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障害者権利条約に関する韓国の動向

2014年10月14日 JDFジュネーブ報告集会

DPI日本会議 崔 栄繁

1.概要と主な障害関連法制度

(1)障害者の概要

①登録障害者数は251万人(全人口の5.5%)

  • 2万5千人ほどの障害者が入所施設や療養院で生活。身体障害者の入所者は減る一方、知的障害者の入所は少しずつ増加し入所施設の数も漸増。
  • 精神病院には2008年基準で約7万人が入院しており、その内87%が非自発的入院。

②定義:「"障害者"とは身体的・精神的障害で長年日常生活や社会生活において相当な制約を受ける者」(障害者福祉法第2条)

③障害者の種別(障害者福祉法施行令第2条、施行規則第2条)

身体、脳病変、視覚、聴覚、言語、知的、自閉性 (自閉症)、 精神、腎臓、心臓、呼吸器、肝(臓)、顔面、腸ろう・尿ろう、癲癇の15種別で、1級(重度)から6級(軽度)に分類。

(2)障害者に関連する主な法律

法律(制定年度)概要
障害者福祉法(1990年制定)1981年の国際障害者年を機に成立した「心身障害者福祉法」が1990年に現行法に改正。障害認定(登録)制度に関する規定や、各種福祉サービス等に関する規定、障害者政策推進に関する規定など、障害者施策推進のための総合的な法律。
精神保健法(1995年制定)1995年に法制定以降5回の改正を経て現行法にいたる。精神疾患の予防と精神疾患者の医療及び社会復帰に必要な事項を規定し、国民の精神健康の増進を目的とする。日本の精神保健福祉法と類似。24条~26条に非自発的入院の手続きを規定。現在、精神健康増進法への改正作業が進んでいるが、非自発的入院規定は存置。
障害者差別禁止及び救済等に関する法律(2007年制定)日常生活、社会生活分野における障害を理由とする直接差別や間接差別、正当な便宜(合理的配慮)不提供、広告による差別におけるを禁止し、被害者救済について規定する。同法の救済機関は国家人権委員会。
障害者雇用促進及び職業リハビリテーション法(1999年制定)1988年のパラリンピックを機同年12月,割当雇用制度を盛り込んだ「障害者雇用促進等に関する法律」制定。1999年に現行法に改正。障害者雇用開発院の設置や運営、法定雇用率等を定める。現在の法定雇用率は政府部門の政府・地方公共団体の公務員は3.0%、非公務員は2.3%,公企業と準政府機関は3.0%でその他の公共機関は2.3%。民間部門は2.7%。
障害者等に対する特殊教育法(2007年制定)1977年に制定された「特殊教育振興法」が2007年に同法に変わる形で制定され,2009年からは全面施行。特殊教育対象者の選定、就学先決定のしくみ、特殊教育支援サービスの内容等を規定。住んでいる場所から一番近い学校に行くことが原則。学籍は普通学校であれば通常学級。普通学校の特殊学級は日本の通級学級のイメージ。
障害者・高齢者・妊婦等の便宜増進の保障に関する法(1997年制定) 公共の建物、公衆の利用施設、共同住宅、通信施設、公園等におけるバリアフリーを推進する法律。保健福祉省所管。
交通弱者の移動便宜増進法(2005年制定)鉄道や船舶、航空等、交通分野のバリアフリーを推進する法律。便宜増進5か年計画の立案が義務化。国土交通省所管
国家人権委員会法(2000年制定)国内人権機関の在り方の原則を定めたいわゆるパリ原則に基づいた人権機関の設置法。国家人権委員会は、司法府、立法府、行政府の三権から独立した国家機関であり、権利侵害と差別行為の調査や被害者の救済や人権啓発や研究等を行う。国家人権委員長は閣僚級であり、大統領が任命する。職権調査権限を持ち、人権侵害等があったと判定した場合、是正勧告をすることができる。障害者差別禁止法の救済機関。
社会的企業育成法(2006年制定)同法で定める社会的目的の実現のために収益事業を行い、障害者を含む一般雇用に結び付きにくい脆弱階層(高齢者、移住労働者、シングルマザー等)を一定の割合以上で雇用する社会的企業を設置、支援する法律。社会的企業には3年間のコンサルティングや賃金補てんや税制優遇等の支援が行われる。社会的企業には中小企業生産品の優先購買制度が適用される。
重度障害者生産品優先購買特別法(2010年制定)重度障害者生産品施設に指定された施設の製品を政府機関や公共企業が優先的に購入する制度を定めた法律。「障害者生産品優先購買制度」を法定化したもの。保健福祉省から指定を受けた重度障害者生産品施設で生産された製品を公共機関がその総購買額の1%以上,優先購買しなければならないこととされている。

