を受けて雇用された。

賃金補助を受ける障害者は、非常勤で雇用され、併せて社会保険事務所から障害年金も受給している。

1985年(SFS 1985:276)、主としてアルコールや薬物による社会・医学的問題を持つ者を対象とした特別のタイプの補助が、一時的失業対策の代替として導入された(Samoy and Waterplas,1996)。公的保護雇用として知られているこの対策は、社会・医学的障害を持つ求職者が、公的機関で仕事を得られるようにするものである。公的機関とは、地方当局、県議会、地方自治体である。銘記すべきことは、仕事は工業生産形態はとらないということである。政府は、事業主に対して、全ての経費の75%までを補助している。表Sw.6のとおり、この事業の利用件数は、最近まであまり変化がない。公的保護雇用は、1994年に、知的障害者や精神障害者にも拡大された。(対象となる)仕事は、雇用サービス事務所とアミの裁量に任されている。

表 Sw.5 弾力的賃金補助プログラム利用者の平均補助率
事業所分類 1993年 1994年 1995年
人数 補助率% 人数 補助率% 人数 補助率%
1,546 93.4 4,175 93.5 4,090 89.9
国に準ずる機関 76 92.3 316 92.4 316 91.0
社会保険事務所 172 94.8 292 97.5 275 94.0
公益企業 5,966 84.5 15,433 86.5 16,982 85.6
地方自治体 3,149 46.6 5,734 50.6 6,265 53.0
県議会 1,108 39.0 1,875 41.5 1,549 44.5
国有企業 66 48.5 88 59.8 72 67.9
民間企業 8,515 61.4 14,496 64.2 18,346 65.9
その他の事業主 164 74.7 1,594 65.8 2,096 65.2
20,762 67.4 44,003 72.5 49,991 72.6

資料出所:労働市場庁統計

公的保護雇用(Public sheltered Employment)

表 Sw.6 公的保護雇用(OSA)
件数
1988 5,800
1989 6,000
1990 5,700
1991 5,400
1992 5,600
1993 5,700
1994 5,100
1995 5,400


表 Sw.7 助成金支給件数
助成目的 1993年度 1994年度
支援機器 1,745 2,732
環境改善 - 438
コンピュータ 442 584
補助者 439 397

資料出所:労働省、1996年 資料出所:労働市場庁

助成金と機器
雇用サービス事務所は、障害者が就職又は職務の遂行に当たって支援機器等が必要と認められる場合には、これを購入するための助成金を支給している。これは、5万クローナを限度として、事業主に対して支給される(SFS 1987:409)。これには例えば、建物、入り口、コミュニケーション方法の改善、支援機器の提供、作業補助員(例えば、聴覚障害者のための手話通訳者、職場の中での重度障害者の援助者)配置に係る助成金などが含まれる。既に雇用されている者については、1991年から、社会保険事務所が支援機器の助成を行っている。助成の水準は、雇用サービス事務所と同様で、事業主又は雇用されている障害者は、各々5万クローナを限度として支援機器への助成金を受給することができる。表Sw.7は、1993年度及び1994年度の助成金支給件数である。

資力調査に基づき、3万5,000クローナまでの助成金が、職業訓練に必要な車を新規に購入する場合に支給される。通勤自動車の改造の場合には、資力調査を必要としない助成金が支給される(この事業は SFS 1987:410 で開始された)。自動車の助成金業務は、現在社会保険事務所が行っている。

助成金は、支援機器、職場環境の改善及び職場の通訳者・作業補助者の費用について支給される。

自営(SElf-employment)
労働市場令の第57~58条に基づき、自営を始める障害者に対しても助成金が支給される。支給限度額は、4万2,000クローナである。既に「失業者開業助成金」を受給した者については、その助成金に加えて3万クローナだけ助成が受けられる。事業助成金の受給資格がある者の開業件数は、1,000件未満である。事業の存続能力に関する条件が厳しくなったことで、おそらく開業件数が減少したのであろう。

1986年から1994年の間は、助成額は3万クローナであったが、1994年から限度額が6万クローナになった。1994年度に支給された開業助成金総額は、1,560万クローナであった。開業助成金の新規登録件数は、1993年度485件、1994年度774件であった。

メインストリーム雇用創出(Mainstream job creation)

公共一時雇用プログラム
一時雇用プログラムの目的は、周期的・季節的な失業対策と、高齢で地理的に移動が困難な労働者、難民、移民、さらに仕事や訓練の機会が得られない失業中の職業的障害者に対して、仕事を提供することである。これには、介護、教育、管理的仕事も徐々に増えてきてはいるが、通常は、国及び地方の当局が、公共事業によりアレンジしている。

期間は6カ月を限度としている。助成金は、事業主に対して支給され、日額7,000クローナを限度として賃金の50%まで支給される。公共投資に関係した一時雇用プログラムでは、助成金は、通常日額1,500クローナである(MISEP,1995)。

1995年には、全体の12.9%に相当する1,900人の障害者がこのプログラムに参加した。1990年には、29%の計2,400人であった。作業体験プログラムを含む他の事業の利用者が増加したことから、このプログラムの利用者は減少している。

作業体験プログラム
1992年に導入されたこのプログラムの目的は、失業手当を受給している者に対して、経験したことのない地域の活動や仕事に参加してもらう機会を提供することである。このプログラムの期間は6カ月で、参加者は、失業保険に相当する訓練手当を受給している。1995年には、参加者のうち11.4%(4,700人)が障害を持つ求職者であった。

表Sw.8は、一時雇用プログラムと作業体験プログラムに参加した障害を持つ求職者数と構成比である。

表 Sw.8 一時雇用プログラム及び作業体験プログラムに参加した障害を持つ求職者数及 びその構成比
一時雇用プログラム 作業体験プログラム
1990 2,400 29.1% - -
1991 2,600 23.8% - -
1992 2,800 17.9% - -
1993 2,000 14.3% 3,400 9.6%
1994 2,100 12.7% 4,500 10.0%
1995 1,900 12.9% 4,700 11.4%

資料出所:労働市場庁、1997年

保護雇用

組織と原則

 サムハルは、スウェーデンにおける保護雇用に関する責務を全面的に担っている国有企業グループである。これは、1980年に、保護雇用(地域財団)法(SFS:1979:47)に基づいて設立されたものであり、障害者に関するスウェーデンの労働市場政策の重要な位置を占めている。1992年7月に、これは有限会社になった。経営理念と財務制度は、競合会社に不利益を与えないような形で運営するという方針を取り入れている。したがってサムハルは、自らの雇用規模を維持するために、競争相手が確立した市場価格を破壊することはできない。サムハルは、24の県事業所(法的には、各事業所は財団である)から構成され、各々平均で14のワークショップを持っている。つまり、全体では300地域の800ユニットから構成されている。

目的と対象者

 サムハルの運営目的は、「どこでも必要に応じて、職業的障害者に対して、意義のある雇用機会を提供すること」である。職業的障害のために一般の労働市場で仕事を見つけられない人に対して、最寄りのサムハルが、雇用機会を提供している。サムハルにおける雇用の役割は、障害者が一般労働市場で職を見つける可能性を高めることである。サムハル内の雇用機会は全て、地域の雇用サービス事務所の推薦と、労働市場庁にゆだねられている。サムハルの運営は、明らかに労働市場対策の領域に入る。職業能力の下限は特に定められていないが、従業員は、通常の勤務時間の少なくとも半分は勤務することができなければならない。また、従業員の40%は、優先対象者(Priority groups)から採用しなければならない。

サムハルは、長期病欠者に対するリハビリテーションサービスも提供している。

活動

 サムハルの事業の大半は下請け業務である。その業務は、家具、グラフィックス生産、梱包など製造業に集中しているが、サービス業や林野業への事業の多様化、開拓も試みている。最近サムハルは、大きな構造的変化を迎えている…家具や消費者製品が減少する一方、サービス分野が増加している。
1995年の年次報告によると、4つの主要目標が掲げられている。

  • 職業的障害者の勤務時間数
  • グループ外の企業への移行人数
  • 発達障害、重複障害、精神障害を持つ者の採用比率
  • 国からの財政支援額を減らすための財政的成果

従業員

 表Sw.9のとおり、サムハルの職業的障害を持つ従業員は、1980年の2万900人から、1995年末には2万9,000人(全従業員3万2,200人)に増加している。

全従業員の平均雇用期間は8年で、全労働時間数は(過去1年で)3%増加している。サムハルの賃金は、労働組合との合意による通常の労働契約に基づくものである。

表 Sw.9 サムハルの職業的障害を持つ従業員数及び労働時間
人数 労働時間(単位:千時間)
1988/89 30,006 31,150
1989/90 30,434 32,110
1990/91 29,385 31,280
1991/92 29,191 31,580
1993 27,238 32,091
1994 28,990 33,664
1995 28,961 34,717

資料出所:1995年サムハル年次報告

財政措置

 サムハルの収入は、46%が販売収入、54%が国からの助成金である。利益の5分の1は輸出によるものであり、過去4年で輸出は2倍に伸びている。1992年以降、議会は、サムハルに対して、一定量の雇用機会(年3,190時間)の提供と収支の改善を求めている。

サムハルの活動の費用便益分析(結果)は、印象的である。事業主としての社会保険への納付額(1996年)を考慮すると、サムハルがもたらす利益は、もし受注量が十分ならば、追加雇用者1人あたり40,000から50,000クローナと推計される。1995年の追加雇用者1人あたりの限界費用は、110,000クローナで、それは(社会保障)給付よりも61,000クローナ以上安上がりであった。サムハルの職務が3,000減ると、国は年6,000万クローナの負担増になると見積もられている(Annual Report,1995)。

1995年の年次報告にある従業員の調査では、サムハルの事業に対して肯定的である。同様に、スウェーデン世論調査研究所(the Swedish Institute of Public Opinion Research)でも、関係者、一般ともに、サムハルの取り組みへの信頼が高まっていることが示されている。一般の意見の多くは、サムハルに対して、さらに多くの財源を割り当てるべきだとしている。

投資
1990年度の年次報告は、作業環境の改善に焦点を合せている。そのねらいは、環境改善の投資を増やすことにより職務の満足度を高めて、サムハルでより重度の障害者の雇用機会を確保することであった。これは、雇用の質的な側面を無視して、量的な観点から評価をすることの難点を示すものであろう。1991年のサムハルにおける技術的職場改善分野の投資は、1年間で倍増し、3,300万クローナになった。

移行(Transition)

1996年6月30日現在、2万8,461人の職業的障害者がサムハルに在籍していた。そのうちの3,000人は、一般雇用への移行が可能であり、またそれを望んでいたが、実際には412人しか移行できなかった。さらに、彼らの多くは、移行後1年の間に、サムハルに戻る権利を行使した。サムハルは、この移行に係る問題は今後も続くものと予想している。SamoyとWaterplas(1996)によれば、サムハルを離れた者のうち、約30%が最終的には戻ってきている(12カ月間は再雇用が保証されており、一般雇用への移行が不調の場合は、再度移行が試みられる)。目安となる指標は、毎年、一般雇用へ3%が移行することとされている。表Sw.10は、年度別移行状況である。

表 Sw.10 サムハルからの移行(1988~1995)
人数 移行者数 移行比率(%)
1988/89 30,006 1,597 5.4
1989/90 30,434 1,337 4.4
1990/91 29,385 925 3.1
1991/92 29,191 633 2.2
1993 27,938 984 3.5
1994 28,990 1,372 4.7
1995 28,961 1,301 4.5

