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びわこプラスファイブ:アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、 権利に基づく社会に向けた更なる取り組み

国連アジア太平洋経済社会委員会

E/ESCAP/APDDP(2)/L.3/Rev.1
2007年11月13日

アジア太平洋障害者の十年(2003~2012年)の中間評価に関するハイレベル政府間会合

2007年9月19日~21日
バンコク

「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の更なる実施のための補足的戦略の採択

アジア太平洋障害者の十年(2003~2012年)の中間評価に関するハイレベル政府間会合により2007年9月21日採択

目次

I.序文

II.びわこプラスファイブの特徴と最重要原則

III.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」に基づく、行動のための優先領域
A. 障害者の自助団体および家族・親の会
B. 女性障害者
C. 早期発見、早期対応および教育
D. 訓練および自営を含む雇用
E. 各種建築物および公共交通機関へのアクセス
F. 情報通信技術および支援技術を含む情報と通信へのアクセス
G. 能力開発、社会保障および持続的生計プログラムによる貧困の軽減

IV.主要戦略
A. 障害問題へ向けた権利に基づくアプローチの強化
B. 支援環境の促進および政策立案と実施のための有効な仕組みの強化
C. 障害に関するデータや他の情報の有用性と質の向上
D. 障害インクルーシブな開発の促進
E. 障害原因の予防、リハビリテーションおよび障害者のエンパワーメントのための、障害問題へ向けた包括的な、地域に根ざしたアプローチの強化

V. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」達成のための協力と支援の向上

VI. 有効なモニタリングと評価の向上

ロシア語、フランス語、中国語のPDFも利用可能

I.序文

1. アジア太平洋地域には世界の6億5千万人の障害者のうちの3分の2が住んでいる。彼らの権利について、より強く、確実に認識するため、アジア太平洋地域の政府や関係機関は多くの施策を実施してきた。アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、権利に基づく社会の促進に関する、2002年5月22日の決議58/4により、委員会は「アジア太平洋障害者の十年」(1993-2002年)[1] を10年間延長し、2003年から2012年までとした。それ以来、多くの構想が、第2次「十年」の趣旨に添って着手されている。そのひとつが、「アジア太平洋における、インクルーシブで、バリアフリーな、権利に基づく社会に向けた行動のための、びわこミレニアム・フレームワーク」である[2]。それは、2002年10月に日本の滋賀県大津市で開催された「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002年)、最終年ハイレベル政府間会合」により、新たな「十年」を定義づける政策ガイドラインとして採択された。「十年」の延長により、第一次「十年」(1993~2002年)の目標である、「アジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言」に調印した各国政府により表明された決意が継続されることになった。[3]すなわち「障害者の完全参加と平等」である。

2. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は、第1次「十年」から得た成果、並びに第1次「十年」のために採択された政策ガイドライン「アジア太平洋障害者の十年(1993~2002年)行動課題」を実施する上で学んだ教訓の両方に立脚している。そこでは、障害者の発展に向けて、慈善に基づくアプローチから、権利に基づくアプローチへのパラダイムシフトが強調されている。また、人間の多様性を受け入れる、バリアフリーの、インクルーシブな、権利に基づく社会を促進する。さらに、域内政府の社会経済貢献を可能にし、前進させ、障害者の権利の実現を確保する。「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は7つの優先領域と4つの主要戦略領域を特定し、21の目標と17の戦略を掲げている。2003年9月4日の委員会決議59/3を通じ、アジア太平洋の各国政府は、国連機関、世界銀行、アジア開発銀行、および市民社会組織等の関係機関と協力し、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」実施に取り組むことを再確認した。「アジア太平洋の障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、権利に基づく社会へ向けた、行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」実施の中間評価に関する2005年5月18日の決議61/8において、委員会は事務局長に対し、この「十年」の中間評価に関するハイレベル政府間会合の2007年開催を要望した。

