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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月23日(月)

JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

午前

会議の様子

 今日から第2週目が始まる。先週は予定よりかなり速いペースで議論が進んできた。今週もそうであればよいが。


○モニタリングについて

 午前中は、国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)条約履行チームリーダーのJ・コナーズ氏が人権条約モニタリング改革の進ちょく状況等に関するプレゼンテーション(報告)並びに各国政府・NGOとの質疑応答が行われた。

 プレゼンテーションにおいてコナーズ氏は、第7回アドホック委員会の開会に合わせて作成されたペーパーに基づき、既存の条約におけるモニタリングシステムがどのように発展してきたか、障害者権利条約の制定にあたってモニタリングシステムがどのような貢献ができるか等について報告した。

 具体的には、モニタリングシステムの構築にあたって必要なこととして、ジェンダーや地域等の各国のバランス、各国への指導・コンサルテーションや技術的な支援、特別報告者らの交流、モニタリングにあたって見解の統一性、構築プロセスにおける国内人権機関等の関与、勧告の提示、情報公開、国際協力分野等での締約国間のミーティング実施、モニタリングボディの検討、報告書の提出等に関する取り決め等を挙げた。

 各国政府等からはさまざまな質問や意見が寄せられた。NGOの国内外のモニタリングシステムへの参画については、韓国やEU、中南米諸国からは肯定的な姿勢が見られた半面、スーダン、イエメンなどの国からは慎重な意見が目立った。また、障害者権利条約制定後のモニタリングシステムとして、既存のシステムを活用するか、新しいシステムを構築するかについては、国連の条約体改革の議論が進んでいる中でもあり、各国間で意見が分かれている。このほか、「締約国政府からの定期的な報告書の提出期限を守れなかった国は公表されるべき」「国際的なモニタリングでは、各条文の解釈を示すことが不可欠」「特別報告者制度の活用方法について考慮すべき」「国内レベルでの人権侵害被害者の救済のあり方を明確にすべき」「勧告が出された後のフォローアップのしくみが大切だ」等の提言もあった。

 約2時間にわたる質疑応答を通して明らかにされた、現時点での人権高等弁務官事務所のその他の主な考え方(ポイント)は以下のとおりである。

  • モニタリングの形式については、2006年末までには検討を終え、具体的な姿が提示される見通し。それまでに人権委員会やNGO等、さまざまな主体を対象にしたミーティングを実施する。
  • 既存のモニタリングシステムの強み、報告制度の長所も押さえつつ、これまで指摘された課題も解決したい。委員会から各締約国にガイドラインを示せるようにしたい。また、それぞれのモニタリングメカニズムの関連性や相互協力体制等についても検討中。
  • 委員会委員選出のバリエーションについて、さまざまな各専門家で選挙等により構成されることを保障することや、各締約国において委員候補者の公募等を行うこと、関係する障害者団体や専門家に必要な情報が提供され応募がなされるようにすることが大切。
  • 国際モニタリングシステムにおけるNGOの参加については、他の人権条約と同様、積極的に奨励していく方針。NGOは文書もしくは口頭での報告、質問や提案もできるし、フォローアップへの参加もできるようにしたい。
  • オンブスパーソン制度の導入については検討中。個人からの申し立て制度についても、限定された手続や協力体制しかなかったが、どのような権限、責任をもつのか検討すべきであると考える。
  • 報告場面において他の条約と重複する事柄については、統合していくこともありえるかもしれないが、締約国の理解を深めるという点では(重複したとしても)意味がある。
  • 地域的なモニタリングシステムのあり方については、今後も調査していく必要がある。国内のアクションプランについては、国内の人権委員会についても、何かしらの目標設定が示されるべきだと考えられる。
  • 条約体改革、人権委員会改革等の長期的な改革と障害者権利条約におけるモニタリングシステムのあり方とは、別問題である。障害者や障害者NGOはさまざまなプロセスで参加が保障されるようにすべき。新しい委員会を設けるかどうかだが、国内の履行レベルがどうなるかを確認すること、委員会勧告を国内に履行していく支援体制を構築すること、国内人権機関が条約の中できちんと役割を担えるようにすること等が大切で、それが条約目的の達成に不可欠。
  • 報告提出期限を順守しない国については、委員会の開催期間、事務局のサポート体制、締約国内のメカニズムとの兼ね合い等を見ながら、よく検討していきたい。

 第7回アドホック委員会では、第2週目中に国内モニタリング、第3週目に国際的モニタリングのあり方を審議する予定だ。

 なお、国連人権高等弁務官事務所からのプレゼンテーションが、午前の審議終了予定時間より若干早く終了したため、第23条「家庭及び家族の尊重」の審議に入り、3か国が発言を行ったところで昼の休憩に入った。

 ところで、プレゼンテーション終了直後から、国際障害コーカス(IDC)の主要メンバー10数名が開会中にもかかわらず議場内で談笑を始め、議長に静粛を求められるという珍事があった。3週間という長い会期による‘中だるみ’のせいなのか、いずれにしても関係者は反省が必要である。

1月23日(月)午後

 第23条の議論から始まったが、結局この1条分の議論しか進まなかった。この条項は、「家族」「婚姻」「セクチュアリティ」など、慣習や伝統に関係して議論の多い条項であるためである。


 まず、議論が多かったのは、パラグラフ1-a「セクチュアリティの経験」という文言や「性的関係その他の親密な関係」といった文言についてである。障害者が非性的な存在として長い間みなされてきたという歴史から、これら文言に対し、アメリカ、カナダなど支持発言が多かった。特にイスラム圏諸国からは、これらの文言を削除するように求める発言が相次いだ。文化的に婚姻外でのこうした関係が理解できないといった理由である。ちなみに日本は「性的関係」という文言の削除を求めている。

 また「一般に適用のある国内法や慣習・伝統によって」という文言にも議論が多かった。これはもともとこの条項が伝統や文化などを理由に受け入れられないということを避けるための文言であるが、EUやカナダやニュージーランド、アメリカなどは、この部分の削除を求めた。逆にスーダンなどは、文化の多様性や家族の解釈の多様性などから、この文言の維持を求めている。国内人権機関の代表で発言したジェラルド・クィン教授は強い調子で、このセンテンスに対する懸念を述べ、削除を主張した。

 「家族」ということについては、社会の大切な単位であるという意見に賛同もするが同時に障害者にとって問題にもなってきたという認識はされているように思われる。

 また、一人っ子政策を採っている中国からは、国内施策に影響を与えるべきではないという主張がされた。

 議長は、この条約の権利としては自由権規約で規定されている権利を超えるものでないと述べまた、男女の婚姻はあるが、コスタリカのように同姓の婚姻について考慮すべきであるとした。

 IDCはパラグラフ1の「国内法や伝統」の文言の撤廃を強い調子で主張し、また、「セクチュアリティの経験」という文言の削除を主張した。また別のNGO組織である「障害のある人のアラビア連合」も慣習や伝統は誰が決めるのか、都市や農村、特定の村落だけで行われている場合もあり、この部分を考えるべきであるという主張をした。

 こうしてこの日の議論は終了した。

 家族と障害者の関係、宗教や慣習と障害者の関係は複雑なものであるというのは、誰も否定できないであろう。文化的な干渉になるのではないかというアラブ・イスラム圏の懸念をどのように払拭して、こうした認識を共有するのかかなり難しい課題である。今後の議長のお手並み拝見であろう。