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日本のリハビリテーション No.8

財団法人

日本障害者リハビリテーション協会


第7章 社会リハビリテーション


1 日本の社会保障・社会福祉制度の概要

 わが国の社会保障制度の枠組みは,1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の「社会保障制度に関する勧告」によって形づくられた。すなわち,「社会保障制度は,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子その他困窮の原因に対し,保険的方法または直接国の負担において経済的保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もって,すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるように保障することを目的とする」と規定されている。
 そしてこのなかで「社会福祉」については,「国家扶助の適用をうけている者,身体障害者,児童,その他援護育成を必要とする者が自立してその能力を発揮できるよう,必要な生活指導,更生補導,その他の援護育成を行うこと」としている。
 この勧告にもとづいて,現在のわが国の社会保障の分野は,社会保険,公的扶助,社会福祉,公衆衛生・医療の4分野を中心とし,児童手当,環境政策,恩給,戦争犠牲者援護などをも加えた幅広い制度から成っている。
 このように,全国民を対象とし,多様な原因による生活困窮を対象とし,幅広い分野と方法によって保障制度を設けているという点で,わが国の社会保障制度は世界的にも進んだ水準にあるといえるが,保障水準がまだまだ不十分で,制度が複雑多岐にわたり制度間格差が大きいことなど,改善を要する点も多い。

1.社会福祉以外の社会保障制度

(1) 年金保険

 老齢,障害などの場合に年金を支給する保険制度であり,1959年(昭和34年)の国民年金法の成立によって,全ての国民が年金制度の対象となった。1985年(昭和60年)には年金関係諸法の大幅な改正により,船員保険の年金部門が厚生年金に統合されるとともに,厚生年金や各種共済組合に加入している被用者とその配偶者も,国民年金加入者と同じ基礎年金制度に組み込まれることとなり,全国民の基礎的部分での一元化が実現した。
 基礎年金には老齢基礎年金(65歳から支給,40年間保険料を払った場合昭和62年度月額52,208円),障害基礎年金(障害程度により1級月額65,258円,2級52,208円,その他子の加算あり),遺族基礎年金(被保険者に扶養されていた18歳未満の子またはその子と生計を同じくしている母に月額52,208円)の3つの種類がある。被用者の場合にはこの基礎年金に加えて,報酬(給料)や加入期間に応じた年金額が支給される。

(2) 医療保険

 加入者や使用者(事業主)の保険料に国,地方自治体の負担金を合わせて財源とし傷病の治療費等を給付する保険で,いくつかの種類があるが基本的には被用者の医療保険(健康保険や共済組合)と農業・自営業者など一般国民の国民健康保険とがある。
 被用者の医療保険は,本人と事業主の納入する保険料に国庫補助を合わせて財源とし,本人が医療を受ける場合は9割,家族の場合は8割(外来の場合は7割)を保険が支払う。この他傷病手当金,出産手当金なども支給される。
 国民健康保険では,国が財源の約半分を支出しており,加入者は1世帯当り平均一か月約1万円の保険料(税)を支払っている。給付は世帯主・家族とも7割となっている。なお1984年(昭和59年)から国民健康保険の中に退職者医療制度が創設された。これは被用者の医療保険に加入していた者が退職して国民健康保険に入って医療を受ける場合,本人は8割,家族は外来7割・入院8割の給付をするもので,その財源は本人等の保険料と被用者の各医療保険の拠出金とによる。
 以上の医療保険には高額療養費制度があり,一か月の自己負担額が5万4千円以上の場合,その越えた部分を保険が支払う。
 また1983年(昭和58年)発足の老人保健法によって,70歳以上(ねたきり状態の場合は65歳以上)の者が医療を受ける場合,入院で1日300円,外来で1か月800円自己負担することになっている。残りの医療費は国・自治体の負担金と各医療保険の拠出金とで賄っている。

(3) 雇用保険

 雇用保険制度では,労働者が失業した場合に,離職前の賃金に応じて1日最高7,330円から最低2,570円までの基本手当を支払い,このほか,技能習得手当,高年齢休職者給付金,再就職手当などが支払われる。基本手当の給付日数は再就職までの期間の内最低90日,最高300日とされており,これは被保険者期間の長短によるほか,中高年齢者や心身障害者など就職の難しい人々には長期間給付される仕組みになっている。またこの制度は金銭給付のほかに雇用促進等の事業も行っている。1985年(昭和60年)には約140万人が給付を受けた。

(4) 労働者災害補償保険

 4つの労働災害補償の制度があるが,いずれも労働によって,あるいは通勤に際して生じた負傷・疾病・障害または死亡に対して補償をするための各種の給付を行い,あわせて,被災労働者の社会復帰の促進などの事業を行うものである。給付の種類として,医療(医療費)給付,休業給付,傷病年金,障害年金,障害一時金,遺族年金,葬祭給付などがあり,最も重い障害を生じた場合の障害年金(1級)は賃金の約86パーセントとなっている。

(5) 児童手当

 児童手当は,児童養育にともなう家計負担の軽減を図り,かつ次代の社会を担う児童を健全に育成することを目的とした制度であり,小学校入学前の児童を含む18歳未満の児童を2人以上育てている家庭に支給される。額は小学校入学前の第2子が月額2,500円で,第3子以降の児童がいる場合1人につき月額5,000円ずつ増加される。児童手当の支給には所得制限がある。1986年2月現在約205万人(世帯)に支給されている。

(6) 公衆衛生・医療

 わが国の死因の第1~3位は癌,心臓病,脳卒中となっており,これらに対して広報・衛生教育,健康診断の推進,医療機関の整備,専門技術者の養成,研究などが成人病対策として実施されている。とくに老人保健法によって,壮年期からの健康づくり,予防,検診,健康手帳の交付,機能訓練,訪問指導・看護などが実施されている。
 結核は,死因順位の面では昭和25年までの第1位から現在の第17位に低下したが,依然として約30万人の登録患者がおり,健康診断,予防接種,治療などの対策が重視されている。
 難病対策として,主に,原因不明・治療法未確立で,長期にわたり経済的・精神的および介護面で負担の大きい疾病に対して,研究の推進,治療費負担の軽減,医療施設と要員の確保などの諸対策が実施されている。このうち1985年度(昭和60年度)末の医療費助成対象患者数は約12万人であった。
 わが国の医療施設の現状(1985年10月1日)を見ると,病院9,608,一般診療所78,927,歯科診療所45,540となっており,病床数では一般病床1,080,419,精神病床334,589,結核病床55,230,合計1,495,328となっている。一般病床,精神病床の数は増加しているが,結核病床は減少している。主な医療関係者の数を見ると,1984年末で,医師は181,101人,歯科医師は63,145人,準看護婦(士)を含む看護婦(士)は625,773人である。

