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国際的な監視と国内法の調和
日本と障害者権利条約

ロン・マッカラム(名誉勲章受章者)
シドニー大学法学部名誉教授(オーストラリア)
国連障害者権利委員会委員長

東京、2012年12月6日(木)
〔JDF全国フォーラム 基調講演より〕

英語原文:International Monitoring And The Harmonisation of Domestic Law:
Japan and the CRPD

1.はじめに

皆さん、おはようございます。障害者週間に開催される日本障害フォーラム(JDF)全国フォーラムにおいて講演の機会をいただき大変光栄です。私の妻であるマリー・クロック教授共々、ここに参加できたことをうれしく思い、この美しく魅力的な日本への訪問を手配いただいたJDFの皆様、とりわけ長瀬修さんに感謝を申しあげます。

日本は、その国内法を、国連障害者権利条約(以下、「権利条約」と呼びます)に則して刷新し調和させる作業を始めています。2011年には障害者基本法を改正し、今年にはサービス給付の法律(障害者総合支援法)の改正がありました。来年には、障害者に対する差別を禁止する法律が制定されるとお聞きしており、こうして日本が近い将来に権利条約を批准するための道筋が整えられているところです。この講演で最初にご説明したいのは、ある国が権利条約を批准すると、「締約国」と呼ばれることです。つまり、権利条約に含まれる責務を果たす約束を結んだ(締結した)国ということです。

そして、講演の次の部分(第2項目)では、権利条約の概要を説明します。今日参加された皆様の中には、権利条約の条文をよくご存じの方も多いと思いますが、なじみの薄い方もいらっしゃることでしょう。ですので権利条約をご存じの方には少しご辛抱いただき、この条約が定めていることの範囲について、すべての皆さんに手短に説明します。次の第3項目では、権利条約が早期に批准されている状況について論じます。国連障害者権利委員会(以下、「権利委員会」と呼びます)が、第4項目のテーマです。この委員会は、権利条約を批准した国々における条約の実施の監視(モニター)を主な役割とする条約体(条約に基づく委員会)で、その委員会の構成についてもご説明します。第5項目では、権利委員会が持つ監視(モニタリング)の役割について詳述します。そして終盤の第6項目では、権利委員会がその「建設的対話」と「総括所見」の中でこれまで扱った課題の中から、日本に関わりのあるものについて考察します。最後の第7項では、この講演の結びを行います。

Ron

2.障害者権利条約の概要

権利条約の目的は、第一条の最初の文章に述べられています。「障害のあるすべての人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保すること、並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。」という部分です。一言でいえば、権利条約は、私たち障害者の人権と固有の尊厳を守るために作られた人権条約です。この条約が必要なのは、障害のない人が当たり前と考えがちな人権のすべてを、私たち障害者の多くが完全に享受できていないからです。

権利条約はあらゆる障害者を保護するものです。障害者の定義は、第一条の2番目の文章で次のように定義されています。「障害〔ディスアビリティ〕のある人には、長期の身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害〔インペアメント〕のある人を含む。これらの機能障害は、種々の障壁と相互に作用することにより、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げることがある。」障害者のこの幅広い定義は、いわゆる障害の「社会モデル」を取り入れています。それは、障害〔ディスアビリティ〕が「形成途上にある〔徐々に発展している〕概念」であり、私たち機能障害のある者が、私たちの前に立ちはだかる態度や環境の障壁(バリア)のために、人権や基本的自由の行使をしばしば妨げられることを認めています。言葉を換えると、権利条約は、身体的、感覚的、精神的、知的な機能障害のある私たちが、他のすべての人と同じように、人権と基本的自由を有することを、政府や、人々や、団体に認めさせ、社会の態度を変えることを目指しています。権利条約の第八条は、社会モデルをさらに追求し、「固定観念、偏見及び有害慣行」と闘うため、障害者の権利について啓発する手段を講ずることを各国に義務づけています。

