地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-神奈川県小田原市における地域生活支援拠点の整備について

「新ノーマライゼーション」2023年7月号

小田原市福祉健康部障がい福祉課
山口晃太郎(やまぐちこうたろう)

1. 市の概要

小田原市は、森里川海がそろう自然環境と都市機能が調和した、神奈川県西部の中心都市です。市内には東海道新幹線を含む6路線が乗り入れており、東京方面への通勤者も多いなど、利便性に優れています。小田原城の城下町であり、東海道屈指の宿場町として栄えたことから、歴史や文化が調和した都市でもあります。

本市の人口は186,808人(令和5年4月1日現在)で、各種障害者手帳の所持者数は、身体障害者手帳が5,946人、療育手帳が1,967人、精神障害者保健福祉手帳が1,702人となっており、障害者手帳の所持者数及び障害福祉サービスの利用者数は年々増加傾向にあります。

本市が位置する県西圏域は、本市を含む2市8町で構成され、うち半数以上の人口を占める本市に障害福祉サービス事業所が集中している地域事情があります。委託相談支援事業所は、本市及び足柄下郡の箱根町、真鶴町及び湯河原町による広域設置であり、身体・知的・精神・障害児といった専門分野が異なる4事業所が同じ場所で一体的に相談支援を展開していることが特徴で、その体制を四つ葉のクローバーに例え、「おだわら障がい者総合相談支援センタークローバー(通称クローバー)」という名称で運営をしています。また、地域における相談支援体制の構築や強化を目的とする「小田原市基幹相談支援センター」を併設しており、個別的な相談支援と地域づくりを一体的に実施しています(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2. 地域生活支援拠点整備の経過

第4期小田原市障がい福祉計画(平成27年度~平成29年度)策定時に、地域生活支援拠点の整備について検討がされ、社会福祉法人永耕会が運営する障害者支援施設永耕園を中心とした、面的整備型として整備を目指しました。

しかしながら、知的障がい者を主たる対象者とする永耕園だけでは、さまざまな障がいニーズに対応することが困難であるため、再整備の検討を行う必要が生じました。また、県西圏域内に6か所ある障害者支援施設のうち4か所が本市にあり、社会資源の偏在等の事情から、地域生活支援拠点の広域的整備を求める意見が寄せられました。そのため、県西圏域全体で地域生活支援拠点の整備について在り方検討会が行われることになりました。

在り方検討会では、相談及び緊急時の受け入れ・対応の機能の整備を最優先事項とし、そのコーディネーターを委託相談支援事業所が担うことで整理がされました。圏域内2か所の委託相談支援事業所ごとに圏域を二分し、本市は足柄下郡3町と広域による地域生活支援拠点の面的整備を進めることになりました。

3. 小田原市における地域生活支援拠点の整備状況

本市では、令和4年度から小田原市地域生活支援拠点等事業を開始しました。本事業により、地域生活支援拠点の機能を担う事業所等を位置付けています。

また、主たる介護者の急病等により、在宅生活が困難となるリスクが高い障がい者を把握し、緊急時に備えたリスクマネジメント支援を展開する「緊急時サポート事業」を開始しました。過去の事例分析から、「保護者が高齢」「障害福祉サービスの利用なし」「重度障がい者等」を緊急対応が想定されるケースとして、アウトリーチによる相談支援を展開しています。

(1)相談

緊急時サポート事業では、クローバーが緊急時の相談支援等を行うコーディネーターを担う他、小田原市基幹相談支援センターが事業全体の運営マネジメントを行っています。また、24時間365日の相談支援体制については、行政機関が障害者虐待防止センターのスキームにより夜間・休日の対応を行うことで補完しています。また、指定特定相談支援事業所にも相談機能の一部を担ってもらうことで、地域全体での相談支援体制を構築しています。

(2)緊急時の受け入れ・対応

本市が当初より地域生活支援拠点として位置付けている永耕園を中核的事業所として、障害者支援施設等が短期入所により緊急時の受け入れを行います。緊急時サポート事業により把握した、緊急対応となるリスクが高い障がい者について、コーディネーターと施設職員で自宅訪問等を行い、情報共有をしながら緊急時の受け入れに備えています(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

(3)体験の機会・場の提供

今まで障害福祉サービスを利用していなかった障がい者が自宅以外で過ごす練習の場所として、緊急時の受け入れ・対応の機能を担う障害者支援施設等を利用します。日中一時支援等の利用により、居室や共有スペースで過ごす体験から始めています。

(4)専門的人材の確保・養成

神奈川県では独自の事業として、医療的ケアが必要な者や行動障害を有する者等を受け入れる事業所を補助する障害福祉サービス等地域拠点事業所配置事業と、障害者地域生活サポート事業があり、両事業を活用して専門的な支援を必要とする障がい者に対応しています。また、共生型サービスの短期入所を運営する介護保険サービス事業所が地域生活支援拠点の機能を担うことで、高齢化した障がい者等の複雑なニーズに対応しています。

(5)地域の体制づくり

小田原市基幹相談支援センターが地域障害者自立支援協議会の事務局を担うことで、地域における相談支援体制の構築に取り組んでいます。地域生活支援拠点の機能を担う事業所による意見交換会を実施し、緊急時サポート事業による対応事例の共有や、サービスの提供体制の在り方等について協議することにより、地域全体で障がい者の生活を支えていく仕組みづくりを進めています。

4. 課題と今後について

緊急時の受け入れについて、今まで支援につながっていなかった障がい者が緊急で短期入所を利用する場合、本人の障がい特性や心身の状態などの情報が少ない上での調整となるため、その対応の難しさを感じています。一昔前は、夜間に今日の生活に困った障がい者を行政職員が施設に送り届け、日頃のお付き合いの中で受け入れてもらった時代もありましたが、現在ではアセスメント等からのエビデンスに基づいた支援が展開されていることもあり、情報が少ない障がい者を受け入れることが難しくなった背景があります。コーディネーターは、いかにして受け入れ側に必要な情報を提供できるか、そのためには事前の情報収集やシミュレーション等が重要だと感じています。また、それが初めてサービスを利用する障がい者本人にとっても、安心感や負担の軽減につながっていきます。

地域生活支援拠点の整備にあたっては、緊急時サポート事業の試験的運用から始め、実際に緊急で短期入所の受け入れにつないだケースもありました。限られた情報の中で必死に受け入れ調整を行ったコーディネーターやそれに応えてくださった事業所の方々を見て、地域生活支援拠点の整備において重要なのは、地域全体で障がい者の地域生活を支えていこうという共通意識であり、本市にはそのような熱意に溢れた事業所が多く存在することを再認識することができました。今後も地域の皆様と意見を交わし、地域全体でできることを考え、不足する地域生活支援拠点の機能の充足に向けて努めていきたいと思います。

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