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日本のリハビリテーション No.3

財団法人

日本障害者リハビリテーション協会


4 精神障害者

 わが国では,1954年以来ほぼ10年ごとに精神衛生実態調査が行われているが,1963年の精神衛生実態調査によって全国的な精神障害者の数や医療の普及度等が明らかとなったものの,その後に行われた調査では全国的な精神障害者の数を把握するような内容は得られていないため,ここでは1963年調査の結果による全国推計数を基に,その後における人口の増加率をもって今日の時点の数を推計する。
 表2-13のように,最近の時点での全国推計は,精神障害者総数1,562,000人,そのうち精神薄弱者数は504,000人と見込まれている。
 精神衛生実態調査は精神保健行政の立場から行われたものであるが,精神薄弱者については,社会福祉行政の立場から行われた別途の精神薄弱者実態調査があり,それによると調査結果の概略は 表2-14 のとおりである。
 これによると,前記の精神衛生実態調査結果に基づく推計とはかなり異なる結果となっている。このことは有病率の変化,精神薄弱の概念の変化(以前は学習障害児や情緒的障害児等が含まれていたと考えられる),判定方法の変化(知能検査依存の方法から総合的判定にかわった)などの諸因子によるものとみられる。精神障害者調査については,前記したことも含め実施困難な状況があるが,今後における実態の把握が待たれる。
 精神障害者について,医療を受けている状況からみた患者数の全国推計をみると,1日あたり受療患者数の推移は,1975年と1984年の比較において,精神障害の総数が301,300人から378,600人へと増加しており,入院および外来のいずれも増えている。また,神経系疾患としてのてんかんも24,700人から39,700人へと増加している(表2-15)。


(表2-13)
- 1963年(人口96,156,000人) 1986年(人口121,672,000人)
精神障害者数 精神障害者数
全国推計数 有病率
(人口千人対)
全国推計数
総数 124万人 12.9 156.2万人
精神病 57万人 5.9 71.8万人
精神薄弱 40万人 4.2 50.4万人
その他 27万人 2.8 34.0万人

(注)人口は各年10月1日現在。1986年分は推計人口。


(表2-14) 精神薄弱者数推計
- 1961年 1966年 1971年
18歳未満(在宅) - 221,200人 141,700人
18歳以上(在宅) 317,000人 263,500人 170,900人
施設入所者 - 20,400人 43,700人
合計 - 505,100人 356,300人


(表2-15) 傷病(小分類)・受療の種別にみた全国推計患者数(1日あたり受療患者数)
(1975年)    (単位:千人)
- 総数 入院 外来
総数 新入院 繰越入院 総数 初診 再来 往診(再掲)
患者総数 7,890.7 1,038.5 30.7 1,007.8 6,852.1 1,208.8 5,643.4 101.3
精神障害 301.3 248.5 0.9 247.6 52.8 6.2 46.6 101.3
- アルコール精神病 3.3 3.2 0.0 3.1 0.1 - 0.1 -
精神分裂病 184.6 175.0 0.5 174.6 9.5 0.3 9.3 0.0
躁うつ病 16.0 10.9 0.1 10.7 5.2 0.4 4.8 0.1
その他の精神病 17.4 15.7 0.1 15.7 1.6 0.1 1.6 0.2
神経症 33.4 13.6 0.1 13.5 19.7 1.7 18.0 0.1
人格異常 1.7 1.6 - 1.6 0.1 0.0 0.1 -
アルコール依存 15.2 14.2 0.1 14.1 1.0 0.1 0.9 -
その他の非精神病性精神障害 16.8 2.2 0.0 2.2 14.5 3.6 11.0 0.4
精神薄弱 13.1 12.1 0.0 12.1 1.0 0.2 0.8 -
神経系及び感覚器の疾患 923.0 57.6 1.0 56.6 865.5 115.0. 750.5 6.0
- てんかん 24.7 11.7 0.1 11.6 13.0 0.3 12.8 0.2


(1984年)    (単位:千人)
- 総数 入院 外来
総数 新入院 繰越入院 総数 初診 再来 往診(再掲)
患者総数 7,698.7 1,343.8 61.6 1,282.2 6,354.9 1,128.4 5,226.4 47.6
精神障害 378.6 310.7 4.2 306.4 68.0 5.8 62.2 0.6
- アルコール精神病 27.9 24.7 0.6 24.1 3.3 0.3 3.0 0.3
精神分裂病 3.0 2.8 0.0 2.8 0.7 0.0 0.7 -
躁うつ病 220.8 202.7 2.2 200.6 18.0 0.9 17.2 0.0
その他の精神病 21.2 14.4 0.2 13.3 7.8 0.5 7.8 -
神経症 15.7 10.8 0.1 10.7 2.8 0.1 2.7 0.0
人格異常 44.0 24.7 0.7 20.0 32.3 1.8 21.5 0.1
アルコール依存 17.9 16.4 0.2 16.2 1.4 0.2 1.3 0.0
その他の非精神病性精神障害 13.8 5.4 0.2 5.3 8.4 1.8 6.5 -
精神薄弱 16.4 13.6 0.0 13.6 2.8 0.2 2.6 0.0
神経系及び感覚器の疾患 651.5 67.9 3.6 65.3 583.6 86.6 297.0 1.6
- てんかん 39.7 12.5 0.2 12.3 17.2 0.8 16.4 0.0

