音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

女性と情報社会:バリアと参加

アン・ゴールディング博士、レイチェル・スペイシー
イギリス ラフバラ大学

項目 内容
備考 英語版:原文
Anne Goulding and Rachel Spacey "Women and the Information Society:barriers and participation"IFLA Journal Vol29,No.3,2003,P33-40

著者紹介

アン・ゴールディング博士

英国のラフバラ大学情報科学学部、情報サービス管理学の講師である。彼女の主な指導と研究対象は、情報サービスの管理で、特に人材管理に焦点がおかれている。「ジェンダーと情報」研究のモジュールを展開させ、情報関連の仕事における男女の隔たり、情報、情報サービスおよび情報技術の活用における男女の違いなどを学生に紹介している。

E-MAIL:A.Goulding@iboro.ac.uk

レイチェル・スペイシー

英国、ラフバラ大学情報科学学部、博士課程の学生で、公立図書館員の情報コミュニケーションテクノロジーに対するアティテュード(姿勢)について、特にインターネットに対する姿勢と訓練の関係に焦点をあてた研究を行っている。

Rachel.Spacey@ntlworld.com.

はじめに

情報及びコミュニケーション技術(ICT)、とりわけインターネットの開発と利用は、先進国における作業の体系化及び日常生活に多大な変化をもたらし、「産業」社会から「情報」社会への移行を導いた。情報社会の重要な特徴の一つは、大衆が高度に情報を利用することができるようになったということである(モーレ、1999年)。こうなると誰もがそれぞれの社会、経済、政治、文化の動きについて、情報にアクセスできることが望ましいということになる。ディアンリーとフェザー(2001年)は、情報社会というのは、情報テクノロジーによって定義づけられるのではなく、また単にコンピューターを使ったりインターネットなどを利用することでもないと指摘している。しかしながら、ICTは、地域社会や個人が従来の方法とは異なり、一般的で安価な方法で情報にアクセスでき、普及させることができるというより便利な方法を提供している。とりわけインターネットは情報社会の発展に大きく寄与してきた。

情報社会の最終目的は、知識にアクセスし、それを利用することで全ての人々をエンパワーすることにある。しかし他の人に比べてICTによる変化によって与えられた機会から遠ざけられている女性を含む人々がいることが懸念される。従って、インターネットは人々を解放し、民主化する力として出現したが、それは性別による差異がないということではない。情報社会は、情報を「持つ者」と「持たざる者」との間で女性同士の格差を増大させていると指摘している。とりわけ、移民女性、障害のある女性、貧しい女性、高齢の女性達は、他の人たちが入手可能な情報源が得られないでいる。(事例参照、ホウダート・ブラジー、1996年)。これとは対照的に、他の批評家は、女性にとってのインターネットとは、潜在的に解放への可能性を持っていることに注目している。(例えば、バディー2000年)。彼らは、ICTによって、女性は世界的規模のネットワークづくりの機会を得て、新たな方法で社会や地域の発展に関わるようになると主張している。

この論文は、女性とインターネットをとりまく問題を調査したもので、ラフバラ大学で実施された修士課程の調査プロジェクトの結果も含まれている(スペイシー、2000年;ヘイマス、1999年)。女性のためのネットワーキングツールとしての、インターネットのメリットと将来性、また(インターネットの)利用とアクセスの問題に視点をあて、最終的にはサイバーフェミニズムという概念について論じている。

女性とインターネットへのアクセスと利用

1990年代から21世紀前半にさまざまな調査や報告により、性差によるデジタル・ディバイドの問題が提起され、女性がインターネットにアクセスする際に直面する困難について論じられ、テクノロジーの利用における男女の微妙な違いについての調査が行なわれた。

