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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月19日(木)

(午前)荒川智
茨城大学

(午後)崔栄繁
DPI(障害者インターナショナル)日本会議

午前(荒川智)

会議の様子

 昨日に引き続き第14条の討議からはじまり、主にEU案に基づいて、文言上の意見が出された。議長のまとめとして、とくに第1パラグラフは平等と差別の問題と深く関わっており、障害者が自由を奪われ他の人と違った扱いを受けてはならないこと、もし障害者が他者に危険を及ぼす場合も、障害のない人と同じように扱われるのであり、そうした点のバランスが重要であるとされた。


 第15条 「拷問・・からの自由」に対して、事前に修正案は出されていなかったが、NGOからこれまでの強制的な治療や実験は深刻な実態の訴えがあった。各政府からもさまざまな意見が出されたが、大きくは、第1パラグラフにある「実験」をもっと広く捉え、「プロセデュア」(手続き)に替えるべきだとするメキシコの意見を支持する国と、この部分は国際人権規約のB規約の第7条に依拠しているので、議長テキストのままでいくべきだとする立場に分かれた。また、IDCは第17条にある矯正等を目的とする強制介入を本条に入れこむことにより、例外なき禁止を求めた。この構成上の問題は第17条の討議でもとりあげられるであろう。JDFの意見書も基本的に第17条と第15条の統合を主張している。

 第16条 基本的内容は多くの国が支持していたが、第1パラグラフにある「あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待」を広く捉え、とりわけ子どもや女性への性的虐待等を視野に入れるべきであるとする意見がNGO等から出された。また第2パラグラフにある、虐待等の防止のための情報提供の対象に家族やケア提供者を含めることに対し疑問も出された。議長提案では例えば家族による虐待は想定していないが、実際には起こりうることであり、この部分は当事者への情報保障に限定すべきだというものである。(まとめは午後に)

午後(崔栄繁)

○第16条のマッケイ議長のまとめ

 基本的に各国に受け入れられたと見ることができる。

 個々の搾取虐待のリスト化は無理であり、避けるべきであるということ、拡大的に内容を解釈すべきであるという意見も出た。パラグラフ3に関しては、最後の部分である「独立の当局」をさらに明確にすべきであるという意見や、National authorityになると州制度とかあるので、言及は避けたほうがよいという意見が出た。

 パラグラフ5も多くの議論がされた。「訴追」の確保は必要であるという意見と、削除を求める意見も出された。しかし、議長からは、訴追への様々なプロセスが含まれ、テキストはバランスが取れている。すなわち、適切な手続きがされ、必要があれば訴追されるという流れになっている。話のながれやバランス通いと思われるので議長草案をベースにしたい、として、第16条の議論を終えた。

○第17条(人のインテグリティの保護)の議論

 作業部会草案第11条が議長草案では第15条とこの第17条に分離された。ここでは、非自発的介入を必要とする緊急医療などの規定がされている。

 IDCは、非自発的介入の例外規定となる同条に強く異議を唱えており、パラグラフ3、4以外の部分を第15条と統合するよう求めている。それに対してカナダやEU、日本など多くの国の意見は、基本的に17条を別個に維持することに賛成する旨の意見が多かった。ただし、カナダは「保護」に関する規定は条約に含まれるべきだが、この条項を残すかは柔軟に対応する。また、パラ4についても柔軟に対応するとした。中国からは障害そのものが強制介入の理由にならないといった文言があってもよく、パラグラフ4は必要ないという意見が出た。

 非自発的治療に関する規定となっているパラグラフ4については、EUなどからもパラグラフ1に非差別の文言が入れば同条による規定は必要ないという意見がある一方、safeguardをのこすため存続させるべきであるという意見も出された

 こうした議論に対し、公式会議の場で、IDCからは、インテグリティの保護というのは拷問や非人道的扱いとリンクしている。セーフガードは尊厳と関連する、パラグラフ1はEU憲章などと整合性をつけるべきだ、パラグラフ3と4は削除すべきである。非自発的介入を正当化しているためである。パラグラフ4に関して、Safeguardは障害者の保護ではない、つまりは強制的医療による虐待に使われている。すでに行われている虐待の正当化になってしまうという意見が出された。

 議長はこうした議論を受けて、以上の議論の内容をまとめた上で、パラグラフ4は残し、内容に関して合意可能な文言をとりまとめたい、全体としては支持を受けたのではないかと思われるので、このまま進むということにとりあえずする、と議論を打ち切った。

 この条項も第12条や第15条と同様、さまざまな観点から議論を深めるべき要素を持つと思われる。

○第18条(移動の自由)の議論

 移動の自由という文言は第6回特別委員会の後半のケニアの提案をもとに、議長草案に入れ込まれた。国籍と出生、出入国の自由という、自由権規約に基づく条項である。この「移動の自由」条項をつくることに反対する国は無かったが、条文の構造などに異 論が相次いだ。出生や国籍取得と出入国を分離するといった意見が出された。こうした意見を受けて議長は、条文を他の条約を考慮して書き直し、再度配布して議論するとした。

○第19条(自立した生活とインクルージョン)の議論

 議長は冒頭で、この条項はパラダイムシフトを図る重要な条項である。伝統的に施設など社会から隔離され生活してきた障害者も、地域で自立した生活をすべきで、この点でパラダイムシフトを図るべきである。この議論は完成度の高いものではないか、と述べ、議論を開始した。

 まず、議論となったのが、「Living independently」のindependentlyという文言についてである。イスラエルは、タイトルと柱書きで、地域で生きる権利があることを強調したいとしながら、independentという文字は変えるべきである、支援が必要ないという誤解を受けるかもしれないためだ、という意見が出された。これには、ケニアなどが賛成した。こうした意見に対して、議長は、作業部会の文言 “independent”はNGOからの意見で入ったとし、彼らにとってマイナスになってはいけないが、草案作りのときに議論があった。これは特定の運動を示すのではないかという懸念があった。しかし、地域で暮らすということは支持されており、概念上の問題は無い、と説明した。


 19日の議論はここで終わった。第19条の続きは明日に持ち越されたが、これでも、当初の予定よりも早いペースである。イスラエルが特にIDCの意見を部分的に引き受けて主張しているのが気にかかる。

 会議が終わった後に、JDFのメンバーは日本政府国連代表部の高瀬公使主催による夕食会に招待された。JDFから13名が招かれ、政府関係者と交流した。