3. 延長された「十年」の最初の5年間で最も重要な進展の1つは、「障害のある人の権利に関する条約、および条約の選択議定書」[4]の採択である。これは、障害者の市民としての権利、政治的、社会的、経済的、文化的な権利を促進し保護するための、また、障害を組み入れた開発と国際協力を促進するためのグローバルな努力における新時代の始まりを示した。条約の採択にあたり、総会は、条約と選択議定書に署名・批准することを優先事項として考慮することを各国に求めた。条約は、この問題についての国連加盟国の最新の考えを表現している。条約は、障害者が人権と基本的自由を完全に享受することを促進すること、また、障害者の完全参加を促進することに、障害者の帰属意識を高めると認識し、社会の人的、社会経済的開発や貧困の撲滅に著しい前進をもたらすことを認識している。「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の作成と実施についての地域における経験を踏まえ、ESCAP域内の加盟・準加盟国は、たゆまぬ努力を通して、グローバルな条約草案作成プロセス に貢献した。その中には、複数の提案や、2003年に「障害者の権利および尊厳の保護、そして促進に関する包括的かつ総合的な国際条約」に関する特別委員会に提出された「バンコク草案」という名の地域草案がある。権利条約と「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は、共に、バリアフリーで、インクルーシブな、権利に基づく社会の達成という共通の目標を追求するものである。「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」を効果的に実施することは、条約の実施に著しく貢献するであろうし、条約を批准する各国がとる方策は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の各国による実施に寄与することになる。

4. 延長された「十年」の最初の5年間には、他にも重要な進展が見られた。例えば、2004年には国際労働機関(ILO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、および世界保健機関(WHO)が、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)とサービスの権利に基づくアプローチを導入した合同政策指針[5]を出した。世界情報社会サミットは、2005年11月18日にチュニスで、「情報社会のためのチュニス・コミットメントおよびチュニス・アジェンダ」[6]を採択した。それは、障害者を始めすべての人たちのためのアクセスを促進するユニバーサルデザインと支援機器の重要性を述べている。WHOは、地域社会や他部門と協同し、最も有効な障害の原因予防策を研究し実施する必要があると説いた[7]。国連防災世界会議(WCDR)は、「兵庫行動フレームワーク2005-2015:災害からの国家と地域社会の回復力構築」[8]を採択した際、特に、貧困者、高齢者、障害者を支援するための社会的セーフティネットの仕組みの実施を強化することを奨励した。

5. 中間評価の研究は、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施が多くの進展をもたらしたことを示している。域内では「障害者の完全参加と平等に関する宣言」[9]に署名し、障害問題に取り組む決意を表す政府が増えている。これまでのところ、46の政府が署名している。また、多くの政府が、自国の憲法、法律、国家行動計画、政策、プログラムに、障害者の権利の概念を組み入れるための措置を講じている。アジア太平洋の障害者はこの点に関しその能力を証明した。彼らはそのニーズに取り組み、障害者の権利条約の草稿作成過程で政策論議に携わった。また、地域レベル、国レベルでの意志決定過程にますます活発に参加してきている。障害者の権利を一般の開発政策の立案と運営に組み込むことに焦点を当てた「障害インクルーシブな開発」を検討、採択し始めた国際支援・開発協力機関が増えている。

6. 以上のような進歩はあったが、課題や障壁はまだ残っている。障害に関する人口統計データと社会経済指標の入手がしにくいことと、質が低いことは、引き続き主要な件題である。各国政府と関係機関の多くは、財政的・人的資源、専門知識・能力の不足が「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施の妨げになっていると報告している。アジア太平洋地域における障害政策の開発は着実に進展しているとはいえ、このような政策の実施は確実にされなければならないし、その影響が測られなければならない。より多くの障害者がますますエンパワーされる一方、心理社会的障害者、知的障害者、重複障害者、そして地方・遠隔地の住民のような、周辺化されたグループにはしかるべき注意が払われなければならない。ESCAPにはまた、北アジア、中央アジアなどの小地域で「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」を促進すること、また小地域内の政府間の仕組みの中で障害の視点を通常の流れに組み入れることが課せられている。この5年間「ミレニアム開発目標」達成に向けた努力についての評価が活発に行なわれてきた。極度の貧困や飢餓の撲滅、そして世界的な初等教育の達成に関連する目標は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」優先領域7つのうちの2箇所で表されている。後に、障害者の権利は、2005年世界サミット成果文書[10]において、障害という視点から見ると「ミレニアム開発目標」の中での注目度が充分ではなかったことがはっきり認識された。天災、および武力紛争など高い危険度を引き起こす状況は、すべての人々、特に障害をもつ人々が直面する物理的側面、制度的側面、人々の意識・行動面、そして情報面での障壁を悪化させる。こういう状況は、天災・人災の両方について、障害を包括したより良い災害管理の必要性を明白にしている。

7. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」を進めるに当たり、地域各国の大臣レベル代表は、2007年9月19日~21日にバンコクで行われた「アジア太平洋障害者の十年、中間評価に関するハイレベル政府間会合」において議論の上、本文書を取りまとめた。「びわこプラスファイブ」の成果では、グローバルな発展、障害に関して地域で明らかになってきたニーズ、解決されねばならない課題や障壁を考慮に入れ、5年間の評価結果を引き出した。「びわこプラスファイブ」は、すべての人々のためのインクルーシブで、バリアフリーな、権利に基づく社会の創設を促進することにより、この「十年」の後半5年間(2008-2012年)でさらに充実した実施がなされるよう、著しい貢献をもたらすことを期待し「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」を補足するものである。

II.びわこプラスファイブの性格と最重要原則

8. 「びわこプラスファイブ」は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」を補うものである。内容的には「びわこプラスファイブ」は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と次の点で区別される。(a)7つの優先領域にさらなる行動を追加する、(b)4つの戦略領域を5つに再構成し、25の戦略を追加する、そして(c)「協力と支援、モニタリングと評価」の元に3つの戦略を追加する。

9. 「びわこプラスファイブ」は、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」で示されているように、同じ原則と政策の方向性に基づき実施されなければならない。ただし、以下の3つの側面が強調されるべきである。

a. 第一に、各国政府は、その経済力や発展の範囲内で、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と「びわこプラスファイブ」実施のための国家戦略とアクションプランを案出するための適切な方策をとらなければならない。また、各国政府は、必要に応じ資源と技術の移転を始めとする国内的努力を支持し、国際協力と連携の重要性を認識しなければならない。

b. 次に、異なる関係機関の間の連携、すなわち、各国政府、障害者団体の代表者、国外、地域、そして国内の非政府組織、開発組織・機関、民間組織等の間の連携が、研究、データ収集、ニーズ評価、政策開発、実施、モニタリングと評価、能力開発、意識向上等、すべての関連活動において適宜促進されなければならない。

c. 第三に、障害者の多様性は尊重されなければならない。それは、彼らが政策やプログラムやプロジェクトの対象であるからだけではなく、彼らがプロジェクトや政策の実施者であり評価者であると同時に、障害に関する意志決定過程におけるパートナーであるからだ。

III.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」に基づく、行動のための優先領域

10. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は7つの優先領域の下に21の目標がある。目標1、2、3、4、5、16、17、および18の達成目標期限は2007年より前に設定されていたが、未達成のため各国政府と関係機関は、できるだけ早く達成するための努力を強化する必要があるであろう。

11. 進展が不十分で行動が遅れている部分では、目標を達成するために、更なる努力がなされる必要がある。各国が、各優先領域の目標を達成するために助けとなるであろう補足的行動を以下に示す。

A.障害者の自助団体および家族・親の会

必要な行動

12. 各国政府はすべてのレベルで、下記を支援することを奨励される。

a. 地方レベル、国レベルにおける障害者団体および家族・親の会の発展、そして地域レベル、小地域レベル、そして地域間レベルでのネットワークの促進。特に、知的障害者、心理社会的障害者、重複障害者の自助団体に特段の配慮をする。
b. すべてのレベルでの経済・社会政策や事業の開発、実施、およびモニタリングにおいてと同様、政治・民事プロセスにおける障害者の参加。
c. 障害をもつ青年男女のリーダー育成。
d. 自助団体との連携の開発、特に、都市部を拠点とする障害者自助グループ・団体と、地方の自助グループ・団体との協力。

