(公財)障害者リハビリテーション協会 寺島 彰
2022年10月19~21日、インドネシアのジャカルタで国連アジア太平洋経済社会委員会(Economic and Social Commission for Asia and the Pacific: ESCAP)が「アジア太平洋障害者の10年(2013~2022年)最終レビューに関するハイレベル政府間会合(High-level Intergovernmental Meeting on the Final Review of the Asian and Pacific Decade of Persons with Disabilities, 2013-2022)」を開催しました。
最終日には、ジャカルタ宣言(Jakarta Declaration on the Asian and Pacific Decade of Persons with Disabilities, 2023–2032)の採択が行われました。パラグラフ毎に賛否が求められ、特に反対もなく採択されました。
ここでは、ハイレベル政府間会合の内容を紹介します。また、ジャカルタ宣言のドラフトを仮訳しました。
ジャカルタ宣言のドラフトは、同会合の「議案第4号 会議と成果文書に関する報告書の採択」において承認されましたが、細かな語句の修正は事務局に一任されましたので、最終的な宣言は、本仮訳とは少し異なる可能性があります。
国連アジア太平洋経済社会委員会(Economic and Social Commission for Asia and the Pacific:ESCAP)「アジア太平洋障害者の10年(2013~2022 年)最終レビューに関するハイレベル政府間会合(High-level Intergovernmental Meeting on the Final Review of the Asian and Pacific Decade of Persons with Disabilities, 2013-2022)」 開催日:2022年10月19~21日 2022年10月19日 議題2 アジア太平洋障害者の10年(2013年-2022年)およびアジア太平洋地域の障害者の「権利を実現する」ための仁川戦略の実施における進捗状況と課題のレビュー 2022年10月20日 10月21日 |
アジア太平洋障害者の10年(2023–2032)に関するジャカルタ宣言ドラフト(仮訳) 1. 我々、ジャカルタとオンラインで2022年10月19~21日に開催されたアジア太平洋障害者の10年(2013~2022年)最終レビューに関するハイレベル政府間会合に集まった、アジア太平洋経済社会委員会の加盟国および準加盟国の閣僚および代表者は、この宣言を採択した。 2. 我々は、障害者の権利に関する条約は、人の権利であり、開発手段でもあることを認める。 3. 持続可能な開発のための2030アジェンダ(持続可能な開発目標を含む)を採択し、障害者インクルーシブであり、誰も取り残されないことを加盟国が約束し、また、2030アジェンダの実施において、加盟国はいかなる種類の差別もせず、とりわけ、人権およびすべての人の基本的な自由を尊重、保護、促進するべきことを認めた2015年9月25日の総会決議70/1を我々は想起する。 4. 障害の有病率が年齢とともに増加し多くの高齢者が障害を持って生活していることを認識した第2回高齢化に関する世界会議のフォローアップにおける2021年12月16日の総会決議76/138に留意し、高齢化に関するすべての政策行動へジェンダーと障害の視点を強化しかつ組み込み、年齢、性別、障害に基づく差別をなくすとともに、さらに、政策設計と実施のための年齢別、性別、障害別に集計されたデータを収集するために、貧困を緩和するための高齢者の能力を構築し、高齢者、とりわけ、高齢女性と障害のある高齢者の独特のニーズに基づく福祉サービスを提供することを我々は加盟国に呼びかける。 5. 我々は、災害による障害者に対する不均衡な影響を認識し、とりわけ、災害リスク軽減のための障害者のエンパワーメント、及び、インクルーシブでアクセシブルな差別のない障害者の参加の重要性を強調した仙台防災枠組2015–2030年を想起する。 6. 我々は、アジア太平洋障害者の10年(2013年-2022年)に関する閣僚宣言と、アジアおよび太平洋地域の障害者の「権利の実現」のためのインチョン戦略を承認した2013年5月1日の委員会決議69/13と、北京宣言(インチョン戦略の実施を加速するための行動計画を含む)を承認した2018年5月16日の委員会決議74/7を想起する。 7. 我々は、より良い前進を構築し、2030アジェンダに沿って平等かつ持続可能でインクルーシブな回復戦略を実施することの重要性を強調するために2021年4月29日の委員会決議77/1及び2022年5月27日の78/1を再確認する。 