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2007年IBBY障害児図書推薦リスト

特別なニーズのある子どものためのさまざまなアプローチをとり入れた十二冊の本

このプロジェクトのために送られてきた数多くの良書の中から、十二冊の本を特にとり上げたいと思います。どの本にも特別なニーズのある子どものためのさまざまなアプローチがとり入れられています。

聴覚障害がない子どもは、言葉で遊ぶことによって言語を発達させていきます。同様に、聴覚障害児は手話で遊ぶことによって第一言語(母言語)である手話を身につけていきます。このプロジェクトのために、手話の絵が入った図書が数カ国から送られてきました。IBBYでは、イタリア、アメリカ、スウェーデンおよびノルウェーの手話の絵が入っている図書を選びました。Agneta Norelid とEva Pilsの『ピノの日記』(カタログ4番)は、本文の下に手話の絵やBLISS記号のステッカーを貼ることによって、一般の絵本がどのようにしたら障害児向けに改良できるかを示した一例です。このようにすれば、障害児と健常者が一緒に本を楽しむことができます。
カタログNo.4「ピノの日記」の写真
『ピノの日記(カタログNo.4)』

Susanna Huikariの『みんなうまくいくよ』(カタログ9番)は、標準テキストにBLISS記号がつけられたフィンランドの絵本です。BLISSは、国際的な非言語的絵記号システムで、話すことができない人たちのコミュニケーションに役立てられています。知的障害のある青少年の中にも、BLISSをコミュニケーション手段として利用している人がいますが、写真や絵と一緒に使用することが多いようです。普通の文字による文章やBLISS記号を併用しながら、楽しく、生き生きとした絵を通してお話が語られるので、さまざまなニーズやスキルを持つ読者がこの本を利用することができるようになっています。

さわる絵本は、視覚障害児に絵本を楽しむ機会をもたらすことができます。これは視覚障害児にとって重要な本といえるでしょう。なぜなら、触覚や、形を認識し、解釈する技術が磨かれ、後に点字を学ぶための準備ができるからです。もし視覚障害児に本の中の絵が理解できれば、言語の発達にも役立てられるでしょう。しかし、視覚的な経験のない子どもにとって、さわる絵のすべてがたやすく理解できるわけではありません。伝統的な手法で描かれた写実的な絵でも、たとえそれが隆起印刷されていたとしても、生まれつき目が見えない子どもにとっては理解しがたいことがわかっています。もしわかりやすい絵にしたいのなら、視覚障害児の日常生活の中でなじみの深い形や大きさ、手触りの、小さなものを表した絵にしなければなりません。

確かに、たとえすべての絵を理解できなくても、あるいは、絵を理解するために目の見える人の助けが必要であったとしても、視覚障害児はさわる絵本を楽しむことはできるでしょう。しかし、視覚障害児が自発的に、そして助けを借りずに読むことができる本もあるということが重要なのです。さわる絵本の中には、小さくて単純な、非具象的、幾何学的な形や記号を使っているものもあります。伝統的な手法による絵と違って、このような絵を理解するためには何の視覚的経験も必要とされません。『プールのルヴィディノ』(カタログ16番)はそのような本です。さまざまな肌触りの小さな正方形の物体を使って、ルヴィディノとその友だちが表現されています。

Eileen Browneの『ハンダのびっくりプレゼント』(カタログ10番)は、視覚障害児に読み聞かせたり、また、視覚障害児とともに読むのを楽しんだりできる本を企画するプログラムの一部として制作された四冊の本のうちの一冊です。出版社は、メキシコのLiterary Fireflyという協会に、普通の絵本を解体し、各ページに点字の文章を打ち込む許可を与えました。

小林映子(Macこば)の『なないろのクラ』(カタログ15番)は、視覚障害児向けの図書制作費をどのように削減できるかを示した一例です。この本は従来の方法で製本されていません。ただ切って、折りたたまれているだけです。
カタログNo.15「なないろのクラ」の写真
『なないろのクラ(カタログNo.15)』

さわる絵本のもうひとつのタイプに、布の絵本があります。Ruth Brownの『ぶんぶんうるさくしないでよ!』(カタログ11番)は、手作りの本で、視覚障害児が一人で理解するのはたやすいことではないかもしれません。しかし、目が見える子どもと視覚障害児が、一緒に楽しめる本です。実物そっくりのさまざまな大きさの昆虫が本に縫い付けられており、何も解説はないのですが、実は絵合わせゲームになっているのです。本の背には小さなポケットがついており、そこに絵合わせ用の点字がついた円形の板が入っています。この本のもうひとつのバージョンは、視覚障害ではなく学習障害がある子ども向けで、もっと小さなサイズの虫が使われています。

読みの障害がある子どもは、単語の解読、理解と、読みの技術の習得に多くの時間と労力を費やします。読む気を起こさせるには、魅力がある、年齢にあった読みやすい本を幅広く提供する必要があります。

Erna Oslandの『なんてすてきな君』(カタログ19番)は、知的障害のあるヤングアダルトにも、またそれより上の年代の人にも、楽しめる話です。

一般向けの絵本も、読み物として楽しみながら、視覚認知、言語およびコミュニケーション能力を強化し、また感情表現を豊かにすることができます。このような本は、一般の在庫の中から選ぶことができ、広く入手できるので重要です。Helen Manosの『生まれ変わる犬』(カタログ26番)は、詩的な文章と絵を使って輪廻転生を説明した、中高生向けの絵本です。

作家や画家の中には、優れた感受性と洞察力をもって障害児者を描いた本を生み出した人もいます。このような本は、障害に関連する疑問に答え、根拠のない社会的通念を打ち砕くことができます。

イランの児童図書協議会は、教育省の特別教育部およびユニセフと共同で、イランの教育制度へのインクルーシブな教育の導入を推奨する数件のプロジェクトに着手しました。そのプロジェクトの一つが、障害児と一般の小学生とが、もっと互いにふれあい、理解しあうことができるように、良質の絵をつけた文学作品を出版することでした。Ahmad Akbarpourの『おやすみなさい、司令官』(カタログ32番)は、このような物語の一つです。

メキシコの『私たちはみんな同じ。だけど、違う』というシリーズには、幼稚園児から小学生までの若い読者をターゲットにした四冊の本が入っています。これらの本は、すべての人間に見られる共通点と相違点に焦点を合わせています。Claudia BurrとAna Pi&#241oの『位置について、よーい、ドン』(カタログ37番)は、教育環境と社会環境を共有する障害児と健常児の間の理解とコミュニケーションを深める作品です。

Susanne Gervayの『蝶』(カタログ45番)は、重症のやけどが人の心と体に与える影響についての話です。キャサリンは、並外れた芯の強さを身につけた若い女性です。外見の傷にとらわれていた状態から、次第に自分自身のあるがままの姿を受け入れ、家族や友人との間にバランスのとれた関係を築いていけるようになります。

最後に、ある一冊の本に注目したいと思います。それは、松井進の『盲導犬アンドリューの一日』(カタログ50番)です。視覚障害者の作者は、自分の盲導犬アンドリューに、大変ユーモラスにアンドリュー自身の話を語らせます。書籍版のほかに、この本は七種類の異なる媒体で制作されています。それは、マルチメディアDAISY、音訳版(テープ)、点訳版、大活字版、FDブック版、そしてデジタル(電子図書)版で、すべて同じ価格になっています!

ハイジ・コートナー・ボイエセン
ニーナ・A・ライダーソン