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Easy-to-read Square
-読みやすい場所-

イングリッド・ボン(Ingrid Bon)
IFLA(国際図書館連盟)年次大会2011
特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会 (LSN)セッション
2011年8月16日

✽この報告は、イングリッド・ボン氏のパワーポイントの使用許可を得て、 野村美佐子(日本障害者リハビリテーション協会)が執筆しました。


 2011年8月13日から18日にかけてIFLA年次大会は、116の国から2500人の参加者を迎えてプエルトリコのサンファンで開催された。LSN(特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会)では、Libraries for Children and Young Adults(児童・ヤングアダルト図書館分科会)と共同で行った「図書館における特別なニーズを持つ子どもたちと青年を含んで」(Including Children and Young Adults with Special Needs in Library)と題するセッションがあった。このセッションにおいて、「オランダにおけるEasy-to-read スクエア(以下オランダ語でMLP)」というテーマで、児童・ヤングアダルト図書館分科会の元会長であり、現在はIFLA理事の、オランダのアーネム(Arnhem)にあるヘルダーラント図書館サービス(Biblioservice Gelderland)のイングリッド・ボン(Ms. Ingrid Bon)氏が行ったプレゼンを紹介する。(1)

スライド1

(スライド1のテキスト)

 オランダの人口は17,000,000人でそのうちの1,500,000人が読むことと書くことに困難を抱えている。その原因として視覚障害、ディスレクシア、自閉症、外国から来ているためなどと言われている。前述の1,500,000人の内、1,000,000人がオランダ人で、500,000人が外国からという数字が明確になっている。
 読むことに上記のような困難がある子供たちについては、以前は学校教育の中で認知されていなかったが、今日では認知されるようになってきた。小学校1年に入学するときにそのためのテストを行うようになり、そこで診断されるようになってきたからである。しかしそれだけでは解決にならず、8歳から12歳を対象として出版会社、作家、イラストレータなどが対象の子どもたちに配慮して作品を書き出版することが始まった。もちろん、彼らは12歳になれば解決する問題ではなく、継続して読みの困難さは一生続くわけである。さらにオランダは多文化の国で、1960年代から様々な国からやってくる移民が多く、その子供たちは、昼間は学校でオランダ語を話し、家庭では両親の話す言語を話すことになる。また家族でやってくるが、妻たちはすでに母語で非識字者が多くオランダ語を学ぶことができないという問題があったからだ。その結果、彼らの子供が親になってもオランダ語が母語でないために生まれた子供に言葉をうまく教えることができないという問題もでてきている。
このような状況において、オランダ政府は読むことに困難な人たち、そしてオランダ語を母語としない人たちに配慮した読みやすい資料の重要性に気がついた。また出版会社も母語とするが読みに困難を抱えているオランダ人とオランダに住むが母語としない人たちを対象とした資料の作成を行うようになっていった。

スライド2

(スライド2のテキスト)

 (2)パワーポイントで示されている写真は子どもがディスレクシアである、ハーレム公共図書館のエルナ・ハワーズ女史である。彼女は、図書館の中に一般の図書とは別に読みやすい資料(読みやすい図書、オディオ ブック、DAISYCD-ROM、動画、雑誌、ソフトウェアなど)を置く読書支援コーナー、つまりMLP)を作ることを考案した。このMLPによる図書館計画により、エレナは2008年に識字促進賞を受賞することになった。

スライド3

(スライド3のテキスト)

 (3)どうしてMLPが必要かというと、オランダでは10パーセントの子どもたちが読むことに問題があり、25パーセントの子どもたちが初等教育終了時点で実際の学年より読む能力が2年も遅れ、15歳の青年がやはり読み能力が2年も遅れているということがあるからである。彼らは情報が必要であり、そのために読むということが必要である。

スライド4

(スライド4のテキスト)

 (4)オランダでは、初等教育の6歳から7歳において読むことに問題がでてくる。彼らは、ディスレクシア、ADHDであったり、言語の問題で言葉に遅れがある者、自閉症であったり、知的障害など様々な障害がある。

スライド5

(スライド5のテキスト)

 (5)MLPのために、特別なことをするわけではなく読みやすい図書を増やすことである。そうすれば貸し出し数が増え、読むことに困難な子も楽しむことができる。支援者のための図書も置いてある。単に資料を収集するだけのことではない。読むことで自信がついていく者がいるし、読むことに問題がなくても楽しむことができる。このような場所は小学校にも作ることができ、対象の子に変化をもたらす。