8. 我々は、障害者の権利を促進し、保護し、履行する国及び準地域のイニシアチブを支援するために、政府間の調整と協力を強化する目的で採択された準地域的枠組み、すなわち、「障害者の権利のための太平洋枠組み」及び「東南アジア諸国連合(ASEAN)イネーブリングマスタープラン2025:障害者の権利の主流化」を認め、地域、準地域、および国家レベルで協力することの価値を認識する。 9. 我々は、インチョン戦略及び北京宣言(インチョン戦略の実施を加速するための行動計画を含む)の実施における委員会の加盟国及び準加盟国による進展と市民社会、特に障害者および障害者のための組織の貢献(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を認め、障害者インクルーシブビジネスとバリューチェーンの推進に携わる民間部門によるコミットメントと努力を歓迎する。 10. アジア太平洋地域では人口の高齢化が急速に進んでおり、60歳以上の人口の割合は2022年の14.3%から2050年までに25.9%に増加すると予測されており、障害をもって生きる高齢者の数が増える可能性がある。 11. 多くの場合、進歩が見られたにもかかわらず、障害のある人、特に女性、子供、若者、先住民族、高齢者、知的および心理社会的障害者、およびその他の脆弱な状況にある人々が、物理的、情報的、態度による障壁など、生活のあらゆる側面で引き続き差別に直面しており、障害のある人は、COVID-19のパンデミック、気候変動、その他の危機によって悪化した不平等の拡大によって、不釣り合いに大きな影響を受けていることに我々は懸念をもって留意する。 12. 我々は、また、国、地域、世界レベルでの障害者の状況に関する信頼できる統計、データ、情報の継続的な欠如が、公式の統計、政策、及びプログラムにおける障害者の排除に寄与していることに懸念を持って留意する。この点に関して、我々は、2030アジェンダを歓迎する。それは、持続可能な開発目標の達成に向けた進捗状況を測定するために、高品質で、アクセス可能で、タイムリーで、かつ、信頼できるデータの利用の可能性を大幅に高める必要性を認識し、障害別のデータの細分化を呼びかけている。 13. アクセシビリティを改善し、社会のあらゆる側面への障害者の参加を促進するという文脈において、人々の回復力の構築と誰も取り残されないことに重点を置き、COVID-19のパンデミックからの持続可能な回復を支援するために政府がとった行動とコミットしたリソースを我々は認め、また、技術革新とデジタルトランスフォーメーションの大きな可能性も認識する。 14. 人口グループ間、国内、および、国家間の不平等を悪化させているCOVID-19パンデミック、自然災害、気候変動、およびその他のリスクによってもたらされる課題が増大する中で、委員会の加盟国と準加盟国、そしてすべての利害関係者が、アジア太平洋地域における障害者インクルーシブ開発における利益と成果を保護し、強化するための緊急の行動を取る必要があることを我々は強調する。また、障害者インクルーシブ開発のための政策とプログラムを強化するために、適切な予算配分、革新、および協力を求める。 15. 我々は、障害者の権利を前進させ、2030アジェンダと障害者権利条約の完全な実施を加速する上で、インチョン戦略と北京宣言(インチョン戦略の実施を加速するための行動計画を含む)の継続的な関連性と重要性を再確認する。また、インチョン戦略のすべての目標の実施を継続することを再確認する。 16. 我々は、インチョン戦略と、北京宣言(インチョン戦略の実施を加速するための行動計画を含む)の効果的な実施に引き続き焦点を当てるために、アジア太平洋障害者の10年(2023年-2032年)を宣言し、実施のための戦略的投資を行う必要を強調し、障害者の権利を促進し保護するために、すべての関連する利害関係者、特に障害者の組織と障害者のための組織、および民間部門の事業体と協力して、社会全体のアプローチを通じて、障害者インクルーシブ開発に向けた以下の措置を講じることをコミットする。 (a) 条約が批准または同意されたときは、必要に応じて国および地方の法律の包括的かつ定期的な見直しを実施することにより、また、すべての関係省庁による条約の実施に関するガイダンスを提供することにより、さらに、法執行に関与するすべての職員を訓練することにより、また、国の政策、事業、予算における合理的配慮の提供を統合することにより、障害者権利条約と国内法を調和させ、必要に応じて、条約の実施を促進、保護、および監視するための枠組みを開発および強化する。