DAISYコンソーシアムの歴史
DAISYプロジェクト
新たなデジタル録音図書システム − すべてはどのように始まったのか?
1988年スウェーデン国立点字録音図書館(TPB)にて活動を開始
DAISYプロジェクトは、1988年、スウェーデン国立点字録音図書館(TPB)の当時のシステムに対する不満を認識することから始まりました。TPBは、公共図書館と印刷物を読めない大学生の両方にサービスを提供する国立図書館です。難易度の高い録音図書を利用する上級の読者にとって、アナログの録音図書を読むのは非常に時間がかかることでした。そこで単純に考えて、別の方法、つまりデジタル録音という方法が求められたのです。
1991年TPBは、デジタル録音図書の製作技術を新たに開発する3年間のプロジェクトのために、政府に補助金を申請しました。当初の計画では、PCの目次からDAT(デジタルオーディオテープレコーダー)を操作することにしていました。しかし、CD-ROMプレーヤーと新型のCD-Rディスクが広く利用されるようになると、この計画はすぐに中止されました。
重要な目標
3年間のプロジェクトで最も重要であるとされた2つの目標は、次のようなシステムを開発することでした。
20時間以上連続する音声を一枚のCD-ROMディスクに保存する。
読者が目次から録音図書にランダムにアクセスできるようにする。
1993年7月、TPBはスウェーデンのコンピュータ会社であるラビリンテン・データ社に、デジタル録音図書の録音と再生の原理をデモンストレーションすることができるソフトウェアの開発を委託しました。録音図書用のソフトウェアは、DAISY(デジタル音声情報システム)のコンセプトに基づいて製作されました。コンセプトの中心となっていたのは、フレーズベースでの音声の保存です。システムに必要な追加機能は、以下のとおりでした。
フレーズを集めてセクションが構成されている場合、テキストをフレーズごと、あるいはセクションごとにスキムする機能
テキストベースの目次の内容を検索する機能
録音図書の特定のページを検索する機能
図書の中でブックマークをつけたり検索したりする機能
そして、将来的には
録音図書の中でアンダーラインを引いたりメモをしたりする機能
1994年最初の試作品完成
1994年、ウィンドウズ用のDAISY再生機器の試作品第一号が完成しました。このプロジェクトと試作品は、1994年9月にウィーンで開かれたICCHP(障害者のためのコンピュータに関する国際会議)で発表されました。
当初より目的とされていたのは、大学生をはじめとする学生たちが専門文献を読む際に、録音された情報にアクセスし、それを利用することが、新たなデジタル録音図書システムによって、いかに容易になるかを示すことでした。しかし、ふたを開けてみると、すべての録音図書に共通する新たなフォーマットへの関心が世界中で高まっていたのです。
1995年、事態は急展開し始めました。1995年4月、新しいデジタル技術に関心を示すいくつかの機関が、トロントで会合を持ちました。日本企業の、シナノケンシ/プレクスター社が、具体的なデジタル録音図書プレーヤーの開発方法について、アイディアを発表しました。
1996年DAISYコンソーシアム設立
TPBは他の録音図書館や組織を招待し、DAISYのコンセプトに基づく新たなデジタル録音図書規格の普及のために国際的なコンソーシアムを結成しました。1996年5月、ストックホルムで、DAISYコンソーシアムが設立されました。
設立当時の会員は、以下のとおりです。
全国視覚障害者情報提供施設協議会
スペイン盲人協会(The Spanish National Organization of the Blind, O.N.C.E.)
英国王立盲人援護協会(Royal National Institution for the Blind, RNIB)
スイス視覚障害者図書館(Swiss Library for the Blind and Visually Impaired, SBS)
オランダ視覚障害学生図書館(The Dutch Library for Visually and Print Handicapped Students and Professionals, SVB)
スウェーデン国立点字録音図書館(The Swedish Library of Talking Books and Braille, TPB)と、スウェーデン視覚障害者協会(The Swedish Association of the Visually Impaired, SRF)
ストックホルムでの会議において、TPBのインガー・ベックマン・ヒルシュフェルド(Ingar Beckman Hirschfeldt)氏をDAISYコンソーシアムの会長に選出することで合意が得られました。
コンソーシアムの目的は以下のように設定されました。
印刷物を読めない障害がある人々のためのデジタル録音図書や市販のオーディオブックの事実上の規格として、DAISYのコンセプトを確立する。。
プロジェクトを運営し、適切なツールとシステムを開発し、DAISYのコンセプトを普及する。
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印刷物を読めない障害がある人々の利益を最大にするために、DAISYのコンセプトおよびその所有権の使用とライセンシングを管理する。
DAISYプロジェクトの第一段階、いわゆる「規格バージョン」は1996年に終了しました。今後はDAISYコンソーシアムの国際的な協力により、「プロフェッショナルDAISYシステム」が開発される予定です。
アムステルダムでDAISY財団が設立されました。コンソーシアムのメンバーが、同財団の理事も務めています。
1996年10月、ケンブリッジで新コンソーシアム会議が開かれました。25の図書館から構成される録音図書館協会(ドイツ)が、新たにコンソーシアムの会員に選ばれました。コンソーシアムの会員になることは希望しないまでも、DAISYのコンセプトに関心を示した図書館がいくつかありました。関心を示した機関は、DAISYコンソーシアムの準会員として参加するよう求められました。準会員は会議のオープンセッションに参加したり、ソフトウェアを利用したりすることができます。
1997年4月、河村宏氏がDAISYコンソーシアムの暫定マネージャーに選出されました。同氏は、プレクストークCD-ROMプレーヤーの試作品で再生されるDAISYデジタル録音図書の、世界規模での実地試験も実施しました。
ファイルフォーマットの問題に関するシグツナ(スウェーデン)での会議
1997年5月のシグツナ(スウェーデン)での円卓会議において、DAISYのファイルフォーマットの問題が検討されました。そして、ファイルフォーマットを、事実上業界の標準規格で、HTMLフォーマットとも連携できる、別のフォーマットに変更するという提案が出されました。
この決定の後、RFB&D(Recording for the Blind & Dyslexic)がDAISYコンソーシアムに10番目の会員として加わりました。そのほかに最近加わった会員としては、オーストラリア・ニュージーランド盲人協会連合(Australia New Zealand Blindness Agencies)、デンマーク国立盲人図書館(The Danish National Library for the Blind, DBB)、日本障害者リハビリテーション協会(全国視覚障害者情報提供施設協議会と会員資格を共有)などがあります。
11の準会員は、コロンビア、香港および南アフリカなど、世界各地から参加しています。現在DAISYコンソーシアムには五大陸すべてからの参加があります。
1997年8月、ジョージ・カーシャ(George Kerscher)氏がDAISYコンソーシアムのマネージャーに選出され、10月には、クリス・デイ(Chris Day)氏、シェル・ハンソン(Kjell Hansson)氏、河村宏氏、およびリノ・リオス・メヒアス(Lino Rios Mejias)氏が、執行委員に選出されました。