権利条約の第三条は、この条約の基礎となる8つの原則を掲げています。この8つの原則を簡潔に書くと次のとおりです。

  • 固有の尊厳と個人の自律の尊重
  • 非差別〔無差別〕
  • 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン
  • 差異の尊重
  • 機会の平等〔均等〕
  • アクセシビリティ
  • 男女の平等
  • 子どもの発達しつつある能力の尊重

簡単に言うと、この第三条の原則は、政府や、人々や、団体が、私たちすべての障害者を固有の尊厳のゆえに尊重して取り扱い、社会への完全な参加が障害のために制限されないようにすることを求めています。

権利条約の第五条は大変重要な条文です。それは私たち障害者に対する差別を禁止しています。第五条第二項は次のように述べています。「締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害のある人に保障する。」第二条ではこれに関連して差別の定義が次のように述べられています。「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。」さらに、この定義は続いて、差別は「合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。」と述べています。

「合理的配慮」は重要な概念です。同じく第二条に次のように定義されています。「障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。」簡単に言うと、合理的配慮とは、障害者と他の人々とが同じ水準に立てるよう手立てを講じるという意味です。例えば、合理的配慮は、車いす利用者を雇う雇い主に、職場のトイレを車いすで使えるように(アクセシブルに)することを義務づけることがあります。第五条第三項は、障害に基づく差別を禁止する法律は、合理的配慮を含まなければならないことを明らかにしています。第三項は、「締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が行われることを確保するためのすべての適切な措置をとる。」と述べています。私たち障害者を他の人たちと同じ位置に置くために、合理的配慮はしばしば必要であり、それによって、私たちすべてが同じ土俵に立てるようになるのです。

第六条と第七条は、それぞれ障害のある女性と少女、障害のある子どもの権利を確保するものです。第九条も重要な条項で、私たち障害者が、建物、交通、情報にアクセスできることを保障しています。第十一条は、緊急時、災害時、戦争下において、国際人道法の原則に基づき、政府が私たち障害者を保護することを求めています。2011年3月11日に日本の東北沿岸を襲った悲劇的な津波を、全世界が思い起こしています。この災害が示したように、障害者はこのような緊急事態において弱いものです。

第十二条は、障害者の法的能力について述べており、権利条約のまさに核心に触れるものです。第十二条第二項は、「障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを」規定しています。言葉を換えれば、すべての障害者は、知的障害や精神障害のある私たちの仲間も含めて、完全な法的能力を有するということです。多くの障害者にとって、法的能力を完全に行使するためには支援が必要ですが、同条の第三項は、条約を批准した国に対し、障害者にそのような支援を提供することを求めています。完全な法的能力がなければ、他の大人にとってあたりまえと思える人権を、障害者が十分に享有できるのだとは言えません。なぜなら、自分自身のために意思決定する能力は、個人の自律や、その人のインテグリティ(不可侵性)の核心にあるからです。第十二条第四項は、(障害者が)搾取(されること)を防ぐための保護措置(セーフガード)を設けることを、締約国に認めています。しかし、いかなる保護措置も、「法的能力の行使に関連する措置が、障害のある人の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反及び不当な影響を生じさせないこと、障害のある人の状況に対応し及び適合すること、可能な限り最も短い期間に適用すること、並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査に服することを確保するもの」でなければなりません。

Ron

権利条約は、私たち障害者のためのさまざまな権利を明らかにしています。これらの権利を詳しく考察する余裕はありませんので、次に列挙することで代えさせていただればと思います。