資料出所:1995年サムハル年次報告

要約

 スウェーデンの障害者対策の目的は、全ての国民の完全参加と平等である。障害者の雇用対策は、万人に認められている働く権利という基本原則に基づいている。障害者の雇用対策は、一般の労働市場対策の一貫として実施されている。失業率の上昇によって雇用機会が減少しており、従来のスウェーデンの労働市場対策は、全く新しい状況下でテストされている。政府は、失業者の半減を宣言した。政府は、労働市場における職業的障害者の参加比率を、一般求職者の参加比率よりも高くしようと努めている。

能力障害及びハンディキャップは、人と環境との関係として、法的に定義されている。職業的障害という考えは、労働市場対策との関連で使用されている。障害が、ある作業との関連でなんらかの支障になる場合にのみ、職業的障害という概念が用いられる。失業中の職業的障害者は、1991年度に2万200人であったが、1995年には5万4,200人と著しく増加している。

スウェーデンは、障害者の権利を擁護するための特別な法律を持っていないが、1994年に、障害者の利益を擁護するとともに法的問題について政府に対して働きかけを行うための、障害者オンブズマン制度を確立した。現在、職業生活における障害者差別をなくするための法案の検討が行われているところである。

雇用の促進や保護対策とともに、作業環境の改善や建築的障壁を除去するという法律を制定することによって、障害者の雇用へのアクセスが推進された。事業主に課せられた一時的な納付金を財源とする職業生活基金が、リハビリテーション対策及び作業環境改善の促進に活用された。

建物の改善、支援機器の提供又は作業補助員配置のために、助成金が支給されている。自営を奨励するために、障害者に対して助成金が支給されている。地方自治体、県及び民間企業における障害者の雇用を確保すべく、事業主に対しては、賃金補助が行われており、1995年の件数は増加している。社会・医学的障害を持つ者については、非現業の公益部門での賃金補助が行われている。また、障害者は、メインストリーム雇用創出事業にも参加している。

重要な対策として強調されていることは、早期復職の奨励である。1990年代の前半には、この対策によって、手当の支給が減少する一方で、事業主の責務が増大すると共に早期に復職する人が増加した。1992年以降は、社会保険事務所に対して、医療及び職業分野の専門家との協力が求められた。相当な人数の職員が、リハビリテーション対策に振り向けられた。

障害者に対する職業リハビリテーションサービスは、労働市場庁をはじめとする労働市場当局が提供している。アミは、相談及びリハビリテーションサービスを行っている。また、アミ-Sは、特定の種類の障害者に対するサービスを提供している。職業訓練は、全ての職業領域に及んでいる。職業訓練は、労働市場訓練センターであるアムが担当している。アムは、地域の労働市場委員会に対して、職業訓練を提供する業務を請け負っている。アムは、助成金をもらう団体から利益指向団体に転換した。職業生活サービスは、収益を財源とし、グループ・コンサルタント方式で運営されており、迅速なリハビリテーションを目的としている。これは、職業評価や職業指導を実施するとともに、訓練や職場改善に関する情報提供を行っており、利用者は、社会保険事務所、地方自治体及び民間企業である。
国有企業グループのサムハルは、スウェーデンにおける全ての保護雇用を担っている。その多くの事業は、製造業に集中しており、スウェーデン最大の下請け企業となっている。この事業目的は、「どこでも必要に応じて、職業的障害者に対して、意義のある雇用機会を提供すること」である。サムハルの従業員は、1980年の2万900人から、1995年末には2万9,000人(全従業員は3万2,200人)に増加している。全従業員の平均勤続年数は、8年である。目標となる指標は、毎年、一般雇用へ3%が移行することであるが、不況のために移行が次第に難しくなっている。サムハルは今、製造部門が縮小する一方、サービス部門が拡大するという、大きな構造的変化を迎えている。

スウェーデンの人口は、約880万人である(MISEP,1995)。1995年の労働力人口は、426万6,000人、失業者が33万9,900人で、そのうち1995年4月の登録求職者は、31万6,700人であった。1990年から失業者が急増し、求職者は22万人(1990年4月)から90万人(1995年12月)に増加した。障害を持つ求職者についても、1991年度の2万200人から1995年末には5万4,200人に増加した。このうち4万8,300人は失業中であったが、直ちに就職可能な者はわずか1万3,400人で、残る者は何らかの就職準備対策を必要とする者であった。

イギリス

政策と制度的情況

障害者政策・法制

 障害者関連問題はこの10年間に目立つものとなった。この原因の一部は、他国における反差別法の経験にますます目を向けるようになってきた精力的な障害者運動のキャンペーンにある。イギリスは全てを包括するような市民権アプローチを避けてきたのだが、1995年の反差別法の可決が伝統との重大な絶縁を表明した。この時点までイギリスの政策は、障害者に対する差別には自発的な方策やイニシアチブによって取り組む、というものであった。

雇用機会への完全かつ公正なアクセスを確保することは、英国政府が障害者を十分に活動的で自立した社会のメンバーにすると表明した政策の重要な決め手となっている。この包括的な目標は3つの広範な活動によって取り組まれている:(1)態度を変える努力、(2)個人が公正に扱われることを保証した法律、(3)必要とされる場面での実際的な支援とサービス。イギリスは障害者問題の責任を担当する大臣を導入した。その障害者大臣(Minister for Disabled People)は次のように述べている。「もし我々が本気で、障害者が十分に自分の生活(人生)を生きるられるように支援するのであれば、我々は差別の概念を広げなくてはならない。イギリスには数百万人の障害者がいる。我々は彼らを社会のメンバーと認めたい。」(社会保障省報道発表(Department of Social Security Press Release)、1996.4.25)

障害者差別禁止法
1995年の障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act:DDA)は雇用、商品・サービスの提供、土地や商品の購入及び賃借に関係することで障害者を差別することを違法とした。20人以上の従業員を雇う事業主が、他に適当な理由もなく障害者をその障害ゆえに他の者よりも不利に扱うことは法律に反している。事業主と、一般の人びとに商品・サービスを提供する者は、障害者が差別されないような合理的な手段を講じなければならない。

同法はまた、障害を持つ利用者がタクシーや新しい公的輸送機関、鉄道車両などを利用する際のアクセスのしやすさの最低限の規準を政府が定めることを認め、教育施設に関しては、学習を希望する障害者のニーズと、親や生徒、学生のためのよりよ情報の提供とに対する認知を奨励する新しい政策決定と義務の報告について提言している。

同法は、障害者に対する差別について政府に助言する全国障害者委員会(National Disability Council)と北アイルランド障害委員会(Northern Ireland Disability Council)を設置している。

同法の措置は何年間かにわたって実施される予定である。雇用条項は1996年12月に実施された。その日から、障害者へのサービスを拒否したり、質の悪いサービスを提供したり、より悪い条件でサービスを提供したり、土地や財産を売却・貸与する際に差別することは違法となった。方針や手続き・実施の修正、アクセスのための援助の提供、物理的障害物の除去・変更をサービス提供者に要求した条文は後日実施されるだろう。

同法は障害者の運動家が熱望するレベルには達していない。(同法に対する)批判には、教育や輸送機関の提供の不十分さ、影響力を弱めると考えられている段階的な導入、権利を犯されている人のために行動する権限を与えられた調査委員会の欠如、雇用規定が20人以上の従業員を雇う事業主に限定されていること、などがある。

労働市場政策

 経済的・イデオロギー的要因によって、保守党政権(Conservative governments)の障害者問題に対する一連の反応は組み立てられている。保守党政権の政策は、制限的な活動・規制がない「柔軟な」労働市場についての公約を明らかにしている。産業への規制を取り除くことが一番の関心である。福祉国家に係る費用を削減することと並んで、個人の労働に対する責任とインセンチブを促進することが次に続く政府の中心的なテーマであった。

失業給付は労働に対する負の動機となるという信念は、イギリスのシステムに強い影響力をもつようになってきた。長期失業の障害者を含む失業者対策は、給付額の減少、受給資格の制限、給付運営への締め付け、そして仕事へのアクセスを助けるための新しいプログラムの導入といったことに焦点を置いている。失業者については給付の支払いと積極的な求職活動とのリンクがより強化されるようになってきた。

職業構造と働き方のパターンや状況の実質的な変化もある。雇用は伸びているにもかかわらず、失業者の家計と共働きの家計の二極分解がある。製造業からサービス業への転換があり、それに伴って男性の労働人口は着実に減少し、女性のそれは増大している。技術的・職業的な熟練よりも、チームワーク、イニシアチブ、柔軟性、順応性といった対人的な技能がより求められるようになってきた(Meadows, 1996)。

イギリスの労働市場はより柔軟なものになってきたが、その中で、パートタイム労働、非常に短い労働時間、自営業、一時的・不定期(temporary and casual)の仕事、機能的な柔軟性、仕事のパターンの変化が起っこている(Dex and McCulloch, 1996)。しかし、パートタイム労働や臨時職の伸びは緩やかなものである。解説者は障害者の(雇用)機会は標準的でない雇用にこそあるとみている(Oliver, 1995)。フリーランス(self-directed employment)やテレワーク、柔軟な労働時間などが技能的階層には有利に働くであろう(Meadows, 1996)。しかし、未熟練の障害者、特に学習障害者にとっては雇用機会は減っている(Barnes, 1991; Lunt and Thornton, 1994)。

障害者雇用政策の進展

 障害者雇用の最初の包括的な枠組みは、1944年の「障害者(雇用)法(Disabled Persons (Employment) Act)」である。この法律は障害者の雇用登録制度、評価・リハビリテーション・訓練施設、専門的な職業紹介サービス、20人以上の従業員を雇う事業主に対しての登録障害者の3%の割当雇用の義務付け、登録障害者の不法な解雇に対する保護、指定職種制度、そして全国諮問委員会(National Advisory Council)と地方諮問委員会(local Advisory Committees)を規定している。

戦後の完全雇用期の後、割当雇用率を達成している事業主は1961年の61%から1985年の28%へ、さらに1993年の19%に落ち込んだ。割当雇用制度の失敗についていくつかの相互に関連した説明がある。法律の下で、割当数を満たしていない事業主は雇用サービス庁(Employment Services)の専門官から推薦された登録障害求職者に優先権を与えなくてはならなかった。もし適当な求職者がいない場合、事業主には免除許可証が与えられた。登録者数は減少し、大量の免除が当たり前となった。雇用サービス庁の人員は、欠員を監視し適当な候補者を推薦するには不十分であった。その上、許可証なしに非障害労働者を雇うことに対する罰則規定はほとんど適用されたことがなかった。

多くの事業主が本当に法律とその要求に気づかず、政府もそれを広く知らせることがなかったことは明らかである。1970年代の初めには割当雇用制度は機能しないものとみなされ、いくつかの協議文書がその廃止を提案した。しかし、割当雇用制度に替わるものについての意見は一致しなかった。何年もの間、政策の空白が続いた。割当雇用制度規定は1995年の障害者差別禁止法が法制化されるまで廃止されなかった。非政府組織による一連の差別禁止法案(Disability Discriminaiton Bill)が政府の支持を得られなかった後に、圧力を受けて、障害者差別禁止法案は政府によって議会に提出された。DDAは、雇用と商品・サービスへのアクセスにおける差別に対して限定された権利を与えるものである。イギリスの障害者運動は完全な市民権法を主張していた。しかし、法律を立案する際に政府にとっての一番大切なことは企業のコストであった。

労働市場における規制緩和と非干渉という近年の政府の方針は、「強制よりも説得」という政策を奨励した。政策姿勢は次のような政府の声明に要約されている。「障害者の雇用機会を促進する最も有効な方法は、事業主に障害者の能力と、彼らを雇い入れることのメリットを認識させることである」(雇用省(Employement Department),1994)。

