国連総会ミレニアム開発目標およびその他の国際的に合意された障害者関連の開発目標の実現に関するハイレベル会合(2013年9月23日ニューヨークにて開催予定)に対する、アジア太平洋地域からの情報提供と勧告
1.我々、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)加盟国および準加盟国の代表は、2013年5月15日から16日までバンコクで開催された、「さらなる前進へ:2015年およびそれ以降に向けた、障害インクルーシブな開発課題に関するアジア太平洋地域協議会」(以下、アジア太平洋協議会と称する)に集った。
2.アジア太平洋協議会は、タイ王国政府により、オーストラリア政府、ESCAP、世界銀行およびアジア太平洋障害者センターとの協力の下に開催された。同協議会には、障害のある人々の当事者団体および支援団体、国連システムおよびその他の国際機関を含む市民社会の代表も参加した。
3.アジア太平洋協議会では、2015年以降の開発課題への障害のインクルージョン促進を阻む課題と、そのために講じるべき措置、さらには、2013年9月23日にニューヨークで開催予定の、国連総会ミレニアム開発目標およびその他の国際的に合意された障害者関連の開発目標の実現に関するハイレベル会合で発表される成果文書に、アジア太平洋地域が果たすことができる貢献について、協議が行われた。
4.アジア太平洋協議会は、アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合で採択された、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言」と、「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」から発想を得たものである。このハイレベル政府間会合は、ESCAPの運営および大韓民国政府の主催により、2012年10月29日から11月2日まで、大韓民国のインチョンで開催された。
5.インチョン戦略には、世界で初めて、10年という時間枠における進捗状況を説明するための測定可能なターゲットと指標を伴う、地域で合意の得られた障害インクルーシブな一連の開発目標が盛り込まれている。同戦略は、ESCAPの2013年5月2日付の「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言およびアジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略の実施」に関する決議69/13により支持された。
アジア太平洋における障害と開発の状況
6.アジア太平洋地域では、世界人口の3分の2が暮らしている。この地域は、その経済的な活力と、貧困削減が進展していることで知られている。同時に、この地域は、経済成長と社会的不平等に密接な関係のある開発課題に直面している。また、この地域は、災害の影響をどこよりも受けている。地域内には6億5000万人の障害のある人々がいると推定され、その大部分は開発途上国で貧しい暮らしをしている。しかし、時間と国境を超えて比較可能な信頼のおける統計はない。以上のことから、障害インクルーシブな開発は、この地域のさらなる経済成長と社会的発展に必要な条件である。
7.この地域では、障害のある人々の人権の促進および保護と、障害インクルーシブな開発に進展が見られる。1993年から2012年まで、2度にわたり続けて実施された、地域における「障害者の10年」を踏まえ、ESCAP加盟国および準加盟国は、2012年5月23日付のESCAP決議68/7で、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)」を宣言した。
8.ミレニアム開発目標では、障害関連の懸案事項に明確に言及していないため、2015年以降の開発課題を通じて、障害の側面を21世紀の開発プロセスに主流として組み込む画期的な機会がもたらされ、これにより、経済成長、社会的発展、環境の持続可能性および平和と安全におけるインクルージョンが確保される。
バンコク合意
9.我々は、多様な障害と背景を持つ、女性と子どもを含むすべての人々が、あらゆる生活分野とライフステージに完全に参加できるようにする、障害インクルーシブな社会という、我々が共有する目標を達成するために、国連総会ミレニアム開発目標およびその他の国際的に合意された障害者関連の開発目標の実現に関するハイレベル会合(HLMDD)の成果文書に、以下の勧告を盛り込むことを提案する。我々の勧告は、インチョン戦略と調和し、これを基礎とするものである。
10.我々は加盟国に対し、HLMDDと、国内、小地域、地域および国際レベルの活動において、障害インクルーシブな開発に向けて、最高水準の政治的指導力を発揮することを強く求める。
11.HLMDDの成果文書は、障害のある人の権利に関する条約の精神と内容を強化するものでなければならない。成果文書は、いかなる点においても、同条約の解釈を弱めるものであってはならない。