アクセス

イギリス国立統計局の最新の統計によれば、英国男性は女性よりもインターネットを使う傾向が高い(国の統計、2001年)。男性の57%がインターネットを使い、女性の45%を上回っている。しかしながら、統計の中身を細かく見ていくと興味深いことがわかる。NOP(イギリス国立統計局)によれば、15~25歳のインターネット利用者は女性が男性を上回っている。少なくとも若い女性はテクノロジーに慣れ親しんでいる。(キニーズ、1999年)しかしながら、イギリスでも明らかに“チッククリック”現象(若年層がコンピューターを使いこなす現象)が起きている(オルケ、1999年)。ほとんどITトレーニングを受けておらず、教育でも(ITに)慣れ親しんでいない高齢の女性でインターネットを利用しているという報告はあまりない。女性のインターネット利用を考えるとき、画一的にならないことが重要である。なぜなら個々の女性のインターネット利用やその姿勢はさまざまな要因に作用されるからである。必ずしも全ての女性が情報社会に適応するためのコンピューターの経験や自信、スキルに欠けているわけではない。実は、ある女性はよりハード面でも精通しており、男性よりもテクノロジーに親しんでいる。一方、これらの違いは次のように分析されるだろう。全体として、女性は男性と同じようにインターネットにアクセスし利用していく上で様々な障壁があるため、向上できない危険性にさらされていると推測できる。

女性のインターネット活用の障壁

女性のインターネットへのアクセスは増加しているが、数多くの問題や依然として頑強な障害があるままだ。

時間とお金

経済的な問題と時間は、女性がインターネットにアクセスする場合の現実的な障壁である。「インターネットに接続しようとする女性の最大の障壁は時間とお金である」(レスニック、1995年)。女性は一般的に自由に使える収入が男性よりも低く、英国の場合、男性の時間あたりの収入の82%である。(女性と平等ユニット、2002年)従って、オンラインのコストは男性より女性にとってより障壁となっている。金銭的問題は以前より乗り越えられない障壁ではなくなっている。コンピューターのハードウェアとインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)のコストは下がっており、今や女性が自分のコンピューターを所有し、自宅でアクセスのためISPに利用料を支払う必要はない。なぜなら、インターネットはあらゆる公共スペース、例えば、公立図書館やインターネットカフェ、あるいはスーパーなどからアクセスすることができるからである。英国のUKオンラインセンター・イニシアチブの目的は、地域やコミュニティベースのインターネットカフェ、公立図書館、大学、コミュニティーセンターやヴィレッジ・ホールなどからICTへのアクセスを提供することである。(UKオンライン・センター2002年)このセンターは、講習会の実施や支援を行なっており、これはICT利用に自信のない新しいユーザーにとっては欠かすことができない―インターネットを利用することや不慣れな公共スペースに入ることさえも不安を感じる人たちにとってもうひとつの主要な障壁であるからだ。私たちのように先進国では、ICTへのアクセスは一般的に以前ほど問題にならない。しかしながら、様々な理由によってアクセスできない人々が社会にいることを忘れてはいけない。重要なことは、こうした発展途上の国々を西洋の考え方で一般化し、理解すべきではないということである。そこにはインターネットの使用以前に克服しなければならない様々な障壁あり、それは接続費用や電話線、電気の不足など広範囲にわたる。女性のテクノロジーの利用に関する世界の状況を調査した結果をまとめた冊子Women@Internet(ハーコート、1999年)によると、世界中でインターネットを利用したプロジェクトの潜在的な可能性について、素晴らしい見通しを提供している。しかしそれはまた、アクセスできない、または不平等という問題を浮き彫りにしている。

女性がたとえ自宅や手元にコンピューターがあったとしても、オンラインする時間がなければ、利用の障壁となりうる。既婚、またはパートナーのいる女性は一般的に仕事をしていれば、仕事と家庭または子育ての責任を負っている。過去10年に行なわれたすべての調査は、フルタイムの仕事に従事する女性ですら、家事の大部分をこなしていると指摘し続けている。多くの時間は家事にさかれ、男性に比べ、女性はネットサーフィンをする余暇がないのは明らかである。さらに、スペンダーは、女性は男性のようにインターネットの利用を余暇と見なしていない、と指摘する。(スペンダー、1995年)女性がコンピューターやアプリケーションを楽しみのためではなく、ツールとみなしているとする他の研究者もスペンダーの主張を支持している。(マーティン、1998年、カニンガム、1994年など参照)従って、たとえ女性がインターネットにアクセスする時間があり、その利用たけたとしても、インターネットの利用に目的を感じないかもしれない。ワシントン・ポストの記事は「女性にとってネット利用が習得できないほど複雑すぎるわけではない。つまり、ネットを利用することに便利で説得力のある利点を見いだしていないだけである。」と推論している。