(図7-1) 社会保障制度の主な分野・対象(対象人員)・根拠法
 社会保険
  • 年金保険

    • 一般民間被用者・船員(2,723万人)
      • 厚生年金保険法

    • 国家公務員等(178万人)
      • 国家公務員等共済組合法

    • 地方公務員等(330万人)
      • 地方公務員等共済組合法

    • 私立学校教職員(35万人)
      • 私立学校教職員

    • 農林漁業団体職員(49万人)
      • 農林漁業団体職員共済組合法

    • 一般国民(2,509万人)
      • 国民年金法

  • 医療保険

    • 一般民間被用者と家族(6,224万人)
      • 健康保険法

    • 日雇労働者と家族(29万人)
      • 健康保険法

    • 船員と家族(57万人)
      • 船員保険法

    • 国家公務員等と家族(474万人)
      • 国家公務員等共済組合法

    • 地方公務員等と家族(693万人)
      • 地方公務員等共済組合法

    • 私立学校教職員と家族(69万人)
      • 私立学校教職員共済組合法

    • 一般国民(4,529万人)
      • 国民健康保険法

  • 雇用保険

    • 一般被用者・日雇労働者(2,763万人)
      • 雇用保険法

    • 船員(14万人)
      • 船員保険法

  • 労働災害補償

    • 一般民間被用者(3,622万人)
      • 労働者災害補償保険法

    • 船員(17万人)
      • 船員保険法

    • 国家公務員(109万人)
      • 国家公務員災害補償法

    • 地方公務員(328万人)
      • 地方公務員災害補償法

  • 児童手当

    • 一般国民(受給者205万人)
      • 児童手当法

  • 公的扶助

    • 生活困窮者(受給者143万人)
      • 生活保護法

  • 社会福祉

    • 老齢者
      • 老人福祉法

    • 身体障害者
      • 身体障害者福祉法

    • 精神薄弱者
      • 精神薄弱者福祉法

    • 児童・母子世帯
      • 児童福祉法
      • 児童扶養手当法
      • 特別児童扶養手当法
      • 母子および寡婦福祉法
      • 母子保健法

  • 公衆衛生・医療

    • 老齢者
      • 老人保健法

    • 一般国民
      • 伝染病予防法
      • 結核予防法
      • らい予防法
      • 精神保健法
      • 予防接種法
      • 清掃法
      • 医療法
      • 薬事法
      • 医薬品副作用被害救済基金法
      • 水道法
      • 下水道法

2. 公的扶助と社会福祉制度

 第二次世界大戦直後には,大量の戦災者,在外者留守家族,戦災浮浪児,栄養不良児,失業している傷痍軍人などが発生し,これに対応すべく1950年(昭和25年)までに生活保護法,児童福祉法,身体障害者福祉法が成立し,福祉3法といわれる体系が一応整備された。生活保護法は経済的な保障を目的とする法であるが,個別処遇的な性格も強いので一般に福祉制度の中に含められている。1951年(昭和26年)には社会福祉事業全体にわたって,その範囲,行政組織,公私の役割分担等を定めた社会福祉事業法が制定されている。
 その後,救貧対策から防貧的対策への重点の移行の必要性が認識され,またよりきめ細かく国民各層の福祉ニーズに応える必要性が認識される中で,1960年(昭和35年)精神薄弱者福祉法,1963年(昭和38年)老人福祉法,1964年(昭和39年)母子福祉法〔1981年(昭和56年)母子および寡婦福祉法と改称〕が成立した。前記3法とあわせて福祉6法の時代といわれるようになった。
 1973年(昭和48年)のいわゆる石油危機を契機に,わが国の経済は低成長時代をむかえ,昭和50年代以降には国庫の歳出削減と,社会福祉サービスの利用者の費用負担の導入・拡大およびそれにともなう利用対象の拡大等を目的として,数々の改革が実施に移されつつある。このなかで昭和60年度からは,福祉施設への入所に要する費用に占める国の負担割合の引き下げ(従来の80パーセントを50パーセントへ)など,各種の福祉事業の補助率が下げられている。
 このように,本格的な高齢化社会の到来を前にして,また,障害者など福祉サービス利用者の真に健康で文化的な生活の実現を目指して,戦後成立した諸制度の本格的な改革に向けての検討がすすめられているのが近年の特徴である。


(図表7-2) 各種社会福祉施設数の分布―1986年10月1日
48,366か所=100%
保育所 47.3% 22,879か所
保育所以外の児童福祉施設 21.6% 10,418か所
精神薄弱者援護施設 2.5% 1,221か所
その他の社会福祉施設 15.9% 7,676か所
保護施設 0.7% 350か所
老人福祉施設 9.9% 4,787か所
身体障害者更生援護施設 1.8% 892か所
婦人・母子福祉施設 0.3% 143か所


