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「障害者の権利条約」国連特別委員会議長草案に関する意見書

(前文)

○修正・理由

【理由】

第1部

第1条(目的)

○意見
  1. 条約の目的に定める第1条は、作業部会草案(旧1条)を修正したものであり、「この条約は、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを促進し、保護し、及び充足することを目的とする」と規定する。 議長添状(カバリング・レター)において、この条文が必要か否かという論点が指摘されている。すなわち、この条約のタイトル(障害者の権利及び尊厳の保護及び促進)が条約の目的を実質的に示唆していることや、主要人権条約に条約の目的に関する条文が含まれていないことから、第1条の存在理由に疑義が呈されている。
    この点、主要人権条約ではないが国連憲章等には条約の目的の規定が見られることや、国際法と国内法との違いはあるにせよ国内法では法律の目的を書くことは一般に見られることから考えると、さしあたり第1条(目的)の存在が絶対に受け入れられないとまでは言えない。なお、規定振りの問題として、議長草案の第1条(目的)よりも、作業部会草案の第1条(目的)の方が良いと思われるため、後者の文言をさらに強化する方向で、条約の目的に関する議論を更に行う必要がある。
  2. 上記論点は、条約タイトルとの関連でも検討すべき課題である。これまでの条約交渉では、現在の条約タイトル(障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約)は長すぎるため、それを簡潔なものとすべきであるとの提案も見られる。条約タイトル(名称)については、作業部会草案の第1条(目的)との関連で今後検討すべきである。

第2条(定義)

○修正・理由
  1. 第2条の差別の定義の後に、あらゆる形態の差別については、直接差別のみならず、「間接差別」も含むことが明記されていることを積極的に支持する。
    【理由】日本では、間接差別が差別であるという意識が薄いので、注意を喚起することが必要であり、間接差別の概念は、EU指令第2条により実体化された概念であり、女性差別撤廃条約でもこの間接差別の概念を含むものとされていることから、障害のある人への差別においても明確にされる必要がある。
  2. 第2条の差別の定義に「合理的配慮の欠如の場合」を挿入すること。
  3. 第2条で「「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整である」という点で区切り、例外は、第5条の実施の例外として規定すべきである
○意見
  1. 「コミュニケーション」の定義の中には、「文字表示」という言葉も明示して入れるべきである。
  2. 議長添状によれば、「障害」と「障害のある人」の定義を盛り込むことの妥当性に対して疑念が呈されている。これまでの条約交渉の動向を踏まえて、議長は、両定義が不要であると受け取れるような見解を示している←議長添状は「Views are divided as to whether it is necessary to define “Disability” and “Persons with disabilities”. I tend to think that we don’t, as this will be very difficult, and there is a risk that we will unintentionally exclude someone.」なぜなら、これらの定義は困難であり、特定の障害者を排除する可能性があるからである。もっとも、「障害の定義」及び「障害のある人の定義」についての議論は、特別委員会において十分なされていない。現時点において両定義が不必要であると決めることは時期尚早である。両定義を設ける場合には、特定の障害・障害者を排除しないように広範な内容のものとすべきである。
  3. 「障害に基づく差別」の定義には、合理的配慮の否定が盛り込まれていない。その理由として、議長添状は、合理的配慮の概念が不明瞭であることに加え、合理的配慮が即時的に提供できない国が多いことを指摘している(非差別には漸進的実現の原則が適用されない)。 しかしながら、合理的配慮の概念は、諸国やEUにおいて非差別(差別禁止)の文脈で法理論的に少しずつ発展してきていることに十分留意しなければならない。さらに、社会権規約委員会の一般的意見第5号は、障害に基づく差別には合理的配慮の否定も含まれるとしている。したがって、合理的配慮の否定を差別の定義に含めないことについては疑念があり、それを受け入れることは困難である。

第3条(一般的原則)

○意見
  1. 議長草案が定める一般的原則(第3条)は、計7つの原則を定めている。これらの原則はおおむね妥当であり、受け入れられる内容である。
  2. 「エンパワーメント」と「自己決定(self-determination)」という言葉も、第3条で明示的に追加すべきである。

第4条(一般的義務)

○意見
  1. 経済的・社会的・文化的権利の漸進的実現という原則がこれまでの条約交渉で受け入れられている。また、この条約が定める各条文の多くには、市民的・政治的権利と経済的・社会的・文化的権利と非差別という各要素が含まれているとの理解も受け入れられている。そこで、議長草案は、漸進的実現の原則を各条文で逐一言及する手法をとらず、条約全体に適用される第4条(一般的義務)で言及している。また、非差別には漸進的実現の原則が適用されないという原則についても受け入れられているため、この原則も4条に盛り込まれた。さらに第4条は、子どもの権利条約41条や女性差別撤廃条約23条に見られる既存の権利からの逸脱不可能という原則も含まれるようになった。以上の内容を含め第4条の内容はおおむね妥当であると言える。
  2. ただし、第4条には追加すべき不可欠な事柄がある。それは、地方自治体(地方政府local government)に関する言及である。というのも、国(中央政府)のみならず、地方自治体(中央政府)もまた、この条約を実施する義務を負うことを明示的に規定する意義は大きいからである。さらに、「救済規定」についても、第4条で言及すべきである。今日では、いわゆる社会権と従来呼ばれてきた権利であっても、司法的救済その他の救済に馴染むものがあるとの実体・理解が存在するからである。この点、議長草案前文で、人権の不可分性と相互依存性が記されていることに留意すべきである。また、社会権であっても非差別については即時的実現が適用されるとの合意が特別委員会で形成されていることに留意すべきである。

第5条〔平等及び非差別〕(第2条も含む)

○意見
  1. 差別の定義と合理的配慮の定義に関しては、作業部会草案とは異なり、第2条で扱っているので、条文自体としてコンパクトになっている点と、差別の例外について一般的正当化理由を削除している。これらの点は評価できる。
  2. 差別と合理的配慮について、合理的配慮とは、障害のある人の完全参加を阻む障壁を取り除くため必要な物的・人的支援のうち、その支援がなければ障害のある人が実質的に区別・排除・制限による不利益取扱を受けていると同視される場合をいうのであり、あくまで、個人との関係で、その欠如が差別に当たるか否かという差別の範疇での議論である。 これに対して、アファーマティブアクションや積極的措置は、個人と相手方の具体的な状況を個別的に勘案するものではなく、一定の制度的保障を求めるものであること、また、これがなくとも差別とはならない点で合理的配慮とは異なるものである。しかも、合理的配慮は、相手方に過度の負担を課す場合には、免除されるものであるので、これを社会権としてとらえ、漸進的な実現を許すものと解する必要がない。
  3. 過度な負担の位置づけについて:第2条では、合理的配慮の定義とその実施に関する例外を規定するが、実施措置に関しては、第5条が扱っているのであるから、例外規定部分は、第5条に移すべきである。
  4. 特別措置について、時限的な性格に関する作業部会草案の文言は維持する。議長草案では、種々の必要な措置を含むことになり、割当制度のみを対象としているわけではないので、やはり、時限的な性格は一般原則として、残すべきである。

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