第7回国連障害者の権利条約特別委員会
短報 2006年1月30日(月)
JDF(日本障害フォーラム)条約委員会
午前
いよいよ会期最後の週の審議が始まった。タイトル及び第1条から始まった。長時間の議論が予想される第2条(定義)については第3条、第4条の審議の後に行うことになった。
審議に先立ち、議長からコメントがあり、複数の国から国際モニタリングについて質問を受けており、それに答えるような形で2月1日か2日に審議を行うこと、また、女性及び子どもの条文に関する審議も2月1日に行いたい旨が伝えられた。
○タイトル及び第1条(目的)の議論
第1条は、条約のタイトルの議論と同時に審議が進められた。議論の焦点は、条約のタイトルを簡潔なものとした上で、完結化することによりタイトルから抜け落ちた文言を第1条でフォローするかどうかだった。多くの国の支持が集まったのが、条約のタイトルを「障害者の権利に関する国際条約」等と、シンプルにした国際障害コーカス(IDC )提案。
その上で、議長テキストの条約タイトル内にあった「権利」や「尊厳の保護及び促進」等の要素を第1条で盛り込んでいくべきとする案も、多くの国に支持された。
また、「尊厳(dignity)」という文言の取り扱いについても、議論が展開された。「尊厳」の重要性を訴え、条約タイトルの中に位置づけるべきとする意見と、「尊厳は権利以前に存在するもの。促進するものではなく、尊重するもの」等として、タイトルへの位置づけに慎重な姿勢を示す意見とに分かれた。この件については、第3条(一般的原則)の審議の際、再度検討することとされた。
○第3条(一般的原則)の議論
本条項においては、内容では議長草案が基本的に支持された。構造や語句の修正を求める意見の中では、まず、柱書きの「基本的原則(fundamental principle)」という語句の「基本的」を削除すべきという意見が出された。パラグラフ(a)の「尊厳(dignity)」という言葉の前に「固有の(inherent)」を入れるという意見、(b)・(c)・(d)の各パラグラフを統合するといった案、 非差別などに関して機会の平等や男女の平等な度に言及しているパラグラフ(b)・(e)・(g)を非差別平等としてまとめるという案が出された。このパラグラフ(e)の「機会の平等」に関して、結果の平等に言及する政府もあった。日本政府は一般的に賛成する旨の意見をまず述べ、基本的で重要なものに焦点を当てるべきでありパラグラフ(f)のアクセシビリティは4条に入っており、本条では必要ないという意見を出している。
まとめは午後に持ち越された。
午後
冒頭に議長から、国際モニタリングはフォーカスできる論点を提出し、議論を進めていきたいということ、国際協力については、ほとんど案文が出ていないのでファシリテーターを中心に案を出して議論を進めていくことが課題になる、という話がされた。
○第3条(一般的原則)の議論―午前からのつづき
第3条〔一般的原則〕
この条約の基本的な原則は、次のものとする。
- (a) 尊厳、個人の自律(自己の選択を行う自由を含む。)及び人の自立
- (b) 非差別
- (c) 他の者との平等を基礎とした、社会への障害のある人の完全かつ効果的な参加及びインクルージョン
- (d) 差異の尊重と、人間の多様性及び人間性の一部としての障害の受容
- (e) 機会の平等
- (f) アクセシビリティ
- (g) 男女の平等
- エチオピア:柱書きの「基本的な」は、削除。カナダ案の(b)(c)(d)の統合案には賛成。EU(オーストリア)の新パラグラフとしての(h)案「障害のある子どもの能力に対する発達」は、「障害のある子どもの最善の利益」という表現がよい。→子どもの権利条約第3条との関連
- 議長:「障害のある子どもの能力の発達」と「障害のある子どもの最善の利益」は、注目すべき文言である。両方を入れるか、どちらかにするか、andを入れて両方を並べるか、検討したい。
- EU:「文化の多様性の尊重」(カナダ案)を支持する。この文脈においては、まずは障害者の権利との関係であり、一般的な文化の多様性ではない。→女性差別撤廃条約の第5条(役割に基づく偏見等の撤廃)(a)項との関連。また、カナダ案の(b)(c)(d)の統合案を支持する。「機会の平等」は、保障、
- イラン:「固有の尊厳の尊重」(a)を支持。「文化の多様性の尊重」を支持する。
- コスタリカ:「文化の多様性の尊重」については、もう少し議論が必要と思われるので留。保したい。他の条約との関連をみるべき。
- IDC :障害のあるこどもの言及は必要である。自立と尊厳、選択はちがう意味であり、分けた方がよい。カナダ案には反対である。
(d)は、このままがいい。パラダイムシフトを転換することにつながるからである。「文化的多様性」については、ここでは必要はなく、「他の者との平等性を基礎に」という表現があればいいのではないか。