政策は事業主による自発的な行動を奨励している。1970年代終わりから事業主は採用実践規範と「優良事業主」を表彰する制度による支援の下に、よい採用慣行をとり入れるよう奨励されてきた。政府は全国レベルと同様に地方のレベルにおいても、事業主のネットワークを変化の伝達手段とみなしていた。そこには障害者の能力に対する一般の人びとの認識を向上させ、事業主に彼らを雇うことの「経済的メリット」を説得するキャンペーンがあった。

障害者雇用政策のもう1つの構成要素が、一般雇用にアクセスする障害者に対しての実用的な援助であり、これは長期の障害給付からの脱却を奨励することにも結びついている。これはメインストリームのサービスと専門的なサービスの両面から行われている。徐々にメインストリームの教育や職業訓練を受けるようになった障害者は、失業者全てのためにある雇用サービスを利用することが求められている。

特に障害者の、一般雇用へのアクセスを促進するような主要な国家的政策及びプログラムは以下のとおりである:

メインストリームの雇用サービスで利用できる以上の支援を必要としている障害者のために、1991年以来、地域の紹介・評価・相談チーム(Placement, Assessment and Counselling Teams:PACTs)との契約によって民間の専門的な機関にだんだん委託されるようになってきた職業準備及び紹介サービス。

1994年から、障害者が仕事上や仕事に出かける際の障壁を乗り越えるための財政的支援や実用的な援助がコーディネイトされたプログラムで、職業アクセス(Access to Work)として知られる(主に事業主のために別々にあったいくつかの制度にとって替わったもの)。

1992年から、低所得に上乗せをする社会保障給付である障害者就労手当(Disability Working Allowance)。部分的な障害をもつ従業員や自営業者のインセンティブとして設計されたもの

援助付き就労制度(Supported Placement Scheme)を通じてホスト企業で働く重度の障害者に補助金付きの労働を提供する援助付き雇用プログラム(Supported Employment Programme)。

障害者を雇用・定着させるための事業主に対しての財政的な援助はほとんどない。

政策決定・実行

責任主体
雇用政策のほとんどの責任を担当するのは、イングランドとウェールズでは、1995年に以前の雇用省と教育省が合併した教育雇用省(Department for Education and Employment:DfEE)である。スコットランド省(Scottish Office)でも同様の合併があった。

障害者差別禁止法に対する政策責任は全て社会保障省(Department of Social Security:DSS)にある。同省は障害者大臣と全国障害者委員会を主管する。しかし、同法の雇用に関する規定については、古くからある全国障害者雇用委員会(National Council for the Employment of People with Disabilities)と共に教育雇用省が監督している。

教育雇用省内の雇用サービス庁は職業アクセスを運営し、PACTsと援助付き雇用プログラムを監督し、メインストリーム・サービスを受けている障害失業者に支援を提供し、英国全土をカバーしている。北アイルランドでは、訓練と雇用局(Employment Agency)は経済開発局(Department of Economic Development)と結びついている。

社会保障省は給付政策についての責任を担当している。雇用サービス庁は給付局(Benefits Agency)(社会保障省の管轄)(注1)と共に雇用関連給付の運営に責任を負っている。給付局は障害者就労手当を含む社会保障給付を運営している。

英国の失業者の訓練、若年者の職業訓練、事業主主体の訓練、そして企業への支援の政策責任は地方の事業主主導の民間会社が担当している(訓練事業委員会、スコットランドでは地域事業会社)。これらは訓練サービスを一連の公共、民間、ボランタリーの提供者に契約委託している。

諮問団体
全国障害者雇用諮問委員会は1944年「障害者(雇用)法」の下で設置され、障害者の雇用と訓練に関する事柄について大臣(Secretary of State)に助言する法的な責任を負っている。教育雇用大臣(Secretary of State for Education and Employment)に任命された18人の委員のうち、3人は事業主団体との協議の後任命された代表で、3人は労働組合や他の労働者団体との協議後任命される。

地方レベルでは障害者雇用委員会(Committees for Employment of People with Disabilities)がある。これは雇用問題に関する助言と援助を提供する。

全国障害者委員会は障害者差別禁止法の下に設置され、大臣(Secretary of State)に障害者問題と障害者に対する差別を減らす方法について助言する。委員の半分以上は障害者かその親である。同委員会の委任事項は雇用をカバーしておらず、全国障害者雇用諮問委員会は障害者(雇用)法の他の部分が無効となっても廃止されることはない。

社会的パートナー
主要な事業主代表組織である英国産業連盟(Confederation of British Industry:CBI)と労働組合会議(Trades Union Council:TUC)を通じて、社会的パートナーは、機会均等、好実践規範、障害者雇用の「経済的メリット」についての啓発を促進するために、全国レベルで活躍している。

職場における障害者の利害を代表する特別な計画はなく、労働組合の会員数の減少と労働組合活動を制限する法律により、障害者の雇用機会を促進するための職場での労働者代表に対する機会は制限されてきた。しかしながら、労働組合は障害者差別禁止法下の支援活動における重要な新しい役割について予期している。

障害者と非政府組織
障害者運動は市民権立法についてのキャンペーンを行い、障害の「社会モデル(social model)」(「障害(disability)」を障害をもたらす環境と社会の結果であると考えるモデル)を促進した。彼らは障害を医学的問題とみなす政策やサービスを拒絶している。障害者運動は反差別法が多くのキャンペーンの望むものに遥かに及ばなかったにもかかわらず、同法を獲得する際には目立って活動した。多くの全国的な障害者自身の組織と障害者のための組織が障害者差別禁止法や他の雇用関連方策に関する情報と助言を提供している。

イギリスではボランタリー組織によってサービスが提供されるという長い伝統がある。特に、リハビリテーション活動や治療活動においてだけでなく、コミュニティケアや入所施設サービスにおいてもみられる。近頃では、ボランタリー部門の障害者組織はメインストリームの雇用へのアクセスを支援するサービス提供を拡大している。障害者によって運営されている少数の企業は現在、事業主に障害の均等訓練のようなサービスを商品として提供している。

障害の定義

 障害者差別禁止法は障害の新しい定義を導入した。その定義は雇用や商品・サービスの獲得、土地や財産の購入・借り入れの際に差別されないという新しい権利に関連したものである。

同法は障害を「通常の日常生活活動を行う個人の能力に対して相当程度かつ長期的悪影響を及ぼす身体的または精神的機能障害」と定義している。用語は同法の中で定義され、また障害の定義に関する問題を決定するときに考慮される事柄にについての政府の指針でさらに詳しく述べられている(教育雇用省, 1996b)。

「機能障害」には視覚や聴覚のような感覚に影響を及ぼす身体的機能障害、学習障害や精神的疾患(それが医学的意見をもつ権威のある団体に認められた場合)のような精神的機能障害が含まれる。ある特定の条件は機能障害とみなされない(特にアルコールやニコチン中毒、花粉症、放火癖、盗癖、他人への虐待癖、露出狂、窃視症、入れ墨、ボディー・ピアス)。

「長期間」とは、それが少なくとも12ヶ月継続するか、12ヶ月継続する見込みがあるか、その人の終生にわたって影響を受ける見込みがなければならない。長期的な影響には、それが再発する可能性がある場合も含まれる。

「日常生活活動」は、定期的に多くの人が行う通常の活動であり、次の広範なカテゴリーの中の1つを伴うものでなくてはならない。

  • 移動
  • 手指機能
  • 排泄のコントロール
  • 持ち上げ、運ぶ能力、又はその他の日常生活物資を移動させる能力
  • 言語、聴力、又は視力
  • 記憶力、又は集中し、学習し若しくは理解する能力
  • 身体的危険を認識する能力

 労働はリストアップされた通常の日常生活活動の1つではない。

また、次のような事柄も同法ではカバーしている。

  • 重度の形状の変形。それが通常の日常生活活動を行う能力に影響を及ぼさないとしても。
  • 進行性の症状。その機能障害がガン、HIV感染症、多発性硬化症、筋ジストロフィーのように相当程度となる可能性があるとき。同法はわずかでも通常の日常生活活動に顕著な影響を及ぼすものがあるとされた瞬間から、そのような症状がある人を適用範囲としている。
  • 過去に同法でカバーされた障害があったが回復した人。

障害者差別禁止法は社会保障制度内の給付についての定義や資格基準には影響を及ぼさない。多分、雇用サービス庁へのアクセスは障害者差別禁止法の定義に支配されるであろう。

障害の「社会的モデル」は障害の公式の定義では認められていない。英国障害者委員会は、障害は物理的若しくは社会的障壁のために、他の人びとと同等のレベルでコミュニティの生活のメインストリームに参加する機会を喪失したり・制限されたりしていることによって特徴づけられるべきであると信じている。

統計

全人口における障害者

 全人口における障害者とその経済状況についての調査データにはいくつかの出典(sources)があり、その成果は、障害者差別禁止法における障害の定義を使った、労働力に参加している障害者についての1997年の新しい「基礎(baseline)」調査の中にある。労働力調査(Labour Force Survey:LFS)は最も一般的に引用されている。労働力調査は英国の労働市場における障害者の特徴について、広範囲にわたる最新の情報を四半期に1度提供している(注2)。

1996年秋季のイギリスの労働力調査(全国統計局(Office for National Statistics), 1997)によると、労働を制約する状態にある労働力年齢にある人は500万人いる(15%)。(調査の回答者は本来ならできるはずの有給労働を制限するような、そしてそれは少なくとも12ヶ月は継続する考えられる健康上の問題か障害を持っているかどうかを尋ねられている)。そのうち、240万人は経済的活動を行い、彼らは労働力の8.8%を占めている。彼らの活動率はそうでない人びとの半分である。精神保健上の問題を持つ人は、身体的障害や感覚的障害を持つ人よりもその経済的活動ははるかに少ないようにみえる。障害者と非障害者の活動率は年齢が高くなるほど、その開きは大きくなる。

失業障害者

 秋期労働力調査は、1996年秋において、経済的活動を行っている障害者のおおよそ5人に1人が失業していることを明らかにした(ILOの定義を使用)。これに比して、非障害者で失業しているのは10人に1人以下である。失業障害者は1年以上は失業しているようにみえる。半分は長期失業者である。学習障害者と鬱状態の人はより多く失業しているようである。他の資料は障害者が重度化するに従って失業が増えることを示している(Berthoud et al, 1993)

以前の政府委託調査(Prescott-Clarke, 1990)は「職業生活障害」はあるが、経済的活動を行っている男女の22%が「職を希望している」ことを明らかにした。この割合は人口全体の経済的活動を行っている男女の割合と比べておおよそ2倍である。

雇用されている障害者

 1996年秋期の労働力調査によると、障害をもつ男性の10人に4人が、そして障害を持つ女性の3分の1が雇用されている。4分の1はパートタイムである。障害者は、産業部門間の分布状況は非障害者と似ているにもかかわらず、半熟練及び未熟練の肉体労働職種に多くみられ、専門的及びその中間の職業では少ないという傾向がある。

表UK.1は1996年秋期の労働年齢にある障害のある男女の雇用状況を示している。

表 UK.1 雇用されている障害を持つ男性・女性、1996年秋期
男性 女性
被用者 943,000 726,000 1,669,000
自営業 273,000 58,000 295,000
その他* 32,000 19,000 51,000
1,212,000 802,000 2,015,000

*注 政府の援助付き雇用、訓練プログラム、無給の家族労働者
出典:1996年秋季労働力調査(Labour Force Survey Autumn 1996)

