リハ協カフェ2周年記念シンポジウム第1弾 登壇報告

特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan]
プログラム・コーディネーター 峯島 昂佑(みねしま こうすけ)

8月26日の「リハ協カフェシンポジウム」第1弾に参加し、障がい分野に関わった経緯や勤務地での課題をお話ししましたので、報告いたします。

私は人道支援団体AAR Japanに所属しており、ラオスのビエンチャン事務所にプログラム・コーディネーターとして勤務しています。前職は国立病院機構や療育センターで理学療法士として働いていましたが、発展途上国での障がい者支援に興味を持ち、思い切って国際協力の世界に飛び込みました。AAR Japanでは主に難民支援、地雷不発弾対策、障がい者支援、災害支援、感染症対策および水と衛生、そして国際理解教育と提言の分野に注力して支援活動を行っています。その中でも、私は自分の経験やスキルを活かして、障がい者・児への支援を中心に活動しています。

シンポジウムでは、パネルディスカッション第一幕の前半として、私がAAR Japanに入職するまでの簡単な経緯をお話ししました。

私は私立大学を卒業した後、専門学校に再入学して理学療法士の資格を取得しています。大学在学中は教育心理学を学び、学校の先生になりたかったのですが、サッカーでの怪我をきっかけにリハビリテーションに出会いました。リハビリテーションを知っていくうちに、大学で学んだ教育学も活かした障がいのある子どもたちへの支援がしたいと思い、大学卒業後にすぐ理学療法の道へと進みました。

2014年に理学療法士免許を取得した後、千葉県内にある国立病院に着任しました。こちらの病院は、重症心身障がい者・児と神経難病、特に筋ジストロフィーという疾患など、医療的ケアの必要性が高い方々への専門医療病院です。専門性の高い技術や知識を学ぶだけではなく、3学会合同呼吸療法認定士の資格や学会発表など多くの経験を得たことで、理学療法士としての基礎や強みを確立することができました。

その後、2019年3次隊の青年海外協力隊として、中南米にあるベリーズという国で、小児リハビリテーションセンターの理学療法士として派遣される予定でした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、渡航が出発直前で無期限延期になってしまいました。特別待機隊員として出発を待ちつつ、療育センター医療型療育施設に勤務していましたが、渡航の目途が一向に立たないことや、今後の人生をもう一度見つめ直した結果、障がい者支援に力を入れているAAR Japanへの就職を決めました。私自身の経験や背景をお話しすることで、国際協力や海外での支援活動に興味を持った参加者の方々に、何か少しでも参考になればと思っています。

パネルディスカッション第一幕の後半では、私がラオスの事業でどのような役割を担っているのか、実際に活動している写真を用いてお話ししました。

当会はラオスにて、「障がいインクルーシブな地域社会推進事業」を実施しています。ラオス北部の都市ウドムサイ県を訪問し、収入手段を持っていない障がい者が生計を立てることができるようキノコ栽培の技術支援を行うとともに、障がい啓発活動や公共施設のバリアフリー化整備などを行っています。バリアフリー化整備に関しては、建設を進めるだけではなく、どうしてバリアフリー化が重要なのか、どういった障がいが身の回りにあるのかなど、受益者の方々と一緒に考えられるようなワークショップも開催しています。また、理学療法士の資格を活かし、学校に行けない子どもたちや家から出ることが難しい障がい者の方などを対象に、身体の状態を調べ、補助具を提供する専門機関などにつなげる活動もしています。私自身は、支援活動を現地スタッフと共に行っていく一方、ビエンチャン事務所の運営にも従事しています。

ラオスでは多くの障がい者の方々が、それぞれのコミュニティにて笑顔で過ごしている光景が多く見られます。より障がいへの理解が深まり、国全体で障がい者を支えていくシステムが整うことで、全ての人々にとって心地よい国になると思っています。私自身も活動を通して多くの受益者の方々とお話しし笑い合えることで、ラオスの障がい者の方々に少しでも貢献していきたいと日々実感しています。

パネルディスカッション第二幕では、ラオスの紹介や国の抱えている障がいに関する課題などを、私の経験を元にお話ししました。

初めに、日本とラオスの障がい者数を比較しました。日本では内閣府の資料(参考:内閣府令和元年版障害者白書)より、令和元年時の障がい者数は国民のおよそ7.6%と発表しています。一方ラオスでは、2015年に行われた国政調査により、障がい者の数は国民のおよそ2.7%と公表されています。なぜ日本とラオスでは障がい者数比率に開きがあるのでしょうか。私はここに、ラオスの課題が多く関わっていると考え、私なりにラオスにおける障がい者を取り巻く課題を3つ挙げました。

まず一つ目の課題として、障がいの認知度を挙げました。私たちが進めている事業の目的でもある障がいに関する啓発活動にも関与しますが、特に地方部では障がいへの知識や認識に偏りがみられます。例えば、今でも怪我をした時には村の祈祷やおまじない、地域の伝統に沿った民間療法が見られます。他にも脳性麻痺の子の足に薬草を塗り込み、「これがあったからここまでよくなったのよ」というお話しも実際に聞きました。正しい障がいの理解を地域の方々に啓発・提言していくことは、包括的な地域社会を作り上げていくためにとても重要なファクターだと考えています。

二つ目の課題として、医療の質についてお話ししました。ラオスの地方部では、障がい者が病院へ受診したとしても明確な診断名や具体的な対処法が提示されることは稀であり、痛み止めなどによる対処療法が多い印象です。医療への依存度が低いこともあり、民間療法や祈祷が精通している可能性もあるかもしれません。特に、発達障がいなどの外見上診断が難しい障がいに対してはより診断することが難しく、症状の重い方は一律に「知的障害」として分類されています。また、環境面においても地方部では課題があります。治療器具は限られており、X線撮影など大きな医療器具は各県の中心街に行かないと受けられないため、正しい処置を受けなかったことによる骨折後の癒合不全の方も現地で確認しています。受診料も多額のため、一連の受診や薬の処方など含めると2-3週間の生活費にもなりますので、生活面において大きな負担となります。加えて、福祉用具に関しても、地方部では適切な補助具を使用している例はほとんどみかけません。木の棒や独自の移動方法にて代用している方が多く、障がい児に関しては移動補助具がないことで学校や外に行けないなど、日常生活動作が制限されています。国として医療の質向上を目指すだけではなく、今目の前で困難に直面している方々に手を差し伸べることが重要なことだと感じています。

最後の課題として、ラオスの国家体制についてお話ししました。ラオスは社会主義共和制国家であり、階層社会としての構造が明確なため、立場の弱い障がい者や低所得層の人々との社会的格差が明確です。また、ラオスには政府管轄の障がい者団体がいくつか設立されていますが、業務提携が少ない印象があります。それぞれの団体が密に連携を深め、総合的に障がい者支援を進めていけるようになれば、支援の質も向上していくと感じています。同様に、ラオスでは国勢調査を10年ごとに実施していますが、調査頻度や正確性などに課題があると考えています。多方面において、包括的に障がい者を支援できるような体制作りが現状の課題ではないでしょうか。

シンポジウムでは、質問コーナーも設けていただき、多くの意見交換を参加者の皆様と行うことができました。私にとっても学ぶことが多く、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。またどこかで皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

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