トピックス-障害者権利条約 第1回日本審査の傍聴

「新ノーマライゼーション」2022年10月号

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会
原田潔(はらだきよし)

日本審査の概要

障害者権利条約の実施状況に関する初めての対日審査が、2022年8月22日~23日に、スイス・ジュネーブの国連本部における、障害者権利委員会第27会期で開かれました。この審査は、条約第36条に基づき、日本が2017年に提出した「第1回政府報告」について行われたものです。日本政府からは、外務省、内閣府、総務省、法務省、文科省、厚労省、国交省、ならびに在ジュネーブ国際機関日本政府代表部から成る代表団が参加し、市民社会からは、日本障害フォーラム(JDF)や、日本弁護士連合会を含む複数の団体から100名を超える人が参加しました。委員と政府代表との対話形式で行われる「建設的対話」のほか、市民社会が直接委員に意見を伝えられる「プライベート・ブリーフィング」などを経て、会期末の9月9日には、最終見解としての勧告を含む「総括所見」が公表されました。

筆者はJDFとその構成団体・事務局である日本障害者リハビリテーション協会から派遣されこの審査に参加しました。

日本から100名以上の市民社会組織や関係者が参加

市民社会からこれほど大勢が参加したのは、過去の委員会における審査でも例がないようです。この背景には、条約の採択に向けて国連加盟国らが全8回にわたって協議した「特別委員会」(2002~06年)や、国内の批准に向けた障害者制度改革などの過程に、障害者団体を中心とする多くの市民社会組織が参加し、条約も国内法制も共に作り上げてきたという意識があるのだと思います。

前述のプライベート・ブリーフィングには、JDF、日弁連を含む全8団体が参加しましたが、限られた時間の中で効果的に意見陳述等ができるよう、渡航前から打ち合わせを行い、それぞれの発言時間や発言順まで備えておくという対応をしました。

また新型コロナ感染がまだ収まらない中、日本帰国時には陰性証明書の提示が求められたため、多くの障害者が参加したJDFでは、現地でのPCR検査に関する情報や、感染者が出た場合などの対応策についても事前に共有しました。

滞在中に行った市民社会組織の活動

ジュネーブでは、前述のプライベート・ブリーフィングへの参加、委員との個別の意見交換(ロビー活動)、および建設的対話の傍聴を行いました。

プライベート・ブリーフィングは、審査の公式なプログラムですが、内容は非公開とされています。8月19日と22日の2回に分けて行われ、1回目では各団体が意見を申し述べたあと、委員からの質問を口頭で受けました。終了後、即座に質問の日本語訳を行い、市民社会組織間で共有し、回答を作成しました。どの団体がどの順番で回答するかも申し合わせ、第2回目では口頭で回答したほか、書面でも委員に提出しました。

さらに各団体は、非公式なロビー活動も行いました。JDFでは、日本の審査担当になっている、ヨナス・ラスカス副委員長(リトアニア)と、キム・ミヨン副委員長(韓国)との意見交換を行いました。極めて多忙な日程の中、快く応じてくださったお二人に感謝いたします。

建設的対話の傍聴

建設的対話は、条約の第1~10条、11~20条、21~33条の3つのクラスターに分けて、委員からの質問に政府代表団が回答する形で行われました。各委員からは、市民社会が提起した課題を的確に捉えた鋭い質問が出されました。政府からは、通訳と情報保障を考慮しゆっくりとした口調で回答がなされましたが、現時点で実施されている関連の施策を説明することが基本でした。条約の内容に即した具体的な委員の質問に対し、制度施策の一般的な説明では回答としてかみ合わないという場面もあったように思います。時間が限られていたため、質問の一部には政府が後日文書回答することとなりました。2日目の最後に、キム・ミヨン副委員長が閉会の辞を述べましたが、「人生を通じて人権と自由のために身を捧げてきた障害者とその団体および家族と、締約国である日本は引き続き連絡を取り協働していくことを推奨する」(一部抄訳)という内容で、涙ながらの発言に拍手が鳴りやみませんでした。

終了後には委員と市民社会のメンバーが会議場で記念撮影を行いました。この建設的対話は障害者権利委員会のサイトに動画が公開されており、また概要を記したプレスリリースも掲載されています。

権利委員会から出された総括所見

日本への総括所見は会期末の9月9日に「先行未編集版」が公表されました。A4判18ページに及び、序文、肯定的側面、懸念と勧告、フォローアップ(今後の手続き等)から成ります。肯定的側面としては、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法、改正障害者差別解消法、電話リレーサービス法、旧優生保護法一時金支給法、改正バリアフリー法、ユニバーサル社会推進法、障害者文化芸術活動推進法、改正障害者雇用促進法のほか、いくつかの行政指針や計画が挙げられています。

総括所見の主要部分は、第1条~33条について述べられる、懸念と勧告です。内容は多岐にわたりますが、特にインクルーシブ教育に関する課題、非自発的入院や長期入院を含む精神科医療に関する課題、施設入所と地域移行に関する課題、障害のある女性に関する複合的・交差的差別の課題などが詳述されています。詳しい分析はこれからですが、市民社会からの情報を広く反映した内容となっています。

フォローアップの項目では、日本に対し次回の報告(第2~4回の定期報告をまとめた内容)を2028年2月までに提出するよう求めており、その1年前までに、委員会からの事前質問事項が出されるスケジュールが示されています。

総括所見を受けた今後の活動

総括所見の勧告を生かし、いかに条約の実施を推進し、条約が目指す誰もが住みやすい社会を実現していくかが大切です。

国内の条約実施の促進・監視は、障害者政策委員会において障害者基本計画を通じて行われることとされていますが、今後は同計画が及ばない・及びづらい、司法、立法分野、また地方公共団体における実施促進も課題となります。選択議定書の批准や国内人権機関の創設についても、他の人権分野と共通した課題です。

9月20日にラスカス副委員長を招いて開催されたJDFの報告会には、約1,000名の参加者がありました。このような大きな注目と盛り上がりを、今後の活動にいかにつなげていけるかが問われています。

JDFでは総括所見の内容を踏まえた今後の計画を速やかに立てて、引き続き幅広い分野の関係団体や、地域組織とも連携しながら、活動を進めることとしています。また「特別委員会」のころから続く、政府各省庁や、超党派の「国連障害者の権利条約推進連盟」とのパートナーシップも重要です。最後に、JDFが取り組む権利条約に関わる事業には、同じく特別委員会のころから、今回のジュネーブへの参加に至るまで、公益財団法人助成財団センターのコーディネートによる企業財団からの共同助成を継続的にいただいてきました。この場を借りてあらためてお礼申し上げます。

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