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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月27日(金)

JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

日本代表団

 1月27日は、会議冒頭に国連人権高等弁務官のスピーチが行われた。スピーチ自体は20分弱だったが、これまで取り組まれてきたモニタリングのシステム・メカニズムを大きく変革する時期が来ているとの認識が示された上で、「障害者権利条約が障害のある人々の人権を守る効果的な手段となることを期待する。それにはしっかりしたモニタリングの実施が不可欠で、締約国は義務を果たすべく、完全参加を促進し、人権侵害から救済しなければならない。」と、力強く訴えた。

 その後、前日から続いている第30条の各国政府発言を行い、同条並びに第31条の審議を午前中に終了した。午後からは第33条の国内モニタリングの条項の議論に移った。各国政府からの発言回数が非常に多かったが、マッケイ議長の見事な議事進行により、スピーディーでありながらも中身の濃い議論が展開されている。

 この日は、中国政府代表から旧正月のお祝いが述べられた。

○第30条(文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加)の議論

 全体的には議長テキストの条文案に対する支持が得られた。構成面ではバランスの取れた形に仕上がっているが、サブパラグラフ数が多いため、内容的に重複していると思われる条文案の集約方法等、技術的な事項に関する各国政府の意見が目立った。

 また、使用されている文言のうち意見が分かれたのは、パラグラフ3にある「知的所有権」とパラグラフ4のカッコ書きにある「(手話及びろう文化を含む。)」という表現の2つ。

 「知的所有権」については、EU等が「著作権」への変更を求めた。過去になされた議論を踏まえて提案された経緯もあり、議長テキスト案のとおり進められる可能性が高いが、今後の議論に検討の余地が残された。

 「手話及びろう文化」という表現の中では、特に「ろう文化」をこの条文で採用することについて、前日発言した中国に加え、イエメン、イランから強い反対発言があった。これに対し、手話を公用語として認めているニュージーランドは、マオリの例を出しながら、「あらゆるろうの人たちは独特の(文化的・言語的)アイデンティティをもっており、それを条文で保障すべき」として、議長テキストの条文案を全面的に支持。世界ろう連(WFD)会長も独特の習慣、態度、言語、伝統、規範、歴史、アイデンティティ、芸術等、ろう文化の多様性について触れ、ろう文化への理解を強く求めた。この文言についても、過去に議論を重ねた上で今回、提案されている。代替となる文言があるのかどうかも含めて、合意形成は次回委員会以降に持ち越された格好だ。

○第31条(統計及びデータ収集)の議論

 第31条の審議においては、全体として議長テキストの条文案に対する支持が得られているが、複数の国から条文の範囲に「調査(リサーチ)」を加えるべきとする意見が表明された。これについては継続して検討されることとなった。

 多くの国から文言削除について支持が得られたのは、パラグラフ1の柱書きにある「必要な場合には」という箇所。また、同じパラグラフ1内で用いられている文言‘should’を、より強調的な意味となる‘shall’に変更すべきとの意見も多数あった。統計・データ収集に対する各国政府の意識の高さを表している。パラグラフ2については、議長テキストの条文案どおり維持される見通し。

 また、国際障害コーカス(IDC)が提案した「締約国は、これらの統計の結果についての普及に責任を負い、障害のある人々やその他の人々へのアクセシビリティを確保する。」とする新パラグラフ案について、各国政府からは比較的好意的な評価が得られたため、マッケイ議長は総括の発言の中で「今後の議論に反映させていきたい」と語った。

○第33条(国内実施及び国内モニタリング)の議論

 第33条の議論を行った後は第34条の協議をして、第32条の国際協力については来週に審議されることとなった。

 1月27日にマッケイ議長は、モニタリングに関する議論の参考に、討議テキスト(discussion text)を出している。↓

 http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7discussmonit.htm

 これは議長草案ではなく、今までの特別委員会での議論や既存の条約の国内及び国際モニタリング体を参考にまとめたものであり、34条から52条で構成されている。国内モニタリングに関しては拷問禁止条約の選択議定書17条から23条が提示されている。議長からこの討議テキストの説明を受けた後、審議入りした。

 多くの政府は34条から52条で構成されている討議テキストについて、検討すべきであるが規定が詳細すぎるという意見であった。日本も、国内および国際モニタリング体を作ることは支持しているが、討議テキストのように全てを入れこむのは細かすぎであり議長テキストでよい、という意見であった。

 この他、第33条パラグラフ3に関して、市民社会の完全参加に賛同する意見がチリやいくつかの政府代表から出されたのが印象深い。

 また、条約の実施の中心的機関であるフォーカルポイントについての言及が目だった。南アフリカなどが複数のフォーカルポイント設置を可能にするため、語句を複数形にするべきであるという意見を出した。

 非政府組織からは、まずIDCがフォーカルポイントが複数であるべきであるということや、拷問禁止条約の議定書を参考にすべきであると述べた。ちなみにIDCの33条修正案はバンコク草案をコピーしたものである。また、アムネスティ・インターナショナルは国内実施枠組みについてもう少し細かく書くべきであることや、独立して実施できる資源が必要 でありパリ原則に従うべきであるという意見を述べた。

 審議においては、基本的に議長草案支持の意見が多かった。どれくらい詳細に書くかが鍵となるが、討議テキストは細かすぎるという意見が多かった。フォーカルポイントについては、大きな国からは複数でそうではない国は1つでよいということでone or moreという文言を使うのはどうかという議長の提案があった。

○第34条(国際モニタリング)の議論

 当条項も議長草案に案文は無く、討議テキストを参考に開始された。これに関連して国連高等人権弁務官のモニタリングに関するコメントは以下のwebで参照できる。

 http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7docs/ahc7unedchrmonitor.doc

 ここではEUが条文の提案をするとしたが、ペーパーで配布されなかった。IDCからは、EU提案や討議テキストをもっと細かく見たいという意見が出された。また、モニタリング委員会のメンバーシップについては移住労働者の権利に関する条約を参照してほしいとした。

 アメリカは新しいモニタリング体を作ることに反対したが、全般的にはモニタリング体は支持された。国際モニタリングの審議はいつになるかは未定であるが、来週に持ち越された。

 こうして2週目が終わった。来週月曜は、第1条目的条項から審議を開始することになった。今週もIDCの存在感は大きさが目立った。また、この日の朝、議長とNGOとのディスカッションの中で、議長が今後の条約交渉の進め方について、2つのオプションを提示した。1つ目はこのまま、第2読、第3読と来年まで特別委員会を続けるもの、2つ目は次回の第8回特別委員会は主要論点を集中討議し、その後細かい文言に関しては起草委員会にゆだねて、今年中にまとめる方向をとる、といったものであった。NGO側は早く終わらせたいという意見が多かったと聞くがそれが実現するかは未知数である。