13. 自助団体および家族・親の会は、すべてのレベルでの政府の支援を得て、自身の団体を他の脆弱なグループやコミュニティに組み入れなければならない。

B.女性障害者

必要な行動

14. 各国政府は以下のことを促進しなければならない。

(a) 障害関連政策、事業、計画、法律について、ジェンダーの視点を含む。
(b) ジェンダーに関する政策、事業、計画、法律の開発において女性障害者の視点を含む。
(c) 政策、事業、計画、法律の開発については、ジェンダーに関するものと障害関連のものの両方について、その開発プロセスに女性障害者と女性障害者団体を参加させる。

15. 各国政府は、障害をもつ女性および少女が重複差別を受けやすいことを認識し、その意味で、自助団体と共に、特に、リーダーシップ研修や管理者研修を通して、継続できるやり方で、女性障害者の経済的、社会的、政治的エンパワーメントを支援しなければならない。各国政府は、充分な発展、前進、そしてエンパワーメントを保障するために、結婚、家族、親子関係を含むすべての事柄において女性障害者への差別を解決するための適切な方策をとらなければならない。

16. 自助団体は、女性障害者のニーズを考慮に入れ、現在の組織、政策、計画、および運営を再検討し、意志決定過程における女性障害者の完全参加を促進する見解に立ち、女性障害者のエンパワーメントを積極的に支援しなければならない。

17. 自助団体および女性障害者ネットワークは、地域に根ざした開発組織やすべてのレベルの政府と協力し、農村の地域社会が、障害のある女性・少女に関する、文化に潜む否定的な影響についてより慎重になるよう求め、地域に根ざした開発過程を通じて問題を解決しなければならない。

C.早期発見、早期対応と教育

必要な行動

18. 各国政府は以下のことを実行しなければならない。

a. 政府機関の中に、早期確認、評価、早期対応や医療サービス、幼稚園や学校への紹介・入学について障害をもつ幼児と児童に対しサービスを提供し、その健康と教育について責任を負う効率の良い調整・情報伝達の仕組み設立の可能性を検討する。

b. 早期対応サービスを提供する訓練された職員の数が、都市部、地方、農村にいる全ての障害児とその家族に対しサービスを提供するのに充分であることを保障するようより多くの注意を払う。

c. 障害者がインクルーシブ教育(読み書き能力技能の獲得を含む)、成人教育、生涯学習へアクセスできることを促進する。

d. 視覚障害者、ろう者、盲ろう者、また学習障害、知的障害を持つ子供たちを含むすべての子供のための教育を促進し、最も適切な言語、方法、伝達手段で提供されるようにする。

e. 教育に携わる、すべてのレベルで働いている専門家とスタッフを訓練し、手話、点字、補助・代替コミュニケーション手段に精通した教師(障害を持つ教師を含む)を雇用するための適切な施策をとる。

f. ほかの関係機関と協力し、障害者をスポーツに(観戦者としても積極的な参加者としても)携わらせるための適切な施策をとる。

D.訓練および自営を含む雇用

必要な行動

19. 各国政府は以下のことを実行しなければならない。

a. 障害者がほかの人たちと同等に働く権利を有することを認識する。そして、障害者(雇用の途中で障害者になった人々を含む)の働く権利の実現を促進する。

b. 遠隔地、地方、農業地域にいる障害者の雇用への障壁を解消するための包括的戦略を開発する。そして、協同組合、社会企業、自営運動、マイクロファイナンス計画、および職場での実地訓練や同僚による訓練等、資源とサービスへのより良いアクセスを確保するために、地域に根ざしたアプローチの新しい開発に特別の注意を払う。

c. 非政府組織、自助団体等の関係機関の支援を得て、国内企業および多国籍企業との連携体制を構築する。雇用、雇用維持、昇進を促進させるためのインセンティブを提供することで障害者の雇用機会を増大させ、技能と雇用についての前向きな意識を促進し、また、合同訓練と雇用プログラムの運営を狙う。

d. 一般の公共雇用事業に障害者を含み、障害者と雇用主への支援活動を提供し、障害者の職業について新人募集、就職斡旋、および雇用維持を支援できるようにする。さらに、仕事をする用意のある障害者の名簿を雇い主になる可能性のある事業者に常に提供する。

e. 職業準備訓練や技能再開発、また、成人障害者で勤務経験が不足している人、技能が時代遅れの人、また障害が理由で前職に戻ることができない人に対する再訓練に関連する政策と慣行を採用する。

