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第6回国連障害者の権利条約特別委員会

短報  2005年8月9日(火)

川島聡
新潟大学 大学院

8月9日の報告をします。8月9日(火)は、後半2日目で、会議全体では7日目にあたります。

8月9日(火)の午前会合は、午前10時過ぎに開始されました。前日の続きとして、まず23条(社会保障と十分な生活水準)の非公式協議が行われ、多くの政府が発言をしました。

午前会合の終わりごろ(12時50分)、公式協議に切り替えられ、オブザーバー(ILO、NGOs)が23条について発言しました。13時に午前会合は終了しました。

午後会合(15時~)は、午前会合の続きとして、オブザーバー(NGOs、国内人権機関)が23条について発言し、最後にマッケイ議長が審議の総括を行いました。これをもって、23条の審議は一応終わりました(15時45分)。

それから15分程の休憩をはさんで16時から、22条(労働の権利)の非公式協議が行われ、18時に午後会合は終了しました。明日10日は、本日の続きで、22条の非公式協議から始まります。

以下では、8月9日に行われた23条と22条の審議概要をごく簡単に述べます。

(1)23条の審議状況

作業部会草案23条は、1項と2項から成ります。1項は、柱書のほかに(a)から(f)までのサブパラグラフが付されてます。2項は、柱書のみです。

1項は「社会保障」を扱い、2項は「十分な生活水準」を扱います。

2項の方が、1項よりも一般に広い概念ですので、1項と2項の順番を入れ替えるべきとの意見が多数ありました。しかし、一部の政府は、23条を「社会保障」と「十分な生活水準」にそれぞれ分離させて、2つの条文を作ることを提案しました。IDC(国際障害コーカス)も、同様の立場です。
この分離案が採用されるか否かは、現在のところ不明です。

1項にある「社会保障social secruity」という言葉の代替案として「社会的保護social protection」という言葉を用いるべきとの主張も見られています。

1項は、社会保障の権利を実現するために締約国は、(a)から(f)までの措置をとる、と記しています。

1(a)は、「障害関連のニーズに必要なサービス等へのアクセスを 確保する措置」です。ここにある「必要なnecessary」という単語は、 「適当なappropriate」に変えた方が良いという意見が見られました。

1(b)は、「社会保障計画や貧困削減計画にアクセスする措置」を 定めています。このサブパラグラフが、障害のある女性・少女・ 高齢者等にも言及していることが争点となりました。この条約論議 では、原則として障害者一般を扱うべきで、個別集団(女性等)に 不必要に言及すべきではない、という傾向が比較的強く見れている からです。これは、女性障害者や障害児についての個別条文を 設けるか否か、という論点とも関連しています。

1(c)は、「困窮状況にある、重度障害者や重複障害者、その家族が、 国の支援を受けるための措置」を定めています。ここで問題となっ たのは、重度や重複といった概念を用いるべきか否かです。重度障害 というのは相対的概念であり用いるべきではない、重度障害は用いる べきでないが重複障害は用いても良い、重度障害も重複障害も用いる べきでない、といったように様々な意見がありました。

また、ここでは障害(ディスアビリティ)ではなく、機能障害(イン ペアメント)という言葉を使うべきである、いった主張も見られ、議論 は収束していません。

さらに、家族について言及すべきか否かという論点もあります。 家族については原則として障害者権利条約なのだから、触れるべき ではないという意見(日本等)もありますが、この条文では家族に 触れても良いのではないか、という意見もあります。ただ、家族とは 何か、という点についても議論があり、複雑です。

1(d)は、「政府の住宅供給計画への障害者のアクセスを確保する措置」 です。この「政府」という言葉を「公共」という言葉に置き換えるべき 、との意見が多く見られました。また、1(d)には、一定数割り当てた 政府住宅供給も含む、という文言もありますが、ここまで書く必要 はないという意見が多く見られました。これまでの条約審議において、 いたるところで見られる光景ですが、具体的過ぎる、詳細すぎる、 書きすぎである、よって書振りをスリム化すべきである、という傾向 があります。

1(e)は、「障害者の所得の税金免除を確保する措置」です。これも、 ここまで書く必要はないという意見が見られました。ただ、障害に関連 する支出については配慮すべきである、との意見もありました。

1(f)は、「障害者が差別なしに生命保険や健康保険することを確保 する措置」です。これについては、国や宗教等によっては、生命保険 という概念がそもそも妥当なものではないとか、概して民間部門の 領域にある保険業務に国がどれだけ介入できるのか、といった懸念 が見られています。ただ、政府の介入が必要である、との意見も見られ ます。また、健康保険については、健康を扱う草案21条で扱うべし、 という意見もあります。

