地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-北空知圏域における地域生活支援拠点等事業の取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年8月号

北空知障がい者支援センターあっぷる
石塚秀樹(いしづかひでき)

はじめに

北空知は北海道の空知管内を三区分した地域の一つで北海道のやや中央にあり、1市4町からなります。深川市、沼田町、北竜町、秩父別町、妹背牛町エリアです。1市4町の土地面積は1,067.29km2で、人口は28,934人(住民基本台帳人口R5.6.30現在)です。

地理的には石狩平野の北に位置し、西には国定公園の暑寒別岳・雨竜沼高層湿原があり、大雪連峰に源を発する石狩川が東西に流れる農業地帯です。およそ1年の半分が冬というような気候で、天候が悪い時は交通機関がマヒしたりする等、雪深くほとんど毎日除雪が必要な寒さの厳しい土地です。

北空知障がい者支援センターあっぷる(以下、あっぷる)は、この圏域の拠点整備の推進を図る役割の他、特定相談支援事業と一般相談支援事業、地域活動支援センターと基幹相談支援センター、自立支援協議会の事務局でもあり北空知圏域の多く役割を担当しています。皆さんもご存知のとおり、地域生活支援拠点等とは、障がい者の重度化・高齢化や「親亡き後」を見据えた、居住支援のための機能をもつ場所や体制のことです。北空知においても同居している保護者の高齢化が進んでいる、または保護者が亡くなり対象者がそのまま自宅で生活を続けていることが多く確認され、地域課題として日々支援しています。

各機能の具体的な取り組みについて

1.相談支援機能

配置されている地域生活支援拠点整備コーディネーターが、先に触れたあっぷるの指定特定・一般相談・基幹相談支援センター等の各事業や圏域相談支援事業所、市町村、保健所などの機関と連携しながら支援を行っています。あっぷるの場合、コーディネーターを中心に各事業の相談支援専門員が相談に対応し、支援が困難な場合はコーディネーターが相談支援専門員に助言指導したり協働します。その他必要に応じて、関係機関とケース会議を開催し、情報共有及び支援内容の検討をします。また内容が地域課題に関係する場合は、自立支援協議会に報告をするなどして課題を整理するとともに、自立支援協議会を通じて1市4町の福祉計画に反映していただけるよう報告しています。

支援活動の一つとして、こんな事例がありました。ヘルパーからの「冬の積雪のせいで屋根が壊れ、壁に穴が開いて困っている方がいるので相談に乗ってほしい」という相談です。相談を受けて相談支援専門員が訪問すると、確かに屋根が雪の重みで潰れ外壁も屋根から落ちた雪に押しつぶされた様子で大きな穴が開いています。冬の間の屋根の雪下ろしや自宅周囲の除雪について専門員が尋ねると、親が亡くなってからは「玄関前は近所の人がはねてくれる」と回答がありましたが、屋根の雪については放置されていたことが分かりました。また自宅の中も網戸、電球、ストーブ、ガス台、煙突、換気扇等が故障して正常には機能しておらず、長年放置されていることが分かりました。事情を確認すると、親が亡くなってからは何かが壊れても誰に相談してよいのか分からず、不便さを感じていても、そのままになっていたことが判明したのです。さっそく本人と一緒にホームセンターに行き交換できるものは購入する支援を行い、修繕が必要な屋根や外壁、換気扇の交換などは業者の手配を支援しました。除雪についても市のサービスを適切な時期に利用できるように調整しました。この事例は自立支援協議会において「地域には自宅を適切にメンテナンスできずに不便な生活している方が多数いるかもしれない」と事例報告され、今まではあまり注目されなかったことですが、北空知圏域において地域課題と認定されました。その結果、基幹相談支援センターの活動に積極的に取り入れられ、各種事業と連携しつつ、障がい者の自宅のメンテナンスの相談窓口として、地域へ周知することになりました。

図 住宅補修支援ポスター
図 住宅補修支援ポスター拡大図・テキスト

2.緊急時の受け入れ・対応

あっぷるでは緊急時の短期入所がスムーズに行われるように、事前登録を推奨し見学や日帰りの体験利用等を勧め、本人と事業所との顔合わせを行うことで受け入れ態勢の整備を進めています。しかし実際には取り組み始めたばかりで、まだ圏域全体で足並みを揃えたものではなく、最終的には圏域全体に範囲を広げることがあっぷるの現在の目標です。まずはあっぷるで契約している利用者を対象に、保護者が高齢の世帯などに案内を出し、短期入所の必要性や有用性を伝え、事前の見学から体験通所、体験宿泊を推奨しています。

短期入所は他のサービスと違い、利用するタイミングが突然起きる場合があります。そのため普段から事業所と対象者のマッチングをしておく必要があります。支援を必要としている人がいても事業所にとって面識もなく事情や状態が全く分からないために、空きがあったとしても辞退されてしまうことが実際に多くありました。またご本人にとっても知っている人が全くいない場所に、突然入所するのは不安や抵抗があることが予想されます。

取り組みとしては、上記内容の文書を発行して、対象者や保護者にあらためて短期入所のサービスの概要と、いざという時に短期入所をスムーズに利用するには準備が必要であることなどの周知です。対象者や保護者からの返信を基に聞き取りを行い、必要に応じて事業所の紹介・サービス等利用計画の変更・短期入所の利用に係る見学調整等の対応を現在は行っています。

3.体験の機会・場の提供

新しいサービスの利用を検討している対象者に、就労継続支援B型や生活介護の見学・体験の調整、地域活動支援センター等の通所施設の見学・体験、個別のニーズに応じて利用を希望される方の対応、その他グループホームの空き状況の情報収集と医療機関等に情報発信を行っています。

4.専門性の確保

近年はコロナウイルスの感染拡大状況に配慮しながら研修会や事例検討会を開催し、圏域の福祉サービスの向上に努めています。主に自立支援協議会の部会に沿って「就労」「権利擁護」「障がい児支援」に絞った研修の企画となりました。感染拡大状況に配慮して、研修はZoomを利用したもので参加範囲も関係者及び関係機関に留められていますが、感染法上の位置づけが5類移行になったので今後は範囲を広げる予定です。

5.地域の体制づくり

コーディネーターを中心に各事業及び関係機関が連携し、サービス提供体制の確保や社会資源の連携体制の構築に努めています。相談支援機能と重複しますが具体的には困難事例を通し、各関係機関との連携の構築、ケースの支援経過や明らかになった地域課題を自立支援協議会へ整理し、報告も行っています。

その他に力を入れているのは新規参入した事業所のバックアップです。北空知圏域の社会資源は決して多い状態ではありません。そんな中、新規参入事業所は圏域の障がい者にとって新たな選択肢の一つになります。バックアップの具体的な事例として、通所者にコロナウイルス陽性者が確認された際の初期対応やその後の保健所との連携体制の橋渡し、感染以外では対応困難ケースの助言、利用者確保のための関係機関への橋渡し等です。

今後の課題

事例でご紹介した方以外にも、圏域には障がい者が住み慣れた場所で住むことを困難にしている事案が数多くあるのではないかと推察されました。今後は障がい者が地域に「住み続ける」という点をあらためて考え、地域の拠点整備を進めていきます。

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