E.各種建築物および公共交通機関へのアクセス

必要な行動

20. 各国政府は以下のことを実行しなければならない。

a. アクセシビリティ基準を有効に施行するため、また、新旧建築物と公共交通機関のアクセシビリティを推進するための適切な施策をとる。
b. 異なる障害をもつ人々に恩恵を与えるという観点から、公共・民間団体の中にユニバーサルデザインの概念を推進する。
c. 関係機関と協力し、一般に公開または提供されているサービスについてはすべての面で障害者のためのアクセシビリティを考慮に入れることを保障する。
d. 各種建築物、公共交通機関、情報・通信、その他の各種サービスへの障害者によるアクセスを可能にするために、手頃な価格で質のよい移動補助機器・装置の研究・開発を奨励・推進する。
e. アクセスシブル観光を推進するための適切な施策をとる。

F.情報通信技術および支援機器を含む情報と通信へのアクセス

必要な行動

21. 各国政府は以下のことを実行しなければならない。

a. 障害者が自分たちの権利を完全に享受することを保障するために、情報通信技術を含む情報と通信の分野で活発にアクセシビリティを推進する。また、その際には、世界情報社会サミットの「チュニス・コミットメントおよびチュニス・アジェンダ」を遵守する。
b. 「わかりやすい言葉」などのアクセスしやすい言語、通信形式・手段で、アクセスしやすい技術を通じて、公共情報の制作と普及を促進する。
c. 一般に公開または提供されている施設・サービスにおいて、また他のすべての公的行事の場において、手話、点字、補助代替コミュニケーシン手段、その他障害者が選んだアクセスしやすい通信手段、方法、および形式の使用がすべて認められ、促進されるための適切な施策をとる。
d. 民間部門と協力し、一般に開放されている各種建築物、銀行や郵便局、電子的に提供されるサービス等、公共サービスへのアクセスを容易にするために、ガイド、音読者、プロの手話通訳者等の様々な形の支援者・仲介者が利用可能となるよう適切な施策をとる。
e. 関係機関と共に、ユニバーサルデザインの概念と国際的に認められているアクセシビリティ基準を遵守し、研究開発、情報・支援技術の調達促進をはかる。 f. 全国的ろう者団体と協力して、手話の開発、手話通訳者の訓練を支援するための適切な施策をとる。また、教育、雇用、法的プロセスにおいて手話の使用を認める。

G.能力開発、社会保障および持続的生計プログラムによる貧困の軽減

必要な行動

22. 各国政府は以下のことを実行しなければならない。

a. 貧困削減戦略ペーパーのように、国家開発の枠組みに障害の視点を組み込む。

b. 個人の移動性、健康、リハビリテーションとそのサービス、教育、充分な生活水準、そして障害者の社会的保護を促進するため、現行の社会保障政策や慣行を再検討し、必要に応じて修正する。政策などがない場合は、基本的サービス提供を目標にした政策が開発・実施されなければならない。必要な介助と同様に、障害者のニーズに適う基本的補助具の支給も促進されなければならない。

IV.主要戦略

23. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」には「行動のためのびわこミレニアム・フレームワークの目標達成のための戦略」という次の4つの領域があり、その下に10の戦略がある。

a. 障害に関する国家行動計画(5年)
b. 障害問題の権利に基づくアプローチの促進
c. 立案のための障害統計/障害の共通定義
d. 障害原因の予防、リハビリテーション、および障害者のエンパワーメントへ向けた地域に根ざしたアプローチの強化