自信の欠如

ジェンダーとコンピューターの関係は数多く調査されてきた。様々な力と圧力は、女性とICTとの関係をしばしば問題のあるものにしていると指摘されている。(シェード、1998年)社会の固定観念は、例えば、女の子にコンピューターは向いていないという印象を与える。その上、学校での否定的な経験は女学生のコンピューターに関する興味の追求という意欲を減退させる。こうしたことが女性にICTの活用に自信がなく気が進まないという気持ちを引き起こさせている。1996年の女子大生の調査で、フォードとミラーは、男性は「インターネットを閲覧する」のを楽しむ一方で、女性は「比較的インターネットに魅力を感じず、一般的に効果的な方法を見つけることができないと感じている」(フォードとミラー、1996年)。しかしながら、この調査は今では少し古くなっているが、女性にとって自信の低さとテクノロジーに携わるのを躊躇するという問題はそのままである。インターネットを利用した時の彼らの経験が否定的、あるいはコンピューターのわいせつ文書やフレーミング(相手を侮辱するような電子メール)の問題が原因でダメージを受けたときなどは特にそうである。

インターネットでの否定的な体験

男性優位の議論の場、掲示板、フレーミング、男性利用者による女性利用者への嫌がらせなどの女性にオンラインを思いとどまらせるもしれないようなインターネット文化の数々の面は、文学の中でも紹介されている。デール・スペンダー(1995年)は、全章を「スーパーハイウェイ(インターネット)における男性の脅威」について言及しており、インターネットと女性をとりまく状況を説明している。スペンダーの初期の作品で、「男性によって作られた言葉」(1985年)や「インビジブル・ウーマン」(1982年)はよく知られている。「ネットでのおしゃべり」(1982年)では男性優位の言語と会話という論点を、ウェブ上での男女の交流に関する研究へと発展させた。現実世界よりもむしろサイバースペース上の方で男性優位がはびこっていると主張している。ウィの研究結果もスペンダーの主張を支持している。(ウィ、1994年)彼女は3つのフェミニスト・ニュースグループに参加を依頼して、調査結果をまとめた。フェミニストに関する内容は男性のインターネット利用者がそんなに関心を持たないであろうと見込んだので、女性の利用者が圧倒的であると考えていた。しかし、女性向の討論の場であったとしても、男性が優位に立っていることが分かった。その80%以上の投稿は男性からであった。このことで、ウィは「どのようなオープンネットワークにおいても、ほとんどが男性優位の対話である」と結論を下した。(ウィ、1994年)。ジェンダーの他の研究では、コンピューターを介したコミュニケーションで、女性が男性よりも多くのメッセージを投稿したという例外的な状況を発見した。すると、男性は自分たちが沈黙させられたように感じたので、敵視し、怒り、配信リストを削除するよう脅してきた。(スペンダー、1995年)

ヘリングは、男女のオンライン・コミュニケーション・スタイルの違いについての調査の中で、フレーミング現象(電子掲示板などでのどぎついことば)について調査した。(ヘリング、1994年)その中で、男性はアカデミックな生活の中でもフレーミングは一般的だと受け止めているのに対して、女性は反感を持っていることを発見した。サットンは、男性はフレーミングを受け入れることができる行為と受け止めていると主張している。なぜなら彼らはサイバースペース上で優位に立っていて、何が妥当かについて決定しているからである(サットン、1996年)。一方、女性は「あまりの無礼さ」に腹を立てる傾向にある。ヘリングによれば、そのために苦痛を感じるようなことにぶつかった時、意見交換の場やニュースグループのようなインターネットのサービスを利用したくなくなってしまう(ヘリング、1994年)。フレーミングは不愉快で落胆させられるが、それだけが女性利用者が出くわすいやがらせではない。Eメールやインターネットのチャットルームでの嫌がらせもよくみられる。インターネット上で多数のわいせつな情報が配信されることが、女性のオンラインを躊躇させる要因であると言われている。ある利用者調査では、女性の10%近くは、わいせつな情報の配信はインターネットの問題であると述べている。これに対し男性はわずか3%であった。(GVU、1998年)男性優位の文化と男性が独占する討論リストや掲示板、女性利用者への嫌がらせなどを理由に女性はインターネットの利用を思いとどまる場合がある。