 資料:患者調査


(表2-16) 精神病床数・入院患者数・措置患者数・措置率・利用率の推移
(各年6月末)
年次 精神病床数 措置患者数 入院患者数 措置率 病床利用率
1970 242,022床 253,433人 76,597人 30.2% 104.7%
1975 275,468 281,127 65,571 23.3 102.0
1976 281,166 287,470 62,073 21.6 102.2
1977 287,305 295,514 57,846 19.6 102.9
1978 292,720 301,245 54,693 18.2 102.9
1979 297,650 306,340 50,725 16.6 102.9
1980 304,469 311,584 47,400 15.2 102.3
1981 311,901 319,345 44,342 13.9 102.4
1982 318,186 326,393 40,202 12.3 102.6
1983 324,004 333,854 37,412 11.2 103.0
1984 329,806 337,930 34,805 10.3 102.5
1985 333,570 339,989 30,543 9.0 101.9
資料:病床数・入院患者数:病院報告
措置患者数:厚生省報告例


(表2-17) 病名別・性別・年齢別在院患者数
(1986年6月末現在)
訟断名区分 - 総数
総数 20歳未満 20歳以上~65歳未満 65歳以上 措置入院患者数 総数 20歳未満 20歳以上~65歳未満 65歳以上 措置入院患者数 総数 20歳未満 20歳以上~65歳未満 65歳以上 措置入院患者数
精神分裂病
210,783

1,461

192,869

16,453

22,082

120,876

837

113,898

6,141

14,185

89,907

624

78,971

10,312

7,897
躁うつ病 15,880 159 12,163 3,558 381 7,650 78 6,399 1,173 208 8,230 81 5,764 2,385 173
てんかん 10,856 237 9,984 635 1,112 6,387 136 5,926 325 702 4,469 101 4,058 310 410
脳器質性精神障害 総数 39,117 60 7,999 31,058 295 16,187 43 5,365 10,779 215 22,930 17 2,634 20,279 80
老年精神障害 29,990 3 3,259 26,728 75 10,734 3 1,844 8,887 44 19,256 0 1,415 17,841 31
その他 9,127 57 4,740 4,330 220 5,453 40 3,521 1,892 171 3,674 17 1,219 2,438 49
その他の精神病 10,106 274 8,173 1,659 327 4,859 160 4,100 599 167 5,247 114 4,073 1,060 160
中毒性精神障害 総数 22,865 181 19,994 2,690 533 21,250 138 18,647 2,465 515 1,615 43 1,347 225 18
アルコール中毒 21,170 8 18,518 2,644 371 19,874 7 17,429 2,438 358 1,296 1 1,089 206 13
覚せい剤中毒 687 34 648 5 106 588 25 559 4 104 99 9 89 1 2
その他の中毒 1,008 139 828 41 56 788 106 659 23 53 220 33 169 18 3
精神薄弱 14,864 417 13,439 1,008 1,424 8,826 270 8,075 481 922 6,038 147 5,364 527 502
精神病質 2,035 27 1,756 252 117 1,535 21 1,344 170 89 500 6 412 82 28
精神神経症 9,721 521 8,069 1,131 94 4,517 254 4,002 261 54 5,204 267 4,067 870 40
その他 5,093 465 3,139 1,489 93 2,592 243 1,824 525 55 2,501 222 1,315 964 38
合計 341,320 3,802 277,585 59,933 26,458 194,679 2,180 169,580 22,919 17,112 146,641 1,622 108,005 37,014 9,346

 資料:厚生省保健医療局精神保健課調

 精神病床数および在院患者数等の年次推移をみると,精神病床数の整備に並行して在院患者数は増加しており,病床利用率は常に満床であるが,措置入院による措置患者数は年々減少しつつある(表2-16)。

(注)措置入院とは,入院させなければ自身を傷つけまたは他人に害を及ぼすおそれのある精神病者を強制的に入院させる制度である。

 次に,1986年6月現在の病名別・性別・年齢別在院患者数でみると,全体には生産年齢層にある者の患者数が圧倒的に多いが,男性では若年層に比較的多く,女性では老年層に多いという特徴がある。病名別では,精神分裂病や中毒性精神障害は男性に多く,躁うつ病や脳器質性精神障害は女性に多く現われており,措置入院患者数は男性に多い(表2-17)。


