ネパールの障害者認定制度

アクセスプラネット事務局長 ラクシミ・ネパール
(ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業第19期研修生

歴史

障害者IDカード(障害者身分証明書)は、ネパールで障害者であると認定された人に発行される重要な証書です。このカードは、ネパールの障害者に付与される特典と社会保障給付を請求するために必要です。ネパール政府は、1999年から障害者IDカード「अपाङ्गतापरिचयपत्र」と何らかの形の社会保障手当を障害者に交付し始めました。当初は、障害者IDカードは当時の郡行政事務所から交付されていました。2006年以降、当時の女性児童社会福祉省の郡支所による交付が開始されました。同省は現在「女性児童高齢者省」と改称されています。初めはすべての障害者に対し障害区分のない同じIDカードが与えられました。しかし、2006年以降、障害の程度に応じて4色のカードが配付されるようになりました。

障害者IDカードの配付プロセスは、2009年の「障害者IDカード配付指令」の規定により、より体系的になりました。ネパールが以前の中央政府制度から連邦政府制度に移行する前は、女性児童高齢者省が各郡の支所で障害者IDカードを交付することが認可されていました。IDカード交付に関するこの規定は、ネパールでの連邦制度実施開始後、2018年11月に各地方自治体(市町村)による障害者の認定とIDカードの交付開始が認可されるまで続きました。連邦制度の実施前に交付されたIDカードの数は25万枚でした。しかし、その後新しい障害者IDカードを取得する人の数が増えただけでなく、古いカードを持っていた人でも、4つのカテゴリーに従って新しいIDカードシステムに変更する必要がありました。したがって、現段階では、IDカードを所持している障害者の総数に関する細分類されたデータはありません。

地方自治体が障害者IDカードを交付するようになる前は、障害者は郡の事務所を訪れてIDカードを申請しなければなりませんでした。自宅から郡事務所までの距離が遠く、特に郡事務所が丘陵地帯にあり、道路のアクセスが良くなく、公共交通機関が利用できない場合は、IDカードの取得はより困難でした。また、IDカードを取得する手続きも不明確であり、追加の医療文書を提出するように言われたり、郡事務所での障害確認のためのミーティングの日取りがはっきりしなかったりという問題もありました。さらに、障害の種類と程度を特定する技能を持った人の不足により、IDカード交付の初期段階での手続きに非常に時間がかかり、混乱をきたしました。現在、責任が市町村に移ったことで、手続きはある程度容易になりました。

現在の障害者IDカード交付のルールは、2017年に制定された「障害者権利法(ARPD)」に明確に記載されています。ネパールでは、連邦制度の実施により2017年以降、政府は連邦、州および地方自治体という3つの層になっています。現在の制度では、それぞれの自治体内で障害を特定しIDカードを配付する責任のある自治体は753あります。地方自治体が果たしてきた積極的な役割がIDカード取得を支えてきたことが注目されています。

障害者IDカードの分類と受給可能なサービス

ネパール政府は、障害者IDカードを障害の程度に応じて4種類に分類しています。この障害者IDカードの分類は、国のサービスをより公平に分配するために実施されています。IDカードは、政府支給の障害者手当を受給する資格のある人を証明する唯一の重要な証書です。ネパールの社会保障プログラムは、二つのカテゴリーの障害者に社会保障手当を交付してきました。その二つとは最重度および重度の障害であり、一般的に「カテゴリーA」および「カテゴリーB」の障害とも呼ばれています。
分類は以下の通りです。

カテゴリーA:最重度の障害
最重度の障害者とは、最重度の身体的または知的障害のために、他の人からの継続的な支援があっても日常の活動を行うことが困難な状態にある人と定義されます。例えば、自分で体を動かすことができない人や、重度の知的障害がある人、完全な盲ろう者がこのカテゴリーに分類されます。一般的にそういう人の家族や保護者がその人の保護と権利について完全に責任を負うことが期待されています。最重度の障害者は赤色のカードを持つ資格があり、ネパール政府から社会保障手当として月額3,990ネパールルピー(NPR)が支給されます。この社会保障手当は、国の状況を勘案し数年後に見直されます。]

