ポーテージプログラムの開発と発展 -0歳からの発達支援と親・家族支援に向けて- 

認定NPO法人日本ポーテージ協会 会長 清水直治

はじめに

発達に遅滞や偏りのある乳幼児に対する早期からの対応・介入は、障害の発現の予防や発達支援のために、親・家族支援とともに0~3 歳から開始されることに意義があります。早期教育プログラムの開発・普及は、1970 年代からアメリカ合衆国を中心に発展してきました。

1.『ポーテージ早期教育ガイド』の完成

アメリカ合衆国連邦政府は、1968年に「障害児早期教育援助法(公法90-538)」を制定し、障害のある乳幼児及びその親や家族に適用できるモデル・プログラムの開発を目的とするプロジェクトに対して、研究助成金を交付することを規定しました。そして、その翌年の1969年には、ウィスコンシン州のCESA(Cooperative Educational Service Agency:公教育補充機関)No.5に「ポーテージプロジェクト」が組織され、連邦政府から3年間の研究助成金が交付されることになりました。そして3年後の1972年に、家庭訪問指導を基盤とする「ポーテージモデル」と呼ばれる早期対応プログラムである『ポーテージ早期教育ガイド(Portage Guide to Early Education: PGEE)』(実験版)が完成しました。その名称は、もとよりその地名を冠したものですが、同時に、ポーテージ相談員がプログラムを家庭に「運ぶ」こと、就学前の子どもを小学校に「運ぶ」ことの寓意が込められています。1975年には、アメリカ合衆国合同普及検討委員会はそれまでの追跡研究の評価の結果を総括して、アメリカ合衆国全域にこのプログラムを普及することを決定しました。

2.CBR活動におけるポーテージプログラムの普及

『ポーテージ早期教育ガイド』はその後、アメリカ合衆国国内はもとより世界各国に拡がり、それぞれの国の実情に合わせて多様に発展してきました。ヨーロッパでは、1976年に一早く英国が導入し、1980年代には英国政府からの研究助成金により、国内約180カ所を拠点に「ポーテージサービス」が開始されました。

一方で、『ポーテージ早期教育ガイド』は世界35カ国語に翻訳・翻案されたとも言われ、それぞれの国・地域の事情に合わせてさまざまに活用されてきました。アジア地域やアフリカ、中南米の低開発国・発展途上国においては、CBR(Community-Based Rehabilitation)活動のなかで多く活用され、普及してきました。その理由として、①ポーテージモデルによれば、親・家族を中心に家庭で対応が行える。②指導の目標や方法が分かりやすく、柔軟に構造化されているので、実情に合わせて変更して使える。③親を障害のある自分の子どもの直接の支援者に養成することにより、社会資源や経験の乏しい低開発国・発展途上の国々においても利用しやすい、などがあげられます。

3.日本版作成と日本ポーテージ協会

日本においては、1976年改訂版『ポーテージ早期教育ガイド』をもとに1983年に『ポーテージ乳幼児教育プログラム』を完成し、日本全国に早期対応ネットワー クを構想するなかで、1985 年に「日本ポーテージ協会」が設立されました。「日本ポーテージ協会」は2014 年には東京都から認定 NPO 法人として認定され、2015 年に創立 30 周年を迎えました。2020年11月現在で、日本全国に49支部があり約 900 名の会員がいて、各地域の実情や特徴を踏まえたポーテージ相談活動が展開されています。

2005年には、改訂版『新版ポーテージ早期教育プログラム』を刊行し、さらに2020年 5 月には、子育て環境の変化や障害のある乳幼児やハイリスクの子どもの保育理念や制度の変容などを踏まえて、リニューアル版『ポーテージ早期教育プログラム』 を出版しました。このような日本版や各国版を総称して、「ポーテージプログラム」と呼んでいます。

4.ポーテージプログラムを用いた指導の進め方

(1)ポーテージプログラムの特徴

ポーテージプログラムには次のような特徴があります。①親による家庭指導:ポーテージモデルを踏まえて、親が中心になって家庭や日常生活のなかで個別指導を行う。②発達的アプローチ:平均発達を示す子どもの発達の順次性・系列性を標準にした発達支援を行う。③応用行動分析の原理の適用:子どもの行動発達を促すために、指導の目標を行動目標として設定し、その行動目標を達成するために応用行動分析の原理を適用する。

家庭における親による子育て支援には、次のような利点があります。①子どもと親にとって家庭は「自然な環境」である。 ②個別化した指導が行える。 ③般化や維持が起こりやすい。 ④家族全員が参加できる。 ⑤子どもの広範囲の行動に対応できる。⑥実際で機能的な行動が指導できる。 ⑦親の子育てスキルが発展できる。

(2)リニューアル版 『ポーテージ早期教育プログラム-0歳から家庭でできる発達支援援ガイド-』の構成

リニューアル版『「ポーテージ早期教育プログラム』は、「マニュアル・活動カード」、「チェックリスト」、「記録シートセット」、「発達経過表」の4 つのアイテムで構成されています。①「チェックリスト」(「乳児期の発達」「社会性」「言語」「身辺自立」「認知」「運動」の 6 つの発達領域に、 561 項目の行動目標が、発達の順序性・系列性に従って年齢段階別に配列)、②「マニュアル・活動カード」 (行動目標を達成するための手順や援助のしかた、教材・教具などの指導の示唆が記載)、 ③発達経過表 (発達の状態や指導経過が一覧できる記録表)、 ④記録シート(「ポーテージ家庭記録表」「課題分析過程シート」、「課題分析シート」「活動チャート」)(写真)

マニュアル・活動カード

(3)ポーテージプログラムを用いた相談の進め方

ポーテージ相談における子どもと親・家族との面談は、チェックリストによる行動目標を選び出すとともに、指導の結果としてその行動目標の達成を評価する「アセスメントにもとづく活動」と、子どもが獲得した行動目標を日常生活で実用できるように促す「般化・維持活動」、親のニーズに応える情報の提供や親支援などの「親・家族活動」の3つの部分に分かれ、1回あたり60 分程度の時間をかけて面談を行います。

そして「アセスメントにもとづく活動」において、チェックリストを用いて子どもの現在の発達状態をアセスメントし、その情報をもとに行動目標を選び出し、その選び出した行動目標を達成するための指導計画を作成します。その指導計画にもとづく実際の指導は、親が家族の協力を得ながら、家庭や日常生活のなかで行い、その指導の結果としての行動目標の達成を、ポーテージ相談員と親・家族が一緒に評価を行います。このように、P(計画)D( 実施 )C( 評価 )A(改善)サイクルで指導を行いながら、「ポーテージ家庭記録表」や「活動チャート」などの記録シートを使って指導ー評価過程をモニターしながら、「エビデンス・ベースト(証拠にもとづく)」による意思決定を行うことが基本です。

(4)『児童発達支援ガイドライン』に沿ったポーテージプログラムの活用

ポーテージプログラムは近年では、福祉分野においても多く活用されるようになりました。児童発達支援に関わる保育所、児童発達支援事業所、児童発達支援センターなどにおける『児童発達支援ガイドライン』に沿った個別支援計画の作成・実施においても、ポーテージプログラムの活用は利便性があると考えます。

ポーテージプログラムは、親を中心に家族の協力のもとで、子どもと親にとって最も慣れ親しんだ「自然な環境」である家庭や日常生活のなかで、0~3歳から開始される早期からの発達支援プログラムであり、それは子どもの発達を促進するだけではなく、同時にまた、親のエンパワメントを促すという利点があります。

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