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スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)による児童を対象としたサービス

ジェニー・ニルソン
スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)児童担当司書

項目 内容
会議名 2006年 IFLA(国際図書館連盟)年次大会<韓国 ソウル>「視覚障害者図書館(LBS:Libraries for the Blind Section)」分科会
発表年月 2006年8月22日
原文 The Children’s TPB - an open window for children with print impairments

概要

政府機関であるスウェーデン国立録音点字図書館(TPB)は、国連子どもの権利条約に従って活動しなければならない。子どもの基本的権利には、情報を得る権利や子どもに影響を与える問題に関与できる権利が含まれる。TPBを利用する子どもたちがこのような権利を実現するためには、TPBはどのような活動をしていくべきなのであろうか?利用者の子どもたちの大多数は、地域の図書館を通じて録音図書を借りているので、TPBと直接接触する機会はない。

TPBには録音図書や点字図書に関する要望や疑問が、ますます多くの大人たちから寄せられるようになり、これを受けて子どもたちにもサービスを拡大する必要があると考えられた。そこで2002年に特に児童を対象とした新しいウェブサイトが作られた。これが「子どもたちのTPB 」である。その際、様々なニーズを抱えた子どもたちを惹きつけ、かつ、このような子供たちにとって利用しやすいサイトを、どのようにしたら作れるかということが問題となった。

TPB(スウェーデン国立録音点字図書館)は、印刷物を読むことに障害がある人々に、地域の図書館と共同で印刷物へのアクセスを提供する政府機関で、その使命は、録音図書や点字図書を制作し貸し出すことと、録音図書及び点字図書に関する助言と情報を提供することである。

スウェーデン国内のすべての公共図書館には、印刷物を読むことに障害がある子どもたちのための録音図書が備えられている。視覚障害児向けには点字の本もあり、主に図書館相互間での貸し出し、もしくはTPBからの購入という形で利用されている。中でも触れて読む絵本の人気が一番高い。また多くの図書館では、絵文字やブリスシンボル(訳注:非言語的コミュニケーションシステムで、単語や概念が絵記号によって表現されているもの)で書かれた本、手話通訳がついたビデオやその他の障害者向けに制作された図書も収蔵されている。

録音図書の貸し出しは公共図書館サービスの一環として行われている。印刷物を読むことに障害がある子どもは誰でも録音図書を借りる資格がある。地域の公共図書館は、独自に蔵書を集める以外に、県立図書館もしくはTPBから録音図書を借りることもできる。録音図書はフィクション、ノンフィクションともにあらゆるテーマにわたっている。現在TPBの児童向け録音図書の蔵書数は、DAISY図書がおよそ6,800タイトル、またカセットテープによる録音図書が5,500タイトルとなっているが、DAISYとカセットテープのどちらでも利用できる図書が多数ある。

点字を読むことができる児童とその保護者は、点字図書を借りたり買ったりする際、TPBと直接連絡を取るが、録音図書については地域の図書館で借りることになる。TPBの児童向け点字図書の蔵書数は、およそ4,300タイトルである。

国連子どもの権利条約

政府機関であるTPBは、国連子どもの権利条約に従って活動しなければならない。子どもの基本的権利には、情報を得る権利及び子どもに影響を与える問題に関与できる権利が含まれる。これらは子どもの権利条約の第12条及び第13条に記載されている。

第12条
締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。

第13条
児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。

児童対象のウェブサイト

TPBを利用する子どもたちが、このような情報を得る権利や問題に関与できる権利を実現するためには、TPBはどのような活動をしていくべきなのであろうか?利用者の子どもたちの大多数は、地域の図書館を通じて録音図書を借りているので、TPBと直接接触する機会はない。

TPBには録音図書や点字図書に関する要望や疑問がますます多くの大人たちから寄せられるようになり、これを受けて子どもたちにもサービスを拡大する必要があると考えられた。そこで2002年に特に児童を対象とした新しいウェブサイトが作られた。これが「子どもたちのTPB」(http://www.tpb.se/barnens_tpb/)である。ウェブサイトは、子どもたちを惹きつけるためにできるだけ魅力的なデザインにする必要があった。またTPBは、子どもたち自身がTPBのサービスを知り、本の情報を見つけたり、文献についての質問や要望を送る方法を身につけたりして欲しいと考えた。

印刷物を読むことに障害がある子どもたちの多様なニーズ

TPBが対象としているのは、印刷物を読むことに障害がある様々なタイプの人たちである。そのため、視覚障害児だけではなく、たとえばディスレクシアの子どもたちにも利用できるウェブサイトを設計する必要があった。多くのディスレクシアの子どもたちは、ウェブサイトを利用するために絵による説明を必要とする。また絵を使ってこのような障害のある子どもたちに読む動機づけをすることもできる。そこでできるだけ絵や図を採り入れた魅力的なサイトにすることが心がけられたが、同時に、絵の代わりになる楽しい説明文を書き入れることも熱心に進められている。