12.成果文書はまた、簡潔で、行動指向の、測定可能で、期限を定めた、インクルージョンと平等および反差別の原則に基づいたものでなければならない。さらに、利用者が簡単に使用でき、すべての人にとってアクセシブルなものでなければならない。
13.HLMDDの成果文書では、「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」の10の目標に含まれている優先分野に取り組むとともに、以下を考慮しなければならない。
(a) 貧困を削減し、労働および雇用の見通しを改善すること
「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)課題」の範囲内で、多様な障害のある人々の雇用を、農村部および都市部のすべての経済部門において促進する。民間部門の参加を得て、障害インクルーシブなビジネスを促進するとともに、障害のある人々の起業家精神の開発、ソーシャル・エンタープライズおよび社会的協同組合を支援する。
(b) 政治プロセスおよび政策決定への参加を促進すること
開発政策、計画、プログラムおよびプロジェクトへの、多様な障害のある人々の参加を、経済成長と社会的発展におけるインクルージョンの指標として評価する。地域に根ざしたインクルーシブな開発イニシアティブや、電子政府サービスなど、あらゆるレベルにおけるこのような参加を容易にするための多様な手段を促進する。
(c) 物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスを高めること
ユニバーサルデザインの導入、支援技術の利用促進、合理的配慮の提供により、物理的環境、公共交通機関、知識、情報通信インフラストラクチャー、一般向けのサービスのすべてにおける完全なアクセシビリティを確保する。手話、触覚を使ったコミュニケーション、点字およびわかりやすい資料などの提供を通じて、ろう、盲ろう、難聴の人々およびその他のタイプの障害のある人々による、またこのような人々とのコミュニケーションを可能にするためのサービスおよび技術へのアクセスを強化する。
(d) 社会的保護を強化すること
障害関連のニーズを満たすための社会的保護を保証し、「社会的保護の床」に基づく、他の者との平等を基礎とした、所得補助、適切かつ負担可能なサービス、機器およびその他のアシスタンスへのアクセスを含む、さらなる普遍的なスキームを促進する。
(e) 障害のある子どもへの早期介入と教育を広めること
障害のある子どもの発達成果を最大限に高めるため、幼児期のプログラムに投資し、他の者との平等を基礎として、生活スキルの開発、質の高い、インクルーシブな、生涯にわたる教育とスキル開発へのアクセスを確保する。特に貧困生活を送っている子どもたちのために、必要に応じて特別な教育を提供し、自宅近くでの、質の高い教育への平等なアクセスを確保する。実現を可能にする情報通信技術を活用する。親が子どもに対し、より効果的な支援を提供できるようにする。
(f) 性(ジェンダー)の平等と女性のエンパワメントを保障すること 性の平等をはかる主流のプログラムにおける障害のある少女および女性の可視性を高めるとともに、教育プログラム、HIV/AIDSを含む性と生殖に関する医療、一般的な医療サービス、あらゆる形態の搾取、暴力、虐待と差別の予防とこれらからの保護のための措置への、障害のある少女および女性の参加を増やす。
(g) 障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること
意識向上と早期警戒活動などの、災害リスク軽減のための政策、計画およびプログラムに障害の視点を統合し、緊急事態への対策に、多様な障害のある人々の定期的な参加を得るとともに、災害時に、障害のある人々に対する時宜を得た、かつ適切な支援を提供する。
(h) 障害に関するデータの信頼性および比較可能性を向上させること
政策の立案、実施および評価と、開発プログラムへの障害のある人々のインクルージョンの進捗状況に関する説明責任を果たすためのエビデンスベース強化に向けて、特に、国勢調査、標本調査、行政データおよび障害専門のデータ源について、このような目的でのデータの利用可能性を改善する好機を明らかにし、データ収集に力を入れる。
(i)「障害者の権利に関する条約」の批准および実施を推進し、各国の法制度を権利条約と整合させること
全世界での条約および選択議定書の批准と、条約と各国の法制度との効果的かつ総合的な整合を、実施のための規制のメカニズムを通じて支持し、促進する。これに関連して、加盟国は、障害者の権利に関する委員会がその責任を適時に果たせるよう、資源の増強を確保することも強く求められる。
(j) 小地域、地域内および地域間の協力を推進すること
小地域、地域内および南南協力を含む、多部門および多数のレベルでの連携を強化する。このためには、政府各省庁および多様な部門の各機関、地方自治体、障害のある人々の当事者団体および支援団体、その他の市民社会団体、金融機関、学術機関、民間部門、国連機関、その他の国際機関および開発協力機関の参加を得る。技術協力、援助および十分な資源を重視する。能力構築を強化する。障害フォーカルポイント(拠点)のネットワークづくりを促進する。