1995年4月1日、少なくとも1万3,438人の障害者が公務に雇用されていた( 2.8%)。障害スタッフの割合は国防省(Ministry of Defence)の 4.7%から、刑務局(HM Prison Service)の 0.3%までにわたっている(内閣府(Cabinet Office), 1996)。

1995年、生産性が減退していると評価された約1万2,000人の障害者が保護職場におり、さらに1万人が一般雇用で「援助付き就労」をしていた。

雇用支援サービス

メインストリームの訓練・職業紹介

 雇用サービス庁は失業している個人に就労機会を提供し、給付や手当を支払う。これらのサービスは154地区の約1,100の地方事務所グループを通して行われている。事務所の約80%は、政府のあらゆるサービスやプログラムへの唯一のアクセス・ポイントである(MISEP, 1995)。

メインストリームの訓練は、イングランドやウェールズでは地域の訓練事業委員会(Training and Enterprise Councils:TECs)のネットワークを通じて提供されている。同様のサービスがスコットランドの地域事業会社(Local Enterprise Companies:LECs)で提供されている。広範な種類の支援は障害者が職業訓練プログラムから利益を得るために利用できる。

訓練事業委員会と地域事業会社はそれぞれ自分の地域に訓練機会を計画し提供する責任を持つ。訓練事業委員会と地域事業会社は契約によってクライエントに適切で高品質の訓練を提供することを求められている。それらは毎年事業計画を作成し、特別なニーズを持つ人に対するサービスを含め、義務をどのように果たすのかを示さなければならない。訓練事業委員会と地域事業会社は障害者に優先権を与え、彼らがメインストリームの以下のような訓練プログラムに参加できるように追加的な支援も提供している:若年者訓練(Youth Training)、近代的徒弟訓練(Modern Apprenticeships)、長期失業者等のための作業訓練(Training for Work)。訓練事業委員会と地域事業会社はまた、企業家にも援助を提供しなければならない。

若年者訓練(Youth Training:YT)は、若年者に彼らが仕事を競うのを支援するために関連した労働経験の中で職業訓練を提供する。訓練生はプログラムに参加する前に、個々の必要なものを明らかにするために評価を受ける。若年者訓練は16歳から18歳の者が利用できる。若年障害者は、障害や健康上の問題のために若年者訓練を受けられなかったり、修了できない場合、18歳を超えても保証される立場で訓練を受ける資格がある。しかし、25歳の誕生日までには訓練修了しなければならない。 23万名の参加者のうち、約5%が障害者である(Employment Gazette, April 1994)。

近代的徒弟訓練(Modern Apprenticeships)は学卒者に適切な産業部門の訓練を提供する。訓練生はこの制度に参加する時には評価を受ける。もし評価によって訓練生に特別な訓練ニーズがあることが分かったら、彼らは同意された訓練結果に到達するように特別な援助を受けることができる。

長期失業者等のための作業訓練は、失業した成人が職を得るために技術と経験を獲得できるよう支援する。長期失業者等のための訓練は個々のニーズに合わせて設計された訓練及び/もしくは労働経験のパッケージを提供する。全ての訓練生はこの制度に参加するに先だって、評価と指導を受ける。長期失業者等のための訓練は18歳から63歳までで6ヶ月以上失業している全ての失業者が利用できる。障害者は優先的にアクセスできて、直ちにプログラムに参加できる。もし障害があったり家庭内の責務があってフルタイムで訓練に参加できない場合は、パートタイムの訓練も受けられる。1年に 320,000名の参加者がおり、その11%が障害者である(Employment Gazette, 1994年4月)。

効果
教育上の資格を持たない障害者の経済的活動のレベルの低さは、技術上のギャップの存在と、どのようにそのことに適切に立ち向かえるかについての問題を生じさせた。特に問題となったのは、若年者への、有給及び無給の活動と機会についての情報、助言、訓練の重要性である(Youthaid, 1993; SSI, 1995)。若年者の訓練機会と、成人向けの雇用制度や長期的な訓練制度への参加の低さと認識の低さが認められた(Rowlingson and Berthoud, 1996)。また、視覚障害者のようなグループは、他の人びとと比べ訓練をより必要とするということが示唆されている(RNIB, 1996)。

訓練事業委員会のサービスに関する多数の研究は、結果に基いての資金提供に移行していることに注意を向けている(NACAB, 1994; Meager, 1995; RNIB, 1996; Rolfe et al., 1996)。提供者に対しては障害者を引き受けることへの財政的なインセンチブがあるが、最大のニーズを持つ障害者はふるいおとされているのではという疑いがある(Davoud, 1996)。訓練の結果として雇用されるということが強調されることで、提供者には、最も職業準備のできている候補者に訓練を提供するという圧力がかかっている。このことは、訓練に参加するためにより強力な支援やリハビリテーションを必要とする障害者と特別な訓練ニーズを持つ人に対する差別となっているかもしれない。

訓練プログラムに参加することが給付の受給資格にどういう意味を持つのか、ということについて、将来の訓練生にはよく分からない。したがって、ためらいを生じさせている。障害給付(Incapacity Benefit)を失う可能性が「労働不能(incapable of work)」であることを証明することを促進し、多分それは唯一の可能な選択としてボランタリーな仕事につながっていくのであろう。規則を変えたことにより、長期失業者等のための訓練や若年者訓練への給付受給者の参加は促進できたが、制度的な責任の分離の問題は残されている。そのため給付局のクライエントは長期失業者等のための訓練にあまり紹介されない(Rolfeら,1996)。1992年、多くの訓練事業委員会もまた、障害者がこのようなサービスを利用することを妨げている主要な障壁は給付制度であると考えている(障害についての事業主フォーラム(Employers Forum on Disability), 1992)。

専門的訓練・職業紹介サービス

 紹介・評価・相談チームはメインストリームのプログラム以外の支援を必要としている障害者に専門家サービスを提供する。PACTsはまた将来の事業主と一緒に活動する。リハビリテーションは今やPACTsとの契約下にある非政府組織によって提供されるものである。

PACTsは、以前は障害者再就職官(Disablement Resettlement Officers)、障害者助言サービス(Disablement Advisory Service)、雇用リハビリテーション・サービス(Employment Rehabilitation Service)で提供されていたサービスの多くを統合するために、1992年に導入された。障害者雇用アドバイザー(Disability Employment Advisors:DEAs)として知られるPACTsのメンバーは、メインストリームのジョブセンター(Jobcentres)を拠点としている。彼らは障害者の雇用の獲保及び維持を支援し、雇用評価と雇用リハビリテーションをアレンジし、メインストリームの長期失業者等のための訓練と専門的な職業アクセス制度について助言をし、重度障害者に対して援助付き雇用への道筋を提供している。

1992年のPACTsの設立と合わせ9つの地区能力開発センター(Ability Development Centres:ADCs)が導入された。これらのセンターはPACTsを支援し、障害者のための専門的な援助の質の向上(サービス提供機関や他の組織に対しての障害認識パッケージの開発など)をめざしている(MISEP, 1995)。

PACTsの活動についてのある研究は、地域のリハビリテーションの質と提供機関がどのように監督されているか、アクセスや設備の利用しやすさにおける問題、柔軟でない提供体制について検証している。そこで示唆されていることは、就職という結果は評価や職業準備性などリハビリテーション・プログラムの特定の目標を反映していないというものである(Lakey and Simpkins, 1994)。

ほとんどの障害者は長期失業者等のための訓練を通じて訓練を受けている。重度障害者は教育雇用省が中心的に資金提供している訓練を受けていて、それは次の2つの方法で提供されている:

  • 入所型訓練カレッジ(Residential Training College:RTCs)における約 960名の訓練生の ための入所訓練は、長期にわたって確立された対策である。ここでは付加的支援と医療 ケアも常時利用可能である。入所型訓練カレッジは一連の職業領域における職業訓練を 提供し、10校のカレッジでは特別に感覚機能に障害のある人に訓練を提供している。
  • 移動性や家庭の事情で施設訓練が適当ではないグループには特別地域訓練が1993年4 月に導入された。訓練事業委員会は教育雇用省の付加的な資金を利用して、地域に代わ りの訓練制度を提供している。

援助付き雇用

 援助付き雇用機関(Supported Employment Agencies:SEAs)は障害者に対する新しい形態の雇用支援として登場した。援助付き雇用機関は通常、彼らのクライエントに最も適した仕事を見つけるために、将来の事業主と連絡をとりながら、雇用評価の過程において個別的な支援を提供する。必要な場合は、いったん仕事が見つかったら、労働者と事業主との契約を維持する。クライエントのほとんどは学習障害者である。仕事の一般的なタイプは、一般家庭の掃除や洗濯の仕事、厨房や給仕の仕事である。

Zarvら(1996)は4,000人から5,000人の人びとを援助している援助付き雇用協会(Association for Supported Employment)の全会員メンバーのリストにのっている 158の援助付き雇用機関について報告している。援助付き雇用機関は、会員ではない機関もほぼ同数あると見積もっている。SEAs(援助付き雇用機関)は地方自治体や地域の経済再生プログラムを含む多くのところから資金を受けている。いくつかはPACTsと契約を結んでいる。

リハビリテーション

 リハビリテーション―(より大きな)障害を負うようになった労働者がそれまでの事業主の下で、または違う(事業主の)ところで、職を維持したり、別の適職に就くことができるように介入する、という意味で―は、英国では政策でも実務でもほとんど注目されることはなかった。就職のための調整としては甚だしく遅れを生じると批判される雇用省(Employment Department)の「再雇用」や「助言」サービスは、職場に早いうちから介入するということはほとんどなかった。古い雇用リハビリテーション・センターは長期の失業障害者にサービスを提供する傾向にあった。このようなセンターの効力のなさへの批判に応えて、センターを閉鎖し、雇用における障壁に取り組むための特別なサービスを促進するという政策がとられた。個々人が職業機会に適応できるようにするための戦略には、ほとんど投資はいらなかった。

職場でのリハビリテーションが英国のサービス提供の中で重要視されることはなかった。事業主が障害者となった従業員を維持する義務はなく(事業主が差別を予防するために行動しなければならないとする障害者差別禁止法を例外とする)、職場での障害管理の概念も、現在のところその普及は限られており、それは主にボランタリー団体やいくつかの大企業の活動によるだけである。

一般雇用:法的義務と権利

 英国の雇用における法的な義務と権利を与える唯一の重要な法律は1995年の障害者差別禁止法である。

1995年 障害者差別禁止法

違法な差別
障害者差別禁止法は、事業主が以下のような方法で障害者を差別することを違法としている。

  • 従業員の選考や採用の調整において
  • 雇用が提供される条件において
  • 雇用の提供を拒否したり、故意に提供しないことによって
  • 昇進、配転、訓練、その他の便宜を受ける権利機会(または機会の欠如)において
  • 解雇や、その他の不利益(損害 victimisation )に従わせることによって

差別とは「障害者の障害に関連した理由によって」事業主が「その理由が適用されない他の者の処遇に比べてその障害者を不利に処遇する」ことを意味している(第5条(1)(a))。差別は障害者に対するその不利な処遇が「特定の場合の状況にとって重要かつ相当であると示し得た場合は正当とされる(第5条(1)と(3))。指針は正当ではない理由の例として、障害者がより多くの疾病休暇をとるだろうという想定を挙げている。

妥当な調整
法律は事業主に建物の物理的な特徴や雇用協定が非障害者と比べて障害従業員もしくは将来の従業員に対して相当の不利益を及ぼしている場合、妥当な調整を行う義務を課した。正当性がなく、この義務を遂行し損なうことは差別行為である。法律は事業主が行うことを期待されているいくつかの段階について説明している。

