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第3回国連障害者の権利条約特別委員会

作業部会草案の重要条項についてのJDF(日本障害フォーラム)の意見提起(案)

JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

項目 内容
作成年月日 2004年5月14日

【討議資料】

はじめに

本討議資料は、先にJDF(日本障害フォーラム)準備会として外務大臣宛に提出した「障害者権利条約・国連作業部会草案に関する意見書」(4月28日付)をもとに、国連作業部会草案(以下、草案と略)において、重要事項について記述している各条項に対して修正等の意見提起を行ったものである。
草案の条項について意見提起を行う際には、以下の3点にそっている。

  1. 修正の必要がある条項については、当該の「草案原文」と、それに対する「修正文案」または「削除」を提示し、その理由、コメントを付記している。
  2. 問題がない条項についても、草案脚注に代替案が付されている場合には、「問題なし」の積極的理由、コメントを付したものがある
  3. 条項によっては、文言の内容や解釈が必ずしも明らかでない場合もあるため、「修正案」とせずに、今後検討すべき新たな案を提起するという意味で「修正可能性あり」として、「コメント」を付している。

本討議資料が、障害者権利条約の策定に関する第3回特別委員会(5月24日~6月4日)に臨むにあたって、政府とNGO双方の立場から討議資料として活用されることを期待したい。

◆ 草案前文

*前文(d)

「草案原文」

「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにすべての移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する国際条約を改めて確認し」

「理由」

「移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する国際条約」に言及すべきでない、との見解が作業部会で見られた。しかし、同条約はすでに効力を生じている国際人権条約の一つであるから、他の現行人権諸条約と並んで言及すべきである(草案注2参照)。

*前文 (g) :修正可能性あり

「草案原文」

「障害のある人の多様性を認め」

「コメント」

この段落は、「障害のある人の多様性the diversity of persons with disabilities」を認めるものである。この文言に追加して、草案第2条(d)に規定されている「人間の多様性human diversity」について、この段落で言及すべきか検討する余地がある。つまり、「人間の多様性及び障害のある人の多様性を認め」とすべき否かである。
ただし、この議論の前提として、「障害のある人の多様性」と「人間の多様性」とが、どのような意味で異なる概念であるかを明らかにする必要がある(両者には重複する側面があるように思われる)。

*前文 (i) :修正可能性あり

「草案原文」

「障害のある人の人権及び基本的自由の完全な享有を促進するため、国際協力が重要であることを強調し」

「コメント」

作業部会では、前文において国際協力に言及すべきでないという意見が見られた(草案注3参照)。しかし、たとえば子どもの権利条約の前文に照らしても、このような考え方は妥当でなく、本条約前文では国際協力に言及すべきである。子どもの権利条約前文13段は「あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認め」と規定している。
この子どもの権利条約前文13段の類似規定として、草案前文(i)に関して「すべての国特に途上国における障害のある人の生活状況を改善するため国際協力が重要であることを認め」という代替案が作業部会で提起された(草案注4参照)。
今後は、

  1. 現在の草案前文(i)を維持するか、
  2. 草案注4に記された代替案を採用するか、
  3. 両者を併記するか、を検討すべきである。

1よりも2の方が、障害者の人権に関する本条約の趣旨に照らして相応しいとも考えられるが、両者を併記した3を新たな代替案も考えられる。つまり、「障害のある人の人権及び基本的自由の完全な享有を促進し、かつ、すべての国特に途上国における障害のある人の生活状況を改善するため、国際協力が重要であることを強調し」という代替案である。

*前文 (K) :修正可能性あり

「草案原文」

「障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自己の選択を行う自由を含む。)が重要であることを認め」

「コメント」

 この「代替案」は、「自己決定」をめぐって、草案第2条(a)と関連するため、ここでのコメントは省略する(草案第2条(a)のコメントを参照)。

◆草案第1条(目的):問題なし

「草案原文」

「この条約は、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に、効果的に、かつ、平等に享有することを確保することを目的とする」

「コメント」

草案第1条に関しては、とくに二つの代替案が見られた。一つは、国際協力を含めるという代替案である(草案注7参照)。この代替案は、条約テキストのどの箇所に国際協力を盛り込むべきか、という論点とも関連する(作業部会報告付属書II参照)。国際協力の重要性は言うまでもないが、国際協力が障害者の人権保障それ自体ではなく、そのための手段であると考えれば、草案第1条以外で国際協力に言及することが妥当であるように思われる。
草案第1条に関するもう一つの代替案は、「この条約は、障害のある人の権利を保護し及び促進することを目的とする」という簡潔な文言にすることである(草案注8参照)。この代替案よりも、草案第1条の文言の方がより具体的であり妥当であると考えられる。
したがって、とくに新たな代替案が提起されない場合、草案第1条のママで問題はないと考えられる。

◆草案第2条(一般的原則)

*(a) :修正可能性あり

「草案原文」

「尊厳、個人の自律(自己の選択を行う自由を含む。)及び人の自立」

「コメント」

たしかに国際条約の文脈において自己決定self-determinationは、民族の「自決self-determination」との混同が生じるという指摘が作業部会でなされたことに留意すべきである。しかし、自己決定self-determinationは、障害者の人権にとって重要な概念であるため、この条約の原則の一つに加えることを再度検討する必要がある。
自己決定という言葉を第2条に含める場合、たとえば、「個人の自律及び自己決定」と表記することや、「個人の自律(自己の選択を行う自由及び自己決定を含む。)」と標記することも可能であるのかもしれない。
ただし、1.「自律」を削除して「自己決定」を規定すべきか否か、という議論も有り得るのかもしれない。また、2.「自律」という文言の中に「自己決定」概念を読み込むことも可能であり、その場合には「自己決定」という用語を追加する必要がないかもしれない。これと関連して、3.「自律(自己の決定を行う自由を含む)」という文言に「自己決定」を含める解釈も成り立つのか検討する必要がある。さらに、4.「自律」や「自己決定」の主体には、障害者個人のみならず、障害者集団も含まれるのか、今後とも検討する必要がある。加えて、5.「自己実現self-realization」や「自己統治self-governing or self-governance」という用語を追加すべきか否かも検討する必要がある。