; (b) 合理的配慮をしながら、 (c) 多様な障害のある人、障害のある女性、児童、高齢障害者の明確なニーズに特別な注意を払うという文脈において、都市部および農村部の両方における、物理的環境、公共交通機関、情報通信技術とシステムを含む情報通信(情報通信技術とシステム、災害リスクと公衆衛生上の緊急事態に関連する重要な情報とサービス、およびその他の公共サービスを含む)へのアクセシビリティを改善し、最新の国際的なアクセシビリティ基準とガイドラインに沿って国内基準とガイドラインを開発することにより、ユニバーサルデザインの商品、サービス、機器、および施設を促進するする。都市部と農村部の両方で、システム、災害リスク、公衆衛生上の緊急事態、およびその他の公共サービスに関連する重要な情報とサービスを提供し、最新の国際アクセシビリティに沿った国家基準とガイドラインを開発することにより、普遍的に設計された商品、サービス、機器、および設備の普及を促進する。 (d) 障害者インクルーシブ開発を促進するために、情報通信技術およびサービスへのユニバーサルデザインおよびアクセシビリティ対策の適用を促進する障害者インクルーシブな公共調達政策を採用することにより、また、民間企業が従業員、組織、製品、サービス、市場活動、サプライチェーンにおける障害者インクルージョンの主流化に向けて行動できるような政策的インセンティブを展開することにより、そして、ダイバーシティとインクルージョンを促進し、障害のある人に対する差別、スティグマ、固定観念、誤解につながる可能性のあるコンテンツを削除するために特にメディア(ソーシャルメディア、およびエンターテイメントセクターを含む)における業界のガイドラインとプロトコルの開発を促進することにより、民間部門の力(リソース、技術革新、および才能を含む)を活性化する。 (e) 以下に特に注意を払いながら、障害関連政策とプログラムを開発・実施するために、ジェンダーに対応したライフサイクルアプローチを促進する。:(i) 障害のある幼児、青年、女性、および高齢者をカバーするために、一般および障害固有の社会的保護制度の両方を拡大する。; (ii) 人的資本の構築を目的とした戦略、政策、プログラム、および投資における不可欠な部分として、障害のある子どもたちに対する幼児期の発見および介入サービスを提供する。;(iii) 障害のあるすべての学習者に継続的かつ包括的な教育を保証する。; (iv)障害のある女性と少女(高齢の障害のある女性を含む)が、情報とサービス(性と生殖に関する健康サービスを含む)への参加とアクセスをに関してしばしば直面する差別と障壁に対応する; (f) 権威のある国内機関およびその他の認められた情報源から提供された情報に基づいて、あるいは、必要に応じて、障害インクルーシブな政策決定、プログラムの計画、および実施戦略を知らせるためにセクター全体で性別、年齢、障害別に分類された比較可能な質の高いデータを作成することにより、あるいは、必要に応じて、2030アジェンダおよびその他のグローバルおよび地域開発フレームワークの枠組みで実施される自発的な国家レビューに、障害インクルーシブ開発を達成するためになされた進歩に関する報告を組み込むことによって、障害に関するデータのギャップを埋め、国および地方レベルでの障害インクルーシブ開発の進捗状況を追跡する能力を強化するための行動を起こす。 17. したがって、我々は、事務局長に対し、関連するすべての利害関係者と協力し、適切な場合には、アジア太平洋地域共同プラットフォームおよび地域の国連国別チームを活用して、加盟国と障害者と緊密に協力しながら以下の措置を講じるよう要請する。: (a)インチョン戦略の実施を加速するための行動計画を含む、インチョン戦略と北京宣言の実施の継続、および、2023年から2032年までのアジア太平洋障害者の10年における2030アジェンダの完全かつ効果的な実施のための障害者インクルージョンの強化に優先順位を与えること; (b)委員会のメンバーおよび準メンバーの要請に応じて、地域および国家レベルでの本宣言の実施のために技術的支援を提供すること。 (c)委員会のメンバーおよび準メンバーの要請に応じて、持続可能な開発目標の枠組みにおいて実施される自発的な国内レビューに障害者の視点を統合することを支援すること。これには、国内審査プロセス全体において、障害者とその代表組織を関与させるためのメカニズムを構築することも含まれる。 (d)現在の宣言の効果的な実施を支援し、インチョン戦略で設定された目標の達成を進展させ、また、アジア太平洋地域における2030アジェンダに向けた進展を加速するために、必要に応じて、アジア太平洋障害者の10年に関する作業部会のガイダンスを引き続き利用すること。 (e)2023年から2032年までのアジア太平洋障害者の10年間における現在の宣言の実施について、委員会のメンバーおよび準メンバーによって達成された進捗状況を評価するために、2027年に中間レビューを、2032年に最終的な政府間レビューを行うこと。 (f)現在の宣言を委員会の第79回会期に提出し、その検討と承認を求めること。 |