(表2-18)小児慢性特定疾患治療研究事業の対象疾患および給付実績一覧


(表2-19) 特定疾患治療研究対象疾患一覧
疾患名 実施年月 ’85年度末現在交付数
総数 - 124,421
1 ベーチェット病 ’72年4月 9,072
2 多発性硬化症 ’73年4月 2,029
3 重症筋無力症 ’72年4月 5,138
4 全身性エリテマトーデス ’72年4月 21,311
5 スモン ’72年4月 2,301
6 再生不良性貧血 ’73年4月 5,319
7 サルコイドーシス ’74年10月 4,375
8 筋萎縮性側索硬化症 ’74年10月 1,714
9 強皮症,皮膚筋炎及び多発性筋炎 ’74年10月 8,572
10 特発性血小板減少性紫斑病 ’74年10月 9,647
11 結節性動脈周囲炎 ’75年10月 929
12 潰瘍性大腸炎 ’75年10月 11,602
13 大動脈炎症候群 ’75年10月 3,323
14 ビュルガー病 ’75年10月 5,895
15 天疱瘡 ’75年10月 998
16 脊髄小脳変性症 ’76年10月 4,838
17 クローン病 ’76年10月 2,831
18 難治性の肝炎のうち劇症肝炎 ’76年10月 451
19 悪性関節リウマチ ’77年10月 3,222
20 パーキンソン病 ’78年10月 13,981
21 アミロイドーシス ’79年10月 281
22 後縦靭帯骨化症 ’80年12月 3,334
23 ハンチントン舞踏病 ’81年10月 247
24 ウィリス動脈輪閉塞症 ’82年10月 1,711
25 ウェゲナー肉芽腫症 ’84年1月 182
26 特発性拡張型(うっ血型)心筋症 ’85年1月 1,047
27 シャイ・ドレーガー症候群 ’86年1月 71
28 表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型) ’87年1月 -
29 膿疱性乾癬 ’88年1月 -

資料:厚生省保健医療局結核難病感染症課調べ。


5 慢性疾患者

 慢性でかつ難治性の疾患は,その治療が長期にわたり医療費の負担も高額となることから,わが国では,児童の慢性疾患に対しては小児慢性特定疾患治療研究事業として患者家族の経済的,精神的負担の軽減をはかり,また,診断技術が一応確立し,かつ難治度,重症度が高く,患者数が比較的少ない,といった条件にある難病に対しては,公費負担の方法により受療を促進するため,原因の究明や治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある疾患につき,特定疾患治療研究事業が行われている。
 これら2事業は漸次拡大されてきており,その対象とされる患者数は20万人を超えている(表2-18および表2-19)。
 なお,これら事業の他にも,らい患者や進行性筋萎縮症者,重症心身障害者については別途の公費負担制度があり,2万人を超える対象者がこれらの措置を受けている。
 以上のような慢性疾患,難治性疾患の患者のうち,相当数の人たちは前記した身体障害者福祉法に基づく障害認定基準に該当することにより,身体障害児・者として認定される。また,一方では,皮膚疾患,血液疾患等の慢性疾患や末期がん患者,さらには症状の比較的軽度の慢性疾患者が多数あることは明らかであるが,わが国の身体障害者福祉法では,これら慢性疾患の患者をそれだけの理由でもって障害認定する慣行はない。
 以上のことから,ここに記した慢性疾患者の数の全体を推計することはせず,また,推計される患者数についても,本報告では敢えて障害者数としては掲げないことにした。


6 おわりに

 1987年に行われた身体障害児者の実態調査から,1わが国の身体障害者総数は,全体的には依然として増加しているが,増加率は前回調査に比べ鈍化していること,2全体的には,前回調査時と同様,身体障害者の高齢化および重度化の傾向が窺えること,3障害の種類別では,視覚障害者について減少の結果が出たこと,4内部障害については,身体障害者福祉法改正による身体障害の範囲拡大を要因とするも,逐年増加の傾向にあること,518歳未満の身体障害児については,内部障害の増加はあるものの,全体的には減少の傾向にあること,といった特徴がみられる。
 医学の進歩や保健医療の普及は,人口構造全体の高齢化を促がし,重度障害を残しつつも延命を可能とすることによって,身体障害者の高齢化及び重度化の現象をもたらしたが,そのことはまた,障害の発生予防にも寄与していることを明らかにした。視覚障害の減少と身体障害児全体の減少傾向という結果がそれを示しているといえよう。
 精神障害者数については,推計の根拠となる基礎資料が古いこともあって,現状に即した推計数を掲げることにはならなかったと思われるが,特に,精神薄弱に関する評価基準の統一の必要性を含め,調査に際しての人権やプライバシーの問題に配慮しつつ,実態把握の行われることが望まれるところである。
 慢性疾患,難治性疾患の問題については,これまで身体障害者福祉法における身体障害の範囲について検討した過程においても,常に論議されてきたのは疾病と障害の概念の明確化ということであった。既に身体障害の範囲に認定されている障害群との比較において,他の内臓系の疾患や皮膚,血液の疾患などについての障害概念の明確化をはかること,および,心身に重複する障害をもつ者の評価といった事柄が,今後における検討課題とされよう。


第3章 日本のリハビリテーション


1 リハビリテーションの展開

1.第二次世界大戦前の状況

職業リハビリテーション施設といわれる啓成社の写真

1923年の関東大地震による大量の障害者のために,わが国で初めての職業リハビリテーション施設といわれる「啓成社」が東京に設立され,洋服,家具,はきもの等の職業指導が行なわれた。