*(c) :修正可能性あり

「草案原文」

「すべての生活面への平等な市民及び参加者としての障害のある人の完全なインクルージョン」

「コメント」

草案2条(c)に関して、まず、

  1. 「市民」という用語が、外国籍の障害者等を排除することにもつながるか否か、検討すべきである。また、
  2. 「すべての生活面への」という文言がどのような意味を持つのかを明らかにすることが必要である。

これらの二つの文言が制限的で否定的な含意を持つ場合にはこれを削除して、新たな文言を考える必要がある。

*その他 :修正可能性あり

「コメント」

以上に加えて、草案第2条に関しては、1.「国際協力」を草案第2条に含めるべきか否か、2.「機会の平等」を「実質的平等」ないし「実質的な機会の平等」という言葉にすべきか否か、も検討する必要がある。

◆草案第3条(定義)

*「障害(ディスアビリティ)」

【草案注12】

「作業部会の多くの構成員は、条約が障害(すなわち、すべての種別の障害)のあるすべての人の権利を保護すべきであることを強調して、「障害」という語は広く定義されるべきであると提案した。構成員の中には、障害の複雑性や条約の範囲を制限する危険性を考慮すれば、この条約には「障害」の定義を含めるべきでないとの見解を表明した者もいる。他の代表の中には、国際的文脈で用いられている既存の定義(世界保健機関の国際生活機能分類を含む。)を指摘した者もいる。定義が含まれる場合には、障害の医学モデルでなく、障害の社会モデルを反映する定義とすべきであることに一般的な合意が得られた。」

「コメント1」

作業部会において、「障害」(ディスアビリティ)の定義は、「障害の医学モデル」ではなく「障害の社会モデル」に基づくべきであるとのコンセンサスが得られたこと(草案注12参照)は決定的に重要であり、この点を議論の前提としなければならない。
ただし、「社会モデル」に基づき、「障害(ディスアビリティ)」の定義の中に、個人のインペアメントに加え社会的障壁の要素も含める場合には、「障害」と「障害のある人」と「障害を理由とする差別」のそれぞれの定義が、内容面において重複する帰結になることに留意すべきである。

「コメント2」

他方、現実にあるインペアメントのみを「障害(ディスアビリティ)」と定義すると、「社会モデル」の視点が欠落する帰結となる。さらに、かかる定義においては、「ユニークフェイス」(顔面に疾患・外傷のある人でつくるセルフヘルプグループ)の人やAIDSを発症していないHIVポジティブの人、過去に障害の経歴があった人などが排除される。よって、現実にあるインペアメントを障害(ディスアビリティ)と定義する場合であっても、「ユニークフェイス」の人などが、本条約の適用範囲から抜け落ちないようにしなければならない。そのためには、「社会モデル」の視点を取り入れて、「障害」、「障害のある人」、「障害に基づく差別」の定義のいずれかの中に「みなし規定」等を入れることが必要である(米国障害者法、草案7条2項(b)等参照)。

【ADA(米国障害者法)】

「『障害(ディスアビリティ)』とは、個人に関して、次のことをいう。

  1. 当該個人の一つ以上の主たる生活活動を実質的に制約する身体的若しくは精神的な機能障害(インペアメント)、
  2. 当該機能障害の経歴、又は
  3. 当該機能障害を持つと見なされる状態」。

【草案第7条2項(b)】

「差別は、あらゆる形態の差別(直接的、間接的及び体系的な差別を含む。)を含むものとし、また、現実にある障害又は認識された障害を理由とする差別を含むものとする。」

「コメント3」

「障害」の定義について議論を進めるに当たっては、

  1. 社会モデルの視点を十分に念頭に置くこと、
  2. 障害という用語を広く定義すること、
  3. 現実にあるインペアメントに限定されないことについて十分注意しなければならない。

また、「障害」、「障害のある人」「障害を理由とする差別」のそれぞれの定義の相互関連性・整合性という点にも十分留意すべきである。

*「障害を理由とする差別」

「コメント」

「合理的配慮」の定義は、草案第7条4項に置かれているが、ここで定義されている理由は必ずしも明らかではない。各種定義を包括的に列記している草案第3条において「合理的配慮」を定義することが適当であると考えられる。その上で「合理的配慮」の否定が障害差別であることを明記するべきである。

*「言語」は、口及び耳による言語並びに手話を含む。

「コメント」

言語の定義(第3条関係)については、手話は言語であるという基本認識に立ち、言語権の保障という観点から自由権規約第27条との関連性を踏まえ、手話を公用語として位置づけることが必要である。
参考:【自由権規約第27条(少数民族の権利)】
「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」

*「合理的配慮」

「コメント1」

「合理的配慮reasonable accommodation」は、6大人権条約に見られない概念であるが、米国障害者法(1990年)やEU平等取扱い指令(2000年)などに見られるように、障害者法体系に必須のものとして国際社会で広く受け入れられつつある。したがって、「合理的配慮」は本条約に明確に規定されることが不可欠であると考えられる。

「コメント2」

「合理的配慮」という用語は、作業部会草案の実体規定においては、第3条(定義)、第7条(平等及び非差別)、第17条(教育)、第22条(雇用)で明記されている。少なくとも、これら4つの条文で明記された「合理的配慮」という文言自体は削除されるべきでない。

「コメント3」

「合理的配慮」の定義は、草案第7条4項に置かれているが、ここで定義されている
理由は必ずしも明らかではない。実体規定全般に関わる概念であることから,各種定義を
包括的に列記している草案第3条,または,締約国の一般的義務を定める草案第4条にお
いて「合理的配慮」を定義することが適当であると考えられる。

