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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月31日(火)

(午前)河村ちひろ(新潟青陵大)

(午後)JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

午前(河村ちひろ)

会議の様子

 1月31日は、前日から続けられている第4条の審議から始まった。10か国以上の政府代表とNGOによる発言があり、審議時間は1時間半近くになった。その後、第2条の定義の条項への議論へと移った。第2条についてはさまざまな論点があり、審議は午後おそくまで続いた。その後、障害を持つ女性と子どもについて、ファシリテーター案を基に検討に入った。


○第4条(一般的義務)の議論

 前日からの続きである。

 一般的義務を条文化することや条文の構成等については、これまでの議論もあり、全体的な支持が得られた。細かい文言に関する提案が多かったが、特に、パラグラフ1の(a)(b)について、女性差別撤廃条約や子どもの権利条約等、他の権利条約で使用されている文言と議長テキストのそれが一致していないとの指摘が目立った。これについてマッケイ議長はより整合性を持たせる形で、他の条約の該当条文を参照しながら、適宜調整を検討する考えを示している。

 また、経済的、社会的開発政策・計画に障害に関する事項を設けるとするパラグラフ1(c)に関しては、表記の面で多くの意見が寄せられたが、「あらゆる政策や計画において、障害のある人の人権擁護と促進が考慮に入れられるべき」とするEU案やこれに類似する国際障害コーカス(IDC)案への支持が多く、これらを踏まえた調整がなされるものと思われる。

 経済的、社会的、文化的権利の漸進的な達成について触れているパラグラフ2は基本的な支持を得たが、パラグラフ2内にある「(漸進的な達成が)障害に基づく差別という結果になる場合は、この限りでない」とする例外規定については、「国際人権法に基づく直ちに適用可能な義務を侵害することなく」と差替えるべきとするEU案への支持も目立った。

 パラグラフ3では、第2文の削除を求める意見が多かった。また、「救済」についてどう位置づけるかについては賛否が分かれ、合意は図れなかった。

○第2条(定義)の議論

 続いて第2条の定義条項の審議へと移った。ここは議論の多いところである。議長草案では、「コミュニケーション」[言語]」「障害」「障害者のある人」「障害に基づく差別」「言語」「一般に適用のある国内法」「合理的配慮」「ユニバーサルデザイン及びインクルーシブデザイン」が規定され、あるいは検討が必要であるとされている。

 午前中に行われた各国政府代表の発言をまとめると大体以下のようになる。「コミュニケーション」については、EUがIDC提案にしたがって「平易な言葉(plain language)」の追加を提案した。カナダは「平易な言葉」以外に「文字表記(display of text)」追加の提案以外に「手話の利用を含む口及び耳による(oral-aural)コミュニケーション」を削除し「spoken and sign language」に変更するように求めた。コスタリカやニュージーランドもこれらカナダと同じ意見であった。文字表記の追加は午後の日本政府も同じ意見であり、かなりのコンセンサスを得つつあるのではないかと思われる。

 「障害」「障害を持つ人」については、EUは、特定の人を排除することになるので定義は必要ないという立場であった。定義は困難ではないかという意見が他の国からも出されたが、これに対して、ICFの定義を利用すべきであるという意見や、米州障害者差別撤廃条約の定義を参考にしてほしいとの意見が複数の中南米諸国から出された。IDCは障害の定義は必要ないとしている。

 さて「差別」の定義である。ここでは、今回大きな動きがあったといえる。合理的配慮の否定を差別の定義に入れ込むか=合理的配慮の否定が差別になるのか、という重要な問題がある。これまで多くの政府は合理的配慮の否定を差別の定義に入れ込むことに慎重だったが、ここにきて、各国の態度が変化してきた。まず、EUは「合理的配慮と非差別は関連付けられるべきで差別の定義に合理的配慮の否定は必要」とした。カナダやノルウェー、コスタリカなども合理的配慮の否定を入れ込むことに賛成した。もちろん反対した国もあるが、特別委員会の流れは、合理的配慮の否定は「差別」となる、という方向であると感じる。また、直接差別と間接差別を書き込むことについては、「すべての形態の差別」に含まれるとして反対する国が多かった。