 第二次世界大戦前には,わが国では本格的な障害者のリハビリテーション対策は存在せず,障害者は単に貧困者の一部として救貧対策の対象としてみられたにすぎず,しかもこの救貧対策の対象は厳しく制限されたため,ほとんどの障害者は家族の扶養に委ねられていたといえる。
 明治政府は,1868年(明治元年)「鰥寡孤独廃疾ノモノ憐レムベキ事」令を発し,さらに1874年(明治7年)には,その後約60年にわたってわが国の救貧対策の基本となった「恤救規則」を定めたが,これらの対策は1000年以上も前の養老戸令とほとんど変わらないものであった。「恤救規則」では,貧民救済は本来「人民相互の情誼」によって行うべきものとし,ごく一部の「目下難差置無告の窮民」のみ援助することとしている。生活困難な老人や障害者は,なによりもまず家族や親族が扶養し,さらに近隣で援助すべきこととし,働く能力がありながら働かない者を厳しく罰するものであった。救貧対策というよりも,惰民の征伐,治安・公安的な取締り対策としての性格が強く,これを担当する行政も内務省警察部であったのである。したがって「恤救規則」により援助を受けた「不具廃疾者」の数は少なく,毎年平均2,000人くらいであった。
 しかし,やがて貧困者の数も増え,社会問題として放置できなくなって来る。とくに1929年(昭和4年)の世界恐慌は大量の貧困者を生み出し,同年には「救護法」が制定され,この中に「不具廃疾,疾病,傷病,その他精神または身体の障碍に因り労務を行うに故障のある者」という表現で障害者として規定されることとなった。また,生活扶助,医療扶助,生業扶助など援助内容も拡大され,公的扶助責任の原理が示されるなど近代化がみられるが,保護請求権はなく,障害者は依然として一個の生活困窮者であり,慈恵的な援助の対象者である点で,「恤救規則」と同様であった。しかしこの法により援助を受ける障害者数は「恤救規則」時代より増加し,1934年(昭和9年)には約1.1万人であった。
 以上のように,障害や貧困は個人の責任であって,その救済は家族を中心に民間で行うべきものであること,どうしてもやむを得ない場合に限り国や自治体が慈恵的に援助するのであるが,当然の事ながら援助を請求する権利を障害者が持つものではない,というのが戦前の対策の基本理念であったのである。
 一般の障害者に対する以上のような対策とは対照的に,戦争による障害者(傷痍軍人)に対しては,相当手厚い援助がなされていた。とくに日清・日露,および第一次・第二次世界大戦と,大きな戦争に関連して,傷痍軍人対策は充実していった。例えば,増加恩給,再就職の援助,医療,訓練,名誉を表彰するための傷痍記章,国鉄・私鉄の無賃乗車,タバコ小売り人の優先指定,租税等の減免,子女の育英のための学費補給などである。各種の国立のリハビリテーション施設も,結核療養所約40,温泉療養所10,精神・脊髄・頭部戦傷療養所各1,傷痍軍人職業補導所3,失明軍人寮・失明軍人教育所各1,等が設けられていた。
 以上のほか,工場法(1916年,大正5年),労働者災害扶助法(1931年,昭和6年)などにより労働災害被災者に対しては一時金の補償がなされていた。また明治政府により当道座という職業独占的組織を解散させられた盲人たちは,その運動を通じて鍼灸の職業権を確保し,盲児の教育体制も整備が進んだという点で,他の障害者達とはやや異なった状況にあった。民間篤志家による障害児者の施設では先駆的な処遇が続けられていたが,日本全体からみれば細々としたものであった。
 第二次世界大戦前,精神障害者の状況は極めて厳しいものであった。座敷牢を合法化した精神病者監護法(1900年,明治33年)の下で,社会防衛・隔離対策の対象とされていた。1919年(大正8年)には精神病者の治療を促進するために精神病院法が制定されたが,公立病院の建設はほとんどすすまなかった。

私宅監置室の様子(イラスト、写真)

旧東京帝国大学教授の呉秀三博士は,私宅監置の実情を調査し,精神病者監護法を批判して,同法の廃止をはげしく要求した。その結果,1919年精神病院法が成立したが,精神病者監護法はそのまま残り,抜本的な解決にはならなかった。戦後1950年に精神衛生法が制定され,戦前の二法が廃止されて私宅監置は禁止され,近代精神医学の成果により,精神病者の治療と保護は精神病院を中心に実施されるようになった。しかし,1968年ごろから逆に精神病院数が増えつづけ,現在34万床に達し,入院期間も永びき大きな社会問題となった。1987年に精神障害者の人権擁護と社会復帰,福祉等の向上を目的として同法が改正された。一方では共同作業所づくりなど,民間運動も強力に推進され,精神障害者の社会参加の諸政策も遅ればせながら進みつつある。呉秀三著「精神病者私宅監置ノ実況及び其統計的観察」より。


