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「新十年」の実施における市民社会団体(CSO)の役割と国際協力

ジョセフ・クオック(Joseph Kwok)

2012年 アジア太平洋障害フォーラム会議:権利を実現するための行動
2012年10月27日 土曜日
10月27日 パネルディスカッション(14:00-18:00)
大韓民国 インチョン

英語原文:Roles of civil society organizations and international cooperation for implementation of the New Decade

はじめに

このたび、このように優秀な聴衆の皆様と、著名な専門家の皆様に向けてお話しする素晴らしい機会を賜り、大変光栄に思っております。「新十年」の実施におけるCSOの役割と国際協力についてお話しするようにとのことですが、正直に申し上げて、このテーマを語るには、かなり緊張いたします。いただいた表題に使われている言葉はわかりやすく、またテーマも、この地域で障害者運動にかかわっている私達の大半にとっては、常識と思われる内容です。しかし、第一次アジア太平洋障害者の十年(1993‐2002)の開始以来、私達が経験してきたことと目にしてきたことは、最終的な結論と言うには程遠く、特にこの地域では、新世紀に入ってから、ほとんどすべての側面において、かつてない変化が目撃されています。

そこでまず、この地域が直面しているいくつかの重要な課題を明らかにし、次に、国際協力の方法と、CSOが共通の使命の実現に果たす役割の変化について、増加しつつある制約と新たな課題を取り上げながら、論じてみようと思います。

アジア太平洋地域

アジア太平洋は、広大な地域です。この地域は世界の人口の約60%を抱えています。アジアでは、最古の文明や宗教と、最も進んだ経済と最も貧しい経済とを目にすることができます。また、多くのアジア人は、農村部や山間部で暮らしています。アジア各国の政府と人々の多様性と相違点は、例外ではなく、むしろ当たり前のことなのです。

アジアにおける障害のある人々の貧困の状況:この地域の障害のある人々は、深刻な危機的状況に直面しています。障害のあるアジア人の約80%は、農村部や遠隔地で生活しています。この地域で暮らす極めて貧しい9億の人々の中で、最も差別され、困窮しているのが障害のある人々です。総合的なデータを入手するのは難しいのですが、この地域にはおそらく、2億5千万人から3億人の障害のある人々がおり、2億人近くが特別なサービスや支援を必要とする、重度あるいは中度の障害を抱えていると思われます。そして、この地域の2億3800万人の障害のある人々が労働年齢にあると推定されますが、労働人口に占める数は非常に少なくなっています。また、障害のある人々は、職業訓練や就職の機会、あるいは自営業のための借入などの、一般経済への参加に直接つなげられるサービスや経験へのアクセスが欠けていることが多く、そのため、多くの国で失業率が約40%から80%となっていますが、これは驚くことではありません。

さらに、この地域は、障害にかかわる難しい課題への政府の取り組みを妨げる問題にも直面しています。

人災及び自然災害:深刻な人災には、1998年以来、数カ国で報告されている大規模な民族紛争があります。地震、津波、大洪水、大型台風などの深刻な自然災害も、多くの国で報告されてきました。災害の犠牲となり、障害を抱えるようになった大勢の人々を支援し、力づけるために、政府と社会の両方による長期間にわたる多くの取り組みが必要となってきます。

経済の変動:この地域は、1997年に現代史上初の深刻な金融不安を経験し、続いて2003年には、SARSの蔓延によって引き起こされた新たな危機にも直面しました。国により速度は異なるものの、ほとんどの国はこれらの危機からの復活を遂げ、アメリカ合衆国でサブプライム住宅ローン危機と資金不足が勃発した2008年まで、また、ごく最近の欧州経済危機発生まで、急激な成長を遂げた国もあります。この地域の経済は今後、さらに不安定になりつつあり、着実な成長の道へと戻ることは、当面の間不可能のように思われます。

地政学的紛争:近年、地政学的紛争がエスカレートしており、この傾向は悪化しつつあると思われます。激しい外交論争と軍事的な意思表示により、この地域の見通しは暗いものとなっています。暗雲が立ち込めていることから、障害にかかわる現在の問題と新たな問題に対処する一致した効果的な地域行動に不可欠な、政府間の強い絆と相互信頼の構築が、極めて難しい課題となっているのは確かです。この点においてCSOは、普遍的な人道の価値観を、あらゆる人間の個性や社会の違いを超えた人道的行動のためにお互いを結びつける価値観として広めていくことにより、積極的な役割を果たしていかなければなりません。

