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障害者の権利に関する委員会(障害者権利委員会)

『DPI』Vol 30.1、2014年4月10日、38-40頁

長瀬修(立命館大学客員教授)

報告の審査

 障害者権利条約の国際的モニタリングを担う機関が「障害者の権利に関する委員会」である。この委員会は条約の第34条に基づいて設置されている。
 2009年の2月に第1回が開催され、それ以降、毎年2回、おおむね4月と9月に条約の事務局を務める国連人権高等弁務官事務所のあるスイスのジュネーブで開催されている。
 主要な任務の一つは、締約国が提出した報告の審査である。委員会は、2011年4月の第5回会期で審査を開始した。原則として、報告の提出順に審査が行われてきている。
 おおむね同じ地域の委員が審査の主担当者というべき、国別報告者となり、障害者組織の意見を参考にして、政府報告に対する質問事項(リスト・オブ・イシューズ)や勧告である総括所見のまとめ役を務める。

審査の歩み

 2009年の委員会発足当初は手続き規則の策定など、委員会の基盤固めが中心だった。委員会が審査を開始してからの歩みは次の通りである。
 第5回(2011年4月:1週間)チュニジア(1か国)
 第6回(2011年9月:1週間)スペイン(1)
 第7回(2012年4月:1週間)ペルー(1)
 第8回(2012年9月:2週間)中国、アルゼンチン、ハンガリー(3)
 第9回(2013年4月:1週間)パラグアイ(1)
 第10回(2013年9月:2週間)オーストリア、オーストラリア、エルサルバドル(3)
 第11回(2014年3・4月:2週間)スウェーデン、アゼルバイジャン、コスタリカ(3)
 第12回(2014年9・10月:3週間)メキシコ、韓国、ベルギー、デンマーク、ニュージーランド、エクアドル(6)

加速した審査と「積み残し」

 今年に入って審査体制は強化され、明らかに加速している。会期の延長が国連総会で認められたおかげで、今年は9カ国の審査が行われる見通しであり、来年は二桁も望めるかもしれない。反面、3月末までに59の報告の提出があり、第11回会期終了時点では、審査済みが13であり、審査待ちが46という状態である。早期に一層の予算の確保ができて、会期の延長もしくは会期増がない限り、滞留の解消は望み薄である。比較は難しいが、締約国が187である女性差別撤廃条約は、委員数は23名で年3回、合計9週間の本委員会を開催し、今年は23か国審査予定である。
 来年の予定は、第13回が4月13日から24日まで、第14回が9月14日から10月2日までである。
 なお、私は、チュニジアの質問事項を作成した2010年9月の第4回から通い始め、それ以降、第10回以外は出席してきた。個人的に特に印象が強いのは、東日本大震災直後であり、震災の障害者への影響について発言を行った第5回(初の審査でもあった)と、国際障害同盟が開催した中国の審査に向けてのブリーフィング(サイドイベント)の司会を務めた第8回である。

見解と一般意見の策定

 委員会の役割として審査以外には、①選択的議定書に基づく個人通報への「見解」策定、②一般的意見(general comment)策定、③他の国連機関との連携等がある。
 80カ国がこれまで批准した選択的議定書には個人通報制度が含まれている。自国内での法的手続きを尽くした後(日本では最高裁判決が出た後)、委員会に対して通報を行い、委員会は通報を受理した場合、「見解」を出す。これまでに6件の見解が出されている。昨年はハンガリー政府に対して、後見制度利用と投票権の問題及び視覚障害者のATM利用のそれぞれに対して、政府側に対応を求める見解が出されている。
 一般意見は、該当する条文に関する解釈を示す文書であり、日本の法廷でも条約の解釈の補足的手段として判決で引用されている例がある。障害者権利条約の一般的意見第1号は第12条の法的能力、第2号は第9条のアクセシビリティについて、共に第11回会期で採択されている。今後は、第6条の女性障害者、第19条の地域生活、第24条の教育についての策定が予定されている。

委員の選出と委員会の構成

 条約の第34条は、この委員会の「委員は、個人の資格で職務を遂行するものとし、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力及び経験を認められた者とする」(2項)と規定している。さらに同条は「締約国は、委員の候補者を指名するに当たり、第四条3の規定に十分な考慮を払うよう要請される」(3)としている。第四条3は、障害者との協議と障害者の積極的関与を求める内容である。
 さらに、「委員の配分が地理的に衡平に行われること、異なる文明形態及び主要な法体系が代表されること、男女が衡平に代表されること並びに障害のある専門家が参加することを考慮に入れて選出する」と規定されている。
 地域的におおまかに見ると、アジア太平洋はオーストラリア、韓国、タイ、トルコ、ヨルダンの5カ国、アフリカはウガンダ、ケニア、チュニジアの3カ国、ヨーロッパは英国、スペイン、セルビア、デンマーク、ドイツ、ハンガリーの6カ国で、ヨーロッパが多く、アフリカが少ない。男女比は女性が7名で、男性は11名である。
 委員の任期は4年で、一度は再選可能である。国連本部で毎年開催される締約国会議で2年に一度、選挙が行われる。今年、2014年は選挙の年に当たり、18名の委員のうち半分の8名が選出される。

Nothing about without us

 条約交渉で繰り返された”Nothing about us without us”を証明するように、全部で18名の委員のうち、17名が障害者である。これは前述の第四条3に基づくものである。
 視覚障害や肢体不自由の委員が目立つが、精神障害の委員がこれまでに複数いるほか、難聴者である委員(ハンガリー)も2年前から就任している。期待されるのは、手話を話すろう者委員の選出である。
 ちなみに、女性差別撤廃条約の下に置かれている女性差別撤廃委員会は全23名の委員中、男性は1名(フィンランド)である。ただし、同条約には、障害者権利条約が障害者の積極的関与を求め、「障害者である専門家」に具体的に言及しているような形での、女性の参加を求める規定はない。

委員の紹介

 現委員長は3代目でチリのマリア・ソリダード・システナス・ライエス氏である。視覚障害者である。法律がバックグランドで、条約交渉の際にチリ政府代表団に加わった実績がある。
 副委員長は3名で、日本に最も馴染みのあるのは第2代議長を務めたオーストラリアのロン・マッカラム氏かもしれない。視覚障害者であり法律を専門とする、シドニー大学の名誉教授である。同じく副委員長であるテレジア・デゲナー氏は、条約交渉過程でドイツ政府代表団に加わって、特に女性障害者の第6条や、法的能力の第12条については大きな貢献を行った。サリドマイドのサバイバーである。
 東アジアからは、韓国の金亨植氏(大学教授、身体障害)、タイのモンティアン・ブンタン氏(上院議員、視覚障害)が委員として活躍している。日本からの障害者委員の選出が待ち遠しい。