(3)その他関連制度

〇成年後見制度:2011年の民法改正により、それまでの禁治産・限定治産制度に変わる制度として導入。2013年7月から施行。被後見人について法律行為を代理する制度であり、類型として、全面的代理及び同意権、取消権を持つ「成年後見人」、制限的な代理権、同意権、取消権を持つ「限定後見人」、特定の代理権及び同意権、取消権を持つ「特定後見人」、本人の公正証書で契約した「任意後見人」がある。

(4)施策の推進体制

●障害施策全体をまとめた「障害者政策総合計画」が1998年から5年毎に策定・実施

第1次総合計画(1998~2002年)/第2次総合計画(2003~2007年)
第3次総合計画(2008~2012年)/第4次総合計画(2013~2017年)

●障害者政策総合計画が権利条約への対応に関する事項が、総合計画の中の一推進課題

【参考1】生活の実態

①月平均所得(韓国保健社会研究院「2008年障害者実態調査」)

全体の世帯月平均所得340万4000ウォン
障害者世帯の月平均所得181万9000ウォン(全体の53.4%)

②就業形態における障害者の地位の分布(同上)

 一般就業者全体障害者の就業者
正規労働者24.7%38.2%
非正規労働者20.4%9.0%
自営業40.4%25.3%

【参考2】年度別特殊教育対象者学生の配置(単位:名)

年度特殊学校及び
特殊教育支援センター
配置学生
一般学校配置学生数
(特殊学級)
一般学校配置学生数
(一般学級)
一般学校配置学生数
(小計)
全体学生数
200823,400(32.7%)37,85710,22748,084(67.3%)71,484(100%)
200923,801(31.7%)39,38012,00651,386(68.3%)75,187(100%)
201023,944(30.0%)42,02113,74655,767(70.0%)79,711(100%)
201124,741(29.9%)43,18314,74157,924(70.1%)82,665(100%)
201224,932(29.3%)44,43315,64760,080(70.7%)85,012(100%)
201325,522(29.5%)45,18115,93061,111(70.5%)86,633(100%)

2.障害者権利条約に対する動き

(1)批准の経緯

●2008年6月に条約批准政府案が韓国国会に提出され、同年12月に国会を通過、12月11日に批准書を国連に提出。国内発効は2009年1月10日。 

●生命保険加入に関して国内法(商法第732条(15才未満者等に対する契約の禁止))と抵触するため第25条(e)を留保。
→2014年3月改正。留保撤回へ。

●選択議定書は批准していない。今後政府内で検討の予定。

(2)権利条約33条関連

●中央連絡先:保健福祉省障害者政策局

●政府内調整機関:障害者政策調整委員会(国務総理直属の機関。障害者政策に関する事項の審議・調整を行う。障害者福祉法を設置根拠とし、主管部署は保健福祉部障害者政策局。国務総理以下、政府委員15名、障害者団体を含む民間委員14名で構成)

(3)韓国政府の最初の報告(政府報告)(initial report)と関連する動き

2011年6月:韓国政府、包括的な最初の(政府)報告(Initial Report)を権利委員会に提出。

2014年3月:国家人権委員会と韓国のNGOのネットワーク組織である「国連障害者権利条約NGO報告書連帯」(以下、NGO報告書連帯)からそれぞれ権利委員会に報告書

4月:権利委員会、事前作業部会(Pre-Sessional Working Group)