女性のインターネット活用

上記のような問題があるにもかかわらず、オンラインしようとする女性の数は増加している。その上、女性のインターネット・ユーザーは明らかに増加しているが、性別による微妙な差は、媒体の利用における程度と目的に現れている。オーストラリアの研究で、インターネットの利用において顕著な違いは、以下のような領域であることが明らかになった。

  • ネットを見る(男性の80%に比べ、女性69%)
  • ネットショッピングツールとしての利用(23%対14%)
  • ニュースにアクセスする(58%対38%)
  • 性的描写を見る(25%対6%)
  • 銀行に預ける、料金の支払いなどの決済処理(36%対25%)

(オーストラリア放送庁)

米国のインターネット・ライフ・レポート(ピュー・インターネット・アメリカン・ライフ・プロジェクト、2000年)が明らかにしたところによれば、女性は健康、医療に関する情報、仕事の情報、宗教や精神面の情報を調べる傾向がある。やや驚くべきことは、女性はオンラインのゲームも楽しんでいるとする調査結果が出た。男性は、ニュース、経済、製品、サービス、趣味、政治、およびスポーツに関する情報を検索する傾向がある。さらにネット上で株の売り買いをし、オンラインオークションに参加している。しかし、一般的なオンライン・ショッピングについては性別の間でほとんど差がない。

インターネット・ライフ・レポートは、まず女性達がどのようにインターネットを使って家族や友達と関わっているのかについて関心を持った。レポートは「女性達は電子メールを使って大切な人間関係を豊かにし、ネットワークを拡大している」との結果を出している。電子メールは女性達にとって確かにインターネットの大きな魅力となっているようだ。1995年レスニックは「コミュニケーションは女性のオンラインする目的の最上位にランクされている」と結論を出した。彼女の調査は、友人や家族とのメール交換は女性のインターネットの主な利用目的であることを明らかにしている。1995年の別の調査でも、電子メールの高い利用が明らかになっている。回答者の30%がオンラインの主な目的をメールとしている。一方、33%は調査と述べている(シャーマン、1998年)。シャーマンのサンプルグループが高学歴であるという性格上、調査結果はおそらく偏りのあるものとなっているが、それにもかかわらず電子メールが使えることは女性にとってインターネットへの強い関心となって現れている。男性もこうした機能を使っているが、「女性は男性よりもEメールの利点に言及している。」(PRニューズワイヤー、2000年)

この女性のインターネット使用に関する議論は、女性のEメールへの愛着に焦点をあて、なぜインターネットが女性達の強力なツールとなる将来性があるのかについていくつか示している。

特に女性のメールに対する愛着に焦点をあてたインターネット活用の議論は、なぜインターネットが女性にとって有力なツールとなりえるのかについて示唆を与えている。

女性達にとってのインターネットの将来性

これまで見てきたように、女性は様々な状況(自宅、公共のアクセス・ポイントや職場で)の中で、様々な理由から(余暇、市民参加、仕事や消費活動)インターネットを通して情報社会に携わっている。しかしながら、女性が直面している情報社会への完全参加を妨げる障壁が強調される傾向にある。従って、インターネットによって女性は新しい方法で参加でき、過去には表に出ることはなかったグループを啓発することができるとことを認識していない。インターネットでは女性達は匿名で自己表現することができる。それはまた彼女達に、特別のコミュニケーションや組織形態へと発展させ参加する機会を提供し、情報交換と普及のメカニズムを形成し、支援と団結を与える。

ラフバラ大学の調査(スペイシー、2000年)インターネットのフェミニストツールとしての役割を調査し、その中から以下に抽出された結果をその他のその分野の文献を考慮し述べていく。