◆草案第4条(一般的義務)

*第3条の「コメント3」と同じ

*合理的配慮との関係について、新しいパラグラフを追加することが必要

「コメント1」

「合理的配慮」の否定が公的分野か私的分野かを問わず障害差別であることを認めて、「合理的配慮」を提供するための締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことを条文中に明記すべきである。

「コメント2」

条約上の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことについては,草案の各条文ごとに規定するよりは,条約の実体規定全般に関わることから,「定義」または「締約国の義務」に関する規定に含めて規定するべきである。

【参考:人種差別撤廃条約第1条1項(定義)】

「この条約において『人種差別』とは、(略)その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう」

【参考:女性差別撤廃条約第2条(締約国の差別撤廃義務)】

 「締約国は、女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、かつ、遅滞なく追求することに合意し、及びこのため次のことを約束する。

  1. 男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な手段により確保すること。
  2. 女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む。)をとること。
  3. 女子の権利の法的な保護を男子との平等を基礎として確立し、かつ、権限のある自国の裁判所その他の公の機関を通じて差別となるいかなる行為からも女子を効果的に保護することを確保すること
  4. 女子に対する差別となるいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの義務に従って行動することを確保すること。
  5. 個人、団体又は企業による女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。
  6. 女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
  7. 女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること。」

◆草案第5条(障害のある人への肯定的態度の促進)

*条文名を修正する

「修正案」

「障害のある人の権利に関する意識向上(awareness-raising)」とする。

「理由」

「意識向上」は、障害者の機会均等化に関する基準規則(規則1)でも用いられているため。

◆草案第6条(統計及びデータ収集)

「草案原文」

「障害のある人の権利を保護し及び促進するための適当な政策を形成し及び実施するため、締約国は、障害に関する統計及び情報並びに障害のある人による人権の効果的な享有に関する統計及び情報を収集し、分析し及び体系化することを奨励する。この情報を収集し及び管理する過程は、」
*削除:2行目「障害に関する統計および情報」
統計あるいはデータ収集そのものは全否定できないが、「障害に関する統計および情報」の収集は削除すべき。

「理由」

 たとえば1983年に精神衛生実態調査が精神障害者、精神保健従事者、その他の反対のために実質頓挫したという例があるが、そのときの反対側の主張の一つは、精神障害者について調査するのではなく、精神病院の実態調査こそ必要というものだった。事実同じ年に宇都宮病院で入院患者が看護人に殺されるという事件が暴露され同時にさまざまな人権侵害状況が明らかになり、これは精神衛生法の改定にまで発展した。
 「障害」そのもののデータを集めるのではなく、障害者がこの条約に保障された人権について、どのように保障されているかあるいはいないのか、といったデータを集めることは意味あることであるが、「障害」そのもののデータ収集となると、「障害」を医学的なモデルで分類することになり、それを利用して障害者を分類し何らかの好ましくない対策たとえば優生思想に基づく対策などに使われかねないおそれがある。
 障害のある人の利益となるデータ収集としては、障害のある人の置かれた人権状況の統計情報がふさわしい。

◆第7条(平等及び非差別)

*2項(b):第3条の「コメント2」を参照

*2項:(c)を新しく追加

2項に新しく追加する(c)には、「差別の定義」に関する社会権規約一般的意見5(1993年)の内容に着目し、「合理的配慮」の否定が障害を理由とする差別であることを明記すべきである。(草案第3条「障害を理由とする差別」の「コメント」参照)
【社会権規約一般的意見5(第15パラグラフ)】
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除、制限若しくは優先又は合理的便宜の否定であって、経済的、社会的又は文化的権利を認識し、享有し又は行使することを無効にし又は害する効果を有するものを含むと定義することができる。

*3項:削除

「草案原文」
「差別は、正当な目的により、かつ、その目的を達成する手段が合理的かつ必要である場合には、締約国が客観的かつ明白に十分な根拠を示す規定、基準又は慣行を含まない」

「理由」

草案第7条3項では、一般的な形で差別の正当化事由を規定している。同規定は、差別を禁止し、権利を保障することを目的とした条約自体を骨抜きにする恐れがあり、同規定がなくとも特に支障はないという判断により、同規定は本条に含めるべきではない。

*4項:修正

「草案原文」

「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」

「修正案」

・4行目「…ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、提供者は不釣合いな負担に対応できないことを障害のある人及びそれが不釣合いかどうかを審査する第三者機関に証明しなければならない。

「理由」

草案第7条4項では「(略)合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)」と規定しながら、「不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」としているために、障害のある人に対する結果としての不利益、差別的取扱いが放置されることにつながる恐れがある。関係主体が「不釣合いな負担」に適切に対応できない場合には、不釣合いな負担を証明する説明責任があるとともに、説明責任を果たすことを含む「合理的配慮を提供する」ことの欠如が明らかである事案については、差別の定義に該当することを明記する必要がある。

*5項

「草案原文」

「障害のある人の事実上の平等を促進することを目的とする特別措置 は、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果として、いかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなってはならず、これらの措置は、機会及び取扱いの平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。」

「コメント」

〔草案注29〕で指摘されているように「時間的に制約されるべき」とするべき。

【草案注29】

「特別委員会は、障害の文脈における特別措置が時間的に制約されるべきものか、あるいは、より永続的なものであるべきか、を討議することを望むかもしれない。」

◆草案第10条(身体の自由及び安全)

*2項の柱書きを修正及び(a)(b)(c)を削除

「草案原文」

2. 締約国は、障害のある人が自由を奪われた場合には、次のことを確保する。

(a) 人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、及び障害に基づくニーズを考慮して、障害のある人を取り扱うこと。
(b) 自由の剥奪の理由に関する十分な情報を利用可能な形態で障害のある人に提供すること。
(c) 次のことのための法的その他の適当な支援の速やかな利用を障害のある人に提供すること。
(i) 自由の剥奪の合法性を裁判所その他の権限のある独立のかつ公平な機関において争う事(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(ii) 自由の剥奪について定期的な審査を求めること。