アジア太平洋地域における障害者運動の再考

過去数十年にわたる障害者運動では、アジア各国政府と人々の深い連携の事例とともに、強い人類愛が認められました。「国連障害者の十年(1983-1992)」の終了後すぐに、ESCAPは加盟国政府の全会一致の承認により、「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)(A/P十年)」を宣言しました。これは、かなり例外的な、アジアの連帯と一致した政治的意思を示すものです。2002年には、ESCAPは再び加盟国の全会一致の承認により、「十年」の延長(2003-2012)を宣言し、さらに、加盟国政府が遵守すべき、びわこミレニアムフレームワーク(BMF)を発表しました。

「A/P十年」は、市民社会団体の支援を受けて実施されてきました。具体的には、アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議(the Regional NGO Network for the Promotion of the Asian and Pacific Decade)という新たなCSOが1993年に設立され、2002年に「A/P十年」の支援をおもな目的としたアジア太平洋障害フォーラム(APDF)として再編されました。APDFは過去20年間にわたり、「A/P十年」のための年1回と年2回のキャンペーンを運営し、ESCAPや他のCSOと連携して、政策推進と「A/P十年」実施のモニタリングに取り組んでいます。APDFと他のCSOがかかわった重要な取り組みの一つが、2000年以降、2006年に国連障害者権利条約(CRPD)が採択されるまで続けられた積極的なキャンペーンで、これは、2003年に国連CRPD草案作成特別委員会に提出されたバンコク草案に大いに貢献しました。

新たな「アジア太平洋障害者の権利を実現する十年(2013-2022)」の到来とCSOの参加に対するESCAPの期待

BMF+5以降、地域の障害者運動の今後の方向性について不安が生じました。この地域の各国政府は、既に政治課題が山積しており、リソースの減少にも直面していたことから、BMF+5以降の戦略に向けた新たな共通のコミットメントの追求に、それほど熱心ではありませんでした。しかしCSOは、共通の地域戦略が無ければ、地域の障害者運動は著しく衰退してしまうと、大いに懸念しました。2010年以前に開催されたあらゆる地域プラットフォームにおいて、CSOは心を一つにして協力し、声を合わせて、「新十年」の開始を訴えました。ESCAPと一部の国の政府の支援を得て、ESCAP委員会はついに2010年5月、「新アジア太平洋障害者の『権利を実現する』十年(2013-2022)インチョン戦略」の採択を目的とするハイレベル政府間会合を、今日、ここインチョンで開催することを決定しました。私達には、これから2,3日のうちに採択されるインチョン戦略に、私達の共通の願いと希望が反映されると楽観できる十分な理由があります。なぜなら、私達はこの数年間、インチョン戦略の草案作成に、個人として、また集団として、惜しみなく、ためになる情報を提供し続けてきたからです。しかし、インチョン戦略がどれほど魅力的であっても、あるいは望ましいものであっても、それはやはり、紙上の言葉に過ぎません。私達に必要なのは、言葉を現実へと転換する行動です。CSOは積極的な役割を果たし続けることを期待されています。実際、インチョン戦略では、CSOに対し、「十年」の実施と促進への参加を求めており、また、民間部門にも連携を呼びかけています。インチョン戦略では、ESCAP事務局に技術的な助言と支援を提供し、「十年(2013-2022)」の完全かつ有効な実施を促進するために、CSOを「アジア太平洋障害者の権利を実現する十年」に関するESCAP地域ワーキンググループの一員として含めています。ワーキンググループはESCAP事務局に対し、以下に関する助言を提供することになっています。(a)「十年」の進捗状況の検証、(b)閣僚宣言及びインチョン戦略の実施推進のための地域及び小地域における協力(c)アジア太平洋地域の障害のある人々の状況の変化に関する調査、(d)国及び地方レベルでのさまざまな障害のある人々のグループへのサービス提供とネットワークづくり

効果的な地域協力の促進と「新十年」の支援におけるCSOの強みとCSOが直面する制約

小地域及び地域における政府間及びCSO共同プラットフォームでは、大抵の場合、ほとんどの各国政府代表が、期限を定めた短期間の任務を果たしているだけであるのに対して、CSO代表は、長期にわたる焦点を絞ったかかわりを持ち、障害関連の専門的な問題に関する知識が豊富で、障害のある人々の願望や希望、ニーズをより正確に反映し、障害関連の問題に対処してきた経験も豊富であるなど、各国政府代表よりも明らかに優位に立ち、強い姿勢で臨んでいます。

しかし、この地域のCSOは、ある共通の制約に直面しています。それは、小地域及び/あるいは地域のフォーラムに参加するための十分な資金が不足していること、将来の課題に対処するための一連の率先実行計画が欠けていること、さらには、地域が広大で、世界のすべての地域の中で最も人口が多いこと、そして小地域及び地域のネットワーク構築に関与しているCSOには、継続的な人的資源と財源が相当大量に必要となることなどです。

