職業訓練を受けて気付いたこと~自分自身の傾向を受け止めて、自分らしく生きていく

「新ノーマライゼーション」2023年3月号

石橋剛(いしばしごう)

私は幼い頃に「てんかん」と「広汎性発達障害」と診断されました。「てんかん」は薬剤治療を継続しており、正しく服薬していれば発作も起きず日常生活に問題はありません。「広汎性発達障害」は診断されて以降、特に意識をせず30年ほど生活を続けていました。

令和4年4月から1年間、大阪市職業リハビリテーションセンター(以下、「職リハ」)で職業訓練を受けています。入校するまでは約3か月ごとに転職を繰り返していました。そのせいか、早く就職しなければならないという焦りの気持ちや、就職後に長く勤められるのか、またすぐ辞めてしまうのではないかという不安でいっぱいでした。入校しカリキュラムをこなしながら日々過ごしていくうちに、人との接し方の問題点や作業に対する自分の傾向などに徐々に気付かされていきました。

職リハのカリキュラムの一つに「アサーティブ」という科目があります。私は入校するまで「アサーティブ」という単語を一度も聞いたことがありませんでした。「アサーティブ」というのは、自分と相手、お互いの考えや思いを尊重したコミュニケーション方法です。カリキュラムの中で過去の自分の経験と向き合い、今まで相手をないがしろにしてしまった場面や、自分の思いを押し殺していた場面等を思い返すきっかけになりました。このことを踏まえて自分がどういうふうに人と接する傾向があるかに気付き「どう接するとお互いが気持ちよく過ごせるのか」を知ることができました。会社という組織に入ると人と関わることを避けて通ることはできません。自分と相手、お互いの気持ちを尊重し合うことでお互い気持ちよく過ごせるという、就職後も円滑に人と関わるために活用できる貴重な学びができました。

じっくり自分と向き合う時間がつくれたことも大変貴重だと感じてます。職リハの1年間は共に過ごすメンバーが入れ替わることがなく、全員が就職という目標に向かって進んでいました。その中で自分に似た特徴を持つ人間もいれば、はたまた全然考え方や感性が違う人間もおり、そういった人間と関わる中で思うようにいかなかったり、険悪になったり、理由は分からないけれどしんどいと感じたりする場面がありました。入校する前までは、こういうことがあると「なんかしんどいな」とただただ思うだけで真剣に向き合うことはなかったように思います。コミュニケーションを学びながら「イライラしていると周りもピリピリしちゃうから気を付けて」や「今のタイミングで聞く質問かどうか考えてみて」とアドバイスをいただいたり「疲れていることを自分で気付きにくいね」と声をかけられて気付いたりと、自分目線だけでは分からないことを第三者目線で教えてもらうことができる良い機会だなと感じました。

また、私は人から教わる時に「ちゃんとやらないと」という気持ちでいっぱいになります。指摘されるまで「一度に完璧に覚えないといけない」と自分にプレッシャーをかける傾向があると気付いていませんでした。気付いた傾向をもとに対策を相談し、現在は「ゆっくりメモを取る」「タイマーを使って強制的に休憩を取る」「場所を変えて休憩を取る」という対策を取ることができるようになりました。

職リハに来てから初めて知ったことがもう一つあります。それは「企業実習」を就職前に行うことです。仕事を始めてから合う合わないが分かるのではなく、働き手の特性を雇い手に前もって伝えた上で仕事内容や職場環境、人間関係を経験することができるのはとても安心でした。

発達障害があると職場環境や人間関係でつまずいてしまうことが多くあります。それを予見したり防ぐためには、働き手が自身の傾向を把握し見つめ直す時間と機会があり、傾向への対策を第三者と共に発見することが必要だと思います。そうすることで雇用関係が長期継続でき、自分らしく社会活動をしながら生きていけるのではないかと思いました。

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