タイの障害者証明書

カォクン・タンティピシックン(Kaewkul Tantipisitkul)
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程
(翻訳:河野宣之)

本研究は、タイにおける障害者証明書について理解することを目的としています。研究方法は、政府のウェブサイト、小冊子、または障害関連の情報源という二次資料に基づいています。その結果として、現在の障害者証明書の制度と、証明書を持っていることの恩恵についてまとめました。

背景

「障害者エンパワメント法 B.E. 2550(2007)」および「修正(No. 2)B.E. 2556(2013)」の第20条では、「障害者は、国からの福祉サービスやその他の支援などの公共便宜にアクセスし利用する権利を有する…」と述べています(法制委員会事務局、2007年)。福祉サービス等を受けるためには、国に障害者登録をする必要があります。登録後、障害者手帳を証明書として受け取ります。現在の新しい証明書はカードになっています。障害者エンパワメント局(DEP)により、2010年4月以降、障害者手帳から障害者カードへと形が変わりました(コムチャドルック・オンライン、2018年)。2018年12月、障害者エンパワメント局(DEP)はスマート・カード(IDカード)に係る覚書を作成しました。それにより、障害者(PWD)は、福祉サービスを受けるために障害者カードの代わりにスマート・カードを使用することができ、それは「全ての権利のための1枚のカード」と呼ばれています。(DEP、2019年1月12日)

障害者証明カード

写真:障害者証明書の旧版

障害者証明書の旧版

出典: https://www.isranews.org/content-page/item/20527-newsisra100413.html

現在の障害者証明書、つまり障害者証明カードのデザインや内容については、2018(B.E. 2561)年9月12日の障害者エンパワメント局の発表「障害者カードの電子形式の決定」において定められ、発表の翌日に発効しました。

以下の写真のように、障害者証明書の英語名を「Thai National Identification Card for Persons with Disabilities(タイ国民障害者IDカード)」とし、タイ語では「บัตรประจำตัวคนพิการ」と呼ばれることが発表されました。

項目 表面 裏面
写真

タイ国民障害者IDカード表面

タイ国民障害者IDカード裏面

情報 1. 国際シンボルマークとタイ国旗 (๑)
2. 障害者情報のバーコード(๒)
3. 社会開発人間安全保障省のロゴ入り背景 (๓)
4. 偽造防止付き障害者テキスト(๔)
5. 障害者の写真(๕)
1. 部署名(๑)
2. 省庁名(๒)
3. 障害の種類(๓)
4. 製造番号と印刷年 (๔)
5. 点字 (๕)

出典: 障害者エンパワメント局(DEP)のウェブサイト(2018)
例:本物のカード(写真のため点字が見えません)

  表面
写真

本物のカード表面

情報 1. 名前と姓(タイ語、英語)
2. 生年月日(タイ語、英語)
3. 住所(タイ語)
4. ID番号付き介護士の名前(タイ語)
5. 発行日(タイ語、英語)
6. 有効期限(タイ語、英語)
7. 障害種類の番号

写真の出典: 本稿掲載に同意した匿名の人

障害者証明カードを受け取る方法

障害者証明カードを受け取るには、病院で診断を受け、社会開発人間安全保障省が発表した「障害の診断と評価のためのハンドブック」に従った基準を確認する必要があります(2012/B.E. 2555)(DEP、2019)。ハンドブックによる障害の種類と基準(2012/B.E. 2552)(官報、2012 年5月29日)、および2015年(B.E. 2555)の障害の種類と基準(No. 2)(官報、2015年7月26日)には、7種類の障害とそれぞれの基準について次のように定義されています。

視覚障害

1.「盲人」とは、矯正視力が3/60メートルまたは20/400フィート(0.05)未満、および光も見えない人、または視野が10度未満の人を意味します。
2.「物がぼやけて見える人」とは、眼鏡で矯正することで視力(最高に矯正された遠方視力)が3/60メートルまたは20/400フィート(0.05)から6/18メートルまたは20/70フィート(0.3)未満までの視力がある人、または視野が30度未満の人を意味します。

聴覚およびコミュニケーション障害

1. 「ろう者」とは、500、1,000、2,000、および 4,000 ヘルツの周波数を使用し、空気中で、よく聞こえる方の耳で聴力を調べた時に、平均聴力損失が81デシベル以上のとき「ろう者」と判定されます。
2. 「難聴者」とは、500、1,000、2,000、および 4,000 ヘルツの周波数を使用し、空気中で、よく聞こえる方の耳で聴力を測定した時に、平均聴力損失が41〜80デシベルのとき「難聴」と判定されます。
3. 「コミュニケーション障害」とは、話すことができないこと、不明瞭な発語・無知に起因する発語・音のない発語などの他者に理解されない発語、また、他者が話している内容を理解できないことを意味します。

身体障害および運動障害

1. 「移動障害」とは、日常生活または社会活動への参加における個人の制限を指します。これは、手、足、背骨、脚などの機能障害または機能喪失の結果起こります。腕、脚、四肢の麻痺や虚弱、または手、腕、足、脚の機能に影響を与える慢性疾患が原因である可能性があります。
2.「身体障害」とは、日常生活または社会活動への参加における個人の制限を指します。これは、頭、顔、体幹、および外観からわかる身体の欠損または変形の結果です。

