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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月17日(火)

(午前)安里芳樹
リーガル・アドボカシー育成会議(LADD)

(午後)崔栄繁、JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

午前

1月17日(火)午前

第9条 〔アクセシビリティー(利用のしやすさ)〕

会議の様子

1.議論のながれ

 議長テキストに対して、IDC・イスラエル・EUからの提案を基に議論が展開された。三者の提案は、基本的には議長テキストを支持し、イスラエル・EUはIDCの提案を引用して、議長テキストを補強する形で提案された。それぞれの提案の良いところを統合し、条文化し議論の経過の中で、アクセシビリティーの問題の複雑さを浮き彫りになってきた。

 マッケイ議長からは、アクセシビリティーは、他の条約と比較して、この条約における最も特徴的な条項であり、これまでも時間をかけて議論してきたが、複雑な問題もあり、現段階でドラフティングまで関わる時間はないという原則で議論を進められたが、最終的に戻って再度議論することの必要性を議長自らまとめた。

2.主な論点

 IDC・イスラエル・EU提案の論点は、公的サービスとは、提供主体が公的機関だけでなく民間も含める、建物については新築だけでなく既存の建物を含める、情報・輸送・建物全てに国家のスタンダードを作り、モニタリングを含め法制化し強制力をもたせる、情報のアクセスの保障(情報通信技術、障害当事者自身で情報にアクセスできることの保障)、非常事態に関する情報の保障、著作権や知的所有権が、障害当事者が情報にアクセスすることへの情報の障壁ならないようにすること(知的障害当事者への情報提供を含めて)、無償郵便サービスの保障(障害当事者が図書館などから本を持ち帰ることが困難な場合など)などであった。そして、これらの様々な提案のそれぞれの良いところを統合し、焦点を絞って条文化していくことが肝要である。リスト化することでリスト以外のアクセシビリティーの保障を排除することになりかねないことも注意しなければならないとEUからの提案があった。

3.マッケイ議長のまとめ

  • アセシビリティーを保障しないことは差別にあたるのか、合理的配慮を実現しない場合は差別とあたるのかなど、アクセシビリティー問題がもつ複雑な問題を明確になった。アクセシビリティーの保障は即時的に解決すべき問題であるが、社会権的側面で捉えると条約第4条に規定する漸進的権利であり、第4条との一貫性を保つ必要がある。
  • 議長テキスト第9条第1項の「措置」の後に、「法律によって」という言葉をいれて、4条の漸進的との整合性を保ち、「公共」の意味がより一般的なものになる。EUからは、第1項に合理的配慮を組み入れ、条文自体の構造を変更すべきではないかという提案があった。
  • 第1項の公共の建物、道路その他の公共の目的に利用される設備(学校、医療設備、屋内外の設備及び公有の職場を含む。)とは、公的である誰が所有しているかの問題ではなく、「公有」という言葉を削除し、公共に使われているものを第1項で明示すべきである。また、「構築された」よりも「既存の」という表現の方が、新旧の建物・設備を含めることになるという提案があった。
  • 民間の住居においても、合理的配慮を適応すべきかどうかの議論になったが、住居については、私的問題であり、個人の資本よるものなので条文に入れ込むことは難しいと発言があった。
  • 職場のアクセシビリティーについては、多くの国から支持されたが、実現は懸念され、漸進的に行われるべきではないか、いくつかの国では、義務を課さないという意見もあった。
  • 自然環境や歴史的建造物・遺産などへのアクセシビリティーの保障もを検討する必要あるとの提案があると何カ国からの提案があった。
  • 緊急事態時のアクセシビリティーの保障についても何カ国から意見が出された。
  • 知的所有権や著作権などについて、知的障害当事者への情報提供を含めて配慮する必要があり、国際法に照らして検討する必要がある。
  • 2項(c)は、ミニマム・スタンダードにすべきかナショナルを入れるべきかどうか。2項(g)は、ミニマムコストではなく、支払えるコストにすべき、無料にすべきという意見もあり、再度の議論が必要である。
  • IDCの提案から、いくつかの要素を第9条にいれることを支持されたが、他の条約や条文について書かれていることについては慎重に検討すべきである。

午後

日本代表団

 第9条(アクセシビリティ)の議論が長引き、午後にもつれこんだ。 午前の続きで第9条2項より審議が始まった。9条の議論は長引いたが、議長の見事な采配もあって、この日は結局12条まで討議が進んだ。