  • 建物に対する妥当な改造
  • 障害者の職務の一部を別の従業員に割り当てること
  • 他の欠員を補充するために障害者を異動させること
  • 勤務時間の変更
  • 他の作業場の提供
  • リハビリテーションや評価、治療のために勤務時間内の休暇を認めること
  • 訓練への配慮
  • 設備や情報の取得もしくは改造
  • 支援スタッフ(朗読者や手話通訳者)、監督の提供
  • 評価手順の変更

 もし、障害者がそれほど大きな不利益を経験しない場合、その人が障害を持っているとは知らない(そして「知らない」ということに合理的な理由がある)場合、必要とされる変更が合理的でない場合は、事業主は変更する必要はない。変更が合理的であるかどうかについての判断には、手段の容易さや費用、事業主の資源、利用できる財政的支援、その変更によって障害者の状況がどの程度改善されるか、など多くの要因が影響する。

適用範囲
法律の雇用規定は英国と北アイルランドに本拠を置く事業主に適用される。それらは常勤の従業員と臨時従業員、そして請負従業員(それは労働者派遣業(employment business)に雇われていても自営業であっても)に適用される。法律は軍隊に勤める人、警察官、消防隊員(彼らは火災と闘う)、刑務所員には適用されない。また、船、飛行機、ホバークラフトで働く人にも適用されない。

従業員が20人未満の事業主は除外される。もし、従業員の数が変動するなら、法律は従業員が少なくとも20人になるたびに適用される。この法律の下では、大臣は除外が実施されてから5年が過ぎる以前にこの除外について再検討を行う任務を負うが、それを改める義務はない。

不服審査申し立て
不当な差別を申し立てる障害者はその申し立てを労働裁判所に提訴できる。不服審査の申し立てがなされたら、助言・調停・仲裁サービス(Advisory, Consiliation and Arbitration Service:ACAS)(北アイルランドでは労使関係局(Labour Relations Agency))の調停サービスが利用できる。調停官は和解を試み、最後の手段として労働裁判所を通じての救済策がなされるべきである。それで個人は無条件の補償の裁定を得るだろう。助言・調停・仲裁サービスと労使関係局はまた、正式の申請が申し立てられなくても同様な方法をとることができる。

裁判所は将来の差別の除去について勧告を行うが、障害をもつ応募者に対する積極的な救済策を提供する拘束力のある命令や(裁判所の)履行命令を行ったり、事業主に非差別的な政策や実行を採用するよう求めたりする力はない(Doyle, 1997)。

解説
障害者差別禁止法の雇用規定はいくつかの点で批判されている。あらゆる規模の事業主にまで拡大され(オーストラリアのように)、独立して法律の監督・不服の調査を行う障害者人権委員会を規定しているような、他のところの法律、もしくは以前イギリスで提案された別の法律との比較がなされている。別の法律モデルのもとではその委員会の重要な役割の1つは、この法律の規定が守られているかどうかを決定する目的で一般的な調査を実施することである。イギリスでは、個人の苦情を追求する責任はその人自身にある。法的援助は裁判(所)までは及ばない。この制度は自分自身を弁護することが難しい障害者を排除することにつながる。明らかに個人はその法的異議申し立てを利用することができる立場になるための、教育・訓練・支援サービスを十分受けていなくてはならない。アドボカシーと支援は個々の事情に応じて提供される必要があるだろう。

個々のニーズから生じる調整は、仕事と職場により広範な影響を与えることはなさそうにみえる。1人のための調整は彼または彼女の機能障害に特定のものであり、他の障害者の雇用状況を助けるものではないだろう(Thornton and Lunt, 1995)。特定の個人の分かっている制限に従って運営される差別禁止法は、障害者雇用を最大化するために仕事や職場を調整することを事業主に法的に要求するアプローチと対比することができる。他方、障害労働者のためにとられ、なされた調整の経験は、同様な機能障害を持つ他(の障害)者の雇用見込みを向上させることにつながるかもしれない。調査は終始一貫して、障害者を雇用した経験のある事業主が、より好意的にそれ以上(の障害者)を雇いたいと思うということを示している。

イギリスでは、差別禁止法は支援的手段をほとんどもたず、比較的孤立している。他の国々では差別禁止法には他の手段や法律が付随している。すべての国が一連の財政的手段と障害者の雇用を奨励するインセンチブを持っているにもかかわらず、差別禁止法が導入されたとき、それらの手段を強化することに対する議論があった。差別禁止法の調整コストをどこにもっていくかの問題は、課せられた義務の本質に関係がある。

イギリスの差別禁止法が、それだけで成果をあげ得るかは疑問である。障害者は保護される前に雇用されているか、ある特定のポストを競っていなければならない。すなわち、仕事の「本質的な要求事項」を行い得るようでなくてはならない。法律は教育と訓練にまでは及ばない。さらに、仕事の性質が採用の開始以前に変更されなければ、障害を持つ求職者の可能性は制限されたままである。法律は学習障害者の状況を改善させることができるのか疑わしい。彼らはその能力に合わせて特別に作られた場所を必要とする。言ってみれば、差別禁止法は特定の事情にある個人の権利をただ定義すること以外の目的を持っているのかもしれない。それは重要な教育的役割である。

啓発政策

 英国では啓発政策の達成には金銭上の報奨はほとんど使われず、むしろ、主要な戦略は事業主に障害者を雇用する際の「積極的なアプローチ」を約束することを奨励するというものである。

政府は事業主にその実践を見直すことを期待している。なぜなら、障害者を雇用することは「経済的にペイする」からである。現代のレトリックは、障害者が障害者でない人と同じように好ましいということを事業主に確信させるキャンペーンの一部となっている。説得の主要な方針は、障害労働者が「障害でなく能力」を持つだけでなく、非障害者よりも利益になる貴重な長所を潜在的に持っているために価値がある、ということである。雇用サービス庁の文書では障害者を排除することで、「あなたはその仕事に最もふさわしい人材を失い」、障害者を雇うことで、あなたはその人の技術と経験を手に入れ、その人を替える費用(と不便さ)を省くことになる」と主張している。

好雇用実践の促進には3つの構成要素がある:(1)自発的な実践「規範」の採用の奨励、(2)障害者シンボル、(3)事業主ネットワークへの参加の奨励。対照的に、4番目の手段である、大企業が年次報告で方針を発表するという法的義務については、政府がPR資料でそれに言及することはほとんどない。

好実践ガイドと規範

20年以上、中央政府とその官庁はPR資料によって事業主の態度と実践に影響を及ぼそうとしてきた。1977年、「積極的政策」キャンペーンは「理解ある企業内方針を作り上げるため」に始められ、6つの主なガイドライン(採用、維持、訓練、キャリア開発(昇進)、設備及び建物の改築と改造)を概説したブックレットによって5万5,000の企業がターゲットとされた。当時の政府機関はこのキャンペーンは最小限の影響力しか持たないことがわかった。その文書を受け取ったことを覚えていて、読んだのは追跡調査した企業の5分の1だけだった。

法的な規定はない障害者雇用に関する「好実践の規範」は1984年に導入され、1990年と1993年に改訂された。この文書は企業が達成の目標や手段を述べるというよりも、その目的を明細に述べ、方針を練り上げるのを支援するためのものである。12万部のコピーが配布されたにもかかわらず、全事業主の5分の1しかそれを受け取っていないと、政府委託の調査は概算した(Morrell, 1990)。

障害者差別禁止法は法的な実践の手引きを規定した。この68頁の有料の出版物は事業主に雇用について言及している法律の規定の解釈についての指針を与えている(教育雇用省(Department for Education and Employment), 1996a)。

労働組合会議はその会員に対して「障害についての模範的な機会均等協定」を含むガイダンスを出版した(労働組合会議(TUC), 1993)

障害シンボル

 好実践を示すシンボルも同様に長い歴史を持つ。1979年、「即働ける(Fit for Work)」キャンペーンは、同じ6つのガイドラインに従うことにより障害者雇用において「顕著な業績」を挙げたと評価された企業に対して毎年100の賞を与えることで、「積極的政策」の限られた影響を強化しようとした。賞の獲得者は記念の額、感謝状、卓上の装飾品を受け取り、賞の記章を使うことができた。この制度は11年間続いたが、ほとんど影響を与えなかったという報告がある。

障害シンボル(Disability Symbol)は、1990年に最初に導入され、後に見直されたが、職業広告と採用文書に使われている。それは賞ではないが、雇用サービス庁職員との話し合いの後、障害者へのよい雇用機会提供に組織的コミットすることを示し、したがって、「障害者に対して積極的である」事業主によって自発的に採用された。シンボルの使用には5つの公約が要求される。

  • 職務の欠員について最低限の基準を満たす障害求職者の全てと面接し、彼らの価値について考慮すること
  • 少なくとも1年に1回は障害従業員に、彼らの仕事で必要なものについて質問すること
  • もし従業員が障害者となった場合、彼らが引き続いて雇用された労働者でいられるよう、ありとあらゆる努力をすること
  • その任にある従業員が公約を果たすのに必要とされる障害についての認識を向上できるよう、行動をとること
  • 毎年、進歩をチェックし、計画を前に進め、全ての従業員に進捗状況と計画について知らせること

 シンボルの利用者数は1993年6月の約300社から、1996年6月には民間及び公共部門の会社2,500社以上に増えた。

調査を継続して委託することは、障害者雇用に対する積極的なアプローチを約束する事業主を増やすという、主要な戦略に対する政府の投資の拡大を示している。最近の調査(Dench et al., 1996)では、シンボル使用者は特に障害者雇用について言及した明文化された方針を持ち、障害者から求職者を積極的に引き出そうとしているように見えることが確認された。しかし、シンボルの使用者は非使用者と比べて、その労働力における障害者は決して多いわけではない。その上、シンボルの使用が実践の改善につながるという明確な証拠もない。調査におけるシンボル使用者の40%以上が、シンボルは彼らの実行にいかなる違いももたらしていない、と報告している。シンボル使用者として登録することはすでに実地に好実践をしている事業主をひきつけているようにみえる。

事業主ネットワーク

 公的な政策として促進されていないが、「障害者に関する全国事業主フォーラム」や小規模の地域事業主ネットワークのような仲間集団の活動は政府から歓迎され奨励されている。そのメンバーが主に大規模な全国的企業や多国籍企業である独立団体の障害者に関する事業主フォーラムは、仲間の企業集団の中で好雇用実践を奨励することで政府から好意的にみられている。いくつかの大企業の事業主は、例えば従業員に障害に対する認識を訓練することによって、障害者雇用の障壁を取り除くためのイニシアチブをとっている。

政府の委託による事業主についての調査(Denchら,1996)で、障害者に関する事業主フォーラムや地域の事業主ネットワークについてあまり認識も活用もされていないことが分かった。会員数の少ない小規模な地域の事業主団体はより大規模なよい雇用実践を行っている事業主たちに支配される傾向がある。彼らはしばしば事業主フォーラムの地方支部だったりする。(Maginn and Meager, 1995)

事業主ネットワークや、「よい事業主(good employers)」というブランドをつけるという他の手段は、より進歩的ではない企業にとっての手本を示すという意図をもつ。それらはまた、職業アクセスのような雇用サービスに関する情報源として価値があるかもしれない。最近の調査では事業主はそれについて目立って知識不十分である。Denchら(1996)は、事業主が障害を持つ求職者を仕事に結びつけ際に、直面すると言われる主要な困難を考えれば、このようなネットワークにより革新的な(proactive)採用を最も有効に行い得るかもしれないと述べている。しかしながら、このことはネットワークからすれば主な目的とはみなされていない(Maginn and Meager, 1995)

