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視覚障害者図書館および情報サービス事業の資金調達および管理システム:国際事例研究

第一部:概略報告書

変化を推進する力

技術

技術は、この分野における変革の主要な推進力であり、本報告書でも、現在進行中のイニシアティブとの関連で繰り返し論じられている。たとえば、XML形式でのファイルの製作に移行する出版社の増加に伴い、これまでより多くの資料を、より迅速に、人間の関与をはるかに減らして、代替フォーマットに変換できる可能性が広がる。この分野における最も興味深い国際的なイニシアティブは、ヨーロッパアクセシブル情報ネットワーク(EUAIN)プロジェクトである。これには欧州委員会が出資しており、コンテンツの製作にかかわる関係者と出版業界を一つにまとめ、製品やサービスのアクセシブル版の提供を妨げている問題の解決を支援しようと模索している。EUAINのサイトには次のように記されている。

「印刷字を読めない障害がある人々のためのアクセシビリティは、文書管理と出版プロセスとが強く統合されたコンポーネントであり、特別な付加サービスではない。・・・・・技術的な観点から言えば、現在、コンテンツ製作者と提供機関の重要な懸念を解決し、文書構築の自動化、新たな規格の遵守、ワークフローのサポート、デジタル著作権管理、および安全な配信プラットフォームなどの問題に、一貫して取り組むことは可能である。」

デジタル技術は明らかに、以下の点において、視覚障害者および印刷字を読めない障害がある人々への図書館情報サービスの改善を可能にするための重要な推進力である。

  • 出版社からの電子ファイルの提供による、代替フォーマット資料製作の迅速化と自動化
  • 出版プロセスの一環としてのアクセシブルなデジタル版の製作(公式情報を記載したウェブサイト、新聞および雑誌)
  • 専門と主流の一体化。たとえば、完全版オーディオブック、テキスト音声合成技術およびその他の音声技術。これは誇張すべきことではないが、経費の削減と範囲の拡大の可能性は確実にある。
  • リクエストに応じた拡大印刷本や点字図書、およびオーディオ図書の製作は、利用可能な資料の範囲を広げ、さらに図書館がかさばる資料を大量に保管する必要を減らすことができる。
  • デジタルネットワーク(ブロードバンド、無線、衛星)を通じた代替配信システムと、より携帯しやすく、使いやすい新たな機器を製作する機会をもたらす。
  • 双方向コミュニケーションの増加をはかり、より多くのコンテンツをリクエストに応じて製作することができるようにし、ユーザーのニーズへの対応を改善する機会をもたらす。

デンマーク、スウェーデンおよびオランダなど、いくつかの事例では、代替フォーマットによる資料の製作と配信に与えるデジタル技術の影響はすでに非常に進んでいるが、まだ結果が出ていない事例もある。

しかしながら、ウェブサイトが真にアクセシブルになり、ユーザーが、利用可能なものにアクセスする技術やスキルを確実に持てるようになるまでの道は遠い。さまざまな国でウェブアクセシビリティ基準が設けられているが、常に守られているわけではない。政府からの情報や新聞、雑誌などの資料がオンラインで利用できるようにする際に、それが自動的にアクセシブルになると想定しないことが重要である。実際、W3Cの調査によれば、ヨーロッパの公共情報のうち、真にアクセシブルなのは3%にも満たないとのことである。

大部分のユーザーが高齢者であり、低所得である場合が多いことを考えれば、受容性と求めやすい価格の両方が大きな課題となることもうなずける。

デジタル技術によってもたらされるその他の重要な問題は、既存の蔵書をどの程度、またどれだけ迅速にデジタル化するべきか、どれだけ迅速に古いフォーマットを段階的に廃止していくべきか、そしてこれまでのアクセス技術から新たな技術へと、どうやってユーザーを移行させるか、またその資金はどう調達するべきかにかかわっている。

いくつかの機関では、機器の製造と貸出または販売が、重要な収入源となっているが、ユーザーは、これまでよりも標準的な機器が利用できるようになれば、そちらの方を好む可能性がある。

このように、技術の悪影響という可能性もあると考えられる。

デジタルコピーが簡単に製作できることで、多くの著作権所有者たちが、これまで以上に著作権に関する例外に関して、神経質かつ慎重になってきているという影響も見られる。つまり、著作権をさらに積極的に主張するようになり、以前よりも技術的保護手段(TPM)に頼る傾向が強まり、その結果、電子ファイルを、視覚障害者が使用する機器にとってアクセシブルでない状態にしてしまう可能性がでてきている。

さらに根本的なことではあるが、視覚障害者が技術の進歩に遅れずについていけることを確保する策が講じられなければ、情報や電子取引、娯楽に関して、社会全体がますますインターネットと電子機器への依存を強めている中で、眼が見える読者と視力を失った読者との間のギャップがさらに広がってしまうであろう。収入差に基づくデジタルデバイドは、既にかなり以前から知られているが、一般に視覚障害者の収入も低いので、最新技術を利用する金銭的な余裕はなく、またたとえ余裕があっても、情報やコンテンツの多くがアクセシブルでなければ、二重の不利益を被る可能性がある。

サービス事業の主流化

これは普通学級での教育と、多くの国における公共図書館の一般的なアクセスポイントで提供されるサービスの傾向の両方について当てはまる。ほぼ間違いなく、主流化とは、前述のように眼が見える人々と視覚障害者との間で異なるコンテンツを、一つにまとめあげるような、包み込みであると解釈できる。インターネットの影響を受け、現在、公共図書館(さらに言えば書店も)の役割全般が、議論の的となっている。これはまさに、サービスをこれまで以上にインクルーシブにするために見直すときであるといえるが、その機会を逸する可能性もある。

平等化への動き

すべての国で、理論上、教育への平等なアクセスと、ほとんどの場所における製品、サービス、建物および文化的生活への平等なアクセスを提供する法律が検討されている。しかし、現実は非常に異なる場合が多く、このギャップが、キャンペーンのテーマや、法廷での試訴の対象となることが増えている。イギリスの読む権利同盟がこの運動にかかわっている例である。

人口統計学的変化

65歳以上の人口の増加など、議論の対象となっている各国における人口の変化や、今後ますます視力低下に苦しむことが予想される次世代の人々が、キャンペーンを展開して要求を受け入れさせることに慣れている「ベビーブーマー」であるという事実は、大きな影響を与えるであろう。