2. リハビリテーション対策の発足

 第二次世界大戦は,戦災で住む家や職場を失った人々や戦傷病者を大量に生み出した。終戦直後には,こうした事態に対応するために,生活困窮者緊急生活援護要綱(1945年,昭和20年),旧生活保護法(1946年,昭和21年),身体障害者職業安定要綱(1947年,昭和22年),12か所の身体障害者収容授産施設の設置(同年)など,緊急援護的対応がとられたが,わが国のリハビリテーション対策の上で最も重要なことはこの時期に日本国憲法が制定(1947年,昭和22年)されたことである。憲法は,主権在民や戦争の放棄を宣言した上で,個人の尊重(13条),法の下の平等(13条),国民の生存権と国の社会保障義務(25条),教育を受ける権利(26条),労働権(27条)などを規定しており,これらの規定を現実のものにすることが戦後日本のリハビリテーションの課題とされてきた。
 わが国のリハビリーション立法の中心的存在である身体障害者福祉法は,旧生活保護法や児童福祉法(1947年,昭和22年)よりやや遅れて1949年(昭和24年)に成立,翌年から施行された。当時の身体障害者の多くが戦傷病者であったことから,この法律が軍国主義の復活に使われることをアメリカ占領軍が懸念し,このことが成立を遅らせた一因であったとされている。この法は,身体障害者手帳の交付,補装具の支給,身体障害者更生援護施設の設置,身体障害者更生相談所の設置等を定めており,まもなく福祉事務所の制度,更生医療の給付などが加わり,ようやくわが国でも身体障害者のリハビリテーション対策は法的根拠を得たといえる。
 しかしこの法は障害の種類を視覚・聴覚・肢体不自由などの固定的障害に限定し,障害の程度も比較的軽度で職業復帰の望まれるものに限定し,法によるサービスも他の法や行政分野に抵触しないように就労や所得保障・医療などを欠いており,かなり限られたリハビリテーション法としての出発であった。
 教育的リハビリテーションの分野では,1947年(昭和22年)の教育基本法・学校教育法により,障害児教育の理念と学校教育体系が確立され,戦前からの整備の進んでいた盲・ろう児の教育はいち早く実施されることとなったが,肢体不自由児と精神薄弱児については法の施行が30年以上後の1979年(昭和54年)にようやくなされた。


3.リハビリテーション対策の拡充

 1955年(昭和30年)以降,戦後の混乱期から高度経済成長期に移行するとともに,リハビリテーション対策の面でも大きな変化が生じてきた。
 1959年(昭和34年)の国民年金法の施行により障害年金・障害福祉年金が支給されることとなり,一方より軽度の身体障害者に対しては身体障害者雇用促進法(1960年,昭和35年)により一般企業で就労することが促された。また,従来欠けていた成人の精神薄弱者対策として1960年(昭和35年)精神薄弱者福祉法が成立し,生活・作業訓練のための施設などが設けられた。老人福祉法の成立も1963年(昭和38年)であり,生活保護法の下で救貧的施策の中に含められてきた人々がより専門分化した福祉法の対象として位置づけられてきた。
 やや遅れて1965年(昭和40年)前後には重度障害者が援助対象として位置づけられるようになってきた。重度精神薄弱児収容棟,重度身体障害者授産施設,重度身体障害者更生援護施設,特別児童扶養手当法(重度精神薄弱児扶養手当法),肢体不自由児施設重度棟,重度心身障害者のためのコロニー構想,重症心身障害児施設,身体障害者家庭奉仕員などである。身体障害者福祉法でも法目的の中に従来の「更生」とならんで「生活の安定」という言葉が入れられた(1967年,昭和42年)。
 この1967年(昭和42年)の改正で身体障害者福祉法の対象に心臓・呼吸器の機能障害がふくめられ,5年後には腎臓機能障害も加えられた。
 この他,1964年(昭和39年)の東京パラリンピックとその翌年からの全国身体障害者スポーツ大会の実施,1963年(昭和38年)の日本リハビリテーション医学会の創立,1965年(昭和40年)の理学療法士および作業療法士法の制定などもこの時期のリハビリテーション対策の拡充を示すものである。
 以上のように,高度経済成長期には重度者対策,雇用対策,所得保障対策,在宅障害者対策,対象となる障害の種類の拡大,医学的リハビリテーションの制度化,障害者スポーツなど,リハ対策はその範囲を大きく拡充したが,この背景には産業構造の変化や核家族化に伴う家庭での介助機能の低下,種々の原因による障害者数の増加,高度成長下での生活の困難と生活要求の高まりなどがあったといえる。