会社法

1980年、規制的な対策と自主的なイニシアチブが一緒になった。1980年会社(取締役の報告)(障害者雇用)規則(Companies (Director's Report (Employment of Disabled People) Regulations)は後に1985年会社法(Companies Act)に編入された。それは250人以上の従業員のいる、イギリスで登録された全ての会社に対して年次取締役報告に、障害者の採用、雇用の継続、訓練、昇格及び昇進について前年度に適用された方針についての記述を含める義務を課した。この法律は公的部門の事業主には適用されないが、雇用省と貿易産業省(Department of Trade and Industry)(同法を管理する)の両者は公的部門の事業主もその規則を固守するべきだと勧めた。しかしながら、会社法(Companies Act)の必要条件はほとんど政府から注目されず、固守されたという証拠や、その実施に関する方針書もない。

効果

 説得政策が障害者の採用レベルに影響を与えたという証拠はほとんどない。調査では、事業主の偏見が(障害者が)働くことを阻害する主要な要因であるが、事業主はいつも障害者を雇用しない主な理由は障害者が応募してこないからだと述べている、ということを一貫して報告している。我々は、「好実践」戦略が障害者の求職行動に影響を与えるのかどうかはわからない。政策は「手本を示す」ことを目的とし、自発的な方法で組織を通じて働きかけようとする政策は長期的課題である。しかし、よい雇用実践の推進は、障害者の雇用の量や質に対する明らかに因果関係的影響は何もないにもかかわらず、この20年近く政府の政策の一部である。

採用実践を改善させようとする戦略は、欠員についての求人広告が出され、競争的な選考面接が行われることを想定している。しかし、多くの事業主、特に小規模の事業主は口コミで採用する。仕事を見つける主な方法は、そこで働いている誰かにそのことを聞いて、という方法であると研究は明らかにしている。将来の同僚の障害に対する認識を高めることは障害を持つ求職者をひきつける、より有効な手段であるかもしれない。

採用実践を改善させることに焦点を置いた戦略は、欠員と障害求職者の資格との間のミスマッチによって妨げられるかもしれない。1989年の雇用省の委託で行われた「雇用と障害(Employment and Handicap)」調査では、経済的な活動のカテゴリーで働きたいと望む障害者の59%、そしてあと12ヶ月間は働きたくないというカテゴリーの障害者53%は、何の教育上の資格を持っていなかった、ということである。

一般雇用:財政的奨励

 英国政府は、労働市場を規制する手段として事業主に財政的報償を与えることを避ける傾向にある。事業主に2年間以上失業している人を雇うことを奨励する、最近の国民保険の「免除期間(holiday)」についての発表は革新的なものである。

障害者を雇用することで事業主に報償を与えるという考え方は、障害者はその真価において、そして公平な競争の中で雇用されることを期待する「障害者(雇用)法」の原理に反するものである。試行されたわずかな制度も財政的なインセンチブよりも、障害者のスキルと可能性を発見し、現実的な事柄を扱う機会として促進された。

かつて職場の改造のために事業主に対して行われていた制度は、現在は障害者のためのプログラムである職業アクセスに統合されている。

職務導入制度(Job Introduction Scheme)

 事業主に対して直接的な財政的支援を提供する唯一の制度は職務導入制度である。これは最初1977年に導入された。この雇用サービス庁の制度の下で、障害労働者を雇用する民間部門の事業主には週に45ポンドの助成金が支払われる。これは「試用期間」(通常は6週間だが、例外的に最高13週間まで延長できる)の間の賃金のための助成金である。仕事はフルタイムまたはパートタイムだが、試用期間終了後最低6ヶ月間は雇用が継続されることが要請される。事業主はその仕事の対する標準額の賃金を支払うことが要請されている。

助成金が週40ポンドであった時、この制度はとても成功したと1981年に報告された。しかし、直近の入手可能な表では、その数は著しく減少した。この制度の将来は再検討中である。

職業アクセス

 1994年に導入された職業アクセスプログラムは雇用サービス庁によって運営されている。その予算は現金給付のみ(cash-limited)である。1995/96年の供給は1,900万ポンドであった。

職業アクセスはパートタイムまたはフルタイムの仕事における、以下のような認可されたコストに対して支払われる。

  • 特定の障害を持つ従業員が必要とする場合の建物や労働環境の改善
  • 特定の仕事のニーズに合わせた、特別な設備または現在の設備の改良
  • 同僚に対する聾者への認識(向上)研修
  • 就業時または求職時に、実際的な援助が必要とされる場合の補助労働者
  • 障害のために公的輸送機関が利用できない場合の、勤務先への移動
  • 面接時における聾者のための手話通訳者
  • 盲人や視覚障害者のための就業時の朗読者
  • その他実際に必要なもの

職業アクセスはそれ以前失業していた(少なくとも4週間)障害者や、雇い主を変えた障害者(求職が6週間以内になされたものである場合)のために認められたコストならその100%が支払われる。またその状況にかかわらず、通勤費や面接のための手話通訳者の費用も100%支払われる。

最初に導入されたとき、事業主には何のコストもかからなかった。1996年6月より、すでに必要な援助を受けている場合、職業アクセスは認可されたコストが300~1,000ポンドであればその80%まで支払う。また、認可されたコストが1,000ポンド以上であればその実際の費用の100%まで支払う。したがって、すでに働いている障害者のために、事業主は毎年最初の300ポンドを支払うことを求められ、それ以上は職業アクセスがその費用の80%までを支払う。3年間1,000ポンドを超える費用は全て支払われる。

職業アクセスの元々の目的は仕事に就いている障害者の数を増やすことであった。職業アクセスの参加者の半分は失業していることが想定されていた。しかし、導入の1年後の調査で、適用者の92%がすでに仕事に就いていた者であったことが確認された(Beinart ら,1996)。1996年9月で終わる四半期に、職業アクセスは働いている4.233人を継続的な援助で支援し、さらに456人の働いている新しい利用者を援助し、334人が仕事を得られるよう援助した(Hansard,dol.80, 11/11/1996)。

効果
Beinartら(1996)は、事業主の18%が、職業アクセスから援助の申し出を受けた後に職業アクセスの受給者を採用したことを報告している。サービスの受給者の5分の1は職業アクセスがなければ自分は仕事を得ることができなかっただろうと言っている。他の研究では、規則についての混乱と支援を得るまで手間取ることとともに、職業アクセスについての情報を得ることの難しさと認識の低さがあるといっている(RNIB/RADAR,1995)。そうだとしても、この制度は個々のニーズに合わせた支援を提供するといった確かな長所を持っていると考えられており、未だにいつも3,000人の利用者が(新たに)加わっている。

上記に述べられているのと同じようなプログラムに対する、事業主の認識レベルが下がっていることを調査は明らかにしている。1987年、政府から委託された調査(Morrell, 1990)は、主に20人以上の従業員を雇用している企業の人事担当役員に面接した。3つの特別な制度だけについての認識レベルが50%を超えるぐらいで、それも特に障害者助言サービスと契約している事業主の間にだけのものであることが確認された。同じ研究で、20%は職務導入制度を利用していた。事業主の実践についての最近の研究(Denchら, 1996)では、無作為に抽出した事例のうち、その23%しか職業アクセスとその前の特別制度を認識していなかったことが明らかになった。そして、それらのサービスに何らかのコンタクトをとったものは4%しかいなかった。

現在のPACTsのような、障害者を対象とした雇用サービス庁とコンタクトをとることと、政府の制度に対する認識の間には、驚くことではないが、つながりあることが調査で分かった。将来の事業主、特に中小企業の事業主に対する専門的な雇用サービスの適用範囲が限られていることは、繰り返し批判されている。

障害者へのインセンチブ

障害者就労手当
障害者政策の新機軸は、1992年4月の障害者就労手当の導入である。この社会保障給付は低い賃金や自営業者の収入に上乗せすることによって、障害者を所得給付から離れさせ労働に向かわせようとするものである。この導入は、インセンチブを向上させることが、辺縁の障害者が経済的活動に一層従事するよう奨励することになるという、雇用政策上の想定を反映したものである。

障害者就労手当は課税されない無拠出の給付である。これにはミーンズテストがあり、支払われる額は受給者の世帯の総所得による。通常、所得の変化にかかわらず、26週間支払われる。障害者就労手当はすでに週平均して最低16時間働いていて、その障害が「仕事を得るのに不利に働く」ような人が請求できる。資格を得るため、働いている障害者は障害者生活手当(ミーンズテストのない「障害費用」に対する給付)の一定割合を受け取っているか、仕事を始める前の8週間以内に拠出制の障害給付(Invalid Benefis:IB)、無拠出の重度障害手当(Severe Disablement Allowance:SDA)、又は所得補助(Income Support)、住宅給付(Housing Benefit)、地方税給付(Council Tas Benefit)(又は他の主要でない給付)の障害加算を受給していなくてはならない。

障害者就労手当以前の社会保障制度は障害者の働こうという意欲を妨げる。まず最初に、給付システムの中では部分的労働能力を構築する可能性はほとんどなかった。障害給付と重度障害手当の受給者は、その健康のためになり、かつ、医者のアドバイスによる時のみ週に16時間(44ポンドにしかすぎない稼ぎ)までなら仕事をすることができた。2番目に障害者は長期の給付の資格を失うことなしには、自分の労働能力を経験したり、試したりすることができなかった。障害給付の規則では、同率の給付に戻るのは仕事を始めてから8週間以内しか許されないことになる。障害者就労手当にはずっと好ましい「連結規則(linking-rules)」がある。もし仕事がうまくいかず、その人が仕事をやめなければならないとき、障害給付の資格は2年間は、その人が働けない限り保護されている。

5万人が障害者就労手当首尾よく受給していると概算されている。政府の期待と比べて、今日までの結果には失望させられる。始まりは最初はゆっくりであったが、1995年から数はより急速に上昇している。1996年10月、取り扱い件数は1万1,350件であった。概算された5万人の受給者の70%は給付への反応として仕事を始めた人だった。残りの30%はすでに仕事をしていたと考えられている。1つの評価は、1993年10月、障害者就労手当受給者3,500人のうち200人だけが給付によって仕事をすることを奨励されたが、ほとんどの受給者はそれを耳にしたときにはすでに仕事をしていた、としている(Rowlingson and Berthoud, 1996)。しかしながら、インセンチブ効果に応える新しい申請者の数とその割合はゆっくりではあるが、増えてきている。

障害者就労手当による障害給付から離れさせる効果は無視できるくらい小さい。1992年春から1995年秋までの期間、3つの主要な不能給付のうちの1つを受給している労働年齢の者150万人のうち、2%だけがそれらの給付から離れ、ほとんど障害者就労手当の助け無しにフルタイムの仕事を始めた(Rowlingson and Berthoud, 1996)。

障害者就労手当の2つ目の目的は、低賃金被雇用者への長期の補助金としての役割である。これについては期待に応えるものであった。1996年10月までの4年間、裁定(額)の60%が更新された(障害者就労手当統計季刊調査(DWA Statistics Quarterly Enquiry)、1996年10月)。このことはこの給付が長期の賃金補助としての効果を持つということである。同じ資料からの情報では、同時期の全ての裁定の3分の1以上は自営業に就く人びとのためのものであることが明らかにされている。

ミーンズテストや潜在的な貧困の罠といった障害者就労手当の構造的な側面が、その利用を制限しているということを、何人かの解説者はいっている。受給者は受給の資格を残すために就労を8週間以内に留めるという条件も障壁である、と考えられている(Davoud, 1996)。認識は低い。そのうえ、この制度には内包された矛盾がある。障害給付は働くことが「できないこと」を示した人に対する「無能力」給付であると思われている。それなのに障害給付を受けていることが障害者就労手当の受給条件なのである(Rowlingson and Berthoud,1996)。障害給付システムの「全てもしくは無」という性質は、障害者に自分は「少しは」働くことができると考えることを諦めさせてしまう。