24. 以下の戦略は、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」において始められた戦略を基礎にし、それを拡大するものだ。それらはフレームワーク実施から学んだ教訓、そして、フレームワーク採択以来出てきた新しい問題・関心事に取り組むニーズを反映している。それに従い、以下の通りフレームワークの4つの戦略領域が再検討、再構築された。

a. 障害問題へ向けた権利に基づくアプローチの補強
b. 支援環境の促進、および政策立案と実施のための有効な仕組みの強化
c. 政策立案と実施のためのデータや他の情報の有用性と質の向上
d. 障害インクルーシブな開発の促進
e. 障害原因の防止のための、また、リハビリテーションおよび障害者のエンパワーメントのための、障害問題へ向けた地域に根ざした包括的なアプローチの強化

25.「障害問題へ向けた権利に基づくアプローチの補強」という構造的戦略領域は、現行の戦略である「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」にある「障害問題へ向けた権利に基づくアプローチの促進」を拡大するものであり、これは、障害者の権利に関する国際条約に組み込まれた、権利に基づくアプローチという、より大きな重要テーマを考慮に入れている。「支援環境の促進、および政策立案と実施のための有効な仕組みの強化」というもうひとつの再構築された戦略領域を加えたのは「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と「びわこプラスファイブ」の両方で促進されている事業を可能にする制度上の、そしてそのほかの要素を再度強調する必要があるからだ。「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」にある、現行の戦略「障害に関する国内行動計画(5年間)」は、この改正戦略に統合された。この再構築された戦略領域「政策立案と実施のための障害に関するデータや情報の有用性と質の向上」は、障害に関する有効なデータや情報を得、活用するための努力を強化する必要性を考慮し、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」にある「計画立案のための障害統計/障害の共通定義」を拡大する。再構築された戦略領域「障害を包括した開発の促進」が付け加えられたのは、開発援助活動に障害の視点を組み入れることが「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の目標を達するのに更に有効と考えられるからである。再構築された戦略領域「(a)障害原因の予防、(b)リハビリテーション、(c)障害者のエンパワーメントへ向けた地域に根ざしたアプローチの包括的強化」は現行の戦略、すなわち「障害原因の防止、リハビリテーション、および障害者のエンパワーメントへ向けた、地域に根ざしたアプローチの強化」を拡大させるもので、それは、地域に根ざしたリハビリテーションという発展する概念を反映させる。さらに「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」にある戦略1、8、および9の目標達成期限は2007年より前とされていたが、まだ達成していない各国政府および関係機関は、できるだけ早くそれらを達成するために努力を続ける必要がある。障害者権利条約の採択に伴い無効となった戦略6と7は、現行文書の戦略4と5として再編成された。

A.障害問題の権利に基づくアプローチの補強

戦略1.
26. 各国政府は、障害とは進化していく概念であると理解する最近の傾向に注目し、障害とは、障害者と意識・行動面、環境面での障壁とによる相互作用の結果であり、このことが障害者の完全で効果的な、他者と平等の参加を妨げていることを認識するよう奨励される。各国政府は障害についてのこのような理解を、現行政策と新しい政策に組み入れることを奨励される。障害者の社会での完全参加および権利の行使を妨げるようなあらゆる障壁を排除するためには特別の注意が払われなければならない。

戦略2.
27. 各国政府は加盟国である国際機関の人権・障害基準に矛盾する法を改正または廃止し、障害者の権利を保障し促進する法を採用しなければならない。

戦略3.
28. 各国政府は、障害者の権利を効果的に促進し保護するために、差別禁止法の開発・実施をはじめとする適切な施策をとることを奨励される。

戦略4
29. 各国政府は、法的、行政的、制度的な体制を監視・評価することを支援するために、権利を促進し保護する、有効で、独立した、諮問的な代表機関の設置、もしくは現行機関を指名することを考慮することを奨励される。

戦略5.
30. 各国政府は、障害者権利条約の署名と批准、加盟を優先事項として考慮するよう、また、障害者がすべての人権と基本的自由を享受できるように障害者の権利の促進と保護を奨励される。