4.リハビリテーション対策の近年の動向と課題

 1970年代以降,わが国の障害者のリハビリテーション対策は,拡充と再編との複雑な展開をみせてきた。(P.68参照)
 職業リハビリテーションの分野では,職場適応訓練制度や助成金制度の充実,心身障害者職業センターの設置などがなされてきたが,低成長期への移行にともない障害者の就労難が深刻化し,これに対応して1976年(昭和51年)には身体障害者雇用促進法を改正し割当雇用制度が実質的に確立された。その後最近のいわゆる円高不況等の影響もあって雇用率の伸びがほとんど見られなくなり,1987年(昭和62年)同法の改正により,職業リハ体制の整備,専門職制度の創設,精神薄弱者への雇用率適用,中途障害者の雇用継続のための助成金の導入など新たな対策が講じられるにいたった。一方,民間企業での就労が困難な重度障害者を中心に,民間の運動により全国で1500を越える小規模作業所が設立されてきた。そしてこれらの作業所の一部に対して運営費の一部国庫補助が1987年度(昭和62年度)より始められた(精神薄弱関係は1977年より)。
 以上のような進展がみられるものの,依然として授産施設・小規模作業所・保護雇用(わが国ではまだ不在)・一般雇用の体系的整備の課題,重度障害者・精神薄弱者・精神障害者・難病患者などの就労保障の課題などが残されている。
 精神障害者のリハビリテーション対策も近年ようやく動きだした。1965年(昭和40年)の精神衛生法の改正は,通院医療費の助成,保健所や精神衛生センターの整備など,地域精神衛生活動を促すものであり,その後も社会復帰施設や精神障害者職親制度などが設けられてきたが,精神病院への入院患者数は一貫して増加しつづけてきた。こうしたなかで国際的批判も生じ1987年(昭和62年)の法改正で精神保健法が成立,精神障害者のための援産施設や共同住居など社会復帰のための制度がようやく法的根拠をもつようになった。同年の身体障害者雇用促進法改正(障害者の雇用の促進等に関する法律の制定)で精神障害者も法対象とされることとなり,今後の動向が注目される。
 教育的リハビリテーションの分野では1979年(昭和54年)の養護学校義務化の実施以降,すべての障害児の教育が保障される体制が整った。今後,重度・重複障害児の教育内容の質的向上,統合教育の推進,成人障害者の社会教育の推進などが求められている。
 医学的リハビリテーションの分野では,医学リハを実施する医療機関や医師・理学療法士・作業療法士などの数が増加し,医療保険制度上の位置づけも改善されてきた。しかし,ニーズに比してこれらの施設や専門職員は依然として不足しており,かつ地域的偏在は解消されていない。また,在宅障害者が保健所,福祉施設,医療機関等に通所・通院して,あるいは家庭訪問によりリハを受ける地域リハビリテーションの体制は,必要とされながらも一部の地域での試行的レベルに留まっている。
 1987年(昭和62年)には義肢装具士と臨床工学技士の資格制度が成立し,言語療法士や医療福祉士についても検討がなされている。これらの専門職を質量ともに充実することが医学リハの重要な課題といえる。
 社会リハビリテーションの分野では,近年,障害者の地域社会での自立と参加を援助する各種の施策が整備されてきた。障害基礎年金制度の発足,精神薄弱者福祉ホームや身体障害者福祉ホームなどの小規模の共同住居の制度化,家庭奉仕員制度の改正により週18時間までの介助が公的に保障されることとなったこと,ガイドヘルパー・手話通訳者の派遣・自動車操作訓練・結婚相談など各種の社会参加促進事業の拡充,住宅改造費の貸付や身体障害者用公営住宅の建設,福祉のまちづくり事業などである。しかしながら障害者の生活の現状からみると,障害者とくに重度障害者や高齢障害者の増加,家庭での介助・扶養機能の低下,都市部における住宅難などの事態が進行する中で,自立と社会参加をめぐる困難は依然として続いている。各種の施策が一人ひとりの障害者の生活に実際に役立つように内容の充実と広範な普及が必要とされている。
 1987年(昭和62年)には社会福祉士および介護福祉士という社会福祉の専門職制度が成立し,今後の活躍が期待されている。
 以上,リハビリテーションの各分野毎に近年の動向を見てきたが,全体的に見て1981年(昭和56年)の国際障害者年の与えた影響は極めて大きなものがあった。「完全参加と平等」,「機能障害・能力低下・社会的不利から成る障害の構造的理解」,「ノーマライゼーション」,「自立生活」,「生活(人生)の質」などリハビリテーションに関連する基本的な理念や概念が,広く関係者の共通理解になりつつある。障害者のリハビリテーション対策は総合的・計画的になされる必要があるとの認識から,国や約360の地方自治体で長期計画が策定され,1987年(昭和62年)にはその見直しが行われた。これら計画の策定と見直しは,多くの場合障害者団体の参加の下で行われたものである。一方,民間レベルでも国際障害者年を契機に,わが国で初めて約100の全国的規模の障害者団体が結集した国際障害者年日本推進協議会が生まれるなど,新たな展開が見られた。
 現在「国連・障害者の10年」の半ばをすでに過ぎたが,あまりにも多くの課題が依然として残されている。完全参加と平等への確かな前進を実現するべく,行政・専門職・一般国民および障害者自身のそれぞれの立場における一層の努力が求められている。

国際障害者年記念国民会議の写真

1981年11月,NHKホールで,わが国の障害者団体をはじめとする関係者が集り「国際障害者年記念国民会議」がひらかれた。「完全参加と平等」の実現に向けて関係団体の決意を固めるとともに,広く国民の理解を訴えた。


2 日本のリハビリテーションの現状

1.心身障害者対策基本法

 わが国の障害者のリハビリテーション対策は,医療,教育,労働,所得保障,社会福祉,住宅等の各種実定法と関連する制度によって行われているが,これらの実定法・制度とその根本にある日本国憲法との中間の結び目には,リハビリテーション対策の基本法である「心身障害者対策基本法」がある。
 この基本法は具体的なサービスを規定しているものではないが,障害者のリハサービスは有機的・総合的に実施されねばならないことを示し,心身障害者の定義を明らかにし,また対策のあり方を調査・審議する心身障害者対策協議会(全国レベル,および地方レベル)の設置を定めるなど,重要な規定を設けている。