「修正案」:2項の柱書きに同項(d)を組み込む

「2. 締約国は、違法に自由が奪われ又はこの条約に違反して障害に基づいて自由が奪われた場合には、障害のある人が賠償を受けることを確保すること。

「理由」

草案第10条2項は、障害のある人が自由を奪われてもやむを得ないという認識と誤解を招く虞があるため、一旦削除し、自由権規約第9条を障害者特有のニーズを十分に考慮した条文として抜本的に修正した上で、新たに設けるべきである。この場合は言うまでもなく、既存の国際人権基準を下回るような規定とならないことに十分留意しなければならない。

(a)について
非常にあいまいでありいかなる形でも利用できる。障害者のニーズについていっていることは不明確である。いかにしてそうしたニーズが決定されるのかあるいは誰がそのニーズを決めるのか不明確。10-2-(b)については逮捕拘禁の際についてのみ触れられており、その後の裁判手続きあるいは獄中処遇についても情報提供が触れられなければならない。
基準は、拘禁施設の総合的なアクセシビリティと拘禁施設内の総合的プログラム、障害関連のサービスが拘禁下の障害者の福利を確保する目的で提供されること、合理的配慮を受けることを誰も強制されることないという条件の下で個別の要求を満たす合理的配慮、を明確にしなければならない。この点については特別委員会議長案(14条―4と5)、バンコク草案(13条―4と5)そしてメキシコ草案(10条)を土台にして、今後さらに議論が必要である。
(c)について

◆草案第11条(拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由)

*2項

「草案原文」

「特に、締約国は、障害のある人が十分な説明に基づくその自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けることを禁止し、かつ、当該実験から障害のある人を保護するものとし、また、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。」

「コメント」

2項においては、「医学的又は科学的実験」及び「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。

◆草案第12条(暴力及び虐待からの自由)

*2項

「草案原文」

「このような措置は、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容並びに拉致を禁止し、かつ、これらから障害のある人を保護しなければならない。」

「コメント」

2項においては、「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。

*4項:修正

「草案原文」

「締約国は、暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的搾取及び性的虐待を含む。)を防止するため、障害のある人を他の者から分離して収容する官民双方のすべての設備及び計画が効果的に監視されることを確保する。」

「修正案」(下線部分を追加)

「締約国は 障害者に対する、暴力(略)」

◆草案第13条(表現及び意見の自由と、情報のアクセス)

*(b)項

「草案原文」

障害のある人が代替的なコミュニケーション様式を公の対話において使用することを是認すること。

「修正案」(世界ろう連盟)

公の対話において、障害のある人が代替的なコミュニケーション様式を使用し、ろう者が手話を使用することを是認すること。

*(c)項

「草案原文」

代替的及び拡大的なコミュニケーション様式を使用することができるように障害のある人を教育すること。

「修正案」(世界ろう連盟)

代替的及び拡大的なコミュニケーション様式を使用することができるように障害のある人を教育すること。ろう者には、国の手話による教育が提供されるべきである。

*(e)項

「草案原文」

障害のある人が情報を利用する機会を確保するための他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。
「修正案」(世界ろう連盟)
障害のある人が情報を利用する機会を確保するための他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。これにはライブ支援者、仲介者、手話通訳者に適切な訓練を提供することがふくまれる。

◆草案第15条(地域社会における自立した生活及びインクルージョン)

* (b)項

「草案原文」

「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活形式を義務づけられないことを確保すること。」

「コメント」

「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活様式を義務づけられないことを確保する」ための適当かつ効果的な措置をとる義務規定は維持すべきである。

*(c)項

「草案原文」

「地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な居宅サービス、在宅サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む。)を障害のある人が利用できることを確保すること。

「修正案」

「…在宅サービスその他の地域における社会参加支援サービス(介助等の人的支援を含む。)を障害のある人が可能な限り利用できることを確保すること。

「理由」

「地域社会支援サービス」では内容が曖昧なので、「地域における社会参加支援サービス」とし、「人的支援」の部分には「介助等」を例示した。【草案注53】では、「人的支援を約束することを確保することが困難である」という意見もあったことから、より積極的な要素を含んで合意が可能な文言として「可能な限り」を付記した。(より適切な文言かどうか検討を要する)

◆草案第16条(障害のある子ども)

*3項(b)

「草案原文」

3. 締約国は、インクルーシブ・ケアについての障害のある子どもの権利を認める。この権利は次のことを含む。

  1. 適当かつ包括的なサービスの早期提供
  2. 利用可能な資源を条件として、資格のある子ども及びそのケアに責任を有する者にまで支援を及ぼすこと。この支援は、申請に基づくものであって、支援を受ける資格のある子どもの状況、及びその親又はケアを行う他の者の事情に適したものとする。

・障害児のケアの重要性の観点から、3項(b)の「利用可能な資源を条件として」を削除する。

*〔草案注54〕に基づき、6項を新しいパラグラフとして追加する。

「6項の文案」

 「締約国は障害のある子どもを性的虐待をはじめとする虐待及び搾取から保護する。締約国は難民生活を送る障害のある子ども及び障害のある孤児をはじめとする弱い立場にある障害のある子どもの権利を確保する。」

◆草案第17条(教育55)

*【草案注55】について

「特別委員会は、この条文草案が、他の条文草案の訓練に関する規定とともに、訓練をより強調して取り扱うべきか否かを検討することを望むかもしれない。」

「コメント」

第17条はあくまで教育だけに焦点を絞るべきであり、「訓練」は第22条(労働の権利)など他の適切な条文で取り上げるべきである。

*1項の柱書き及び【草案注56】

「草案原文」

「締約国は、教育についての障害のあるすべての人の権利を認める。この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、障害のある子どもの教育は次のことを指向するものとする。」