女性が親しみやすい

ラフバラ調査の100人の回答者のうち、70人がインターネットは女性が親しみやすいリソースであると考えている(11人はそう感じない、18人はわからないと回答)。多くの女性にとって、インターネットでコントロールできるという感じが基本的に利点である。回答者の一人は、「どこへ行き、何を見るか、誰と話すかということをコントロールできる。」とコメントしている。サイバースペース上の匿名性もまた大変魅力的であると考えられている。マカリーとパトスン(1996年)の調査によると、女性は電子コミュニケーションを積極的にとらえている。というのは容姿で判断されるのではないかという心配を軽減するからである。調査の回答者達の多くがこの考えを持っており、「人々はその人が何を言ったのかについてのみ判断される。」またインターネットは発信者の性別を知ることはできないので、ジェンダーを克服することができるといった賛成意見もある。

情報へのネットワークとアクセス

従来、女性運動はネットワークを活用して広範囲に行われてきた。従来型のネットワーク形成にはコストの問題があった。しかし電子コミュニケーションは女性達に活動的で速くて効果的な連絡手段を提供した。インターネットは女性達が世界中のバーチャル・コミュニティへの参加を可能にし、意見を交わし、ニュース、情報、経験、知識、支援およびアドバイスを共有することを可能にした。社会のあらゆる側面において女性の完全参加と平等を強化することができた。女性にとってインターネットの否定的な側面もしばしば強調されるが、フェミニストの調査は、手紙を書くこと、ファックスや電話と並んでコミュニケーション手段としてのインターネットの肯定的な側面を称賛している。 ジトラーは、「情報とコミュニケーションは、常にグローバルな女性運動で極めて重要な役割を果たした。電子コミュニケーションは、今まではできなかった方法で、女性のネットワーク形成と権利拡大を促進させている」と述べている。(ジトラー、1999年)インターネットは、数分間でおそらくこれまで会う機会のなかったどんなに離れた場所からもサイバースペース上で世界中の女性達をつなぐ力があるので、従来の連絡手段以上に役に立つという主張もある。何人かのオブザーバーによれば、インターネットは全く異なる生活をする女性に接触することで「女性による女性の新しい発見」をもたらした。(ヤングス、1999年)例えば、オーストラリアのある行動研究プロジェクトは電子討論グループを作り、地方と都市に住む女性を結び、地方の女性には入手しにくい都市の情報を提供し、都市の女性には地方の女性の考え方を伝えた。(レニーら、1999年)。インターネットはこのように、何千マイルも離れたところに住み、仕事をしているほかの女性たちの問題や考え方を交換することにより、対話の機会を作りだした。バディーは、「女性間の広範囲な対話をインターネットが可能にしている。」と指摘している。(バディー、2000年)

インターネットはこのように、キャンペーンを起こし、情報や知識を広め、個人的経験を分かち合うことを可能にする。例えば、電子メールは、女性ユーザーの地理的、社会的な孤立を克服するのに役立つ。ラフバラ調査の回答者の一人が主張したように、女性は男性に比べ一般的にあまり活発に動き回るわけではない。しかし、インターネットは家庭からアクセスすることができ、事実上外部との接触を可能にし、極めて重要な情報へアクセスすることができる。バディーは、女性の地位を向上させる重要な方法のうちの1つであるインターネットは、こうした権利に関する情報へアクセスすることで拡大すると示唆している(バディー、2000年)。ラフバラ研究の回答者は、インターネットを通して主流メディアにおいて報告されなかった女性活動に関する情報を見つけることができるであろうと示唆している。このように、インターネットは、孤立を緩和し、彼女たちが気づかなかったかもしれない活動や問題などの情報を入手できるようにした。

フェミニスト活動

ヤングスによれば、インターネットは急進的な潜在能力がある。

(インターネットによる)新しいつながりは女性に、相互の国際的レベルの新しい知識、経験、展望、目標を分かち合い戦略を練るための集団的な伝達方法を提供している。こうした新しい試みには、並外れた可能性がある。そして、国境を越えた新しい環境において、意識を高める可能性がある。(ヤングス、1999年)

世界の女性が電子討論リスト、ニュースグループ、他の女性と交流するためのプロジェクトと会議、経験の分かちあい、お互い学びあうことなどによって急進的な潜在能力が現実に形を変えている事例が無数にある。インターネットはこのように、重要なフェミニストのメディアとして、社会を変える効果的なツールとして女性間の対話を強力にし、女性の関心事を公の場に反映させるものであると見なされている。