5月:5月12日づけで、事前質問事項(List of Issues)が発表

6月:韓国政府が事前質問事項へ回答

9月:権利委員会第12セッション(9月15日 ~ 10月3日)において、韓国政府に対する審査(建設的対話)が予定 

(4)パラレル・レポートの作成の動き=NGO報告書連帯

●2013年4月、多くの団体による統一したNGOレポート作成のために、国連の人権条約関係の活動をしている国連人権政策センター(KOCUN)を事務局団体(幹事団体)としたネットワーク。韓国障害者総連合会、韓国障害者総連盟、韓国DPIなど27の参加団体、5つの後援団体から構成。運営委員長はKOCUNの理事であり、国連社会権規約委員会委員であるシン・ヘス氏。NGO報告書連帯の最終意思決定機関は27の団体の代表による代表者会議。

●2014年7月中旬にパラレル・レポート提出。

●パラレル・レポートの作成については、6つの分野に分けて、法律の専門家を交えてグループごとに議論を進める形でまとめた。

●正式のパラレル・レポート作成に先立ち、NGO報告書連帯は2014年4月に開催された事前質問事項(List of Isseus)策定のための事前作業部会(ワーキング・グループ)に合わせて、3月に「Iist of Issues 対応報告書を権利委員会に提出。結果的に権利委員会により策定された事前質問事項の内容に影響を及ぼした。

(5)政府以外のレポートについて

●政府との建設的対話(政府報告審査)に対するパラレル・レポートは報告書連帯や人権委員会など6つの団体・組織から提出

●事前質問事項(LOIs)作成のためのレポートは2つの団体から提出。

3.韓国政府報告に対する権利委員会の総括所見(最終見解)の主な内容
(Concluding observations on initial report of the Republic of Korea)

(1)10月3日に総括所見が権利委員会で採択

第12回(会期)障害者権利委員会の最後の日である10月3日に、韓国政府の最初の報告(第1回目の政府報告)に対する総括所見(最終見解)が委員会で採択。  

(2)主な内容

●肯定的側面

  • 条約の多くの領域において進展があり、2012年8月5日に採択された障害児福祉支援法の制定等、調和のとれた立法上の措置が取られたこと。差別禁止法の存在、障害者政策総合計画の発展
  • 仁川戦略の開始と履行を含む国際協力の分野に多くの資源を投入

●懸念事項と勧告等

A.一般原則と義務(General principles and obligatioins (第1条~第4条))

  • 障害者福祉法の障害の医療モデルに対して懸念を示し、障害者福祉法を見直して条約が採用している障害の人権アプローチに調和させることを勧告
  • 医学的な見地のみでの福祉サービス提供方法である障害者福祉法の等級制度に懸念をしめし、障害者福祉法の現行の障害の定義と障害等級制を見直し、障害者の性質や状況、ニーズによってカスタマイズすることと、福祉サービス、パーソナル・アシスタンス制度が精神障害者等を含む全ての障害者に拡大されることを確保することを勧告。
  • 選択議定書の批准を強く

B.特定の権利(Specific rights(第5条~第30条))