【草案注56】

「特別委員会は、この条文草案の規定が障害のある『人』に言及しているため、この柱書きが『子ども』にのみ焦点を合わせるべきか否かを検討することを望むかもしれない。」

草案第17条1項については、「漸進的に」を削除すべきである。脚注56に関しては、高等教育等を含むことを念頭に第1項の柱書きの「障害のある子ども」は、「障害のある人」にすべきである。

*2項(a)

「草案原文」

この権利を実現するため、締約国は次のことを確保する。

(a) 障害のあるすべての人が、自己の属する地域社会において、インクルーシブでアクセス可能な教育を選択することができること(幼年期及び就学前の教育の利用を含む)。」

「コメント」

第2項(a)の「インクルーシブでアクセス可能な教育を選択することができる」は不可欠である。

*3項及び【草案注61】

「草案原文」

締約国は、一般教育制度が障害のある人のニーズを十分に満たしていない場合には、特別の又は代替的な学習形態を利用可能なものにすることを確保する。いかなる特別の又は代替的な学習形態も、

  1. 一般教育制度で提供される同一の基準及び趣旨を反映しなければならない。
  2. 一般教育制度への障害のある子どもの参加を最大限可能な程度まで認めるようにして提供されなければならない。
  3. 一般制度か特別制度かを十分な説明に基づいて自由に選択することを認めなければならない。
  4. いかなる意味においても、障害のある生徒・学生のニーズを一般教育制度において満たすことに引き続き努める締約国の義務を制限するものであってはならない。

【草案注61】

「作業部会の構成員は、このパラグラフの一つの重要な要素が選択であると考えた一方、その構成員の中には、教育についての権利がより重要であると考えた者もいる。他の構成員の中には、この選択において子どもの利益を一層強調することが好ましいと考えた者もいる。また、専門的教育サービスと一般教育制度との関係を提示する様々なアプローチが確認された。作業部会の構成員の中には、一般教育制度における障害児の教育が通則で、専門的教育サービスは例外であるべきだと考えた者もいる。他方、構成員の中には、あるアプローチが他のアプローチよりも望ましいという想定をしないで、専門的教育サービスは一般教育制度が不十分である場合に提供されるのみならず、むしろいつでも利用可能であるべきだと考えた者もいる。たとえば、構成員の中には、ろう児及び盲児が自己の集団において教育を受けることを認める必要性を強調した者もいる。後者のアプローチをとる場合であっても、作業部会は、一般教育制度か専門的教育サービスかを選択する個人の能力を制限することなく、障害のある生徒・学生が一般教育制度を利用できるようにするための明確な義務を国家がなお負うべきであると考えた。

「コメント1」

第3項における〔草案注61〕での選択と、教育についての権利との比較に関しては、「選択できる環境の提供」こそが教育についての権利のまさに核心部分であるべきである。(下線部分参照)

視覚障害教員がいて、点字の指導ができる盲学校、聴覚障害・ろうの教員がいて手話の指導ができる(ろう)学校それぞれに関する適切で十分な情報提供が、本人、保護者に対して行われなければならない。また、普通学校に就学している視覚障害のある子に対しては専門機関としての盲学校からの支援が受けられる体制ないしシステムを作るべきである。

「コメント2」

(c)の「十分な説明に基づいて自由に選択」は非常に重要である。この条文に関しては脚注もついておらず論点となっていない。この条文のまま条約に盛り込まれるべきである。

*4項

「草案原文」

「締約国は、感覚的な障害のある子どもが、適当な場合には手話又は点字の教育を受けること及び手話又は点字で履修することを選択することができることを確保する。締約国は、手話又は点字に通じた教員の雇用を確保することにより、感覚的な障害のある学生に対する良い教育を確保するための適当な措置をとる。」

「修正案」(世界ろう連盟)

ろうの子どもは自分達のグループの中で教育を受け、手話と国の音声言語、書記言語のバイリンガルな使用者となるべきである。又、その他に外国の手話や音声・書記言語を学習する権利も有する。各締約国は、ろうの教員及び手話に精通している健聴の教員の雇用を確保することにより、手話による質の高い教育を提供できるよう、法的、行政的、政治的、その他必要な措置をとる。

「コメント1」

4項は、盲とろうの感覚障害両方を一つの条文で扱っているために、明確さを欠いている。点字と手話の性格の違いから、別個の条文とすべきである。

「コメント2」

(ろう)教育に関しては、手話と音声言語・書記言語のバイリンガル教育が重要である。視覚障害に関しては、点字の重要性を強調するあまり、点字を使用するまでもない、低視力あるいは弱視の人々の普通文字を使用する自由や機会の拡大が無視されかねない点にも留意するべきである。

*5項

「草案原文」

「締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を利用することができることを確保する。このため、締約国は障害のある人に適当な支援を与える。」

「修正案」

5項については、教育年限の後半期では職業教育も必要であることを踏まえ、「職業訓練」を「職業教育」に修正するべきである。

◆草案第19条〔アクセシビリティー(利用可能性)〕

*2項(b)

「草案原文」

公共の建物及び設備の利用可能性を推進するための他の形態のライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び手話通訳者を含む。)を提供すること。

「修正案」(世界ろう連盟)

(b)1:公共の建物及び設備の利用可能性を推進するための他の形態のライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び要約筆記者・字幕製作者を含む。)を提供すること。
(b)2:公共サービス、教育、参加を可能にするために、情報を音声言語から手話へ、又手話から音声言語へ通訳する手話通訳者を仲介者として提供すること。

◆草案第21条(保健及びリハビリテーションに対する権利)

*(a)項

「草案原文」

「障害のある人に対し、他の市民に提供されるものと同一の範囲及び水準を持つ保健サービス及びリハビリテーションサービス(性と生殖に関する保健サービスを含む。)を提供する。」