 「合理的配慮」については、文言についての議論が多かった。Accommodation(配慮)をadjustment(調整)にすべきという意見も出たが、「配慮」に賛成が多かった。また、「不釣合いの負担」についてもいくつか意見が出された。

 「一般に適用のある国内法」については、必要の無いという意見も出ていた。

午後(JDF(日本障害フォーラム)条約委員会)

 午前に引き続き第2条〔定義〕について、多数の各国政府およびNGOによる発言があり、最後に議長がまとめを述べた。さらに、終了時間までの約20分間で第6条「障害のある女性」についてファシリテータ(ケニア)による提案およびコーディネータ(韓国)の発言があった。

○第2条(定義)の議論

 日本政府は、まず、コミュニケーションに「文字表記」を付け足すことを提案した。これは難聴者などのニードを考慮したものである。率直に感謝したい。しかし、合理的配慮の否定を差別の定義に入れることには反対した。これは従前の意見の繰り返しではあるため、ある程度予想はついていたが、今回は多くの国が合理的配慮の否定を差別の定義に入れ込むことに前向きの発言をしている。今後は障害者団体側から強く働きかける必要があると思われる。

[議長総括の要旨]

 「定義」を一つの条文とすることについては各国政府・NGO代表からの合意が得られたと考える。議論の多かった項目について以下のようにまとめられる。

●「コミュニケーション」
 多数の国から草案の修正意見が表明された。多くは表現の修正、あるいは、草案に列挙されていないコミュニケーション手段(たとえば「平易な(plain)言葉」等)の追加に関する意見であった。また、コミュニケーション手段を列挙するのではなく、ミュニケーションとは社会的行動様式であり人々の意思疎通の相互作用である、という定義にしてはどうかという提案もあったが、これへの支持は特になかった。ここでは特定のコミュニケーション形式が排除されることがないように定義をすることが重要である。

●「障害に基づく差別」
 これについてはいくつかの政府から留保もあり、様々な意見が表明された。合理的配慮の否定が差別であることを盛り込むように、という提案があり、多くの国の賛同発言があった。最後の一文に中の「直接差別及び間接差別を含む」は内容的にすでに暗示されているから不必要であるとの提案があったが合意には至っていない。5条の4(障害のある人の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な措置は、障害に基づく差別と解してはならない。)をここに盛り込むべきとする提案がありこれも検討すべきである。

●「一般に適用のある国内法」
 締約国に対してこの条約が及ぼすパワーを鈍らせることのないようにという観点での検討が必要である。

●「合理的配慮」
 accommodationをadjustmentという語にしてはどうかという提案に多少の支持もあったが、草案どおりreasonable accommodationのほうがよいであろう。他にも検討の余地のある文言の修正提案がされた。

●「ユニバーサルデザイン」及び「インクルーシブデザイン」
 支援機器・支援技術をここには含まないと解釈される懸念があるのでそれらを明示せよとの提案があったが、検討したい。第4条1(f)の内容と一貫させるほうがよいかもしれない。

●「障害」「障害のある人」
 当初、これに関する定義は必要ないであろうと考えていたが、定義の必要性を強く主張する政府がいくつかあり、本条に盛り込みたいと考えるに至った。「障害」「障害のある人」の両者を定義するのか、「障害」だけにするのかなど範囲の問題、今後の作業の方法などについて提案していきたい。

○第6条(障害のある女性)の議論

 女性条項と子ども条項のファシリテータによる共同提案文書をもとに、まず、女性問題担当のファシリテータであるテレジア・デゲナー氏から提案が行われた。

 共同提案文書(英語)のURL:
http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7docs/ahc7fachwo1.doc 本文書は、第1部女性、第2部子ども、第3部共通条項の3部作になっている。

 第1部の構成は以下の通りである。

 前文に n bis)として、障害のある女性と少女が権利侵害においてより高リスクであることを認識させるための一文を加える。また独立した条文「障害のある女性」を設けるか、または、第4条〔一般的義務〕に盛り込む形で、女性に関する問題を喚起させる。さらに、第16条〔搾取、暴力及び虐待からの自由〕、第23条〔家庭及び家族の尊重〕、第25条〔健康〕のなかに関連する条項を追加する。