医療リハビリテーションから「連携」を考える

愛知医科大学 名誉教授 木村 伸也

【はじめに】

医療リハビリテーションにとって、リハビリテーションチーム内はもとより、同一施設の診療科・部門間の、さらには外部の施設・機関等との連携が不可欠です。ここでは、私の23年間の大学病院リハビリテーション部門での経験から「連携」について考えてきたことをお話しします。

【公的介護保険制度前夜から新病院建設まで】
リハビリテーション部門の整備

私が赴任しました1999年時の愛知医科大学リハビリテーション部には整形外科、神経内科、脳神経外科からの依頼がほとんどで、入院・外来通院ともに長期化していました。いわば連携が極めて限られていたといえます。一方、翌年度には公的介護保険制度開始をひかえ、大きな変革の前夜でした。また2001年5月に世界保健機関が国際生活機能分類を決定し、障害のみかたが刷新され、その後求められる医療・介護・リハビリテーション分野での連携強化に向かって、愛知医科大学リハビリテーション部門の整備がせまられていました。そこで、専任医師が不在という人的資源不足を克服して診療科を設置し、専門職を大幅に増やす計画をたて周囲への働きかけをはじめました。リハビリテーション医学の臨床実習と講義を開始し、リハビリテーション部門の経営を分析し管理者と交渉することが私の「連携」の第1歩であったと言えます。

2003年に医師・専門職体制、リハビリテーション施設がある程度整い、リハビリテーション部門と他部署との院内連携を積極的にすすめました。同年、入退院を管理する地域医療連携室が開設され入院患者の平均在院日数が短縮し、介護保険制度開始以後、リハビリテーション外来の長期通院患者が大きく減少しました。

疾患別リハビリテーションチームによる患者中心の連携

リハビリテーション開始と退院の早期化のため、2006年4月に疾患別リハビリテーションチーム編成による診療を開始しました。このチームでは、従来の専門職種中心ではなく、疾患・障害を中心にした専門職間の協働が促進され、同時に若手の教育を行いやすくなりました。

2006年12月に脳卒中センター設置、続いて大腿骨頸部骨折地域連携パス、脳卒中地域連携パスの運用が開始され、20あまりの周辺医療機関との地域連携が始まりました。

病棟リハビリテーション室 ― 病棟との連携のツールとして

2009年3月、神経内科・脳卒中センターに病棟リハビリテーション室を設置しました。特に重視していたのはリハビリテーション部門と病棟医師・看護師の連携であり、病棟リハビリテーション室は、リハビリテーションを行う場としてだけでなく、彼らが1日を通していつでも直接、顔を合わせ情報共有できる場として活用しました。

その結果、脳卒中入院患者や種々の内科系あるいは外科系疾患による廃用症候群患者のリハビリテーション開始が早くなり、より短い入院期間で同程度の活動向上を得て自宅退院できるようになりました。

院内連携の拡大

その後、連携の拡大策として、外科術後患者などのリハビリテーション実施数増加、ICU・NICU等での呼吸リハビリテーションの開始、がん患者リハビリテーション施設認定や心大血管疾患リハビリテーション(Ⅰ)施設認定の取得、チーム医療として摂食嚥下チーム、 呼吸サポートチーム、褥瘡対策チーム、緩和ケアチーム、糖尿病療養支援チーム、排尿ケアチーム等の活動に参加しました。

そして2014年度の新病院開設にむけて、専門職増員、集中リハビリテーション病棟および外来リハビリテーションセンターなどの設置をすすめました。

【総合リハビリテーション研究大会を通して】

2010年から日本障害者リハビリテーション協会主催の総合リハビリテーション研究大会の運営、企画に参加させていただきました。そして、2015年9月に愛知県で21年ぶりに研究大会が開催され、実行委員長を務めさせていただきました。そこで当事者の方々、医療のみならず教育、職業、福祉、さらに介護、工学等、多分野の専門職の方々と交流できたことは連携のあり方を深く考える機会になりました。

当時、厚労省の高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会による報告書、「高齢者の地域におけるリハビリテーションの課題」(2015年度)で、

  1. 個別性を重視した適時・適切なリハビリテーションの実施
  2. 「活動」や「参加」などの生活機能全般を向上させるためのバランスのとれたリハビリテーションの実施(「身体機能」に偏ったリハビリテーションの見直し)
  3. 居宅サービスの効果的・効率的な連携
  4. 高齢者の気概や意欲を引き出す取組

が必要とされていました。

私自身の外来患者さんで調査してみると、我々が測定評価した身辺や社会生活の自立度と患者さん自身が感じている困難感には大きな乖離がありました。当事者の生活実感を知り提供されるサービスをみなおし、専門職間以上に当事者との連携をすすめる必要を感じました。

【新病院での連携強化に挑戦】

2014年度に開設された新病院は、病院内他部署と連携して患者中心の医療を推進できるように電子カルテを始めとした設備面が配慮され、リハビリテーション部門も院内・院外との連携の拡充に取り組んでいます。その成果の一部を紹介します。

術後患者などの早期離床・リハビリテーション

2018年度診療報酬改定に基づき、同年7月麻酔科医師が管理する術後集中治療室(GICU)に早期離床・リハビリテーションチーム(以下、チーム)を結成しました。リハビリテーションスタッフが参加して医師・看護師とともに、早期ADL自立、関節拘縮・関節障害の予防、呼吸理学療法、筋萎縮進行の軽減を図ります。

チーム設置前後6ヶ月間を比較すると、患者入室後のリハビリテーション開始までの日数が有意に短くなりました。チーム対応によって、従来、スタッフの勤務態勢の影響で、 週末、祝祭日前日に入室した患者のリハビリテーション開始が休日あけとなっていたのが、入室翌日から開始可能になり、各主治医任せであった術後指示を、チーム対応にしたことによって術後リハビリテーションの再開もれがなくなりました。

脳卒中医療における急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟の連携

急性期病院と回復期リハビリテーション病棟との縦の連携強化のため、リハビリテーション医の関わり方を明確にするため連携先病院と協力して調査を行ってきました。

2017年に当院入院後、地域連携パス適応となって連携先の回復期リハビリテーション病棟を有する2病院(A病院 、B病院)に転院した脳卒中患者48例(A病院では、急性期を担当したリハビリテーション医が継続して関与。B病院では関与なし)を比較しました。両群で転院時の年齢、性別、病型、麻痺等に有意差はありませんでしたが、リハビリテーション医の関与によって、急性期から予後予測と目標設定を承継でき、入院期間を短縮し、ADL向上の速度をあげることができました。

連携の加速による新病院開設後のリハビリテーション依頼数増加

連携の成果として、新病院開設後のリハビリテーション依頼数は、神経内科・脳卒中センター・脳神経外科、整形外科で2.5倍に増加し、さらに他の診療科(救命救急科、術後集中治療室、循環器内科・心臓外科・血管外科、血液内科、腎臓内科等)では3.5倍にもなりました。

【連携の意義:生活時間の最大活用】

連携は、日・週・月・年の単位ごとに、病室・病棟・家庭・会社・地域などで当事者の最適な生活動作のやり方と優先順位を決め、当事者の生活時間の最大活用を可能にします。そして同時に、連携は専門職の時間の最大活用、すなわちすべての人の生活時間の最大活用につながるものといえます。

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