「修正」

 「他の市民」を「社会の他の構成員」に。

(理由)

「障害者の機会均等化に関する基準規則」規則2の3などに準拠。

*新(d)項を追加し、及び(k)項を統合。

「(k)項の草案原文」

「希望に基づかない医療及び医療関連の介入及び矯正手術が障害のある人に強制されることを防止する。」

「新(d)項の文案」

 「締約国は、障害のある人が、特定の保健サービスあるいはリハビリテーションサービスについて十分納得するまで説明を受け、質問し、その上でそのサービスを受けるかどうかについて自分自身の判断で決定する権利を有することを認め、それを障害のある人本人、家族ならびにサービス提供者に周知徹底させるよう努力する。また、特に本人の自己決定や希望に基づかない医療及び医療及び医療関連の介入及び矯正手術を禁止する。」

(理由)

保健サービスやリハビリテーションサービスは、障害のある人の自己決定に基づいて提供されるべきであり、その自己決定を可能にするには、当事者が十分納得できるよう必要な情報が提供されることがきわめて重要。これは(k)の内容と多少重複することから、(k)をこの中に統合する。

*(d)項:問題なし

ただし、「休息介助」は、「介助者休息」に訳文を修正。

*(e)項:問題なし

ただし、「特に子ども及び高齢者の」を「特に子ども及び高齢者の場合を含む」に訳文を修正。

* (f)項:問題なし

ただし、「研究並びに障害のある人に資する新たな知識」を「障害のある人に資する研究並びに新たな知識」に訳文を修正。

*新(h)項を「追加」

 「保健サービスあるいはリハビリテーションサービスに現に従事する者に障害およびそれへの対処法についての正しい最新の知識が普及されるよう努力する。」

(理由)

一般医療関係者ばかりでなく、保健サービスおよびリハビリテーションサービス従事者自体も障害に関する知識を必ずしも十分持っていないのが現状であり、その現状を打開する必要があるため。

◆草案第22条(労働の権利)

*前文

「草案原文」

「締約国は、障害のある人の労働の権利を認める。この権利は、障害のある人の平等な機会及び取扱いを促進するため、障害のある人が自由に選択し又は引き受けた労働を通じて生計を立てる機会を含む。締約国は、この権利を保護するための適当な措置をとる。この措置は次のことのための措置を含む。」

*前文の上から3行目に下線部分「追加」。

 …締約国は、この権利を保護するための適当な措置をとる。また、代表的な使用者団体及び労働者団体並びに代表的な障害当事者団体及び障害関係団体はこの措置の実施に関して協議を受ける。この措置は次のことのための措置を含む。

(理由)

障害者の職業リハビリテーションおよび雇用措置を効果的に推進するにあたって、労使の代表的な団体および障害当事者および障害関係の代表的な団体がその協議に預かることはきわめて重要であり、国際労働機関(ILO)の「職業リハビリテーションおよび雇用(障害者)に関する条約」(第159号条約)第5条にもそのことが謳われている。

*(a)項

「草案原文」

「障害のあるすべての人に開かれ、インクルーシブであり、かつ、利用可能な労働市場及び労働環境を促進すること」

「追加」(下線部分)

 「…労働市場及び労働環境を促進すること。また、締約国は、障害者の労働市場における就業状態を示す基本的指標として、「障害者就業率」(労働年齢期における障害者人口のうち、働いている障害者の比率)などの統計を作成すること。

(理由)

障害者数等の保健統計はあっても、障害者の就業・雇用統計を作成している国は非常に少ないのが現状。障害者の就業・雇用状況を改善するためにも、その就業・雇用実態を把握することは、きわめて重要。近年、EUの雇用戦略では、従来の「失業率」の低下に代えて、「就業率」を上げることを目標にしている。そこには、障害者の場合もあてはまるが、さまざまな理由から非労働力化している人びとをできるだけ労働市場に参加できるようにしよう、あるいは、仕事を通じて万人を社会に統合しようという発想があり、その目標の基本指標として「就業率」を使用、その結果も公表している。

*(d)項

「草案原文」

「使用者が、積極的差別是正措置、奨励制度及び割当制度等を通じて、障害のある人を雇用することを奨励すること。」
「修正案」(下線部分)
「使用者が、「障害のある労働者と他の労働者との間に機会及び待遇の実効的な均衡を確保するための積極的措置をとること」を通じて、障害のある人を雇用することを奨励すること。」
(理由)
具体的な措置を例示することについては、賛否両論があることから、むしろ包括的な表現にしたほうがよいこと、また、ILO第159号条約第4条にも同様の表現が含まれていることから、国際的同意が得やすいと思われるため。

*(e)項

「草案原文」

「職場及び労働環境における障害のある人の合理的配慮を確保すること。」

「追加」

 「合理的配慮」については、第2条「定義」の「合理的配慮の欠如」において規定されることと思われるが、その内容としては、「障害のあるアメリカ人法(ADA)」の次の規定を参考とすること。
「(A)従業員によって使用される現存する施設を障害者に容易に利用でき(アクセシブル)かつ使用可能にすること。
(B)仕事の再編成、パートタイムまたは変更された勤務日程、空席の地位への配置転換、機器または装置の取得または改変、試験、訓練教材または方針の適当な調整または変更、有資格の朗読者または通訳の提供、およびその他、障害者のための同様な適応化」

*(g)項

「草案原文」

「職業リハビリテーション、職場定着及び職場復帰を促進すること。」

「追加」(下線部分)

 「…職場復帰を促進すること。また、締結国は、最重度の障害者の雇用機会の創出に積極的に取り組む。

(理由)

多くの国において一般労働市場から排除されている最重度障害者の就業・雇用をすすめるためには、政府が率先してその就業・雇用機会創出に取り組む必要があるため。

*(h)項

「草案原文」

「雇用、職務継続、昇進、労働条件(同一価値の労働についての同一報酬及び平等の機会を含む。)及び苦情処理に関し法律を通じて障害のある人を保護すること並びに障害のある人による労働の権利及び労働組合の権利の行使を確保すること。」