2項は、締約国が十分な生活水準についての権利を認め、この権利 を実現するための適当な行動をとる、と定めています。この2項に は、十分な生活水準の例として、食料、衣類、住居、清浄な水、 などが例示されています。清浄な水については、社会権規約の 明文規定を欠いているので、削除すべきであるという意見も 見られました。

(2)23条をめぐる他の論点いくつか

以上、23条をめぐる審議状況を述べました。ここでは、この23条も含め、 この条約全体と関連する論点を三つ挙げたいと思います。

第1は、漸進的実現義務です。自由権=即時的実施義務、 社会権=漸進的実現義務、という二分法があります。

ある権利や条文の内容には、漸進的実現義務に馴染むものがあります。 (漸進的実現義務であっても、締約国が何もしないということを意味しません。)

この条約論議では、諸政府は、この二分法を基本的に支持して います。基本的にというのは、社会権と一般に見なされる権利 (労働権や教育権や、この23条等)であっても、非差別の 場合等のように即時的実現可能なものは、即時的に実施すべき である、との主張がこの条約論議で見られるからです。

この点につき、草案4条のファシリテーター案が参考になります。 これは、DINFウェブ上にあります拙文をご参照ください。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc5/kawashima.html

今回の条約論議では、さしあたり、各条文ごとに漸進的実現義務 についての書振りを盛り込んでいくよりも、条約全体の義務を定める 草案4条(一般的義務)において、子どもの権利条約を参考にした文言 を設けるべきである、という主張が有力であるような感じを受けています。

第2に、各条文の内容が相互に重複する場面が多々あり まして、それをどのように調整するか、という問題も見られ ます。これは23条に限らず、ほぼ、すべての条文に関連する 問題です。

第3に、他の条文にも見られる一般的な論点として、条文の 中身をあまりに詳しく書きすぎるのは避けられる傾向にあります。 詳しすぎる文言では、いわゆるタイムロック(時代の進展状況 に適合しなくなる)の虞があったり、細かな点で各国政府の合意が 得られない虞があったり、行動計画やガイドラインみたいになり 人権条約の書振りとしては相応しくなくなってしまう、とかの理由 が挙げられます。

・・・以上の23条をめぐる短報、つまみぐい的な雑感ですので、 正確性や網羅性を欠いているため、詳しくは、他の日報やその他の情報、 ファシリテーター案などを参照していただけますよう、お願いします。 後日、23条のファシリテーター案が配布・公表される予定です。
23条のファシリテーターは、フェイス・エマローニ氏です。

現在、さまざまな条文につき、ファシリテーターが中心となって、 審議状況の明確化と論点整理を行っています。公式会合の合間や、 公式会合の前や後に、精力的な活動を続けています。

(3)22条の審議状況

さて、22条(労働の権利)については、午後4時から午後6時までの 非公式協議で、さまざまな政府が発言をしましたが、結局、協議 途中で終了しました。明日は、本日の続きで、ロシア代表の発言 から始まる予定です。

作業部会草案22条は、柱書のほかに、(a)から(j)までのサブパラグラフ から成り立ってます。22条の重要性はどの政府も認めています。

22条について最初に発言したのは日本政府で、簡単には以下のような 内容でした。
(a)は、原則的な内容を述べているので、柱書に組み込む べきである。(d)のアファーマティブ・アクションと、(e)の合理的 配慮とは、対立概念ではなく、相補概念である。(f)は削除すべき。 (i)は、公共部門の雇用のみならず、民間部門の雇用にも、 言及すべき。(j)は、草案5条(肯定的態度の促進)に書くべき内容 であるため、削除すべき。

EUも、22条の再構築を提案しました。日本の発言と似ているところもあり、 (a)(i)(j)などを削除すべきとし、他のところも、文言をだいぶいじったり、 構成を変えたりしてます。

各国政府の発言でしばしば見られたのが、decent workという概念です。 割当雇用(クォータ制度)については、さまざな意見が見られました。 シェルタード・ワークショップについても、言及する諸政府がありました。

22条についても、具体的で詳しすぎるという意見が多々見られ、たとえば カナダは、かなりスリム化した新たな条文案を提案しました。カナダのほか にも、スリム化を目指す発言は、日本やEU、その他の政府など、一般に多か ったといえます。

(4)その他

本日、午前会合の前、9時30分から、日本政府と日本NGOとの意見交換 がありました。国際障害コーカスの会議も、いつもどおり行われました。

昼休みには、EUがNGOにブリーフィングしました。サイドイベントでは、 モニタリングが取り上げられました。モニタリングは、条約の要ですが、 今後の展開は、予想できません。

以上。川島