全てのフェミニスト・キャンペーンはインターネットを念頭に置いている。以下のような場合に何をして、だれに助けを求めればよいのか。性的な暴行の場合、遠隔地に住む女性のネットワークづくりをするため、暴力や教育についてのキャンペーンをするとき、同性愛者のネットワークづくり、女性研究の学者、女性団体、環境学者など可能性を挙げるときりがない。(ホーソンとクライン、1999年)

このことはラフバラ調査の回答者の何人かによっても実際に明らかにされている。そのうちの一人は、インターネットの基本的な利点を次のように説明する。「女性が同じ考えを持つ個人と関わるように後押しをする。ともかくこうしたことの意味するところは女性にとってのさらなる解放である。」フェミニズムに言及すれば回答者は、インターネットは、女性グループが情報を分かち合い、プロジェクトの共同研究をすることができるので役に立つと感じている。マカリーとペターソンは「インターネットは例えば、フェミニストの大集会の開催などのように実社会に非常に近いものを提供できる。」(マカリーとペターソン、1996年)。そしてあるフェミニストはインターネットがフェミニスト活動と関心への復活を促すツールとなることを望んでいる。フラバラ調査の一人の回答者は次のように述べている。「インターネットは女性を互いに結びつけ、フェミニストのツールとして使われるようになるという大きな将来性を持っている。インターネットはフェミニズムの第三の波におけるメカニズムであると予測することができる。」

自分のウェブサイト

インターネットは、女性の情報社会への参加を別の方法でも可能にしている。伝統的な「男性の職業」であった出版分野は、ワールド・ワイド・ウェブのおかげで女性にとってよりアクセシブルになってきた。インターネットは女性達が自由に自己表現する機会を与え、「女性の関心事のための公の場を創る」(バディー、2000年)。女性はインターネットの出版ツールを自分たちのネットワークの出版やメディア活動に利用できる。また、主流メディアと比較すると、ジェンダーに配慮したメディアを作り上げることができる。従来のメディアにとって代わるこれらのコミュニケーションは、差別や固定概念に対抗できる力がある。従って、インターネット・テクノロジーを使い、女性はキャンペーンを広げ、権利を主張し自分たちの表現方法を普及させ、主流文化の支配的モデルへ疑問を投げかけるためのコミュニケーション経路を作り、活用してきた。例えば、バディーは、インターネットは女性問題が注目されるようにしむけることに役立っているとする。つまり、主に世論から女性の声は排除されており、国際社会が女性を世界的に不利な立場に置いていることに対してなかなか反応を示さないならば、そのような場合こそ、インターネットは公の場へ女性の声を届けることに貢献している。

サイバーフェミニズム

ラフバラ調査ではサイバーフェミニズが以下のように定義された。

サイバーフェミニズムは、第一にデジタル上の会談の場で男女間の力に差があること、第二にサイバーフェミニズムはその状況を変えたいと認識している哲学である。(ホーソンとクラン、1999年)

定義によれば、サイバーフェミニズムは、様々な理由により、サイバースペース上で男女が異なる扱いを受けており、このような問題を解決しなければならないと認知されている。ラフバラ調査の回答者の何人かは、この定義やサイバーフェミニズムという用語自体を理解するのが難しい。しかし回答者の41%が自分たちはサイバーフェミニストだと主張し、サイバーフェミニズムの精神や目的を含むインターネットへのアクセスや利用の様々な面についてさらにコメントしている。いくつかのコメントは、インターネットの活用を習得するように他の女性を励まし、最大限にサービスを利用することは女性にとって欠かせない情報源として、また女性の関心事が考慮されるという意味でサイバーフェミニズムの重要な利点である、と述べている。

ある回答者のコメント:

私は、女性がICTの発展に貢献することができるよう、女性と女性グループがインターネットを利用し、インターネット関連への興味を持ち、技術を含めた文化などで向上できるように努力しており、また、それによって彼女たちの娘達も同じようにできるようになる。

回答者の何人かは、女性がインターネットを利用する際、障害に直面するということに賛成している。定義で述べたとおり、多くの場合、異なる社会性や教育体験の違いが原因となっている。男性中心のデザインとインターネットの男性優位は女性の利用の妨げとなり、回答者の一人はサイバーフェミニズムが克服の助けになることを望み、以下のようにコメントしている。

