なんでも創る・みんなが楽しい-「ゆるスポーツ」ってなぁに?

「新ノーマライゼーション」2023年7月号

横浜ゆるスポーツ協会理事/公益財団法人横浜市スポーツ協会所属
青井純子(あおいじゅんこ)

みなさんは「ゆるスポーツ」というスポーツをご存知でしょうか。「ゆるい」と聞いて持つ印象、想像するその言葉のとおり、ゆる~いスポーツです。「ゆるい」と言ってもその言葉の奥は深く、日本独特の表現であり、柔らかさや自由さ、なんでも包み込むような、なんとも言えない温かみもある言葉の印象を持たれるのではないでしょうか。

ゆるスポーツ協会のご紹介

世界ゆるスポーツ協会は、「スポーツ弱者を世界からなくす」ことを目指して、2015年に立ち上がり、翌年に一般社団法人として設立しました。年齢・性別・運動神経、障がいの有無にかかわらず、「だれもが楽しめる新しいスポーツ」として、ゆるスポーツを開発し提供しています。ゆるスポーツは「勝ったら嬉しい、負けても楽しい」、そして、何よりプレイヤーも観客も「みんなが思わず笑ってしまうスポーツ」として定義しています。

横浜ゆるスポーツ協会は、2017年に世界ゆるスポーツ協会の初の支部として設立しました。地元密着型の団体として、横浜のさまざまな企業や人材、団体とコラボしながら、新しい文化やつながりを生み出すことを大切にしています。基本的には、私が所属する公益財団法人横浜市スポーツ協会を中心に、NPO法人ハマのトウダイなど地域の団体がコラボしながら活動しています。さまざまな団体がコラボすること=異分野が交わることで、そこに生まれるコミュニティを新たなスポーツ開発の力に変えています。

加えて「もっと横浜を面白いまちにしていきたい!」というコンセプトも掲げています。横浜には、オリジナルの技術や産業、歴史など、他の地域にはない特色や素材がたくさんあります。これらの素材を使いながら、横浜ならではのゆるスポーツを開発するのが、私たち横浜ゆるスポーツ協会です。

現在は、私たちが創ったオリジナルのゆるスポーツを体験するイベントに加え、スポーツ創りそのものも事業としてご提供しています。特に、小学生や学校関係者、横浜で活動するさまざまな団体の方々とアイデアを出し合いスポーツを創る事業は、現在の私たちの主軸の活動となっています。

オリジナル種目「トライトレイン」

私たちが開発した「トライトレイン」というオリジナル種目をご紹介させていただきます。日本の鉄道は、横浜~新橋間に初めて開通しました。また、日本で初めて活動したラグビークラブは、横浜フットボールクラブといわれています。私たちは、横浜発祥の2つの文化とスポーツを掛け合わせて、この種目を開発しました。

このスポーツは、ラグビーと聞いて思い描く、屈強なラガーマンだけではなく、誰もがラグビーの醍醐味であるトライをしたい!という想いをかなえるため、電車に乗って気持ちよくトライすることができるという目からうろこのスポーツです。ルールは簡単で、電車に見立てた台車にうつ伏せに乗り新橋を出発。台車を漕いで、横浜駅の手前でボールを受け取ったら、ゴールにトライをするだけ。トライができたら5点獲得など、基本的なルールはラグビーの点数を採用していますが、途中駅で停車してしまった場合でも得点が入るようにすることで、誰もが得点を獲得できるようにしています。また、トライができると、周りから「ナイストライ!」の掛け声をかけるルールにして、応援する人も参加できる種目になっています(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

開発後はたくさんの方に体験していただきましたが、とにかくやってみると楽しい、達成感があるというのが一番の特徴です。どこの会場に行っても、常に笑い声が絶えない人気の種目です。車いすに乗っている方も、思わずやってみたいと声をかけてくれたことは、非常に印象的でした。このスポーツが、みなさんの初めての経験につながったこと、そして、達成感を味わえた興奮から、何度も体験を繰り返してくれたことは、このスポーツの持つ力だと実感しています。写真で見るだけでは伝わりづらいので、ぜひ一度体験していただきたい種目の一つです。

昆布でスポーツ⁉

横浜市金沢区で昆布を養殖している団体の方と連携し、食べられなくなってしまった昆布を使って新しいスポーツを創りました。ぬるぬるしている昆布の特徴をとらえ、何ができるかひたすら試しながら6つの種目を開発しました。

特に人気が高いのが、「昆布でアート」という芸術性のあるスポーツです。たくさんの昆布が入っている昆布プールからマイ昆布を選び、与えられたお題に沿った絵を制限時間内に昆布で描きます。ここで重要なのは、あくまで芸術性。見た目の美しさや、斬新度合い、そして、昆布の使い方など、さまざまな角度から作品を評価して採点し競います。

出されるお題が突拍子もないお題であることが多いため、発想力が非常に試されるスポーツです。また、芸術性が問われ、斬新度合いも重要となるため、大人よりも柔軟な発想ができる子どもたち、また、アイデア力のある方が勝てる可能性が高いスポーツです。

このスポーツは、勝ち負けが身体能力に及ばない、平等に戦えるスポーツとしてご提供しています。また、昆布のぬるぬるの気持ちよさも存分に感じられ、競技中も思わず笑顔が出てしまうスポーツとなっています。一度しか作ることができない芸術作品は、写真に撮って記念にする方もたくさんいらっしゃいます。勝ち負けの結果に関係なく、すべての選手が記録を写真に残したくなる、素敵なスポーツであると自負しています。今後は作品を写真集にしたいくらい、素敵なアートが多々誕生しています(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

他にも、「昆布で縁結び」「しんぶんこんぶ」「昆布でコロコロどんぶらこ」など、名前からは少し想像できない面白いゆるスポーツをたくさん創っています。

横浜ゆるスポーツ協会のこれから

これらの種目は、ゆるスポーツの特徴の一つでもある「スポーツを創る」という工程で、さまざまな人に体験してもらい、試行錯誤を繰り返しながら生まれてきました。スポーツが苦手な人や障がいのある方からフィードバックをもらうことで得られる、新しい視点・気づきを、私たちは大切にしています。また、開発する際も、頭で考えるだけではなく、試してみる、やってみるということも大切にしています。スポーツを創っている間も笑顔が絶えないことは、ゆるスポーツの特徴なのかもしれません。

横浜ゆるスポーツ協会では、まだまだ種目数が少ないため、今後も地域の方と一緒にゆるスポーツをたくさん開発したいと思っています。特に私たちは、スポーツを創る時間を大切に、たくさんの方と笑いの絶えないトライ&エラーを繰り返しながら、種目を創っていきたいと考えています。

横浜市には18の区がありますので、各区オリジナルのゆるスポーツを開発して、将来的には創ったゆるスポーツを使って、各地域で運動会なども展開したいと思います。が、まずは、多くの方にゆるスポーツを体験していただき、開発の協力者にもなっていただけると嬉しいなと思っています。

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