戦略6.
31. 各国政府はすべての関係機関と協力し、生活のすべての面で障害者の機会均等化のための合理的配慮の提供を促進する積極的な施策をとらなければならない。「合理的配慮」とは、ある特定な場合に必要とされる、不均衡または過度の負担を課すことのない、障害者がすべての人権と基本的自由を他の人たちと平等に享受し実現することを保障するための必要かつ適切な修正と調整を意味する。

戦略7.
32. 各国政府は、他の人たちと平等に障害者のために司法へのアクセスを促進しなければならない。

B.支援環境の促進および政策立案と実施のための有効な仕組みの強化

戦略8.
33. 各国政府は、すべてのレベルにおいて期限付きで、障害に関する行動計画を開発、更新することを奨励される。また、計画の実施および実施を監視するための充分な資源を分配するよう奨励される。適宜、前回の行動計画から学んだ教訓を考慮に入れなければならない。

戦略9.
34. 障害に関する政策とプログラムを調整、監視するための制度上の仕組みをまだ確立、または指定していない政府は、そのようにしなければならない。この仕組みはすべての省庁代表者の有効かつ定期的な参加と、障害者の参加の両方を保障しなければならない。地方自治体もこの仕組みに組み込まれていなければならない。

戦略10.
35. 各国政府は、その経済力と開発レベルの範囲内で、適切に、そして、持続可能なやり方で、障害関連の事柄を調整する機関の運営、および関連する政策と事業、データ収集、そして、政府高官、専門家、および障害者の能力構築の実施に融資をしなければならない。

戦略11.
36. 全ての関係機関は、メディア、研究機関、法律の専門家、ドナー、開発機関、および民間部門との有効なネットワーク作りと連携により、権利に基づくアプローチ、そして、障害を包括した開発の意識を高めなければならない。

戦略12.
37. 政府は関係機関とともに、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」および本文書が、適切な方法で普及されることを保障しなければならない。

C.政策立案と実施のための障害関連データや他の情報の有用性と質の向上

戦略13.
38. 障害に関するデータ収集の重要性は、国連機構内部だけではなく、学術機関、自助団体やその他の市民社会組織と同様、国家統計局をはじめとする国レベルの意志決定者の間でも、強調され、支援されなければならない。

戦略14.
39. 各国政府は、必要な資源の配分と同様、障害に関するデータ収集を義務付ける政策や法律の整備を保障しなければならない。特に、そのような政策と法律については、障害者のプライバシーを尊重しなければならない。

戦略15.
40. データはできる限り、障害のタイプ、性別、年齢、教育、雇用、および所得を含む、障害者の社会経済の状態によって分類されなければならない。

戦略16.
41. 各国政府は、国勢調査等により障害関連データを定期的に収集、普及する国家的能力を確立しなければならない。

戦略17.
42. 各国政府は、障害者、特に、読み書きのできない人たちや農村に住む障害者のニーズを把握するために、データ収集の革新的な方法を開発することを奨励される。

戦略18.
43. 各国政府は、障害者の状況を改善し、その人権と基本的自由の完全な享受を保障することを意図する政策と事業の影響について定期的な評価を行なうように奨励される。

戦略19.
44. 各国政府は、ESCAPと協力し、必要に応じ資源の利用が可能であれば、アンケートや調査を通じ障害者の懸案事項を確かめ、将来の行動計画を進展する施策をとらなければならない。

戦略20.
45. ESCAPや他の国連組織、機関、政府間組織は、要請に応じ、障害者に関する統計基準の設定や政策策定について各国政府を支援しなければならない。

D.障害インクルーシブな開発の促進

戦略21.
46. 各国政府はあらゆるレベルにおいて、国連開発組織・機関、国際、地域、国内開発組織、民間部門、その他市民社会組織と協力し、社会経済開発計画、特に「ミレニアム開発目標」関連の開発と実施に障害の視点を組み込まなければならない。国内開発組織の「ミレニアム開発目標」実施の促進とモニタリングに、障害の視点を確実に組み入れなければならない。「ミレニアム開発目標」のための障害指標の開発が考慮されなければならない。