CSOと地域ネットワーク構築に関して、これまで論じられてきた強みと弱みを考慮すれば、CSOは、「新十年」の実施を支援する効果的な地域ネットワークの構築と維持において、一層の戦略化と重点化、そして効率化を図るのが賢明だと言えるでしょう。

「新十年」の実施に向けた地域ネットワーク構築におけるCSOの戦略的役割

  1. 「新十年」に向けたESCAP地域ワーキンググループにおいて、CSOのメンバーは、政策による権利擁護、技術的援助の提供及び大勢の障害のある人々を代表することに、さらに積極的かつ戦略的に取り組まなければなりません。この点で、CSOワーキンググループメンバーは、他のあらゆる小地域及び地域CSOネットワークからの情報を収集し、具体化する効率の良いシステムを開発しなければならないわけです。この目的を達成するために、CSOワーキンググループメンバーの共同事務局を設立することが、効果的かつ不可欠なメカニズムとなります。APDFは、2012年3月及び8月に、ESCAPによるインチョン戦略草案作成に向けて、CSOが共同で情報提供を行うことを支援する同様な役割を臨時に果たしました。CSOは、長期的かつ持続可能な共同事務局を考案する必要があります。
  2. 多くの小地域及び地域CSOネットワークと連絡を取るには、現代のウェブベースのプラットフォームを利用することが、最も効率的な方法です。CSOワーキンググループメンバーの共同事務局は、そのようなウェブベースのプラットフォームをサポートするための資金を調達及び/あるいは拠出しなければなりません。共同事務局が、小地域及び地域のCSOによる地域ワーキンググループの協議に関して定期的なウェブベースの交流を企画する一方で、CSOは、共通の政策声明を発表するために、ウェブ文化に慣れ親しみ、意見の交換や、合意の達成を図っていくことが必要となります。さらに、ウェブベースのプラットフォームは、「新十年」の実施に関するグッドプラクティスのデータバンクとして、また、「新十年」の見直しのための厳選されたテーマに関するデータ収集の場としても役立つでしょう。
  3. CSOは、「新十年」の実施期間中、新たな課題とそれに対応するための行動計画を明らかにすることに積極的に取り組み、そのような行動計画の項目を、ESCAP地域ワーキンググループで協議し、さらにワーキンググループを通じて、この地域のすべての国の政府に提示しなければなりません。
  4. CSOは、「新十年」の実施を支援するために、世界銀行、アジア開発銀行、国連開発計画(UNDP)、国連専門システムなどの開発機関からのリソースを動員することに、戦略的かつ積極的に取り組まなければなりません。このような権利擁護活動は、ESCAP地域ワーキンググループにおいて、またこれを通じて、最大限実施されるべきです。
  5. CSO地域ネットワークは、「新十年」の国内キャンペーンを企画するため、特に開発途上国や後発開発途上国において手を組まなければなりません。APDFは、多くの国で過去20年間にわたり「十年」のキャンペーンを展開してきましたが、そのようなキャンペーンは、政府の認識を高め、行動を引き起こすことに大いに成功することが明らかになりました。たとえば、アジア太平洋障害フォーラムは、2008年2月にバングラデシュのダッカで地域会議を開催し、現地主催者は同会議において、障害者権利条約及びその他の重要な障害関連政策とプログラムの実施を支援するという政府の公約を得ることに成功しました。しかし、このようなキャンペーンは、この地域のさらに多くの障害のある人々が経済的な余裕をもって参加できるよう、基本的に低コストで運営されることが重要です。また、このようなキャンペーンを通じて、適切なリソースの支援を受けながら、インチョン戦略の実施と見直しに向けた、各国政府によるハイレベル政府内機構と行動計画の開発を促していかなければなりません。
  6. CSOは、障害を含めた企業の社会的責任戦略を通じて障害問題を支援する民間部門のネットワークにコンタクトし、これとつながらなければなりません。障害は重要な項目の一つですが、民間企業の理解が低い項目でもあります。地域CSOネットワークは、そのような企業のネットワークにコンタクトし、ネットワーク同士の交流を促進し、企業間でグッドプラクティスを共有する手助けをすることが有用であると気づくでしょう。この戦略に関して、ある素晴らしいモデルがもたらした影響を紹介したいと思います。香港のコミュニティビジネスは、民間企業が資金提供し、運営しているユニークな非営利団体です。会員のほとんどは多国籍企業で、人と地域社会への好ましい影響を継続的に強化していくビジネスを主導し、新たに開拓し、支援することを使命としていますが、その戦略的行動計画の一つが、職場における多様性です。そして、コミュニティビジネスが開催する、職場における多様性とインクルージョンに関する会議は、アジアで最大かつ最も重要なイベントの一つとなっています。国連の専門家や、世界各地の民間企業からの講演者とともに、香港の障害部門からも、会議の議長と障害問題に関するテーマの講演者が招待されました。2012年9月には、会員の民間企業を対象に、「インクルーシブな採用―障害のある学生のためのインターンシッププログラムにおけるベストプラクティスの構想(Inclusive Recruitment - Shaping Best Practice in Internship Programmes for Students with Disabilities)」に関する会議が開催され、私もパネルディスカッションのファシリテーターとして招かれました。コミュニティビジネスは、2012年の11月に、多様性とインクルージョンに関する年次会議を開催し、さらに2012年12月には、企業会員を動員し、国際障害者デーの祝典に参加する予定です。
  7. 一般向けのキャンペーンと手を結ぶCSO:オリンピックは全世界でメディアに好まれるテーマとなりましたが、これをパラリンピックと結び付けることで、各国政府や国民の障害に対する認識を高める素晴らしい機会をもたらすとともに、選手や観光客、社会一般の人々のためにバリアフリーな環境を創造することに大いに貢献してきました。アビリンピックもまた、素晴らしい例です。第一回国際アビリンピックは、国連国際障害者年の1981年に、国際リハビリテーション協会(RI)の主催により日本で開催されました。2007年には国際アビリンピック連合が、第7回国際アビリンピック(IA2007)と第39回技能五輪国際大会(WSC)を、2007年ユニバーサル技能五輪国際大会(ISF2007)の名のもとに、一大プログラムとして同時開催することに成功しました。世界各地の55の国と地域から参加した合計1,172名のIA及びWSC競技者が、さまざまな職業分野における卓越した技術を披露しました。さらに最近の例では、2007年12月に、観光産業に関する国際会議と併せてバンコクで開催された「アクセシブル・ツーリズム」があります。障害に焦点を絞ったキャンペーンを一般向けのキャンペーンと組み合わせることは、社会の認識を向上させ、政府と国民からの支援を得るための効果的な戦略であることが判明しています。
  8. アジア太平洋障害者センター(APCD)と連携するCSOネットワーク:APCDは、タイ政府と日本政府がBMFを支援するために、2003年に共同で設立しました。2008年には、APCDは本格的な国際非政府機関へと転換を遂げました。APCDの全般的な目標は、障害のある人々のエンパワメントとバリアフリーな社会の促進であり、これまで、この地域の最先進国と連携して取り組んできました。APCDはバンコクのESCAPの近くに、低価格の会議・宿泊施設を所有しており、これを「新十年」促進のための地域のCSOによるネットワーク構築活動に利用することができます。