「私は男性優位のインターネット・テクノロジー分野で女性の場を作ることによってフェミニスト活動を続けていきたいと強く感じている。」

フェミニストあるいは少なくとも女性の志向に焦点をあてたインターネット上のサイトはサイバーフェミニズムの一部と考えられている。女性と男性両方の認識を変えていこうと努力すること、またサイバースペースは女性を歓迎していると示すことは重要である。

「私は女性が親しみやすいサイトをつくり、他の関連するサイトと相互にリンクすることは、ウェブ上の反女性サイトに対抗する独自の効果的な方法であると考えている。」

何人かの回答者にとって、女性文化に貢献するサイトが「家長的性差別文化に対抗する文化」として創られたことは特別重要である。

サイバーフェミニズムは、インターネットによるフェミニスト運動を説明する用語として理解されており、掲示板、ディスカッションリスト、電子請願書、女性団体のウェブ・ページ開設などの事例を数多く紹介している。しかしながら、ミラーがコメントしているように、インターネット上であるいはネットを通したフェミニスト活動は、「現実世界」のフェミニズムから女性を遠ざける可能性があるとの懸念がある。

「サイバースペース上での組織化が現実の世界の社会変革をもたらすであろうか。あるいは、このようなテクノロジーを長く使いすぎることはただ単に我々のエネルギーを弱らせるだけなのか?」(シラー、1998年)

また、女性にとってのインターネットの価値について別の懸念も浮かび上がっている。例えば、ホーソンはキャンペーンや社会行動の支援を動員するためにインターネットが役立つと認めてはいるが、「接続することが全てではない」と強調しており、すなわち利潤を生みだすという、女性のインターネット接続を促す思惑があることも理解している。(1999年)

結論

インターネットは強者のための道具として利用され始めたが、バディーが論じているように、今では社会的に軽視されてきた人々が、様々な目的を実現するためにこのテクノロジーを利用している。(ハディー、2000年)。女性と男女同権主義者たちは、情報を広め、集い、分かち合い、共通の目的を追求する人たち同士を結びつけるためのインターネットの潜在力を理解するのに時間はかからなかった。女性がますますインターネットを利用するようになり、情報社会への完全参加を保障するためには乗り越えるべき手ごわい障壁がある。より明白ないくつかの問題は上記で議論されたが、例えば言語の問題のように解決すべき極めて基本的なこともある。

ウェブサイトのデザインもまた、多くの世界の女性がインターネットのコンテンツにアクセスしにくい要因となっている。

こうした困難にもかかわらず、情報社会を形作る一員として発言権を持ちたいのであれば、女性は今すぐテクノロジーに関わらなければならない。女性は何世紀もの間、社会の重要な側面や政治から排除されてきた。女性がテクノロジーを習得せず、情報社会の未来について発言することがなければ、情報社会テクノロジーがますます女性を社会の主流からとりのこされる状況に拍車をかける。しかしながら、コマーシャリズムや露骨な女性蔑視のコンテンツ、(全てを)均質化してしまうインターネットの威力などの問題もあるものの、結局のところ、男性優位の電子環境の中でなんとかやっていくことに比べ、おそらく女性が完全に(インターネットから)排除されるほうがより危険であろう。情報社会に参加することによって、情報社会が世界中の女性にとって有益なものに変えられていくことを望んでいる。

引用文献

Australian Broadcasting Authority, 2001. Australian families and internet use.(http://www.aba.gov.au/internet/research/families/index.htm

Bahdi, R, 2000.Analyzing women’s use of the Internet through the rights debate. Chicago-Kent Law Review, Vol.75, No.3:869-897.

Cunningham, S. J., 1994. Guidelines for an introduction to networking: a review of the literature. The Arachnet Electronic Journal on Virtual Culture, Vol. 2, No.3.

Dearnley, J. and Feather, 2001. The wired world: an introduction to the theory and practice of the information society. London: Library Association Publishing.