カテゴリーB:重度の障害
個人的な活動や社会的な活動を行うために継続的に他人の支援が必要な状態にある人は、重度の障害に分類されます。たとえば、完全に盲目で耳が聞こえない人、車椅子を使用している人、肘から先の部分がない人、両足が機能していない人などがこのカテゴリーに分類されます。重度の障害を持つ人には青色のカードが与えられ、月額の社会保障手当として2,128 ネパールルピー(NPR)が支給されます。こちらも、国の状況を勘案し数年後に見直されます。

カテゴリーC:中等度の障害
利用できる設備があり、環境がバリアフリーであり、本人が教育や訓練を受けている場合、補装具を使用すれば日常活動および社会活動に定期的に参加できる状態にある人。たとえば、膝下の部分に障害を持っている人、自力で移動ができる身体障害者、手足が少し短い人、視力が弱い人、難聴者などがこのカテゴリーに分類されます。カテゴリーCは黄色のカードを取得する権利があります。

カテゴリーD:軽度の障害
物理的・環境的障壁がなければ、日常生活や社会活動に定期的に参加できる状態にある人。たとえば、手足が少し短い人、大きな文字が読めるロービジョンの人などです。このカテゴリーには、白いカードを貰える資格があります。

ネパールの障害者手帳

障害者IDカードの交付プロセス 障害者IDカードを取得するには、本人または保護者のいずれかが区役所に申請書を提出する必要があります。申請書とともに、氏名、本籍、年齢、障害を示す診断書、パスポートサイズの写真(できれば障害を示していること)、本人の機能的制約の詳細など、申請者の詳細情報を提出する必要があります。区役所が申請書を適正なものと判断した場合、申請日から3日以内に各市町村に送付します。障害者カードとカテゴリーの最終決定は、各市町村の専門委員会である「地方調整委員会」が行います。一般的に、IDカードを受け取るためには、障害者本人が役所に出向く必要があります。ただし、本人が障害のために役所に行けない場合は、家族・保護者または区の代表者がIDカードを預かり、本人に渡します。2017年に制定された「障害者権利法」に記載されているように、地方自治体は、障害者IDカードの受領者に関するコンピューター化された記録を保持し、4ヶ月毎に州および中央政府の女性児童高齢者省に提出する必要があります。

市町村レベルで形成された「地方調整委員会」という委員会は、障害の認定と障害者IDカードの配付を担当しています。委員会は以下のメンバーで構成されています。

村執行部の副議長または市執行部の副市長 – コーディネーター村執行部または市執行部の女性メンバーの中から、村執行部または市執行部によって指名された女性メンバー – 委員村や市にある中等学校の校長または委員の役に相応しい人の中から村執行部議長または市長によって指名された者 - 委員村執行部議長または市長によって指名された地方の保健所または病院の医師 - 委員地方警察署長 - 委員障害者の権利、利益および保護の分野において地方レベルで運営されている機関の中から、村長または市長によって指名された機関の代表者 - 委員村および市の障害者の中から、調整委員会により指名された女性1名を含む3名 - 委員地方レベルで当該分野を担当する、ネパール政府および州政府の長 - 委員村の執行部副議長または市執行部の副市長によって指名された村執行部または市執行部の職員 - 委員秘書

障害者IDカードの内容

______________村/市
IDカード番号:__________
障害者識別カード
名、姓:_____________
本籍:州 _______ 郡 ________ 市/村 ________
区番号:地方レベル
生年月日-市民番号/郡:__________
性別:________ 血液型 _____
障害の種類:種別 _________ 程度 ________
父/母または保護者の氏名: ____________
IDカード保持者の署名: _____________
IDカード認証担当者: ______________
署名: _____________
名、姓: ____________
職名: _____________
日付: _____________
「このIDカードを見つけた方は、最寄りの警察署または村・市役所に届けてください。」

受けられる福祉サービス・公的補助

現在、障害者IDカード保持者は、以下の特典を受けることができます。

AおよびBのカテゴリーの社会保障手当はそれぞれ月額3,990および2,128ネパールルピー(NPR)です。
公共交通機関と航空運賃の50%割引
補助機器の免税
所得税の控除
土地登記の際の税額控除(25%)
公職における約2%の障害者割当雇用
高等レベルまでの無償教育