更に、サイトは主に12歳までの児童を対象とすることが決定された。たとえば8歳の子どもとティーンエイジャーの両方を惹きつけるサイトを作ることはほぼ不可能だからである。ティーンエイジャーはTPBの正式なウェブサイトから情報を得ることができると考えられた。

一方、知的障害児には特に読みやすいページを作成した。TPBのサービスに関する案内以外に、何を読んだらよいかについてもアドバイスを得られるようになっている。また、このような子どもたちのためには、本がより楽しく、また聞いて理解しやすくなるように、効果音や数人のナレーターによる語り及び音楽を入れた特殊録音図書がある。録音図書には通常短くて読みやすい本が原書として選ばれ、はっきり、かつ、ゆっくりと本文が読まれる。

TPBでは児童向けのウェブサイト用に独自のキャラクター、トプシーを作った。トプシーはモグラで、点字と録音図書の両方を読むことができる。トプシーを描いたデザイナーは、児童向けの触れて読む絵本も数多く制作しており、弱視の子どもたちにふさわしいキャラクターを作るにあたって非常に適任だった。TPBのウェブサイトはすべて音声でも聞くことができ、その際には音声合成装置は必要ない。スウェーデンでは音声合成装置を持っているディスレクシアの子どもは多くはない。

サイト内の様々なページについて

「TPBには何があるの?」は、TPBの様々なサービスの案内をするページで、ここでは子ども向けに、録音図書とは何か、また点字のシステムなどについて、簡単に説明されている。

「ブックチップス」では、児童担当司書が毎週新しい本を紹介しており、その紹介文は後に編集され、人気テーマ別の図書紹介ページに改めて掲載され、そこでいろいろな本が検索できるようになっている。本の題名はすべて点字と音声でも表示される。また、子どもたちは自分のお気に入りの本を他の人に紹介するブックレビューをメールで送ることができるが、一番多く本を紹介している「チッパー」は点字を使っている子どもたちである。

「ジェニーに聞こう」では、子どもたちは児童担当司書に質問をしたり、新しい本の要望を出したりすることができ、その回答は電子メール以外にも、印刷や点字の手紙で受け取ることができる。2005年には子どもたちや保護者から、主として特別な図書に関する質問が数百件寄せられた。スウェーデンには国立子ども図書館のウェブサイト、「子ども図書館」(http://www.barnensbibliotek.se/)があるが、このサイトの質問コーナーのページから「ジェニーに聞こう」(http://www.eref.se/sef-barnens/vri_entry.asp)にリンクが貼られており、TPBはこのリンクを通じて、まだ録音図書を利用したことのない子どもたちに接することができるようになった。

「本をさがそう」では、TPBの所蔵目録検索システム(OPAC)を使って、どのようにして本を検索するか知ることができる。多くの図書目録と同様、TPBのOPACは子どもにとってはあまり使いやすくない。そこでたとえば人気のあるテーマに絞るなど、何らかの簡単な方法を紹介するようにしている。

「本を借りよう」では、録音図書や点字図書を借りる方法を説明している。

最後は「ゲーム」で、ゴテンバーグ大学とルンド大学の研究者による「弱視及び全盲の児童のためのコンピュータゲーム」と呼ばれる特別プロジェクトで開発されたゲームがプレイできる。TPBのコンピュータゲームプロジェクトでは、弱視の児童にコンピュータゲームを紹介し、晴眼児と同じ程度まで、ゲームをする楽しみや喜びを味わえるようにすることが目標とされていた。

ゲームはスウェーデン語で、2種類ある。一つは映像ベースのゲームで、映像を基本としたインターフェースを使用するので、プレイヤーにはある程度視力があることが要求される。このゲームはすべてマウスを使ってプレイする。

もう一つは、音声ベースのゲームで、すべて音声インターフェースを使用しており、主として全盲の児童を対象として設計されている。音声ベースのゲームはコンピュータのキーボードを使ってプレイする。

TPBのウェブサイトではゲームプロジェクトについてのレポートを英語で提供している。(http://www.tpb.se/english/computer_games/

現状と展望

「子どものためのTPB」は、TPBのウェブサイトの中で最も訪問数が多く、その中でも一番人気が高いのは本の紹介とゲームのページである。「子どものためのTPB」は、貸し出しサービスに関する情報提供という点でも、また蔵書を充実させるという点でも、TPBにとって非常に重要な分野となった。そして何よりも、このウェブサイトを通じて、TPBのサービスについて子どもたちの意見が得られるのは嬉しいことである。

将来的には、TPBが推薦する録音図書からの短い引用を音声で紹介するページを加えることができればよいと考えている。また、子どもたちが推薦する録音図書の情報を音声ファイルで送ってもらうことができるようにもしていきたい。

TPBのウェブサイトが、子どもたちにTPBが提供できるものを見ることができ、また、子どもたちがTPBに求めることを伝えられる、開かれた窓としての役割を果たしていくことが期待される。