ひと~マイライフ-私の世界、私の行動基準

「新ノーマライゼーション」2023年8月号

杉原直美(すぎはらなおみ)

1970年1月1日、山口県生まれ、現在も在住。男性。アッシャー症候群(感音性難聴+網膜色素変性症)。両耳100dB以上の高度難聴。両眼の視野は10度以内。コミュニケーション方法は、受信は手話・触手話・筆談・文字表示で行い、発信は発声をメインに手話・触手話・筆談・文字入力で行っています。山口盲ろう者友の会会員。

私は盲ろう者です。幼少の頃より聞こえにくさがあり中学時代に県内の聾学校へ転校しました。その後高等部へ進み、卒業後は県内の一般企業に就職しました。視覚の異常に気付いたのは20代の初期です。暗いところでの見えにくさを自覚していましたが、それが網膜色素変性症の初期症状だと知ったのはずっと後になってのことでした。今も悪化の途上ですが、現在、卒業後に入った会社に35年勤務しています。会社の理解があって続けられたと思い感謝しています。

私は常に今の障害の状態が、自分にとっての標準の状態だと認識し、物事を捉え行動に移していました。この物事の捉え方と行動指針に関して、知っていただきたいことがあるのでお話しします。

排ガスの問題から電気自動車のことが取り上げられる昨今、発進のスムーズさや静かさが評価されるようになりました。その反面、静かさのために自転車や歩行者に気付いてもらえず、ヒヤッとした、ぶつかりかけたという問題もあったと聞きます。私に言わせれば、聞こえなくなった時点で車はすべて電気自動車(相当のもの)でした。音のない世界において、後方を目視せずに横切ることは危険行為です。生活道路を横切ったりする時は必ず後方を確認します。これが私のいう、障害の状態に応じた物事の捉え方と行動です。

話を電気自動車に戻しましょう。

問題は歩行者や自転車が道路を横切る時、車は音を発するという先入観があり、後方を確認しないことにあります。車が接近していてもいなくても、道を横切る時は必ず後方を確認すること。これだけでも交通社会での電気自動車との共存において、いい影響があると確信しています。テクノロジーの力で後方確認をせずに済むことを考案するより、よっぽど根本的で現実的で効果的な方法です。

今朝も前方を見ながら斜めに横切る自転車を見て、危なっかしいなと思いながら、「これが聞こえる健常者の行動基準なのだ」と自分に言い聞かせています。

スポーツではマラソンに取り組んできました。町内での駅伝に職場のチームとして出たのを皮切りに、リレーマラソンにも出ています。リレーマラソンは県規模のもので、私の所属している「山口盲ろう者友の会」のメンバーとして出ました。当然ですが、伴走者と絆(ロープ)を持って走っており、PRとしても一役買っております。

地域のマラソン大会にも積極的に参加しています。そんな中、この春に指定難病である「脊髄小脳変性症」と診断されました。

私の場合、歩きにくいことが中心です。歩きにくさの自覚はコロナの流行以前からあり、整形外科、リハビリ科、脳神経内科といろいろな医院を渡り歩いての結果でした。これを機会に自己所有のタンデム自転車を購入しました。タンデムとは二人乗りの自転車のことで、サドルが2つ並んでいます。

自転車の場合、片方のペダルを踏み込めば、もう片方のペダルは自然に上がってきます。しかもそのペダルの軌跡は円運動。歩きにくさがありリズミカルにきれいに足を運ぶことが難しい私にとって、ペダルこぎは難しさから解放されるスポーツでした。これこそ障害の状態に応じた物事の捉え方といえましょう。

タンデム自転車では前に座る人をパイロット、後ろに座る人をコパイロットまたはストーカーといいます。目下、複数のパイロットを求めているところです。また、自転車イベントの主催者に、タンデムで参加希望する盲ろう者の存在を知ってもらいたいです。まずは地元の「サザンセト・ロングライド in やまぐち」から。出場&完走を目指し突き進みます!

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