課題

ネパールで障害者IDカードを交付する現在のシステムには、多くの課題と欠点があります。そのいくつかを以下に簡単に記します。

障害の分類の複雑さ

特に障害の程度に基づいて障害を分類することには多くの複雑さが見られます。たとえば、知的障害について言えば、程度に応じてカテゴリーABCまたはDに分類されることになります。ロービジョンまたは難聴の場合も、CまたはDのカテゴリーに分類されます。地方自治体レベルでカテゴリーを実際に決定する技能を持った人材が少ない場合、複雑さが増します。さらに、先進国がカテゴリーを少なくしようと動き始めている中で、ネパールではまだ分類することが高い優先事項とされていることが問題を複雑化し、論争を増やしています。これに加えて、障害の分類とIDカードの交付は医学的手法に従っているようです。障害の分類は、医学的手法、つまり身体的障害に基づいて行われる傾向があります。ネパールは、社会的観点から障害者の権利を実際に浸透させるために、まだ前進する必要があります。

社会的便益に関する法律の施行

法律、特に障害者に特化した社会的便益に関する法律は、ほとんどが紙に書かれているものの、実際には実行されていません。現在の実情を分析すると、法律で定められている補助の多くは、実際に障害者に提供されているわけではありません。例えば、「障害者権利法」では、公共交通機関や航空運賃は、障害者には50%の割引をすることが定められていますが、完全には実施されておらず、監視する仕組みもありません。無償教育の実施、特に高等レベルの教育にも同じ状況が見られます。従来の科目のみが無償で提供され、新しい科目は障害のある学生は無料で勉強することができません。これに加えて、電子機器はほとんどの障害者の日常生活、教育、雇用を容易にするためのものですが、免税は手動の支援機器にのみ与えられ、電子機器には与えられていません。

最も疎外された人々に利益をもたらすことの難しさ

ネパールでは、障害者の中で最も疎外されている人々に恩恵をもたらすことについて多くの課題がまだ残されています。例えば、公職における障害者割当雇用制度について言えば、2006年に割当雇用が開始されて以来、約1,000人の障害者が職に就くことができましたが、視覚障害者は約25人に過ぎません。ここで強調すべきことは、障害者割当ての範囲内でさえ、軽度の障害を持つ人だけが恩恵を受けており、取り残された人はまだ取り残されたままであるということです。

社会保障手当か雇用の機会か –– 権利保有者の納得

ネパールでは若年失業の問題は、障害者だけでなく、すべての人々にとっての大きな問題です。このような状況では、障害者の雇用機会を見つけることが非常に難しいことは明らかです。この現実により、個人が社会保障手当を受けられる特典のある赤色カードを取得したい障害者の数は増加しています。「地方自治体障害調整委員会」のコーディネーターでもある副市(村)長の多くは、実際には黄色と白のカードしか許可できない程度の障害者とその家族から、赤または青のカードを交付するよう圧力を受けるという課題を共有しています。また、軽度または中等度の障害者の中には、社会保障手当目当てに青や赤のカードを貰おうと、地方自治体の役所前で重度または最重度の障害者のように振る舞うという事例が多いと報告されています。この問題は、政府が障害者の雇用機会を保証できるようになるまで解決されません。軽度から中等度の障害者が正当なIDカードを取得することに納得していない理由は、第一に、障害が社会で否定的に見られていること、第二に、軽度および中等度の障害者には社会保障手当が支給されないということです。したがって、赤と青のカード所有者の数は多くなり、黄色と白のカード所有者は少なくなります。

結論

障害と開発はネパールでは最近認識された問題のひとつです。このような状況では、障害者を社会保障の下に置くために、政府によるIDカードの識別と配付が重要です。さらに、障害者IDカードの配付は、国および地方自治体の今後の計画を策定する上で重要な、地方レベルでの障害者に関する細分類されたデータの作成に役立ちます。障害者の認定は、政府が行政サービスの容易で公平な流れを実現するのにも役立ちます。必要なことは、権利所有者がIDカードを社会保障手当受給のための道具というだけでなく、身分証明書として受け取るように納得することです。国のサービス交付の分類も人権の観点からタイムリーに見直される必要があります。

参照:
ネパール政府. 障害者権利法、2074(2017)、修正第1条2075.
http://www.lawcommission.gov.np/en/wp-content/uploads/2019/07/TheAct-Relating-to-Rights-of-Persons-withDisabilities-2074-2017.pdf
ネパール政府. 障害者識別手続き2018.
ネパール政府. 障害者IDカード配付指令2009.
ネパール政府. ネパールの障害者権利法に関する規則.
https://www.lawcommission.gov.np› 2021/01
翻訳:河野宣之

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