スライド6

(スライド6のテキスト)

 (6)この場所は何が違うかというと、本の収集が読むことに問題がある人たちを対象としているということだ。紙の本に大きな壁がある人たちが対象だ。ここにはDVD、映画、パズル、ゲームなどがある。またオランダではたくさんのDAISY図書がある。

スライド7 初期の読みやすい場所の写真

スライド8 初期の読みやすい場所の写真

  (7)と(8)は初期の読みやすい場所であった。

スライド9 読みやすい場所の写真

スライド10 読みやすい場所の写真

スライド11

(スライド11のテキスト)

 (9)(10)(11)というようになって本の正面に読みやすい本であるというラベルをつけ、またカバーのイラストから本の写真が見て取れるように本を置くことが必要である。そして魅力的であるべきだ。文字を使わないで写真を使い、色を使い、そしてどのように使うかがわかるステッカーを使う。フィクションはジャンルごとにして、ノンフィクションはテーマごとに置く。様々な資料が一緒に置かれているので別なところに行く必要もなく捜しやすい。

スライド12

(スライド12のテキスト)

 (12)またどのように配列するかも重要で、特別な棚が置かれ、そこに表紙が見える配置をする。そして様々なフォーマットの資料が一緒に置かれている。そのことが読もうとする気持ちを刺激することになる。またその本を手にとってすぐ借りようとするわけでなく、まず読もうという子どものために座れる椅子が必要になる。座って、本を広げたり、DVDを見たり、DAISYを読む場所が必要である。さらにそこには利用できるソフトや機器などが素敵に置かれているコーナがあるべきである。

スライド13

(スライド13のテキスト)

 (13)図書館でどのように読むかなどは重要ではない。電子図書は映画や本にある写真と違いはない。図書館は読むことに問題がある子どもたちを読むことの手助けをしたいわけだ。この場所から情報を求め始め、そのためにどのような方法で得られるか考えられており、読まないということが避けられるのである。DVD、ソフトウェア、DAISY、面白い本や新聞などは読もうという気にさせてくれる。そのような方法があることを先生や両親に知らせていくことは大切だ。ディスレクシアの子などはクラスにおいて皆と一緒に読むことを求められるが、その代わりにビデオを見た方がずっと効果がある。しかしそうしたことはたいてい認められていないのが現状である。

スライド14

(スライド14のテキスト)

 (14)MLPに対する反応はとても良い。対象の子や成人は、見たり、聞いたり、そしてどのように読むのかがわかり、その結果、有益な経験をすることができる。

スライド15 MLPのウェブサイトの写真

 (15)またMLPのためのウェブサイトが立ち上がり、このサイトに国内の子どもたち、ヤングアダルト、先生、両親、図書館員などすべての人がアクセスして必要な資料や情報を使うことができる。サイトアドレスは以下になる。http://makkelijklezenplein.nl

スライド16

(スライド16のテキスト)

 (16)本か映像かについては、大きな違いがないと思われる。映像は本と違う言葉は使用するが、語彙を増やしてくれ、想像する力をつけ、物事を結び付けてくれるからである。決して本を読むことを強要してはいけない。

スライド17

(スライド17のテキスト)

 (17)リスニングはとても重要で、本を見ながら音声を聞くことは有効である。そして音声は、それぞれの子どものペースに合わせており、たいていゆっくりのスピードとなる。しかし、このスピードは通常の子どもには退屈なので、このような本と音声を併用して使う場合とオーディオブックの違いを説明する必要がある。

スライド18

(スライド18のテキスト)

 (18)DAISYプレイヤーも用意することが必要だ。DAISYプレイヤーは図書館内で使用、または借りて家庭で使用することも可能だ。また読むことに困難があるという診断があれば健康保険(Health Insurance)を利用して買うこともできる。

スライド19

(スライド19のテキスト)

 (19)DAISY図書を聞くために次のようなメディアがある。

スライド20

(スライド20のテキスト)

スライド21

(スライド21のテキスト)

 (20)(21)読むことに困難な子どもたちのために特別な出版物があるイラストを活用して魅力的に見えるということが必要である。読みやすくするために文章が直接的であること、文字がはっきりと余計な装飾がないこと、ページ数が多すぎない、また1ページに含まれる文字数が多すぎないこと、複雑な言いまわしはなく、明瞭な表現などを行うことなど、明確な指示を出版会社に行うことは必要なことである。

