音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

IFLA/LSNセッション報告
図書館によるホームレスの人々への支援に向けて

野村美佐子

 2016年のIFLA年次大会は、オハイオ州のコロンバスで8月に開催され、特別なニーズのある人々に対する図書館サービス(LSN)分科会は、8月16日に「ホームレスを経験している人への図書館サービスのガイドライン:概要と事例」と題するセッションを行った。
 このセッションの背景には、2014年にホームレスの人もLSNの対象者として含めたことがある。2015年の3月に、LSNの中間委員会に合わせて、ホームレスの人々に対する図書館サービスガイドラインの作成に向けたワークショップを開催した。ここでは、クロアチアとインタネットを介して参加したアメリカの講演者により、それぞれの国のホームレスの人々に対する図書館サービスの事例を学び、クロアチアのホームレスの利用者の発表も聞けた。この体験を踏まえて、ホームレスガイドライン作成に向けたプロジェクトを開始した。LSNのメンバーだけではなく、本プロジェクトのコンサタントとして、外部から専門家として、テネシー大学のウィンケルシュタイン氏の協力を得た。これに関連して、2016年の8月には、ガイドラインのドラフトができあがるので、その内容と具体的な事例について当事者、ホームレスを支援するソーシャルワーカー、そして図書館員の立場から発表する場として、このセッションを企画した。会場の担当者によれば、約220人の参加があり、図書館員の関心度が大きかったといえる。セッションについて報告をする。

 最初に、筆者が、LSNの活動の概要(注1)とホームレスガイドラインの意義、国連の持続可能な開発目標(SDGs)との関連について述べさせていただいた。SDGsの主たる目標である「貧困の撲滅」に関連して、ホームレスの原因は貧困であり、彼らへの支援と対応は、同目標の一つの実践であると考えたからだ。また本プロジェクトにあたっては、事例のアンケートを世界中の図書館に対して行い、50の図書館から回答があったことを報告した。さらに、ワーキングループのメールによる討議の結果、決定した講師全員の紹介と司会を行うLSNの事務局長であるナンシー・ボルトを紹介した。

写真1:(左から)ブーニック氏、スキナー氏、テリール氏、ウィンケルシュタイン氏、ダウド氏

写真1:(左から)ブーニック氏、スキナー氏、テリール氏、ウィンケルシュタイン氏、ダウド氏

 次に、本プロジェクトのリーダーで、クロアチアのザグレブ市立図書館においてホームレスの人に対する図書館サービスを担当するブーニック氏が、「ホームレスを経験している人への図書館サービスに関する利用者の声」をテーマにビデオを作り、英語の字幕付きで会場に流した。同時にアクセシビリティの観点から、視覚障害者で英語の解説が必要な人には、隣の人に原稿を読んでもらうことにした。ビデオは、以下で見ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=HFUqQ-q2kEw

 次にガイドラインのドラフトの概要について、本プロジェクトのコンサルタントであり、アメリカのテネシー大学博士研究員であるウィンケルシュタイン氏が発表した。本プロジェクトにおいて、ホームレスの問題は、すべてのコミュニティに関わり、その中心にいる図書館がホームレスの人にサービスを行う上で実践的なガイドラインを作成すること、人権の観点からのアプローチで取り組んだことが述べられた。そしてこのガイドラインの最終目標は、ホームレスに関連して取り上げられる様々な質問に答え、直面する問題の対応について事例を挙げながら、具体的な提案や有効な情報を提供することであると述べた。
 今回のガイドライン草案については、世界の図書館に向けたアンケート結果を踏まえたもので、13の章と8項目の付録で構成し、章の詳細(注2)は以下である。
 1.はじめに
 2.要約と勧告
 3.ホームレス:概要
 4.人権とホームレス
 5.ホームレスへの態度
 6.成果/ニーズ/アセスメント/サービスの評価
 7.通常のサービス
 8.難民に対するサービス
 9.両親と保護者がいない家族と若者に向けたサービス
10. スタッフサポートとパードナーシップ
11. 図書館利用規定とその影響
12.コミュニケーションとアドボカシー
13.財政的支援
今後、ガイドラインの最終ドラフトを公表し、多くの人にレビューをしてもらう予定である。
 ウィンケルシュタイン氏は、上記ガイドラインの概要だけでなく、特に両親や保護者を持たないホームレスの若者についても言及している。彼らも成人のホームレス同様、人生の困難を抱えていると述べ、アメリカでは、若者の40パーセントがLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クィア)であり、彼らの多くが、その結果として、偏見による虐待などで家に住めず、路上にいても理解のない扱いをされるという2重のリスクがあるとしている。最悪なのは、彼らは、本来なら、身体的、認知的、そして感情的にも発達段階にあるわけであるが、その過程で彼らを指導や保護する大人のサポートを得られないことであると述べた。また、働くにも年齢の壁がある。しかし、彼らは、強靭で、勇気があり、図書館員など大人による敬意のこもった真摯な取り組みに答えてくれるとまとめた。(注2)

