地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-安城市の地域生活支援拠点等について

「新ノーマライゼーション」2023年3月号

相談支援事業所ひだまり
山北佑介(やまきたゆうすけ)

1. 安城市および安城市自立支援協議会の概要

安城市は、愛知県の中央辺りに位置する人口19万人ほどの市です。今年の大河ドラマ「どうする家康」で注目の三河の地域でもあります。かつては「日本のデンマーク」と呼ばれるほどの先進的農業地域でしたが、近年はトヨタ自動車関連企業をはじめとする機械工業が発展して都市化が進み、農・工・商業のバランスのとれたまちと言われています。本市の各種障害者手帳所持者数は8,161人、障害福祉サービス等の利用者は1,786人で毎年右肩上がりに推移しています。

安城市自立支援協議会(以下、協議会)の特色は、課題・対象ごとの下部組織(グループ)に加えて、公募で選ばれた障害当事者の方が委員を務める「とうじしゃグループ」があることです。「何はともあれ本人中心」をスローガンに、地域のさまざまな課題について協議を行っています。基幹相談支援センター事業(以下、基幹センター)を受託している安城市社会福祉協議会(以下、社協)が事務局業務を担い、各種調整を行っています。

2. 地域生活支援拠点等の整備経過

平成27年度末から地域生活支援拠点等の設立に向けて、協議会内にプロジェクトチームをつくり検討を開始しました。それまでにも地域課題として挙がっていた「夜間・休日の相談体制」「緊急時の受け入れ先」に関係が深い基幹センター・指定一般相談支援事業所・短期入所事業所を中心に話し合いを重ね、安城市の現状や課題について整理しました。その結果、それぞれの事業所の強みを地域生活支援拠点等の5つの機能に活かすことができる面的整備型の整備を目指し、平成29年4月より地域生活支援拠点等がスタートしました。

3. 必要な機能の具体的内容、取り組み状況について

1.相談

安城市の相談支援体制を充実させるために基幹センターである社協とは別の事業所に「拠点コーディネーター」を配置し、24時間365日の相談・緊急電話に対応する体制をつくっています。拠点コーディネーターを含む7名の相談員が1週間ごとのローテーションで携帯電話を持ち相談に応じます。緊急性のある場合は拠点コーディネーターに対応を引き継ぎます。

安城市障害福祉課、基幹センター、拠点コーディネーターの間でネットワークをつくり、緊急事態が生じた時には瞬時に情報を共有します。緊急時に対応する拠点コーディネーターが孤立しないためです。拠点コーディネーターは当初は1事業所2名体制でしたが、令和2年度から2事業所4名体制に拡充しています。

2.緊急時の受け入れ・対応

拠点コーディネーターと市内5か所の短期入所事業所とで緊急時対応のルール作りをしています。緊急時に利用者を受け入れる短期入所事業所は、情報がない中で対応しなければならないこともあります。緊急事態が心配される方には「緊急時対応シート」の登録を担当相談員から勧めてもらいます。拠点コーディネーターが登録情報を予め共有しておくことで、緊急対応の前と後で必要な支援を調整しやすくなる仕組みです。

3.体験の機会・場

市内の社会福祉法人の職員寮の一室を「体験部屋」として利用できる仕組みをつくりました。体験部屋には家具・家電があり、本格的な一人暮らし体験ができます。GHから一人暮らしを目指す方、学校卒業後に遠方の就職先を探したい方、精神科病院から退院して一人暮らしを目指す方、親亡き後に一人で暮らすイメージをつくりたい方等が体験部屋を利用されています。

4.専門性

福祉人材育成のための研修は、元々、基幹センターが企画運営をしていました。協議会の各グループ内での議論が活発になるにつれ、それぞれのグループから研修等の企画運営を行いたいという希望が出始めました。そこで、基幹センターと拠点コーディネーター等を中心に研修開催のルール作りを進め、企画が協議会内で承認されれば誰でも研修に関われるようにしました。企画段階から多くの方が関わることで、「我がこと」として取り組もうとする仲間を広げることができました。現在、市独自の福祉人材育成ビジョンの作成を進めており、より多くの方に理解していただけるよう準備しています。

5.地域の体制づくり

協議会のコアメンバーで構成される運営会議に拠点コーディネーターも参加し、協議会全体の方向性についての検討をしています。また、重層的支援体制整備を意識した他分野多職種の組織や個人と協働していく取り組みを行っています。

4. 課題と展望

地域生活支援拠点等の準備段階から中心的に関わり続け、コロナ禍による独特な大変さも経験しながら「安城市で安心して暮らし続けられる仕組みづくり」を目指してきました。しかし、5つの機能それぞれにまだ多くの課題が残ります。現在重点的に取り組んでいることは大きく3点です。

1点目は、緊急時を想定した準備です。「緊急時対応シート」の登録を呼びかけていますが、現時点での登録は15名ほどで低調と言わざるを得ません。これまでに緊急対応が必要になった方は、そのほとんどが登録をしておらず、「緊急時対応シート」の仕組みを生かし切れていません。多くの方にとって緊急事態を想定することはピンとこないのか、相談員が登録を勧めても、「まだウチは大丈夫です」とお断りされます。一方で、受け入れ対応を行う事業所としては、当人の情報が何も無い中で受け入れるとなると、何か不都合があった時の責任問題が気になるというのも理解できます。受け入れ側の専門性を高めていくとともに、緊急の対応が必要になりそうな方々には丁寧に登録を勧めていきたいと思います。

2点目は、「体験部屋」の利用向上です。「体験部屋」の利用は、令和3年度は年間155日と比較的多かったのですが、令和4年度は32日(令和4年12月末日)にとどまっており、例年の利用日数も同じくらいです。「体験部屋」利用中はヘルパーの利用ができないこと、固定電話の設置が無く携帯電話を持っていない方だと連絡を取るのが難しいこと、バリアフリーではないため車いす利用の方が使えないこと等の課題があります。課題をひとつずつクリアして、多くの希望者が利用しやすい場所にしていきたいと考えています。

3点目は、地域共生社会への働きかけについてです。障害福祉のネットワーク、高齢・児童等の分野を超えた福祉のネットワークは徐々にでき始めていますが、福祉と縁遠いと思われている地域住民の方とつながる機会がつくれていません。障害福祉という枠組みの中で考えると、いろいろな課題に目がいってしまいます。一方で私たちが普段関わっている障害当事者の方々はさまざまな力(特技・強み)を持っておられることも知っています。また、私たち福祉職も、地域の方々の困りごとに対してお力になれることがあるかもしれません。私たちのできることを地域の方に発信し、同時に安城市の各地域の課題を聴かせていただきながら、地域をともにつくっていく取り組みをしていきたいです。

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