スライド22

(スライド22のテキスト)

 (22)DVDに関しては、以下のウェブサイトには、いくつかのテーマについて映画や短編映画がついているビデオの情報が掲載されている。

http://beeldbank.schooltv.nl/index.jsp
http://teleblik.nl

スライド23 HetKlokuisの写真

 (23)またオランダには、「HetKlokuis」と呼ばれるテレビ番組があるが、ここで配布するサンプルビデオを学校のプレゼンに利用できる。

スライド24

(スライド24のテキスト)

 (24)CD-ROMも聞くことにおいて重要なメディアとなる。図書館のなかでは、ヘッドフォンをつけて使用する。

スライド25

(スライド25のテキスト)

 (25)ニュースリーダー(読み上げソフト)はウェブサイトを読み上げてくれる。

スライド26

(スライド26のテキスト)

スライド27 本のレイアウトの写真

 (26)(27)ノンフィクションについては、レイアウトの方法もいくつかあり、どのように画像を置くかについては完璧な例があるわけではない。それでもどのテキストと絵が組み合っているのかを明確にする必要がある。しかし現在出版されている本は、あちこちに絵があり、頭のなかで組み立てていくことが難しくなる。

スライド28

(スライド28のテキスト)

 (28)両親は、読むことに困難な子どものために読むことや学ぶことの手助けをするうえで重要である。図書館は、両親たちが対象の子どもたちにどのような資料を使ったら良いのか、また家庭でどのようなことをすれば良いのかなどを相談する時間を設けている。

スライド29

(スライド29のテキスト)

 (29)言葉の遅れについては前述しているので省略する。

スライド30

(スライド30のテキスト)

 (30)テキストの95パーセントは知ることと理解することが必要で、95パーセント言うのは結構大変なことだ。たとえば外国語を学ぶというときに、簡単な一冊の本を単に読むだけでなく理解することはかなりの時間を要することと同じぐらい難しい。また読むことを楽しむということも重要でそのためにオーディオブックや映画を活用することは良いことだ。

スライド31

(スライド31のテキスト)

 (31)自由時間で本を読む効果は大きい。週に5分の読書で、年間21,000の単語を覚える。また一日10分で年間622,000語を覚える。一日15分で年間1,146,000語を覚える。一日1時間以上の読書で年間4,358,000語を覚えることになる。読んで楽しめるというのはとても重要である。

スライド32

(スライド32のテキスト)

スライド33

(スライド33のテキスト)

スライド34

(スライド34のテキスト)

 次に同じ図書館だが、レイアウトを別にしたいくつかの場所をお見せしているが、(32)の場合110の貸し出し、(33)の場合、240から315に貸し出しが増加、そして(34)の場合は604に増加した。MLPの方が魅力的に見える。コンピュータがあり、様々なフォーマットの資料があるからだ。貸し出しもそれだけ多くなったことになる。  政府はMLPのプロジェクトに対して、2年前に800,000ユーロという多額の助成をヘルダーラントの公共図書館に行った。その時、配置する家具に携わる作業グループ、資料に関するグループなどMLPを始めるために様々な図書館員の作業グループが作られた。図書館員たちの協力により、6か月以内で103の公共図書館にMLPが作られ、「Language Point」と呼ばれる成人対象のMLPがこの地域の大きな都市に8つ作られるという素晴らしい結果をもたらした。
 しかし、作るだけでなく、読みが困難な人たちにとってMLPがどういうところであるかを説明し、来てもらう取り組みが大事だ。幸運なことに、この地域の小学校は図書館とパートナーシップの関係にあるのですべての子どもたちが最低でもMLPに一年に1回は来る。その時、MLPで見たり、聞いたりして、文化や情報へアクセスをするという素敵な体験ができる。
 最後にMLPがどんなに素晴らしいかというビデオを流してプレゼンが終了した。


掲載者注

  1. Ingridのプレゼンに出てくるハーレム図書館については、すでに国会図書館の佐藤尚子氏が訪問し、その際に得た資料を翻訳している。
    http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/library/erp.html
  2. ハーレム図書館は、2002年からMLPの概念のもとにプロジェクトを始めたが、その概念は教育省が取り入れ、図書館にそのようなサービスを成人や若者たちのために行なうことを命じた。2008年には識字を高める、あるいは非識字者撲滅の活動として教育省から賞をいただいている。このことがきっかけでMLPが全国的に広まった。
    http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/ifla_report2009_nomura.html