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1. はじめに

子どもの権利条約(CRC)では、障害児を含むすべての子どもの人権を認めている。同条約には、障害児の権利を認め、これを促進する条文が特に盛り込まれている。CRCに加え、2006年12月に国連総会によって採択された障害者権利条約(CRPD)も、すべての障害児の人権の促進に新たな弾みをつける。

ほぼ全世界で子どもの権利条約が批准され、障害者権利条約の採択をもたらした社会的かつ政治的機動力の存在が認められるにもかかわらず、障害児とその家族は、その権利の享受を危うくする難題を日々突きつけられ続けている。障害に関連した差別や排除は、あらゆる国、あらゆる社会部門、あらゆる経済的、政治的、宗教的および文化的環境において発生している。

インクルージョンの促進

人権擁護は、障害児のインクルージョンに向けた活動を感化するとともに、その基盤も提供してきた。インクルージョンのためには、年齢、性別、民族性、言語、貧困あるいは障害にかかわらず、すべての子どもを社会の正式な一員として認め、そのすべての権利を尊重する必要がある。インクルージョンには、これらの権利の享受を妨げる可能性がある障壁の除去が含まれ、さらに適切な支援環境および保護環境の整備も必要とされる。

国連教育科学文化機関(UNESCO)は、ともすれば「異なっている」と思われてしまう子どものインクルージョンは、「彼らが地域社会の生活と文化に、完全かつ平等に参加し貢献できるよう、個人や組織、および連携の姿勢と慣習を変えることであり、インクルーシブな社会とは、違いが尊重され、高く評価される社会であり、差別と偏見に対する積極的な取り組みが、政策や慣習において見られる社会である」と述べている。1994年、UNESCOの主催によりスペインのサラマンカで開催された特別なニーズ教育に関する世界会議では、インクルーシブ教育を標準とすることが勧告された。これは現在、新たな障害者権利条約の中で再確認されている。

教育分野においてインクルージョンとは、幼い子どもも対象にした、バリアフリーの、子ども中心の学習環境づくりを意味している。それは、すべての子どもが、隔離されていない、地域の施設および環境において、公式非公式を問わず教育を受けることを確保するために適切な支援を提供することを意味する。これは子どもの権利条約第29条に規定されており、それによれば、子どもの教育は、子どもの人格や才能並びに精神的および身体的能力をその可能な最大限度まで発達させ、理解と寛容の精神に従って、自由な社会における責任ある生活のために子どもに準備させることを指向すべきであるとされている。

インクルージョンは、数多くの「特別な」子どもたちだけでなく、すべての子どもたちを対象としたプロセスである。それは障害のない子どもに、多様性が例外ではなくむしろ標準である環境の中で成長する経験を与える。このような多様性の提供と受け入れに教育制度が失敗するとき、疎外や排除につながる問題が生じるのである。

インクルージョンは「インテグレーション」とは同じではない。インテグレーションは、障害児を「通常の」普通学級にあてはめる、あるいは障害児を「通常の」基準に適応させる手助けをするという意味を含んでいる。たとえば、学校という環境におけるインテグレーションは、必ずしも学校組織や指導法を修正することなく、障害児を通常の学校に配置することを意味する。一方インクルージョンでは、すべての子どもがともに活動し、学べるようにするために必要な支援を、学校側が採用し、提供しなければならない。

当ダイジェストの目的

障害児による人権の享受は、インクルーシブな社会においてのみ、完全に実現することができる。それはすなわち、子どもの完全参加を妨げるものが何もない、そしてすべての子どもの能力、スキルおよび可能性が、完全に表現できる社会である。ダイジェストでは、障害児の社会参加を進めるための具体的なイニシアティブと戦略を再検討する。これらのイニシアティブは、決して収入が豊かな国々に限られてはいない。実際、世界の最貧国の中には、現在、政治的意思の結集や地域社会との連携、そして何よりも障害児および障害者の意思決定プロセスへの参加を通して、道を切り開いている国もある。