戦略22.
47. 国連開発組織・機関を含む、国外、地域、国内開発組織・機関は、障害の視点を一般的政策とプログラムの開発と実施に組み込むことを奨励される。また、経済、技術協力もこの試みに組み込まれていなければならない。

戦略23.
48. 障害を組み入れた災害管理が推進されなければならない。「兵庫行動フレームワーク2005-2015」(災害管理に対する各国政府の取り組みを促進する国際的な枠組み)を始めとする、この分野の政策と新規構想の実施に障害の視点が適切に含まれなければならない。ユニバーサルデザインの概念が防災と災害復興活動におけるインフラ整備に組み込まれなければならない。

E. 障害原因の予防、リハビリテーションおよび障害者のエンパワーメントへ向けた、包括的な地域に根ざしたアプローチの強化

戦略24.
49. 各国政府は、国連開発組織・機関、国際、地域、国内開発組織・機関、民間部門、その他市民社会組織と協力し、上記パラグラフ4で述べたILO、UNESCO、WHO合同政策指針にある勧告を考慮に入れ、包括的な地域に根ざしたリハビリテーション施策を適用するように奨励される。

戦略25.
50. 各国政府は、交通事故や病気のような、予防可能な障害原因を減らすための適切で有効な施策をとるように奨励される。

V.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」達成のための協力と支援の向上

51. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」には、「『行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク』を達成するための協力と支援」の3つの領域(「小地域協力と連携」、「地域内連携」、「地域間連携」)の下に7つの戦略がある。以下は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」目標の実施を補強する追加戦略である。

戦略26.
52. 国連食料農業機関(FAO)、国際労働機関(ILO)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連開発計画(UNDP)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)、関連基金と機関、およびその他の国連機構内組織のようなパートナーと共に、ESCAPは、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と「びわこプラスファイブ」を効果的に実施するために、組織間調整を向上しなければならない。

戦略27.
53. 各国政府と国際機関は、小地域の政府機関、並びに、国連中央アジア経済圏特別プログラムのような地域のプロジェクトや活動を通じ、小地域協力と連携を向上させることを奨励される。地域の、そして小地域の障害関連団体との協力、アジア太平洋障害開発センター(APCD)、アジア太平洋障害フォーラム(APDF)、太平洋諸島フォーラムなどのプロジェクトや活動は奨励されなければならない。

戦略28.
54. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と「びわこプラスファイブ」の効果的な実施を支援する上で、ESCAPは知識ネットワークを発展させ、市民社会組織や民間団体のような関係機関と協力の上、また、アジア太平洋障害開発センター、太平洋諸島フォーラム、アジア太平洋障害フォーラムのような国際フォーラムや地域フォーラムと提携し、良い実践例についての情報を全地域に普及し情報交換することを奨励される。

V.有効なモニタリングと評価の向上

55. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」と「びわこプラスファイブ」の実施評価は、この十年の終わりの2012年に、地域レベル、小地域レベル、そして国レベルで行われなければならない。


注:

[1] 1992年4月23日の委員会決議48/3参照。

[2] 2003年9月4日の委員会決議59/3参照。(「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」本文については、E/ESCAP/APDDP/4/Rev.1参照。)

[3] 1992年12月1~5日、北京で開催された「アジア太平洋障害者の十年の開始に関するハイレベル政府間会合」にて採択。1993年4月29日の「アジア太平洋障害者の十年(1993~2002年)宣言および行動課題」に関する委員会決議49/6も参照。

[4] 2006年12月13日の総会決議61/106、添付資料ⅠおよびⅡ。

[5] 国際連合教育科学文化機関(UNESCO) 国際労働事務局、および世界保健機関(WHO)、「CBR-障害者のリハビリテーション,機会均等,貧困削減と社会参加のための戦略」(世界保健機関、ジュネーブ、2004年)。

[6] A/60/687参照。

[7] 2005年5月25日の予防、管理、リハビリテーションを含む、障害に関する世界保健総会の決議WHA58.23。

[8] A/CONF.206/6 および Corr.1, chap.I, resolution 2参照。

[9] E/ESCAP/902, 添付資料 I。

[10] 2005年9月16日の総会決議60/1。