(表7-1)社会福祉施設数・定員・在所者数・従事者数
施設種類 総数
施設数 定員 在所者数 従事者数
総数 48,366 2,577,788 2,278,429 558,665
保護施設 350 22,300 21,688 6,118
- 救護施設 169 15,238 15,951 5,239
更生施設 18 1,741 1,673 353
医療保護施設 69 19,752 15,253 16,986
授産施設 75 3,330 3,043 464
宿所提供施設 19 1,991 1,021 62
老人福祉施設 4,787 212,885 208,471 92,666
- 養護老人ホーム(一般) 902 66,359 63,650 17,682
養護老人ホーム(盲) 42 2,489 2,486 1,004
特別養護老人ホーム 1,731 127,233 126,332 61,110
軽費老人ホーム(A型) 248 14,994 14,420 3,662
軽費老人ホーム(B型)
老人福祉センター
38 1,810 1,583 235
軽費老人ホーム(B型)
老人福祉センター
1,826 - - 8,973
身体障害者更生援護施設 892 34,874 31,093 19,862
- 肢体不自由者更生施設 45 2,165 1,339 989
視覚障害者更生施設 16 1,674 1,308 503
聴覚・言語障害者更生施設 3 175 162 95
内部障害者更生施設 14 717 542 249
身体障害者療養施設 178 11,100 11,056 8,035
重度身体障害者更生援護施設 56 3,831 3,317 1,849
身体障害者授産施設 88 4,604 4,091 1,622
重度身体障害者授産施設 110 6,896 6,625 2,619
身体障害者通所授産施設 74 1,767 1,512 585
身体障害者福祉工場 23 1,365 1,143 369
身体障害者福祉センター(A型) 29 - - 392
身体障害者福祉センター(B型) 129 - - 1,454
障害者更生センター 8 580 - 165
補装具製作施設 34 - - 239
点字図書館 73 - - 557
点字出版施設 12 - - 140
婦人保護施設 55 1,889 846 578
児童福祉施設 33,297 2,148,505 1,887,925 382,058
- 助産施設 733 5,849 - 39,043
乳児院 122 4,057 2,885 3,603
母子寮 343 6,901 14,477 1,977
保育所 22,879 2,049,821 1,808,303 305,560
養護施設 538 34,877 30,211 12,070
精神薄弱児施設 319 21,562 18,331 11,553
自閉症児施設 8 380 318 564
精神薄弱児通所施設 215 7,770 6,066 3,463
盲児施設 26 1,322 598 514
ろうあ児施設 23 1,469 412 404
難聴幼児通園施設 25 845 699 362
虚弱児施設 34 2,057 1,684 801
肢体不自由児施設 73 9,043 6,852 7,100
肢体不自由児通園施設 71 3,000 2,275 1,317
肢体不自由児療護施設 8 425 264 232
重症心身障害児施設 58 6,306 5,945 7,399
情緒障害児短期治療施設 11 550 432 266
教護院 57 5,021 2,650 1,880
児童館 3,596 - - 15,265
児童遊園 4,158 - - 7,728
精神薄弱者援護施設 1,221 72,085 70,355 33,210
- 精神薄弱者更生施設(入所) 712 49,634 48,906 24,526
精神薄弱者更生施設(通所) 88 3,090 2,854 1,101
精神薄弱者授産施設(入所) 153 9,867 9,623 4,451
精神薄弱者授産施設(通所) 268 9,494 8,972 3,132
母子福祉施設 88 - - 565
- 母子福祉センター 60 - - 280
母子休養ホーム 28 - - 285
その他の社会福祉施設 7,676 85,250 58,051 23,608
- 授産施設 150 6,202 5,471 1,352
宿所提供施設 54 5,890 2,977 232
盲人ホーム 29 586 - 96
無料低額診療施設 234 50,939 39,593 45,656
隣保館 1,218 - - 4,439
へき地保健福祉館 237 - - 395
有料老人ホーム 111 10,538 7,504 1,972
老人憩の家 3,834 - - 6,894
老人休養ホーム 67 - - 1,043
精神薄弱者通勤寮 90 2,149 2,015 527
へき地保養所 1,628 59,645 39,879 6,603
精神薄弱者福祉ホーム 24 240 205 55
1 保護施設の定員,在所者数,従事者数には医療保護施設を含まない。
2 児童福祉施設の定員,在所者数には助産施設,母子寮を含まない。
3 児童福祉施設の従事者数には助産施設を含まない。
4 その他の社会福祉施設の定員,在所者数,従事者数には無料低額診療施設を含まない。
5 精神薄弱者更生施設(入所)には国立コロニーを含む。

資料 厚生省「社会福祉施設調査」(1987年「国民の福祉の動向」より)


2 社会リハビリテーションの現状

 ここでは障害者が社会生活をしてゆくうえで重要な所得の保障,住宅,社会福祉サービスなどについて紹介する。

1 所得保障

(1) 生活保護制度

 わが国の生活保護受給率は1986年度(昭和61年度)人口1,000対11.1となっているが,障害者の場合にはこれよりかなり高く,例えば,18歳以上の在宅の身体障害者の場合は人口1,000対49.4(昭和55年全国身体障害者実態調査)となっている。
 生活保護制度の生活扶助の中には障害者加算の制度として,障害者加算,重度障害者加算,および介護を要する場合に介護料(家族によるものと家族以外によるもの)が別に支給される。なお,住宅扶助は家賃・間代等として一般基準月額9,000円と定められているが,大都市などではこれで住宅を確保することは困難なため,地区別に特別基準が設けられている。次頁の表は,東京などの大都市圏で重度障害者を含む2人世帯で,他人に介護してもらっている場合の生活保護水準モデルである。

(表7-2) 重度障害者を含む2人世帯の生活保護水準の事例
生活扶助 100,001円
障害者加算 23,030
重度障害者加算 11,550
他人介護料 38,200
住宅扶助 9,000
合計(1ヵ月) 181,781

1) 1987年4月~
2) 大都市圏(1級地-1)
3) 65歳女と25歳男(重度障害)

(2) 障害年金

 障害に係わる年金の受給者は全体では約150万人(1984年=昭和59年年度末)いるが,その内訳をみると,国民年金の無拠出制の障害福祉年金が46パーセント,国民年金の拠出制の障害年金が21パーセントであり,国民年金関係が合計で67パーセントと,3分の2を占めている。その他は厚生年金(船員保険を含む)が17パーセント,傷痍軍人等への恩給が8パーセント,労働災害補償の障害年金が6パーセント,共済組合が2パーセントとなっている。
 1986年(昭和61年)4月からの年金制度の改正によって,この中の国民年金障害年金・障害福祉年金の受給者はそのまま障害基礎年金に移行し,厚生年金・共済組合関係の障害年金受給者は,その多くが障害基礎年金とともに障害厚生年金・障害共済年金を上乗せして受給することとなった。
 障害基礎年金は,公的な年金保険の種類に係わらず,被保険者であるときに初診日のある病気やけがにより一定の身体的または精神的な障害になり,かつ,加入期間の3分の2以上の期間に渡って保険料を納めているときに支給される。ただし20歳前に初診日のある障害については保険料納付要件に関わりなく20歳から障害基礎年金が支給される。
 障害者基礎年金の支給額は障害の程度によって1級は月額65,258円,2級は月額52,208円(いずれも昭和62年度)となっており,受給者によって生計を維持されている18歳未満の子(その子が重度の障害を持っている場合には20歳未満)がいるときは,さらに子の加算が支給される。その額は2人目までの子については1人につき月額15,658円,3人目以降については1人につき5,225円である。以上の年金額や子の加算は,年金保険加入後に障害者となった場合も加入する前に20歳未満で障害者となった場合も同様であるが,後者の場合は本人に一定額以上の収入があると支給されない。
 厚生年金加入者が加入期間中に初診日をもつ傷病のため一定程度以上の障害を持つこととなった場合,障害基礎年金と同じ保険料納付要件を満たしていれば障害厚生年金(1級,2級,3級)または障害手当金(一時金)が支給される。それぞれの計算式(年額)は次の通り。

障害厚生年金1級:平均標準報酬月額×7.5/1,000×被保険者月数×1.25
障害厚生年金2級:平均標準報酬月額×7.5/1,000×被保険者月数
障害厚生年金3級:平均標準報酬月額×7.5/1,000×被保険者月数
障害手当金:平均標準報酬月額×7.5/1,000×被保険者月数×2