  • (5条関連)差別禁止法の実効性について、人権委員会の人的資源と独立性の増強・強化を勧告。障害差別の被害者が司法救済へのアクセスの確保のためのコストの免除や削減、差別禁止法第43条に基づく法務大臣の是正命令に対する要件緩和を勧告。また、差別禁止法の効果的な履行のための判断・判決への意識を向上することと、(人権委の)判断に与えられる強制力の強化を強く要求。
  • (6条関連)障害関係の法制度にジェンダーの視点が取り入れられていないこと等についてジェンダーの視点を障害法政策にメインストリーム化することと、女性障害者に特化した政策の開発を勧告。女性障害者の選択とニーズによる効果的な生涯教育や、女性障害者の妊娠中や出産への支援の拡大を勧告。
  • (9条関連)すべてのタイプの公共交通機関を障害者が安全・便利に使えるように公共交通政策の見直しを勧告。視覚障害者やその他の障害者がインターネットのウェブやスマートフォンを他のものと平等に使えるよう関連法規の修正を勧告。
  • (12条関連)2013年から施行された成年後見制度に対する懸念をしめし、代理意思決定から個人の自律(自己決定)を尊重した「支援を受けた自己決定」へと転換を勧告。これは条約12条や一般的意見第1号に従い、治療におけるインフォームド・コンセント、司法へのアクセス、投票、婚姻、仕事、居住地の選択などの個人の権利に関する事が含まれる、としている。これに関連して、支援を受けた自己決定のメカニズムについて、障害者団体のコンサルティングと協力の下で、裁判官やソーシャルワーカーなど社会全ての構成員に法的能力の承認についての訓練をすることを勧告。
  • (14条関連)精神障害、知的障害を含む障害に基づく自由の剥奪を許容している現行法規定を撤回(repeal)し、すべての精神健康サービスを含むヘルスケアサービスが、自由なインフォームド・コンセントに基づくものであることを確保する措置を導入することを勧告。法律の修正が行われるまでは病院や特殊施設での障害者の自由の剥奪のすべてのケースが見直され、この再検証には申立て(控訴)が可能となることを含む。
  • (15条関連)精神科病院の中で、精神障害者が、隔離部屋監禁や過剰な投薬治療を含む残虐で非人道的な扱いを受けていることに懸念を示し、強制治療の廃止と精神科病院の障害者の保護を強く要求。
  • (17条関連)強制避妊手術の実施を根絶するための措置をとることを強く要求し、実態調査を行う事を勧告。
  • (19条関連)効果的な脱施設戦略の欠如に懸念し、障害の人権モデルに立脚した効果的な脱施設戦略の開発とパーソナル・アシスタンスサービスを含む必要な支援を増やすことを強く要求。
  • (19条関連)介助者派遣(のサービス)量が、機能障害の等級ではなく、性質や状況、障害者のニーズを基礎とし、また、家族の収入ではなく、障害者本人の収入を基礎とすべきことを勧告。
  • (24条関連)インクルーシブ教育制度の存在にもかかわらず、普通学級に通っていた障害学生(生徒)が特別学校に戻ることについて懸念し、以下の事を勧告。
      (a) 現行の教育におけるインクルージョン政策の実効性についての調査
      (b) 学校や教育機関におけるアクセシブルな学校の環境と共に教室におけるアシスティブ・テクノロジーや支援、アクセシブルな教材やカリキュラムの提供によるインクルーシブ教育と合理的配慮の提供
      (c) 教員、行政職員を含む職員研修の強化
  • (27条関連)労働能力が欠如しているとされた人が最低賃金法から除外されていて、その基準などが明確でないこと、結果的に多くの働く障害者が最低賃金以下の報酬を受けていること、開かれた労働市場への参入を目指す用意がされていない継続的な保護雇用(sheltered workshop)の場がある事を懸念し、最低賃金から除外された障害者を補てんする補助的な賃金体制、条約の趣旨に沿って雇用を促進するための保護雇用に変わる者の導入を奨励。
  • (27条関連)非障害者と障害者の就労の差を、特に女性障害者に配慮しつつ縮めるための措置を導入することを勧告。特に、この分野における成果等の関連統計の公表などとともに、義務雇用制度の効果的な履行の確保を勧告。

C.特定の義務(specific obligations)(第31条~33条)

  • (31条関係)性別や年齢、障害の種別、居住の場、地域、政策の受益者ごとのデータの収集、分析、普及を体系立てることを勧告。そのデータは、アクセシブルなフォーマットによる情報の提供を通してすべての障害者による、自由にアクセシブルであるべき。
  • (33条関係)条約履行の効果的な監視のための障害者政策調整委員会が十分に機能していないこと、国家人権委員会の人的・財政的な資源の不足を懸念し、障害者政策調整委員会が障害者施策の発展と実施に関して十分な役割を実効することを確保し、条約の履行の効果的な監視のために国家人権委員会に適切な人的・財政的資源を提供することを勧告。さらに、条約履行の監視に、障害者とそれらを代表する団体の完全参加を確保するための法的規定を行う事を勧告。

4.まとめ

(1)韓国政府への総括所見と日本

日本の制度、状況との類似性から、韓国政府への事前質問事項や総括所見の内容は、日本に対する事前質問事項や総括所見の内容をある程度予想させるものとなる。権利条約から見て、日本に求められる課題の整理に役に立つ。

(2)NGOの効果的な動き

今後NGOレポート作成の体制づくりや国連での活動について、韓国のNGO報告書連帯の動きは大いに参考になり、例えば、韓国の主な障害者団体が全て網羅されている。特に権利委員会の事前質問事項(List of Issues)作成と総括所見の内容に大きな影響を及ぼすことができたのは、周到な準備と情報収集がうまくいったためと思われる。