心身障害者対策基本法(1970年,昭和45年)の条項
第1条
(目的)
 この法律は,心身障害者対策に関する国,地方公共団体等の責務を明らかにするとともに,心身障害の発生の予防に関する施策及び医療訓練,保護,教育,雇用の促進,年金の支給等の心身障害者の福祉に関する施策の基本となる事項を定め,もって心身障害者対策の総合的推進を図ることを目的とする。
第2条
(定義)
 この法律において「心身障害者」とは,肢体不自由,視覚障害,聴覚障害,平衡機能障害,音声機能障害若しくは言語機能障害,心臓機能障害,呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害又は精神薄弱等の精神的欠陥(以下「心身障害」と総称する。)があるため,長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。
第3条
(個人の尊厳)
 すべて心身障害者は,個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。
第4条
(国及び地方公共団体の責務)
 国及び地方公共団体は,心身障害の発生の予防及び心身障害者の福祉を増進する責務を有する。
第5条
(国民の責務)
 国民は,社会連帯の理念に基づき,心身障害者の福祉の増進に協力するよう努めなければならない。
第6条
(自立への努力)
 心身障害者は,その有する能力を活用することにより,進んで社会経済活動に参与するように努めなければならない。
2 心身障害者の家庭にあっては,心身障害者の自立の促進に努めなければならない。
第7条
(施策の基本方針)
 心身障害者の福祉に関する施策は,心身障害者の年齢並びに心身障害の種類及び程度に応じて,かつ,有機的連けいの下に総合的に,策定され,及び実施されなければならない。
第8条
(法制上の措置等)
 政府は,この法律の目的を達成するため,必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。
第9条 (心身障害の発生の予防に関する基本的施策) 略
第10条 (医療,保護等) 略
第11条 (重度心身障害者の保護等) 略
第12条 (教育) 略
第13条 (訪問指導等) 略
第14条 (職業指導等) 略
第15条 (雇用の促進) 略
第16条 (判定及び相談) 略
第17条 (措置後の指導助言等) 略
第18条 (施設の整備) 略
第19条 (専門的技術職員等の確保) 略
第20条 (年金等) 略
第21条 (資金の貸付等) 略
第22条 (住宅の確保等) 略
第23条 (経済的負担の軽減) 略
第24条 (施策に対する配慮) 略
第25条 (文化的諸条件の整備等) 略
第26条 (国民の理解) 略
第27~29条 (中央心身障害者対策協議会) 略
第30条 (地方心身障害者対策協議会) 略


(図3-1)
所得保障
  • 国民年金法
  • 厚生年金保険法
  • 各種共済組合法
  • 生活保護法
  • 児童扶養手当法
  • 特別児童扶養手当法
  • 世帯更生資金貸付制度要綱
  • 労働者災害補償保険法
  • 心身障害者扶養共済制度
雇用保障
  • 障害者の雇用の促進等に関する法律
  • 職業安定法
  • 職業能力開発促進法
  • 雇用対策法
  • 労働安全衛生法
社会福祉
  • 社会福祉事業法
  • 身体障害者福祉法
  • 精神薄弱者福祉法
  • 児童福祉法
  • 老人福祉法
医療保障
  • 健康保険法
  • 国民健康保険法
  • 精神保健法
  • 母子保健法
  • 老人保健法
  • 理学療法士及び作業療法士法
教育保障
  • 教育基本法
  • 学校教育法
  • 社会教育法
  • 盲・聾・養護学校修学奨励法
その他
  • 公営住宅法
  • 所得税法
  • 特定疾患治療研究事業
  • 公害健康被害補償法
  • 戦傷病者特別援護法
  • 原子爆弾被爆者医療法
  • 身体障害者旅客運賃割引規則
  • 郵便法
  • 日本放送協会放送受信料免除基準
  • 公職選挙法


2.リハビリテーションのための主な法律・制度の一覧

図3-1には,リハビリテーションに関連する主な法・制度を一覧した。より詳しくは第4章以下で紹介される。
 ここに表示した法律制度の他に,制令・省令・各種の通知により全国的なレベルでの対策が実施されている。また地方自治体レベルでは各種の条例・要綱などによって,その自治体の独自の事業を行っているところが多い。例えば,外出の困難な障害者の社会参加を促すためにタクシー料金の一部を障害者に代わって支払う「福祉タクシー」制度や,重度障害者の治療代の一部を助成する「重度障害者医療費助成」制度などは,かなり多くの地方自治体が独自の財源で行っているものである。
 図の中の「社会福祉」として区分した諸法は,実際にはかなり多様なサービスを提供しており,例えば児童福祉法の中の育成医療や身体障害者福祉法の中の更生医療は医学的リハビリテーションそのものであり,また身体障害者福祉法の中の多くの施設や児童福祉法の肢体不自由児施設でも,その主なサービスとして医学的リハビリテーションを実施している。さらに身体障害者福祉法や精神薄弱者福祉法の中の各種授産施設では,雇用という形態はとらないものの職業リハビリテーションを行っている。

3.政府の各省庁が行っているリハビリテーション対策

(表3-1)は主に身体障害者について見たものであるが,リハビリテーション対策は厚生省を中心として多くの省庁によって行われている。
 リハビリテーションの分野との関係でみると,医学リハビリテーションは厚生省,教育リハビリテーションは文部省,職業リハビリテーションは労働省,社会リハビリテーションは厚生省・建設省・運輸省等がそれぞれ主な担当省庁となっている。しかしさらに詳しくみるとリハビリテーションの分野と省庁の関係はそれほど単純ではなく,例えば医学リハについてみると,医学リハビリテーションに関連する各種の機器の研究開発を通商産業省でも行い,労働省でも総合せき損センターを含む労災病院などを所轄している。