障害者を「働ける」と「働けない」に永続的に分けることは、政府省庁間における伝統的な責任の分割を反映している。社会保障政策と雇用政策の架け橋となる障害者就労手当が導入されたにもかかわらず、慣例化された実践は未だに重要な障壁となっている。例えば、給付庁のクライエントである障害給付の受給者は、失業給付の受給者よりも雇用サービス庁が運営する訓練サービスや職業サービスに照会されることは少ないようである(Rolfeら,1996)。同様に、シェルタード・ワークショップ(保護工場)の職員のように雇用サービスの提供者は、給付に対する助言を自分の役割だと考えていない(zarvら, 1996)。

訓練手当
長期失業者等のための訓練を受けている障害者は、彼らが受ける資格がある他の給付と同じように、10.00ポンド上乗せして訓練手当を受けることができる。障害給付の資格は2年間維持される。

障害を持つ学生への支援
付加的な経済的支援を障害を持つ学生は利用できる。障害学生手当(Disabled Students Allowance)の運営についての地域の教育当局のアプローチに対する研究では、当局はその運営について、思いやりのある、そしてかなり柔軟なアプローチを採用してはいるが、手当の受給(請求)は制限的であると評価している(Patton, 1990)。

自営業
自営業は障害者にとって重要であると考えられている。この就労形態は経済内部で発展している分野である。1995年、雇用されている人の13%は自営であった(男性の17.8%、女性の7%)(欧州委員会(European Commission),1996)。1996年の労働力調査(秋期)によれば、非障害者の6分の1に対して、障害者の5分の1が自営業であった(国立統計局(Office for National Statistics),1997)。

雇用省はこのことを障害者政策の重要な要素として認めている(Corden and Eardley, 1994)。障害者をこの選択に従事させるために、労働者の少数にもに適用される3つの専門的制度がある。自営業を奨励するための雇用サービス庁のメインストリームの制度である新事業支援(New Business Support)(以前は起業手当(Enterprise Allowance))や、Floyd(1995)によって述べられたその他の起業プログラム・イニシアチブをどのくらいの障害者が利用しているを測ることは難しい。

保護・援助付き雇用

 その障害の重さのために、そのプログラムがなくては仕事を獲得したり継続したりすることができない減退した生産性を持つ人びとに対する雇用サービス庁のプログラムは、援助付き雇用プログラムと名称を変え、もはや「保護雇用(sheltered employment)」として言及されることはない。これは次の3つの異なる要素からなる:(1)レンプロイ(Remploy)(政府から補助金(財政的援助)を受けるという保証によって規制されている民間会社)、(2)特別のワークショップ、(3)援助付き就労制度。教育雇用省の外部で実施しているのは援助付き雇用機関(前述)である。

北アイルランドでは、保護(雇用)サービスはアルスター保護雇用会社(Ulster Sheltered Employment Limited.)と、そして雇用訓練局(Employment and Training Agency)を通じて協同して援助付き就労制度の下で運営されている。

提供と資金

ボランタリーな保護雇用サービスは19世紀からあった。1944年の「障害者(雇用)法」は雇用大臣に公的資金からシェルタード・ワークショップに資金を供給する権限を与えた。ワークショップは特別な条件と訓練の下、1944年法の下で障害者として登録されている人びとのために仕事を与えることが意図されていた。レンプロイは1946年に政府によって設立され、最大の提供者に成長した。地方政府は1948年、同法の下で経済的支援を受けながらワークショップを設立することができた。最後にボランタリー団体も同じ権利を与えられた(Samo, 1992)。

ワークショップと障害従業員の数は1980年代までは増大していた。Samoy(1992)は1990年はじめレンプロイは93の支部と8,700人の従業員を持ち、地方政府とボランタリー団体は129のワークショップを設立し、それぞれ4,267人、1,200人の従業員を持っていた。Zarbら(1996)は、約100の地方政府と25のボランタリー組織によって約120のワークショップが運営され、合計7,000人の労働者を雇用していたと報告している。地方政府とボランタリーのワークショップは、ひとにぎりの職員と5万ポンドの売上額から、200人のスタッフと600万ポンドの売上額まで、その規模は広範囲に様々である(Zarbら,1996)。

1989年から1994年の間、シェルタード・ワークショップにいた人の数は12%減少し、1994年3月末には12,282人を示していた(1年後、さらに329人の従業員が減少した)。

シェルタード・ワークショップの減少は、政策が保護就労制度(Sheltered Placement Scheme)-1994年4月には援助付き就労制度に設計し直されたが-に移った結果である。援助付き就労制度は通常障害者を雇用するスポンサー(地方政府か非営利供給団体)、仕事を提供してスポンサーに援助付き雇用障害労働者によってなされた仕事に対して協定額を支払うホスト、そしてスポンサーに助成金を支払う雇用サービス庁、との間の3方向の協定を必要とする。障害者は同じ仕事をする非障害者と同じだけの賃金を受け取る。

(以前の)援助付き就労制度の下では、1985年から1990年の間に6,500人がいたと分かっている。レンプロイはまたそれ自身で「インターワーク(Interwork)」制度を設立するなど多様化した。1995年3月末までにレンプロイのインターワークを合わせ、全体で約1万人が雇用されていた。1995/96年にインターワーク(Interwork)は1万0,200の援助付き就労のうち2,200を数えた。

教育雇用省との年間業務協定によると、1996-97年のレンプロイ社の目標は以下のとおりである。

  • 平均9,400人の障害者をレンプロイ社に雇用する
  • インターワーク制度には平均してい2,400人を雇用する
  • レンプロイの工場で少なくとも1年間雇用されていた障害従業員を少なくとも175人、インターワークに移す。または、インターワークの工場から一般雇用へ移す。

(Hansard, col. 142, 2/4/96)

国立会計検査院(National Audit Office)による政府への報告は、レンプロイが自社の工場よりも一般雇用の会社に労働者を配置するのを支援するために、より多くの援助を与えるよう勧告した。一般雇用への配置のコストはレンプロイの工場に配置する費用の半分以下であるが、後者(レンプロイの工場への配置)の高費用はレンプロイの工場における余剰定員の結果である(NAO,1997)。レンプロイの経済的状況は1987年から1995年の間に、年々増加する赤字を抱えて悪化した(NAO,1997)。

政府の援助付き雇用プログラムへの資金提供は1995/96年には1億5,320万ポンドになり、そのうち9,420万ポンドはレンプロイに支払われた。

対象グループ

 援助付き雇用プログラムの対象グループはその障害の重さのために、一般市場では仕事を獲得したり継続したりできない人びとである。参加の基準は本質的に次の障害者差別禁止法が導入されても変わっていない。同法以前には、参加は「障害者(雇用)法」の下での登録に基づき、また、非障害者と比べて生産性が30%から80%の間であるという、専門的な雇用サービス庁の職員の判断に基づいている。

教育雇用省による調査では、「対象グループの回答の実質的な大多数は、1995年障害者差別禁止法に従って必要とされる修正以外は現行の参加基準を維持することを支持している」ことが確認された(Hansard,col.227,27/6/1996)。登録の廃止とともに、そのプログラムに参加する全ての障害者は障害者差別禁止法における障害の定義に従うことが必要とされた。しかし、30%から80%の生産性という基準はいまだに適用されている。

生産性を評価する特定の技法が何も規定されていないので、資格の決定は自由裁量的のままである。1980年代終わりの研究(Prescott-Clarke,1990)では、そのクライエントは一般雇用に向けられるべきか保護雇用に向けられるべきかについてのこの業務を行う障害者再雇用官の判断において、かなりの不一致がみられた。

被用者

 1995年3月末までに、就職の45%が援助付き就労制度及びインターワークにおけるものだった。援助付き就労制度の就職のうち約500は官庁である。その半分は雇用省グループに、4分の1は社会保障省に就職した(Cabinet Office, 1996)。

援助付き就労制度の被用者の特徴は障害の点から、ワークショップのそれとは異なっている。Samoy(1996)では1989年の全ワークショップの被用者の約半分を身体障害と分類している。レンプロイのワークショップは、他のワークショップに比べて「知的障害者」(14%)と感覚障害者(12%)は少ないが、「精神疾患」をもつと分類される人は非常に多い(24%)。他方、(その上)援助付き就労制度では被用者の42%は「知的障害者」で、援助付き就労に学習障害者を配置する傾向は増大しているようである。しかしながら、生産性の30%から80%という広い範囲内での障害の重さについては何も分かっていない。ワークショップも援助付き就労(援助付き就労制度とインターワーク)の両方で、被用者のわずか5~7%だけが全盲か部分的視覚障害者である(教育雇用省通信)。

ワークショップ被用者は圧倒的に男性という傾向にある。1990年、レンプロイのワークショップの被用者の73%が、そしてその他では79%が男性であった(Samoy, 1992)。

社会的協同組合(co-operatives)

 イギリスでは社会的協同組合に対する関心が増大している(Spear, 1995)。社会的雇用協同組合は不利益を被っているグループに、しばしば支援と一緒に雇用を提供している。社会的雇用協同組合の40から50が障害者に仕事を提供している。社会的雇用協同組合では、所得保障給付へのアクセスを失うという危険があるために、障害者の労働条件が問題となる(Spear, 1995)。

要約

 ここ10年で障害関連の問題はイギリスで目立つものとなった。それは部分的には障害運動のキャンペーンに原因がある。1995年に可決された差別禁止法制は市民権法への期待レベルには達しなかったが、それにもかかわらず、それまで政策が障害者に対する差別を自発的な手段やイニシアティブで解決しようとしてきたような伝統から絶縁を表明した。雇用機会に対する完全かつ公正なアクセスは、障害者を十分に活動的で自立した社会のメンバーとすると表明した政策の決め手である。

1995年障害者差別禁止法は障害者に対して、雇用に関連すること、商品やサービスの提供、土地や財産の購入及び賃借において不当に差別することを違法とした。事業主や商品・サービスを一般の人びとに提供する者は確実に差別しないように合理的な手段を取らなければならない。同法はまた、政府が新しい公共サービス車両を利用する障害者のために、また教育に関連することで、学習したいと望む障害者のニーズと、親や生徒、学生に対してよりよい情報の提供を確保する、最低限度の水準を設定することを認めている。同法の措置は何年かに渡って実行される予定である。雇用規定は1996年12月に発効される。

経済的及びイデオロギー的な要因によって、保守党政権(Conservative government)の障害問題に対する一連の反応が組み立てられている。その政策は、制限的な実践や規則から自由で「柔軟な」労働市場に対する公約を明らかにしている。産業への規制を取り除くことが一番の関心である。福祉国家に係る費用を削減することと並んで、労働に対する個々人の責任とインセンチブが代々の政府の中心的なテーマであった。失業給付は労働に対する負の動機となるという信念は、イギリスのシステムに強い影響を与えている。

障害者雇用に対する最初の包括的な枠組みは、1944年「障害者(雇用)法」の制定である。同法は障害者の登録、評価・リハビリテーション・訓練施設、専門的な雇用紹介サービス、20人以上の労働者を雇う事業主に対して登録障害者の3%割当を雇用する義務、登録障害者に対する不当な解雇;指定職種制度、そして全国諮問委員会と地方諮問委員会を規定している。