  • 生命に対する権利
  • 法律の前における平等な承認
  • 財産を所有、相続し、信用・金融を利用する権利を含む、完全な法的能力
  • 司法への完全なアクセス(裁判や法的手続きの利用を含む)
  • 身体の自由及び安全
  • 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由(医学的実験を含む)
  • 搾取、暴力及び虐待からの自由
  • 個人のインテグリティ(不可侵性)への権利
  • 移動の自由への権利(国籍を有する権利を含む)
  • すべての子どもが出生時に登録され名前を持つ権利
  • 地域で生活し、自立した生活を送る権利
  • 個人の移動性(適切な移動補助具や技術へのアクセスを含む)
  • 表現及び意見の自由
  • 個人のプライバシーへの権利
  • 家庭及び家族の尊重
  • 結婚し家族を形成する権利
  • 障害のある子どもが家族生活を送る平等の権利
  • 教育を受ける権利と、地域で他の者と共にインクルーシブな教育を受ける権利
  • 差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利
  • ハビリテーション及びリハビリテーションサービスの提供
  • 他の者との平等を基礎とした、労働についての権利(同一価値の労働についての同一報酬を含む)
  • 適切〔十分〕な生活水準
  • 政治的及び公的活動への参加の権利(投票する権利を含む)

3.権利条約の批准

権利条約は、国連において2007年3月30日に署名のために開放されました。各国は権利条約に署名するとともに、権利条約に批准することもできます。批准とは、条約によって法的に拘束されることを同意することです。権利条約は2008年5月3日に発効しました。これは、第四十五条第一項に、20番目の国が条約に批准したあと30日後に発効すると規定されているためです。

権利条約の批准は実に速く進んでいます。現在(発表原稿入稿時)、欧州連合を含む126か国が権利条約を批准しています。権利条約は、国連の他の人権条約のどれよりも早く批准されています。これは、私の考えでは、各国政府が障害者の人権を保護する必要性を認めたからです。そして、私たち障害者の人権が、大半の国々の国内法に位置づけられたのは、ごく最近のことです。

4.障害者権利委員会

権利条約の第三十四条により、障害者権利委員会が設置されています。この委員会は、他の国連の条約体(条約に基づく委員会)と同じように活動しています。権利委員会はいまやフルに活動しており、締約国から選出された18人の委員で構成されています。言い換えれば、私たち委員は、権利条約を批准した国々から選出されているのです。私たち委員は、4年の任期で選出され、再選できるのは一度だけです。つまり、権利委員会では4年の任期を2回、最長で8年間だけ務めることができます。これによって、権利委員会は4年ごとに必ず改編されることになります。

権利委員会の現在の委員のうち、15人は障害者です。つまり、私たち18人の委員のうち15人が、障害をもちながら生活しています。6人の委員は全盲または視覚障害があり、5人の委員は移動の障害があります。1人の委員は両腕がなく、他の委員は片腕しかありません。2人の委員は精神障害があります。去る9月に、新たに5人の委員が権利委員会に選出され、2013年1月1日から任期が始まります。この新しい権利委員会委員のうち、17人が障害者です。私は、権利委員会の委員としてこのように多くの障害者を選出した締約国に拍手を送ります。

現在、権利委員会は、年に2回、通常や4月と9月に、ジュネーブで開催されます。それぞれの委員会の開催(期間)を会期と呼びます。現在、4月の会期は1週間で、9月の会期は2週間です。権利委員会は、国連総会の第三委員会に対し、委員会開催期間の延長を申請しました。なぜなら、権利委員会には(締約国からの条約実施の進捗に関する)「第1回報告」がすでに31件寄せられ、その検討を待っているためです。

5.障害者権利委員会による監視の役割

権利条約第三十五条第一項では、各締約国は、条約を批准した2年後に、権利委員会に対して第1回目の報告(「第1回報告」)を提出しなければならないと定めています。この報告は、「この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこの措置によりもたらされた進捗に関する包括的な報告」です。さらに同条第二項では、この第1回報告が(委員会で)検討されたのち、締約国はさらに4年ごとに報告を提出しなければならないと定めています。これらの報告により、各国で権利条約に則した立法、政策、実践がなされているか進捗の詳細が明らかにされます。

第三十六条第一項は、権利委員会に締約国からの報告を検討する権限を与え、また「適切と認める提案及び一般的な性格を有する勧告を行うものとし、これらの提案及び勧告を関係締約国に送付する」権能を与えています。