Ford, N. and D. Miller, 1996. Gender differences in Internet perceptions and use. Aslib Proceedings, Vol. 48, No.7/8, 183-192

Gittler, A. M., 1999. Mapping women’s global communications and networking. In: W. Harcourt, de. Women@Internet. Creating new cultures in cyberspace. London: Zed Books.

GVU, 1998. The GVU 10th User Survey.(http://www.gvu.gatech.edu/user_surveys/survey-1998-10/).

Harcourt, W., ed., 1999. Women@Internet. Creating new cultures in cyberspace. London: Zed Boods.

Hawthorne, S., and R. Klein, eds., 1999. Cyberfeminism. Melbouren: Spinifex Press.

Hawthorne, S., 1999.Unstopped mouths and infinite appetites: developing a hypertext of lesbian culture. In: Hawthorne, S., and R. Klein, 1999. Cyberfeminism. Melbourne: Spinifex Press.

Heimrath, R., 1999. Internet perception and use: a gender perspective. MA dissertation, Department of Information Science, Loughborough University.

Herring, S., 1994. Gender differences in computer-mediated communication: bringing familiar baggage to the new frontier.(http://www.cpsr.org/cpsr/gender/herring.txt).

Houdart-Blazy, V., ed., 1996. The information society. A challenge for women. Women of Europe, dossier no. 44.

Kinnes, S., Domain of women. Sunday Times Magazine, 19th September: 55-57.

Lennie, J., M. Grace, L. Daws and L. Simpson, 1999. Empowering online conversations: a pioneering Australian project to link rural and urban women. In: W. Harcourt, ed. Women@Internet.Creating new cultures in cyberspace. London:Zed Books.

Maier, F., 1995. WOMEN.NOTFRNMAIER. Washington Post: Section C: 1.

Martin, S., 1998. Internet use in the classroom: the impact of gender. Social Science Computer Review, Vol.16, No.4:411-418.

McCulley, L., and P. Patterson, 1996. Feminist empowerment through the Internet. Feminist Collections, Vol. 17, No. 2:5-6.

Millar, M. S., Cracking the gender code. Who rules the wired world? Second Story Press: Toronto.

Moore,N., 1999. Partners in the information society. Library Association Record, Vol. 101, No. 12:702-703.

National Statistics Office, 2001. Internet access. London: National Statistics Office.

O’Rouke, I. 1996 C-cups through e-tailing. The Guardian: Media section. 8th November: 6-7.

Pew Internet and American Life Project, 2000. The Internet life report. Tracking online life: how women use the Internet to cultivate relationships with family and friends. Washington DC: The Pew Internet and American Life Project.

PR Newswire, 2000. PR Newswire: new study: wave of women online catches up to men… but they surf differently. (http://www.prnewswire.com/news/index.shtml).

Resnick, R., ed., 1995. IPA’s survey of women online. (http://www.netcreations.com/ipa/women).

Shade, L. R., 1998. A gendered perspective on access to the information infrastructure. The Information Society, 1998, Vol.14, No.1:33-44.

Sherman, A., 1998. Cybergrrl! A women’s guide to the World Wide Web. New York: Ballantine.

Spacey, R., 2000. Women and the Internet: is the Internet a feminist tool? MA dissertation, Department of Information Science, Loughborough University.

Spender, D., 1982. Invisible women. London: Readers and Witers.

Spender, D., 1985. Man made language. Henley on Thames: Routledge and Kegan Paul.

Spender, D., 1995. Nattering on the net. Melbourne: Spinifex Press.

Sutton, L. A., 1996. Cocktails and thumbtacks in the old West: what would Emily Post say? In: L. Cherny and E.R. Weise, eds. Wired woman, gender and new realities in cyberspace. Seattle: Seal Press.

UKOnline Centres, 2002.(http://www.dfes.gov.uk/ukonlinecentres/).

We, G., 1999. Cross gender communication in cyberspace. The Arachnet Electronic Journal on Virtual Culture, Vol. 2, No.3.

Women and Equality Unit, 2002. The gender pay gap. (http://www.womens-unit.gov.uk/paypercent20gap/introduction.htm).

Youngs, G., 1999. Virtual voices: real lives. In: W. Harcourt, ed. Women@Internet.Creating new cultures in cyberspace. London:Zed Books.