戦後の完全雇用期の後、割当雇用率を達成している事業主の割合は1961年から1993年の間に、61%から19%に落ち込んだ。1970年代の初めまでに割当雇用は機能しないものとみなされ、いくつかの協議文書がその廃止を提案した。しかし、それに替わるものについての意見は一致しなかった。割当雇用制度規定は1995年、障害者差別禁止法が法制化されるまで廃止されることはなかった。非政府組織による一連の障害差別禁止法案が政府の支持を得られなかった後に、圧力を受けて、障害者差別禁止法案は政府によって議会に提出された。近年の政府の労働市場に対する規制緩和と非干渉の公約は強制より説得政策を奨励している。

雇用政策のほとんどの要素に対する責任はイングランドとウェールズの教育雇用省に、そしてスコットランド省(Scottish Office)にある。障害者差別禁止法に対する政策責任全体は社会保障省にあり、同省に障害者大臣と(障害者差別禁止法によって設立された)全国障害者委員会(の事務局)が置かれている。しかし、同法の雇用規定は教育雇用省とずっと以前に設立された教育雇用省の全国障害者雇用委員会によって監督されている。

教育雇用省内の雇用サービス庁は英国全土にわたって、障害者のために専門的なプログラムを運営し、メインストリームのサービスにおいて障害失業者に支援を提供している。北アイルランドでは、訓練・雇用局は経済開発局と関連している。雇用サービス庁は給付局(社会保障省の管轄)と共に雇用関連給付の運営の責任を負っている。給付局は社会保障給付を運営している。

英国の失業者や若年者に対する職業訓練、事業主主体の訓練、そして企業への支援に対する政策責任は、地域の事業主主導の民間会社(訓練事業委員会、スコットランドでは地域事業会社)にある。

障害者差別禁止法は障害を「通常の日常生活活動を行う個人の能力に対して相当程度かつ長期的悪影響を及ぼす身体的または精神的機能障害」と定義している。用語は同法の中で定義され、また政府の指針によってさらに詳しく述べられている。機能障害には視覚や聴覚のような感覚に影響を及ぼす身体的機能障害と、学習障害や精神的疾患(それが医学的意見を持つ権威のある団体によって認められた場合)のような精神的機能障害が含まれている。長期間とは少なくとも12ヶ月継続するか、12ヶ月継続する見込みがなければならない。日常生活活動は次のうち1つを伴うものでなくてはならない;移動、手指機能、排泄のコントロール、日常生活物資を持ち上げたり、運んだり、動かしたりする能力、言語・聴力又は視力、記録力又は集中したり学習したり理解する能力、身体的危険を認識する能力。同法はまた、次のことをカバーしている。重度の形状の変形、機能障害が相当程度となる可能性のある進行性の症状、また過去に障害を負っていた人。

1996年秋の英国で、労働を制限された状態にある労働力年齢にある人は500万人いた(15%)。そのうち240万人は経済的活動を行っており、彼らは労働力の8.8%を占めている。彼らの活動の割合はそうでない人びとの活動割合の半分である。精神保健上の問題を抱える人は身体的もしくは感覚的機能障害を持つ人よりもその経済的活動ははるかに少ないようにみえる。経済的活動を行う障害者の5人に1人が1996年の秋に失業していた。それに対して非障害者は10人に1人以下である。失業した障害者は1年以上失業している人がより多いようである。半分は長期失業者である。学習障害や鬱状態にある人が最も多く失業しているようである。障害のある男性の10人に4人、障害のある女性の3分の1が失業している。障害者は半熟練と未熟練の肉体労働職種により多く、専門的及びその中間の職業ではより少ない傾向にある。しかし、産業部門における分布状況は非障害者と似ている。

訓練事業委員会と地域事業会社は、一連の公共部門、民間部門、ボランタリー部門の提供者と訓練のメインストリームの訓練サービスについて契約している。若年者訓練制度における若年の障害者は18歳という標準の年齢を超えて立場を保証される資格がある。参加者の約5%が障害者である。長期失業者等のための訓練制度では失業した障害を持つ成人は優先的にアクセスでき、待ち時間なしにプログラムに参加でき、パートタイムで訓練を受けられる。参加者の11%が障害者である。提供者に対して障害者を引き受けることに対して財政的なインセンチブがあるが、最大のニーズを持つ人がふるいおとされているのではないかという疑いがある。長期失業者等のための訓練を受けている障害者は、彼らが受ける資格がある他の給付と同じように10ポンドの上乗せをして訓練手当を受けることができる。

紹介・評価・相談チームはメインストリームのプログラム以外の支援を必要としている障害者に専門的なサービスを提供し、また将来の雇用主と一緒に活動する。彼らは障害者が雇用を獲得・維持するのを助ける。雇用評価と雇用リハビリテーションをアレンジする。メインストリームの就労訓練プログラムと専門的な職業アクセスについて助言する。重度の障害者には援助付き雇用への道筋を提供する。リハビリテーションは今やPACTsとの契約のもとで非政府組織から提供されるものである。9つの地区能力開発センターはPACTsを支援し、障害者に対する専門的な援助の質の向上を目指している。それにはサービス提供機関や他の組織に対して障害認識パッケージの開発が含まれる。

重度障害者は国費による訓練を受けることができる。入所型訓練カレッジにおける約960名の訓練生のための入所訓練は、一連の職業領域における職業訓練を提供する。そして10のカレッジは特に感覚的機能障害を持つ人びとに特別の訓練を提供する。特別地域訓練は移動性や家庭の事情で入所訓練が適切ではないグループに役立つように1993年に導入された。

援助付き雇用機関は障害者に対する新しい形態の雇用支援として登場した。援助付き雇用機関は一般的に雇用にアクセスする過程で個別的な支援を提供する。それには彼らクライエントに最も適切な仕事を見つけるために、将来の事業主と連絡することも含まれる。もし必要ならば、いったん仕事がみつかったら労働者と事業主との接触を維持する。クライエントの多くは学習障害者である。

障害者雇用における法的義務と権利を与える唯一の重要な法律は1995年の障害者差別禁止法である。これは個々の障害者に不正に差別されない権利を与え、事業主に障害者のために調整(行うのに妥当な行為である場合)を行うという新しい義務を課した。これらの権利と義務は採用、配転、訓練、昇進、そして仕事における一般的な処遇に関係している。調整を行うという事業主の義務は採用や雇用実践と同様に、建物の物理的特徴にも関係している。障害者差別禁止法は雇用に関連する同法の規定を解釈する際の指針を事業主に与える法定の「実践の手引き」を規定している。同法は20人以上の従業員のいる事業主にのみ適用される。しかし、大臣はそれが実施されてから5年が過ぎる以前にその規定を見直すことが要求されている。

事業主に対して不当な差別についての不服審査申し立てがあった場合、助言・調停・仲裁サービスによる調停サービスが利用できる。そして最後の手段として労働裁判所を通じての救済策がある。したがって、個人は事業主からの補償を得られる。イギリスで以前に提案された別の法律が、行為を監視し、不服を独自に調査するための障害者人権委員会を主張していた。このような委員会の1つの重要な役割は規定が守られているかどうかを決定する目的で、一般的な調査を行うことである。

主要な戦略は、事業主に障害者雇用に対して「積極的なアプローチ」を約束することを奨励することである。政府は事業主にその実践を見直すことを求めている。なぜなら障害者を雇用することは経済的にひき合うからである。事業主は自発的な実践の「手引き」を採用するよう奨励されている。「障害シンボル」は雇用サービス庁の職員との話し合いの後、障害者の採用と維持における実践において5つの公約に同意した事業主に自発的に採用されるだろう。

障害者についての全国的な事業主フォーラムと地方の小規模の事業主ネットワークは政府によって奨励されている。独立団体で、そのメンバーは主に大きな全国的または多国籍企業である事業主フォーラムは、仲間の企業集団の中で好雇用実践を奨励することで政府から好意的にみられている。いくつかの大企業の事業主は障害者雇用の障壁を取り除くためのイニシアティブをとっている。年次報告に政策の声明を発表するという事業主に対する法定の義務はほとんど言及されない。

イギリス政府は、労働市場を規制する手段として事業主に向けての財政的報奨を避ける傾向にある。試行されている制度で、財政的インセンチブとしてより、障害者の技術や可能性を発見したり、実際的な関心を扱ったりする機会として促進されているものはほとんどない。1977年から始まった雇用サービス庁の職務導入制度の下で、障害労働者を雇う民間部門の事業主には試用期間の間の賃金のために週45ポンドの助成金を支払われる。以前は事業主を対象にした他の制度も今や雇用サービス庁の職業アクセスプログラムに統合されている。

職業アクセスは、パートタイムでもフルタイムでも、特定の障害従業員のために認可されたコストに対して支払うことができる。それには次のものが含まれる;職場の改造と特別なあるいは改造された設備、就業時または求職時に実際的な援助が必要とされる場合の補助労働者、障害のために公共交通機関が利用できない場合の職場への移動、面接時における聾者のための手話通訳者、全盲あるいは視覚障害を持つ人のための仕事における労働者。職業アクセスはその以前に失業していたり、事業主を変える障害者に対しては認可されたコストの全額を支払うが、1996年から、すでに雇用されている人に対しては認可されたコストが300ポンドから1,000ポンドの間であれば、その80%までしか支払わない。1,000ポンドを超える部分については3年間は全てのコストはまかなわれるだろう。職場への交通手段と面接時の手話通訳者のコストに関しては常に全額支払われる。職業アクセスのもともとの目的は働いている障害者の数を増やすことであった。職業アクセスの参加者の半分は失業していたことが意図されていた。しかし、導入1年後の調査では、適用されたとき92%はすでに働いていたことが分かった。

障害者就労手当は1992年4月に導入された。このミーンズテストによる社会保障給付は第1に、低賃金や自営業の収入に上乗せすることで、障害者は長期の障害給付から離れさせ、働くよう奨励することが意図されたものである。それはすでに働いている障害者と、いくつかの受ける資格のある給付(それには受給前8週間内における長期の障害給付が含まれる)のうちの1つを受給している障害者によって申請されるに違いない。5万人が障害者就労手当を受給していると概算されている。1996年10月、取り扱い件数は1万1,350件であった。申請している人のほとんどがすでに働いていた人たちで、人びとを給付から離れさせるという効果は小さい。

減退した生産性を持つ人に対する雇用サービス庁のプログラム-彼らは障害のためにそうでなければ雇用を獲得したり維持したりすることができない-は援助付き雇用プログラム(SEP)と改称され、もはや「保護雇用」として言及されることはない。これは3つの要素からなっている。レンプロイ(政府から補助金を受けるという保証によって規定されている民間会社)、特別なワークショップ、そして援助付き就労制度である。一般雇用における援助付き就労に向かっているという傾向がある。それは重度障害者を機関が雇ってホスト事業主に配置することを通じてなされる。1995年3月、約1万人の重度障害者が援助付き就労に雇用され、それは援助付き雇用プログラムの全体の約半数である。援助付き就労の利用者は学習障害者がより多く、シェルタード・ワークショップには通常身体障害者が多いようである。

  1. 給付局。北アイルランドでは社会保障局が北アイルランド保健・社会保障局(Northern Ireland Department of Health and Social Security)と結びついている。
  2. 北アイルランドには、労働年齢の障害者はおおよそ7万5,000人いる。そのうち1万9,600人は有給労働に就いていると考えられている。3万5,000人は働くことができない。8,900人は家庭と家族の面倒をみている。4,100人は仕事を探している。2,600人は働けるが積極的に求職活動をしていない(欧州委員会(European Commission),1996)。障害の発生はイギリスの他の地域より北アイルランドの方が高い。

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主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.9

発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997

発行年月:
1997

文献に関する問い合わせ先:
Publications Office Social Policy Research Unit University of York Heslington York YO15DD UK
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