「追加」(下線部分)

 「…及び苦情処理に関し法律を通じて障害のある人を保護すること、職場における障害を理由とする嫌がらせ(障害ハラスメント)を差別と見做し、禁止すること並びに障害のある人による労働の権利…」

(理由)

職場おいて同僚などによる障害ハラスメントに悩む障害者が少なからずいる実態があることから、そうしたハラスメントから障害者を守るためには、こうした規定が必要と思われる。

*(j)項:問題なし

ただし、「障害のある人の貢献、技能、功績及び能力の承認」を「障害のある人の技能、功績、能力及び職場及び労働市場への貢献の承認」に訳文を修正。

◆草案第23条(社会保障及び十分な生活水準)

*1項(a)

「草案原文」

障害のある人が、障害と関連のあるニーズにとって必要なサービス、機器その他の支援を利用することを確保するための措置」

「修正」(下線部分)

 障害のある人が、障害と関連のあるニーズにとって必要な介護、生活支援その他自立のための適切なサービス、機器(福祉用具等)その他日常生活を営むのに必要な支援を利用することを確保するための措置。

(理由)

原文は、表現がありまいでこのままでは実効性がない。できるだけ多くの例示をも設けて政策の計画・評価に使えるようにするため。

*(c)項

「草案原文」

「困窮状況で生活している、重度の 及び重複した障害のある人並びにその家族 が、障害と関連のある費用(十分な研修、カウンセリング、財政援助及び休息介助(レスパイト)を含む。)を賄うための国の援助を利用することを確保するための措置(これは自己を発展する意欲を阻害するものとなってはならない。)」

「修正案」

 「障害のある人及びその家族が、障害と関連のある費用(十分な研修、カウンセリング、財政援助及び「介助者休息」(レスパイト)、福祉用具及び交通(費)を含む。)を賄うための国の援助を利用することを確保するための措置(これは自己を発展する意欲を阻害するものとなってはならない。)なお、困窮状況で生活している、重度の及び重複した障害のある人並びにその家族については、特に緊急にその利用を保障する措置をとること。」

(理由)

ここで挙げられたような援助は、特定の障害者および家族だけでなく、すべての障害者とその家族が利用できるようにすべきであること。しかし、「困窮状況で生活している、重度の及び重複した障害のある人並びにその家族」に対する緊急な措置を追加することは適当と思われる。

*(d)項

「草案原文」

「政府の住宅供給計画への障害のある人のアクセスを確保するための措置(障害のある人に一定数割り当てられた政府の住宅供給を含む。)」

「追加」

 括弧内の例示に、「家賃補助、住宅改造費用の助成」を追加。

(理由)

一定額以上の家賃が支払えないため、適切な住宅確保ができない障害者や、住宅構造が不適切なため、日常生活に苦労しているものが少なくないため。

*(e)項

「草案原文」

「障害のある人が、その所得に関して、税金を免除されることを確保するための措置」

・原文を「削除」し、次の文章を「追加」

「機能障害の原因や種類に関わらず現に支援を必要とするすべての障害のある人に最低生活費を保障する社会保障制度を確立し、その改善を確保するための措置」

(理由)

戦争による障害者や労働災害・公務災害のみを補償している国、一般の疾病や事故による障害者も対象としていても原因による大きな較差が残っている国、あるいは視覚障害者などは保障を受けやすいが、精神その他の障害者が不利に扱われている国などが少なくないため。

◆草案第25条(モニタリング)

*国際レベルのモニタリング(監視)

「コメント1」

現在、条約体改革議論が国際レベルで進められ、既存の諸条約の目的達成を図る上でのモニタリング(監視)の合理化の必要性には一定の認識をもつが、本来は目的達成に向けて、人的資源や予算の増強を行い政治的意思の伸張を目指していくことが望ましい姿である。少なくとも、条約体改革における合理化(効率化)が障害者権利条約のモニタリングを設けないという主張につながること、ひいては人権条約体の実効性の欠如につながることがあってはならない。人権条約体の実効性と合理性(効率性)との両方の観点から、障害者権利条約の国際モニタリング(監視)を設けるという結論を日本政府としてもつことが必要である。

「コメント2」

本当の問題の所在は、条約を守ろうとする政治的意思とサポート体制への意思がないという点にある。最も実効的な方法は、予算を増やし、政治的意思を高めていくことが本当の機構改革である。「効率性優先」の考え方は、個人の権利保護を核心的テーマとする「モニタリングの実効性」と基本的に相容れないものである。

「コメント3」

誰がモニタリングするのかという点も大切であり、多様な立場と当事者参画という要素がなければ委員会は機能しない。効率性・統一性を求めると、救済の道を排除しかねない。他の人権諸条約と相互連動しながら、実施措置に基づく条約独自の委員会を設け、財政強化し、当事者性を高めていくことが必要である。

国際レベルでのモニタリングについては、条約体改革議論を待つのではなく、既存の条約と同様の定期的な政府報告制度を明確に位置づける条約体を創設すべきであり、かつ、この条約体は当事者性を重視したものであるべきと考える。

「コメント4」

人権諸条約には、すべて定期報告審査があり、批准している国はすべて報告義務があるが、現状は、報告書提出の期限に間に合わない国が続出し、委員会側の報告書審査も裁ききれていない状況にある。その要因としては、委員会をサポートする人権高等弁務官事務所などの人が足りない。そもそも国連の予算が少なすぎて人が雇えないことなどが上げられるが、もっとも大きなものとしては、何より委員の選出の仕方が不透明であること、そして政府から独立しているのかが分からない人が紛れ込んでいるなどの点で、独立性に対して疑問が指摘されている。 