 次の発表者のイリノイ州のシカゴ ヘッセ・ハウス事務局長であるダウド氏は、ホームレスシェルターにおいて、大学の時には、ボランティアとして、後に事務局長として、たくさんのホームレスの人々と関わった。彼は、それまでの体験を踏まえて、数年前にホームレスの人々に対する図書館員ガイドを作成した。(http://www.homelesslibrary.com/)ダウド氏の発表は、ホームレスの人を支援するために彼らを理解して適切な対応をする上でのヒントと技能についてであった。ホームレスの人々への配慮として、「規則について一言で説明をし、堂々巡りの議論はしないこと、規則について説明なく指図をしない」ということについてわかりやすくそして具体的に説明をしてくれた。

写真2:ダウド氏

写真2:ダウド氏

 ホームレスの家族、特に子どもについても注目することは必要だ。ニューヨーク州のクイーンズ図書館の子ども青年プログラムサービス主任であるテリール氏は、家族を含めた図書館サービスについて、発表を行った。アメリカには、250万人もホームレスを経験する子どもがいると2013年の統計がある。また、2016年の秋に施行するホームレスの生徒の教育的な権利を守る連邦法について説明をしてくれ、ホームレスの家族シェルターにいる子供たちに対する、教育の状況と関連する法的な支援、そして図書館による様々なプログラムについて熱心に話してくれた。(注3)

 次に前述したように、SDGsの実践におけるLSNセクションの活動として同ガイドライン作成を位置づけていたので、国連経済社会局(DESA)の国連権利条約事務局長チーフである伊東亜紀子氏にお願いをして、このセッションに参加をいただいた。障害の分野におけるここ20年間の国連の取り組みと、2015年の9月に採択された障害者も含んだSDGsについて述べ、図書館で行っていることがSDGsの実践に貢献をしていくことになるという期待を述べたことが印象的であった。今後、SDGsに関連して10月にエクアドルのキトーで開催される住宅と持続可能な都市開発に関する会議である第3回国連人間居住会議(ハビタット3(注4))にIFLAとして参加協力を求められた。また国連総会での要請により、2018年の総会に提出をするために、DESAの権利条約事務局が準備をしているフラグシップレポート(注5)への協力の要請を述べた。具体的には、障害者に関する文献やデータの収集の協力であった。このことはLSNの新たな活動に結びつくかもしれないと思った。

 世界の図書館からたくさんの事例をいただいたが、アメリカがモデルとなる事例が多く集まった。今回は、アメリカのノースカロライナ州のフォーサイ郡にある公共図書館の副館長 エリザベス・J.・スキナー氏に参加をお願いして、同図書館のホームレスに対するサービスやプログラムについて発表をしていただいた。最初に、図書館は、民主主義の施設であり、すべての人にサービスをするのは当然であると述べ、図書館がコミュニティの協力者となり、変革を先導できるかについて、楽しそうに語ってくれた。 ここは、フォーサイス群の「ホームレスをなくす」という2009年からの10年計画があり、その助成により当事者のサポートスペシャリストを雇用し、彼らとの連携、また多くのホームレス支援団体との連携によるサービスが成功した好事例であった。(注6)

 最後に、質疑応答が行われ、このガイドラインの最終版について、会場からレビューをしたいという方が30人もいた。彼らに秋には最終ドラフトを送付する予定である。図書館にくるホームレスに対して、何かしてあげたいけれど具体的に何をしたら良いのかと思っている図書館員も多い。そのような図書館員に役に立つガイドラインが完成することを期待したい。

<注> (*リンク先は英語)
注1.http://www.ifla.org/lsn
注2.http://library.ifla.org/1494/2/147-winkelstein-en.pdf
注3.http://library.ifla.org/1501/1/147-terrile-en.pdf
注4.Habitat Ⅲ:https://habitat3.org/
注5.フラッグシップレポート(Flagship Report )について以下を参照
http://www.un.org/disabilities/documents/statistics/gn_cn_2015.docx
注6. http://library.ifla.org/1497/1/147-skinner-en.pdf