 以上のうち1,2級の対象となる障害程度は障害基礎年金の1,2級と同一であり,障害基礎年金(1級または2級)に上乗せして給料や加入期間に比例した障害厚生年金(1級または2級)が支給されることになる。それより軽い障害程度の場合は障害厚生年金3級が単独で支給され,さらに軽い場合は一時金の障害手当金が支給される。3級については最低保障年額467,100円,障害手当金については最低保障934,200円が定められている。ただし1,2級には受給者に配偶者があるときは年額187,900円の加算があるが,3級や障害手当金にはない。なお上記の計算式で被保険者月数は300に足りないときは300として計算することになっている。
 共済組合などその他の被用者の年金保険の障害年金も,厚生年金と同様に障害基礎年金のうえに給料比例的な給付を行う仕組みになっている。
 以上のほか,心身障害児者の親が相互扶助に掛金を出し合い,国が事務費を補助して運営されている制度に心身障害者扶養保険がある。この制度では将来親が死亡したり,重度障害者になった場合に子に月額20,000円(2口加入の場合40,000円)が支給される。

(3) 障害に係わる手当制度

 特別障害者手当は,精神または身体に著しく重度の障害があるため日常生活において常時特別の介護を必要とする程度の障害の状態にある20歳以上の者に支給される。月額20,900円である。ただし,福祉施設に入所していたり,3か月以上病院に入院していたり,本人や家族の所得が一定以上であるときは支給されない。
 この特別障害者手当は従来の福祉手当の対象を縮小し支給額を増加させたものであるが,1986年度(昭和60年度)末に福祉手当を受給していた者で,61年度からの特別障害者手当の対象に該当せず,障害基礎年金も支給されない者に対して「経過措置による福祉手当」(月額11,650円)が支給されている。また従来の福祉手当は障害児福祉手当と改称され,20歳未満の重度障害児に月額11,650円支給されている。
 さらに20歳未満の障害児については特別児童扶養手当の制度があり,福祉施設等に入所している場合を除いて重度(1級)は月額41,100円,中等度(2級)は月額27,400円支給される。1986年度(昭和61年度)支給対象児数は約13万人であるから,かなり高い受給率といえる。
 このほか,児童扶養手当制度は,主として生別母子家庭に支給される手当で,障害児対策とは異なる分野の制度であるが,父親が障害を持っている場合にも支給され,支給期間は一般に児童が18歳になるまでとされているが,その児童が障害を持っている場合には20歳になるまで支給が延長される。支給額は児童が1人の場合月額33,900円,2人の場合38,900円,3人目以降1人当り2,000円ずつ加算される。児童扶養手当受給者の中で,父親が障害者であるための受給は全体の約3パーセント,約16,000人となっている。

(4) 地方自治体の独自の手当

 前記の制度は,国レベルの手当制度で全国一率に実施されているが,多くの自治体では独自に障害者・児関係の手当制度を設けて,障害にともなう経済的負担の軽減を図っている。1例として東京都の武蔵野市の場合を紹介しておく。東京都の実施しているものと武蔵野市の実施しているものとが含まれる。
 重度心身障害者手当(都制度)は,在宅の重度の精神薄弱者や寝たきり状態の身体障害者など,とくに重度の障害者に月額42,000円支給される。児童育成手当の障害手当(都制度)は,中等度以上の精神薄弱児,重度身体障害児および脳性マヒ児または進行性筋萎縮症児を育てている家庭に,月額11,000円支給され,同じく児童育成手当の育成手当(都制度)は,父または母が重度の障害を有し,義務教育終了前の児童がいる場合,児童1人につき月額9,000円支給されるものである。心身障害者福祉手当(都と市の制度)は,精神薄弱者と身体障害者に対して,年齢と障害程度によって,月額8,000円または11,000円支給するもので,このほか,これらの手当を受給できない難病患者のための難病者福祉手当(市制度)は,慢性肝炎や血友病などの患者に対して月額8,500円支給している。さらに老人福祉手当(市制度)として6か月以上寝たきり状態にある65歳以上の老人に対して,月額20,000円から35,000円までを支給する制度もある。

(5) 世帯更生資金制度

 低所得世帯や身体障害者のいる世帯に対して低利率で資金を貸し出し,これと平行して民生委員による指導援助を行い,これらの世帯の職業的経済的自立と生活の安定を図る制度である。資金の種類により貸付額や返還期間などが異なるが利率はすべて3パーセントである。

(表7-3) 世帯更生資金貸付条件一覧表
(1987年度)
資金の種類 貸付限度 据置期間 償還期限 備考
更生資金 生業費 生業を営むのに必要な経費
900,000円以内 1年以内 7年以内 特に必要と認められる場合
貸付限度:1,800,000円以内
支度費 就職するために必要な支度をする経費 75,000 6月 6年 -
技能習得費 生業を営み,または就職するために必要な知識
技能を習得するために必要な経費
月18,000 特に必要と認められる場合
貸付限度:220,000円以内(一括貸付) 貸付期間:6月(法令等において期間に定めのある場合その期間,最高3年)
身体障害者更生資金 生業費 身体障害者が生業を営むのに必要な経費 900,000 1年 9年 特に必要と認められる場合
貸付限度:3,200,000円以内
据置期間:1年6月
支度費 身体障害者が就職するために必要な支度をする経費 75,000 6月

