「ほんの少し」違っても諦めなくていい社会、そして違いを大切にする社会へ~発達障害当事者会からはじまる対話・交流・発信~

「新ノーマライゼーション」2023年3月号

熊本県発達障害当事者会Little bit(リルビット)共同代表理事
須藤雫(すどうしずく)

「Little bit」は日本語で「ほんの少し」と訳します。「ほんの少し」の違いで見えなくてもいい困難や苦しみがあるけれども、その分喜びもあるはず。そんな思いが込められて名付けられました。発達障害は目に見えにくく、わかりにくく、共感されにくい障害です。それ故に、発信の難しさを何年もの間感じながら、活動を試行錯誤してきました。

リルビットは2011年7月に設立し、11周年となりました。当事者会の中では歴史の長いほうだといわれます。「対話」「交流」「発信」等をキーコンセプトにリルビットはさまざまな活動を展開してきました。リルビットでは毎月2回程度の定例会(リルビットサロン)を開催し、発達障害当事者を主役としながらご家族・支援者・地域の方等多様な人々との「対話の場」を継続的に積み重ねています。そこでは生活や就労の悩みをはじめとして、さまざまなテーマをみんなで考え合い、答えを模索していきます。正解のない話題もたくさんありますが、その対話の「過程」には大きな意義があります。「他人を通して自分を知る」とリルビットではよく表現するのですが、他者との対話をくり返す中で「自分はどういう考えを持っているのか」「自分はどうしたいのか」が見えてくることがあります。私がリルビットの中で大きく感じる価値はそこにあります。どんなに調べても見つけられない答えが、対話の中に見つかることがあるのです。

定例会の他に、リルビットは熊本県内をはじめ全国各地で「当事者主体双方向型研修」という独自のスタイルの研修を実施しています。従来の一方的に伝える講演とは異なり、参加者と双方向で対話することを重視した研修です。講師は当事者が必ず複数名登壇するようにしており、専門知識を持った支援者(ソーシャルワーカー)と協働で実施しています。複数名登壇することで、「発達障害とはこういうもの」といった固定観念をなくし、「発達障害と一括りにせずにその特性は多様である」ことを伝えています。また、支援方法等の方法論は一切伝えず、あくまで「発達障害をどう見るか」という視点や切り口の提供を一貫して大事にしています。支援方法に正解はなく、「人」の理解に際限はありません。そのため、当事者と共に「試行錯誤していく」姿勢を参加者の皆さんと持ち続けたいと考えています。

また、「ヨコ」の連携やつながりを大事にしていることもリルビットの特徴です。熊本市障がい者自立支援協議会就労部会では「当事者対話班」としてリルビットも参画し、支援者や行政関係者と協働でさまざまなことに取り組んできました。ここでも大事なのは「試行錯誤」です。ネットラジオの制作や当事者視点での事業所見学(おでかけフラット)、ふくしのしおり当事者視点版「Good!ジョブノート」の作成等を行っています。そこは、「多様な人々が対等な立場で対話すること」の実践の場でもあります。実践の場では「失敗してももう一度やり直せる」環境が整っています。発達障害者は普段、社会の中で特性上何度も同じ失敗を繰り返してしまうことがあります。失敗することで気持ちもふさぎ込み、社会からは簡単に見放されてしまいます。ですが、就労部会やリルビットの集いの場で試行錯誤することで、少しずつ失っていた自信を取り戻していく人も少なくありません。もちろんうまくいくことばかりではなく、課題もたくさんあります。リルビットの運営側として「多様な人々を受け入れる」ことの難しさを日々感じることもあります。自分の価値観と違い、思っていたやり方と違えば、批判につながることもあります。他者との違いを違いとして受け止め、理解はできなくても知ろうとする姿勢をある程度持てなければ、集いに参加することが難しい場合もあります。多様な人々を受け入れるために、その場には一定の安心感や安全感が必要になります。そこで、ルールや枠組みを丁寧に用意することをリルビットは心がけています。ときには、そのルールの一部に納得できない方もいますが、多くの人に納得していただいたうえで会が始まります。枠組みがあることで、いざトラブルが起きた時にもルール(原点)に立ち返ってお互いに対話し直すことが可能になります。ルールがなければ、トラブルの予防は非常に難しいのが当事者会の現状です。

発達障害は障害の一つに「コミュニケーション障害」があるといわれます。しかし、私は10年以上発達障害の方々と接するなかで、「彼らはコミュニケーションができないわけではない」と感じることがたくさんありました。彼らはたくさん言葉を持っています。それらを発信できる機会が限られているだけだったり、発信できても健常者との感じ方の異なりから否定されたりする経験が多いのだと思います。環境が整えば対話は可能だと日々の取り組みで感じます。一見難しいことのようにも思えますが、「ほんの少し」の試行錯誤でそれは十分可能です。

リルビットでは、今後も「対話」の機会を広げていきたいと思っています。それは、発達障害当事者同士だけでなく、ご家族・支援者・行政関係者・教育関係者・地域の方等、さまざまな立場の人々と共に取り組んでいきたいです。立場で分断するのではなく、立場を超えて対等に対話できる場づくりが必要です。それは、地域の人の発達障害に対する偏見や差別を減らしていくことにもつながります。「発達障害」を通してその人を見るのではなく、「その人自身」を通して発達障害を知るということが大切だと思います。熊本地震が起きた時、リルビットは「共助活動」として、震災支援グループに加盟し、さまざまな団体の人々と協力して支援活動を行っていました。そこでは、障害の有無に関係なく、同じ被災者として、また支援者として復興に向けて共に活動をしていました。そのなかで、「発達障害の〇〇さん」として知られるより先に、「活動を共に頑張っている〇〇さん」と認められることで、発達障害に対する周囲からの見方が少し変容したようにも思います。その人の良さや可能性、素晴らしさを先に知ることで、信用されたり頼られたりすることがあります。熊本地震後、共助活動のなかで他者から信頼され、頼られた経験が発達障害当事者の自信につながりました。

発達障害者の魅力を発信する活動に取り組んでいる連携団体の一つに、特定非営利活動法人凸凹ライフデザインがあります。凸凹ライフデザインは、リルビットと協働でセミナーの開催や冊子の発行等を行っています。熊本地震の際には、居場所の運営も行っていました。今後も協働でさまざまな事業を展開していきたいと考えています。多様な団体・支援機関・行政機関とつながりを持ち、日頃から連携することで災害時に強いネットワークができます。それは熊本地震の経験で実感したことでもあります。

私が思い描く社会は、単に「優しさ」や「思いやり」のある社会ではありません。それはときに一方通行なことがあるからです。発達障害者はいつも「助けられる存在」「支援される存在」ではありません。多様な人々がお互いに「できること」「できないこと」を補い合える、パズルのピースのような社会が理想です。すべての人が完璧な人間を目指さずに、「ほんの少し」の違いを認め合い、活かし合える社会の雰囲気をつくっていけたらと願います。

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