精神障害または行動障害

「精神障害」または「行動障害」とは、日常生活または社会活動への参加における個人の制限を指します。これは、精神または脳の障害や知覚、感情、または思考における異常の結果起こります。

知的障害

「知的障害」とは、日常生活や社会活動への参加に制限を指し、通常よりも発達が遅い、または一般よりも知能レベルが低いということを指します。異常は18歳より前に出現したものになります。

学習障害

特に脳の障害により読み書き、計算能力その他の基本的な学習プロセスに障害を引き起こし、年齢幅および知能レベルによって習熟度が低く、日常生活や社会活動への参加が制限されます。

自閉症障害

自閉症障害は、社会的、言語的、およびコミュニケーションの発達障害の結果として、個人の日常生活または社会活動への参加が制限されます。これは、脳の異常によって引き起こされ、障害は2歳半より前の発症になります。自閉症障害には、アスペルガーなどの他の自閉症スペクトラムグループも含まれます。

診断を受け、基準に達し、障害者登録するための証明書を受け取ると、障害者カードを申請することができます。障害者証明カード入手には、病院で発行された障害者証明の外に、IDカード、居住証明書、顔写真などの書類も提出する必要があります。介護士がいる場合は、介護士のIDカードと居住証明書も必要です。しかし、障害が明らかである場合は、病院からの障害者証明書を提出する必要はありません。ただし、障害者証明カードの請求時には、請求を受けたスタッフが障害の状態を証拠として記録するものとします。書類提出後、発給まで20分程度かかります。障害者証明カードは発行後8年間有効です(DEP, 2020)が、60歳以上で明らかな障害がある場合は有効期限なしの障害者証明カードを取得することができます(DEP、2021)。また、災害等の合理的理由がある場合には、期限が延びることもあります(ラチャキチャ、2021)。

障害者証明カードを請求する場所は、DEP内の「バンコク障害サービスセンター」、県立障害サービス センター、およびウェブサイト https://dep.go.th/th/rights-welfares-services/disabled-person-id-card にあるいくつかの病院です。また、ウェブサイトhttp://ecard.dep.go.th/nep_all/file/handbook_64.pdf (障害者ハンドブック32~36 ページ)にも情報があります。

障害者証明カードの恩典

障害者証明カードの恩典は、「障害者エンパワメント法、B.E. 2550(2007)」および「修正(No. 2) B.E. 2556(2013)」第20条に規定されており、医療、教育、職業および雇用、社会福祉、アクセス可能な施設、障害者に対する不当な差別の撤廃などが含まれています。たとえば、手話通訳者、個人的介助者(PA)、生活環境の調整、職業のための無利子のローンなどの定めがあります。障害者年金は月額800バーツとなりますが、18歳未満の人、または国の福祉カードを持っている人は、追加で月額200バーツが支給されます(内閣官房、日付不明)。また、高等教育における障害者の教育支援を提供する基準や支給額、およびプログラムの決定に関する障害者教育推進委員会の発表に従い、初めて学士になる人への高等教育補助金があります(ラチャキチャ、2018)。

また、交通料金に関しては、「BTS」「MRT」「エアポート・レール・リンク」と呼ばれる電車は無料です。バスおよび指定されている電車の料金には50%の割引が適用されます(税別)。船についても、無料と指定されているものがあります。

2010B.E.2553)年11月16日の障害者のエンパワメントのための税制措置に関する閣議決定に従い、特定の課税年度において、65歳以下の障害者に対する最高190,000バーツまでの所得につき個人所得税の免除が法の下で定められています。税控除セクション2(81)に関する歳入法典に基づき発行された省令 No.126(1966 B.E.)に記載されています。これは、2011年5月9日以降に施行された省令 No. 281(B.E. 2554)によって修正されました(歳入局、2022年)。

障害の証明があれば、自立生活の支援は確かにできるかもしれませんが、個々の障害者のニーズは同じではないため、個別には十分でないかもしれません。次の障害の証明の研究では、障害ごとにどのような支援をさらに加えるべきかをもっと掘り下げて理解する必要があると思います。

参考文献:

1. 障害者エンパワメント局(DEP)(2018)。タイトル「障害者カードを電子形式にする決定」における障害者エンパワメント局の発表。
http://web1.dep.go.th/sites/default/files/files/services/%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A8%E0%B9%81%E0%B8%9A%E0%B8%9A%E0%B8%9A%E0%B8%B1%E0%B8%95%E0%B8%A3%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%88%E0%B8%B3%E0%B8%95%E0%B8%B1%E0%B8%A7%E0%B8%84%E0%B8%99%E0%B8%9E%E0%B8%B4%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3%E0%B9%81%E0%B8%9A%E0%B8%9A%E0%B8%AD%E0%B8%B4%E0%B9%80%E0%B8%A5%E0%B9%87%E0%B8%81%E0%B8%97%E0%B8%A3%E0%B8%AD%E0%B8%99%E0%B8%B4%E0%B8%81%E0%B8%AA%E0%B9%8C%20120961.PDF. (タイ語)
2. 障害者エンパワメント局(DEP)(2018年12月)。 DEP覚書。 ID カード。障害者向けのタイ国民ID障害者カードの代わりに使用される多目的カード(スマート・カード)。2019 年の新年の贈り物として発行。
https://dep.go.th/th/news/news-release/%E0%B8%9E%E0%B8%81-mou-%E0%B8%9A%E0%B8%B1%E0%B8%95%E0%B8%A3%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%88%E0%B8%B3%E0%B8%95%E0%B8%B1%E0%B8%A7%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%8A%E0%B8%B2%E0%B8%8A%E0%B8%99-%E0%B9%81%E0%B8%9A%E0%B8%9A%E0%B8%AD%E0%B9%80%E0%B8%99%E0%B8%81%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%AA%E0%B8%87%E0%B8%84%E0%B9%8C-smart-card-%E0%B9%83%E0%B8%8A%E0%B9%89%E0%B9%81%E0%B8%97%E0%B8%99%E0%B8%9A%E0%B8%B1%E0%B8%95%E0%B8%A3%E0%B8%84%E0%B8%99%E0%B8%9E%E0%B8%B4%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3-%E0%B8%A1%E0%B8%AD%E0%B8%9A%E0%B9%80%E0%B8%9B%E0%B9%87%E0%B8%99%E0%B8%82%E0%B8%AD%E0%B8%87%E0%B8%82%E0%B8%A7%E0%B8%B1%E0%B8%8D%E0%B8%9B%E0%B8%B5%E0%B9%83%E0%B8%AB%E0%B8%A1%E0%B9%88-2562.(タイ語)
3. 障害者エンパワメント局(DEP)(2019)。社会開発人間安全保障省の発表による障害の診断と評価のためのハンドブック(第 2 号)B.E. 2555. (2012).
https://dep.go.th/th/law-academic/documents-download/id-card-doc/%E0%B8%84%E0%B8%B9%E0%B9%88%E0%B8%A1%E0%B8%B7%E0%B8%AD%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3%E0%B8%A7%E0%B8%B4%E0%B8%99%E0%B8%B4%E0%B8%88%E0%B8%89%E0%B8%B1%E0%B8%A2%E0%B9%81%E0%B8%A5%E0%B8%B0%E0%B8%95%E0%B8%A3%E0%B8%A7%E0%B8%88%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B9%80%E0%B8%A1%E0%B8%B4%E0%B8%99%E0%B8%84%E0%B8%A7%E0%B8%B2%E0%B8%A1%E0%B8%9E%E0%B8%B4%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3-2574. (タイ語)
4. 障害者エンパワメント局(DEP)(2020)。タイの障害者用IDカード。 https://dep.go.th/th/rights-welfares-services/disabled-person-id-card. (タイ語)。
5. 障害者エンパワメント局 (DEP)(2021)。障害者手帳。 http://ecard.dep.go.th/nep_all/file/handbook_64.pdf. (タイ語)。
6. 障害者リハビリテーション法、B.E. 2543(2000)。官報第108巻第205a部(2000年11月25日)に掲載。http://web1.dep.go.th/sites/default/files/files/law/42.pdf. (タイ語)
7. 障害者エンパワメント法 B.E. 2550(2007)。官報第 124 巻、第 61 部 a(2007年9月27日)に掲載。http://web1.dep.go.th/sites/default/files/files/law/37_0.pdf. (タイ語)
8. コムチャドルック。オンライン(2018)。DEP覚書。ID カード。障害者用タイ国民IDカードの代わりに使用される多目的カード(スマート・カード)。2018 年 12 月 26 日掲載。https://www.komchadluek.net/kom-lifestyle/357035. (タイ語)
9. ラチャキチャ (2021)。障害者IDカードの申請書を提出するための基準、手続き、条件、カードの発行、障害者用タイ国民IDカードを発行する権限を有する職員の任命に関する「障害者国家エンパワメント委員会」の規則、権利の決定・変更、障害者の権利の放棄、および障害者用タイ国民IDカード取得年齢 (No. 2)、B.E.2564(2021)。官報第138巻 特集191d(2021年8月18日)掲載。 http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2564/E/191/T_0001.PDF. (タイ語)
10. ラチャキチャ(2018)。高等教育における障害者の教育支援を提供する基準、金額、プログラムの決定に関する障害者教育推進委員会の発表。官報第135巻 特集3d(2018年1月5日)掲載。http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2561/E/003/9.PDF. (タイ語)
11. 社会開発人間安全保障省による障害の種類と基準の発表(No.2)B.E. 2555(2012)官報第129巻 特集119d(2012年7月26日)掲載。http://web1.dep.go.th/sites/default/files/files/services/22.PDF. (タイ語)
12. 歳入局 (2022)。省令第 126 号 (1966 B.E.)は、歳入法典に基づく免税について公布。https://www.rd.go.th/2502.html.(タイ語)
13. 内閣事務局(日付不明)。内閣決議の検索: 障害年金の調整に関するガイドラインの承認要請。https://resolution.soc.go.th/?prep_id=99334485. (タイ語)

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