「障害のある子どもの能力の発達」(EU案)を支持する。「人生のあらゆる段階」だけでは不十分。大人は法的能力があるが、子どもはそうではない。子どもが自分の権利を行使できるようにするために、原則に明示的に言及すべき。一方、「障害のある子どもの最善の利益」については、大人が決めるおそれがある。子どもの問題は、「自律」とはちがい、選択と自己決定がポイント。
「非差別」と「男女の平等」を一緒にするのは反対。議長案に賛成。 - アラブ障害者連合:高齢障害者の問題を重視すべき。IDC 案を支持。「文化的多様性」をこえた人権概念があることを認識すべきであり、障害者の権利を犠牲にしてはならない。
[議長のまとめ]
- 第3条は、全般的には支持が多い。
- 「基本的」(柱書き)を削除する意見がおおい。
- 他の人権条約との関連で「固有の尊厳の尊重」の支持が多い。
- 子ども、女性、高齢者については、独立した条文との関係で引き続き議論をしてほしい。
- (b)(c)(d)の統合については、いくつかの国から留保があったので、現状では分けておくほうが適切だと思われる。
- 「機会の平等」については、「結果の平等」との関係でもう少し考えたほうがいい。
- 女性、子どもについての議論は、多数意見ではなかったので、今後もファシテーター案を軸に検討していただきたい。
- 「文化的多様性」については、広い概念を取り入れることについて留保の国が多い。第3条は、一般的原則を述べなければならないので、文化的、伝統的アプローチに配慮してバランスのとれた文言にしていきたい。
○第4条(一般的義務)の議論
- イスラエル:IDC の案を踏まえた提起をしたい。パラグラフ1-(c)のすべての開発政策及び開発計画に「障害に係わる事項を据える」に続いてインテグレーションを挿入する。
パラグラフ3については、「意思決定過程」の前に「公的な」を入れたい。
パラグラフ3のbisとして、IDC 案(効果的で適切な救済)をあてることを支持する。自由権規約の第2条(締約国の実施義務)3項を踏まえて、救済についての条項を入れることが、適切で重要である。権利は救済されなければ実現されないことを認識しなければならない。 - セネガル(アフリカ代表):パラグラフ1については、「確保」だけでなく「促進」を入れてほしい。1-(f)の「約束」(柱書き)は削除。(f)の(ii)に「アクセシブルな情報の提供」を入れて、(g)を削除。救済の文言を入れることを支持する。
- インド:パラグラフ2に関連して、「漸進的な実現」とは関係のないアクセシビリティを否定することは差別につながる場合があるが、合理的配慮を提供するためには資金が必要である。これを即時的に実施できないときは、差別と呼んでいいかという問題がある。差別の定義を限定的にするのか、非常に慎重な議論が必要である。
- モンテネグロ:社会権規約の「自国における利用可能な手段を最大限に用いる」(第2条1項)内容を基本にして、「即時的に実現」可能なことについては、困難な場合はこれを適用しない。
- インド:パラグラフ3について、現在の書きぶりには賛成できない。障害者が政策決定に参加することはできない。
- ニュージーランド:「非差別」は、即時的に実施されなければならないが、「合理的配慮」に関連してくる。「漸進的」と「合理的」はちがう。「政策決定への参加」は、第29条(政治的及び公的活動への参加)のパラグラフ(b)との関連で考えるべき。
- ブラジル:「救済」を入れることに賛成。
- メキシコ:法的な救済の必要性をどうするか、国内法との関係で考えなければならない。パラグラフ4に関しては、違う条文にいれたほうがよい。IDC の「救済」に関する案は支持できる。
- カナダ:パラグラフ1の柱書き(…すべての人権)の「すべて」は削除する。「非差別」の原則と「あらゆる場面」への参加を強調したい。 社会権に関しては、「漸進的に達成」することが義務であり、「救済」は社会権に適用されない。
- ロシア:全体的には支持するが、本条には難しい部分がある。パラグラフ1(f)の(ii)「入手可能な価格」によって、安い費用で補助具等が提供する場合があるが、リソース(社会資源)の配分との関連で難しい問題がある。
- 日本:パラグラフ1の(a)「…立法措置」の前に「適切な」を入れる。同パラグラフの(b)の「平等の権利」は「平等の原則」にしたほうがよい。
パラグラフ2の「…ただし、それらの権利の完全な実現を漸進的に達成することが障害に基づく差別という結果になる場合は、この限りではない。」を削除すべき。例えば、車いす利用者のアクセシビリティの保障には、リソースが多く伴う場合が多くあり、「救済」を入れることには賛成できない。
「救済」については、カナダ案(救済条項の規定をもつ人権条約に基づき)の趣旨の表現であれば検討の余地がある。
―閉会の時間になり、議論は明日に継続。
以上