「コメント5」

障害者の権利条約を本当に履行させていくためには、実施措置の規定によって条約委員会を設置するというのがベストであるという観点から、次の点を提起する。

  1. GOと関係機関を報告審査の中に位置づけることを条約に明記をすること。
  2. 審査にあたる委員の審査にあたっては、だれが委員になるのか、当事者性をはっきりさせること。そうでないと提起される問題の意味も伝わらない。
  3. 委員をサポートする機能が必要。人権高等弁務官事務所でいいのか、他の委員会と分断されない仕組みが大切であり、それに伴う資金の確保も必要である。
  4. どのような形で情報提供すればいいかを条約に明記すること。

※参考事例としては、ILOのような形で、審査の後、必要であれば具体的・技術的な支援を国際的に行なう仕組みと財源作りの取組みが重要となる。(◆国際協力の項参照)

「コメント6」

個人通報制度及び調査制度を盛り込むことが必要である。女性差別撤廃条約の選択議定書は、個人通報制度と調査制度について定めている。この議定書に加盟した場合、その加盟国によって、この条約上の権利を侵害されたと考える個人また団体は、上記の委員会へ通報し救済を求め、結果的に委員会はその締約国に、勧告などをすることになる。さらに、この議定書は調査制度を規定しており、委員会は、「権利の重大なまたは組織的な侵害」示す情報を受理した場合、当該国に対して調査を実施することが可能である。

*国内モニタリング(監視)

「草案原文」

「締約国は、この条約の実施に関連する事項についての中心的な活動機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階において関連のある活動を推進するため、調整機関の設置又は指定について正当に考慮する。」

「コメント1」

政府部内のどこに調整機関を置くべきか明確にするとともに、調整機関に当事者の意思を反映させていくこと。女性の条約では、内閣府に男女参画局が指定されている。障害者の条約では、少なくとも外務省の所轄部局と内閣府の障害者施策推進本部が政府内の総合的調整機能の役割を果たし、NGOの参画と意見を反映するための協議機関を設置することが必要である。

*草案第25条第2項

「草案原文」

「締約国は、その法的及び行政的な制度に従って、この条約で認められた権利の実施を促進し、保護し及び監視するための枠組 を国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」

「コメント1」

行政機関からの独立性と当事者性が確保された国内監視機関において、救済を含めた権利の監視を行い、また当事者の意思が反映されるための仕組みと役割を明確にすること。第1に国内監視機関においては、「国内人権機関に関するパリ原則」(1993年)を踏まえ、
行政機関からの独立性と当事者性(委員構成における障害NGOの積極的な参画等)が確保されること。
第2に実効性のある権限と役割をもたせるために、条約の国内実施状況を監視し、権利侵害の救済を明記した監視・救済委員会の設置法の検討が必要であること。(国家行政組織法第3条との関連)

「コメント2」

国内モニタリング(監視)の役割については、以下の点が重要である。

  1. 条約に基づき、国内の法令、政策及び計画を監視すること。
  2. 条約に基づき、国内法令の影響に関する研究に着手し、それを推進すること。また、障害のある人に与える影響を評価するための制度を開発すること。
  3. 条約の不遵守についての苦情申立てを処理すること。
  4. 国内監視委員会は、条約の実施に関する不尊守の申立てを受けると、まず、任意の調査を行い、任意の調査によって事案が明らかにならない場合でかつ事案の解明が必要と判断される場合には、職権による立ち入りも含めた調査を実施する。
  5. 調査の結果、条約に違反することが確定した場合は、不利益または被害の回復に向けた調停を行う。
  6. 調停が不調に終わった場合で、かつ差別、権利侵害の行為が認定されるときには、事案の重大性、緊急性に応じて、是正命令、警告、公表、勧告、要望等の処分を行う。
  7. 条約の実施状況について調査・監視し、定期的にその調査結果をまとめ、関連法令の改廃・制定に関し、提言を内閣に提出する。
  8. 条約の実施に関する国際的監視委員会に提出する「政府報告書」の作成を政府から委託を受けて行う。

◆国際協力(付属書II)

「コメント1」

国際協力については、条文に取り上げること自体が重要である。条文に位置づけられなければ、障害者の国際領域において何をしていくのかという議論すらおこってこないというマイナス面を考慮すべきである。

「コメント2」

国際協力」を条約中に位置づける場合には、社会権規約第2条第1項及び子どもの権利条約第4条を踏まえ、モニタリング(監視)に関連して、子どもの権利条約の第二部〔実施措置〕に規定されている第45条を参考にすることが必要である。

【関連規定:社会権規約第2条1項】

「この規約の締約国は、(略)自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。」

【関連規定:子どもの権利条約第4条】

「締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずる。」

「コメント3」

国際協力のあり方については、児童労働を廃止することを目的とした、ILO児童労働禁止および廃止条約(ILO第182号条約および第138号条約)実施へのつぎのような、ILOの取組みを参考にしていくことが必要である。
 ILOでは、最悪の形態(たとえば、性的な労働や兵役につかせることなど)の児童労働については、直ちに禁止ならびに廃止するようにしなければならなくなっている(ILO第182号条約)。とくに途上国におけるそうした最悪の形態の児童労働を「5年以内に」禁止ならびに廃止できるようにするため、先進国の政府および労使団体などから任意拠出された資金により、技術協力が行われ、実効をあげている。

 (したがって、こうしたILOによる方式は、とくに途上国における障害者差別撤廃に 向けて国際協力をすすめる上で参考になると思われる。)

「コメント4」

現在の政府開発援助の問題点は、障害者だけを対象にした事業と、一般的な事業が乖離し、後者における障害者への配慮が欠けている点にある。障害者を対象とした国際協力事業だけでなく、一般住民を対象とした国際協力事業の恩恵にも障害者が浴しうるようにするため、バリアフリーガイドラインの策定と遵守を国際協力の原則とすることを提案する。

以上