8年
-
技能習得費 身体障害者が生業を営み,または就職するために必要な知識,技能を習得するのに必要な経費 月18,000 1年 特に必要と認められる場合
貸付限度:300,000円以内
(一括貸付)
貸付期間:更生資金の技能習得費に同じ
生活資金 低所得世帯または身体障害者世帯に対し,生業を営みもしくは就職するために必要な知識,技能を習得している期間中または負傷もしくは疾病の療養をしている期間中の生活を維持するに必要な経費 月53,000 6月 5年 特に必要と認められる場合
貸付限度:月81,000円以内
福祉資金 (1) 結婚,出産および葬祭に際し必要な経費
(2) 老人または身体障害者等が,日常生活の便宜を図るための器具の購入等を行うのに必要な経費
(3) 住居の移転に際し必要な経費
(4) 身体障害者が日常生活の便宜を図るための高額な福祉機器等の購入に必要な経費
170,000 6月 3年 貸付限度の区分
転宅費:120,000円以内
身体障害者福祉資金:500,000円以内(償還期間6年以内)
住宅資金 住宅を増築し,改築し,拡張し,補修し。保全し,または公営住宅法(昭和26年法律第193号)第2条第4号に規定する公営住宅を譲り受けるのに必要な経費 1,000,000 6月 6年 特に必要と認められる場合
貸付限度:1,500,000円以内
修学資金 修学費 低所得世帯に属する者が学校教育法に規定する高等学校(盲学校,ろう学校または養護学校の高等部および専修学校の高等課程を含む)短期大学(専修学校の専門課程を含む)大学または高等専門学校に就学するのに必要な経費 高校月22,000
高専月30,000
短大月34,000
大学月35,000
6月 20年 -
就学支度費 低所得世帯に属する者が高等学校,短期大学,大学または高等専門学校への入学に際し必要な経費 75,000 貸付限度の区分
高校 自宅通学 35,000円以内
高専 自宅外通学 47,000円以内
短大 自宅通学 47,000円以内
大学 自宅外通学 75,000円以内
私立高校入学時に要する経費で特に必要と認められる場合には,別に120,000円を限度として貸付ける。
療養資金 低所得世帯に対し,当該低所得世帯に属する者の負傷または疾病の療養(当該療養を必要とする期間が原則として1年以内の場合とする)に必要な経費として貸付ける資金 200,000 6月 5年 特に必要と認められる場合
貸付限度:360,000円以内
貸付期間:1年(特に必要と認められる場合,1年6月)
災害援護資金 低所得世帯に対し,災害を受けたことによる困窮から自立更生するのに必要な経費として貸し付ける資金 1,000,000 1年 7年 -

(注)
1.高等学校には,専修学校高等課程を,短期大学には,専修学校専門課程を含む。
2.貸付利子は,年3%。ただし,据置期間中および修学資金は無利子。
3.更生資金(生業費)および福祉資金については,本表によりがたい特別の事情がある場合には別に定めるところにより貸付する。

(6) 税金の減免

 所得保障に関連する制度として各種の税金の減額・免除の制度があり,主なものを表にして次ページ表7-4に示した。以上のほか,障害者の利用のための自動車税,盲人用テープレコーダー・時計などの物品税,車イス等の輸入にかかる関税,自動車税,自動車取得税などの減免がある。

左上、障害者と一般市民とが交流する音楽,スポーツ,レクリエーションなどの行事の様子、右上、車イスで洗濯物を干す様子、下、障害者の結婚と育児の様子。

左上、障害者と一般市民とが交流する音楽,スポーツ,レクリエーションなどの行事が各地でひらかれている。
右上、車イスで洗濯物を干す。肢体不自由者が利用できる公営住宅の増設が期待されている。
下、障害者の結婚と育児―結婚して子育てもする重度障害者が増えてきた。

政府が作成し配布した「身体障害者の利用を配慮した建築設計標準」

統合教育。全盲児とクラスの仲間。

統合教育。全盲児とクラスの仲間。


(表7-4) 障害者に係わる主な税金減免制度
種類 対象者 額等
所得税 特別障害者控除 重度障害者 33万円控除
障害者控除 上記以外の障害者 25万円控除
同居特別障害者扶養控除 重度障害者 14万円控除
住民税 特別障害者控除 重度障害者 26万円控除
障害者控除 上記以外の障害者 24万円控除
同居特別障害者扶養控除 重度障害者 8万円控除
非課税 年間所得100万円以下の障害者 非課税
事業税 非課税 重度視覚障害者のあんま・はり等の事業 非課税
相続税 控除 相続人が障害者 (70歳-障害者の年齢)×3万円を控除
控除 相続人が重度障害者 (70歳-障害者の年齢)×6万円を控除
贈与税 信託契約金銭の非課税 重度障害者 限度額3,000万円


2 住宅・日常生活用具

(1) 住宅の保障

 住宅を確保することの困難な障害者世帯のために,公営住宅の優先入居(当選確率を一般より高くする),心身障害者世帯のための特定目的公営住宅の建設(昭和61年度346戸),公団住宅への優先入居,住宅金融公庫からの貸付金の優遇措置(対象面積や融資額の割増し),等の対策が実施されている。以上の住宅の確保のための施策のほか,身体障害者住宅改造指導援助事業として,住宅改造に関する設計・融資・関係法規についての相談に応じて必要な助言を行うサービスや,その改造費用を低
利で融資する障害者住宅整備資金の貸与(年金積立金還元融資・貸付限度額202万円)などがある。

(2) 日常生活用具の給付・貸与

 重度障害者の日常生活がより自立的に円滑に行われるようにするために,必要な用具を給付(一部は貸与)する事業である。年々種類が広がり現在29品目となっている。低所得の世帯は無料で給付を受け,そのほかの世帯は所得により一部または全額を負担することになっている。(次ページ表7-5の中の福祉電話とミニファックスの2品目は貸与で,あとは給付)
 このほか重度障害者が自立的な生活を営むために必要な福祉機器を開発する通産省内の新住宅開発プロジェクト(高齢者・障害者ケアシステム技術開発グループ)が組まれ,水平方向トランスファーシステム,昇降システムなどが開発され,それを利用するために日本開発銀行からリース料を融資する制度もできた。これらの福祉機器の利用のための相談や情報提供を行う福祉機器等相談事業も始められた。