権利委員会は、これまでに6つの締約国の第1回報告を検討しています。チュニジア、スペイン王国、ペルー共和国、中華人民共和国、アルゼンチン、ハンガリーです。2013年4月には、権利委員会はパラグアイの第1回報告を検討し、2013年9月には、エルサルバドル、オーストラリア、オーストリアの第1回報告を検討します。

次に検討過程についてご説明します。権利委員会は、第1回報告の検討を時系列順に行うことを決めました。つまり、国連に提出された順番に報告を検討するということです。権利委員会は、まずその国の「報告者」を任命します。この「報告者」は、その国との「建設的対話」と呼ばれる会議のための準備に主要な責任を負います。

権利委員会はその国の第1回報告を読みます。第1回報告は大変役立つものである一方、権利委員会委員にとって、特にその国の言語を話せない場合には、その国で実際に何が起きているのか、知るのは難しい場合もあります。そこで、市民社会からの「代替報告(オルタナティブ・レポート)」が大変役立ちます。というのは、通常その国の障害者団体が、1つか複数の代替報告を作成しており、その国に住む障害者の意見を私たちに知らせてくれるのです。

権利委員会は、その会期中に、「事前質問事項」(list of issues)と呼ばれる質問事項リストを作成します。この質問事項によって、その国に関する情報をさらに求めるのです。そしてその国は、事前質問事項への回答を権利委員会に送ります。

次の会期では、その国との「建設的対話」の時間が設けられます。通常、午後に3時間、翌日の午前中に2時間から3時間、建設的対話を行います。私は権利委員会委員長として、まずその国の代表団に歓迎の辞を述べ、次に、その国の代表者に開会の辞を述べていただきます。次は、その国の「報告者」が、自身の見解や関心事について最初の報告を行います。そして権利委員会委員が質問を行い、「建設的対話」が進められます。短い休憩の後、その国の代表団が、権利委員会委員の質問に対する回答を行います。この質問と回答は、「建設的対話」が終了するまで行われます。

権利委員会は、「建設的対話」についての結論を作成しますが、これは委員会の「総括所見」と呼ばれます。その国の「報告者」が草案を作成し、権利委員会が注意深く検討を加え、必要に応じて変更、追加、削除を行います。「総括所見」は、通常3,500語から4,000語の長さです。最後に、この「総括所見」は、ジュネーブ(国連)のその国の政府代表部に送られます。簡単に言うと、「総括所見」は、その国の優れた実践を述べるとともに、権利条約を順守するために求められる権利委員会の勧告を述べるものです。

6.(権利委員会の)「建設的対話」と「総括所見」:主な課題

権利委員会による6つの「総括所見」がインターネット上に公開されており、私たちの仕事の全体を理解されたい方はお読みいただくことをお勧めします。本日は、権利委員会の建設的対話と総括所見の双方で毎回のように取り上げられるいくつかの課題に絞って論じたいと思います。私が論じようと選んだこれらの課題は、日本の社会に最も関連の深いものであると考えています。

権利委員会は、権利条約第五条を重要だと考えています。権利条約の概要の中でもお話ししたように、第五条は、障害者に対する差別を禁止する法律の制定を各国に求めています。そのような法律を持たない国では、それが制定されるべきだと権利条約は勧めています。この法律は、障害者が合理的配慮を求めることを認め、障害者が他の人たちと同じ位置に置かれることを保証するものでなければなりません。私は、日本が障害者に対する差別を禁止するため、来年には詳細な差別禁止法を制定されることをうれしく思います。

権利条約第九条が、私たち障害者のアクセシビリティを保障していることは既にお話ししました。悲しいことに、公的、私的な建物、交通、情報へのアクセスは、ほとんどすべての国々で、程度の差こそあれ、不足しています。そのため、権利委員会は、各国が生活のすべての領域においてアクセシビリティを改善することを、切に求めています。