○第9条2項からの議論

 細かな文言の修正意見が相次いだが、基本的には全体的なコンセプトについては支持が得られていると思われる。アクセシビリティのスタンダードに関する議論では、EU案のナショナルスタンダードをミニマムスタンダードもしくはスタンダードとすべきであるとか、allを取ってlegal standard にすべきであるといった意見や、IDC(国際障害コーカス)案を参考にするべきであるという意見も出された。

 細かい文言となっているf,g,h,の各項を削除する案がEUから出されているが、一定の支持が見られた。日本政府は、議長テキストを基本的に支持でき、また、EU提案も受け入れられるが、f,g,hの各項は残すほうがよいという意見であり、各国の意見が分かれた。議長は削除するとなれば、言語の問題もあるが要素は残すべきだというまとめ方をした。

 また、知的所有権を9条に入れることについては、様々な意見が出され。

  • まとめ
     アクセシビリティは、その概念・内容などにおいて、すべての国やNGOが統一した見解を持つのはむずかしいようだ。議論を進めるための議長の再三の意見にもかかわらず、議論の予定時間を大幅に超過した。しかし、障害問題を扱う上で、とても重要な要素であるということは共有されている。
     IDC提案はここでも存在感を出していたように思う。また、IDCの発言の中で、9条においてアクセスを保証することは権利であるという部分があった。これは、JDFの意見書でも触れていることである。この部分での今後も取り組みが必要になると思われる。

○第10条(生命に対する権利)の議論

 簡潔な議論がされた。IDCより「すべての人間の」後に、「人生のあらゆる段階において」を入れるという意見が出され、各国より賛成、反対の意見が出た。

○第11条(危険のある状況)の議論

 11条については、個別の条項をつくるかどうかの合意がされていなかった。しかし、結果として個別の条項を作ることに反対する人はいなかったことで合意できた。日本政府は議長草案を支持した。

 文言について、そのまま支持する国、もっと具体的にと提案する国(自然災害、難民など)などさまざまであり、IDCは細かく提案した。vulnerable (傷つきやすい)groupsという文言について、個人に原因を帰するものではなく、ある特定の集団の中にいると弱い立場におかれてしまうという意味であり、条約の中で統一的に使われる言葉であるということであるが、今後も調整するということであった。

○第12条(法の前における人としての平等の承認)の議論

会議の様子

 会期前半で議論を呼ぶところのひとつである。法的能力の関係で、法的行為を行う際の後見人や人格代理人に関する規定が盛り込まれている条文として、IDCをはじめとするNGO団体特に精神障害者関係の団体からさまざまな意見が出されているところである。

 特に、後見制度の問題で、政府代表団側の見解とIDCの意見は分かれている。一定の法的能力の行使の制限を前提とする後見制度はなくしていくべきであるとし、IDCの修正案では、後見制度を認容する書き振りとなっている文言の大幅な書き換えと、人格代理人に言及している第2項―bの削除を求めている。JDFの意見書はIDCと基本的に同様の立場に立っている。

 公式会議で、IDCを代表して何人もの障害当事者が、「できないことを前提としてさまざまな法律や制度ができてきた、そうした制度によってさまざまな虐待や非人間的な扱いがされてきた、この条約は何のためにつくられるのか、ここで、パラダイム転換が必要」と繰り返し訴えた。

 しかし、各国政府代表団の立場は、議長草案を基本的に受け入れていると思われる。ここで、重要になってくるのは「法的能力」と「行為能力」という文言・概念の問題がある。大陸法系である日本には「法的能力」を「権利能力」と「行為能力」という形でとらえる。日本の法制度においては、権利能力は障害者にも完全に保証されるが、行為能力が制限を受ける場合がある、という考え方をする。よって、日本政府は、「行為能力」という文言であるなら議長草案を基本的に受け入れるという立場である。また、IDCが削除を求めている第2項-bについて、「personal representative(人格代理人)」が、一般的な後見制度も含むものであるとするなら、日本の場合必ずしも定期的審査が要求されているわけではないので、定期審査を求める部分が削除されることを条件として議長草案に賛成するというものであった。

 難しい論点が入り組んでいる12条については、各国・IDCをはじめとするNGOの動きを踏まえながら、今後も注意深く検討するべきであると思われる。