(表7-5) 日常生活用具の給付・貸与
(件数は,1985年度,身体障害者分)
区分 種目 障害および程度 性能 件数
肢体不自由者向 1.浴槽 下肢または体幹機能障害2級以上 障害者が容易に使用し得る洋式浴槽またはこれに準ずるものとし,実用水量150l以上のもの 1,893
2.湯沸器 下肢または体幹機能障害2級以上 常温において水温を25℃上昇させたとき,毎分10リットル以上給湯できるもの 1,735
3.便器 下肢または体幹機能障害2級以上 障害者が容易に使用しうるもの。(手すりをつけることができる) 1,769
4.特殊便器 上肢障害2級以上 足踏ペダルにて温水温風を出しうるもの 408
5.特殊マット 下肢または体幹機能障害1級(常時介護を要する者に限る) 褥創の防止または失禁等による汚染または損耗を防止できる機能を有するもの 2,840
6.特殊寝台 下肢または体幹機能障害2級以上 腕,脚等の訓練のできる器具を付帯し,原則として使用者の頭部および脚部の傾斜角度を個別に調整できる機能を有するもの 5,917
7.電動タイプライター 上肢障害2級以上または言語・肢体複合障害2級以上(文字を書くことが困難なものに限る) 障害者が容易に使用し得るもの(プロテクター等を付帯することができる) 620
8.電動歯ブラシ 上肢障害2級以上(手動歯ブラシの使用が困難な者) 障害者または介護者が容易に使用し得るもの 126
9.特殊尿器 下肢または体幹機能障害1級以上(常己介護を要する者に限る) 排泄された尿がセンサー等で感知され,モーター等により自動的に吸引されるもので障害者が容易に使用し得えるもの 305
10.入浴担架 下肢または体幹機能障害2級以上(入浴に当って,家族等,他人の介助を要する者に限る 障害者を担架に乗せたままリフト装置により入浴させるもの 134
11.体位変換器 下肢または体幹機能障害2級以上(下着交換等に当たって家族等他人の介助を要する者に限る) 介助者がテコの原理を利用して障害者の腰部等を容易に持ち上げられるもの 30
盲人向 12.盲人用テープレコーダー 視覚障害2級以上 視覚障害者が容易に使用し得るもの 2,950
13.盲人用時計 視覚障害2級以上(なお音声時計は,手指の触角に障害がある等のため触読式時計の使用が困難な者を原則とする) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 3,216
14.盲人用タイムスイッチ 視覚障害2級以上(盲人のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 102
15.盲人用カナタイプライター 視覚障害2級以上 視覚障害者が容易に使用し得るもの 558
16.点字タイプライター 視覚障害2級以上(本人が就労もしくは就学しているかまたは就労が見込まれる者に限る) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 680
17.盲人用電卓 視覚障害2級以上(就労している者。主婦またはこれに準ずる者を原則とする) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 617
18.電磁調理器 視覚障害2級以上(盲人のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 1,070
19.盲人用体温計(音声式) 視覚障害2級以上(盲人のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 2,845
20.盲人用秤 視覚障害2級以上(盲人のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 視覚障害者が容易に使用し得るもの 132
ろうあ者向 21.サウンドマスター 聴覚障害2級(乳幼児を養育する者に限る) 音・音声および言語を視覚・触覚で知覚できるもの 261
22..聴覚障害者用目覚時計(バイブラーム) 聴覚障害2級(本人が就労しており,かつ,聴覚障害者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 震動により知覚できるもの 642
23.聴覚障害者用屋内信号灯(パトライト) 聴覚障害2級(聴覚障害者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 来訪者の呼び出し等を光の点滅により知覚できるもの 917
24.ガス警報器 喉頭摘出等により嗅覚機能をそう失した者(喉頭摘出等により嗅覚機能をそう失した者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) ガス漏れを音等により容易に知覚できるもの 21
内部障害者向 25.透析液加温器 じん臓機能障害3級以上で自己連続携行式腹膜潅流法(CAPD)による透析療法を行う者 透析液を加温し一定温度に保つもの 61年度から
共通 26.火災警報器 障害等級1,2級(障害者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 室内の火災を煙または熱により感知し音または光を発し外にも警報ブザーで知らせうるもの 412
27.自動消火器 同上 室内温度72℃または炎の接触で自動的に消火液(3リットル)を噴射し初期火災を消火し得るもの 550
28.福祉電話 難聴者または外出困難な身体障害者(原則として2級以上)であってコミュニケーション緊急連絡等の手段として必要性があると認められる者(障害者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 障害者が容易に使用し得るもの 688
29.ミニファックス 聴覚または音声・言語機能障害3級以上であって,コミュニケーション,緊急連絡等の手段として必要性があると認められる者(電話〈難聴者用電話を含む〉によるコミュニケーション等が困難な障害者のみの世帯およびこれに準ずる世帯) 障害者が容易に使用し得るもの 706


3 障害者のための社会福祉施設

 心身障害者のための社会福祉施設には多くの種類があるが,その中心は身体障害者福祉法による身体障害者更生援護施設(18歳以上の身体障害者対象),精神薄弱者援護施設(主として18歳以上の精神薄弱者対象),児童福祉法による心身障害児のための児童福祉施設(主として17歳以下の心身障害児対象)の3グループである。このように17歳以下の児童と18歳以上の成人とに大別されてはいるが,17歳以下でも社会復帰訓練のために必要な場合は成人の施設に入所することも認められており,また,18歳を過ぎても成人施設に空きがない等で退所できない場合は,ひきつづきこの施設に入所を続けることも認められており,一部の施設では児・者が共に入所している。
 これらの本来の障害児・者施設とは別に,重度の心身障害をもつ老人が特別養護老人ホームに入所しており,また,心身の障害を持つ生活困窮のための生活保護法による救護施設にも多数の障害者が入所している。このように老人福祉法,生活保護法など他法による施設や,精神薄弱者通勤寮のように法的根拠を持たず予算措置で運営されている施設にも障害者が入所している。
 1987年(昭和62年)に成立した精神保健法では,精神病院等を退院した精神障害者の社会復帰のための施設として,精神障害者援護寮,福祉ホーム(以上,生活訓練施設),通所授産施設(作業施設)を規定しており,1988年度(昭和63年度)より発足することになっている。
 以上の各種施設に入所・通所している心身障害児・者は25万人を越えており,その数は増加しつつある。
 障害者のための福祉施設はいろいろな角度から分類される。例えば,根拠となる法律の種類によって(身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法など),対象となる障害の種類によって(例えば身体障害者更生援護施設には,さらに視覚障害者更生施設,内部障害者更生施設などがある),障害の程度によって(身体障害者授産施設と重度身体障害者授産施設など),対象者の年齢によって(児童,成人,老人),そこで提供されるサービスの性格によって(更生施設,生活施設,作業施設など),24時間そこで生活する入所型か,自宅から昼間かよう通所型かという入所形態によって(精神薄弱者更生施設の入所型と通所型など),入所が行政(福祉事務所)からの措置によるか,利用者との間の契約によるかによって,さらに,その施設を運営する主体によって(公営か民間の社会福祉法人か等)などである。
 近年の障害者施設の主な動向を見ると,168ページ図表7-3に示したように障害児の施設数は重症心身障害児施設などを除くと全体として減少傾向にある。これは障害児数の減少,学校教育の整備,統合保育などの進展,在宅志向の高まりなどを反映したものと思われる。逆に成人の身体障害者や精神薄弱者の施設は全体として急速に伸びており,とくに重度障害者の生活施設,授産(作業)施設,また,通所タイプの施設の伸びが著しい。この背景には家庭で生活することの困難な障害者,民間企業で働くことの困難な障害者の急速な増加がある。
 作業のための入所・通所の授産施設の著しい伸びと平行して,いわゆる無認可の小規模作業所の伸びがさらに著しく,公的な授産施設の約2倍となっている。これは養護学校を卒業したり,精神病院を退院したりしたものの,民間企業には就職できず,かといって公的な授産施設は数が足りず,かつ異なる種類の障害者の共同利用が一般的には認められず,あるいは,障害が重すぎて入所させてもらえないためである。
 また,成人の重度障害者のための生活施設・更生施設は一般に定員が50人となっており,どうしても大規模化して地域社会から離反しがちであるが,近年小規模な生活施設が広がり始めている。精神薄弱者福祉ホーム,身体障害者福祉ホーム,精神障害者援護寮,精神障害者福祉ホームなどが国レベルのこの種の制度であるが,これ以外に民間や地方自治体の独自の事業として数多く作られ,全国で数百か所におよんでいるものと思われる。


