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エグゼクティブサマリー(要旨)

障害児とその家族は常に、基本的人権の享受と社会参加を阻む障壁を経験している。障害児の能力は見過ごされ、才能は過小評価され、ニーズには低い優先順位しか与えられない。しかし、障害児が直面する障壁は、その障害が原因であるというよりは、彼らが生活している環境が原因であることの方が多い。

このような子どもたちの状況は好転しているが、その一方で、今なお深刻な格差が存在する。プラス面としては、過去二十年以上の間に、障害者自身に由来する、また市民社会や政府の多大な支援による、世界的な気運の高まりが見られようになったことがあげられる。多くの国々では、地域の小規模なグループが協力して地方組織や全国組織を結成し、法制度の改革や改正のためのロビー活動を進めてきた。その結果、地域社会の正式な一員としての障害者の参加を阻む障壁が、一つずつ取り除かれ始めている。

しかし、国の中でも、そして国によっても、進捗状況は異なっている。多くの国々は、障害者を保護する法律を何も制定しておらず、そのため、障害者の権利は侵害され続けている。

「障害児の権利促進」に関するイノチェンティ・ダイジェストでは、約二億人の障害児の状況を世界的な視点から見た見解を提供することを試みている。ダイジェストの内容は、さまざまな地域の国々からの、そして幅広い情報源からの報告に基づいている。報告には、国際人権条約の実施を監督する責任を負う人権条約団体に提出されたものも含め、加盟国から国連に提出されたカントリーレポートに加え、障害者、その家族および地域社会の人々、専門家、ボランティア、そして非政府組織による報告も含まれている。

ダイジェストは特に子どもの権利条約(CRC)と障害者権利条約(CRPD)に焦点を当てている。後者は2007年3月30日の開放の日に、前例を見ない81カ国によって署名された。2007年8月15日現在、101カ国がCRPDに署名し、4カ国が批准している。同条約の発効のためには、20カ国によって批准される必要がある。障害者権利条約は各国および各地域社会に、その法律と制度を再検討し、障害者が他のすべての人と同じ権利を保障されることを確保するために必要な変更を促進する、またとない機会を提供する。そして、基本的人権を、障害者の特別なニーズと状況に取り組む手段として示し、それらの権利が実現されることを確保するための枠組みを提供する。

インクルージョンを阻む障壁の理解

障害の社会的モデルでは、社会や社会制度への参加を妨げるものは、個人の中にではなく、むしろ環境の中に存在し、そのような障壁は防止、削減、あるいは撤廃することができ、またそうされなければならないと認めている。

環境上の障害は、数多くの形で現れ、あらゆる社会レベルにおいて認められる。それらは政府によって作成される政策と規則に反映される。このような障害は、たとえば公共施設や交通機関および余暇施設における障壁のように物理的な場合もあれば、態度に関連している場合もある。広くはびこっている障害児の能力と可能性への過小評価は、低い期待、低い成績、そして資源配分における低い優先順位という悪循環を生みだす。

貧困は、参加を妨げる、世界中にまん延している障壁で、障害の原因でもありまた結果でもある。貧しい暮らしをしている家族は、特に乳幼児期に疾病や感染に弱い。彼らはまた、十分な医療ケアを受けにくく、必要最小限の医療費や学費を支払うことが難しい。障害児の世話にかかる費用が、家族、その中でも特に、働いて世帯収入を得ることができない場合が多い母親たちに、さらに負担をかける。

必要とされる行動

障害者権利条約の条文は、取り組みが必要な特定の分野について、条約の実施と監視(モニタリング)の仕組みと併せて明記している。これらは子どもの権利委員会によって発行された各国政府への勧告を補完するものである。

国際機関およびその国内連携機関の主な課題は、ミレニアム・アジェンダによって設定された課題も含め、すべての開発プログラムの初期目標、対象およびモニタリング指標に、障害者が自動的に、しかし積極的に参加できるようにすることである。

国内レベルでは、関連する国連基準によって、多数の具体的な行動が求められている。これらの行動の中で最も重要なものは、以下の通りである。

  1. 特に障害児と障害者のインクルージョンに関して、これらの基準との一致を確保するために、障害者団体と連携し、すべての法令に関する包括的な見直しを実施する。すべての関連法令および規則には、障害に基づく差別の禁止を盛り込まなければならない。
  2. 障害児の権利が侵害された場合の効果的な救済策を提供し、これらの救済策がすべての子ども、家族および保育者にとってアクセシブルであるようにする。
  3. すべての適用可能な国際法の関連する規定をまとめた国内の行動計画を開発する。このような計画では、測定可能な、期限を定めた目標を、評価指標とともに明記し、それに従って資源を準備しなければならない。
  4. 障害者に関連する省庁および機関からメンバーを募った、高官レベル多部門調整委員会に加え、各関連部門に障害問題を扱う中心となるセクションを設ける。この委員会には、最初の提案をし、政策を提示し、進捗状況を監督する権限をもたせなければならない。
  5. オンブズマンあるいは児童委員などの独立したモニタリング機構を開発し、子どもとその家族が、そのような機構があることを知り、アクセスを得る上で十分な支援を受けられるようにする。
  6. 障害児とその家族への必要な資源の配分を確保するために協力して取り組む。これには、アクセシブルな建物における、無償の初等および中等教育、教師およびその他の専門家の養成、財政支援および社会保障が含まれる。それぞれの子どもには、支援機器、手話、点字教材、およびさまざまなアクセシブルなカリキュラムなどの適切な個別支援が提供されなければならない。
  7. 障害児の脱施設化のためのプログラムを設け、家族や里親が専門家による支援や財政支援を受けられるようにし、そのもとで障害児が暮らせるようにする。施設に残る子どもたちの権利を保護するために、全国的な介護水準を設け、適切な研修を実施し、それらを厳密に監督しなければならない。
  8. 障害児に対する事実上の差別の防止とその解決を目的として、意識向上および啓蒙キャンペーンを、特定の専門家グループに加え、一般向けにも実施する。
  9. 障害児のためのコミュニティサービスおよび支援システムを実施する。
  10. 障害者団体が、関連する計画および政策の作成に際し助言を提供し、正式に代表として参加し、活動を拡大するための財政支援を受けられるようにする。障害児はその意見を述べるにあたり、支援が受けられるようにしなければならない。

各国政府によるこのような行動は、障害児を支援する家族および地域社会の取り組みを促進し、活発にするだろう。

結論

世界中の国々で、障害児とその家族は差別に直面し続けており、いまだに基本的人権を完全に享受することができないでいる。障害児のインクルージョンは、社会的正義の問題であり、社会の未来に対する、必要不可欠な投資である。それは慈善や好意に基づくものではなく、普遍的な人権の表明と実現に不可欠な要素である。

過去二十年の間に、変化に向けた世界的な気運の高まりが認められてきた。多くの国々では、法律と体制を改革し、障害者が地域社会の正式な一員として参加することを阻む障壁を取り除くことに着手している。

既存の子どもの権利条約の規定に基づいて制定された障害者権利条約は、障害児とその家族の権利を確保する新たな時代を切り開く。ミレニアム・アジェンダおよびその他の国際的なイニシアティブとともに、これらの国際基準は、各国および各地域社会が、障害児および障害者の状況の根本的な見直しを図り、その社会参加を促進する具体的な措置を講ずる上での基盤を構築する。