実現・当事者目線の支援機器-Ubitone~盲ろう者用携行型生活支援・コミュニケーションデバイス

「新ノーマライゼーション」2023年6月号

株式会社Ubitone 代表取締役
山蔦栄太郎(やまつたえいたろう)

Ubitoneとは

視覚と聴覚に障がいをもつ盲ろう者のための新しい携行型生活支援・コミュニケーションデバイス“Ubitone (ユビトン)”と周辺ハードウェア装置を開発しています。図1で手袋状のUbitoneグラブは、スマートフォンのUbitoneアプリとbluetoothで繋がる手指携行型デバイスです。スマートフォンをポケットに入れておけば、両手は自由に使えます。この情報伝達には6点式の点字を指に伝達する指点字()話法を応用しており、現在、アプリから指への伝達には偏心アクチュエータからの振動を使い、指の動作の取得には加速度センサからの入力を利用しています。このデジタル化によって、通訳・介助者のサポートなしに、目の前の人との対話、友人とのチャット、ニュースやインターネット、天気、文字読み取りなど、音声やメッセージを指点字に変換することで、双方向の情報伝達を行います。盲ろう者がもつコミュニケーションや情報アクセスの障壁を取り除くことで、皆が当たり前に触れる日常と同じ風景の中で日々を過ごすことができる世界の実現を目指します。これはSDGsで目指されている「誰ひとり取り残さない社会の実現」にも繋がると考えています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

ユーザーフィードバックを受けてより良い製品へ

2020年に創業した株式会社Ubitoneは「デザインとテクノロジーの力でより良い世界を創造する」ことを信条としています。創業者が、あるNPO法人を訪問した時に知った盲ろうという障害について調べる中で、エンジニアとして困っている人に貢献したいという思いが芽生えました。ここから、Ubitoneの開発が始まり、盲ろう者の方々から多くの困りごとや要望をヒアリングし、それらをもとに試作品を製作してきました。開発当初は指点字というコミュニケーション方法についても知らないままで、たくさんの回り道もしました。しかし、お話を聞けば聞くほど、社会がもっとこうだったらいいのにという思う点がたくさん見えてきます。点字ブロックが無い場所や危ない場所。コロナウイルスによって浮き彫りになった情報格差。Ubitoneを開発していなければ気にも留めなかったかもしれません。ユーザーフィードバックを受けてアップデートを重ねることで、デバイスの性能を向上させてきました。試作品を作るたびに検証を行い、改善点を見つけてはアップデートを行うプロセスは、手間と時間がかかりますが、それによってより良い製品が生まれると考えています。アップデートの結果、ユーザーの方に喜んでいただけるのはいつも嬉しい瞬間です。

開発において苦労した点としては、まず指点字話法を効率的に伝達できるデバイスの設計が挙げられます。指点字は独特のタッチ感が必要であり、それを再現することが難しいという課題がありました。開発者がこれで大丈夫だと思っても、盲ろう者の方にとっては細かな振動がノイズのように感じられたり、正しく伝わらないものを読み取るには大きなストレスがかかったりします。現在もまだ、装着者の指点字を正確に伝達するための機構の設計など、いくつかの課題が残っており、検証を重ねることで、技術的な課題の克服を目指しています。Ubitoneグラブの形状も、利用者にとって快適な装着感を提供できるように何度も試行錯誤を重ねています。デバイスが携帯型であるため、電子回路基板にもサイズや重さの制約があります。デバイスは防水性や耐久性を与え、さまざまな環境で使用できるように設計しています。これに対応するために、軽量で丈夫な素材の探求や、コンパクトな設計に努めました。アプリの画面設計も目を閉じた状態でも直感的に操作できるデザインを目指して設計を行いました。このように実際に使ってもらいながらでないと、気付けない課題がたくさんありました(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

Ubitoneアプリ-機能の充実で広がる世界

Ubitoneアプリは、引き続き盲ろう者の方々からのヒアリングをもとに、さまざまな機能を実装していく予定です。開発のスタートは、家族とコミュニケーションを取りたいという盲ろうの方の声に応えた対話モードの実装からでした。音声認識AIを使って、目の前の指点字を知らない人とコミュニケーションを取れるという体験は、盲ろうの方に大いに喜んでいただきました。すると、離れた人や複数の人とのコミュニケーションが取りたいという要望が生まれ、チャット機能が生まれました。他人とのコミュニケーションが取れるようになることが最初のコンセプトでしたが、一人の時間でも楽しめるニュース機能なども大変楽しんでいただいています。Androidだけの開発が、iPhoneにも対応できるようになりましたし、自由に読書できる図書機能の開発も視野に入れています。

すでにたくさんの機能が実現されていますが、今後もアプリはスマートフォンから取得できる情報のハブとなり、たくさんの要望を元に体温計や歩行サポート機器、小型点字ディスプレイといったデバイスと連携することで、利用者のQOL(生活の質)を向上させていきます(図3)。さらに、社会のスマート化が進むことで、Ubitoneを通じて公共交通機関や店舗情報が得られるようになることも期待されています。これにより、盲ろう者の方々が外出して自由に動ける日が実現することを目指しています。また、スマートホーム化が進めば、家電製品などの制御を手助けすることで、盲ろう者の方々の生活をより便利にすることができます。

図3 Ubitoneアプリに組み込まれる機能の例
図3 Ubitoneアプリに組み込まれる機能の例拡大図・テキスト

世界展開を目指した開発

Ubitoneの開発は世界展開を目指しており、デバイスやアプリが他の言語に対応することで、世界中の盲ろう者にも支援を広げていきます。アメリカの盲ろうの方にも使っていただきましたが、コミュニケーション方法が日本とは違い、日本方式の指点字の読み取りは難しいようでした。世界標準となるべく、新たな情報伝達方法を思案しています。また、デバイスの進化に伴い、さらに多くの機能が追加されることが予想され、利用者のニーズに応じてカスタマイズ可能なデバイスとなることが期待されています。視覚障害者の方々をはじめ、盲ろう以外の障害者支援も視野に入れており、たくさんの機能が連携していく中で、より幅広い支援が可能になることを目指しています。支援技術の普及と発展が進めば、社会全体がより公平で平等なものになり、誰もが自分の能力を発揮し、幸せに暮らせる世界が実現すると信じています。これからも製品の完成度を高め、皆様の生の声を聞き、盲ろう者の皆様に実際に喜んで使っていただける日が1日も早く来るように鋭意努力して参ります。


指点字とは、点字タイプライターのキーの代わりに、通訳者が盲ろう者の指を直接たたく方法です。特別な道具は必要なく、日本で開発された独特の会話方法で、正確に迅速に伝えられます。
(全国盲ろう者協会,「盲ろう者とは」より http://www.jdba.or.jp/deafblind/top.html

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