(図表7-3) 障害児者の福祉施設の数の変化 

身体障害者施設
施設 内容 1970年 1980年 1986年
肢体不自由者更生施設 肢体不自由者を入所させて,その更生に必要な治療・訓練を行う (か所)
50
(か所)
51
(か所)
45
視覚障害者更生施設 視覚障害者を入所させて,その更生に必要な知識・技能・訓練を与える 13 13 16
聴覚・言語障害者更生施設 聴覚・言語障害者を入所させて,その更生に必要な指導・訓練を行う 3 4 3
内部障害者更生施設 内臓の機能に障害のある者を入所させて,医学的管理のもとに,その更生に必要な指導・訓練を行う 28 21 14
身体障害者療護施設 常時の介護を要する身体障害者を入所させ,治療・養護を行う 0 109 178
重度身体障害者更生援護施設 重度の肢体不自由者を入所させて,その更生に必要な治療・訓練を行う 18 39 56
身体障害者授産施設 雇用されることの困難な身体障害者を入所させ,必要な訓練をし,職業を与え自活させる 59 76 88
重度身体障害者授産施設 雇用されることの困難な重度の身体障害者を入所させ,必要な訓練をし,職業を与え自活させる 12 79 110
身体障害者通所授産施設 雇用されることの困難な身体障害者を通所させ,必要な訓練をし,職業を与え自活させる 0 8 74
身体障害者福祉工場 重度の身体障害者で,作業能力はあるが職場の設備・通勤事情等により雇用されることの困難な者に職場を与える 0 19 23

精神薄弱者施設
施設 内容 1970年 1980年 1986年
精神薄弱者更生施設(入所) 18歳以上の精神薄弱者を入所させ,保護するとともにその更生に必要な指導訓練を行う (か所)
0
(か所)
476
(か所)
712
精神薄弱者更生施設(通所) 18歳以上の精神薄弱者で通所させ,保護するとともにその更生に必要な指導訓練を行う 0 39 88
精神薄弱者授産施設(入所) 18歳以上の精神薄弱者で雇用されることの困難な者を入所させ,自活に必要な訓練を行い,職業を与える 0 101 153
精神薄弱者授産施設(通所) 18歳以上の精神薄弱者で雇用されることの困難な者を通所させ,自活に必要な訓練を行い,職業を与える 0 107 268
精神薄弱者通勤寮 通勤している精神薄弱者を一定期間入所させ,対人関係の調整,余暇の活用,健康管理等独立自活の指導をする 0 63 90


障害児施設
施設 内容 1970年 1980年 1986年
精神薄弱児施設 精神薄弱児を入所させて,保護し,独立自活に必要な知識・技能を与える (か所)
315
(か所)
349
(か所)
319
精神薄弱児通園施設 精神薄弱児を通所させて,保護し,独立自活に必要な知識・技能を与える 96 217 215
盲児施設 盲児(強度の弱視児を含む)を入所させて,保護し,独立自活に必要な指導援助をする 32 29 26
ろうあ児施設 ろうあ児(強度の難聴児を含む)を入所させて,保護し,独立自活に必要な指導援助をする 37 29 23
難聴幼児通園施設 難聴幼児を通園させ残存能力の開発および言語障害の除去に必要な指導訓練を行う 0 13 25
虚弱児施設 身体の虚弱な児童に適正な環境を与えて,その健康増進をはかる 34 33 34
肢体不自由児施設 肢体不自由児を治療し,独立自活に必要な知識・技能を与える 75 76 73
肢体不自由児通園施設 肢体不自由児を通所により治療し,独立自活に必要な知識・技能を与える 13 57 71
肢体不自由児療護施設 入院を要しない肢体不自由児で,家庭での養育が困難な者を入所させる 0 7 8
重症心身障害児施設 重度の精神薄弱と重度の肢体不自由が重複している児童を入所させて保護し,治療し,日常生活の指導をする 25 48 58
情緒障害児短期治療施設 軽度の情緒障害をもつおおむね12歳未満児を短期入所させ,または通所させ,その情緒障害をなおす 6 11 11


4 在宅障害者の介助サービス

 重度障害者が地域社会で生活してゆくうえで,食事などの日常生活動作の介護(介助)と買物など家事動作の援助は,もっとも基礎的に必要とされるサービスである。このような介助サービスの中心的位置を占めるのは家庭奉仕員制度であり,家庭奉仕員は重度の身体障害者の家庭に派遣されて,食事の世話,被服の洗濯,掃除,買物,身の回りの世話,通院介助などの家事・介護,その他相談・助言指導を行うこととされている。原則として1日3時間,1週間に18時間を上限とするとされているが,現状では家庭奉仕員数の不足もあって週1,2回の派遣が多いようである。低所得者は無料で派遣されるが,所得によって費用負担がある。家庭奉仕員の数は,1987年度(昭和62年度)予算では老人に対する家庭奉仕員などを合わせて約25,000人となっている。
 このほか,盲人に対して,公的機関や医療機関など社会生活上不可欠の外出に際して派遣される盲人ガイドヘルパー制度,単独外出が困難な脳性マヒ者等の全身性障害者の外出等に際して派遣される脳性マヒ者等ガイドヘルパー制度なども,在宅障害者に対する介助サービスとして設けられている。
 以上の制度は,介助者が障害者の家庭に派遣されて,かつ日常的にサービスを提供するものであるが,これらとは異なって,重度障害者を介助している家族が病気,出産,事故,親族の危篤,冠婚葬祭などのために一時的に世話できなくなった場合に,障害者を身体障害者施設に入所させる,在宅身体障害者ショートスティ(短期保護)事業(原則として7日以内)もある。
 以上のほか,一部の自治体では在宅障害者のために入浴サービス,食事サービス,理髪サービスなどを実施している。