国レベルでの「新十年」促進におけるCSOの役割

国レベルでは、CSOは、権利擁護者、サービス提供者、資金調達者、「十年」実施監督者などの複数の役割を果たしています。CSOは、国家政府及び地方政府と共同でインチョン戦略の実施に取り組まなければなりません。インチョン戦略は、相互に関連しあう10の目標と多数のターゲット及び指標で構成され、目標とターゲットの達成期間は、2013年から2022年までの10年間となっています。この点に関してCSOは、地方及び国レベルで、以下を含む多くの重要な役割を果たすことを期待されています。

  1. CSOは、「十年」の進捗状況のモニタリングと追跡調査にかかわる諮問機関として、すべての主要な利害関係者、特に専門及び一般の政府部門に対し、目標、ターゲット及び指標の概念について教育する体制を整えるべく、自らをさらに強化し続けていかなければなりません。目標とは、達成すべき望ましい結果を記述したものです。ターゲットとは、与えられた期間内に達成することをめざすものです。指標とは、ターゲットが達成したことを測定し、検証するものです。
  2. CSOは、国と地方の両方のレベルでの「十年」の実施計画を支援するために、適切なリソースの配分を推進し続けなければなりません。また、後発開発途上国に対して、開発機関及び先進国のリソースを動員しなければなりません。
  3. CSOは、CSO内の相互支援と相互強化によって「十年」の実施を一層成功させるために、インターネットを通じたグッドプラクティスの共有に積極的な役割を果たさなければなりません。

結論

「権利を実現する十年」の最初の年である2013年は、引き続き、地域経済及び地政学的関係における不安や深刻な課題、さらには高齢化や若者の失業、男女平等と軍備拡張競争などの他の社会問題が原因で減少してしまった乏しいリソースをめぐる厳しい競争に直面することになるでしょう。障害部門のCSOが、国及び地域レベルでの「新十年」の影響を最大限高めるには、完全な相互連携と相互支援を進め、重複している介入を削減し、効率の向上を図る以外、代替策はありません。これにより、さらに多くの人々が、低いコストでの参加と、少ないリソースの投入での貢献を果たせるようになります。

さあ、すべての人々のための、権利に基づく、インクルーシブでバリアフリーな社会という共通のビジョンを実現するために、皆で力を合わせましょう。

ありがとうございました。