地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-吉川市における地域生活支援拠点等の整備について

「新ノーマライゼーション」2023年6月号

社会福祉法人彩凜会 理事長
星座正俊(せいざまさとし)

1. 社会福祉法人彩凜会について

平成16年に吉川市精神障害者小規模作業所ひだまりを開所し、平成18年にNPO法人なまずの里福祉会を設立。平成19年に委託相談支援事業として「吉川市障がい者相談支援センターすずらん(以下、すずらん)」を開設しました。

平成30年に社会福祉法人彩凜会となり、複合型施設として「障がい福祉総合支援センターなまずの里」を開設し、当施設内で多機能型(生活介護・就労継続支援B型・自立訓練・就労移行・就労定着)と相談支援、地域活動支援センター、障がい者就労支援センター、日中一時支援事業を運営しています。

また、市内に3か所のグループホームがあり、ほとんどがワンルームアパートの形で29名の方の暮らしを支えています。

2. 吉川市の概要

吉川市は、埼玉県南東部に位置し、東は江戸川、西は中川に挟まれた「川のまち」です。川に育まれてきた長い歴史と伝統を有し、「なまず料理」が有名です。

都内へのアクセスがよいベッドタウンとして発展し、近年ではすぐ隣に越谷レイクタウンという全国有数のショッピングモールができ、吉川美南駅の開業もあり、人口は72,872人(令和5年4月1日現在)で、現在も人口が増え続けています。

一方、市街地から一歩離れれば、のどかな田園風景が広がっており、それらの地域では高齢化や移動手段の問題などが深刻となってきています。

地域や世代別の課題もありますが、7万人という人口規模と市内の総面積を考えると、「オール吉川」で物事を捉えて動ききれる規模であり、行政や関係機関との連携もスムーズに行えています。

3. 吉川市の地域生活支援拠点ができるまで

平成19年に開設したすずらんは委託相談支援のみの単独事業所で、障害種別なく相談を受けていましたが、障害福祉サービスにつながらない相談者も多く、緩やかに行ける場所の必要性を感じていました。

その中で相談待ちをしている待合室での会話が増えてきており、場所をつくればピアサポートによる支援が可能と考え、すずらんの横にある建物を借り、平成24年9月に「フリースペースそよかぜ(以下、そよかぜ)」として開所しました。

そよかぜはピアスタッフを中心とした運営を行い利用者も増加し、その中から障害福祉サービスにつながったり、一般就労したりという方も出てくる一方で、家庭での問題などで緊急避難として宿泊利用する方も出てきました。

相談支援を行う上で、本人が直面している問題に対して物理的・心理的にいったん距離を取る場所があることは、その後の解決の選択肢を増やすことにもつながり、制度に縛られない自由に活用できる場所の有用性を感じました。

虐待やDVと思われるケースの分離や、記憶喪失の青年、遠方から来てしまったが帰れない知的障がいのある方などの受け入れと関係機関との調整による帰宅支援などのケースもありました。

その後も、法人名義でワンルームアパートを借り上げ、緊急避難部屋と位置付けて相談支援管轄での宿泊利用体制づくりを進めています。

4. 吉川市の地域生活支援拠点の整備について

1.相談支援

すずらんは吉川市・松伏町それぞれから障害者相談支援と基幹相談支援の委託を受けており、計画相談支援・障害児相談支援、地域移行・地域定着支援の指定を受けています。

相談支援専門員5名・相談員2名の常勤職員で事業を行っており、有資格者も社会福祉士・精神保健福祉士・公認心理師・介護福祉士と幅広い相談にも対応できるよう体制づくりをしています。

また、相談支援に就労支援センターも併設しており、「就職したい」と相談に来る方の困りごとについても連携して対応しています。

2.体験の機会・場の提供

相談に来られる方は障がいのある方やそのご家族・関係者だけではなく、ひきこもりなどの状態像で来られる方もいます。

障がい福祉の枠を超えて、本人が「動ける」ために必要な体験の機会や場をつくっています。具体的には、グループホームなどでの宿泊体験、一般企業での就労体験など市内事業所や行政機関と連携しながら取り組んでいます。

3.緊急時の受け入れ等の対応

法人名義でアパートを2部屋、フリースペースとして1部屋を借りており、緊急避難部屋として活用しています。法人独自事業であり、広い意味で地域の困りごとをいったん棚上げするための事業として位置付けています。

緊急時に対応すると選択が限られてしまい、場合によってはかなり遠方での対応となってしまうこともありますが、日を置くことで違う方法にたどりついたり、本人が冷静になることで落ち着いたり、よりよい場所を見つけることができます。

緊急避難部屋は1泊からの利用となり、利用相談経路は障がい福祉分野だけでなく、生活困窮や子育て支援、警察など幅広いです。

最大3部屋の活用ができますが、3人同時に使うタイミングもあれば、1人もいない時もあります。利用期間は最短で1泊、最長で3か月であり、それぞれの事情で変わってきます。

4.専門的人材の確保・養成

吉川市障がい者自立支援協議会の各部会において、研修を実施して市内各事業所職員の力量アップを図るとともに、基幹相談支援として、事業所開設時などにサポートを行っています。事業所とともに職員の質が問われる時代となっており、サービスを利用する方が不利益にならないよう市内事業所のレベルアップを市とともに取り組んでいきます。

5.地域の体制づくり

現在、吉川市では重層的支援体制準備事業を行っており、包括的な支援体制の在り方に関する庁内検討会議を令和2年度から継続開催しています。当法人も初回から参加しており、市内各課と社会福祉協議会、地域包括支援センターとともに連携強化型での整備を進めているところです。

社会福祉法人同士の相互連携についても、令和4年度から協議を始めており、障がい・高齢・児童の分野を超えてのつながりをつくり上げています。

もともと大きな施設がある街ではなく、小さいところが行政を含めて一緒に動くことでつくりあげてきたのが吉川市の障がい福祉であり、その良さは制度の変化や事業所が増えても変わらず残っていきます。

「どこからでも・どこまでも」をモットーに必要なことをやり続けます。

5. 今後の課題について

吉川市のみならず、全国各地で共通する課題とは思いますが、市内に強度行動障害を有する方や医療的ケアが必要な方に対応できる施設がなく、遠方まで広げて受け入れ先を探すことになってしまっています。

また、居宅支援を行う事業所が不足しており、在宅のサービスを必要としている方々が十分に支援を受けられない現状もこのところ続いています。

市内のグループホームは定員いっぱいで、一人暮らし用のアパートは障がいを理由に借りられないなど、暮らしの支援もスムーズには進んでいません。

地域生活支援拠点として「住まいの場と必要な福祉サービスの確保」が重要な課題です。相談支援という入り口の充実も必要ですが、それに続く中身である場所やサービス、出口につながっていく居住支援や就労支援・定着支援までの道筋を地域の皆様と一緒に考え、将来につながる地域づくりを行っていきたいと考えています。

その実現には福祉という枠組みを超えた地域とのつながりをつくっていくこと必要不可欠であり、積極的に連携を図っていきます。

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