(表7-6) 障害者社会参加促進事業
援護の種類 内容
視覚障害者向けサービス 1.点訳・朗読奉仕員養成事業 視覚障害者の福祉に理解と熱意を有する者に対し点訳又は朗読の指導を行い,点訳又は朗読奉仕員を養成する。
2.盲婦人家庭生活訓練事業 盲婦人に対し,家庭生活に必要な日常生活訓練を行う。
3.盲人ガイドヘルパー派遣事業 重度の視覚障害者で外出が必要不可欠なときにおいて支障がある場合に派遣し,付添いを行う。
4.盲青年社会生活教室開催事業 重度の盲青年に対し,社会生活に必要な知識の習得や体験交流等のための講習会を行う。
5.盲導犬育成事業 就業の見込みのある重度視覚障害者の社会参加を促進するため盲導犬の飼育訓練等を行う。
6.中途失明者緊急生活訓練事業 中途失明者の将来の生活の方途を見出すために必要な助言,指導ならびに自立生活に必要な前訓練としての感覚訓練・点字指導等を行う。
聴覚言語障害者向けサービス 7.手話奉仕員養成・派遣事業 聴覚障害者の福祉に理解と熱意を有する者に対し,手話等の指導を行い,手話奉仕員を養成するとともに,公的機関等に赴くことが必要不可欠なときにおいて,円滑な意思の疎通を図るうえで支障がある場合に派遣する。
8.手話通訳設置事業 聴覚障害者の家庭生活,社会生活におけるコミュニケーションを円滑に行わせるため,手話通訳者を設置する。
9.音声機能障害者発声訓練事業 喉頭摘出により音声機能を喪失した者に対し,発生訓練を行う。
10.ろうあ者日曜教室開催事業 ろうあ者の社会生活に必要な知識,あるいは意見等を交換するための研修の場を設ける。
11.要約筆記奉仕員養成事業 聴覚障害者の福祉に理解と熱意を有する者に対し,手話習得の困難な中途失聴者,難聴者のコミュニケーション手段としての要約筆記奉仕員を養成する。
12.要約筆記奉仕員派遣事業 中途失聴者,難聴者で手話を理解できない者に対し,会議等における会話を的碓に要約し,同時通訳する要約筆記奉仕員を派遣する。
脳性まひ者向けサービス 13.脳性まひ者等ガイドヘルパー派遣事業 重度の脳性まひ者等で外出が必要不可欠なときにおいて支障がある場合に派遣し,付添いを行う。
ぼうこう又は直腸の障害者向けサービス 14.オストメイト(人工肛門,人工膀胱造設者)社会適応訓練事業 ストマ用装具の装着者を対象に,ストマ用装具の使用等について正しい知識を付与し,ストマ用装具使用等による不安を解消し社会復帰を促進する。
15.身体障害者生活環境改善事業 身体障害者の住みよい環境づくりを促進し,日常行動に役立つ各種の情報資料の提供等を行う。
16.身体障害者生活行動訓練事業 身体障害者に対して点字・手話等の講習,義肢装着訓練,レクリエーション等を組織的に行う。
17..社会通信教育受講促進事業 文部省が認定した社会通信教育課程を受講する者に対して,入学金・受講料を補助する。
18.自動車操作訓練事業 身体障害者が運転免許の取得により,就職条件等を改善できるよう自動車教習所における訓練費用を補助する。
19.身体障害者用自動車改造助成事業 身体障害者が就労等に伴い自動車を取得する場合,その自動車の改造に要する経費を助成する。
20.身体障害者結婚相談事業 身体障害者の結婚に関する各種相談に応じ,必要な助言,指導を行う。
21.身体障害者スポーツ大会開催事業 各都道府県が身体障害者スポーツ大会を開催する。
22.身体障害者相談員活動推進事業 身体障害者福祉団体に身体障害者相談活動推進員を設置し,身体障害者相談員の指導,研修等を行う。
23.障害婦人健康指導教室開催事業 障害婦人に対して,日常生活における健康管理等の指導を行うとともに出産・育児等家庭生活に必要な知識の習得や体験交流等が行える場を設ける。
24.身体障害者福祉週間推進事業 身体障害者福祉週間をより意義あるものとするため,本週間中に各種啓発広報活動行事を行い,地域住民が身体障害者問題についての理解と認識を深める。
25.身体障害者スポーツ教室開催事業 身体障害者のためのスポーツ教室を開催し各種スポーツ,スポーツの心構え等を習得させることにより,スポーツに親しませ,スポーツを通じて社会参加への機会をつくる。
26.身体障害者住宅改造指導援助事業 身体障害者または,その家族が住宅を新築改造する場合,設計・融資・関係法規の相談に応じ,必要な助言,指導を行い,身体障害者の住みよい家づくりに資する。
27.身体障害者自営等就労指導援助事業 身体障害者が自営してより自立することを希望する場合に,職種,制度,設備,融資等の各種相談に応じ,助言・指導を行い,自立就労の促進を図る。
28.身体障害者に対する福祉機器相談等事業 身体障害者やその家族に対し福祉機器の利用に関する各種相談に応じ,助言や情報提供を行い,在宅障害者の自立援助,その家族の介護負担の軽減を図る。


5 障害者の社会参加のためのサービス

 障害者が地域社会の諸活動に参加してゆくための各種サービスが実施されている。多くのメニューからなる障害者社会参加促進事業を始め,障害者の生活環境改善や市民啓発等を各自治体レベルで総合的に行うための「障害者の住みよいまち」づくり推進事業,就労の機会が得られない重度障害者が身体障害者福祉センター等に通って相談・講習会・創作活動・レクリエーションなどを行う在宅障害者デイサービス事業,スポーツ活動への参加を促すための身体障害者スポーツ指導員・審判員の養成や全国身体障害者スポーツ大会の実施,ボランティア活動の育成・組織化を促すボラントピア事業,公共健築物・道路・交通機関等を障害者が利用しやすいように改善する取り組み,点字・録音図書の作成・提供,テレビジョン文字多重放送の実施などである。
 障害者の移動・交通に係わる経済的負担を軽減するために,JR運賃・国内航空運賃・高速道路料金等の割引などが行われ,また多くの自治体ではタクシー料金や自動車ガソリン代の一部補助を行っている。
 障害者社会参加促進事業は,国の財政的補助を受けて,都道府県・政令指定都市が地域の実状に応じた種目を選んで実施するもので,1987年度(昭和62年度)には28種目が用意され,年々きめ細かく拡充されてきている。

〔参考文献〕

「体の不自由な人びとの福祉’86」 全国社会福祉協議会発行
「社会福祉の動向’87」 全国社会福祉協議会発行
「精神薄弱者問題白書 1987年版」 日本文化科学社
「国民の福祉の動向」 昭和62年 厚生統計協会


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主題:
日本のリハビリテーション  No.8
151頁~172頁

発行者:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

編集:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:
1992年8月31日

文献に関する問い合わせ先:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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