14.我々はさらに、HLMDDの成果文書に、以下の追加要素を盛り込むことを勧告する。
(a) 多様な障害のある人々のエンパワメント。特に自閉症の人々、知的障害のある人々、心理社会的障害のある人々および盲ろうの人々に注目し、これらの人々が自分自身のために選択する自由を含む権利を行使できるようにし、これにより、人権と人間の安全保障を確保し、さらに、これに関連して、障害のある人々の能力構築の重要性を重視する。障害以外の理由でも差別される、障害のある人々の脆弱性を認める。多様な形態の差別、虐待、暴力および搾取と闘う。
(b) 障害のある人々による、自らの生活に影響を与えるあらゆる問題への完全かつ効果的な参加を保障し、政策決定プロセスにおける平等なパートナーとしての障害のある人々の代表参加を増進するために、経済的に自立した、民主的な、優れたガバナンスを実践する、障害のある人々の代表団体の結成とその強化を促進する。
(c) 障害のある人々の経済的、社会的および文化的発展を確保する手段として、その参加能力を開発するため、能力への投資を促進し、自助団体および障害のある人々のグループのガバナンスと経済的持続可能性を強化する。デジタルリテラシーの向上ために、アクセシブルな情報通信技術を十分に活用する。障害インクルーシブな公共政策に関して、障害のある人々を対象に研修を行うに当たり、公共政策研究機関の参加を得る。
(d) 盲ろうの人々、重複障害のある人々およびその他のタイプの障害のある人々の特別なコミュニケーションのニーズを、研修のための資源の配分と、支援技術の利用を通じて満たすことを確保する。
(e) 民間部門に対し、職場と自社の製品およびサービスにおいて、障害を主流化することを奨励する。
(f) 一般の人々、家族、障害のある人々、政府官僚、政策決定者、メディア、市民社会団体およびサービス提供者に対し、態度と行動の継続的かつ長期的な変容を促し、障害のある人々と彼らにかかわる問題へのアプローチを、慈善から、権利に根ざした参加型のアプローチにすることを求める。これに関連して、障害のある人々が、家族、地域社会および社会全体に果たしている貢献を認める。
(g) 可能な限り最も質の高い成果を達成するために、あらゆる部門にわたる障害インクルーシブな予算編成を通じて、障害インクルーシブな開発計画、プログラムおよびプロジェクトの実施、モニタリング、レビューおよび評価の適切な予算と予算配分を確保する。さらに、障害のある人々を支援する、アクセシビリティ、人権および反差別の強化に貢献するために予算を使用することを確保する。
15. 最後に、2015年以降の開発課題に関して、以下を勧告する。
(a) 2015年以降の開発課題の策定、実施およびモニタリングにおいて、障害のある人々とその代表団体のインクルージョンを強調し、強化する。
(b) 社会への完全参加に向けた、障害のある人々のエンパワメントに関する単独の目標を含めることを強く考慮する。
(c) 2015年以降の開発課題(不平等、教育、保健、食料安全保障と栄養、成長と雇用、人口動態、紛争と脆弱性、ガバナンス、環境の持続可能性、水、エネルギー)の策定に向けて検討中の、提案されているテーマの各分野において、障害を主流化することにより、開発プロセスにおける障害の視点を重視する。
(d) 特に農村部および遠隔地において、草の根レベルで障害のある人々に手を差し伸べるため、地域に根ざしたインクルーシブな開発のアプローチを採用する。
(e) 海外開発援助を(資金調達の流れとメカニズム、ドナーに対する説明責任契約および「援助の域を超えた」アプローチについて)見直し、障害インクルーシブな開発に費やされる割合を示す「障害マーカー」を取り入れる。
(f) 経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会に対し、障害に特化したイニシアティブと主流のイニシアティブの両方について、障害インクルーシブな開発のモニタリングと評価が可能となるように、政府開発援助関連のデータの収集と分析における、障害を考慮した指標の開発と適用を勧告する。
2013年5月16日採択
バンコク
原文
Asia-Pacific Input to the High-level Meeting of the General Assembly on the Realization of the Millennium Development Goals and Other Internationally Agreed Development Goals for Persons with Disabilities
New York, 23 September 2013
http://www.unescapsdd.org/disability/event/asia-pacific-regional-consultation-disability-inclusive-development-agenda-towards