   (表3-1)

府省名 分野 内容
総理府 総合調整 障害者対策推進本部の事務等
大蔵省 税の減免(国税) 所得税 所得控除
物品税 障害者の使用する自動車等
法人税 身体障害者授産事業
関税  身体障害者用に特に製作された器具等
相続税 70歳に達するまでの間
贈与税 特別障害者扶養信託契約に基づく財産の信託
文部省 特殊教育
高等教育等
盲学校・ろう学校・養護学校
特定試験場の設定,介助者の付与等
厚生省 福祉一般
年金・医療等
身体障害者(児)福祉,戦傷病者戦没者遺族等の援護等
厚生年金保険・国民年金・健康保険等
通商産業省 福祉関係機器の開発振興 各種医療福祉関係機器の研究開発
運輸省 運賃割引
公共交通機関対策
日本国有鉄道・私鉄・バス等の運賃の割引,有料道路通行料の割引
鉄道・航空機等の交通機関の改善(車椅子障害者対策・盲人対策等)
郵政省 料金減免 NHKテレビ受信料の減免,点字郵便物等の無料扱い
福祉電話機器の使用料の軽減
労働省 雇用対策
労働災害
補助具購入資金貸付
身体障害者雇用促進・身体障害者職業訓練
労働災害補償保険
視覚障害者用ワードプロセッサー等の貸付
建設省 住宅対策,公共施設対策

料金減免
身体障害者向け公営住宅供給,公共建築物・道路等の改善
公団住宅への優先入居
有料道路通行料の割引
自治省 税の減免(地方税) 住民税 所得控除
事業税 重度の障害者の行うあんま・はり等医業に類する事業
自動車税 軽自動車税及び自動車取得税
不動産取得税・固定資産税・事業税等の非課税・減免
警察庁 交通安全対策 盲人用信号の設置等道路交通安全上の配慮
法務省 司法試験 点字の試験用法文の貸与

(「体の不自由な人々の福祉‘86」全社協)


4.障害の種類(タイプ)とリハビリテーション対策の対象

 リハビリテーションは医学・教育・職業・社会を含む総合的なサービスであり,その対象はあらゆる種類の障害を持つ人々である。このようなリハビリテーションの性格を念頭においてわが国のリハビリテーション対策の現状をみる時,表3-2に示したように全ての種類の障害者を対象にするという点できわめて不十分な段階にとどまっているといえる。
 表の障害のタイプの1から6までは身体面の障害であるが,6のてんかん等の発作性の障害は「障害が永続するものではない」ために,また4の肝臓病・糖尿病・高血圧症などは常時医療を要し,かつ障害者の範囲の確定が困難であるために,それぞれ福祉法の対象から除外されている。さらに福祉法から除外されているため自動的に障害者の雇用の促進等に関する法律からも除外されている。
 1987年(昭和62年)はわが国のリハビリテーション対策の対象の拡大という面で大きな発展が見られた。第一に,障害者の雇用の促進等に関する法律の対象に精神薄弱者と精神障害者が含められることとなり,後者はまだ研究と啓発の対象でしかないので今後の展開に注目されるが,前者は身体障害者と同様に割当雇用制度の対象とされたこと。第二に,精神保健法の成立により精神障害者の社会復帰のための生活施設や作業施設が制度化されたこと。第三に,社会福祉士や障害者職業カウンセラー等の資格制度が成立したことである。第三の資格制度の成立は直接的にはリハビリテーションの対象拡大をもたらさないが,従来わが国では主に医学的診断に基づいて,医学リハビリテーションのみならず社会リハビリテーションや職業リハビリテーションのサービスが提供されてきたので,今後これらの新しい専門家によって真にリハビリテーションニーズをもつ障害者を適切かつ柔軟に選ぶことが出来るようになれば,対象は拡大されてゆくものと思われる。
 リハビリテーション対策から取り残されるタイプの障害者が生じた背景には,医療と福祉の間に,そして障害の種類の間に,伝統的な縦割の法律や行政組織の仕組みがあった。今後の法・行政組織の統合・連携が期待される。


(表3-2) 障害のタイプとわが国の法制度の対応および実際の活用
障害者対策 福祉法 所得保障 雇用 所得税法 JR運賃割引 公営住宅法 継続的医療の必要性
障害のタイプ 障害年金 労災補償 職業安定法 障害者雇用促進法
1 固定的身体障害 ×
慢性身体疾患 2 感覚機能障害や運動機能障害を生ずるもの
3 心・腎・呼吸器等の障害 ×
4 その他の内部障害 × × × × ×
5 形態面の障害(小人症,顔面醜痕など) × × × × × × ×
6 発作性障害(てんかん,発作性頻脈など) × × × × ×
7 精神発達遅滞 × ×
8 精神障害 ×

 ○:対象,△:対象とされるが活用不十分,×:除外,-:非該当


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主題:
日本のリハビリテーション  No.3
33頁~60頁

発行者:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

編集:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:
1992年8月31日

文献に関する問い合わせ先:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
電話 03-5273-0601
FAX 03-5273-1523