すべての障害者が完全な法的能力を持つことについては、建設的対話と総括所見において常に中心的に取り扱われてきました。第十二条は、すべての国が、旧来の法的後見の仕組みを解体し、意思決定を支援する新たな制度を確立することを求めています。意思決定支援というのは比較的新しい概念です。それは手短に言うと、障害者、特に知的障害者または精神障害者が、自分の意思を決定する際に、自分自身が選んだ友人、家族、支援者の支援が受けられる仕組みを作ることを求めています。意思決定支援(の概念)はまだ発展段階にありますが、意思決定を他者の手から障害者(自身)に取り戻す、新たな時代の到来を告げるものです。第十二条とそれに関連する条項は、すべての障害者が、医療へのインフォームドコンセントを与えたり、または撤回したり、司法の利用や、結婚が、確実にできるようにすることを、各国に求めています。

権利条約第十九条は、地域で自立した生活を送る権利を、すべての障害者に与え、各国に対し、障害者がどこに住みたいか選べるような方策を取るよう義務づけています。私は日本の状況はよく存じあげませんが、多くの国では、重度の身体障害や知的障害、精神障害のある人は、しばしば大規模な施設に入所しています。第十九条は、締約国に対し、脱施設化プログラムを策定し、障害者が実際に地域で自立した生活を送れるよう、十分な資源を充てることを求めています。

教育と健康については権利条約第二十四条および二十五条で扱われています。教育について、権利委員会は、障害のある子どもが一般(メインストリーム)の学校制度の中で教育を受けられるために、つまり、普通の女の子や男の子と隣同士で学べるために、締約国が十分な資源を確保するよう、常に関心を払っています。私は初め盲学校で学び、よい教育を得ることはできましたが、もし一般校で授業を受けていたなら、社会性をさらに発展させることができたろうと信じています。健康について、権利条約は、障害者が、他の市民が得るのと同等の保健を--性および生殖に関するものも含めて、確実に得られるよう、各国に義務づけています。

選挙で投票する権利は、市民権を証明するものの一つであり、そのため、権利条約第二十九条は、すべての障害者が投票する権利を保証しています。投票所をアクセシブルにしたり、私たち障害者が求める場合に支援を提供するため、資源を費やすのかどうかは、各国に委ねられています。多くの国々の法律では、知的障害者が投票権を行使することを妨げていますが、しかしながら、権利条約は、すべての締約国が、すべての選挙において、すべての障害のある成人が投票できるようにすることを、はっきりと求めています。

権利条約第三十三条は、国内的な監視(モニタリング)と実施について取り扱っています。すなわち、第三十三条は、全ての国が、権利条約の実施状況を監視する仕組みを設け、また条約の実施に参画することを求めています。第三十三条は複雑な条項ですが、第二項および第三項を論じることで十分でしょう。第三十三条第二項は、各国が「この条約の実施を促進し、保護し及び監視〔モニター〕するための枠組み(適切な場合には、1又は2以上の独立した仕組みを含む。)を自国内で維持し、強化し、指定し又は設置する」ことを義務づけています。さらに第三項は、障害者団体および障害者が、自らの権利によって、「監視〔モニタリング〕の過程に完全に関与し、かつ、参加する」ことを定めています。私の理解では、日本の障害者基本法に基づいて設置された障害者政策委員会は、第三十三条第二項および第三項の要件を満たすものです。

7.むすび

この講演は、障害者権利条約の実施状況、および、障害者権利委員会と呼ばれる国際的な監視機関について述べることを目的としました。まず権利条約の概要を述べたあと、権利条約が早期に批准されている状況について説明しました。権利委員会の構成とその監視の役割について詳述し、最後に、その建設的対話と総括所見において頻繁に挙げられている課題について、日本の現状と関連づけながら考察しました。私の講演によって、権利条約が定めている事柄の範囲について、また権利委員会の手法と実践について、皆様にご理解いただく助けとなったなら幸いです。

ロン・マッカラム 名誉教授/名誉勲章受章者


※訳注 本文中に引用された障害者権利条約の日本語訳は、川島聡=長瀬修 仮訳(2008年5月30日付)を使用しています。