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「障害者の権利条約」国連特別委員会議長草案に関する意見書

第2部

第10条〔生命に対する権利〕

○意見
現在の条文案を支持する。

[第11条〔危険のある状況〕]

○修正・理由
 
「被害を受け(vulnerable)のあとに不利な立場に置かれやすい(and disadvantaged)を追加する。
【理由】
具体的な危険のある状況への言及は不要であり、現在の一般的な条文を基本的に支持するが、安全確保の環境整備の重要性を強調するため。
○関連国内施策
内閣府は「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(2005年3月)を取りまとめた他、現在、「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」を開催し、支援方策に関するさらなる具体策を探っている。災害時の障害者への情報提供、安全確保施策が重要である。

第12条〔法律の前における人としての平等の承認〕

○修正・理由
  1. 第12条第1項は以下のように修正する。
【第12条第1項新文案】
  1. 障害のあるすべての人は、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有する。また、障害のある人は、その法的能力を行使するための支援を利用する権利、及び支援を受けた上での意思決定(supported decision-making)についての権利を有する。これらの権利を確保するため、締約国は、とりわけ、障害のある人が法的能力を行使するための支援が、その者の要求を満たし、その者の権利及び自由を害さず、その者の意思及び選好を尊重し、かつ利益相反および不当な干渉を生じさせないことを目的とする立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
    【理由】
    議長草案第2項(a)は、後見制度を前提とするものであるが、権利能力を奪う後見制度は、支援を受けた自己決定の考え方に基づいて、変更されるべきである。また、第2項(b)について、日本に存在はしないが、人格代理人制度は否定すべきであるため(b)項全体の削除が望ましい。したがって、本条文の修正が必要であると思われるため。議長草案第3項は新条文案においては第2項となる。

第13条〔司法へのアクセス〕

○修正・理由
  1. 日本案の例示部分(物理的乃至コミュニケーション上の障害を除去し、障害者の理解の困難を低減させることを含む、適当かつ実効的な措置)を議長草案に挿入する。
    【理由】
    議長草案は、日本案より射程範囲が広くなっているとはいえ非常に抽象的であり、何がバリアとなっているのか、何を国家が何をすべきか、これでは分かりにくい。例示を若干でも入れ込むべきである。
  2. 「容易にする」とあるが、これを「確保する」に変更する。
    【理由】
    議長草案では、締約国の義務がかなり弱くなっているのは非常に問題である。司法へのアクセスは、自己の運命が左右される権利や地位の確定の場面での問題であり、自由権規約の適正手続き条項上の権利に関わる問題であるので、可能な限り即時的な実現が求められる。

第14条〔身体の自由及び安全〕

○修正・理由
  1. 第1項(b)を以下のように訂正する。
    障害のある人が他の者との平等を基礎として自由を違法に又は恣意的に奪われないこと、かつ、いかなる場合においても障害の存在が自由の剥奪の要件、因子、とはされないこと
    【理由】
    精神障害の存在ないし精神障害者についての自傷他害の恐れということを理由に拘束を合法化することは、精神障害者の基本的人権を踏みにじるものであり、如何なる理由があろうと許されない。
  2. 第2項を以下のように修正する。
    【第14条2項新文案】
    いかなる手続によっても障害のある人の自由が奪われた場合には、その者は、少なくとも、他の者との平等を基礎として、かつ、アクセシビリティ及び合理的配慮が確保された上で、一般に適用のある国内法に含まれる保障を受けるものとする。このため締約国は、自由を奪われた障害のある人が、
    (a) 人道的に並びに人間固有の尊厳及び価値を尊重して取り扱われることを確保する。
    (b) 自律及び自己決定を尊重して取り扱われること、並びに個人が必要とするものに対する合理的配慮を速やかに提供されることを確保する。
    (c) 同様に自由が奪われた公衆に利用可能なすべての設備、情報、サービス及び計画に速やかにアクセスすることができることを確保する。
    (d) 法的権利に関する及び自由の剥奪の理由に関する十分にアクセス可能な情報を速やかに提供されることを確保する。
    (e) 裁判所において、自由の剥奪の合法性を争うこと及び公正な審理(聴取される権利を含む。)を受けることための法的援助その他の適当な援助に速やかにアクセスすることができることを確保する。(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
    (f) 不法に自由が奪われた場合には、賠償を受ける強制執行可能な権利を有することを確保する。
    【理由】
    文案は国際障害コーカス(IDC)提案を基に作成したもの。書き換える理由として、法律によれば、自由を剥奪できると解釈できる書き振りを避けるべきある。議長草案にある民事上の拘束というのは我が国の概念にはないこと、自由の剥奪に際しての合理的配慮及び一般に確保される最低限の保証の必要性を明確にするため。議長草案第2項のC(i)の「その他の権限のある独立の公平な機関」の部分を削除する。拘束に関する自由権規約以下のレベルに下げるべきではない。

第15条〔拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由〕及び 第17条

○修正・理由
第15条と第17条の一部を統合する。
【理由】
そもそも15条も17条も、障害者のインテグリティ(無傷性)の保護を目的とする条文です。しかし、強制的介入を15条から分離するため新たに17条が作られたものであり、そのため15条と17条は必然的に重複する側面がある。したがって、思い切って議長草案17条を削除し、17条の一部を組み込んだ新条文15条をつくるのが良いと思われる。また、第17条の第2項は第15条に移すべきである。また第3項、第4項 については、第3項において他のものとの平等を基礎とするのであれば、わざわざ規定する必要性がない。そうすると4項も不要であるため、削除。
【新15条案】
  1. 障害のあるすべての人は、その身体的、精神的及び道徳的なインテグリティ(無傷性)が尊重される権利を有する。この権利を尊重し及び確保するため、締約国は、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
  2. 障害のあるいかなる人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。このため締約国は、
    (a) 障害のある人に対する十分な説明に基づくその自由な同意のない医学的又は科学的実験並びに、いかなる実際上又は認知上の機能障害も矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入を禁止するものとし、また、当該実験及び当該介入から障害のある人を保護する。
    (b) 障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。

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